不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!

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温泉回だと思った? 残念、日常回です!

17:34 そぐわぬ→たがわぬ の間違いでした。修正。


十話 家族 (あとがきにサポート紹介あり)

 八神家にマスコットが誕生した。

 

 先日ゲットしたジュエルシード・シリアルXIVを基に、その日のうちに召喚体の作成を行った。

 オレはジュエルシードの封印を(結果として)行うことは出来るが、その状態を安定させて保管する術を持たない。得たジュエルシードは早々に召喚体の素体に使う必要がある。

 召喚体として生まれ変わったジュエルシードは、ジュエルシードとしての特性をほぼ失う。出来上がるのはあくまで「受肉した現象」であり、最早歪んだ願望機ではないのだ。

 これが、ブランがジュエルシードの暴走を起こす危険性が存在しない理由である。高町なのはがジュエルシードをデバイスの収納領域に保管するのと同じように、召喚体として保管しているとも言える。

 

 召喚体を作るにあたってまず考えたのは、オレの戦力としての低さだ。

 先日対峙した黒衣の少女は、チームプレイと恭也氏の個人能力の高さ、及びこちらの本気度と多少のブラフでやり過ごしたが、はっきり言って戦力で言えば完全に負けていた。たった一人の少女に、である。

 もしあの少女が形振り構わず遠距離から魔法攻撃で殲滅してきたら、その時点で高町なのは、藤原凱、スクライアの三人しか残らなかっただろう。

 エールの恩恵を受けたオレや凄腕の剣士である恭也氏が高速で動けると言っても、飽和攻撃を回避できる能力はない。物理的に回避できないものは無理なのだ。

 前衛が崩れたら、残った彼らにあの少女を止める力はない。高町なのはは射撃・砲撃魔法の才能があるということだが、あの速度相手に当てるだけの技量はないだろう。そして残る二人は防御しか出来ない。

 あのときオレがやったことと言えば、加速状態による回避、エールを使った風圧弾による牽制、高町なのはを囮にしたミスディレクション、そして殺意での威圧。直接戦闘能力としては何の役にも立っていない。

 あの少女は気付いていなかったが、チームの穴は高町なのはではなくオレだったのだ。前回は上手く誤魔化せたが、次回以降気付かれないとも限らない。

 ジュエルシードを一つ消費してしまうのは惜しいところだが、彼女との衝突が避けられない以上、戦力増強は急務だった。

 

 ではどんな召喚体を作るか。基本概念は、割とあっさり決定した。というのも、元々この段階で「触れられない概念」の召喚体作りに挑戦しようと思っていたのだ。

 分かりやすく言えば、空間や時間など。さすがにそこまでざっくりしたものを使う気はなかったが、それでもこれらに関係した召喚体を作れれば、ジュエルシードの限界値を測ることが出来る。

 そこで問題になってくるのが、創造理念だ。これは召喚体の存在理由、即ち行動原理を決定する、召喚体のコントロールに関わってくる部分だ。

 戦いに使うからと言って「外敵を排除する」などという物騒な理念を付加すれば、無意味に戦いを求める戦闘狂が完成することが目に見えている。

 しかも使う素体がジュエルシードという最高級品で、概念が非常に膨大なもの。コントロールできなかったら、この世界が住めなくなってしまう可能性もある。

 あまり殺伐とした理念ではダメ。しかし、へいわしゅぎしゃでもダメ。悩みに悩んだ末、オレが辿り着いた結論は、「状況に応じて役割が変化する存在」だった。

 あるときはペット。あるときはパートナー。そしてあるときは、魔法の国の王子様だったりするアレだ。

 素体は、ジュエルシード・シリアルXIV。基本概念は、「夜」。そして創造理念は、「魔法少女のマスコット」。

 

「『世界に広がる夜の闇よ、オレの声を聞け。今このとき、空間と時間を満たす黒を、集められるだけ集めろ。青い宝石を肉体として、一個の存在として生まれ変われ。君の名は「ソワレ」。オレの傍らに在る者』」

 

 こうして、世界初(当たり前だが)の「不定形型」、"夜の召喚体"ソワレが誕生した。

 

 

 

 ペチペチ。ペチペチ。

 

「ん……」

 

 何かが顔を叩く刺激で目が覚める。薄く目を開けて、視界の中に飛び込んできたのは夜の黒と同じ色をした髪の毛。

 そして、オレとよく似た顔立ちで眠たげな目をした、手のひらサイズの少女の顔だった。これはソワレの姿の一つ。

 

「ミコト、あそんで」

「……何時だ」

「さんじ」

 

 夜中だった。ソワレを挟んで向こう側には、はやてがすぴょすぴょと寝息を立てている。

 いくらオレが毎日6時に目を覚ましているからと言って、この時間に目が覚めて眠くないわけじゃない。ソワレの頭を掴んで、はやてとの間に押し込む。

 

「まだ寝させろ。6時になったら遊んでやる」

「やだ。ミコト、はちじからがっこう。そのあいだ、ソワレ、ひま」

 

 オレの胸をペチペチと叩く。どうあっても寝させてくれないらしい。仕方なし、はやてを起こさないように体を起こす。

 そうすると、暗くてよく見えないが、ソワレの顔がちょっとだけ輝いたような気がした。

 

「……何をして遊ぶ気だ」

「ミコトのぼり」

 

 そう言ってソワレは、オレの足元から胴を伝って、肩、そして頭の上に乗る。……何が楽しいのかさっぱり分からん。

 

「楽しいか?」

「たのしい」

「そうか」

 

 さっぱり分からん。オレが作った召喚体なのに、作り手が分からないでいいのだろうか。

 

「頭の上に乗るなら、飛んで乗ればよかったんじゃないか?」

「とぶの、つまんない。のぼるの、たのしい」

「……そうか」

 

 本当に、意味が分からない。

 

 狙い通りというか、ソワレはあまり好戦的ではなく、オレの側にいて指示に従う召喚体となった。

 不定形型という新形態であり、夜という空間と時間両方にまたがる概念のおかげか、ある程度自由に形を変えられる特性を持っている。

 つまり、自律型と装備型の両方の役割を得ており、普段はマスコットとして八神家を支え(?)、戦闘となればオレの手足となって戦ってくれる、頼もしい存在だ。

 ……なのだが。どういうわけかオレやはやてに甘える性格になってしまった。しかも基礎状態に戻ることを拒んでおり、常にオレかはやてにべったりしているのだ。

 人型を取っているときは、オレをベースにした姿だ。そしてオレの容姿というのがはやてにどストライクである以上、ソワレも同様。猫可愛がりしてしまっている。

 ……冗談なのか何なのか、はやては「ソワレはわたしとミコちゃんの愛の結晶や」と言っている。まあ、確かにオレが生み出した召喚体であり、オレの子と言えないこともないこともないかもしれないが。

 そしてソワレもそれが満更でもないらしく、自分のことを"夜の召喚体"ではなく"ミコトとはやての子供"と認識しているようなのだ。

 よもや小学三年生で、しかも同性との間に子供を持つことになるとは。……まあ、はやてとなら、別にいいけど。って何を言ってるんだオレは。冷静になれ。

 しかして、この時間に叩き起こされて遊ばされるのは、話に聞く育児の労苦に近いものがあるのではないだろうか。育児に比べれば格段に楽だと思うが。

 何せソワレはこれで召喚体だ。赤子のように夜泣きでミルクをせがむこともないし、排せつの世話も必要ない。遊んでやれば満足するのだ。多少眠くはあるが、それも我慢すればいいだけの話だ。

 

「ミコト、ミコト」

「どうした」

「おっぱいほしい」

 

 ……遊んでやれば、満足してたはずなんだけどなぁ。

 

「小学三年生で出るわけがないだろう。そもそも君には必要ない」

「はやてが、こどもは、ママのおっぱいのむって、いってた」

 

 はやてェ……。君はオレが席を外してるときにソワレと何の会話をしているんだ。

 ……少し仕返しさせてもらおう。

 

「ソワレ、君のママは誰だ?」

「ミコトとはやて」

「そうか。なら、はやてママのおっぱいを飲むといい。そう教えたのははやてだものな」

「わかった」

 

 ソワレはオレの頭から離れ、はやてのパジャマの中に潜り込んで行った。

 しばし後。八神邸の一室からはやての奇声が響いた。

 

 

 

「もう……何事かと思っちゃったじゃないですか」

 

 現在時刻、4時。はやての奇声でスリープから強制的にたたき起こされたブランが、困った怒り顔で腕を組んでいる。

 オレとはやて、そしてソワレは、ベッドの上で正座をさせられた。はやては足が動かないので、わざわざブランがその形に整えて、だが。

 

「ソワレちゃん。ミコトちゃんとはやてちゃんは、今日も朝から学校があるの。この時間に起こしちゃったら、授業中に眠くなっちゃって可哀そうでしょう?」

「……だってー」

「だってじゃありません。二人に迷惑をかけて、嫌われたら嫌でしょう?」

「……ミコト、はやて、ソワレのこと、きらいになる?」

「あぁんもう可愛いわこの子ー! 嫌いになんかならへんよー!」

「オレもこの程度で嫌いになったりはしない。だが、少しは加減を覚えてくれると助かる」

 

 はやてに抱きしめられる、子供サイズまで大きくなったソワレ。オレも頭を撫でてやると、眠たげな目を気持ちよさそうに細めた。子供というのは卑怯なものだ。

 オレ達の様子を見ていたブランは、「全く……」と言いながらため息をついた。

 

「はやてちゃん? ソワレちゃんに変なこと教えちゃダメですよ。ソワレちゃんはまだ生まれて間もないから、何だって信じちゃうんだから」

「あはは、嘘は教えてへんのやけどね」

「はやて、おっぱい、でなかった」

「だからそう言ってるだろうに。……まあ、気分だけでも味わいたかったら、哺乳瓶でも買ってきてやるか」

「ミコトちゃんも、なんだかんだでソワレちゃんには甘いんだから……」

 

 む。オレとしてはそんなつもりはないんだが。一応、召喚体とマスターの立場は弁えているはずだ。

 

「いやいや、普段やったらミコちゃん、「贅沢は敵だ」言うてそんなことせえへんで」

「……確かにそうかもしれないが、いやそうだが、哺乳瓶なら将来無駄になることもないだろうし……」

「え!? み、ミコトちゃん、好きな男子がいるんですか!?」

 

 別にいないが。オレはどうなるか分からないが、はやてはいつか結婚して子供を産むだろうし、そうなったら哺乳瓶が必要に……。

 ……何故オレはこんなに黒い感情を抱いているのだろうか。しかもまだ見ぬ誰かに対して。意味が分からん。

 

「あっはっは。わたしのお嫁さんはミコちゃんなんやから、他の男の子と結婚するわけないやろ」

「そう、なのか。……それはそれで何か問題があるような」

「えっと。今更ですよ、ミコトちゃん?」

 

 ……この話題はこれ以上掘り下げない方がいいような気がする。話を変えよう。

 

「ともかく、オレはソワレに必要以上に甘くしているつもりはない」

「やっぱり、多少甘くしている自覚はあるんですか……」

 

 召喚体とマスターは切り離せない存在だ。だったら、お互いに住みよい環境で生活した方がいいだろう。それだけの話だ。そのはずだ。

 

「……まあ、いいです。けど、こんな夜中に騒いじゃダメですよ。近所迷惑なんだから」

「む。それについては、反省する。オレも少々悪ノリしたかもしれん」

 

 ソワレに変なことを教えたのははやてだが、けしかけたのは紛れもなくオレだからな。

 と、はやてが何か思いついたのか、ニヤニヤと笑い出した。

 

「わたしだけおっぱい吸われるってのは不公平やんな。ミコトママも、ソワレにおっぱいあげなあかんとちゃう?」

「どうしてそうなった。どの道オレもはやてと同じ、何も出ん」

「そんなんやってみんと分かれへんやーん。てなわけでソワレ、ゴーや!」

「おー」

 

 こら、ソワレ。オレよりもはやての指示に従うとはどういうことだ。無視して潜り込むな、こらぁっ――!?

 

 結局オレもはやてと同じ目にあい、奇声を上げる羽目になった。

 ……のだが、その間中、はやてとブランが顔を真っ赤にしてガン見してたのはどういうことか。

 

「うわぁ、ミコちゃん……こらやばいわ、他の人には絶対見せられへん。エロ過ぎやで……」

「はわわわわっ! み、ミコトちゃん、すごいですぅ……きゅぅ」

 

 ……非常に不当な評価を受けた気がした。

 

 

 

 

 

 ソワレは基礎状態とならずにオレ達と行動をともにしているわけだが、ブランのときと同様に学校に行く際の問題というものがある。

 人型であると、手のひらサイズの場合は通常は物理的にありえないことになってしまうし、子供サイズだと人目に付きすぎてしまう。

 ではどうするかといえば、不定形型の本領発揮である。今のソワレは、小さな黒毛のハムスター姿となっている。それでオレの肩にちょこんと乗っている状態だ。

 正しく魔法少女のマスコットである。5人娘からも、この姿の評価は上々だ。

 

「ひゃ~、やっぱりソワレはかわいいなぁ~」

 

 可愛いものが大好きと公言してはばからない亜久里など、目じりが下がりに下がって口の端とくっ付いてしまいそうだ。あきらも物欲しそうにまわりをうろうろしている。

 ソワレは、基本的にオレかはやてのそばを離れない。さすがにお手洗いのときとかは外で待たせるが、それ以外はオレかはやてのどちらかにはくっ付いている。

 最初にソワレを連れてきた日、亜久里は抱き上げてしまったのだが、手をひっかいてオレの肩に戻ってきてしまった。以降はこうして軽くなでる程度で済ませている。本当は今すぐにでも抱き上げたいんだろうがな。

 ……ん? 動物形態でも学校に連れてきたらまずいんじゃないかって? そんなもの、うちの担任は石島教諭だぞ。「授業中に騒がしくするなよ」で終了だ。

 クラスメイトにしたって、この5人娘ほどではないにしろ、いい加減オレが起こす不思議に耐性が出来ている。「ただのハムスターではない」と理解しているのだ。

 

「ほんと、召喚体って面白いね。今回は不定形型、だっけ?」

「そもそも分類する意味があるのかという気もしてきたがな。召喚体それぞれで形態が違うのは、当たり前かもしれん」

「ミコトちゃんしか作れないものだしねぇ。わたしにも一人ほしいけど」

 

 元々異能関連に興味のあった田中であるが、ソワレを見てからというものこう言い出すようになった。そのうちに式神術を習得するかもしれない。

 召喚体という発想は、五行思想と式神術の発展系だ。対象は五行に留まらないが、そういった概念を一個の存在として生み出すものなのだ。

 なので、式神術との類似点は多々ある。田中の求めるもの程度ならば、式神術でも十分にカバーできるものと思われる。忘れてはいけないが、オレの目標ははやての足の完治なのだ。

 

「……でも、この子は戦うために生み出したんだよね」

 

 伊藤が心配そうな表情でそう言った。先日の黒衣の少女に関しては、既に情報共有を行っている。

 ジュエルシード事件について、彼女達が出来ることは何もないので、知る必要がないと言えばその通りだ。だがそれだと納得しない者もいるので、彼女達には逐一報告していた。

 

「確かに、あの少女に対抗するためではある。だがそれで終わりのつもりで生み出したわけではない。この子もブランと同じ、八神家の家族のつもりだよ」

『ミコトちゃん……』

「へへ。ミコっち、最近いい表情するようになったよね。やっぱり大事なものが出来ると、人って変わるんだね」

 

 かもしれないな。目的のために生み出した「道具」であるという意識と、これからの生活をともにする「家族」であるという意識が、オレの中では両立していた。

 ソワレとはこれからともに戦っていく。ブランにも、今後もはやてを守ってもらう。だが彼女達に傷ついてほしいかと言われれば、否だ。彼女達はオレにとって、必要な存在なのだ。

 ふと、スカートのポケットの中で何かがさざめいた。……もちろんエール、お前も同様だ。だからそう嫉妬をするな。

 ポンポンと、スカートの上からたたいてやると、エールは落ち着いたように静かになった。

 

「いちこちゃん、母は強しなんやで。ソワレのためやったら、わたしとミコちゃんはどんなことにも負けへんのや!」

「……うーん。やがみんだとお母さんってイメージ分かるけど、ミコっちってお父さんなイメージだよね」

「分かる分かる。ミコトは言葉遣いとかが男の子っぽいから、しょうがないよね」

「甚だ遺憾であると言わせてもらおうか」

 

 高町なのはの一件から、どうにも男役扱いされることが多くなった気がする。

 

 この後ソワレから「ミコトパパ」と言われて激しく落ち込み、そんな言葉を教えたあきらに腕がらみ(アームロック)を仕掛け、久々にケンカした。そして、男女平等パンチ二撃目を喰らった。

 

 

 

 ソワレの魅力にやられたのは、何も海鳴二小のメンバーだけではない。現在の協力者もまた、その一人である。

 

「ソワレちゃーん! なのはお姉ちゃんですよー!」

 

 放課後の探索中。本日は合流した高町なのは(恭也氏は大学の都合で今日は不参加だそうだ)と、その肩に乗るスクライア(藤原凱の教導が一区切りしたので、こちらに合流したそうだ)。

 今ソワレは、手のひらサイズの人型に戻り、オレの肩に乗っている。ちなみにオレの格好は、先日からウインドブレーカーをやめている。学校と同じカジュアルとロングスカートのスタイルだ。

 もし荒事になってもソワレが保護してくれるため、わざわざ着替える必要がなくなったのだ。これに関しては大感謝だ。楽でいいし、何よりこれでもう男に間違えられることはない。

 それはそれとして、高町なのははソワレに対してお姉ちゃんぶる。高町家では末っ子の彼女は、どうやら妹という存在に強く憧れているようだ。

 対するソワレの反応はというと。

 

「……なのは、こわい」

「ガーン!? ど、どうしてなのー!? 今日こそはと思ったのにー!」

「君は押しが強すぎるんだ。少しは引くことを覚えた方がいい」

 

 オレがちょっと圧されるほどの勢いでこられたら、ソワレのサイズで見たら相当威圧感があるだろうな。毎度毎度学習しない少女だ。

 そんなパートナーの醜態を見て、スクライアは人間から見ても分かる苦笑い。

 

「それにしても、召喚体というのは本当に自由度が高いんですね。僕らの魔法では、ここまでのことはできませんよ」

「素体がジュエルシードという最高級品だからこそだ。普通はこんな感じが精一杯だ」

 

 オレはそう言ってから、胸ポケットから一本のソレを取り出す。

 もやしである。

 

「……えと。これは、一体?」

『お初にお目にかかる、依頼者どの! 我は女王様に仕える調査兵団が筆頭、もやし1号兵団長である!』

「うわ、もやしがしゃべった!?」

 

 そう、現在ジュエルシードの探索に使っている召喚体、「もやしアーミー」の一本である。

 筆頭とは言っているが、全てのもやしは一つの意思を共有しており、上下関係も一人芝居のようなものだ。芸風ばかりが上達して頭が痛い。

 高町なのはとスクライアは「しゃべって動くもやし」という存在に目を丸くして驚いた。見せるのは初めてだが、既にエールという前例があるだろうに。

 

「こいつの素体は、さっき買ったもやしパックだ。こんなありふれたものじゃ、元の姿からかけ離れた姿は取れん。お値段合わせて19円」

「なんてお買い得な……じゃなくて、ああ、何処から突っ込めばいいんだろう。常識が崩壊していくぅ……」

 

 スクライアは頭を抱えて唸り始めた。これだから頭の固い奴は。少しはもやしと交流を取ろうとする高町なのはを見習うといい。

 

「もやしさん、初めまして! 高町なのはです!」

『うむ! 貴殿の活躍は、女王様を通して拝見した! 幼いながら、誠立派な戦士である! 感服致したぞ!』

「えへへ、ありがとうございます!」

「……僕か? 僕がおかしいのか? この世界では、これが普通の光景なのか?」

 

 いよいよスクライアのゲシュタレーションが崩壊ingしてしまいんぐのようだ。安心しろ、オレの周りだけだ。

 逆に言えば、オレと協力している限り一定以上は関わらなければならないので、さっさと慣れてしまうのが得策である。

 

『むっ! 女王様、もやし66号から入電! 本日のお夕餉はカレーライスとのことであるぞ!』

「カレー? ミコト、カレー、おいしい?」

「ああ、美味いぞ。はやての作るカレーは絶品だ。楽しみにしておけ」

「わーい」

「やっぱりミコトちゃんの「フェアリーテール」は夢のある魔法だなぁ。ねえユーノ君、次元世界にあんな魔法ないの?」

「あるわけないよぉ……。何なんだよこのファンタジー世界観はぁ……」

 

 「魔法少女のマスコット」という特大のファンタジー要素の真っただ中にいるくせに、スクライアは己のSAN値との戦いを繰り広げていた。

 

 さて、この日は和気藹々として終わりというわけにはいかなかった。

 

「っ!?」

「これはっ!」

 

 高町なのはとスクライアが突然表情を引き締めた。オレには分からないが、これはつまり……。

 

「ジュエルシードか。1号、場所は分かるか?」

『……申し訳ない、女王様。我らが張っていた場所とは別のようだ』

 

 仕方がない、こういうときもある。もやしアーミーが300程度の数からなる軍隊とは言え、海鳴の町全域をカバーできるわけではないのだ。

 今回発見したのはこの二人。オレの取り分には出来ない。そういう契約なのだから。

 

「どんな具合だ」

「……多分、本発動には至ってません。周辺の魔力を吸収しての暴走でしょう」

「魔力がドゥュィーンって感じだから、きっとそうなの。巨大樹の時はシュィーンって感じだったから」

「……オレに魔力は感じ取れないから分からないが、二人の意見が一致しているならきっとそうなんだろう」

 

 どっちの方がファンタジーだというんだ、全く。

 

「あ、あはは……なのはは天才型の魔導師ですから。魔法を感覚で組んでしまえるんです。多分、そのせいで表現が感性的になってるんじゃないかと」

「そうか。それはそうと、さっさと向かった方がいいんじゃないのか。暴走体も放置しておくわけにはいかないだろう」

「あ、そ、そうだった! なのは、ガイには連絡した! 僕達も向かおう!」

「うんっ!」

 

 そう言って高町なのはは走りだした。オレには場所が分からないので、彼女の後に続くことにした。

 ……相変わらず、この魔導師は運動音痴だった。遅い上に転んだ。

 

 

 

 現場はオレ達がいた場所からそう遠くはなかった。海鳴の町にいくつかある雑木林の中で、発動ではなく暴走ということから、周囲に人気もなし。

 スクライアの連絡を受けたという藤原凱は、オレ達よりも近くにいたのか、それとも高町なのはが遅かっただけなのか、既に到着していた。

 

「お、今日はミコトちゃんも一緒か。こりゃラッキーデーだ!」

「世辞は後にしろ。黒衣の少女は来てないのか?」

「俺は見かけてないぜ。そっちも見かけてないなら、多分近くにいなかったんだろ」

「ま、待ってミコトちゃ……速すぎ……」

 

 君が遅すぎるだけだ。言っておくが、オレの身体能力は特段高いわけではないぞ。平均よりは動けるが。

 

「ミコト、これ、みかた?」

「高町なのはの友人の藤原凱だ。この子はオレの新しい召喚体、"夜の召喚体"ソワレだ」

 

 藤原凱は定時報告に顔を出していないため、ソワレとは初対面だ。オレは正しく彼女を紹介したのだが、ソワレはふくれっ面だった。

 

「……ソワレ、ミコトとはやての、こども」

「分かった分かった、悪かったよ」

「うぉぅ、塔が高くなるな。俺は藤原凱。よろしくなー、ソワレちゃん」

「……ソワレ、よろしく」

「へぅぅ、はぅぅ、な、なんでガイ君は、怖がられないのぉ……」

「ほ、ほんとに大丈夫なの、なのは?」

 

 今にも死にそうだな。魔法ばかりでなく体も鍛えた方がいいんじゃないだろうか。

 オレ達はジュエルシード暴走体を前に会話をしているわけだが、まだ暴走が始まっておらず待ちの状態だ。暴走直前のジュエルシードは、下手に刺激を与えるとより酷い暴走を起こすことがあるらしい。

 恐らくは、魔導師が封印を行う際には高威力の魔力を使用するからだろう。それが封印として働かず吸収されてしまい、ジュエルシードのエネルギー源となってしまうということだ。

 つまり、オレのやり方ならばこの状態でも封印は可能ということだが……さすがに高エネルギーの光の柱に吶喊する無謀さは持ち合わせていない。

 

「とりあえず、今のうちに出来ることはしておこう。スクライア、結界を」

「おっとぉ、今日は結界俺に任せてくれねえ? これ覚えるために最近までユーノ引っ張り出してたんだからさ」

 

 どうやら藤原凱は、いつの間にか結界を張る魔法まで習得していたようだ。

 高町なのはは「わ、わたしはレイジングハート使っても無理なのに……」と驚き落ち込んでいた。向き不向きの問題なのだろうな。

 スクライアに目線で確認を取ると、彼は頷いた。だからオレも、藤原凱に結界発動を促した。

 

「そんじゃ、いっくぜェ!」

 

 彼の周囲に魔法陣が展開される。赤紫色。それが彼の魔力光だ。

 彼が天に掲げた腕を振り下ろすと、周囲の世界が色を失った。封時結界という、彼らが使う周辺被害防止用の結界だ。

 この結界に包まれた空間は、時間信号というものが現実世界から切り離され、元々の空間をトレースした別物となる。魔力を持つ者、及び指定した対象以外の生命体は入ってくることが出来ない。

 そして結界を解けば、破壊痕等を残さずに、張る前と変わらない空間に戻るという仕組みだ。まったく、よくもこんな技術を考え出すものだ。

 

「……すっごぉい。ユーノ君と比べても見劣りしないの」

「んなっはっは! これからは俺のことを尊敬してくれてもいいのよ!?」

「その代わり、ガイは防御と結界以外の魔法がからっきしだよね。結局シュートバレットすらできなかったし」

「んなっはっはっはっは!!」

「笑っても何も誤魔化せてないな。高町なのは、感心するのはいいが、君がデバイスを展開しないことには始まらないぞ」

「あ、そ、そうだね!」

 

 高町なのはは慌てて胸元の赤い宝石を手に取る。あれが彼女の魔法の杖、デバイス。"インテリジェントデバイス"のレイジングハート。

 

「レイジングハート、セットアップ!」

『All right, master.』

 

 彼女の指示に宝玉が受け答えをし、高町なのはは桜色の魔力光に包まれる。そして一瞬後には、白を基調としたバリアジャケットへの換装を終えた。

 オレの肩に乗るソワレは、それを見て「おー」と拍手をした。

 さて、オレ達もそろそろ行動するか。

 

「ソワレ、行けるか」

「うん。ソワレ、ミコトといっしょに、たたかう」

 

 いい子だ。頭を軽くなでてやると、彼女は眠たげな目をより細めた。

 手を離すと、少女というには小さすぎる少女は目を閉じる。すると彼女は、すぐに黒い球体に変化した。

 それが弾け、オレの体を絡め取っていく。腕に、足に、胸に、腰に。衣服のようにオレの体を覆い尽くす。

 高町なのはの変身時間とそう変わらない、ほんの短い時間。オレは元々の衣服の上に、闇夜のドレスを纏っていた。

 これがソワレの戦闘形態。オレ自身と一体となって戦う、不定形型の装備状態だった。

 

「こちらも準備完了……って、どうした」

 

 視線を再び彼らにやると、何故か一様に呆然としていた。まだ暴走開始まで時間はあるようだが、あまり腑抜けられても困るのだが。

 

「えっ!? あの、その……ミコトちゃんのその、格好が……大人っぽいっていうか」

「……色っぺぇ。ミコトちゃん、マジで俺のハーレムに……」

「だ、ダメだガイ! それ以上言っちゃいけない!」

 

 先日の恐怖を思い出したスクライアが、慌てて藤原凱の口を塞ぐ。……命拾いしたな、お前ら。

 つまり、二人が呆然としたのは、自分で言うのはちょっとアレだが、見惚れた、ということか。事実、高町なのはと藤原凱の顔は朱に染まっている。スクライアは畜生なので、まあ関係ないだろう。

 

「褒め言葉はありがたく頂戴しておこう。と、そろそろ来るみたいだぞ。気を引き締め直せ」

「あ、そ、そうだね! ……うん、やるぞっ!」

 

 高町なのはとともに、視線を暴走体の方にやる。

 青い宝石から放出された黒い靄が、大きなトカゲにも似た怪獣を形作るところだった。

 

 

 

 ソワレとの合体は、既に何度か試していた。ぶっつけ本番で失敗しましたでは目も当てられないからな。

 だが、実戦はこれが初めてだ。これでどの程度まで通用するのか。今回の暴走体は、そのチェックという意味でちょうどいい相手だろう。

 

「まずは牽制だ」

『わかった。バール・ノクテュルヌ』

 

 かざした左手の周囲に、夜の闇のような黒い塊が複数出現する。それはオレの意志に従い、高速で暴走体に進撃する。

 着弾と同時、それらは液状に弾け飛んだ。飛沫となったそれらは、虚空に溶けるように霧散していく。当たり前だが、物質の弾丸ではないようだ。

 そして、暴走体の着弾箇所は。

 

「……牽制でこの威力か。想像以上だ」

『えっへん』

 

 見事に抉れ飛んでいた。ただの速射直進型の弾丸だったはずなのだが。

 着弾と当時に液状化、そして霧散したことから、弾丸の正体は「圧縮された空間」そのものであったと推測する。空間分の質量を受けて当たった部分が消し飛んだ、というわけだ。

 

「すっごぉい……」

「これが、ジュエルシードを使った召喚体の力……」

 

 高町なのはとスクライアは、威力に目を丸くしていた。が、今が暴走体に対処している状況だということを忘れているんじゃないだろうか。

 もちろんダメージはあったが、相手は多量の魔力を貯蓄する宝石だ。暴走体を構成するのは溜め込んだ魔力であり、多少穴が空いた程度ではすぐに修復する。

 痛みでもあるのか、暴走体は雄叫びをあげて大口をあけた。その向こうに炎の揺らめきが見える。火炎放射能力を持っているのか。

 

「ぼさっとせずに避けろ」

「え!? あ、はわわ!?」

「なぁにやってんですかねぇなーのはちゃぁん!」

 

 軽口一つ、藤原凱が割り込む。そして展開される、赤紫のシールド。鋭角に作られた二つのシールドが、炎の壁を受け流す。

 

「名付けてぇ、「ディバイドシールド」ぉ! 今俺すっげえ輝いてる!」

「バカッ! 油断するな、ガイ!」

「へっ! この程度どってことおろああああ!?」

 

 恐らく放射系の攻撃を受け流す目的で作られたシールドだったのだろう、炎に紛れて突進してきた大トカゲの質量を止められず、藤原凱は尻尾で弾き飛ばされた。

 ……大丈夫なのか、あいつ。バリアジャケットを装備してないから、あの勢いで地面に激突したら怪我すると思うが。

 そう思ったら、彼の進行方向にネット状のシールド。翡翠の色をした魔力のネットが、藤原凱を受け止めた。当然術者は、スクライア。

 

「だから言っただろ! 世話の焼けるバカ弟子だなぁ、全くもう!」

「あざっす、センセンシャル!!」

「……なんか、いつの間にかユーノ君とガイ君が仲良くなってるの」

 

 男同士、通じるものでもあったんだろう。

 この暴走体は中々に手強いようだ。図体があるせいで削りきるのに時間がかかり、時間をかければ再生してしまう。そして今の通り、攻撃力も中々ある。

 では、どうすればいいのか? 答えの一つは、時間をかけずに削ること。

 

「そろそろわたしも、いいところ見せるんだから!」

『Shooting mode.』

 

 高町なのはが吼え、レイジングハートが形態を変える。その形状は、杖というよりは銃器に近い。ライフル等を想起させる形状なのだが、オレには何故かバズーカを構えているように見えた。

 その理由は、彼女が放つ魔法の予兆を感じ取っていたからなのかもしれない。

 

「ディバイーーーン……バスター!」

 

 言葉とともに解き放たれたのは、桜色のごん太レーザー。魔法……いや、これは魔砲の間違いだろう。彼らの魔法が科学であるということを、ある意味で非常に納得させる一発だった。

 砲撃魔法は、見た目にたがわぬ威力を誇った。やや照準がずれたようだが、それでも大トカゲの向かって左半身と右半身の一部を消滅させる。

 ……ジュエルシードが露出しなかったところを見ると、収まっている部分は中心ではなかったのか。それとも、高町なのはの魔砲を見て緊急的に移動させたのか。何にせよ、まだ戦いは終わりではない。

 

「残りを叩くぞ。ソワレ」

『うん。ル・クルセイユ』

 

 彼女の言葉に反応するように、暴走体の残り半分に、周囲の空間から黒が収束していく。……しかし、さっきから何故ソワレは技名を口にしているのか。必要ないだろうに。しかも何故フランス語。

 まあ、倒せるなら別にいいのだが。

 

『エクスプロージオン』

 

 轟音と共に、暴走体が爆ぜた。恐らくは、対象の空間そのものを圧縮して、内容物を押し潰したのだろう。えげつない攻撃方法だった。

 暴走体が全て消し飛ばされてしまえば、ジュエルシードを隠すものは何もない。破裂の衝撃で青い宝石が宙に投げ出される。

 

「やれ、高町なのは!」

「はい! レイジングハート!」

『Sealing mode.』

 

 デバイスの形状が変化する。バズーカから杖に戻り、天使の羽根のようなピンクが、宝玉部分から広がる。そこから伸びた魔力光の色をした帯が、ジュエルシードを絡め取った。

 

「リリカル、マジカル! 封印すべきは忌まわしき器「ジュエルシード」!」

 

 幾重にも幾重にも、帯はジュエルシードを拘束する。高出力の魔力でもって、ジュエルシードの機能を阻害する。

 やがて機能を維持できなくなったジュエルシードは、シリアルナンバーの刻印を浮上させた。今回のシリアルは、V――5。

 

「ジュエルシード・シリアル5、封印!」

『Sealing.』

 

 今までで一番の輝きが、レイジングハートの宝玉から放たれた。ジュエルシードは断末魔を上げるかの如く、激しいスパークで当たりを薙ぎ払った。

 それっきり、辺りは静かになる。ジュエルシードは機能を完全に停止し、レイジングハートの宝玉部分に吸い込まれて消えた。

 封印、完了。

 

「……ふぅ」

『Well done, master.』

 

 高町なのははバリアジャケットを解除し、レイジングハートは待機形態に戻る。オレもそれに倣い、ソワレとの合体を解き、彼女は元の手のひらサイズの人型に戻った。

 肩に乗せ、頭をなでてやると、嬉しそうに目を細めた。それとほぼ同時ぐらいで、藤原凱が結界を解いたのだろう、世界が色を取り戻す。

 周囲の景色は、先ほどまでの激しい戦いが嘘のように、穏やかな雑木林に戻っていた。

 

 

 

「あの、こちらが回収してよかったんでしょうか」

 

 スクライアがオレの元に駆け寄り、尋ねてきた。おかしなことを聞くものだ、元々そういう契約内容だったはずなのに。

 

「その……あなたとソワレの戦いを見て、今後あの少女とぶつかることを考えると、新しい召喚体を作ってもらった方がいいと思って」

「なるほどな。それなら無用だ。オレは戦い専用の召喚体を作る気がない。確かにソワレは目の前の戦いを考えて生み出したが、そのためだけの存在ではない」

 

 報酬でもらえるジュエルシードは、最大であと2個。はやての足を治すためには、一つたりとて無駄にすることは出来ない。

 だから、目的を外れた召喚体を作ることは出来ないし、召喚体を即席の戦力として宛にすることが間違っている。生み出された召喚体は、経験値0の状態なのだ。

 目前に迫った戦いを考えると、もし新しく召喚体を作って戦闘を行うとすると、オレが直接指示を出せる装備型になってしまう。それなら、ソワレとエールの二人だけで十分過ぎるのだ。

 

「オレはまだ、ソワレもエールも扱い切れていない。もし戦闘力のことだけを考えるなら、召喚体を作ることよりもトレーニングに重点を置いた方がいいだろうな」

 

 もちろん、そんなことはしないが。あくまでオレの目的ははやての足の治療であり、今はそのための道筋でしかない。戦うためのトレーニングは、道筋の上にないのだから。

 スクライアは肩を落とし「そうですか……」と返した。納得はいっていないようだが、オレにとって彼の目的は「依頼」でしかないのだ。そこを勘違いされては困る。

 気落ちするスクライアを放置していると、一息ついた高町なのはが駆け寄ってきた。

 

「凄かったよ、ミコトちゃん! なんかこう、黒いのがドパーってなって、ドカーンってやっちゃって!」

「興奮しすぎだ。それを言ったら、君の砲撃はどうなる。あれで魔法少女と言われても、正直首をひねるしかない」

「褒められてると思ったらけなされてるの!?」

 

 オレとしては一応賞賛しているつもりなのだが。実際問題として、オレにあんな真似は出来ないからな。「コマンド」を使用して、長文の命令と長時間のチャージを行えば、どうなるか分からないが。

 

「どうやらオレが考えていたよりも、君には戦いの才能というものがあるらしい。……考えてみれば士郎氏の娘であり恭也氏の妹なのだから、当然か」

「え、ええー……。なんか、あんまり嬉しくないの」

「かもしれないな。オレも戦いの才能があると言われたら、同じ反応を返すかもしれない」

 

 だが、事実は事実だ。嬉しくなかろうが、割り切りはする。

 

「君には目的があるのだろう。なら、今はその才能を受け入れて伸ばせ。目的を達成した後に、その才能を放棄したければすればいい、それだけだ」

「……それでいいのかな」

「決めるのは君だ。オレじゃない。君にとってその才能が必要ないなら捨てて、必要なら持ち続ければいい。どの道、目の前の戦いを切り抜けなければならないのは事実だろう」

「……そうだね。それを終わらせなきゃ、何も始まらないんだね」

 

 高町なのはは割り切れたようだ。まあ、そうでなければオレがある程度認めたかいがないというものだ。

 

「さて、今日はもう遅いな。1号、全隊を八神邸に集合。今日の探索は終了だ」

『はっ! 了解致した、女王様!』

 

 もやしアーミーに帰還の指示を出し、俺達は帰路についた。今日はもうカレーを作っているらしいから、こいつらは明日のもやしスナック(のりしお)にでもするか。

 

「……あっれー。ひょっとして俺、忘れられてる? 今回結構活躍したよね、俺」

 

 なお、吹っ飛ばされた藤原凱のことはすっかり頭から抜け落ちていた。

 

 別れ際、高町なのははソワレに「またねー!」と元気よく挨拶した。が、ソワレが彼女を見る目が、明らかに怯えに変わっていた。

 どうやらジュエルシード――同胞の封印シーンに恐怖を覚えたようだ。確かに、自由を奪ってがんじがらめにするあのやり方は、オレの目から見てもどうかと思ったが。魔導師にはそれしかないのだから仕方ないことだ。

 

「ソワレ、ミコトにふういんされて、よかった」

「そうか」

 

 元ジュエルシードの少女の不安を拭い去るように、オレは帰りつくまで彼女の頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 オレとはやてにべったりのソワレは、当然寝る時も一緒だ。はやてのベッドに、オレ、ソワレ、はやての順に並んで寝る。ソワレがオレ達を親と認識しているのだから、当たり前か。

 ……オレとしては、はやてと二人っきりで寝たいとも思うのだが、ソワレの意志も尊重したい。ソワレは、生まれて数日しか経っていないのだから。

 思えばブランのときは、最初から自分を律することが出来る性格だったから手がかからなかった。それに対してソワレの手のかかることと言ったら。

 だけど……それが悪くないと思うのだから、不思議なものだ。

 

「それで、なのはが、バーってうって、こわかった」

「あのなのはちゃんがなぁ。人って見かけによらんもんやな」

 

 ソワレは子供サイズになって、身振り手振りを交えて、今日あった出来事をはやてに話している。高町なのはの砲撃魔法、及び封印シーンはよほど印象に残ったらしい。

 彼女の話から、高町なのはには畏怖を、藤原凱にはいくばくかの同情を持っているようだった。……オレもすっかり彼のことは忘れていたからな。キャラが濃いくせに影が薄い。

 というか、彼の周りにいる人間の個性が強すぎるのが原因だろうな。彼自身は、表面はともかくとして、一歩引いて見守っている節がある。そのせいだろう。

 

「あと……ユーノは、ちょっときらい。ミコト、こまらせた」

「そうなんか? ユーノ君って言うたら、あのフェレットもどきの子やろ。結構賢いように思ったけどなぁ」

「それでも精神は幼い。小動物だから年齢ははっきり分からないが、オレ達と変わりないように思う。自分を律しきれなかったんだろうな」

 

 ソワレが言っているのは、オレに戦闘用の召喚体を依頼しようとした件だろう。実際のところ、スクライアの立場を考えると、その発想は別にないわけじゃない。ただ、オレの事情を鑑みたら通らないというだけだ。

 言ってしまえば、欲が出たということだ。私欲ではなく、自分の感じる責任を少しでも軽くしたいという当然の欲求だ。自分の事情が先行し、こちらの事情を考慮するに至らなかった、それだけの話。

 もし彼が自分を律することが出来たなら、そして戦闘用の召喚体が本当に必要だったなら、オレを動かすための条件の提示ぐらいは出来たはずだ。彼はそのぐらいの割り切りは出来ている。

 今まで特に気にしていなかったが、今のこの状況に相当の責任を感じているのかもしれない。だから、目の前に現れた甘美で安易な選択肢に、手を伸ばそうとしてしまった。そういうことなんだろう。

 

「別に困ったというほどのことではない。だからソワレも、気にする必要はない」

「わかった。でも、ユーノはちょっときらい」

「仲良うせなあかんよ、ソワレ。ソワレが誰かとケンカしたら、わたしは悲しいで」

「……はやて、かなしませたくない。むずかしいけど、がんばる」

「まあ、無理だけはするなよ。人間誰しも、合わない存在というものはいる。君とスクライアの間で適切な距離を取れるようになればいい」

「……ん」

 

 ソワレの髪を梳きながら教える。……本当に、まるで育児をしている気分だ。

 この子はまだ何も知らない。オレ達が色々教えて、育てている。だから、この考えはある意味で間違いじゃないのだろう。

 全く、小学三年生で育児とは、有用な経験をさせてもらっている。何となし、ソワレの額に口づけをした。

 

「あ。おでこにチュー」

「ソワレにミコトママから、おやすみのキスだ」

「ミコちゃん、ずるいわ。そんならはやてママからもや」

 

 はやてもオレに倣って、同じ位置にキスをした。ソワレは嬉しそうに笑ってくれたから、オレもはやてもきっと同じ気持ちだっただろう。

 

「おやすみ、ソワレ、はやて」

「うん。おやすみや、ソワレ、ミコちゃん」

「……ミコトママ、はやてママ。おやすみなさい」

 

 そうしてオレ達は、ソワレを間に挟んで、眠りについた。

 

 八神家にマスコット――いや、"娘"が誕生した。




(もうこいつ一人でいいんじゃないかな?)
ちなみに今回回収したジュエルシードは、原作では敵勢力が回収したものです。こっち人数増えてるんだし、回収率上がってもいいよね?
ミコトが超強化されましたが、単独では絶対に黒衣の少女には届きません。今回ミコトは攻撃力と防御力が強化されただけであり、戦闘技術に関しては全く育っていません。育てる気もありません。
なので、今後も追い詰めさせる役は皆に任せて、自分は一番汚いところをさらうことになりそうです(相手が違反しない限り命は取らないけど)
なお、ソワレの技に非殺傷設定などというものはありません。魔法じゃないもん。"魔法"だもん。

ところでソワレの立ち位置、誰かに似てると思いませんか? Sts……聖王のクローン……未婚の母……うっ、頭がっ。

ミコトは男言葉の女の子
ミコトは仏頂面可愛い
ミコトは反応がエロい←New!!
以前ミコトは秋山澪(けいおん!)のミニ化を想像するといいと言いましたが、黒猫(俺の妹がこんなに可愛いわけがない。)のミニ化の方がいいかもしれません。
ちなみに作者は知人から紹介された某人気奴隷純愛ゲーム(未プレイ)のヒロインの容姿でしか想像出来なくなりました(白目)
ミコトの容姿に関してはファンタジーの方向で(一番仏頂面可愛い容姿を頼む)



召喚体達



・"風の召喚体"エール
素体:鳩の羽根
基本概念:風
創造理念:道を切り拓くミコトの手足
形態:装備型
性格:おしゃべりで悪戯好き
性別:男
能力:気流の操作、加速付与
鳥のような剣のような形状をした召喚体。ミコトが初めて作成に成功した召喚体である。マスター相手ですらからかうが、ミコトとの間にある信頼は確かなもの。
素体が非常にありふれたものであるため、それほど大きな力は持たない。だが、召喚体を戦いの道具として使う気のないミコトは特に気にしていないし、エールも同様である。
今後戦うときは体にソワレを纏ってエールを持つスタイルになりそう。



・"群の召喚体"もやしアーミー
素体:もやしパック(一袋19円)
基本概念:群
創造理念:ミコトの意志に忠実な軍隊
形態:自律行動型
性格:忠臣だけど移り気
性別:男
能力:群体行動、意思の共有
およそ300体で一つの召喚体。すべてのもやしは同一の意思を共有しているため、兵団長などの役割はただのお遊びである。
毎回素体を入れ替えており、用が済んだ素体はちゃんと八神家の食卓に並んで、無駄にはなっていない。もやしアーミーの側もそれで喜んでいる。
新しく作られる召喚体は前回の経験を引き継いでおり、また召喚されていない間はミコト視点で観測している。



・"光の召喚体"ブラン
素体:ジュエルシード・シリアルXX
基本概念:光
創造理念:ミコトと周辺の環境維持
形態:自律行動型
性格:真面目でおっとり
性別:女
能力:光線照射、光を通じた空間操作
ジュエルシードの召喚体転用実験体。兼八神家のボディーガードであり、家事手伝いでもある。現在ミコトとはやての指導の下、出来ることが増えて行っている。
ミコトから生み出された存在でありながら、ミコトとはやてのことを妹か娘のように見ている。最初は融通が利かない性格であったが、はやてに弄られているうちに柔らかくなった。
最高級の素体を使っているため能力値そのものは非常に高い。しかし作中でミコトが言及している通り、戦闘経験が全くないため、戦力としては向いていない。



・"夜の召喚体"ソワレ
素体:ジュエルシード・シリアルXIV
基本概念:夜
創造理念:八神家のマスコット
形態:不定形型(特殊な自律行動型)
性格:甘えん坊
性別:女
能力:暗闇を通じた空間・時間操作、自身の形状変化
ジュエルシード集めに立ちふさがった障害を排除するために作られた召喚体。しかしそれはきっかけであり、ミコト自身も彼女のことを娘のように思っている。
様々な形に姿を変えられるが、あまり質量を極端に変えることは出来ない。そして人型は何故かミコト似の少女の姿にしかなれない。
戦闘時はミコトを覆うドレスとなって、ミコトとともに戦う。単独での戦闘力も高いように思われるが、精神的な理由によりミコトと一緒でないと力を発揮できない。
※ソワレが使っている技は、別に技名を言う必要はなく、意思一つで使うことが出来る。逐一技名を言っているのは、考えてくれたはやての思いを無下にしたくないから。
バール・ノクテュルヌ(夜想曲の弾丸)……圧縮空間を弾丸として放つ技。速射性・連射性に優れながら高威力
ル・クルセイユ・エクスプロージオン(爆発する棺)……対象空間を圧縮して超重力で押し潰す技。非常に高威力ながら、発動までが遅いため、動かれると当たらない

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