不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
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お待たせしました、温泉回です。前後編で終わらなさそうなので、番号式にしました。


十一話 温泉 その一

 それは、いつもの定時報告のことだった。

 

「あ、そうだミコトちゃん。なのは達、週末の連休に海鳴温泉に行くの!」

 

 どこそこを探して成果なし、という報告を終え八神邸へ帰ろうとしたオレを、高町なのはが引きとめた。本日はスクライアもおらず、彼女一人だ。

 なんでも、高町家+友人で二泊三日の温泉旅行に行くそうだ。その間はジュエルシード探しはお休みであり、スクライアの了承も得ているらしい。黒衣の少女という脅威もある中、その呑気さはどうなのだろう。

 オレはその言葉を聞いて、ならその期間は定時報告を出来ないのか、という程度の感想しか持たなかった。

 最近のオレは常にソワレを連れて歩いている。必然的に彼女も会話に参加することになる。

 

「ミコト、おんせんって、なに?」

「自然に湧き出したお湯で作った浴場のことだ。温泉ごとに成分が違い、色々な効能があったりするそうだ」

 

 当然だが、オレは温泉に入ったことはない。まずそんな贅沢は出来ないし、温泉に行く時間があるならば内職をする。連休と言えば、オレにとっては稼ぎ時なのだ。

 特に最近はジュエルシード探索によって内職が滞ってしまっている。ここらの機会で、探索を全てもやしアーミーに任せて、一日中内職をするのもいいかと思っている。

 ソワレは温泉というものがイメージできなかったのか、オレの肩の上で頭上にはてなマークを浮かべている。

 

「そうだよ、ソワレちゃん! 温泉ってとっても気持ちいいものなの!」

「……ミコト、そうなの?」

「一般にそう言われているということは知っているが、オレ自身は知らないな。そもそも今まで温泉に行く機会などなかったし」

 

 元々高町なのはが苦手なソワレは、先日の一件でより苦手になってしまったらしく、話をオレの方に受け流してきた。今の感じだと、温泉というものに少々の興味を持ったように思える。

 

「ミコトちゃん、温泉行ったことないの!?」

「贅沢は敵だ。入浴なら家の風呂場で事足りる。わざわざ金を払って遠出をする意味が分からない」

「そんなのもったいないの! 温泉には、お金で買えない価値があるの!」

 

 温泉に入るのに金を払っているのだが、そこはどう説明するつもりなのだろうか。

 しかし、どうにも高町なのはには火が点いてしまったようだ。目の中に炎が宿っているのが幻視出来た。

 ガシッとオレの右手を掴む。……どうでもいいことだが、彼女から手を掴まれるときはいつも右手である気がする。オレの右手に思い入れでもあるのだろうか。

 

「ミコトちゃん! なのは達と一緒に温泉に行こう! ミコトちゃんにも、温泉の素晴らしさを教えてあげるの!」

「必要ない。金なし暇なし興味なし、だ。君達だけで楽しんでくるといい」

「ダメなの! ミコトちゃんが来ないと意味がないの!」

 

 君達が温泉に行くという話だったのに、何でオレが温泉に行く話になっているんだ。相変わらず彼女の行動原理が分からない。

 そしてこれは、いつもの「結論を決めてしまった」状態だ。オレが一番苦手な、高町なのはの流法(モード)。あまり相手にしたくない。

 ここは、少し汚い手を使うか。

 

「ソワレ。君は温泉に行きたいか?」

「……ミコトとはやてがいくなら、いってみたい」

「ほら! ソワレちゃんもこう言ってるし!」

「ではソワレ。そこには漏れなく高町なのはが着いてくる。これだとどうだ?」

「……うちのおふろでいい」

「な゛の゛ぉ゛!?」

 

 打ちのめされたように、その場に崩れ落ちる高町なのは。純真なソワレに言われては、彼女も強くは出れまい。

 

「ということだそうだ。オレも連休にはやることがある。その誘いに乗ることは、初めから不可能だったということだな」

「うぅ……ミコトちゃんとソワレちゃんと一緒にお風呂入りたかったの……」

 

 何故そこまでショックを受けているのか、オレには意味が分からなかった。

 高町なのはが自力帰れるか分からなかったので、一応高町家の前まで送り、オレ達は家路についた。

 ――このとき、オレは忘れていた。話を聞いていたのは、オレとソワレだけではない。もう一人いたということを。

 

 

 

「――ってなわけで、なのはちゃん達の温泉旅行に同行することになったでー」

 

 八神邸に帰ると、満面の笑みで出迎えてくれたはやてが、何の前触れもなくそんなことを言い出した。

 何故はやてがそのことを――と思ったところで、ようやく思い出した。

 

「……1号。何をしてくれている」

 

 胸ポケットから取り出したもやしアーミーの1号を糾弾する。つまり、1号が聞いた内容を他の個体がはやてに伝達し、オレ達が帰り着く前に高町家に連絡を入れたということだ。

 オレの睨み付ける視線に、だが彼はむしろ誇らしげな様子で。

 

『我らも王妃様も、日ごろお疲れの女王様に、たまにはご休息をとっていただきたかった! 我ら一同、この判断に一切の後悔を致しておりませぬ!』

 

 そう答えた。完全な善意からの行動だった。……彼らは使い捨て素体の召喚体であるが、オレにとって切り捨てられない存在であることに変わりはない。

 彼らからそう言われてしまっては、オレにその意志を無下にすることは出来ない。確かにこのところ動きすぎだという自覚はあったわけだし。

 

「すまない、ソワレ。そういうことになってしまったみたいだ」

「……だいじょうぶ。なのは、こわいけど、ミコトとはやてがいるから」

「あぁんほんとうちの娘は可愛いわー! 大丈夫や、ミコトママとはやてママが、魔砲少女からソワレを守ったる!」

 

 手のひらサイズから子供サイズに変化したソワレを、はやてが抱き寄せた。ソワレはされるがままだったけれど、その表情は安心したように緩んでいた。

 実際のところその必要は……あるか、あの子はソワレが怖がっても構わず突進してくるから。はやての言う通り、オレも母親としてソワレを猪突猛進娘から守らなければ。

 温泉という避けられぬ戦いに、オレ達は人知れず決意を固めたのだった。

 

「……あのー、温泉にリラックスしにいくんですよね? 何で戦うことになってるんです?」

 

 母娘の和から少し外れたところで、ブランは困ったように笑っていた。

 

 

 

 

 

 そして迎えた旅行当日。オレ達は高町家の前へとやってきた。長らく縁のなかった場所であるが、最近は訪れる頻度が結構高い。

 目的地である海鳴温泉へは、高町家のワゴンで行くことになる。もう一台、月村家が出した車もあるが、女子小学生組は全員高町家側らしい。

 

「おねげえします、恭也さん! 後生です士郎さん! 何卒! 何卒俺をあっちの車にィ!」

「黙れ! お前のような餓えた獣を、なのは達と一緒の車に乗せられるか!」

「すまないね、ガイ君。向こうについたら一緒に遊べるから、それまでは我慢してくれよ」

「ほら、僕も付き合ってあげるんだから、暴れてないでさっさと行くよ」

「ジーィストォーネェー!」

 

 藤原凱は血涙を流さん剣幕であったが、スクライアのバインド魔法によって簀巻きにされて月村家の車に強制収納された。別にあそこまでする必要はなかったんじゃないかと思わないでもないが。

 

「ミコトってガイに甘いわよね。何か事情はあるのかもしれないけど、変態と同じ車なんて生きた心地がしないじゃない」

「気にするほどのことじゃないだろう。彼はヘタレだろう?」

「た、確かにその通りかも。口ではあんなこと言ってるけど、無理矢理何かするってことはなかったし……」

「へー。ミコトちゃんって言ったっけ。ガイ君のことよく分かってるんだねー。もしかして、気があったりするのかなー?」

 

 それはない、と丸眼鏡女性にそっけなく返す。彼女は高町美由希。高町なのはの姉で、恭也氏の妹だ。現在高校2年生。オレは今日が初対面となる。

 向こうはオレの話を聞いていたようで(まあ高町家の養子入りの話もあったわけだし、不思議なことではない)、積極的に話しかけてきている。

 

「ほんとに男の子みたいなしゃべり方するんだねー。でも全然不自然じゃないから不思議ー。なのはもずっと勘違いしてたみたいだし」

「そ、そのことは蒸し返さないでなの!」

「……ご希望とあらば、女言葉でしゃべってみてもいいが?」

 

 それにより発生する被害を知る全員から止められた。ブランからすらもである。ソワレはよく分かっていなかった。

 車を運転するのは男性陣だ。ここでSAN値を直葬して運転できなくなられても困る。

 

「改めて、本日はご招待いただきありがとうございますー。車椅子は何処に置けばいいですやろ?」

「いやいや、こちらこそ来てくれてありがとう。うちの荷台が結構空いてるから、折りたためば入ると思うよ」

「お手伝いしますね、はやてちゃん」

 

 はやてに続き、八神家組が運転していただく士郎氏に頭を下げる。元々乗り気ではなかったとしても、行くことに決めたのならば礼儀は尽すべきだ。

 ブランがはやてを抱き上げて座席の方に移動させる。その間にオレは、車椅子を畳んで荷台の空いている場所に差し込んでおいた。

 

「うーん、もう何人かあっちの車に行かなきゃ無理ね。この人数全員は入らないわよ」

 

 バニングスが嫌そうに言った。彼女としては、藤原凱と一緒の車に乗るというのは嫌であるらしいからな。

 だが、まあ。そういうことなら、何の問題もない。

 

「ソワレ。場所がないから小さくなってくれ。その方が君も窮屈な思いをしないだろう」

「ん、わかった」

 

 ここに来たときは子供サイズであったソワレは、オレの指示に従って手のひらサイズまで縮む。知らなかったバニングスと月村、それから美由希氏が目を丸くして驚いた。

 次いで、ブランに。

 

「それじゃ、私は基礎状態ですね」

「すまんな。『"光の召喚体"ブラン、在りし姿に戻れ』」

 

 白い宝石核の状態に戻ってもらい、オレの胸元にかける。これで十分なスペースを確保できるはずだ。

 

「何を呆けている。月村とバニングスは、二人が何者なのかを知っているはずだろう」

「いや、そうだけど……こ、こんなことが出来るなんて聞いてないわよ!?」

 

 そうだったか。まあブランを基礎状態に戻すのなんて、小学校に行くときぐらいしかやらないし、見せる機会もなかったな。

 

「へぇー……色違いのジュエルシードみたいなの」

『なのはちゃんも、この姿を見るのは初めてでしたね。私は元々ジュエルシードですから』

「わ、お話も出来るの! まるでレイジングハートみたい!」

「……なんでなのはは順応してるのかと思ったら、そういえば魔法少女だったわね、この子」

「あ、あはは……えっと、ソワレちゃんも、ブランさんと同じ、なんだよね」

「そうだが、この子は基礎状態に戻ることを拒んでいる。ブランのような姿を見せることはないだろうな」

「ソワレ、ミコトとはやてといっしょじゃなきゃ、や」

「どや? 可愛いやろ、うちの愛娘は」

 

 頭にソワレを乗せ、親バカぶりを発揮するはやての隣に座る。オレの逆隣には、当たり前のように高町なのはが座った。それを受けてソワレははやての方に行ってしまった。

 残った面々は釈然としない様子ながらも、ぞろぞろとワゴンに乗り込んだ。そんな中で、士郎氏だけは終始満面の笑みだった。……やはり彼はただものではないな。

 そうしてオレ達は、海鳴温泉に向けて出発した。

 

 ところで、オレはあまり車に乗った経験がない。というのも当然で、普段子供だけで生活しているオレ達が、移動手段として車を使えるわけがない。

 学校に行くのも、聖祥組はバス通学(バニングスと月村に至ってはリムジン、ブルジョワめ)らしいが、オレ達は普通に徒歩。はやての通院も基本的に徒歩だ。

 そんな生活環境なので、生まれて間もないブランとソワレが車に乗ったのは、これが初めてだった。

 

「すっごく、はやい」

『歩行者の側から車は見てましたけど、車からだとこんな景色なんですねー』

 

 二人とも、それなりに楽しんでいるようで何より、と言ったところだ。

 目的地まではそれなりに時間がかかる。オレ達の年頃の子供達が、その間を黙って過ごせるわけがない。バニングスが取り出したカードゲームに打ち興じている。

 こちらの後部座席に乗っているのは、オレとはやて、ブランとソワレ。高町なのはと美由希氏。それから、月村とバニングスだ。

 ゲームに参加しているのは、そのうちブランとソワレを除いた全員だ。というかこの二人は今の状態では参加できない。なので「初めてのお車」に感動してくれて助かっている。

 もちろん、全員が年頃の少女達。ただカードゲームをするだけでなく、雑談込みだ。

 

「えー、ミコトちゃんって男友達いないの? そんな可愛いのに、もったいない」

「そもそも友達というもの自体を持っていない。向こうから一方的に友達宣言されている関係はあるがな」

「そういえば、あきらがそんなこと言ってたわね。……ほんっと変な性格してるわよね、あんたって」

「それがミコちゃんの可愛いとこやもん。あ、アリサちゃんドロー2な」

「ちょっ!? はやて、あんたさっきからドロー2狙い過ぎじゃないの!?」

「上がりを急ぐからだよ、アリサちゃん。あ、わたしウノ」

「むむむ、ここはスキップかな。上手く繋いでね。えー、じゃあミコトちゃんにとってはやてちゃんは何なの?」

「「相方」だ。バニングス、下手をうつなよ。スキップ」

「なのは、さっきから一枚も出せてないよー!」

「なのはのおかげでドベは回避できそうだけど、ここですずかに上がらせたくないわね。リバース! その「相方」って表現、ふわっとしててよくわかんないわね」

「サンキューや、アリサちゃん。んー、わたしらも自分らの関係がよく分からんくて、色んな意味を込めてそう呼ぶことにしたんよ。これでどや、ミコちゃん! ドロー2!」

「甘いな、はやて。ドロー2でウノ。何にせよ、はやてがオレにとって特別な位置づけであることに変わりはない」

「にゃー!? またカードが増えたのぉ!?」

「なのはちゃん、それだけ持っててドロー2なかったんだ……」

「あはは、照れなく言い切っちゃうねー。ここですずかちゃんのために温存しておいたドロー4! 色は赤!」

「えっ!? あ、やられたー!」

「むっ。ピンポイントで来たわね……1枚ドロー」

「わたしも1枚ドローや」

「高町姉、感謝する。上がり」

「うぇ!?」

 

 月村とバニングスの攻防を隠れ蓑にトップ抜けに成功。二人の非難の視線が高町姉に注いだ。

 

「ミコちゃん強いなぁ。これで3連続トップやで」

「何処かの誰かさん達が張り合ってくれるから、上手く隠れやすい。それこそオレの領分だ」

『うっ……』

「アリサちゃんとすずかちゃんは、親友なのにライバルみたいなの……」

「強敵と書いてともと読む、みたいな感じだよねー。ミコトちゃんとはやてちゃんは、相方になんてルビ振るの?」

「恋人でしょ」

「きっと夫婦だよ」

「君達、好き勝手言ってくれるな。言っておくが、オレもはやても同性愛の気はないぞ。その辺の嗜好はノーマルのはずだ」

「せやねー。ミコちゃんのことも、女の子だからーやなくて、ミコちゃんだから大好きなんよ」

 

 オレも、はやてだから受け入れてもらうことが出来、そして彼女を好きになった。ただ、オレはこの好きがどういう好きなのか、言葉に表すことが出来ないでいる。

 

「恋愛、というものを経験したことはないから分からないが、それでもこれがそういった感情ではないだろうと思っている。恋焦がれるという言葉があるぐらいだし、それは身を焼くほどの感情なんだろう」

「わたしも、恋愛言われるとピンと来んなぁ。あ、せや。美由希さんは高校生やろ? 恋愛ってどんなもんか、教えてもらえへんやろか」

「え、ええ!? わたし!? う、うーん。……甘酸っぱいもの、かなぁ」

「何だ、高町姉は恋愛経験がないのか」

「そ、そんなことないもん! ただ、実らなかっただけだもん!」

『美由希さん……』

「お姉ちゃん……」

「や、やめて! わたしのことを優しい目で見ないで!?」

 

 さすがは女子同士の会話というか、やはり最終的にはコイバナに落ち着くようだ。この辺りは海鳴二小の面々と大差ないな。

 

「大体、それ言ったらなのはもじゃないの! なのはに至っては相手の性別勘違いしてたし!」

「にゃあああ!? お姉ちゃん、それは言っちゃダメなやつなの!」

「高町なのはは、オレ以外にも性別の勘違いをしたことがあったのか。全く失礼な女だな」

「違うの、そうじゃないの! 勘違いしてたのはそうだけど、でもそうじゃないの!」

 

 いやまあ、大体察してしまったが。正直当事者としては、どんな顔をすればいいか分からない。憐れめばいいんだろうか?

 

「その、なんだ。君の気持ちは嬉しいが、オレ達は女同士なんだ。ちゃんと男性と付き合った方がいい」

「みゃあああ!? しかもフられたの!?」

「楽しんどるなぁ、ミコちゃん。なのはちゃん反応いいし、気持ちは分かるけどな」

 

 全くだ。高町なのは、弄ると楽しい女である。まあ、どうせ彼女としても過去の感情だろう。オレが女と分かってまで、恋愛感情を維持できるとは思わない。彼女がバイでもない限り。

 ……しかし、何なんだろうな。この話題を続ければ続けるほど、深みにはまっている感覚がするのは。各人の反応を見る限り、誰も違和感は持っていないようだが。

 まあ、いいか。

 

『ミコトちゃん……相変わらず無自覚なんだから』

 

 ブランの呆れたため息交じりの発言は、車内の喧騒にかき消されて耳に届かなかった。

 

 

 

 

 

「小学生! 小学生ですから! まだ8歳だから、俺も合法的に女湯に入れるはずだァ!」

「お前のような8歳児を女湯に入れられるか! ユーノ、バインドを頼む!」

「ええ!? いや、さすがに公共の場で魔法の使用はちょっと……」

 

 旅館に着き、早速温泉に入ろうというところで、出発前と同じような騒ぎが起こる。今度は藤原凱が女湯に入ろうとしたようだ。

 注意書きを見てみると、確かに9歳未満の児童は、男湯女湯のどちらにも入れることになっている。恐らくは親が世話を出来るようにという配慮だろう。

 だがここにいる小学生は、揃いも揃って親の手を借りずに済むレベルだ。藤原凱も、表面はアレだが精神年齢はおそらく相当高い。そう考えると、注意書きの9歳未満の児童という言葉が効力を持つとは思えない。

 

「うおおおおっ! 裸のねーちゃん! 乳、尻、太ももーーーっ!!」

「そんな発言をする小学生がいてたまるか! かくなる上は、御神流・徹ッ!」

「んほぉ!?」

 

 背後から一撃を受けた藤原凱は、一瞬体を大きく震わせ、ぐったりとなった。恐らくは衝撃を通す技を当身に使い、震動からの脳震盪で気絶させたというところなのだろう。荒っぽいが、彼相手には妥当なやり方か。

 ようやく大人しくなった少年を小脇に抱え、恭也氏は大きくため息をつき、スクライアとともに男湯の暖簾をくぐろうとする。その前に、オレが声をかける。

 

「恭也氏、ついでにこいつのこともお願いしたい」

 

 スカートのポケットから羽根を取り出し、エールを顕現させる。折角だからこいつにも温泉を堪能してもらいたいが、こいつの性別は男なのだ。

 

『ええ!? 何でなのさ! ボクはミコトちゃんの相棒だろ!? 一緒に入るのが自然な流れじゃないの!?』

「オレはそうかもしれないが、他不特定多数が一緒に入るんだ。なら、男のお前は男湯に入るのが自然な流れだろう」

『そんなのってないよ! ミコトちゃんならボクの意思を汲んで、女の子たちの艶姿を見せてくれると思ってたのに!』

 

 やはりこいつも藤原凱と同じようなことを考えていたか。お前の下心程度のものが分からんでか。オレはお前のマスターだぞ。

 その発言を聞き、呆れた顔をした恭也氏がエールの柄をむんずと掴む。エールはなおも文句を言い続けているが無視。

 

「そいつは剣ではないので、錆びることはない。羽根の部分でも適当に浸けてやっていただきたい」

「ああ、任せておけ。エールもいい加減諦めろ」

『うぅ、こんなのあんまりだァ……』

 

 そして今度こそ、恭也氏は暖簾の奥へ消えた。これで落ち着いて温泉に入れる。

 

「……召喚体って、随分個性豊かなのね。あの子って、この間の黒い女の子と戦ったときに使ってた子よね」

「そうだ。"風の召喚体"エール。おしゃべりで悪戯好き、見ての通りハレンチな面もある。自由すぎるのも困りものだな」

「あはは……でも、楽しそうだね」

 

 そうだな。少なくとも、あいつといる時間は退屈することがない。あれでオレの気を使って……いるわけがないな。自分がやりたいようにやっているだけだ。

 オレ達も女湯の暖簾をくぐり、脱衣所に入る。既に何人かは浴場の方へ行っているようだ。

 適当に空いているロッカーを探し、角を曲がる。と、そこで今から服を脱ごうとしていた少女とぶつかりそうになった。

 

「あ、ごめんなさ……ッッッ!?!?」

 

「君、いや、お前は……」

 

 お互いの顔を確認した瞬間、少女が面白百面相を始めた。オレも、彼女の顔には見覚えがあった。というか忘れるわけがなかった。

 少女は脱衣のために服にかけていた手を離し、身構えながらオレとの距離を取った。とは言え、ここは脱衣所なのでそれほどスペースがあるわけもなく、すぐに背後のロッカーにぶつかる。

 何故彼女がここにいるのか、疑問はある。が、別に今はそんな反応をする必要はないと思うのだが。いくら敵対者だからと言って、非戦闘時に身構える必要もない。

 少女の反応に構わず、少女が使っているだろうと思われるロッカーの隣が空いているので、そこを使うことにした。服のボタンを上から外し始める。

 

「お前も温泉に浸かりに来たんだろう。そんなところで突っ立ってないで、服を脱いだらどうだ」

「……あなたは、油断できない。何をするか、分からない」

 

 なるほど。オレが容赦なく斬りつけたから、警戒しているのか。確かに非武装の今の彼女なら、エールでも十分命を奪える防御力しかないのだろう。

 だが、それはしないと約束したのだ。彼女達がこちらの提示した条件を破らない限り、オレはそれを反故にする気がない。そもそもエールは男湯、ソワレははやてと一緒に先に入っている。手段がない。

 

「言ったはずだ。そちらが不意打ちをしないなら、こちらが命を取ることはない。それとも、お前はこの場で非武装のオレに不意打ちをかけて殺すか?」

「っ、そんなことは、しません……」

「なら、今は警戒するだけ集中力の無駄だろう。今この瞬間にジュエルシードを巡って争っているわけではない。オレはリラックスしにここに来たんだ。無駄に気を張らせるな」

 

 服を脱ぎ、ロッカーにしまう。下に来ていたキャミソールの裾に手をかけ、まくるように脱ぐ。

 オレの無防備な姿に、こちらに一切の敵意がないことを理解したのだろう。少女は横に並んで、脱衣を開始した。

 

「……聞いてもいいですか」

「内容による。こちらの戦力に関することは開示できない」

「その……なんでそんな、男の子みたいなしゃべり方なの?」

「……。『こういうしゃべり方がお好みなら、そうするわよ』『あなたって変わった趣味してるわね』」

「ッッッ!?!?!? い、今まで通りでいいですっ! 鳥肌がっ!!」

 

 似合わないんだよ、悪かったな。

 スカートの横についたファスナーを引いて、腰の部分を緩める。床に落ちたそれを拾い、ロッカーにしまった。

 少女は……何かもたついていた。どうやら服の留め具が上手く外れないらしい。というか今のオレの言葉で震えているようだ。本当に失礼な奴だな。

 

「貸せ。外してやる」

「えっ。で、でも……」

「不本意ながら、オレのせいなんだろう。だから外してやると言っている」

「あぅ……そ、その、お願いします……」

 

 顔を真っ赤にしながら俯く少女。それは一切気にせず、ホック式の留め具を上から順々に外していく。最後まで外した後、少女の後ろに回って、服を引っ張り脱がせてやった。

 

「両手を上げろ」

「えっ!? そ、そこまでしなくたって、じ、自分でできますから!」

「お前は……君は普段、誰かに手伝ってもらっているだろう。上を脱がせたときの動きが、うちの末っ子と一緒だ」

「……うぅぅ。お、お願いします……」

 

 図星らしく、羞恥で顔を真っ赤に染める。やはりオレは取り合わず、少女が服を脱ぐ手伝いを続けた。

 

 ……どうにも符合しない。先日、ジュエルシードを巡って争った少女と、今目の前にいる金髪ツインテールの女の子の姿が、上手く重ならない。オレが言うのもなんだが、かなり歪な在り様だ。

 何故これだけ幼い精神でありながら、戦闘時にはあれだけ冷静に行動出来たのか。まるで育児の代わりに戦闘訓練を受けてきたかのような、そんな感覚を覚える。

 いや、きっとそうなのだろう。この少女のバックグラウンドなど何一つ知らないが、オレの知る子供の成育環境とは全く「違う」環境で生きてきたのだろう。

 だから、彼女は強い。魔導師として、兵士として強い。そして同時に、ジュエルシードを集めるのが、この子自身の目的でないことも分かる。この子にそんな決断力は存在しない。

 恐らくバックにいる何者かが指示を出している。それはつまり、最悪この少女を殺して排除したところで、第二第三の刺客が投入されることを意味している。

 約束でもあることだし、命を狙って排除する真似はやめておこう。成り行きではあったが、前回行動を縛ったのが大きな効果をもたらしそうだ。

 

「首の傷はどうだ」

「え? あ、その、ちゃんと治療したので……」

「痕にもなってないみたいだな」

 

 特に後遺症もないようだ。こうなったからには、彼女には最後まで生き延びてもらおう。状況を上手くコントロール出来れば、ジュエルシード回収を有利に進められる。

 スカートを脱がせるオレを、少女は驚いた顔で見ていた。

 

「どうして……そんなに優しく、してくれるんですか。この間は、あんなに冷酷だったのに……」

「優しくしているつもりはない。それは君の錯覚だ。この間も今も、オレはいつだって、自分の目的のために行動しているだけだ」

 

 例外となるのは、はやてとソワレが絡んだときぐらいか。いや、そのときだって最終的には自分の目的のためなのだろう。彼女達を大事にしたいという、自分の目的(エゴ)を満たすために。

 結局オレは、何処まで行っても自分本位な人間なのだ。若干自嘲めいた笑みが浮かんだ。

 

「あなたの、目的……?」

「敵対者に答えることは出来ない。さすがに下着は自分で脱いでくれ。オレも自分の分がある」

「あ、……はい」

 

 スカートを脱いだところで少女の脱衣を手伝ったものだから、今までパンいちだ。いい加減脱ぎたい。

 はやての趣味で購入したリボン飾りのついたパンツを脱ぎ、ロッカーへシュート。髪留めを外し、入浴用のタオルを持って、ようやく浴場へ歩を進めた。

 後ろからペタペタという足音がして、つかず離れずな感じで、あの少女が着いてきた。

 

 

 

「ミコちゃん遅いでー……って何でその子がおるん?」

「何故かいた。今は休戦中だ。ブランも、そう身構えなくていい」

「あ……そ、そうですよね。つい……」

 

 はやて達は先に入っていた。合流すると、一緒にいたあの少女に驚いた様子だ。

 黒衣の――今は全裸の、だが――少女は、八神家一同の視線に、居心地が悪そうにたじろいだ。

 

「あの、その……」

「あーごめんごめん。別に邪険にするつもりはないんよ。思ったよりミコちゃんが険悪やないから、単純に不思議に思ってな」

「ミコちゃ……? えっと、あなたの名前、だよね」

「……八幡ミコト。カタカナ三つでミコトだ。「ミコちゃん」というのは、はやて……その子がオレを呼ぶときのあだ名だ」

 

 名前まで教えるつもりはなかったのだが、ひょんなことから割れてしまった。気にするほどのことでもないかもしれないが。

 ……何故今一瞬、この少女は顔を輝かせたのだろうか。オレの名前が、何か琴線に触れる部分でもあったのだろうか。

 

「わたしは八神はやて。ミコちゃんの同居人や。んで、こっちがうちのお手伝いさんのブラン」

「ブランです。立場としてはミコトちゃんの従者なんですが、二人の好意で家族として扱ってもらってます」

「今でこそこんな感じなんやけど、初めの頃は固くて固くて、わたしのこと「はやて様」って呼んどったんよ。なあ、ミコちゃん」

「確かに、ブランはあの頃から想像もできないほど弄られキャラになったな。オレとしては、楽しくていいが」

「そ、そんなぁ……」

「あはは……え、えと。その、はやての後ろに隠れてる、ミ……ミコト、に、似てる子は?」

 

 何故オレの名前を呼ぶときに言いよどんだし。この子の思うところがさっぱり分からない。オレとはまた違う方面に「違う」のだろう。

 さて、オレにそっくりの女の子――ソワレは、少女が現れた段階ではやての後ろに隠れた。見るからに警戒心全開だ。

 何故、と思ったところで思い出した。ソワレにとって、この少女は「自分を誘拐しようとした悪人」なのだ。彼女の元となったジュエルシードを強奪しようとしたのだから。

 

「ソワレー? ちゃんとあいさつせなあかんよ」

「……ソワレ。ミコトとはやての、こども」

「そうなん……え? え!?」

「驚きすぎだ。言葉通りの意味じゃない。そういう位置付けにいる子、ということだ。この年齢で、しかも女同士で子供を作れるわけがないだろう」

「あ、そ、そうだよね! ……びっくりした」

 

 しかしさっきからこの少女はもじもじそわそわ、どうしたんだ。入浴前に御不浄を済ませていないのだろうか。それはエチケットだぞ。

 はやては、ちゃんとあいさつが出来たソワレの頭を撫でてから、少女に向けてニッと笑った。

 

「さ! こっちは全員自己紹介したで。んで、キミのお名前は?」

「あ……」

 

 どうやらこの少女、今の今まで自分が名前を告げていないことに気付いてなかったようだ。何か理由があるのかと思ったら、単に抜けていただけらしい。

 その羞恥からだろう、顔を真っ赤に染める。彼女は肌が白いから、それがより一層はっきりしているように思う。

 しばし口ごもった後、少女は意を決して顔を上げる。そして、自身の名前を言葉にした。

 

「わたしは……フェイト。フェイト・テスタロッサです」

 

 名を告げた彼女――テスタロッサは、はにかんだような笑みを浮かべた。

 最悪の出会い、偶然の再会。二回目は、思っていたよりも呑気なものだった。

 

 

 

 

 

 はやてがテスタロッサと(半ば一方的に)和気藹々と話しているものだから、周囲の少女達も彼女に対する警戒を解いて話しかけ始める。

 

「あんた、首大丈夫だった? ミコトのやつ、かなり容赦なく斬りつけてたから、一瞬血の気が引いたわよ」

「あ、うん。バリアジャケットの効果で、防ぐことは出来たから。それにミコトも、なんだかんだで加減してくれてたと思うし……」

「いや、全力だったが。単純にこちらの攻撃力が足りなくて、首が落ちなかっただけだ」

「ミコちゃーん。次やったらホント怒るで? エールだってあんな使われ方、本望やないやろ」

「それはそうなんだがな。まあ、テスタロッサが約束を守る限り、あんなことをする気はない」

「……その。今更だけど、いきなり襲いかかってごめんなさい。気が逸っちゃって……」

 

 どうやらテスタロッサは、皆と話しているうちに冷静になったようだ。先に問答無用だったのは自分の方だったと気付き、謝ってきた。

 謝られても、と思うが、こちらも相応の対応をしてしまったわけだ。何も言わないわけにはいかない。

 

「そういうことならば、こちらこそだ。これで互いに禍根はなくしたい」

「……うん。これでお互い様、だよね」

「そういうことだ」

 

 貸借バランスは大切なことなのだ。

 

「今度からはちゃんと玄関から入って来てね。うちって防犯に力入れてるから、変なところから入ると蜂の巣になっちゃうのよね」

 

 と言うのは、月村家の現当主であるという月村の姉・忍氏。先日の一件以来、「空を飛んでくる襲撃者」に対応するために空中防衛にも力を注いだらしい。対空ミサイルでも配備したのだろうか。

 

「あ……あのときは勝手にお邪魔しちゃって、ごめんなさい。その、お茶会も中止にしちゃったみたいで……」

「過ぎちゃったことは気にしなくてもいいよ。次から注意してくれれば、それで十分だから」

「う、うん。……そういえば、皆はどういう集まりなの? 普通に魔導師のこととか知っているから、管理世界とパイプはあるみたいだけど、管理局と繋がってるようにも思えないし……」

 

 緩い空気に乗せられたか、テスタロッサの口が軽くなっている。とはいえ、こちらは彼女がジュエルシードを強奪しに来ていることを知っているわけで、別に真新しい情報はない。

 そしてこちらは、こちらの戦力に関わることを教えるつもりはないのだが。

 

「ユーノ君っていう、ジュエルシードを発掘した子が色々教えてくれたの。ほら、この間フェレットっぽい子がいたでしょ?」

 

 頭の中がお花畑、高町なのはが勝手に口を割る。……オレに関わることを割らなければ、止めはするまい。

 

「え、あの子って使い魔じゃなかったの?」

「使い魔? ううん、ユーノ君はなのは達のお友達!」

「最初はまさかしゃべれるとは思わなかったわよね。……しかもなのはも、ミコトに呼び出されるまで黙ってたし」

「にゃっ!? あ、あれはその、管理世界のことは話しちゃダメってユーノ君が……」

「結局ここにいる全員が知るところになっちゃったけどね。恭也も酷いわよ、恋人にまで黙ってるなんて」

「ひ、秘匿義務とは一体……」

 

 気にするな。無闇に拡散してるわけじゃないんだ。必要最小限、知らなきゃいけないところまでだ。

 

「えと……ミコトも、あの子から教わったの?」

「オレの力に関することは黙秘させてもらう。忘れてはいないだろうが、オレ達は敵対者だ」

「あっ。……そう、だよね」

「だからと言って抱え込めとも言っていない。上手く割り切れ」

「難しいよ……」

 

 単純なことだ。互いに聞かれたくないことは聞かず、当たり障りのない会話をすればいい。君ぐらいの知性があるなら、十分可能なことだ。

 

「もー! ミコトちゃんは相変わらず分からない子なんだからー!」

「自覚があることを知っているだろうに。高町なのはがテスタロッサと仲良くしたいと思うのは勝手だが、オレを巻き込むな」

「え……」

 

 テスタロッサが悲しそうに顔を歪めた。おい、一体どのタイミングでオレに執着しだした。全く意味が分からんぞ。

 

「フェイトちゃんはミコトちゃんと仲良くしたがってるの!」

「知らん。オレにその気はない。オレに提示できるメリットを用意して出直して来い、としか言えないな」

「あ、あの、なのは、だっけ。ほんとに、大丈夫だから……」

「ダメなの! フェイトちゃんはもっと素直になるべきなの!」

 

 ああまた始まった。本当にどうしてくれようか、この猪突猛進娘は。しかもテスタロッサの押しの弱さと上手くかみ合ってしまっている。

 

「ダメダメダメ! 諦めたら! 周りのこと思うの、応援してる人達のこと思ってみるの! あともうちょっとのところなんだから!」

「う、うん! そうだよね! わたし、頑張って見るよ! ありがとう、なのは!」

「ファイトなの、フェイトちゃん!」

 

 もう君達はそのまま友達になってしまえ。お互い完全に敵対していることを忘れているだろう。

 ざばっと湯船からテスタロッサが立ち上がり、オレの方を見る。

 

「ミコト! あのっ……わたしと、お友達になってください!」

「ミコトちゃんっ!」

「……ふぅ」

 

 本当に、どうしてこうなった? オレはここで偶然テスタロッサに出会い、少し会話して、脱衣の手伝いをしてやっただけだ。何か特別なことをした覚えはない。

 そもそもさっきオレは「敵対者であることを忘れるな」とはっきり口に出して言ったはずだ。何故その相手に対してこんな発言が飛び出してくるのだ。そう、全ては高町なのはってやつの仕業なんだ。

 否。もっと言えば、それは高町なのはをお花畑に育て上げたご両親の仕業だ。そしてそのきっかけとなったのは、以前聞いた話からして、間違いなくオレのあの発言だ。

 つまり、オレのせいじゃないか。

 

「……ふぅ。こんな因果応報、誰が想像できるか」

 

 もう一度、ため息が漏れた。

 気付いてしまったからには「知らん」は通用しない。これは巡り巡ってオレに帰ってきた悪因悪果。ちゃんと受け止めてやらなければならない。

 かと言ってテスタロッサと友達になれるかどうかと言われれば、答えはノー。オレは友達というものが分からないのだから。

 オレがしなければならないのは、今のテスタロッサを納得させる結果を返すこと。テスタロッサは緊張の面持ちで、しかし多分に希望を持った顔つき。

 

「まず最初に、オレは友達を作ったことがない。友情という感情が分からないのだから、作りようがない。ここまではいいか?」

「……はい」

「その上で君がオレに対し「友達になりたい」と思う気持ちは否定しない。その感情は君が持つべきものであり、オレが踏み入っていいものじゃない。そうだな」

「それは……多分、そうなのかな」

「だから、君がその感情を満足させるための行動は、一切止めない。代わりに、オレから歩み寄ることもしない。それでもいいなら挑戦してくれ。それが、オレが君に返せる答えだ」

 

 結局いつも通りになってしまった。だが、これ以上の答えを持ち合わせていないのだから、どうしようもない。

 テスタロッサは、オレの言葉をかみ砕いて、意味を理解しようとしている。

 

「それは、敵対者だからという理由で、拒絶したりしない、ということ?」

「そうだな。もちろん、こちらの不利になるような情報を教えることは出来ない。あくまでプライベートな内容で拒絶はしない、ということだ」

「そっか……。うん、今はそれでいい、かな」

 

 とりあえず、落ち着くところには落ち着いたようだ。全く、この茶番は一体なんだというのか。

 

 恐らく、こっちがテスタロッサの本来の顔だ。向こうが偽りというわけではないが、リラックスしたときに出てくる本質、とでも言おうか。

 歳相応、いや見た目よりもはるかに幼い、自分の感情すら上手く表現できない精神性。だから高町なのはにいいように乗せられ、流されてしまった。

 彼女が本当にオレと友達になりたいと思っているかどうかなんて知らない。だが殺意からの無害意という大きな落差を受けて、オレに意識が集中したところへ、「友達」という分かりやすい答えを与えられてしまった。

 テスタロッサ自身が見つけた答えじゃない、高町なのはに与えられただけの模範解答。そんなものにどれだけの価値があるというのか。

 つまり、こんなものはその場しのぎでしかない。再びジュエルシードの奪い合いに戻ったら、消えてしまうような関係性だ。……消えてしまうなら、どうでもいいことか。

 

「……しかし、温泉に来てまでなんでこんなに色々と頭を使わなきゃならんのだ」

「そんなん、ミコちゃんが裏で色々考えすぎなだけや。頭空っぽにして、ノリに任せてしまえばええんよ」

「後で痛い目を見るのは自分なんだから、お断りだ」

「相変わらず難儀な子やで、ミコちゃんは」

 

 知ってる。君に教えられたことだ。オレは子供らしく、必死に手探りでより良い結果を求めているだけだ。

 最早敵対関係など微塵も感じられない様子で、高町なのはとその友人達とはしゃいでいるテスタロッサ。オレはそれを、呆れながら眺めていた。

 

「ミコちゃんは分かってへんやろうけどな。人って案外、単純なもんやで」

「……どういう意味だ?」

「そのまんま。単純に見た方が、意外と真実だったりするもんやで」

「……分からんな」

 

 はやての言葉の意味するところは、今のオレには分からなかった。それはきっと、オレが「違う」からだろう。

 腕の中に収まるソワレをギュッと抱き、背中を倒して縁に身を預ける。露天風呂から見た春の空は、まだ日が高かった。

 まだまだ一日は長そうだ。




原 作 ブ レ イ ク 不 可 避 。
「名前をよんで」もなくあっさり友達になったなのちゃんとフェイトそん。だって私達……友達だもんげ!

温泉旅行は原作では一泊だったと思うのですが、過密スケジュールを避けつつ満足いくまで描写するために二泊三日にしました。
今回書いてて一番楽しかったのはミコトの脱衣シーンです(アヘ顔)

ミコトは深読みしすぎてますが、一方でフェイトの方の感情も、友達になりたいという単純なものではない模様。(ここは別にGLじゃ)ないです。
フェイトそんが一度殺されかけてるくせにチョロってる理由は、
・ミコトの言動が彼女の常識からあまりにもかけ離れているせいで、正常に判断できなかった
・そもそもフェイトが世間知らずなため、「映画版ジャイアンの法則」による補正がかかった状態で刷り込みをされてしまった
・バリアジャケットの恩恵で、当人は命の危険という認識がやや薄かった
などの理由が考えられます。





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