今回はフェイト視点です。前回の補完から入ります。
わたしが温泉にいたのは、アルフ――わたしの使い魔から、先日の戦いの傷を案じられたためだった。
治療系の魔法はわたしもアルフも苦手だけど、傷そのものは浅かったから、時間をかけずに完治させることが出来た。ただ、場所が場所だったから彼女には心配をかけてしまった。
多分、それが響いてのことだと思う。ジュエルシードの探索は自分がやるから、わたしは近場の温泉にでも入ってゆっくりして来いと聞かなかった。
……わたし達は、まだ一つもジュエルシードを手に入れられていない。先日見つけた一つはネコに持っていかれて、先にあの子に封印されてしまった。
あの子――後に八幡ミコトという名前を知った。全く魔力を感じさせずにジュエルシードを封印した、得体の知れない魔導師。だからわたしは警戒しながらジュエルシードを要求し、一撃で仕留めるつもりで動いた。
それはシールドに弾かれ(赤紫色のシールドだった。あれはあの場にいた男の子の魔力光と同じだったけど、あの子も同じ色なんだろうか)失敗し、向こうの全戦力を同時に相手にしなければならなくなった。
魔力もなしにデバイスに傷をつけるほどの凄腕の剣士という前衛や、防御に長けた魔導師の男の子とその使い魔(後にそうではなかったと知る)、そして謎の魔法を使うあの子。苦戦は必至だと思った。
そこでわたしは、もう一人いた魔導師――白いバリアジャケットを装備した射撃型の子が穴だと気付き、まずはそこから突き崩すことにした。剣士との打ち合いの一瞬の隙をついて、その子に斬りかかった。
だけどあの子、ミコトは、その一瞬で仲間を囮にわたしを攻撃するという冷徹な判断を下した。そしてその攻撃は非殺傷を切っており、本気でわたしを殺そうとする冷酷なものだった。
「命のやり取りをする覚悟」。あの子は戦う前にそう口にして、現実にそれを実行してみせた。自分との圧倒的な覚悟の差に、体の傷以上に心が打ちのめされた気がした。
結局、わたしは逃がされた。「不意打ち禁止」という条件に「命の保証」という対価を得て、逃がしてもらった。何から何まであの子の掌の上で転がされた気分だった。……本当に、悔しかった。
首の後ろに負った傷を完治させてから、わたし達はジュエルシードの探索を再開した。しかし彼女達がかなりの数を回収してしまっているのか、全く見つけることが出来なかった。
そこでわたし達は少し遠出をして、あの子達が探していなさそうな場所を探すことにした。そうしてこの温泉街に辿り着き……冒頭に戻る。
アルフは休めと言ってくれたけど、内心でわたしは気が休まらなかった。もうこの世界に来て二週間になるのに、戦果が0。あまりにもひどい結果だ。こんなんじゃあの人に顔向けできない。
ジュエルシード自体は、正直言ってどうだっていい。ただ、あの人がジュエルシードを求めている。だからわたしは、あの人の力になりたい。それなのにわたしがこんなに無力じゃ……。
脱ぐために服に手をかけ、マルチタスクの全てがそんな自己嫌悪で埋め尽くされる。涙が出てきそうになり、耐えるために動きを止める。
そうして固まってたのがいけなかった。ロッカーの角を曲がって人が通ろうとして、わたしは邪魔になってしまった。
それに気付いたわたしはどこうとして、その人の顔を見て――
「君、いや、お前は……」
――心臓が止まるかと思った。そこにいたのは、先日わたしに覚悟の差を見せつけたあの子だった。彼女達が来なさそうな場所だったはずなのに、こんな間近にいる。
一瞬思考が傍白となり、彼女の動きを視覚が認識した瞬間、わたしは後ろに飛んで、すぐに行き止まりに当たった。ここは、わたしの機動力を生かすには狭すぎる。
わたしが戦々恐々とする中、それなのに彼女の方はまるでわたしには興味がないとでも言うように、わたしが使っているロッカーの隣を開けて服を脱ぎだした。
……一体、何を考えているの? 油断させて不意打ち? それとも、設置型の魔法を既に行使している? 思い浮かぶ手段の全てが違う気がして、彼女の考えが全く読めない。
服のボタンを半分ぐらい外したところで、彼女はこちらに声をかけた。
「お前も温泉に浸かりに来たんだろう。そんなところで突っ立ってないで、服を脱いだらどうだ」
本当にそっけない、わたしの警戒なんか意に介さないような、そんな声色だった。
分からない。彼女の考えが、分からない。次に何をするか、全く想像が出来ない。
「言ったはずだ。そちらが不意打ちをしないなら、こちらが命を取ることはない。それとも、お前はこの場で非武装のオレに不意打ちをかけて殺すか?」
息をのむ。彼女は自分の命が狙われることを覚悟していた。それなのに全く動揺していない。どうしようもないほど、胆力の差を感じてしまう。
「そんなことはしない」と答えると、「無駄な警戒はやめろ」と言われてしまった。わたしが動けないでいるうちに、彼女は綺麗な裸体を惜しげなく見せつけた。
……本当にこの子には争う気がない。それを理解し、わたしは敵として見られていないのだと思い、悔しかった。それを隠すように、わたしも彼女に並んで脱衣を始めた。
「……聞いてもいいですか」
「内容による。こちらの戦力に関することは開示できない」
「その……なんでそんな、男の子みたいなしゃべり方なの?」
先日から気になっていたことを口にする。彼女は見惚れてしまうほど女の子らしい容姿で、格好も清楚で可愛らしい。なのに、口から出てくる言葉は乱暴でぶっきらぼうで、まるで男の子のようだ。
明らかなミスマッチ。なのに自然と融和しているような感じがして、とても印象的だった。だから聞いたのだけど……。
「……。『こういうしゃべり方がお好みなら、そうするわよ』『あなたって変わった趣味してるわね』」
その言葉を聞いた瞬間、後悔した。とてつもない悪寒が背中を走った。脳みそと頭蓋骨がずれるような、嫌な非現実感を味わった。
わたしは命乞いをするように「今までのままでいい」と言った。そう言ったときの彼女の表情は――変わらぬ仏頂面の中に、不満の色があった気がする。
後に知ったんだけど、彼女は女の子らしさを気にしないくせに、自分が女の子として見られないことには過敏だ。このときも、女の子らしい言葉が似合わないと思われたことに、軽いショックを受けていたようだ。
わたしは逃げるように脱衣を続けようとした。だけど、さっきの彼女の言葉のせいで悪寒が残っており、震えが止まらない。ホック式の留め具が上手く外れず、カチカチという音を立てた。
「――貸せ。外してやる」
そうしたら、彼女がそんなことを言い出した。彼女はスカートまで脱いでおり、身に着けているのはやっぱり可愛らしいパンツ一枚のみ。
白くてきれいな四肢だった。さっきまでは悪寒が走っていたのに、今度は何故か体温が上がった気がした。
一回断ったけれど、わたしが服を脱げないのが自分のせいだと気付いたらしく、その責任を取らせろと言われ、大人しく従うことにした。
彼女の白い肌がわたしに近づく。風に乗って、ふわっと甘い香りがした。何故だか心拍数が上昇する。いくら彼女がほぼ裸とは言え相手は同性、こんなに緊張する要素なんてないはずなのに。
なされるがままに服を脱がされ、今度はシャツも脱がせようとした。
「そ、そこまでしなくたって、じ、自分でできますから!」
「お前は……君は普段、誰かに手伝ってもらっているだろう。上を脱がせたときの動きが、うちの末っ子と一緒だ」
……確かに、わたし一人だとまともに着替えないから、いつもアルフが手伝ってくれる。まさか服を脱ぐ動作だけでそこまで見抜かれてしまうなんて。
彼女の洞察力への感心と、「だらしない子」と思われてしまうことへの恥ずかしさから、彼女の顔をまともに見れなくなる。
後ろに回って、下着に絡まった髪を丁寧にはずしてくれる。そっと首筋に手が当てられ、なんだかこそばゆく感じた。
「首の傷はどうだ」
「え? あ、その、ちゃんと治療したので……」
「痕にもなってないみたいだな」
……もしかして、わたしのことを心配してくれたの? あの傷をつけたのは彼女なのに、どうして……。
「どうして……そんなに優しく、してくれるんですか。この間は、あんなに冷酷だったのに……」
分からない。この女の子の行動が、わたしには理解できなかった。優しくしたり、冷たかったり、どっちが本当の彼女なんだろう。
だけど、彼女の表情は変わらない。可愛らしいのに仏頂面のまま。
「優しくしているつもりはない。それは君の錯覚だ。この間も今も、オレはいつだって、自分の目的のために行動しているだけだ」
何でもないことのように、そう言った。わたしに優しくすることも、敵として殺そうとしたことも、同じだと。
わたしには理解することが出来ない、不思議な女の子。それが、わたしの彼女に対する印象だった。
けど……多分それだけじゃない何かが、わたしの胸の内に芽生えていたんだと思う。いつの間にか、わたしは目で彼女を追うようになっていた。
彼女が脱衣を終え、浴場に向かって歩き出す。わたしも慌ててその後に続き、浴場に入った。
彼女、ミコトが脱衣所にいたのだから当たり前かもしれないが、浴場は一言で言ってしまえば「敵地」だった。この間のお屋敷で見た顔がいる。この様子だと、男湯の方にも剣士と魔導師がいるんだろう。
だけどミコトの同居人だという「はやて」が声をかけたことで、皆もわたしへの警戒を解いて話の輪の中に混ぜてくれた。
……「ソワレ」という今日初めて見た女の子の話を聞いたときはびっくりした。「ミコトとはやての子供」だと言っていたから。
もちろんこれは言葉通りの意味じゃなくて、そういう位置付けにいるというだけの話。ただ、ミコトととてもよく似ていたから、血縁関係はあるのかもしれない。
自己紹介をしてくれたから、一通りの名前は覚えた。白い魔導師の子は「なのは」。非戦闘員を守っていた女性は「ブラン」。なのはの親友だという「アリサ」と「すずか」。
あの日わたしが侵入したお屋敷は、すずかとお姉さんの「忍」さんが住んでいるお屋敷だったそうだ。勝手に侵入してしまったのだけれど、二人は笑って許してくれた。
ただ、「正規の玄関から入らないと蜂の巣になる」と言ったときは、目が笑ってなかった。……次はないと思うけど、もし次に行く機会があるときは、絶対玄関から行こう。
もう一人、なのはのお姉さんの「美由希」さんという人もいた。あのとき前衛を務めた剣士の「恭也」さんと同じ剣術を嗜んでいるらしい。
この中で魔導師はミコトとなのはとブラン、それからソワレだけであり(なのは以外は黙秘だったけど、その反応が魔導師であることを証明していると思う)、他はこの世界の一般人だそうだ。
だというのに、全員が当たり前のように魔導師のことを知っているし、管理世界のことも知っていた。わたし達がジュエルシードを巡って対立していることまで。
先日のお茶会に襲撃してしまったとき、一緒にいたはやてとアリサとすずかの三人、あと結界を解いたところを見た忍さん(メイドもいたけど)は仕方ないと思う。だけど美由希さんまで知っているというのが解せない。
聞いた話だと、高町家に至っては全員が知っていることであり、ミコトとはやての学校の友達5人も知っているそうだ。管理外世界の住人に管理世界のことを教えるのは違法のはずなんだけど……。
一応、無闇に拡散しているわけではなく「知っているべき範囲の限度」まで教えているだけらしい。……そうやって密に連携しているからこそ、あれだけのチーム戦を可能としたのだろう。
その要にいたのは、間違いなくミコト。彼女は……本当に凄い人だと思う。この間は最後まで実力を隠したままだったし、わたしなんかとは比べ物にならない判断力と決断力、そして実行力を持っている。
彼女は、何者なんだろう。彼女のことを知りたい。その気持ちは、戦うために敵を知ろうとするものとは全く違った。胸がドキドキして、体がポカポカして、嫌な感じじゃない。
この気持ちは、どう表現すればいいんだろう?
なのはの発想は、わたしにとって青天の霹靂だった。「ミコトと友達になる」。考えてもみなかったことだ。
だって、わたしとミコトは……どころか、なのはだって立場的には敵対している。今は何故か一緒にお風呂に入って楽しい時間を過ごしているけれど、ジュエルシードを巡った瞬間、わたし達は敵同士だ。
それなのに、「友達」だなんて。望むべくもないと思った。彼女だってそう思っているはずだ。だけどなのはは言ってくれた。「諦めるな」って。
だからわたしは、勇気を出して……ミコトに、「友達になってください」と言った。今まで乗り越えてきたどんな魔法訓練よりも勇気が必要だったと胸を張って言える。
そして、彼女は言った。自分は友情が分からない。だけど、わたしの気持ちは否定しない。それでよかったら、この関係を続けようって。
もちろん彼女は、わたしと敵対していることを一瞬たりとて忘れていない。その上で割り切ってみせた。そんな彼女を凄いと思って、許可がもらえたことが嬉しくて、なのはと手を取り合って喜んだ。
「でも、フェイトちゃん。ミコトちゃんに友達って先に呼んでもらえるようになるのは、なのはだからね!」
「ふふ。そうはいかないよ。なのはにだって、負けない」
いつの間にか、わたしとなのはの間には、奇妙な友情が生まれていた。この世界の人は、この関係をこう呼ぶそうだ。
強敵。そう書いて「ライバル」とルビを振り、「とも」と読む、と。
温泉を出ると、そこで男湯に入っていたミコトの仲間たちが合流した。
「!? 君はっ!」
「うぇ!? なんでいんの!?」
「あ、二人に念話で伝えるの忘れてたの」
魔導師の男の子と、使い魔……ではなくジュエルシードの発掘者。話から察するに、消耗した肉体を保護するために変身魔法で姿を変えているのだろう。
それと前衛の剣士(なのはのお兄さんだそうだ。そういえば先日も彼は「妹」という言葉を口にしていた)の手には、何故かミコトのデバイス。心なしぐったりしてるように見えるのは気のせいだろうか。
「落ち着け、二人とも。その様子だと、今は戦う意志はないんだろう」
「……はい。わたしも、出来れば戦いは避けたいから……。えと、なんであなたがそれを?」
「オレがお願いした。男は男湯へ、当然の道理だろう」
『うぅ……マッチョ比べ怖い……』
な、何があったんだろう。聞くのが怖いので、聞かなかったことにしよう。
けど、デバイスの性別を気にして別行動を取るなんて。不用心だけど、ちょっと女の子らしくて可愛いと思ってしまった。
……そういえば、バルディッシュって男性人格のAIなんだよね。女湯に連れて行っちゃって大丈夫だったのかな?
ミコトはデバイスを受け取ると、パスコードを呟いて待機形態に戻す。羽根の姿となったそれを、浴衣の袖にしまった。
相変わらず一切の魔力を感じない、謎の魔法だ。先日の戦いでも、彼女の攻撃は魔力を感じなかった。魔力に常時高ステルスを付与する類のレアスキルを持っているのかもしれない。
ミコトは戦力については一切教えてくれないから、答え合わせをすることは出来ない。わたしの中で、可能性の一つとしてとどめておく。
っと、そうだ。男の子たちにも、ちゃんと自己紹介をしておかなくちゃ。
「フェイト・テスタロッサです。この間はお茶会を邪魔しちゃってごめんなさい」
「え? あ、はい、ご丁寧にどうも……じゃなくて! どうして君がここにいるんだ!」
「あー……気にしてもしょうがないんじゃないか、ユーノ。何か、なのは達とも仲良くなっちゃってるみたいだし」
「急に気楽になったな!? 分かってるの、ガイ! 彼女は敵なんだよ!?」
……なんだろう。ユーノという彼の「敵」という言葉を聞いた瞬間、胸が少しチクリとした。
フェレットもどきの非難の視線を受けて、魔導師の少年はヘラヘラとした笑いを崩さなかった。
「今はお互いに戦う気がないんだから、敵味方を気にしたってしゃーねーべ? なんだっていい、可愛い女の子とお近づきになれるチャンスだ!」
「結局君にはそれしかないのかッ! もういいよ、僕だけで警戒しておくから!」
ユーノは怒ってガイと呼ばれた少年の肩から降り、わたしと一緒にいるなのはの肩に登った。視線はわたしの方を睨みつけて来ていて、居心地があまりよろしくない。
相方とも言える小動物の様子とは対照的に、少年は友好的な笑みを浮かべて右手を差し出してきた。
「俺は藤原凱。そこにいるなのはのジュエルシード探しを手伝ってる、なりたてほやほやの魔導師だ。所属は聖祥大付属小学校3年1組、なのはとアリサとすずかのクラスメイトだ。よろしくな、フェイトちゃん!」
「既に名乗りは上げたが、もう一度。高町恭也。なのはの兄で、私立風芽丘大学の運動科学部一回生だ。今は利害が衝突しているが、妹たちと仲良くしてくれると助かる」
恭也さんは、あの戦いのときのプレッシャーが嘘のように穏やかな人柄だった。彼もまた、戦いと日常を割り切っているのだろう。
彼は忍さんと恋仲にあるらしく、紹介が終わると忍さんが恭也さんの手を取って何処かに行ってしまった。
「んじゃ、俺らも親睦を深めるってことで、卓球でもしねえ? 温泉つったらやっぱこれだろ!」
「あら、変態にしてはまともな発想じゃない。……で、その心は?」
「弾けるパッション! 飛び散る汗! 浴衣のすそからチラリズム!」
「藤原凱めぇ! 死ねぇっ!」
「せめてジー○ブリーカーでお願いしまンモスッ!?」
アリサが放ったしゃがみ状態からのアッパーカットで、ガイは綺麗な曲線を描いて殴り飛ばされた。
……わたしには、ちょっと意味が分からなかった。というか、ガイはあれで大丈夫なの? 皆何事もないかのようにスルーしてるんだけど。
「じゃあフェイトちゃん、俺らも行こうぜ」
「へ!? あ、あれ? キミ、アリサに殴り飛ばされたんじゃ……」
「残像だ」
「……うそ……全く見えなかった」
「そこは「なん……だと?」って返してほしかった。まあ分かるわけねえか、当たり前だよなぁ?」
やっぱりガイの言ってる言葉は意味が分からなかった。
ちなみに、床に血痕が残っていたので残像ではなかったようだ。……それはそれで驚異的な回復力だね。
わたしはこの世界に来るにあたって、文化と言語の勉強をした。だけどそれは表面的なものであり、細かい部分では知らないことが多かった。
たとえば、卓球もその一つ。卓上でピンポン玉と呼ばれるボールを打ち合って競うスポーツということは知っているけれど、ゲームを取り決めるルールや実際に競技しているところを見たわけではない。
卓上、室内の競技であるということから、わたしはあまり動きのない、どちらかと言えば技術で競うのだと思っていた。侮っていた、と言い換えてもいいかもしれない。
「ふぅ、ふぅ……やるね、フェイトちゃん」
「すずかこそ。はぁっ……ここまで動くことになるとは思わなかった、よっ……!」
お互いに荒い息をしながら、トスからのサーブ。かなり高速で打ったそれは、しかしすずかには難なく返される。逆にこちらが打ち返しにくいところに、低弾道で差し込んできている。
もちろんこちらも終わらせない。バウンドの瞬間を見極め、逆サイドへ同じぐらい高速で打ち返す。ネットギリギリを通過したピンポン玉は、トップスピンに従って向こう側のフィールドに落ちる。
普通に考えたら、反応できない。なのにすずかは、その一瞬で体を逆に回転させ、浴衣がはだけるのも気にせずに強烈なステップで踏み込む。先ほどにも増した速度の打球。
わたしもマルチタスクを総動員して、彼女を迎え撃つ。彼女の動きを見て、何処に打球が来るかを先読みし、持てる限りの速度で踏み込む。そうしないと間に合わないのだ。
結果、わたし達は息をつく暇もない高速ラリーを展開することになる。そしてこれは、先に息が乱れた方が打球に追いつけなくなる体力勝負だった。
「ふ、二人だけ別ゲーなの……」
「すずかの身体能力に対抗できるフェイトが凄いのか、魔導師に身体能力だけで対抗してるすずかが凄いのか……」
「……違う。俺が求めてたチラリズムは、こんなせわしないものじゃない……どうしてこうなった……」
「君って奴は本当に……もう少し他のことに情熱を向けられないの?」
「チラリズムが分からないユーノなんて男じゃない……不能者だ!」
「人聞きの悪いことを言うな!」
「ふぅ……それにしても汗をかいた。これでは温泉に入った意味がないな」
「あとでまた入りなおせばええやん。ここにいる間は入り放題やろ?」
「ソワレ、ミコトとはやてと、おんせんはいる!」
「ふふ、いっぱい楽しんでくださいね、ソワレちゃん。あ、そろそろ決着がつくみたいですよ」
先に息が切れたのは、わたしの方だった。すずかの体力は、とても一般人とは思えないほどに高かった。戦闘訓練を受けてきたわたしを凌ぐなんて、並大抵じゃない。
だからわたしは、作戦を変えた。体力勝負ではすずかに敵わない――なら、体力ではない部分で勝負をすればいい。
「っ、そこっ!」
すずかの渾身のスマッシュ。とてもプラスチックの玉とは思えない速度で叩きつけられたそれは、それに伴ってトップスピンも相応の回転数だった。
わたしは、それに逆らわなかった。順回転に順回転……わたしから見たら逆回転をかけて、フワッと浮かせる。
球体というのは、トップスピンをかけると揚力の関係で前方の加速が増す。その代わり、下方向に力が加わり滞空時間が短くなる。
スマッシュやラリーのときには、この加速の性質を得るためにトップスピンをかける。わたしが今やったのは、その真逆のバックスピン。トップスピンとは真逆の性質を持つ。
一見すれば不利になるばかりの特性。相手に体勢を立て直す時間を与え、打ち返すときの打点も高くなってしまう。だが、今回かけたバックスピンはそれら一切を許さない起死回生の一手だ。
「!? しまった!」
すずかも気付いたようだけど、既に遅い。彼女が慌てて前進をかけたときには、ピンポン玉がすずかの陣地からネットに向けて撥ねる瞬間だった。
球体が壁にぶつかった際、反射の方向は入射角とスピンによって決まる。バックスピンによって前方加速がほぼ失われ、真上から卓に落ちたピンポン玉は、バックスピンに従って逆方向に加速したのだ。
そしてネットに当たり、わたしの得点。……わたしの勝ちだ。
「……あー、負けちゃったぁ。惜しいところまで言ってたと思うんだけどなぁ」
「うん。正直に言って、危なかった。今のはすずかが気付くか気付かないか、かけだったよ」
すずかの身体能力なら、撥ねた瞬間のピンポン玉を叩き、こちらに打ち返すぐらいは出来ただろう。そうなったら、もうわたしに為す術はなかった。
彼女は少し悔しそうだったけれど、それでも全力を出せて晴れやかな顔だった。わたしも多分、似たような顔をしているだろう。
どちらからともなく、右手を差し出しあい握手する。互いの健闘をたたえ合った。
「すずかに勝っちゃうなんてやるわね、フェイト。次はあたしよ。まさか二連戦は卑怯だなんて言わないわよね?」
「いいよ、アリサ。望むところだ」
「俺の周りの女の子が熱血でからい。フェイトちゃんはお淑やか枠ではなかったのか……」
「む! なのはは十分お淑やかな子なの!」
「……はっ」
「変態に鼻で笑われたの!?」
「ミコト、ソワレもやる!」
「分かった分かった。月村、はやての相手を任せてもいいか」
「うん、わたしも休憩して、はやてちゃんとおしゃべりしたかったから」
「しっかり教わるんやでー、ソワレ」
「それじゃあ、私はソワレちゃんのお手伝いをしますね」
わたしとアリサがゲームを始めた横で、ミコトとソワレ(ブランの補助付き)が卓球体験を始めた。
ミコトはペンタイプのラケットを左手に持つ。そういえば先日もデバイスを左手一本で構えていたし、どうやら左利きのようだ。……なのはもそうだったっけ。
他は全員右利き……だと思う。ソワレがミコトの真似をして左手でラケットを持とうとしているんだけど、上手く持てないでいた。あの様子なら、多分右利きだ。
……なんかちょっと癪だ。わたしもなのはみたいに、ミコトとお揃いだったらよかったのに。
「はあ、はあ! ミコトちゃんの鎖骨……イイッ! 幼い色気がたまりません!」
「変態がいつにも増してキモチワルイの」
「あははー。……ガイ君、ミコちゃんにエロいことしたら、ほんまにいてこますで?」
「サ、サーイエッサー!」
「す、すごい迫力だ。これが噂に聞くニッポンの「オカン」の力なのか」
観戦組がそんな会話をしてた。……確かにミコトって、妙に色気があるっていうか、大人っぽい雰囲気があるよね。
そんなことを思いながらミコトに見とれてたら、アリサの打球を頭に受けてしまった。ピンポン玉だから、あんまり痛くはなかったけど。
いつの間にかわたしは、時間を忘れて楽しんでいた。現実に引き戻したのは、使い魔からの念話だった。
≪フェイト、ちゃんと休んでるかい?≫
≪あ、アルフ。どうかしたの?≫
≪こっちは何もないけど、フェイトがちゃんと休んでるかどうか心配でね。定期的に確認しとかないと、ろくな休息も取らないでジュエルシード探しに行きそうじゃないか≫
ジュエルシード。その言葉で、忘れていたことを思い出してしまう。
今こうして一緒に遊んでいる彼女達は、ジュエルシードを挟んだ瞬間敵同士となってしまう。その事実を思い出し……やっぱり胸がチクリと痛む。
≪? どうしたんだい、フェイト≫
≪……ううん、なんでもない。わたしは大丈夫だよ。今は皆と卓球をしてる≫
≪へっ? 現地で遊びに誘われでもしたの?≫
≪んっと……そんなところ、かな≫
念話で全てを説明するのは難しい。あとでアルフと合流したときに、詳しく話そう。
≪そっか。フェイトが楽しそうなら、あたしは何よりだよ。ここ最近で一番楽しそうじゃないか≫
≪そうなの、かな?≫
≪そうだよ。あたしはフェイトの使い魔なんだから、感情リンクでそれくらい分かる≫
そういえばそうだったね。わたしが辛い思いをすればするだけ、アルフにも同じ思いをさせてしまう。こうしてわたしが楽しんでいる分が、少しでもアルフに流れていれば嬉しい。
≪無理にでも温泉に行かせてよかったよ。その点についてだけは、この間戦ったって子に感謝だね。あの傷見た瞬間は「ぶっ殺してやる」って思ったけど≫
≪そ、そんなこと思っちゃダメだよ。ミコトは悪くなかったんだから≫
≪ん? フェイト、ミコトって誰だい? 何か話の流れ的に、その子の名前の気がするんだけど≫
≪あ、なんでもないよ!? あとで詳しい説明をするから!≫
≪……フェイトがそう言うなら、まあ、従うけど≫
危ない危ない。ミコトがこの場にいることを知ったら、アルフが殴り込みをかけてしまうかもしれない。ちゃんと止められるときじゃないと話せないよ。
とにかく、アルフに追及される前に話題を変えよう。……やっぱり、この話題しかないよね。
≪それで、ジュエルシードはこの近辺にはないんだよね≫
≪そうだね。近くに森があったんだけど、そこも見てみて成果ゼロ。あとあり得そうって言ったら、山の方ぐらいだね≫
≪山か……探索に時間がかかりそうだ。それで見つからなかったときの時間的なロスが怖い≫
≪だねぇ。しょうがないから、一旦この辺の調査は切り上げよう。今日はしっかり休んで、明日街に戻るってことで≫
≪うん、それで。アルフも宿に戻って、温泉に入るといいよ。言った通り、話したいこともあるから≫
≪あいよー。んじゃ、後でねー≫
プツンと念話が切れる。マルチタスクの一つで処理していたアリサとの勝負は、わたしの勝利で終わった。やっぱりすずかの身体能力が高過ぎるだけみたいだね。
「ぬあーっ! あたしだって弱いわけじゃないのに! なのは以外はソワレにしか勝てないってどういうことなのよ!」
「ちょっと待って!? それって、なのはには勝てて当たり前ってことなの!?」
「むしろ負ける方が難しいだろう。サーブ失敗の自滅がデフォルト、レシーブすればあらぬ方向に。どうすればそこまで壊滅的になるのか、逆に知りたい。ソワレは初心者なのによく頑張った」
「うん、ソワレ、がんばった」
「ミコトちゃんまでぇ!? うえぇん、はやてちゃーん!」
「おーよしよし。なのはちゃんにもええとこはたくさんあるよ。運動方面は御縁がなかっただけやで」
「はやてちゃん、それ追い打ちだよ……」
ちなみに大体の戦績だけど、トップがわたし、次がすずか、その次にミコトが来て、アリサ、ソワレ、なのはとなっている。ガイとブランは観戦のみで、はやては足が動かせない。ユーノはサイズ的に無理。
今日初めて卓球をやったソワレにも負けて、なのはは非常に落ち込んだ。けど……あれは、ミコトの言った通りだと思う。
そのミコトだけど、まさに技と戦術で戦うタイプだった。身体能力はそこまで高くないんだけど、打球がとても正確で非常に返しにくい。そして、こちらの動きに制限をかけるようなコース配分だった。
わたしやすずかは、それでも身体能力で上回って勝てた。だけどアリサはいいように遊ばれてしまい、ミコトとのゲームではまさかの完封だった。
……なのは? 一応、相手のミスで得点したことはあったよ。ミコトはそんなミスしてくれなかったけど。
「そうよ、ミコトよ! 何であんたそんなに正確なのよ! 一回ぐらいサーブミスしなさいよ!」
「オレとしては、どうしてサーブミスなど発生するのかが分からない。自身の技量にあったところで正確に打てば、ミスは発生し得ないだろうに」
「それを毎回やってるからおかしいってのよ! 普通一、二回ぐらいはミスするものでしょ!?」
「そらアリサちゃん、今更ってやつやで。ミコちゃんほど普通って言葉が似合わん子もおらんやろ?」
「……それもそうだったわね」
「理解を得られたようで何よりだ」
本当に、不思議な子だ。八幡ミコト。わたしは以前彼女に殺されそうになったはずなのに、そのことに対して思うところがなくなっている。恐怖の感情は落ち着くところに落ち着いて、別の何かが生まれた。
だからわたし達は、敵対しているはずなのに楽しい時間を共有している。不思議な時間、だからこれは不思議なミコトが生み出しているに違いない。
理屈ではなく衝動で、気付けばわたしは言っていた。
「ありがとう、ミコト」
突然のわたしからの謝礼に、ミコトは意味が分かっていないようで、仏頂面で目をしばたたかせた。
ややあってから。
「どういたしまして。礼の意味は全く分からんが」
「ふふ、そうだね。わたしもわかんない」
「……はあ、どうしたものか」
ミコトは困ったのか、口をへの字にしてはやてのところへ行ってしまった。
初めての卓球は、初めて「友達」と遊んだ時間は、……とても楽しくて、宝石みたいにキラキラしていた。
「ところでガイ君は、どうして卓球に参加しなかったんですか? わたしは体格差を考えてだったんですけど」
「ブランさん……チラリズムって、諸刃の剣なんスよ」
「……はい?」
「ガイ……本当に君って奴は、どうしてそればっかりなんだ……」
内股気味になって前かがみのガイがそんな会話をしていた。……どういう意味だったんだろう?
それから皆で汗を流すのに、また温泉に向かった。
入る直前でガイとアリサがまたもめたけど(ガイが女湯に入ろうとしたらしい。注意書きには9歳未満はどちらでも可とあった)、ユーノがガイを引きずって行ったことで収束した。
……あれは凄かった。小動物の姿なのに顎を蹴り上げ気絶させ、首根っこを掴んでずるずる引っ張って行ったのだから。もしかしたら、元の姿はとてつもなく屈強な戦士なのかもしれない。
「ユーノ君、なんだかどんどん逞しくなってるの……」
「四六時中アレの相手してるからでしょ……強くもなるわよ」
「何だか二年前のなのはちゃんとアリサちゃんを見てる気分だよ……」
なのは達三人は、肩を落としてため息をついた。
男の子二人が先に行ってしまったため、ミコトは自分のデバイス「エール」を女湯に入れることを渋った。けれど袖の中で抗議をされ、仕方なく連れて行くことになったらしい。
『ヒャッホー! 女湯だー! もうマッチョを怖がらなくていいんだー!』
「ほんとに男湯で何があったんや、エール……」
「涙まで流して喜んでますね……」
「よしよし、いたいのいたいのとんでけー」
エールは柄の部分が鳥の顔のようになっている。その目の部分から、滝のような涙を流していた。……ミコトはデバイスも不思議だなぁ。
ソワレのみエールの涙の意味を理解していなかったけれど、他の皆は一様に怖くて何も聞けなかった。
エールはミコトのそばに立てかけられて、彼女は温泉に浸かる前にかけ湯をする。わたしもそれに倣い、ミコトの隣に座った。必然的にエールの近くだ。
『あ、フェイトちゃんだっけ。この間はミコトちゃんがごめんねー』
「あ、どうも……」
声をかけられてしまった。しかもかなり気さくに。デバイスのAIって、こんなに感情表現豊かだったっけ?
「こちらこそ、問答無用で襲い掛かってしまったし、仕方ないことだと思います」
『うんうん、フェイトちゃんはいい子だ。あ、敬語とかいらないから。ボク、堅っ苦しいの苦手なんだ』
「そ、そうなんだ。えと……知ってるだろうけど、フェイト・テスタロッサです」
『ありがとね。ボクは……分かってるよ、ミコトちゃん。余計なことは言わない。ボクはエール、よろしくね』
一瞬、ミコトとの間にアイコンタクト(?)があった。多分、戦力については明かさないという取り決めに関することだと思う。
だけど……なんだろう、違和感がある。いや、エールという存在自体、デバイスとしては違和感だらけなんだけど。そうじゃなくて、今のはマスターとデバイスのやり取りとして何かが違った気がする。
≪バルディッシュ、何か分かる……あっ≫
≪……Sir?≫
≪ご、ごめん、なんでもない≫
そうだ。マスターとデバイスなら、念話で通信が可能なはずだ。わざわざアイコンタクトを行う必要はない。それは、人と人が取るコミュニケーション方法だ。
エールはデバイスじゃ、ない? だけど、それだと魔法を使えることに説明がつかない。一体どういうこと?
『あー……混乱させるつもりじゃなかったんだけど。ごめんね?』
「あ、ううん。気にしないで。気を使ってくれてありがとう。……いい子だね、ミコト」
「少しおしゃべりで悪戯好きが過ぎるがな。オレは必要以上のことを言うつもりはないから、君が真実に到達する可能性は低い。あまり深く考えない方がいい」
「そうだね。……ジュエルシードを巡った対立が終わったら、そのときに聞くことにするよ」
「……そのときに、君にその意志があるのならな」
そう、だね。わたし達がジュエルシードを集めるか、ミコト達がジュエルシードを集めるか。それが終わったときに、わたしがまた彼女に会いに来ることが出来るなら。
――ダメだ。考えるな。今は考えちゃいけない。考えたら、止まらなくなっちゃう。
あふれ出る思考を、必死に押しとめる。零れ落ちそうになる感情を必死で耐えて、立ち上がった。
「ちょっと、脱衣所に忘れ物しちゃったから、取りに行ってくるね」
「……そうか」
『フェイトちゃん……』
顔を見られないようにミコト達に背を向け、脱衣所に向けて歩き出す。皆はそれぞれに会話を楽しんでいて、わたしの様子に気付く人がいなかったのが幸いだった。
「わっと! あ、フェイトも温泉にいたん……フェイト?」
脱衣所の戸を開けて急いで中に入り閉めると、そこにはアルフがいた。人型になったわたしの使い魔。
その顔を見て――わたしの我慢は限界に達した。
「……うぅっ、アルフぅ……」
「ど、どうしたんだいフェイト!? 急に泣き出したりして!」
彼女にすがりつき、わたしは目から溢れる熱い滴を抑えられなくなった。次から次へとこぼれ出す。
「いやだよぉ……ミコトと戦いたくない……ずっと、仲良くしていたいよぉ……」
「フェイ、ト……」
「ミコトだけじゃない……なのはも、ガイも、いい子なのに……なんでたたかわなくちゃいけないのぉ」
「フェイト……っ!」
「みんな、やさしかった……っ! ひどいことしたわたしを、わらってゆるしてくれた! あんなにいいひとたちなのに……てきになんて、なりたくない……」
「フェイトっ!」
わたしを抱きしめるアルフも、いつの間にか泣いていた。感情リンクを伝って、わたしの切望を理解してしまった。
「ミコトと、ともだちになりたいっ……なのはと、ともだちのままでいたいっ! なのに、なんで……っ」
「……逃げようよ、フェイト。逃げ出しちまおう。あの鬼婆なんかよりも、フェイトの友達になった皆のところにいた方が、絶対いいよ!」
「……ダメだよ、アルフ。それは、絶対にダメ」
あの人には、わたししかいない。あの人――母さんには、もうわたししかいない。裏切ることなんてできない。
だから母さんがジュエルシードを求めている以上、わたしには集める以外の選択肢はなく……その事実が、胸を締め上げて涙を絞り出す。
割り切ることなんてできなかった。見ないでいた現実に目を向けた途端、その現実があまりにも悲しくて切なくて、涙を止めることが出来ない。
どうやったら、ミコトみたいに割り切れるんだろう。どうしてミコトは、あんなに"強い"んだろう。ミコトへの思いが溢れて溢れて、やっぱり涙が溢れる。
「やっぱりわたしは……ミコトの、敵にしか……そんなの、いやなのにっ……!!」
「フェイトぉ……なんで、なんでこんなことになっちゃったんだよぉ……っ!」
わたしは使い魔と抱き合いながら、それでも涙は止まらなかった。
結局わたしは温泉の方には戻れず、なのはに「先に上がってる、ごめんね」と念話を送って部屋に戻った。彼女から心配したような念話が返ってきて、また涙がにじんだ。そして、何も返せなかった。
わたしは……どうすればいいんだろう。どうしたいんだろう。
そう自分に問いかけてみても、返って来る答えは何もなかった。
原 作 ブ レ イ ク 不 可 避 (二度目)
書き方が「人物をシミュレーションしながら書く」のせいで、最後の部分はフェイトとアルフだけでなく自分の涙腺にダメージを与えながら書く羽目になりました。あと何回やることになるんだろう(遠い目)
今までの人生で一番楽しい時間を過ごした直後に現実を突きつけられたら、そりゃ泣きたくなるよなぁ?(ゲス顔)
ガイ君のユーノ♂(意味深)はご立派です。そりゃもう女の子たちが浴衣はだけて卓球してるところを見たら(立って)立てなくなるぐらい。
「温泉回のジュエルシードどうした」と思われている方も多いでしょうが、ちゃんと出る予定です(予定は未定) 今しばらくお待ちください。