不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!

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十四話 遭遇

 ようやくというべきか。ジュエルシード事件に関わって、本来の目的のための一手を打つことが出来た。

 "理の召喚体"ミステール。はやての足が麻痺している原因を知るための、二人の召喚体のうちの一人だ。「原因と結果」という概念を司る、論理的に非常に強大な力を持つ召喚体。

 極端な話をしてしまえば、何だって出来る召喚体だ。原因を理解し、結果を理解すれば、その因果を結ぶことで様々な事象を起こすことが出来る。二つを正しく理解すれば、だが。

 「風が吹けば桶屋が儲かる」という言葉がある通り、単純に原因と結果と言っても、様々な事象が複雑に絡み合って、元の原因から遠く離れた結果を引き起こすことだってあり得る。

 ミステールが出来るのは、この中で「一意に決定される因果を司ること」だ。先の例で言えば、風が吹いて桶屋が儲かるまでのプロセスは何通りか考え得る。これでは一意に決定することは出来ない。

 ではどういうことが一意に決定出来る因果かといえば、「風が吹けば運動エネルギーを伝播する」、これだけだ。非常に短い、その先が如何様にもあり得る結果だ。

 だからミステールには「知の探究」という創造理念を与えた。無数にある因果関係を理解することによって、彼女は初めてその力を遺憾なく発揮することが出来る。

 そして、これには非常に長い時間がかかる。はやての足を治すという目的を考えると、それを待つことは出来ない。だから、最後の召喚体が必要なのだ。

 理を真理に導く羅針盤。"真の召喚体"が。ここまでの召喚体作成の手応えで、それは十分に可能だと思っている。

 そのためにあと一つ、ジュエルシードが必要だ。

 

 とはいえ、ミステールを生み出したのが今回の事件に全く役に立たないかと言えば、そんなことはない。

 たとえば、今までオレは魔導師の皆と連絡を取るのに、いちいち顔を合わせなければならなかった。リンカーコアを持たないオレに、彼らと念話で通信をすることは出来なかった。

 だがミステールに「念話に必要な因果関係の全て」を教えれば、ミステールを通じて念話を行うことが出来る。

 魔導師の念話は、リンカーコアさえ持っていれば誰でも出来るほど基本的な技術だ。相応に必要なステップも少なく、ミステールでもすぐに学習することが出来た。

 

≪こちらミコト。現在駅周辺の裏路地を探索中。ソワレ、もやし200~250号と協力しているが、成果はなさそうだ。あと5分ほど探索したら、切り上げて他を当たる≫

≪なのはです! ダメだよミコトちゃん、そんな危ない場所に行っちゃ! ふぅちゃんも何か言ってあげて!≫

≪フェイトです。何かあったらすぐに連絡して、飛んでいくから。わたしの方も、外れかな≫

 

 ご覧の通りだ。これにより、オレ達の探索能力はますます上がった。魔導師の魔力感知と、もやしアーミーの人海戦術。これらを相乗的に使用できるようになったのだ。

 しかもミステールの念話は、魔導師のものにはない強力な特徴がある。

 

≪恭也だ。駅だったら俺が近い。今から迎えに行くから、下手に動くなよ≫

 

 これだ。ミステールを中継して、魔力を持たない人間でも念話に参加出来るようになる。魔導師・非魔導師混合のこのチームが、いつでも連絡を取り合える状況になったのだ。

 ミステールの念話というのは、魔力を用いているわけではなく、あくまで「念話」という技術の因果のプロセスを踏襲しているだけだ。となれば、少し弄れば魔力以外のラインでも念話を繋ぐことが可能だ。

 あとはミステール自身が中継塔となり異なるラインを繋ぎ合わせれば、全員が念話回線を共有できるという仕組みだ。

 この探索能力の向上によって、既に2つほどジュエルシードを封印している。残念ながら、オレが封印したわけではないので、召喚体には出来ていないが。

 

≪しかし、便利なもんだな、念話ってのは。携帯要らずじゃないか≫

≪呵呵っ。どケチな主殿にはうってつけの技能じゃの≫

≪……やかましい。無駄口を叩くなら、レイジングハートかバルディッシュから、魔法の一つでも習っておけ≫

 

 確かに便利だし、魔導師以外とも通信可能なので制約もないが、あまり頼りすぎる気もない。やはり顔を合わせた会話の方が、言葉以外の情報もやり取り出来ていい。

 なお、現状ミステールに事件関連で出来ることと言ったら、この念話共有ぐらいだ。やはり基本でないような魔法となると、プログラムが一気に複雑化し、今のミステールでは理解しきれていない。

 シールド一つとっても、強度の決定、性質の決定、形状の決定、発生位置の決定、持続時間の決定などなど、処理しなければならない情報量が多い。世の中そう甘くはないということだ。

 とは言うものの、ミステールの本分はそこにはない。彼女の役割は、あくまではやての足の治療の手がかりを入手することなのだ。

 だから彼女の力をあてにする気は、念話共有以外にはない。というかこれで十分すぎる。戦闘関連はソワレがいるし、移動関連はエールがいる。万能の可能性を持つからと言って、一人に全てを任せる必要はない。

 

≪でもミコトちゃん、携帯電話は買った方がいいと思うの。遊ぼうと思って連絡取れないと、困るよ≫

≪基本料金がもったいないという話は以前したはずだ。君なら今後は念話があるのだから、気にする必要はないだろう≫

≪でもでもー! 携帯があればデコレーションとか楽しめるし、楽しみは電話だけじゃないの!≫

≪まあ、小学生の間は無理に買う必要もないだろ。ミコトが必要だと思ったときに買えばいいさ。っと、見えた見えた≫

 

 後ろから足音がして、振り返れば軽く手を挙げた恭也氏の姿。

 

「ったく。女の子がこんな場所に来るんじゃない。ここは以前良くない人間のたまり場になっていた場所で、今もあまり治安が良くないんだ」

「海鳴にそんな場所があったのか。そう心配せずとも、何かあってもオレにはソワレがいる」

「お前の身の心配もそうだが、お前がやり過ぎることを心配しているんだ。いつも言ってるだろ、お前の手を汚させたくないって」

 

 酷い目にあう不良の心配ではないのか。まあ、恭也氏からしたら関わりのない下郎よりも、知人の方が優先度は高いか。

 くしゃくしゃと頭を撫でられる。むう、はやてがセットしてくれた髪が……。

 

「ところで、恭也氏は何故そんなことを知っている?」

「俺が壊滅させた組織だったからな」

 

 なるほど。昔から人外だったのか、この人は。

 恭也氏に手を引かれ、裏路地から出る。それとほぼ同時ぐらいで、念話回線が開かれた。

 

≪こちらガイ! ジュエルシード発見! 場所は藤見競馬場の中だ! 状況は暴走直前! 結界張って待機するから、速めに頼むぜ!≫

≪こちらアルフ! あたしが近場だ! 先に行って抑えとくよ! 皆も早く来てくれ!≫

 

 どうやら今回もオレの取り分にはならないらしい。残念だが、こればかりは運次第だから仕方がない。

 

「藤見競馬場か……かなり遠いな。どうする?」

「テスタロッサがいれば大体何とかなると思うが、温泉のときのようなこともあるか。やはり、オレ達も行くしかないでしょう」

「だよな。……よし」

 

 そう言って恭也氏は、オレの前で背中を向けてしゃがんだ。……乗れと?

 

「この方が速い。まさか、白昼堂々空を飛んで行くわけにはいかないだろ?」

「……まあ、仕方ないか。ソワレ、振り落とされないようにしっかりつかまってろ」

「うん」

『美丈夫に負ぶわれて行くか。女子としては美味しいシチュエーションではないかな、主殿』

 

 やかましい。そんなことを気にする性格でもないし、状況でもない。現場に急行出来るなら、手段を選ぶことでもない。それだけだろうが。

 ……あの変態が相手だったら、死んでも嫌だが。しょうがないだろう、生理的に無理なんだから。

 

「はは。しっかりつかまったか?」

「抜かりなく」

「じゃあ……行くぞっ!」

 

 ドンッ!と空気の壁を突き破り、恭也氏はオレを負ぶって風になった。

 ……これ、ひょっとしてソワレとエールを使って空を行くより速いんじゃないか? どうなってるんだ、この人は。

 

 オレ達が向かったのはそう無駄でもなかったようで、結界内を縦横無尽に走り回る暴走体に、魔導師組は攻撃を当てられず苦戦していた。

 そこを恭也氏が、暴走体の下を潜り抜けてすれ違いざまに足を斬り飛ばし、動きを封じたところに「夜想曲の弾丸」を撃ちこみ肉体を破壊、ジュエルシードを露出させることに成功した。

 あとはテスタロッサが封印処理を行い、回収は完了。今回のジュエルシードは、シリアルXII(12)だった。

 なお、変態は暴走体にひき潰されて戦闘不能になっていたが、シールドは張っていたため命に別状はなかったらしい。……チッ。

 

 

 

 

 

 ゴールデンウィークの連休も目前に迫った、その日の夕食時。テスタロッサがある提案をした。

 

「ワイドエクスプロア?」

「うん。今日のジュエルシードで、残りは8個になったでしょ。そろそろ見つけにくくなってくると思うんだ。だから、この魔法で大体の当たりをつけて、それから皆で探した方がいいんじゃないかと思って」

 

 彼女が提案したのは、広域探索用の魔法。半径数kmに渡って微小な魔力の波を放ち、エコーで対象物を検出するという魔法だそうだ。要するに魔法のレーダーと言ったところか。

 これに対し反対意見を上げたのは、テスタロッサ以外で最も魔法に造詣の深いスクライア。言い忘れていたが、今日は高町家+変態も一緒だ。

 

「だけど、発動前のジュエルシードは魔力を吸収する性質を持ってる。エクスプロア系の魔法だと、上手く検出できないと思うんだ。それに、もしその刺激で発動なんかしたら……」

「数が少なくなってきた今だからこそだよ。発動すれば、それこそ一発で場所は分かる。それと、検出方法を反射方式じゃなくて非反射方式にすれば、大体の方角は特定できると思う」

「……なるほど。一定距離で自動的に反射させる設定にすればいいのか。それは盲点だった。だけど往復分でかなり魔力を使うことになるはずだよ。そこはちゃんと考えてる?」

「結構疲れると思うけど、皆がいるから。信頼してるからこそ、ちょっと無茶してみようって思えたんだ」

「……にゃー。ふぅちゃんとユーノ君が難しい会話してるよぉー」

 

 なのはは相変わらずの感覚派であった。オレはというと、魔法は使えずとも論理は理解できる。ちゃんと話を理解しつつ、食事に集中している。

 変態も理解できているようだが、真面目な話なので茶々を入れるのを自重しているようだ。今は治療魔法のおかげで傷一つない姿だ。……チッ。

 

「ところで、その場合ジュエルシードの分配はどうする気だ? そちらはなのはが持とうがテスタロッサが持とうが、結局は同じことだ。だがオレの方は、オレの取り分を確保しなければならない」

「そこは今まで通りで行きましょう。実際に見つけた人が確保する。フェイトがやろうとしているのは、あくまで方角の限定です。発見とはまた違いますよ」

「それを聞いて安心した。あと一つはオレが回収しておきたいところだ」

 

 目的の召喚体を全て生み出すのに4つという最初の試算は合っていたが、まさかこうまでオレが回収できないとは思わなかった。やはり魔力を感じられないというのが痛かったか。

 

「……というか、僕としてはミコトさんの回収云々に関わらず、あと一つを渡してもいいと思ってるんです。これまで随分とミコトさんのお世話になってますから」

「錯覚だ。オレがした働きは多くない。実際、ジュエルシードを封印した数が一番多いのはなのはだ」

「それ以外の部分で、です。チーム全体の方針を決めたり、戦闘時の指揮を取ったり、フェイト達の協力を得たり。本来僕がやらなきゃいけないことだったのに、ミコトさんに甘えてしまいました」

 

 オレはオレの都合で好き勝手やっただけなのだが、結果的にそれが上手くいってしまったせいで、スクライアの中での評定が高くなっているようだ。

 だがそれはあくまでスクライアにとっての話であり、オレの主観で言えば、やはり今までの働きで無条件に報酬を受け取るのはバランスが悪い。契約通り、オレが発見・封印したものを受け取るのでなければ。

 

「気にするな。オレはオレの目的のために行動したに過ぎない。お前はお前の都合を優先しろ。それが、オレとお前の契約のはずだ」

「……そう、ですね。契約ですもんね」

 

 ? スクライアは何を気落ちしているのか。ようやく終わりが見えて来たから、少し気が抜けているのか?

 変態が視界に入った。スクライアをニヤニヤしながら見ている。男は男同士で何か通じ合っているようだ。オレの知ったことではないか。

 

「はっはーん。ミコちゃんも、相変わらず罪作りな女やなぁ」

「はやては相変わらず突飛だな。何処からそんな発想になった」

 

 要するにはやては、スクライアの反応を惚れた腫れたで言い表したいのだろうが。きっかけがなさすぎる。そう考えるには、状況的に難しいだろう。

 むしろ惚れた腫れたで言えば、一番怪しいのはなのはだ。スクライアはなのはと一緒に生活をしている。オレの知らないところで、そうなるきっかけが発生する可能性は高いはずだ。

 とはいえ、はやての説の可能性もゼロではないだろう。その場合、オレはスクライアをしっかり振ってやらないとならないのか。……面倒だな。この低確率を引かないことを祈ろう。

 しかし……なんだこの思考は。はやてから振られた話題だが、恋愛脳の思考じゃないか。年頃の女子か。……そういえば年頃の女子だったな、オレは。時々自分の年代が怪しくなる。

 恋愛云々は置いておいて、単純に「自分達には契約以外の関係性がなかった」と気付いたとかの可能性はあるか。

 彼は事件に関わったオレ以外の人間と事務的な関係以外で繋がりを持っている。最近ではテスタロッサとも、先ほどのような会話が出来るぐらいにはなった。

 そこに来て、オレとは中期ぐらいから協力しているはずなのに、完全に契約のみの関係だ。そのことに、ひょっとしたら思うところがあるのかもしれないな。彼だって本来は同年代の少年なのだから。

 それでもやはり、オレからすると、だからどうしたという話である。オレは最初から契約のみの前提で協力を申し出たのだ。今更その前提を覆されても、困るというものだ。

 

「よしんばそうだったとして、フェレットもどきに好かれても特に嬉しくはないな。生憎ケモノ趣味はない」

「はっはー、振られちまったなぁ、ユーノ」

「僕は人間ですよぉ!? っていうかそういうことじゃないから! 人聞きの悪い事言うなよ、ガイ!」

「訂正。変態に好かれるよりはよほどマシだ」

「然りなの」

「語るまでもないね」

「ガイ君にミコちゃんあげるぐらいなら、わたしはユーノ君に任せるで。いやマジで」

「……えー。何これ、比較対象がアレってだけで、高評価なのに全然嬉しくなくなる」

「Oh...」

「この間の一件から、本当にガイ君の風当たり強いですね。本当はいい子なのに……」

「自業自得だよ、変態性が上回り過ぎだ。それとも、ブランはアレ、いるかい?」

「……あはは、遠慮します」

「ソワレ、おかわり、する!」

「わらわもじゃー!」

「チビッ子達は元気だな。俺が装って来よう」

 

 とりあえず、ワイドエクスプロアは試してみることになった。

 

 

 

「ミコトちゃん、ちょっといいか?」

「……オレはお前と話す言葉などない」

 

 皆が帰るとき、変態が話しかけてきた。先日の一件以来、こいつと話すのも嫌になった。率直に言って気持ち悪く、控えめに言ってキモチワルイ。

 だが、本気で睨み付けてやっても彼は苦笑するのみ。……どうやら今は真面目モードのようだ。

 

「誰かに聞かれるとまずいことなのか?」

「そうでもないんだけど、頭おかしいと思われるかもしれないからな。それはちょっと困る」

「お前の場合今更だと思うが」

「方向性の問題だよ。変態って言われんのは別にいいけど、狂人って思われんのは辛いからな」

 

 変態と思われることも少しは構え。お前の被害にあっている全女性を代表して言うが、本当に気持ち悪くて嫌なんだからな。

 ……まあ、今の本筋はそこではないようだしな。少なくとも彼は、普通の人に聞かれたら頭がおかしいと思われるようなことを話そうとしているらしい。

 いいだろう、聞いてやろうじゃないか。

 

「それで、何だ? もし襲ってくるようなら悲鳴を上げるからな」

「それはそれで聞いてみた……冗談だよ。俺にそういう趣味はない。そういうのは両者の合意があってこそだろ」

 

 いいから、さっさと話せ。

 オレが無理矢理話題を戻すと、少年はしばし逡巡した様子を見せた。話そうとはしたものの、中々決心がつかないらしい。さっきの阿呆な冗談もそのせいか。

 だが、話さなければオレを呼び出した意味はない。彼は意を決し、口を開く。

 

「ミコトちゃんってさ。……死者の蘇生とか、出来る?」

「……お前、本当に頭が……」

「ってなるよね!? だから言い辛かったんだよ!」

 

 ああ、これは確かに普通の奴に聞かれたら「こいつ頭大丈夫か?」って思われる内容だ。しかも変態的な意味ではなく、正気を失ってる的な意味だ。

 死者蘇生。古来から人類が挑戦し、失敗し、不可能と結論付けられた技術。否、これこそまさに"魔法"だろう。いっそのこと存在し得ないということで、"神の奇跡"と言ってもいいかもしれない。

 そもそも死とは何か。生命活動が止まること。生物体を構成する細胞組織の主要部分が、再起動不能になること。再起動不能なものを再起動しようとするのだから、無茶な話である。

 壊れた機械を直す際に、壊れたパーツそのものを完全に直すことが出来るだろうか。答えは否。たとえ修理しようが、それは修理されただけのパーツであり、壊れる前には戻らない。

 それが起動不能に陥ってしまえば、もうパーツ交換しかなくなる。一応生命でもこれにあたる技術は存在する。臓器移植という奴だ。

 だが死によって主要臓器――脳が機能を停止し、その部分を他から移植して再起動できたとして、果たしてそれを死者蘇生と呼べるだろうか? オレは自信を持って否と答える。

 ならば死者蘇生は、一度停止した脳を再起動する方法しかない。細胞の停止によるネクローシスで破壊された細胞組織を破壊直前の元通りに復元し、生命活動を再開させるしかない。

 既存の生命工学でこれが出来ているならば、世界はとっくに死を克服しているだろう。そうではないのだから、死者蘇生は無理なのだ。それこそ、管理世界の魔法でも。

 さらに、これが出来ても「失われた連続性」は帰って来ない。その脳は一度「終了」しているのだ。パーソナリティが失われている。だから再起動したところで、そこにあるのは「新しい生命」だ。

 だから、オレはこう答える。

 

「無理だ。お前はきっと「コマンド」を期待してそう聞いたんだろうが、そこまでファンタジーな"魔法"じゃない。これにだって、出来ることと出来ないことの範囲がある」

 

 出来ないから、召喚体を作っているのだ。「コマンド」だけでははやての足を治せないから。

 オレの答えに、藤原凱は「そうだよなぁ」と苦笑した。ダメで元々だったか。

 

「生き返らせたい犬猫でもいるのか?」

「そこで人間って聞かないところが、ミコトちゃん優しいよな」

「いや、単にお前にそんなシリアスは似合わないと思ってな」

「はは、違えねえや。まあ、俺には今のところ死んだ知り合いもペットもいない。俺自身は、死者蘇生なんて奇跡にすがる予定はない」

 

 なるほど。つまりは、だ。

 

「今後、そういう人物が現れる可能性がある、ということか」

「……ほんとミコトちゃんって察しがいいよな。例によって、詳しいことは話せないんだけどな。必要になるかどうかも確証はない」

「そういう話だったからな。期待に沿えなくてすまなかった」

「いいって。多分、死者蘇生なんてものは必要ないってことなんだろ」

 

 ふむ。それはどういうことだ?

 

「死者蘇生がなかったら人は幸せになれないってんなら、世の中不幸しかないだろ。人はいつか必ず死ぬんだから」

「確かにな。だが、親しい人が死ねば、一時的に不幸にはなるだろう。乗り越えられるかはその人物次第だ」

「つまりは、そういうことだろ。もし俺の言った通りになったとしても、乗り越えてもらえばいいんだから」

 

 その通りではある。だが、本気で死者蘇生を求めるほど狂った人間が、果たして現実に立ち向かえるだろうか。

 

「そこは、周りの働き次第だと思う。周りの人たちが、その人が必要としてる支えになってやれれば、転落する前なら何とかなる」

「つまり……説得か」

「そういうことだなぁ」

 

 もう藤原凱もこちらがそれが誰なのかを察していることを分かっていて、あえて何も言わないようだ。「言えない」という話だから、こちらも詮索する気はない。

 "彼女"が誰を生き返らせたいのかは分からない。それが正しいかも分からない。だが、考えておく必要はありそうだ。このおふざけを愛する変態が、真面目な藤原凱として話してくれたのだから。……癪な話だ。

 

「分かった。情報提供感謝する」

「すんげぇ曖昧で不確実な情報しか渡せなかったけどな。……あ、感謝するってことなら、一つお願い聞いてもらいたいんだけど」

「あまり変なお願いは聞けないぞ。情報分だけだ」

「分かってるって。言葉だけでいいから」

 

 まあ、それなら。そう答えると、藤原凱は満面の笑みでこう言った。

 

「罵ってください!」

「……」

 

 オレの左拳が、変態の鼻っ面をブチ抜いていた。変態は満足そうに帰って行った。

 本当にあの変態は意味が分からん。分かりたくもないが。

 

 

 

 

 

 翌日の早朝。本日から連休開始であり、学生組もジュエルシード探索に本腰を入れることが出来るようになる。

 テスタロッサの提案も、これを見越してのことだろう。恐らく彼女は、この連休中に全ての片を付けるつもりでいる。

 今オレ達は、テスタロッサが借りているマンションの屋上に出て、バルディッシュを構えた彼女の後ろで見守っている。

 昨日言っていたワイドエクスプロアを試すために、高度のある開けた場所に出てきたのだ。

 この場にいるのは、オレ、ソワレ、ミステール(ブレスレットとして装備中)、なのは、恭也氏、変態。テスタロッサと彼女の補助をするスクライアとアルフ。

 スクライアの話では、今回使うワイドエクスプロアは、通常の倍以上の魔力を消費するらしい。放射する魔力波動に復路分のエネルギーを持たせなければならず、また自動反射のプログラム分もある。

 そもそもワイドエクスプロアは、元々かなりの魔力を消費する魔法だそうだ。単位面積あたりのエネルギー量は少なくとも、全方位数kmに渡って放射しなければならないのだ。総量にすれば相当だろう。

 その消費をテスタロッサ一人に負担させると、後々の回収作業に支障が出るかもしれない。そこで、彼女の使い魔であるアルフと、補助魔法を得手とするスクライアが協力することになった。

 なお、なのはは勉強不足で手を貸す方法が分からないため、変態は防御魔法と結界以外何もできないため、それぞれ協力出来ない。付け焼刃が露呈した瞬間であった。

 

「……よし。こんな感じで大丈夫かな」

「本当にこれでいいの? これだと、ユーノの負担が大きくなっちゃう。キミはこの世界の魔力要素が体に合わないのに、悪いよ」

「いいんだ。封印の段階になったら、僕が出来ることなんてほとんどない。防御と結界に関しては、有能だけど変態なバカ弟子がいる。補助と遊撃だったら、キミの使い魔がいる。ここが僕の正念場なんだ」

 

 話から察するに、テスタロッサの負担を少しでも軽減しようと、スクライアが相当量の魔力を提供するつもりらしい。

 だが、先日の会談でも聞いていた通り、彼の今の姿というのは省エネのためのものだ。ここで多量の魔力を消耗すれば、その後は使い物にならないだろう。

 答えを求めるかのように、テスタロッサがオレをチラリと見た。どうにも、本格的にオレがリーダーだと思われてしまっているみたいだな。しかも全員から。

 

「スクライアの判断は正しい。テスタロッサ、君が恭也氏に次ぐ戦力であることは、君自身も理解しているはずだ。ジュエルシード封印という意味で考えれば一番だ」

「はは……あたしはいまだに、魔導師じゃない恭也さんがこの中で最強ってのが意味わかんないよ。管理世界の常識何処行った」

 

 アルフは先日スクライアが通った道を進んでいるようだ。その先に悟りの境地があるのだろう。スクライアはそんな感じの表情だった。

 

「テスタロッサとなのはは、出来る限り万全の状態でジュエルシード封印に当たらなければならない。それに比べればスクライア自身の優先度は下だし、事実彼はそう判断した」

「……ありがとうございます、ミコトさん。僕の意志を尊重してくれて」

「客観的な判断として間違っていなかったというだけのことだ。オレへの感謝ではなく、冷静に判断出来た自分を褒めてやれ」

「それでも、感謝です。僕は、あなたと出会えて、あなたという素晴らしいリーダーの下で行動出来て、本当によかった」

 

 だからオレをリーダーに祭り上げるな、クライアント。周りも周りで納得した空気を出してるんじゃない。

 

「死亡フラグを立てるのはその辺にしておけ。魔法行使後に魔力切れでポックリとか、冗談にしても笑えない」

「……あはは、そうですね。もしかしたら、今日で全部集められてしまうかもしれない。これで終わりかと思ったら、つい」

「そ、っか。今日で、ジュエルシードが全部集まるかもしれないんだね……」

 

 なのはも気付いたようにつぶやき、少し寂しげに俯いた。そうなれば、オレ達と行動を共にするのは、今日で最後だ。オレにはその後テスタロッサ親との交渉という仕事があるが、なのはには関係がない。

 彼女の感傷は、オレには分からない。これを終えてオレが感じることは、一仕事終えた後の脱力と、次への意気込みの二つだけだろう。オレには相変わらず、「寂しい」という感覚が分からない。

 だから、彼女と同じ気持ちを共有することは出来ないし、気を使うことも出来ない。いつも通り振る舞うだけだ。

 

「そういうのを、取らぬ狸の皮算用と言うんだ。反省も感傷も、全部終わるまで取っておけ。それが原因でミスされたんじゃ目も当てられない」

「……ははっ、確かに! ちゃんと集中します!」

「やっぱりミコトちゃんには、まだまだ敵わないなぁ。なのはももっと頑張らないと!」

「あまり根を詰めるなよ、なのは。……本当に、お前はリーダーの器だよ、ミコト」

「ですよねー。これ終わったら、冗談じゃなくてマジでアタックしよっかな。俺の女王様になってください!って」

 

 変態が何か言っているので、無言で距離を取った。ハーレム思考でドM。救えないな。

 誰からも構ってもらえなかった変態はひどく落ち込んだが、オレの知ったことではなかった。

 

 そして、テスタロッサが魔法の言葉を紡ぐ。

 

「アルカス・クルタス・エイギアス。彼方まで探れ、災厄の根源を」

『Wide explore EX.』

 

 彼女の展開した黄金色の魔法陣が強く輝き、目に見えない波動が解き放たれた。近くにいたからか、魔力を感じられないオレでも、何かが通り過ぎたのを感じ取ることが出来た。

 テスタロッサは目を閉じたまま。戻ってきた魔力波動から、ジュエルシードに吸収されて空白になった部分を絶対に見落とさないように集中している。

 待った時間は、それほど長くなかった。30秒かそこら。それで数kmを探索し終えるというのだから、何とも便利な魔法だ。

 テスタロッサが目を開ける。何かが戻ってきた感覚はしなかったから、減衰しきってオレには感じ取れないレベルだったのだろう。

 彼女の魔力消費の大半を肩代わりしていたスクライアが、ガクリと崩れる。なのはが慌てて駆け寄った。意識ははっきりしているようなので、命に別状はない程度だろう。

 

「……皆、大変だ」

 

 と。テスタロッサが険のある声色で、少なからぬ震えを交えて事実を告げた。

 

「ジュエルシード二つが接近してる。早く封印して回収しないと、まずい」

「……なんだと?」

 

 彼女の言葉を正しく理解し、オレも内心に波を立てる。変態も理解したのか表情を強張らせ、恭也氏は空気から察して張りつめる。

 唯一分かっていなかったのはなのはのみ。だが、悠長に説明している時間もない。

 

「方角は?」

「あっち……海鳴臨海公園の方。消滅角度の大きさから考えて、多分距離もそのぐらい。……走って行く時間はないね」

「ああ、緊急事態だ」

「え? え??」

 

 バリアジャケットを展開するテスタロッサ。ソワレを身に纏い、エールを顕現させるオレ。なのはだけ、いまだに理解が追い付いていない。

 

「説明は急行しながらだ。なのは、とにかくデバイスとバリアジャケットを展開しろ」

「あ、は、はい! レイジングハート!」

『All right.』

 

 オレに言われてすぐに反応できたのは僥倖だったか。……何か、オレの言うことだったら疑問を持たずに従いそうで怖い。この少女の今後が若干不安になった。

 

「アルフ。藤原凱を転送魔法で運んでやれ。恭也氏は、申し訳ないが自力でたどりついていただきたい」

「……あたしじゃ、自分以外は人一人が限界だからね。分かった。ユーノはどうするんだい?」

「しばらくここに置いて、回復したら自分の転送魔法で来させる。今は彼に構っている余裕はない」

「はあ、はあっ……そう、だよ。僕のことより……この世界の、危機だっ……」

 

 そう。今のこの状況は、まさにこの世界の存続の危機と言って過言ではなかった。

 

 ジュエルシードの作用機序。それは、オレが以前に説明した通りだ。魔力を用いて力任せに分岐の壁をこじ開け、結果という事象のみを引き寄せる。それによって願いを叶えようとする宝石だ。

 何故「叶える」ではなく「叶えようとする」なのかというと、単純にこの方法で実現するには、ジュエルシードが持つ力が全く足りないのだ。

 まず、分岐の壁とはそう簡単にこじ開けられるものではない。時間の流れに逆らえないのと同じように、可能性の断崖を超えることは通常ではありえない。

 それを、力任せに世界に穴をあけることで実現しているのだ。とはいえ、ジュエルシードの力をもってして開けられるのは、ほんの小さな小さな穴程度だ。原子のやりとりすら出来るレベルではない。

 だから結果のみを引き寄せるという形なのだろうが、これにも問題がある。分岐世界間の距離だ。遠い結果を呼び寄せるためには相応の力がいるが、ジュエルシードの力は穴をあけるので尽きている。

 せいぜいが出来て、ほんの隣の結果を呼び寄せる程度。しかも作動の魔力で周囲に影響を与えまくるものだから、結果が正しくトレースされるとも限らない。

 "願望機"という見方においては、所詮「叶えようとする欠陥品」程度のものでしかないのだ。

 ちなみに、ジュエルシードの暴走体というのは、この魔力が周囲に影響を与えただけのものだ。トレースするための結果がないのに、適当に結果をトレースした結果、という感じか。

 

 さて、ここで今回のケースだ。二つの異なるジュエルシードが、未封印の状態で接近している。これの何がまずいかと言うと、結論から言うと「次元震発生の可能性が高い」ことだ。

 ジュエルシード一つ一つが世界に干渉出来る内容そのものはそれほど大きくないが、それでも「可能性に干渉している」という事実がある。そこで問題になってくるのが、「二つの異なる可能性のベクトル」だ。

 ジュエルシードの一つがある願いを叶えようとする。それとは別に、もう一つのジュエルシードは他の方向性で可能性に干渉する。

 そうなると、二つの別ベクトルに引っ張られた可能性は、歪む。これが曲者だ。可能性の歪みは、それ自体が小さくても、周囲に与える影響が半端ではない。

 一枚の紙を、中央のわずかな部分だけでもクシャッとすると、全体に歪みが広がる。そんなイメージだ。そして歪みは、「次元空間の震動」という形で顕現する。

 次元震は「次元断層」の発生要因だ。これが発生した場合、もう為す術はない。周辺の世界は引き裂かれ、存在を持続できず、崩壊する。まさに破り捨てられた絵のようになるというわけだ。

 もちろん次元震=次元断層と安易に結びつけることは出来ないが、それでも可能性が0でない以上、これは危機的状況なのだ。

 

 加えて、今回はワイドエクスプロアの魔力波動によって、ほんのわずかとはいえジュエルシードを刺激している。予断が許される状況ではない。

 空を行きながら、ミステールの念話共有によって現状の危機を伝達する。隣を飛ぶなのはの顔色が、あからさまに青くなった。

 

「た、大変なの!」

「だからそう言っている。そのためにテスタロッサを先行させた」

 

 なのはの飛翔速度は、オレと――ソワレ+エールと同程度だった。当然、テスタロッサの本気に比べて圧倒的に遅い。

 だからより詳しい場所を知る彼女を先に行かせ、捜索に当たらせた。……だが、彼女の言葉から考えて、何らかの生物が運んでいる可能性が高い。今なお移動しているかもしれない。

 やはり人手は必要なのだ。呑気に茶を飲んでる場合じゃない。

 

「スーパーが開く前だったのが痛すぎるな……」

 

 何を阿呆なことをと思うかもしれないが、これのせいでオレの探索能力が格段に落ちてしまっているのだ。つまり、もやしアーミーのための素体がない。

 買い置きをしておけば違ったのだろうが、もやしアーミーの素体は、使い終わったらちゃんと食卓に並べている。あまり鮮度を落とすことは出来ない。

 だから今日もスーパーが開いてから買おうと思っていたのだが……見通しが甘かった。万全を期すならば、昨日のうちに購入しておくんだった。

 

「恐らく、スクライアを除けばオレ達の到着が一番遅い。念話は聞き洩らさないようにしろ」

「え……お兄ちゃんよりも?」

「……君の兄は、鳥よりも速く走れる人間だったよ」

 

 というか、多分テスタロッサより速い。人外剣士にも程があるだろ、御神流。

 オレの告げた非情な現実に、なのはは「わたしの家族って……」と項垂れた。

 

 

 

 

 

 予想通り、オレ達が臨海公園に辿り着いたのは、恭也氏が到着して少ししてのことだった。なのははやはり落ち込んだが、今はそんなことをしている場合ではないので、散会して探索を開始した。

 臨海公園と一口に言っても、かなりの面積がある。海鳴の海岸線に沿って作られた巨大な公園で、遊歩道や防風林がそこかしこにある。複数人で同じところを探していたら目も当てられない。

 だから、念話共有を使って、他とかぶらないところを探す。特に気を付けるべきなのは、野良猫と鳥だ。

 早朝ということもあって、やはり人通りは全くない。だからこそオレ達も空から来るという選択肢を選べたのだが。

 となれば、ジュエルシードを移動させたのは人ではなく動物。海鳴に野犬はいないので、ネコか鳥が物珍しさにくわえてしまったのだろう。

 一応、どこかの地面に落としている可能性もあるので、怪しいネコを探すついでには見ているが。そんな簡単に見つかると楽観視はしていない。

 

「……如何に普段もやし達に頼っていたかがよく分かるな」

『ソワレ、もやし、すき』

『彼奴らはそのための存在であろ。とはいえ、今はないものねだりをしている状況ではないぞ』

「分かっている。ミステールが魔力を感知できればな……出来ないのか?」

『……そういう発想はもう少し早く持ってもらいたかったぞ、主殿』

『気付かなかったミステールちゃんも人のことは言えないよ』

 

 つまり、因果さえ組めば出来るというわけだ。まさに盲点だった。「オレには魔力を感じる術がないから」と、もやしアーミーに頼り過ぎた結果がこれだ。

 ミステールの理解力は悪くないが、特別良いわけでもない。この切羽詰った状況下で、新しく魔力を感じ取る因果を成立させろと言っても、混乱するだけだ。念話共有の維持も出来なくなる。

 

「それこそないものねだりというやつだ。目視で探す。協力してくれ、エール、ソワレ、ミステール」

『うん! ソワレ、ミコトの、ちからになる!』

『それが我らの存在理由故。のう、長兄殿』

『そうさ! 今更わざわざ言う必要もないことでしょ、ミコトちゃん!』

 

 ……本当に、どうしてオレみたいな奴から、こんなに親思いな子達が生まれたんだろうな。ちょっと胸が熱くなったぞ。

 召喚体達からの応援を受け、気を取り直して空を見る。

 

 その瞬間。視界の真ん中を、青く光る宝石をくわえた一羽の鴉が横切るところだった。

 

「ッッッ! 見つけたっ! ソワレ、エール!」

『うん。エルソワール』

『飛ばすよっ!』

 

 オレらしくもなく、歓喜の声を上げて空を飛ぶ。ソワレの翼でエールの風を受け、オレはジュエルシードをくわえる鴉の後を追った。

 もちろん、念話も忘れない。

 

≪ミコトだ。現在ジュエルシードをくわえた鴉を追跡中。場所は公園東の防砂林スタート。至急援護を頼む≫

 

 オレの飛翔速度は鳥と同程度。目の前の鴉に追いつくことは出来ない。そしてオレの射撃の腕では、この状況では乱数が多すぎて、当てることが出来ない。

 それこそ鴉の逃げ場がないほどの面攻撃で風圧弾を撃てれば違うだろうが、エールにそれほどの力はない。というかエールは現在飛翔制御に全力を注いでおり、他のことは出来ない。

 ソワレなら面攻撃も出来るだろうが、溜めに時間がかかる。その間に逃げられることは想像に難くない。やはりオレ一人では、出来ることはそう多くないのだ。

 念話に真っ先に反応したのは、テスタロッサ。

 

≪こちらフェイト。ミコトの現場に急行します。少なくとも一つ封印出来れば、次元震は抑えられる≫

 

 助かる。空中戦で彼女が来てくれるなら、もうこのジュエルシードは封印出来たも同然。少しの安堵が胸中に生まれる。

 

 次いで、なのはから念話が入り――事態は急転直下となった。

 

≪なのはです! こっちもジュエルシードをくわえてるネコさんが……にゃあああ!? ミコトちゃんなんでこっちに!?≫

「なんだとッ!?」

 

 鴉から視線をさらに向こうにやると、なのはがこちらを見て驚愕の表情をしていた。そして彼女の体が向く方向には、ジュエルシードをくわえたネコの姿。

 どういうわけか、鴉はネコの方向に一直線に向かっていた。……そういうことか! 鳥風情のくせに強欲な奴め!

 内心で舌打ちをする。光物に目を奪われた黒い鳥は、二つともを回収するつもりだ。それがどんな事態を引き起こすかも分からずに。

 なのはの封印は間に合わない。どんなに急いでも、彼女が再起動して封印を開始する前に、鴉はネコからジュエルシードを奪う。

 テスタロッサは、今ようやく視界に現れた。だが彼女の速度をもっても、事が起こる前に辿り着くことは不可能だ。それは射撃魔法でも同じこと。

 オレは、たとえ今から狙いをネコに変更したところで、鴉に後れを取る。「夜想曲の弾丸」をネコに当てられたところで、ジュエルシードは鴉に回収されるだろう。

 万策尽きていた。オレ達に出来ることは、鴉が回収してからジュエルシード発動までにタイムラグがあること、そして発動したとしても次元震が発生しないことを祈るしかなかった。

 

 そして。

 

 

 

「にゃっ!?」

「ッ! これは!」

「バインド!? 誰がっ!」

 

 唐突に、オレ達三人は動きを止められた。空間に出現した水色のリングによって。

 それとほぼ同時に、上空から水色の帯が伸びて来て、ネコと鴉がそれぞれくわえたジュエルシードを包み込む。驚いた二匹の動物は、くわえていたものを離して何処かへ逃げて行ってしまった。

 帯――何者かによる封印魔法によって、ジュエルシードは刻印を浮かび上がらせる。II(2)とVIII(8)。それは、なのはやテスタロッサとは比べ物にならないほど滑らかな封印魔法だった。

 封印された二つの宝石は、まるで主に従うかのように、上空にいる何者かの元へと浮かんでいき。

 

「ここは管理外世界だ。管理外世界での魔法の使用は禁止されている」

 

 朗々たる少年の声が響いた。幼い、まだ声変わりをしていない少年の声でありながら、何処か厳かな雰囲気を持っていた。

 ――それはもしかしたら、彼が持つ肩書き故の、責任感が生み出したものなのかもしれない。

 浮かんでいたのは、黒のバリアジャケット――アーマースーツと言った方がいいかもしれない――を着込んだ、短い黒髪の少年。年の頃は同じぐらいか。

 手にはデバイス。黒い天使を思わせる意匠の、機械的な魔法の杖。

 

「僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウン。君達には違法な魔法使用、及びロストロギア不法所持の嫌疑がかけられている。次元空間航行船「アースラ」まで、御同行願いたい」

 

 それが、彼の正体だった。

 ――テスタロッサの時といい今回といい、どうにもオレは、管理世界の連中との最初の出会いは、最悪な形になるジンクスがあるらしい。




あんまり進まなかった話。いや裏では結構動いてるんですよ。ジュエルシードも残すところ海中に眠るやつのみになりましたし。
クロ助が現れましたが、ふぅちゃんとアルフが逃げることはありません。だって必要ないですし。悪いことしてないもん(但し無断渡航の件は除く)
封印シーンだけでクロ助の圧倒的っぷりを表現出来たので僕、満足!!

次元震がなかったのに何故クロノがここにいるのか? 後々説明されると思いますが、実はかなりの偶然です。原作と比較すると、時期的には一週間程度のずれがあります。
ですがこの先のジュエルシードを回収するのは、はっきり言ってミコト達だけでは困難です。なので、ある種のご都合展開(ミコトにとって非常に都合が悪い的な意味で)です。
以前のあとがきで説明した通り、彼奴らの登場によって協定の前提条件は破綻するし、コマンドは根掘り葉掘り聞かれるしで散々な目にあうでしょう。酷い目にあうミコトちゃん可愛い(マジキチ)

しかしミコトの立ち位置が完全に指揮官になってる……。どうしてこうなった。

冒頭でちょろっと出てあっさり封印された暴走体のモデルは、仮面機械獣「ゴート」です。あとはグヨーグを出さなきゃ(使命感)
オドルワ? ああ、オドレンワのことね(ィイヤァーッホィッ!!)

ミコトちゃんのちょいちょい女の子らしい面を描けて僕、満足!!(総括)

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