不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
<< 前の話 次の話 >>

21 / 74
今回の前半部分は「Re_Birth II - ラストバトル (ロマンシング サガ3)」でお楽しみいただくと、より臨場感を味わえるかもしれません。

2016/10/08 誤字報告をいただきましたので修正。
檄励→激励 (何故こんな誤字をしたのか)私にも分からん。
須らくオレには関係のないことだ→尽くオレには関係のないことだ
詳しくは前の話のまえがき参照。


十六話 終焉 その二

 思い返して頭に浮かぶ言葉は、「どうしてこうなった」の一言に尽きる。どうしてこう何もかも人の立てたロードマップを破壊しにかかるのか。

 オレとしては、スクライア達の回収に協力して、最低4つを入手できてはやての足を治す手がかりを手に入れられれば、それで十分だったのだ。

 それが最初に崩れたのは、テスタロッサの介入。彼女との対立関係により、オレは「戦闘」を意識することを余儀なくされた。

 自分自身に戦う力がないことなど、誰よりも自分が分かっている。いや、力を行使するだけなら出来るだろう。何の力もない人よりは戦える。だが、それだけでしかない。

 だからそのために召喚体作りで少し寄り道をする羽目になり……それ自体はよかったと思っている。おかげでオレとはやてには可愛い娘が出来た。後悔はしていない。

 そうしていざと思ったら、今度は彼女が「戦いたくない」だ。彼女の使い魔から告げられたときは、オレも「なんだそれは」と思わざるを得なかった。

 だが、それもこちらにメリットのないことではなかった。不要な戦闘を避けるに越したことはないし、テスタロッサと協力関係を結べれば、回収が捗ることは間違いなかった。

 最初のロードマップから考えれば遅々として進まなかった本来の召喚体作りがやっと一歩前に進んだと思ったら、お次は時空管理局の登場。「今更か」と「管理外世界云々はどうした」と内心で突っ込みを入れた。

 もっとも、彼らの目的はジュエルシードなどではなく、大元の事件の解決の方だったので、すぐに納得はした。が、状況がまとまりかけているところでかき回されたくはなかったので、釘を刺すだけは刺した。

 ――ロストロギアの譲渡に関しては後々追及されるかもしれないが、スクライアとの正式な取引である。彼らに口出しをされるいわれはないので、その辺は彼に対応を丸投げしようと思っている。

 そしてラストスパートだと思ったその日のうちに、事件の黒幕まで動き出してしまった。顔にも言葉にも出なかったが、「ふざけるな」という呆れにも似た思いが湧いた。

 それでもそれでも、何とかして状況の維持と最後のジュエルシード回収にはこぎつけたのだ。着替えを見られたのは本当に嫌だったが、ぐっとこらえて取引材料に出来た自分を褒めてやりたい。

 

 で、この状況だ。オレは余程管理世界に嫌われているのだろう。ほんの触りしか関わっていないのに、逆風が強すぎて嫌気がさしてくる。

 現在目の前には、5つのジュエルシード全てが同時に発動し、暴走している状況が作り上げた天変地異が映し出されていた。映像を撮れば「世界最後の日」とかタイトルを付けられそうだ。

 幸いにして、発動体ではなく暴走体であるため次元震発生の心配はない。もし5つのジュエルシードが共鳴発動なんぞした日には、次元震が発生するまでもなく、可能性が引き破られて断層になっていたかもしれない。

 だが、厄介なことに変わりはない。これは、いつぞやの温泉旅館近くの山で戦った暴走体(強)と同じレベルだ。それも、5つ全てだ。

 まあ当然だ。スクライアの分析では、何故あのときの暴走体がやたら強かったのかと言えば、周囲に魔力要素を吸収する存在がなかったために「独り占め」できたからだ。人里離れた環境が悪かったのだとか。

 今回のジュエルシードは、人の手の届かない海底で眠っていたのだ。魔力の溜まり方で言えば、はっきり言って前回以上だろう。

 動物や幻獣の形ではなく、天災という形をトレースしたジュエルシード暴走体。言うまでもなく、これまでの暴走体よりもはるかに対処しにくい。

 獣害は原因を排除することで被害を防ぐことが出来るものだが、天災はどんなに小さかろうが身を守ることでしか対処できないものだ。

 

「やるぞ、ソワレ」

『うん。バール・ノクテュルヌ』

 

 「夜想曲の弾丸」を放ち、竜巻にぶつける。……が、それらは着弾の効果を発揮する前に竜巻の上昇気流に巻き上げられ、細かな粒となって虚空に消える。

 代わりと言うか、今の攻撃に反応して竜巻が雷を帯びて周囲を薙ぎ払う。危険を察知して距離をとったが、正解だったようだ。

 

「やはりと言うべきか、竜巻そのものをどうにかするのは無理だな。根本を叩かなければ。……スクライア!」

「はいっ! プロテクション!」

 

 全方位を防御するバリアで、竜巻から放たれた颶風を防ぐ。飛行魔法で飛んでる連中ならともかく、気流操作で飛んでるオレが喰らったら墜落必至だ。

 背中の側で変態もとい藤原凱と組んで対処しているハラオウン執務官に向け、念話で情報を共有する。

 

≪オレの攻撃力では歯が立たん。下手に刺激するだけに終わった。やるなら、一撃で仕留めるつもりで行け≫

≪簡単に言ってくれるな。僕も、そういうパワーバカな戦い方は得意じゃないんだが≫

 

 なのはがこの場にいないのが痛いな。彼女の砲撃力なら、あの竜巻の防壁を抜いてジュエルシード本体を狙い撃つことも出来ただろうに。ないものねだりをしても仕方がない。

 それに彼女の場合、本当に砲撃しかない。戦闘技能に関してはある意味オレ以下だ。こんな鉄火場に立たせるのは、酷が過ぎるというものだろう。

 オレ達の念話は、ミステールを使った念話共有で行っている。つまり、この場にいる全員が参加可能だ。

 

≪あれならどうだ? ソワ……ミコトちゃんの、「ル・クルセイユ・エクスプロージオン」だっけ≫

 

 藤原凱からもっともな意見。先にハラオウン執務官にも言ったオレの――正しくはソワレの攻撃手段の一つ、「爆発する棺」。「時間のかかり過ぎる一撃必殺」だった。

 だが、それを実行するには巨大な問題がある。

 

≪あのうねっている竜巻の動きを止められるなら、試してみてもいいが≫

≪……デスヨネー≫

 

 竜巻ということは渦を巻いている気流だ。気流が一所に留まっているわけがない。海水と魔力を多量に含んでいるそれらは、暴れるようにあちこち動き回っている。まさに「暴走」というわけだ。

 「爆発する棺」の最大の欠点は、ため時間の長さと、最初に指定した座標の変更が不可能なことだ。やっていることが「夜」を作り出して押し潰しているのだから、変更できるわけがない。

 と。オレの隣でシールドを張り続けているスクライアから提案があった。

 

≪僕が動きを止めてみます。試してもらえませんか≫

≪……本気か? 分かっていると思うが、発動待機中はオレは身動きが取れない。お前は足場の維持とシールドと、さらには拘束まで同時にこなさなければならない。魔力要素が体に合わないこの世界で、だ≫

 

 クリアしなければならない問題点が多すぎる。それだけの負担に、病み上がりの彼が耐えきれるだろうか。

 無論彼一人で全てをクリアする必要はなく、ハラオウン執務官と藤原凱にこっちに来てもらうという方法も考えられる。だが、不測の事態――たとえば空間跳躍攻撃――に備えて、戦力は分散していた方がいい。

 それでも彼は、意志を強く持ち、頷いた。

 

≪やらせてください。失敗したら、僕のことは見捨てて構いません。覚悟はあります≫

≪どうやら本気のようだな。分かった、任せる≫

≪……やれやれ。僕の立場なら、本来はそんな無茶をするなと言うべきなんだろうがな。大した指揮官だ、君は≫

 

 それはどういう意味なのかと問いたいところだが、今はそんなことをしている場合でもないな。

 スクライアのプロテクションの中から、タイミングを測る。失敗したら見捨てるとは言え、極力その事態は避けたい。彼の負担は、なるべく減らさなければならない。

 だから、拘束と同時に発動準備に入る。だから全ての思考を、その一瞬を見極めるために働かせた。

 

「……ここだ、チェーンバインド!」

『ル・クルセイユ』

 

 ドンピシャ。巨大な鎖状の魔力が何本も飛び出し、一本の竜巻を縛り上げると同時、ソワレへの指示が通じる。竜巻に向けて、黒い夜の粒子が集まり始めた。

 当然、暴走体はただ縛られているだけではいてくれない。電撃、突風、弾丸のような雨粒。それらがプロテクションの表面に突き刺さり、魔法陣を揺らす。

 ……大した技量だ。あれだけ大量のバインドを維持しながら、防御は一切揺るがず。そして、竜巻を何処へも逃がさないように制御し続けている。

 攻撃力はないかもしれない。だが彼の戦闘能力は、間違いなくオレよりもずっと高かった。そういえば彼は結界の維持もやっていたな。

 さきほどのハラオウン執務官ではないが。

 

「大した奴だよ、お前は」

「……へへ。ミコトさんにそう言ってもらえたなら、無茶をしたかいがありましたよ!」

 

 本当にお前はオレへの評価が無駄に高いな。オレは自分の都合で行動しているだけだというのに。

 まあ、今は捨て置くか。それでモチベーションが上がってくれるなら、それに越したことはない。今やるべきことは、たった一つ。

 

「ハラオウン執務官!」

『エクスプロージオン』

「ジュエルシード・シリアル15、封印!」

 

 展開された夜が竜巻を押し潰し、内側に隠されていたジュエルシードを弾き飛ばす。同時、ハラオウン執務官が封印魔法を行使、凄まじい速度で伸びた水色の帯がそれを絡め取る。

 まず一つ。この調子で、残り4つのジュエルシードを全て封印する! ……と行きたいところだが。

 

「余力はあるか、スクライア」

「はあっ、はあっ……! ぐっ、まだ行ける、とは、ミコトさんには、とても言えませんね……っ」

 

 言ったところで無理なのは目に見えているからな。……仕方がない。

 

「しっかり掴まれ、スクライア」

「……えっ!? あ、ミコトさんっ!?」

 

 彼の右腕を首にかけ、肩を貸す要領で抱え上げる。何やらスクライアが顔を紅潮させているが、今はそんなことを気にしている場合ではないのだ。

 エールの風を起動し、魔法陣から足を離す。オレとスクライアの体は、風に乗って宙を舞った。

 

≪ハラオウン執務官。スクライアが回復するまで、こちらは回避に徹する。そちらはそちらで何とかしてくれ≫

≪大丈夫なのか?≫

≪次元跳躍攻撃の脅威がなくなったわけじゃない。無闇に合流するより、こちらの方がベターだ。むしろこちらの心配をするなら、暴走体の相手に集中してくれ≫

 

 彼らが暴走体を止めてくれるなら、こちらへ向かってくる脅威もそれだけ減るのだ。

 ハラオウン執務官から了解の意が返って来る。ちゃんと作戦を割り切ってくれて何よりだ。

 

≪ヒューッ。ミコトちゃんに肩貸してもらえるなんて、役得だねぇユーノ≫

≪ううううううるさいっ! 茶化してる暇があったら、目の前に集中しるよ、バカ弟子っ!≫

 

 念話で誤字るとは器用な真似をする。そんな色気がある状況だとも思えないんだがな。

 ……しかし、あれだな。近くで見ても本当に男とは思えない容姿をしている。なのはからもそうだったが、過去に女子と間違えられたことも多々あるんじゃないだろうか。

 オレが男と間違えられたのはなのはの一件のみだが、それだけでもかなりのショックだった。彼の苦労や、推して知るべし。

 

「強く生きろよ、スクライア」

「……何で僕は突然励まされたんでしょうか」

 

 さあな。

 

 

 

 オレとスクライアの連携プレーは、どうやら彼らにとっても鼓舞の意味があったようだ。

 

「ハッハー! ユーノが男の意地見せたんなら、俺もやんなきゃダメだよなァ!? 即席魔法、ディバイドシールド・改二!」

 

 藤原凱は、オレ達の前方を守護するように立ち、また形の変わった分散防御魔法を展開する。

 角錐状だったシールドの終端に「返し」が付いており、拡散の方向が前方になったようだ。恐らくは、受け流した攻撃がオレ達に届かないようにするため。

 だが、あれは構造的に無理がある魔法だ。如何にエネルギーを拡散する性質を付与していると言っても、返しの角度が急すぎる。返しの部分にかかる負荷が半端じゃないはずだ。

 それを、彼はへらへらとした笑いを崩さずに維持し続ける。この距離からでも、額から尋常じゃない汗が流れているのが分かる。それでも笑い続けた。

 

「おっほっほっほっほーッ! 元気だッ!! 闘気だけで俺を倒すことは出来んッッ!!」

「やせ我慢でも、それだけ続けられれば大したもんだ! ブレイズキャノン!」

 

 彼の意志に呼応するかのように、ハラオウン執務官が闘志を露にする。水色の砲撃魔法が、竜巻を撃ち抜いた。

 だが、止めるには至らない。逆に暴走体を刺激してしまったようで、ハラオウン執務官に向けて雷撃と風刃が襲い掛かり、彼はシールドを展開して防いだ。

 

「なーにやってんだクロノー! やるんならきっちり仕留めやがれコンチクショー!!」

「悪かったよ! ……次元跳躍攻撃に備えて温存したかったんだが、仕方ないな!」

 

 カチっと、彼の中の何かが切り替わったのが分かった。あれは、本気だ。時空管理局の執務官が、本気の殲滅に切り替えたのだ。

 その直感が正しかったことを示すかのように、彼はここまでで初めて詠唱ありの魔法を行使する。

 

「リーブラス・ジャスティス! 集え断罪の刃、咎人どもを裁くために! 慈悲深き正義の鉄槌を!」

 

 それに伴いストレージデバイス「S2U」が複雑な魔法陣を幾重にも展開する。それが広がりきると同時、彼の周囲に優に100を超す魔力の刃が生み出された。

 刃の尾部に環状の魔法陣。バーニアよろしく、青白い魔法の火を灯している。とてつもない規格の殲滅射撃魔法だった。

 そして彼は、撃鉄を下ろす。

 

「スティンガーブレイド・エクセキューションシフト! ファイア!」

 

 瞬間、刃はミサイルとなって竜巻に殺到した。着弾と同時に爆発を起こすそれらは、正しく魔法のミサイルだった。

 ……果たして破壊力は、「爆発する棺」とどちらの方が上か。改めて、彼らの使う魔法というものの戦闘適性の高さに、感心とも呆れともつかない感情を抱く。

 彼の連撃はそれだけにとどまらなかった。スティンガーブレイドを発射すると同時、既に結果は分かりきっているとばかりに封印魔法を起動していた。

 

「ジュエルシード・シリアル11、封印!」

 

 煙の中に水色の帯が伸びて、封印されたジュエルシードを掴んで戻ってくる。これで残りは3つ。

 

「ふぅ……、やはり消耗がバカにならないな。そう何度も出来る方法じゃない」

「頑張れ頑張れできるできる絶対出来る頑張れもっとやれるって! やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れ! そこで諦めんな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る! つーか頑張ってくださいオナシャス!」

「無責任なことを言うな、全く……」

 

 藤原凱の若干弱気の混じった懇願に、呆れ混じりのため息をつくハラオウン執務官。……彼の懸念は、正しい。

 オレには魔法は分からないし魔力を感じられないが、あれが相当な消耗を強いる魔法だということは分かる。いくら彼が執務官という立場にある高位の魔導師だったとしても、限界というものは必ずあるのだ。

 限界に達した状態で先の次元跳躍攻撃を受けたら、さすがにどうしようもないだろう。

 藤原凱は、最初の一撃を防いだので消耗した上に、オレ達を守るために今なお消耗し続けている。

 スクライアは、最初の一撃を切り拓くために相当な消耗をした上、魔力要素が体に合わないせいで回復が遅い。

 ハラオウン執務官はまだ余裕がありそうだが、あと3つを相手に余裕を保ち続けられるとは思えない。

 やはり……戦力が足りない。このままでは打つ手なしだ。ジュエルシードを全部集めたところで、次元跳躍攻撃を受けて全滅。多分それが、プレシア・テスタロッサの今の狙い。

 この暴走が彼女の意図したものかは分からないが、この場を観測していないことはないだろう。そして、観測しているならばその程度のことを考えないわけがない。

 だからオレ達は、全ての力を使い果たすわけにはいかないのだが……どうにかならないものか。

 

 どうにか、してくれるようだ。

 

「ディバイィーーーン……バスター!!」

 

 桜色の砲撃魔法。先ほどハラオウン執務官が放ったものとは比較にもならない威力の一発が、はるか遠方から竜巻の一本をぶち抜いた。

 反撃を許さない距離から、反撃できない程度に竜巻を損傷させる。一瞬ジュエルシードが見えた気がしたが、また隠れてしまったようだ。

 だが、こちらの戦力は確実に増強された。今やってきた、白の魔法少女によって。

 

「ごめん皆、遅くなっちゃった!」

「なに、ベストタイミングというやつだ。テスタロッサは立ち直ったのか?」

「……まだ、わかんない。けど、「皆を助けに行って」って言ってくれた。だからわたしは、ここにいるんだよ」

 

 なるほどな。所感、あと少しで答えを出せると言ったところか。

 なのははオレから視線を外し、改めて竜巻の群れを見て、表情を強張らせた。

 

「……生で見たらすっごい迫力なの。映画のワンシーン?」

「さっきまではもっとド迫力だったぞ。これでも半分近くに減っている」

「ふええ。どうやって封印したのぉ……」

 

 今君がやったみたいに、なんだが。むしろ君だったらもっと手早く封印出来るんじゃないか? 余力さえ考えなければ。

 っと、そうだった。

 

≪ハラオウン執務官。なのはが復帰した。そちらの解釈次第では、これでお前は自由の身だが≫

≪冗談はよしてくれ。こんなところで退いたら、時空管理局執務官の名折れだ。君達が無事アースラに戻れるまで、一緒に戦わせてくれ≫

≪それを聞いて安心した。ここでお前に抜けられたら、またさっきの状況に逆戻りだった≫

≪……分かっているならわざわざ聞くなよ≫

 

 一応の確認というやつだよ。契約内容はしっかり確認しないと、後で痛い目を見る。

 

「なのは。攻撃は任せる。少しでもジュエルシードを露出させられれば、ハラオウン執務官が封印を行ってくれる。彼の魔法行使のスムーズさは、君も知っての通りだ」

「うん! クロノ君なら安心して任せられるの!」

 

 さっきまでの不安はどこへやら。オレの一言で自分の役割を認識した魔砲少女は、あっさりと前線に加わった。……本当にオレの言ったことなら何でも従うんじゃないのか? 危ういぞ、それは。

 少女の未来に若干どころではない不安を感じながら、オレはスクライアを担いで飛ぶ。……もうオレ達が出来ることはなさそうだ。

 

「スクライア。次元跳躍攻撃が来るとしたら、恐らくジュエルシードが全て封印された直後だ。こうしておいてやるから、少しでも回復しておけよ」

「……ははは。何か、色々と回復してきそうですよ、ほんと」

 

 色々って何だ、色々って。

 

 

 

 なのはが戦線に加わって一転攻勢、となれば話は早かったのだが、やはりそう上手くいくものではない。

 前述の通り、確かになのはの砲撃能力は凄まじいが、それ以外が全くだ。防御は藤原凱に劣り、機動力もそれほど高くはない。紙一重で回避するような体裁きを持っているわけでもない。

 つまり、基本方針は藤原凱またはハラオウン執務官の後ろに隠れて、砲撃魔法を撃つというものだ。だがそのやり方ではどうしたって限界がある。

 

「にゃーっ!? 撃ち返しなのー!?」

「シューティングのハードモードかっつーの!」

 

 防御の後ろに隠れなければならない関係で、彼女は一定ライン以上前に出ることが出来ない。そうなると、あの竜巻の中でジュエルシードを正確に狙うことが出来ない。

 対して、暴走体の方は攻撃を受ければ応じるかのように風やら雷やら水弾やらを撃ち返してくる。藤原凱のぼやきももっともである。

 ……藤原凱の限界が近い。かと言って、回復しきっていないスクライアを壁役に回せるわけがない。何か手はないものか。

 

「なのはを接近させられれば、恐らく一発で仕留められるんだろうが。彼女にテスタロッサほどではなくとも、機動力があればな……」

「砲撃と射撃ばっかりでしたから……移動魔法は、飛行で精一杯だったみたいです」

 

 へいわしゅぎしゃの癖に脳筋である。やはり彼女も戦闘民族高町家の血を引く者であったか。

 では、発想を逆転させよう。

 

「なのはの砲撃は、ディバインバスター以外に何がある?」

「……もう一つ、収束砲撃魔法というのがあります。威力は強めのディバインバスターにその場の魔力を足したもの。この場だったら、暴走体二つぐらいをまとめて吹き飛ばす威力が出せます」

 

 とんでもない威力だな。ということは、それなりの制約があるな?

 

「はい……。ソワレの「ル・クルセイユ・エクスプロージオン」とは比較にならないぐらいのため時間。それと、なのは自身もその後戦えなくなるぐらいに消耗します」

「それでも一つは残る、か。……ハラオウン執務官の余力がどれぐらい残ってるか次第だな」

 

 ための間は藤原凱に耐えてもらうしかないが、彼がもたなくなったらハラオウン執務官にお鉢が回る。それを耐えきった後で、先の殲滅射撃魔法+次元跳躍攻撃に耐える防御魔法を使う余力があるか。

 一応、かけではあるが、もう一つの選択肢が存在する。テスタロッサの復活だ。彼女が復活し、協定を維持するというのであれば、この場に駆けつけるはずだ。

 そうなれば現状にテスタロッサとアルフの戦力がプラスされる。むしろそれならば収束砲撃魔法とやらは必要ないかもしれない。

 ……どっちにしろかけにしかならないか。ならば、選択肢は一つ。

 

≪なのは。このままではジリ貧だ。君の持つ最大魔法を行使して、暴走体を二つ吹き飛ばせ≫

≪! 「アレ」をやるの!? だ、だけど……≫

≪やらなければ座して死を待つだけだ。どちらがいいか、考えろ≫

≪うっ。……やるしか、ないんだよね≫

≪テスタロッサを待つのはかけだ。どうせかけるなら、やるだけやる方にかける。オレはそう判断した≫

 

 出来ることを全力で。一切の容赦なく。それがオレのやり方だ。

 何がおかしかったのか、念話で笑うという器用な真似をするなのは。君達はそろいもそろって器用だな。

 

≪そう、だね。うん、ミコトちゃんらしいや≫

≪こういう性分なものでな。藤原凱、ハラオウン執務官。彼女が魔法を完成させるまで、時間を稼いでくれ≫

≪……かなり嫌な予感がするな。恭也さんの妹的な意味で≫

≪おっ分かってんじゃーん。なのはも大概脳筋だぜー≫

≪人聞きの悪いこと言わないでよ、この変態!≫

 

 いや、その変態は君の良き理解者だと思うがな。というか手綱を引いてくれ、頼むから。

 とにかく作戦は決まった。なのははレイジングハートを真っ直ぐ構え、その先端に桜色の光が集まり始めた。

 

「やるよ、レイジングハート!」

『All right. Starlight breaker, stand by ready. Count down start.』

 

 普段は柔らかい印象の機械音声が、物々しい単語を羅列していく。

 ――暴走体には、一定の知性がある。それは温泉近くの暴走体のときに分かっていることだ。あのときは、ダミーの方を囮にするという戦い方をしてきた。

 そして、今回は。

 

「っ! やっぱりなのはを狙ってきたか!」

「そりゃ黙って見逃してはくれねえよなぁ!」

 

 三つの竜巻が、なのはに向けて一斉に雷を放った。それを藤原凱とハラオウン執務官が、それぞれにシールドで防ぐ。

 

『Nine.』

「ぐっ! ……重いッ!」

 

 攻撃は一発では終わらない。なのはの砲撃を最大の脅威と知覚した暴走体は、ここにきて最大の勢力で暴れまわる。幾度も幾度も雷鳴をとどろかせ、狙いを違えずなのはを撃とうとした。

 ……これは、藤原凱がもたない。

 

『Eight.』

「……くっそがァ!!」

 

 彼の作る角錐シールドに罅が入った。返しの部分を維持するのに溜まった疲労で、全体の構成が限界に達したのだ。

 それでも敵の攻撃は無慈悲で、収まる気配を見せない。

 

『Seven.』

「ガイッ!」

 

 スクライアが弟子の身を案じ、叫ぶ。だがここで彼を動かすわけにはいかない。もし藤原凱が落ちたら、次元跳躍攻撃を防ぐのはスクライアの役目なのだ。消耗させるわけにはいかない。

 だから、彼を前線に戻すわけにはいかない。

 

『Six.』

「ガイ君ッッ! ……ッ!」

 

 なのはは彼に何かを言いかけ、言葉を飲み込んだ。恐らくは「もう下がって」と言いそうになったのだろう。それをしたら、大魔法待機中のなのはは、為すすべなく雷に飲み込まれる。

 だから、何も言えなかったのだ。今大事なのは、彼の身ではなく自分自身の魔法なのだから。

 

『Five.』

「……なめんなよ。この、藤原凱様を、舐めてんじゃねえぞオラアアアアア!!」

 

 裂帛の気合。それで魔力の出力が増すなら、世の中いくらかイージーモードだろう。だが現実は、決して甘くはないのだ。

 バキィンという音を立てて、角錐シールドが砕け散った。

 

『Four.』

「っ、ガイイイイッッ!!」

 

 ハラオウン執務官の叫び。藤原凱は、何かが切れたかのような呆然とした表情で、砕けた自分のシールドと、その向こうから迫ろうとしている雷を見ていた。

 彼は――何かを受け入れ、皮肉に笑った。

 そして、雷光が轟く。

 

「ソワレ!」

『リドー・ノワール!』

 

 それは、オレが割って入ってソワレに展開させた「黒のカーテン」に阻まれ、あらぬ方向に散って行った。……ギリギリで間に合ったか。

 まずいと思ったあの瞬間、オレは何を考えるでもなく、スクライアに魔法陣を展開させて待機させ、この場に全力で飛んだ。彼が足場を作るぐらいに回復していて助かった。

 

『Three.』

「ミコトちゃんっ!」

「まさか変態を助けることになるとはな。屈辱だ」

「……へ、へへっ。やっぱ、ミコトちゃん、キミ、サイコーだわ……」

 

 安堵の笑みを漏らし、藤原凱は気絶した。魔法陣が消えるよりも早く、オレが彼を肩に担いだ。

 ……甘いものだ。彼のことは、別に切り捨ててもいいはずなのに。それをすればオレの友人になろうとしている少女が悲しむと思ったら、それが出来なかったのだから。

 いや、これは作戦行動に必要なことだったのだ。オレの判断は利害計算上何も間違っていない。結果論ではあったが、そうして自分を納得させた。

 

『Two.』

「「黒のカーテン」はそこまで頑丈じゃないが……ここまでくれば耐えられそうか」

 

 オレが防御に参加しなかった理由は、ソワレが防御に不慣れなことが原因だ。いくら彼女がジュエルシードから生まれた召喚体だからと言って、何でもかんでも強力というわけにはいかない。

 「夜想曲の弾丸」が着弾とともに弾け飛ぶことからも分かる通り、ソワレは「夜」を強固に結合させて維持するのが苦手だ。逆に「爆発する棺」のように緩い結合で展開するのが得意なのだ。

 だからこのカーテンは、藤原凱のシールドと似ていて、柔らかく受け流して防御する性能なのだ。あまり頑丈ではないから、この猛攻に晒したらすぐに破れてしまう。

 だが、カウント3からの短い時間なら、十分持つ。そしてカウントは残すところあと一つ。

 

『One.』

「……やれ、なのは!」

「うん、ミコトちゃん! これがわたしの全力全開!」

 

 そして、レイジングハートの先端から、極太という言葉すら生ぬるいほど、視界を覆い尽くすほどの輝きが溢れた。

 その名は、星をも穿つ光。

 

 

 

「スターライトォ……ブレイカァーーーーー!!」

 

 オレとハラオウン執務官が避けた前方に、光の壁が出現した。これが、収束砲撃魔法……。

 

「なんつうバカ魔力……嫌な予感大的中だよ」

 

 彼のぼやきももっともだ。暴走体二つを同時に落とせるほどの砲撃というのだからある程度は想像していたが、誰がこんなもの想像するか。

 横方向の幅で言えば、人間10人分ぐらい。縦方向で言えば、4人ぐらいか。そんな太さの魔力の砲撃が、レイジングハートの小さな先端から飛び出したのだ。

 斜め下に向けて撃たれたそれは、海面に着弾すると同時、とてつもない広範囲を薙ぎ払うほどの魔力の爆風を生み出した。それこそ、暴走体の竜巻が為す術もなくちぎれ飛ぶほどに。

 

「ハラオウン執務官!」

「分かっているとも! ジュエルシード・シリアル3、シリアル19、封印!」

 

 スクライアの予測通り、二つのジュエルシードが露出し、ハラオウン執務官は目の前の光景にも我を忘れず、自分の仕事をこなして見せた。

 これで残るジュエルシードはあと一つ。シリアル4のみ。

 

「さて、これでチェックメイトか。……アースラに戻っていていいぞ、なのは」

「はあ、はあっ! ……ううん。なのはも、最後まで、一緒にいる……」

「君の成果は評価するが、これ以上は足手まといだ。飛ぶことすらまともに出来ていないだろう」

 

 こちらもスクライアの言った通りだった。なのはは魔力のほとんどを消耗し、飛行魔法すらも切れかけてフラフラしていた。

 だからオレは、容赦なく切り捨てた。だが彼女は、オレの判断をこそ、容赦なく切り捨てる。

 

「それでも、一緒にいたいんだ。皆と」

「……邪魔になったら見捨てるぞ。この変態ともども」

「うん。それで、いいよ」

 

 ニコッと笑うなのは。……本当にこの子は、分からない。オレが認めるほどに。

 オレ達の様子を見て、ハラオウン執務官は呆れとも苦笑とも、微笑ともつかない表情を見せていた。何笑ってんだ、ムッツリーニ執務官。

 気を引き締め直して、この戦闘の勝利条件を口にする。

 

「まず、ジュエルシードを封印する。その後、来るであろう次元跳躍攻撃を防御する。これが出来て初めて完全勝利だ。総員、最後まで気を抜くなよ」

「応ッ!」

「はいなのっ!」

「やってやりますよ!」

 

 何故か任されてしまったリーダー役。ならば、少なくともこの場は全うしてみせよう。オレの激励に、全員が肯定の返事を返した。

 

 そして。

 

「最後の封印。……わたしに、やらせてもらえないかな」

 

 ようやく、彼女は復活出来たようだ。振り返れば、オレンジ色の狼を伴った、金色と黒の魔導師が、静かにそこに佇んでいた。

 表情は――決して暗くはない。むしろ何処か晴れやかであり、何かを吹っ切ったような涙の痕。

 少女の友人は、それが逆に悲しかったようだ。

 

「ふぅちゃん……」

「ありがとう、なのは。わたしの弱音に、付き合ってくれて。立ち直れなかったわたしの代わりに、皆を助けてくれて」

「それがなのはのやりたかったことだもん。……でも、ふぅちゃんは……」

「ううん、何も言わないで。……わたしにも、ようやく見えたんだ。わたしの、やりたかったことが」

 

 金の少女は、優しげな瞳のまま、オレに目線を合わせた。ハラオウン執務官が気を利かせて、オレから藤原凱を回収する。

 

「ミコト。……本当に、ありがとう」

「感謝の意味が分からない」

「うん、そうだよね。ミコトはきっと分からない。わたしが勝手に感謝しているだけだから」

 

 そうか。それなら止めることは出来ないな。

 

「ミコトは、自分の目的のために行動しただけ。いつもそう言ってるし、多分本当にその通りなんだと思う。だけどそれは、回りの皆に影響を与えている」

「否定はしない。生きている以上、他人と関わらないことなんて不可能だ。知らず知らずのうちに、オレが人に影響を与え、オレも影響を与えられていることは、認めている」

「だからわたしは、ちゃんと自分の意志で思えたんだ。ミコト達の力になりたいって。ミコト達と一緒の道を歩きたいって」

 

 そうか。君が自分の意志でそう思ったなら、オレに何か言う権利はないな。

 

「だから……わたしと母さんの「利害の一致」はここまで。……母さんがつかまってしまうのは悲しいけど、でも大事な母さんだからこそ。ちゃんと、罪を償ってほしい」

 

 ……そういえば、協定を組む前に思っていたな。「テスタロッサ達をこちら側に抱き込めれば最高だ」と。図らずもその通りになっていた。

 オレ達は、それだけのものを彼女に与えられたようだ。彼女の「欲」を満たすだけのものを。協定の条件を、達成するだけのものを。

 

「停戦協定は破棄します。改めて、わたし達をミコトの仲間にしてください。お願いします」

「了解した。聞いての通りだ、ハラオウン執務官。逮捕保留は終了。アースラに戻ったら、プレシア・テスタロッサを逮捕する準備を進めてくれ」

「分かった。……ありがとう、フェイト。君の勇気ある決断に、感謝する」

 

 ハラオウン執務官は、テスタロッサに向けて頭を下げた。こうして、ジュエルシードを封印することに、何の憂いもなくなった。

 

「サポートは必要か?」

「ううん。わたしの"速さ"は、ミコトも知ってるでしょ」

「その通り。遅くならないうちに帰って来いよ」

「クスッ。行ってきます、ミコトママ」

 

 冗談めかして少女はそう言い、一筋の雷光と化した。

 

 あとはもう、語るまでもないだろう。

 

「アルカス・クルタス・エイギアス。撃ち抜け、轟雷! サンダースマッシャー!」

「そこだっ! リングバインド!」

『Sealing form.』

 

 三行で終わった。さっきまでの苦戦は何だったのか。それだけ、フェイトの戦闘能力が高いということなのだろうな。

 

「……全く。君達を管理局に誘えないということが、本当に惜しくなってくる」

 

 その様子を見ていたハラオウン執務官は、苦笑とともにそんな呟きを漏らした。

 

 

 

 

 

 結局、懸念していた次元跳躍攻撃は来なかった。魔力の充填が間に合わなかったのか、それとも何か別に理由があるのかは分からない。

 オレ達は一度、ハラオウン執務官の転送魔法で、アースラに戻ることになった。オレとしてはスクライアからの依頼は完遂し、フェイトとの協定も終了したため、これ以上関わる必要はないのだが。

 まあ、状況は中途半端だしな。ハラオウン執務官にはサービス残業もしてもらった。事後処理ぐらいは協力してやろう。そう思っていた。

 

 だが、アースラのブリッジに辿り着いた瞬間。また状況が一変したことを理解した。

 オレはアースラのディスプレイにでかでかと映っているその女性に対し、さすがにイラつきが限界に達し、思わずため息とともに零した。

 

「……いい加減にしろよ、プレシア・テスタロッサ。今度は何の真似だ」

 

 初対面――映像越しではあるが、周囲の反応からそれ以外に考えられない人物に対し、オレは睨み付けた。散々オレのロードマップを邪魔してくれた、彼女に対して。

 それに対し向こうから返ってきたのは、憎悪に近い感情だった。

 

『それはこちらの台詞よ、小娘。よくも私の計画を尽く邪魔してくれたわね。あなたのせいで、結局ジュエルシードは一つも手に入らなかった』

 

 ふむ。フェイトがオレの立てた停戦協定に従ったことを知っているのか。フェイトは説明していないはずだから、この場にいる誰か――ハラオウン提督辺りが教えたのか。

 まあ、知っていようがいまいが、最早どうでもいいことだ。

 

「知らんな。オレは正規のクライアントに接触して正規の依頼を受け、遂行しただけだ。筋の一つも通せん犯罪者風情に文句を言われる筋合いはない」

『口だけは達者のようね。どうせあなたも、ジュエルシードが狙いで接触したくせに。同じ穴のムジナよ』

「順序が逆だな。いや、同時だったというべきか。まあ、お前よりは運に見放されていなかっただけのことだ。残念だったな」

 

 この女がこれ以上何をしようが、知ったことではない。フェイトは彼女の逮捕を認めた。こうして通信している以上、座標は割れているということだ。彼女が捕まるのは時間の問題なのだ。

 オレがスクライアの依頼で協力していたことは、ハラオウン執務官もハラオウン提督も知っている。だが報酬内容までは知らなかったのだろう。少し視線が問い詰めるようになっている。

 

「オレに関しては、スクライア本人から聞くといい。正規の契約で譲り渡したと語ってくれるはずだ。法的に問題がないならという条件も付けている。オレはそちらの法律は知らないんでな」

「……あなたはそういう筋は通す人ですものね。信じます」

 

 今重要な話ではない。重要なのは、ディスプレイに大写しになっている魔女が、フェイトに向けて威圧的な視線を向けていることだ。

 彼女は、竦んだようになっていた。母に逆らったのだ。恐らく初めてのことだったのだろう。……だが、彼女自身が決めたことなのだ。

 

「……母さん、自首してください。母さんのやったことは聞きました。それは犯罪です。わたしは、母さんにちゃんと罪を認めて、償ってもらいたい」

 

 だからこそ、毅然とした態度で返せたのだろう。自分の意志を。決めた道を。

 それを受けてプレシア・テスタロッサは――およそ人の親とは思えない、憎々しげな表情を娘に向けた。

 

『……クックックッ。恩知らずとはまさにこのことね。出来損ないだとは思っていたけど、ここまで酷いとは思ってなかったわ』

「っ、母さん! ちゃんとわたしの話を聞いて!」

『あなたが私を母と呼ぶんじゃないわ、出来損ないッ!』

 

 魔女の怒声を浴びて、フェイトは震えて涙目になる。それでも毅然としているのは、それだけ彼女にとって、母親が大事だということなのだろう。

 だからオレは……非常にイライラしているのだ。この母親が、自分が生んだはずの子を認めず、愛情を返さず、使い捨ての駒として使っていることに対して。筋が通っていない。バランスが崩れている。

 このクソ女の顔を見て、オレは一度決壊しているのだ。だから、とっとと話を終えて、ストレスの原因を消し去りたかった。

 

「前置きはいらん。とっとと語りたいことを語れ。それが終わったら、オレはお前の前に二度と現れん。お前が何処のブタ箱にブチ込まれようが、知ったことじゃないんだよ」

『ッ! ……いいでしょう。教えてあげるわ。真実を知った後で、あなた達がまだその子の友達面をしていられるか、見ものだわねッ……!』

 

 オレは別にフェイトの友達ではないのだが。他はどうか知らんが、オレには関係ないことだ。聞いてやるから、とっとと話して、とっとと終われ。

 映像の中で、プレシア・テスタロッサは立ち上がる。何処か悪いのか、ヨロヨロとした動きだ。杖を突きながら、彼女が座っていた玉座の向こう側の扉へ。

 そして彼女は、両開きの大きな扉を開きながら。

 

『見なさい、これがその子の真実よッ!』

 

 そう告げた。

 

 

 

「――え?」

 

 フェイトが固まる。だけではない。この場にいる他の人間も、皆一様に。

 

「……なに、あれ」

「こど、も? 眠って、いるのか……」

「……まさか、死……それに……似すぎている」

「……どういうことだっ」

 

 皆答えが分からず、困惑する。そんな中、ハラオウン執務官に背負われていた藤原凱が目を覚ます。

 

「うっ……ここは……、って!? うそ!? マジかよ!?」

 

 明らかに、他の皆とは違った困惑を見せた。……ああ、そういえばそうだったな。お前は、「知っていた」んだったな。

 そうして存分に皆の困惑を楽しんだ後、プレシア・テスタロッサは、自分の娘を見下したように睥睨し。

 

『この子は私の娘。アリシア・テスタロッサ。私の、ただ一人の娘よ』

 

 扉の奥にいた、緑色の液体の中で眠る――永遠の眠りについた少女の名を明かした。

 少女は、驚くほどフェイトに似ていて。

 

『フェイト。あなたはね……アリシアのクローンなの。私の娘なんかじゃない。人間ですらない。ただのお人形。ただの道具でしかないのよッ!!』

 

 それが、フェイトの真実だった。

 

 

 

 オレは、その一部始終を聞いていた。

 26年前の事故で、プレシア・テスタロッサが一人娘のアリシアを亡くしてしまったこと。

 その後、何としてでも失った娘を取り戻そうと、管理局法で禁止されている死者蘇生法の研究を始めたこと。

 プロジェクトF.A.T.E.と名付けられたその計画によって、アリシア・テスタロッサの遺伝子を使用したクローン、即ち現在のフェイト・テスタロッサを作り出したこと。

 アリシアとして生み出したはずなのにアリシアになれなかったフェイト。だからプレシア・テスタロッサは、フェイトのことが今日まで憎かった。憎みながらそばに置き続けたこと。

 そして、ジュエルシードを求めた目的。それは失われた世界「アルハザード」を求め、次元断層への道を開くため。そこには死者蘇生の法も眠っており、それを求めていたこと。

 ――ああ、なるほど。ここで藤原凱のあの話につながるのか。確かに、死者蘇生が本来の目的なら、他に方法があればジュエルシードはいらなくなる。実際にはそんなこと出来ないんだがな。

 彼女の動機から計画の実行に到るまで。そして、オレの都合でフェイトを振り回した結果、その計画は頓挫し、さらには管理局にまで嗅ぎつけられて、その望みは永遠に果たせなくなろうとしている。

 だからオレのことが殺したいほど憎いそうだ。そう思うのは彼女の勝手だ。勝手にそう思わせておこう。

 

 長々と昔語りをされ、終わったところでオレはフェイトを見た。彼女は……ショックを受けた表情だった。それはまあ仕方がない。自身のアイデンティティの根底を否定されたのだから。

 オレが4年間なのはに男と間違えられていた衝撃とは比較にもならないだろう。だから、オレに少女の気持ちは分からない。オレと彼女は「違う」のだ。

 そして彼女、フェイトは、ショックを受けながらも……ちゃんと自分の両足で立っていた。ちゃんと、受け止めていた。彼女はいつの間にか、その事実を受け止められるだけの「自分」を持っていた。

 それが、何でか嬉しく感じた。何でなんだろうな。オレ自身のことなのに、オレ自身がよく分からない。

 

『分かったでしょう!? あなたはね、フェイト! 誰からも望まれていないのよ! それを我慢して生かしておいてあげたというのに、小娘に言いくるめられて寝返ってしまった! 恥知らずの恩知らずよ!』

 

 魔女はヒステリーを起こしたかのように、いや起こしているのだろう、キンキン声でフェイトを罵る。そのために咽てせき込み、彼女は言葉を一度止める。

 それだけの時間があれば、フェイトが言葉を差し挟む猶予はあった。

 

「……母さん、聞いてください」

 

 凛とした声だった。震えもない。だから誰も、言葉を挟めない。

 彼女は――おもむろに頭を下げた。感謝の深さを示すように。

 

「わたしを作ってくれて、ありがとう。生み出してくれて、ありがとう」

 

 映像の中のプレシア・テスタロッサは、信じられないものを見る目で少女を見ていた。

 

「確かにわたしは、母さんにとってよくない子でした。望まれていませんでした。だけど、わたしはわたしの意志で、大切だと思える人達に出会うことが出来ました」

 

 フェイトはなのはに視線を移す。白の少女は一度瞬きをした後、ニコッと笑って見せた。

 

「わたしのことを、友達だと言ってくれた子。「ふぅちゃん」って呼んでくれる、大切な友達」

 

 次に視線は、スクライアへ。彼はどんな表情をすればいいか分からないようで、困惑気味に頬をかいた。

 

「わたしと言い争ってくれる、博識な子。対等な目線で意見を交わせる、大切なケンカ仲間」

 

 そして、藤原凱。今は変態性も何処へやら、見守る大人のような目でフェイトを見ている。

 

「ちょっとエッチだけど、本当はとても優しい子。誰かの幸せを心から願える、大切なおバカさん」

 

 視線は戻り、逆へ。恭也氏。彼は……彼にとって、フェイトもまた妹のような存在。いつの間にか、そうなっていたんだろう。

 

「魔導師よりも強くて、いつもわたし達を守ってくれる人。とても頼りになる、大切な皆のお兄さん」

 

 足元へ。今は狼の姿になって、気遣わしげにフェイトを見上げている使い魔へ。

 

「常にわたし最優先で融通が利かないけど、いつもわたしのそばにいてくれた子。ずっと一緒にいたい、大切な相棒」

 

 そして、オレへ。オレは……多分いつもと変わらないんだろう。何も変わらず、仏頂面。

 だからフェイトは、クスリと笑ったんだろう。

 

「わたしに、現実を見せつけた。辛い現実を突き付けて、それでも選択をさせてくれた。厳しさと優しさの両方を持った、わたしの……ママみたいな人、かな」

 

 そんなことを言われてしまったもんだから、少し表情は崩れたかもしれない。意図的に厳しくしているつもりはないし、優しくしているつもりもない。彼女がそう感じているだけなのだが。

 だが……そう感じて、くれている。それが無性にうれしく感じてしまっているもんだから、やっぱり彼女の言う通りなのかもしれない。

 自分の大切な人を紹介し、彼女は再び「母親」を見た。

 

「他にも、この場にいない、紹介しきれないぐらい大切な人が出来ました。わたしは、母さんに生み出されたから、出会うことが出来た。だから……今まで、ありがとうございました」

 

 さすがに最後は少し声が震えた。これは、フェイトからプレシア・テスタロッサへの、決別の言葉だ。

 もう彼女達の利害は一致していない。協力関係はそこにはない。そして……プレシア・テスタロッサがフェイトを捨てるというなら、フェイトもプレシア・テスタロッサを捨てることになるのだ。

 それにこの女は、気付いていただろうか? 気付いていなかったのだろう。そして今気付いたのだろう。

 自分が「必要ない」と切り捨てた存在に、「巣立ち」という形で切り捨てられたことに。

 

『あ……あはは……あはははははは、あーっはっはっはっはっ! は、はは、ははは……私を馬鹿にするのも大概にしなさいよ、小娘ェ!』

 

 そして噴出した感情は、全てオレに向いてきた。鬱陶しい。

 

『私からジュエルシードを、アリシアにつながる希望を奪っておいて! さらに私の手駒まで奪ってッ! あなた何がしたいのよ、私に何か恨みでもあるっていうの!?』

 

 半狂乱。自分が優位に立つという形で心の支えにしてきた少女が離れ、とうとう理性が限界に達したようだ。

 

「正直答えるのも面倒だが、あえて言わせてもらう。お前に対する感情など、何もない。せいぜい鬱陶しいから早く視界から消えてくれという程度だ」

 

 フェイトは少し悲しそうな顔をしたが、それがオレなのだ。

 それともう一つ、言うことがある。

 

「さっきも言ったが、オレはオレの目的のためにスクライアと契約し、ジュエルシードを得た。集めたのはその対価だ。お前の都合など関係ない。これはお前自身が招いた、悪因悪果だ」

 

 後ろ暗いところがないのなら、オレと同じようにスクライア本人に交渉すればよかったのだ。自分で「悪いことをしている」と思っているから、出来なかったのだ。

 そうなれば自分にとって悪い結果が返って来ることなど、火を見るよりも明らかだろう。そんなことも分からないで、大魔導師を名乗っているのか、このクソ女は。

 あと一つ。これだけは絶対言っておかなければならない。

 

「それと……お前ごときがオレの娘を「物」扱いするんじゃないよ、ぶち殺すぞ」

「……え?」

『娘!? はっ、それこそとんだ茶番だわね! 子供のあなたが、その人形を娘ですって!? ちゃんちゃらおかしいわ! 娘っていうのはね、私にとってのアリシアみたいな子のことを言うのよ!』

 

 そんなお前の基準は知らん。フェイトがオレを「ママ」と呼び、オレがフェイトを「娘」と呼んだ。オレ達にとっては、それだけで十分なんだよ。

 フェイトは、オレが彼女を娘として扱ったことを、上手く理解出来ていないようだ。

 画面の中で狂ったように叫んでいる女を無視し、オレはフェイトを見る。

 

「フェイト・ヤハタ。中々いい名前だと思わないか。さすがにオレの歳で人間の子供は持てないから、妹ということになるだろうけどな」

「あっ……、……うんっ!」

 

 彼女は涙をこぼしながら、笑顔で頷いた。……帰ったらまたエンゲル係数と戦わなければならないが、それはそれというやつだ。

 さて、管理局の皆さん置いてけぼりで色々話が進んでしまったが、もういいだろう。

 

「プレシア・テスタロッサ。お前のやりたかったことは理解した。それで、この話は終いだ。あとはここにいる管理局員に逮捕されて、獄中で好きなだけ狂ってろ。尽くオレには関係のないことだ」

『小娘ェ……ヤハタ、ミコトォォォォッッッ!!』

 

 彼女がアリシアを復活させたかろうが、オレには関係がない。彼女が自身の悪事によって逮捕されようが、オレには関係ない。管理外世界に住むオレに、管理世界のことは関係ない。

 そう、本当に関係のないことなのだ。何もかも、何もかも。

 

 

 

 だというのにこの女は、どうしてオレの神経をこうまで逆撫でしてくれるんだろうな。

 

『奪ってやる……奪ってやるわ! お前の何もかもを! 大切なものを奪われる痛みを、お前にも思い知らせてやるわ! お前の大切なものを、娘だと言ったその人形を、お前の家族を、皆殺しにしてやるわッッッ!!』

 

 カチッと、頭の中で何かが切り替わる音を聞いた気がした。隣に立っていたフェイトが、ビクリとオレから離れた。オレは今、どんな顔をしているんだろう。

 今奴はなんと言った? オレの家族を、殺すだと? フェイトを、アルフを、ブランを、ミステールを、ソワレを。

 はやてを、殺すだって?

 

「……気が変わったよ、プレシア・テスタロッサ。いや、事情が変わった」

 

 オレは顔を上げ、奴を見た。瞬間、奴は表情を固め、言葉を失った。

 構わず、オレは言葉を紡ぐ。奴がオレの大事なものを奪うと言うなら。オレの前に立ちふさがり、自ら障害になろうとするならば。

 

「今からそっちに殺しに行ってやる。人生最後のティータイムでも楽しんでいろ」

 

 オレは一切の容赦をしない。それが、八幡ミコトという人間なのだから。




ミコトは三度鬼になる。
ミコトにとって、プレシアは本当にどうでもいい存在でした。フェイトが自分達の側に転がり込んできたことで、協定は彼女にとって良い意味で消滅し、プレシアに配慮する必然性は消滅しました。
だから、あとは管理局員に任せておさらばのつもりでした。プレシアが彼女の地雷を的確に踏んでしまったため、プレシアを排除するという目的が出来てしまったのです。

一方、裏ではこのまま終わることを良しとしない人間もいました。ガイ君です。彼は、プレシアも何とか幸せになれる方法を考えていました。ミコトに死者蘇生の話をしたのもそのためです。
しかし悲しいかな、彼は特別な力を持つ転生者ではなく、ただ魔法の才能に恵まれているだけの少年だったのです。この世界は確率を大きく外れることを許してくれませんでした。
だから、みんなが幸せになれる可能性のあるこの世界で、道化として必死に生きているのです。

ミコトはとうとう人を手にかけてしまうのか。それとも、プレシアの逆襲があるのか。はたまた別の結果が待っているのか。
そんな感じで次回に続きます。


※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。