不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
<< 前の話 次の話 >>

27 / 74
平日なのは物語進行の都合です。


二十一話 お泊り会

 先日のプールは、なのは達にとって「ジュエルシードで台無しになった楽しみをやり直す」ためのものだ。オレ達は初めてだったが、彼女達にとっては二度目だ。

 ここで思い出してほしいのだが、オレ達が知り合ってから、「ジュエルシード絡みで台無しになった楽しみ」は、もう一つあるはずだ。

 予め言っておくが、温泉ではない。あれはしっかり綺麗に終えることが出来た。途中ジュエルシードの暴走やらはあったが、終わりよければ全てよし。思い残すところは特にないはずだ。

 では何かというと。

 

「……改めて見ると、大きなお屋敷だね」

「うん! プレシアママのおうちとおんなじぐらい!」

 

 そう、月村家でのお茶会である。元々大魔導師の家に住んでいた二人と一匹は、この資本の偏りを感じさせる大邸宅を見ても、オレ達ほどは驚かなかったようだ。

 さすがに敷地面積で言ったら月村家が勝つが、あっちはあの大きさで移動式ラボ兼任だ。庶民のオレ達から見れば、どっちもどっちのブルジョワジーである。

 当然ながら、八神家総出だ。前回よりも大人数での訪問。それだけで随分状況は違うのだが、もう一つ前回と違うことがある。今回は既に夕刻を回っており、泊りがけでの訪問となる。今日は平日なのだ。

 何故休日ではないかというと、オレとブランのシフトの問題だ。休みの日は平日より長く翠屋の"お手伝い"が出来るため、オレは出来る限り入るようにしている。もちろん、やりすぎにならない範囲で。

 そうすると、休日にお茶会が出来ない。何とかならないかと皆で念話会議を開いたところ、「なら平日にお泊り会をすればいい」という結論に至った。

 ここから八神家、ひいては海鳴二小は相当な距離があるため、翌朝は月村家のリムジンで送ってもらうことになる。……騒ぎにならないように、学校よりかなり手前で降ろしてもらおうと思っている。

 

『八神家の皆様、いらっしゃいませ。すぐにお迎えに参りますので、少々お待ちください』

「よろしくお願いします」

 

 さすがに二度目ともなれば覚悟が決まるのも早い。オレは月村家の荘厳な門に不釣合いのインターホンを押して、ノエルの応対を受けた。

 と、フェイトがキョロキョロとしている。どうした?

 

「えっと……普通のお庭だなーって」

「? それはそうだろう。特に不都合はないはずだが」

「そうじゃなくって、その……温泉で忍さんに聞いた話が気になって」

 

 ああ、防犯を強化したという話か。……確かに、それらしい形跡はない。フェイトの目から見てもそうだとしたら、ブラフか、よほど巧妙にカモフラージュしているかのどちらかだ。

 

「防犯は忍お嬢様の趣味のようなものなのですが、あまり派手にされて景観を損ねても困りますので、普段は地面の下に埋めているのですよ」

 

 スッと、音も無く現れたノエルが説明してくれる。八神家一同頭を下げ、向こうも丁寧にお辞儀をした。

 

「芝生をよく見ていただくと、模様にまぎれてところどころ四角く区切れているのが分かるでしょう。あそこが、対人機銃が隠されている区画です」

「機銃て……法律とか大丈夫なん?」

「ええ、実弾は使用していませんから。警戒レベルに応じて弾の種類も変化しますが、最大でも強化ゴム弾ですよ。至近距離で受ければ骨にヒビぐらい入るかもしれませんが」

 

 それが四方八方から掃射されるわけか。……ゴム弾でも気休め程度だな。喰らったら普通に死ねそうだ。

 

「そういう事情ですので、お屋敷に入るまで絶対に道を外れないでくださいね。特にフェイトお嬢様、飛翔魔法を使うと即座に警備システムが反応して対空迎撃ミサイルが発射されてしまうので、ご注意ください」

「そ、そんなことしないよ!?」

 

 ノエルなりの物騒なジョークだったようだ。氷のような表情が緩み、微笑が漏れた。ちなみに対空ミサイルはペットボトルロケットで、弾頭にこしょう爆弾を積んだものらしい。

 警備システムにしては緩い気がするが、空を飛んでこれるのなんて近所にいるのは知り合いぐらいのものだ。ジョークアイテムみたいなものなのだろう。

 さりとて、できることなら痛い目にはあいたくない。オレ達は前回と同じく、ノエルの後から外れないように着いて行った。フェイトは若干ビクビクしていたが。

 

 お泊りの荷物をノエルに預かってもらい、皆でテラスに向かうと、早速なのはに抱きつかれた。彼女と友達になって以来、一方的な友達宣言をした直後のあきら並にスキンシップの頻度が上がっている。

 再度になるが、オレの身長はなのはよりも小さい。そんなオレが飛び掛って抱きつかれれば、大きくよろめくというもの。背後にいたブランがオレを支えてくれた。

 

「猪突猛進は君のいいところかもしれないが、もう少し状況は考えてくれ。今もブランがいなかったら危なかった」

「えへへ、ごめんなさい。ミコトちゃんの顔を見たら、嬉しくなっちゃって」

 

 彼女の言葉が真実であることを示すように、表情は緩みきった笑顔。見ているだけでオレの目尻も柔らかくなってしまいそうだ。

 が、締めるところは締めるオレだ。デコピンを一発入れて涙目にしてやる。恨みがましくオレを見る少女に、「いい加減学習しろ」の一言を添える。

 

「で、やはりお前はいるわけか」

「そらそうよ。前回だって、俺もいたっしょ?」

 

 今回はお茶会ではなくお泊り会。にも関わらず、この変態は普通にいた。

 彼はわかっているのだろうか。男子が一人である以上(恭也さんは忍氏と一緒だろう。深入りはしない)、彼はこの広い屋敷で一人の一夜を過ごさなければならないということを。

 ユーノがいれば違っただろうが、あいにく彼は今ジュエルシード絡みの手続き他もろもろのために管理世界に戻っている。この会に参加することは出来ない。

 ……まあ、変態の心配をしてやる必要はないか。この男なら、なんだかんだで面白おかしく過ごすんだろう。

 

「皆、プールぶり! ってほんの数日前だけど」

「ミコトちゃん達とは学校が違うから、毎日会えないのが寂しいよ」

「そんなものか。……ああ、だからなのはは毎日のように念話をかけてくるのか」

 

 月村の言葉で、なのはの定時念話の理由を理解した。彼女にとって、友達とは毎日顔をあわせる存在なのだろう。少なくとも、これまでの友達は同じ学校の女子だったのだから。

 「念話」という単語で、アリサ・バニングスの顔つきが神妙になった。この間の念話会議には、彼女も月村も参加している。

 

「……話には聞いてたけど、ほんと便利よね。ケータイ持ってないミコトと、頭の中だけで会話できちゃうんだもん。インフラってなんだっけって感じよ」

「現状こっちから一方的にしかかけられないがな。ミステール、何か受信する方法はないのか?」

「難しいことを言ってくれるのぅ。ラインをつながなければ、わらわとてそれを知る方法はない。よもや四六時中回線をつなぎっぱなしにするわけにもいくまい」

「それは、確かに日常生活に困るかも……」

 

 ミステールの冗談めかした提案に、苦笑を返す月村。オレもそんな鬱陶しそうな生活はごめんだ。

 

「リンカーコアを持っていれば、念話程度なら誰でも出来るらしいんじゃがのぅ」

「そればっかりは仕方ないわよ。管理外世界では、持ってる人の方が稀なんでしょ?」

「そうだね。なのはやガイみたいな極端な例はあるけど、基本的にはないと思っていいよ。あと管理世界生まれでも、アリシアみたいに持ってない子もいる」

「ふーんだ! そのかわり、わたしにはずのうがあるもんねっ!」

 

 引き合いに出されたアリシアがむくれる。もし彼女にリンカーコアがあったなら、まさしく二代目プレシアな大魔導師になれたのだろう。

 が、ここは管理外世界であり、リンカーコアは社会生活上重要ではなく、むしろアリシアのような秀逸な頭脳の方が重宝されるだろう。

 

「オレが管理世界に関わる気がない以上、リンカーコアは「あればちょっと便利」程度のものだ。渇望するほどのものじゃない」

「というか、ミコトちゃんはミコトちゃんで、なのちゃん達の魔法では出来ないことが出来るもんね」

 

 なのはを追い出してオレの腕の中に収まったソワレを見ながら、月村は苦笑する。必要となる方向性が違うのだから、そうもなる。

 もし「コマンド」を作った目的が「実生活の補助」とかだったら、どういう仕様になっていただろうか。もっと限定的で、長文が必要ないようなものだったかもしれない。

 もっとも、そんなことのために異能を求めたとは思えないが。"魔法"が必要だったのは、それでしか出来ないことを成したかったからだ。

 

「ミッド式と同じでは、多分はやての足を治せない。あれが起こせるのは、結局は物理現象だからな。それなら違う方向性にもなるさ」

「そっか。そのための"魔法"、だったね。色んな出会いがあったから、そのことをすっかり忘れてたよ」

「汎用性が高すぎるのよね。それでもまだ治ってないんだから、頑固な病気よね」

「なはは、誰に似た病気なんやろうねー」

 

 実際に「コマンド」を使用してはやての足を動かせるようにしようとしたことはある。だが、神経伝達に干渉してみても、筋肉運動に干渉してみても、ピクリとも動かせるようにならなかった。

 当たり前といえば当たり前だ。はやての体は「医学的には健康体」であり、オレが試した方法というのは、あくまで物理的なものだ。石田医師がやっていることと、結果的には大差ない。

 ならば霊体や魂魄などに直接干渉してやればいいかというと、それはそれで危険が大きすぎる。何せオレはそれらを知覚出来ないのだ。気がつかないうちに取り返しのつかないことをやってしまう可能性がある。

 だからオレに出来ることというのは、真実にたどり着くための召喚体を生み出し、そこからアクションを起こすということ。

 今はミステールが数々の因果を覚えるのを待つしか出来ない。だが、真実に辿りついたそのときは――今度こそ、この手で原因を取り除きたいものだ。

 オレの意志が固くなっているのが伝わったのか、ソワレが心配そうにオレを見上げていた。……いかんな、娘にこんな顔をさせては。母親失格だ。

 だからオレはオレに出来る一番柔らかい笑みで、ソワレの頭を撫でた。

 

 ふと、藤原凱と目線が合う。その瞬間、彼は間違いなく真剣な表情をしていたと思う。直感的に、それは「本当の真面目モード」だったと理解する。

 ……もしかして、彼ははやての足についても何か知っているのか? もしそうなら、何故黙っている? 「話せない」と言っていたが、これもあのときと同じなのか?

 分からない。少年は次の瞬間には、何事もなかったかのようにヘラヘラと笑っていた。

 

「そんな小難しい話より、猥談しようぜ猥談!」

「『女の子に振る話題じゃないよ、ガイ君のエッチ』『ほどほどにしないと、私、怒っちゃうよ?』」

「ガファ!?」

 

 吐血して倒れる変態。誤魔化すにしてももうちょっとマシな話題を選べ、変態め。

 いつも面倒を見てくれたユーノがいないため、いやいやながらもアルフが彼の治療を引き受けることとなった。ユーノに比べて治療効率が悪いから、明日の朝まで放置だそうだ。

 

 

 

 で。

 

「どうしてこうなった?」

「んー、強いて言うなら、情熱(パッション)、かな」

 

 かな、じゃないよ。月村の謎のやりきった感に突っ込みを入れるが、返って来るものはなし。スルーしやがった。

 今オレの身に何が起きているかというと、一言で言えば白い制服に身を包まれている。彼女らの通う聖祥大付属の制服だ。

 夕食までの時間何をするかという話をすると、いいことを思いついたと月村が手を叩き、オレ達はここへ案内された。この、種々の衣類が並ぶ衣装部屋へと。

 なるほど、皆で着せ替えをして遊ぶのかと思っていたのもつかの間、何故かオレは月村によって羽交い絞めにされた。彼女の号令の下、アリサ・バニングスとメイドのファリンがオレをひん剥きに来たのだ。

 もちろんオレは抵抗しようとしたが、月村の膂力は女子の平均をはるかに上回る。平均よりわずかに運動能力があるだけのオレがそれに敵うはずもなく、抵抗空しく下着のみにされた。

 そして、この聖祥の制服を着せられて今に至る。

 

「せめて、オレの意志関係なしに強制的に着替えさせられた意味を教えてもらえないか」

「だってミコトちゃん、着てって言っても素直に着てくれないでしょ?」

 

 種類による。あそこにかかっている、ドピンクでラメ入りの何に使うのか分からないような服を着ろと言われたら、それは当然断る。

 だが、聖祥の制服を着るぐらいなら、別に拒むほどのものでもない。……女子の制服なら、な。

 

「これは明らかに男子の制服だよな?」

 

 そう。オレが今着ているのは、いつか藤原凱が着ているのを見た、聖祥小学校の男子制服だ。左が上のボタンに、下は半ズボン。清く正しい少年スタイルである。

 仕上げとばかりに、月村は白い帽子――皆が着けているのを見たことはないが、恐らく聖祥の指定帽子――を、オレの長い髪をしまって乗せた。

 

「完成! ミコトちゃんの男装スタイル!」

「質問に答えていただきたいのだが?」

 

 「成し遂げた」と言わんばかりの月村への突っ込みはやはりスルーされ、代わりにアリサ・バニングスが答える。

 

「ほら、なのはが昔勘違いしたっていう男装を見てみたかったのよ。けど……贔屓目に見てもこれ、男の娘よね」

「4年前も別に男装していた覚えはない。オレは男っぽい顔つきというわけではないのだから、「女子の男装」の域を出るわけがないだろう」

「ねえなのちゃん、どうしてミコトちゃんを男の子だと思ったの?」

「皆の死体蹴りがひどいの! もう許してっ!」

 

 要するに盛大ななのは弄りだったということだ。はあ、と溜め息をついて帽子を取る。ファサッと髪が降りた。

 

「なのはを弄るのは一向に構わんが、オレを巻き込むのは勘弁していただけないだろうか」

「構ってよ!?」

「そいつは無理な話ね。あんたが「友達になってください」って言うまではね!」

「器が知れたな」

 

 まあ、ただのジョークだろうが。それにしても……ズボンをはいたのは久々だな。二年前はこれが普通だったはずなのに、今では違和感しかない。

 

「やはりロングスカートは格が違った」

「そういえばミコトちゃんってロングスカートしかはかないよね。ふぅちゃんみたいなショートははかないの?」

「あれは中を見られないように細やかな気遣いが出来なければ、ただの自殺行為だ。タイトスカートじゃなければ動きやすさも変わらないし、オレはロングでいい」

 

 オレは必要となったら派手なアクションも辞さないからな。そのときにパンツ見られたら、恥ずかしいし。

 

「……あんた、普段の言動は女の子っぽさ無縁なくせに、どうしてそういうところは女の子らしくなるわけ?」

「女らしさに興味がなくて、根っこのところが女の子なら、こうもなるだろうさ」

「あはは……これは分かんないね」

 

 分かってもらおうとも思っていないからな。多分これも、オレの歪な部分なんだろう。オレ自身のことだから、自分ではどうなのか分からないが。

 

「ミコトちゃんは、ズルイの。ピンポイントで男の子っぽいくせに、ピンポイントで女の子らしいんだもん」

 

 死体蹴りから回復したなのはは、膨れっ面だった。あれは君が勝手に勘違いしただけだろうに。オレはむしろ被害者だ。

 何せ、「なのはから4年間男と勘違いされていた」ということを知られたことで、5人衆から時々男役扱いされるようになったのだ。……オレの言葉遣いのせいと言われればそれまでだが。

 

「というか、そもそもの話だ。オレはそこまで男言葉か? 確かに一人称は「オレ」だし、言葉遣いも固いかもしれないが、それだけで男言葉というのは違うんじゃないか?」

「じゃあ、あんたが思う男言葉ってのをやってみなさいよ」

「むっ。……『俺、八幡ミコト! 趣味はベーゴマとメンコだ! 皆、よろしく頼むぜ!』」

 

 三人とも噴き出した。正直オレも腹筋が痛い。自分でやっておいて「何だこれは」と思う。

 

「あっはっは! 何これ、超ウケる! 全然似合わない!」

「ぷふっ! ……み、ミコトちゃん、頬がヒクついてるよ……くふっ!」

「ああ、これは宴会芸に使えそうだな。皆が飲み物を口に含んでるときにやったら、まさに阿鼻叫喚だろう。……ククッ」

「じ、地獄絵図なのっ……ふぐぅっ!」

 

 結論、男言葉も似合わない。女言葉とは別方面で似合わなかった。オレの言葉遣いは、オレ固有のもののようだ。

 

「あー笑った笑った。……あれ? そういえばファリンは?」

「あ、そういえばいないね。何処に行ったんだろ」

「オレ以外の八神家の皆もだ。好きな衣装を取りに行ってるんだろうか」

「……あ、あそこ!」

 

 なのはが気付いて指差した方向には、確かに八神家の皆がいた。

 彼女達は……聖祥の制服を着ていた。ちゃんと女子用である。

 

「あ、ミコちゃん声かけなくてごめんなー。皆出来上がってから見せようと思っとったから」

「気にしなくていい。はやても着てみたのか」

「せやでー。じゃーん、どやっ!」

 

 車椅子ではなく、ブラン――彼女も聖祥の制服だが、恐らく高校生用だろう――に抱えられたはやてが、両手を開いて見せ付ける。

 

「うん、似合ってる。オレも男子制服じゃなくて、そっちを着たい」

「じゃあお手伝いしますよー、ミコトちゃん!」

 

 ファリンは皆の手伝いをしていたようだ。オレがそう言うのを予測して……いたわけではないだろう、明らかに過積載の聖祥女子服を抱えている。

 というか、この家には何着の制服があるんだろうか? 大富豪の家なのだから、経済的な面で気にする必要はないだろうが、資源的には気にした方がいいんじゃないだろうか。

 まあ、いいか。自分の中で結論付けて、ファリンに着替えを手伝ってもらおうとしたところで、服のすそが引っ張られる。フェイトだった。

 

「あ、あの、ミコト……どう、かな?」

 

 くるりと回転するフェイトは、聖祥制服の白いスカートの裾をひらりと巻き上げる。その姿が愛らしくて、ついつい抱きしめてしまった。

 

「はう!? あうう、み、ミコト!?」

「ふふ。相変わらず抱きしめられるのに弱いな、フェイトは」

「あううぁー……」

「あー、フェイトずるい! ミコトママ、アリシアも!」

「ソワレも!」

 

 はいはい。真っ赤になったフェイトの体を離し、アリシアとソワレの聖祥制服姿を見る。二人は身長的に幼稚園児のような印象を受けた。

 それでも似合ってはいる。……アリシアは来年から学校に通うが、ソワレは戸籍がないため無理だ。少し、彼女の意志が気になった。

 

「ソワレ。学校に、通ってみたいか?」

「ん……わかんない。でも、いきたくなったら、ミコトについてく」

 

 そうか。それで君が満足できるなら、きっとそれで十分なんだろう。

 

「そもそもうちに聖祥に通うだけの家計的余裕はなかろう。制服姿で決めるというのは、早計じゃろ」

「ミステール……なんで君はそんなに似合わないんだ?」

「……オチ担当、じゃと?」

 

 ドッと笑いが起こる。皆と同じ聖祥の制服に身を包んだミステールは、何故か無理なコスプレ感が否めなかった。

 ――ちなみにその間中、アルフは狼型のままネコ山に埋もれてまったりしていた。元が動物だからか、着せ替え大会にさほどの興味を示さなかったようだ。

 

 

 

 皆の気が済むまで、好きなだけ衣装を着た後、夕食の時間だ。回復に時間がかかると思われた変態は、そのときには動ける程度まで回復していた。

 ……順調に耐性を身につけていっているように感じる。オレの女言葉も通用しなくなる日が来るかもしれない。早々に次の対策を練っておく必要があるな。

 

「これまた豪華だな」

「人数が多いですからね。普段よりも腕によりをかけました。自信作です」

 

 どうやら調理はノエルが担当したらしい。というか当たり前か。ファリンが手伝ったら、ブランを超えるドジっ子を発動して、余計な手間をかけることになりそうだ。

 まるでフィクションの中の金持ちのディナーのような夕食だった。銀食器に装われたサラダ、パン、スープ、ターキーetc。見た目にも華やかであり、作り手の腕の高さを証明するようだった。

 オレ達庶民ではまずお目にかかれない光景に、はやてのテンションが上がる。

 

「ふおあー! デジカメ持ってくりゃよかったわ! これだけで一種の芸術やよ、ノエルさん!」

「そう言っていただけたなら、腕を振るったかいがあるというものです。ありがとうございます、はやてお嬢様」

「大げさねぇ。ちょっと大きめのパーティ行けば、このぐらいはよくあるわよ。ま、ノエルぐらいのレベルは早々お目にかかれないけど」

「そのちょっと大きめは君たちの基準だ。忘れてはいけないが、オレ達八神家はザ・庶民だ」

「なのに一番大所帯なんだよね……」

 

 庶民は大所帯って相場が決まってるんだよ。何処の相場かは知らんが、何故かそういうイメージはあるだろう。

 と、ここで藤原凱から奇妙な発言。

 

「そのうちもっと大所帯になるんだろうから、お母さんは大変だよなぁ」

「冗談にしてもタチが悪い。これ以上増えられたら、養いきれんぞ」

 

 さらりと流してやったが、恐らくこれは彼の「知っている」内容の話だろう。推測の形になっていることから、やはり確定ではないのか。

 その内容が現実として確定しないことを切に願う。養いきれないというのは紛れも無い事実なのだから。

 ――もっとも、そんな希望的観測は、ほんの数日のうちに粉々に粉砕されてしまうことになるのだが。おのれ、藤原凱。

 

「? なんでもっと増えるの?」

「なんでって、そりゃミコトちゃんが結婚したらもっと増えるだろ。子供はラグビーチーム作れるぐらい?」

「なんで子沢山前提なのかが分からない。一体何年後の話をしている。日本国の法律上、女子の結婚最低年齢は16歳だ」

「その辺の安い男にミコちゃんは渡さんでー。ミコちゃんが欲しかったら、八神家の最速魔導師と、御神の剣士二人を倒せるぐらいの男やないとな」

 

 ユーノェ……。まあ、別れ際の彼では、オレももらってほしくはないが。彼がどれだけ己を鍛えられるか次第だな。

 アリサ・バニングスがニヤニヤしながらなのはのわき腹を肘で小突く。

 

「なのはの将来の夢は「素敵なお嫁さん」だったわよねー」

「にゃっ!?!? そ、それはその、の、ノリってやつなの!!」

「ノリの割にはなのちゃん、発表した後やりきったって顔してたよね。絶対諦めないっ、的な」

「にゃあああ!? すずかちゃんまでっ!」

「藤原凱、詳しく」

「なのは、ミコトちゃんの性別勘違いして王子様扱い、将来の夢の作文にまで出す。その後性別判明、失恋という名の自爆。今ココ、だな」

「やっぱり自業自得じゃないか」

「にゃああああああ!?」

 

 反応がいい故に弄られるのは、なのはの宿命と言ってもいいだろう。運命ではないぞ。

 

 立食形式のパーティで、皆思い思いに語りながら食事を摂ることが出来るというのは、やはりストレスのないやり方だ。翠屋パーティのときも思ったことだ。

 

「にゃははー、ミコトちゃーん」

 

 ……食事を摂りながら語るだけなら、ストレスはないはずだったんだがな。何故か後ろからなのはに抱きしめられている。

 酔っているのか? いやいや、子供だらけの食事にアルコールなんか出ないだろう。だとしたら、弄られすぎで何かの限界を超えたのか。

 

「動きづらいんだが」

「んー。やー」

 

 引っぺがそうとすると全力で抵抗してくるため、どうにもならない。再三になるが、体格的にはなのはの方が優れているのだ。

 はあ、と溜め息が出る。すぐそばにいたフェイトが苦笑した。

 

「おつかれさまだね、おねえちゃん」

「全くだ。なのは係を変わってもらえないだろうか」

「あ、あはは……今のなのははミコトしか見えてないみたい」

「にゃぅーん、ミコトちゃーん」

 

 全く、どうしてこうなった。そう言って溜め息をつくと、フェイトからはやはり苦笑が返って来る。

 

「ある意味、ミコトの自業自得かな。なのははずっと、ミコトと友達になりたかったはずだから。溜め込んだ分が一気に出てきてるんだよ」

「そんなものか。……まあ、動きづらくはあっても、嫌ではないから別にいいんだが」

 

 ほだされたわけじゃないからな。ほんとだぞ。

 もうなのははこのままにしておくことにして、フェイトと会話する。

 

「楽しめているか?」

「うん。今はアリシアとソワレをミステールに任せて休憩中。妹達がエネルギッシュ過ぎて……」

「フェイトは大人しい方だからな。ソワレも、大人しいと見せかけて、実はアリシアに近いみたいだ」

 

 最近分かったことだ。"夜"という概念を用いた割に、ソワレの性格は明るい。しゃべり方と色の雰囲気でゆったりとして見えるが、中身はエネルギッシュな子供そのもの。

 オレが相手にしていないときは、フェイトがそんな二人の相手をすることになる。

 

「大変じゃないか?」

「ミコトほどじゃないよ。それに……大変だったとしても、これは幸せな大変さだから。苦しくは、ないよ」

「……以前と違って、か」

「そうだね。母さんに従っていたときは、今から思えば苦しかった。辛かった。よかったと思えることなんて、ほとんどなかった、けど……」

 

 思い出しながら、何かを噛み締めているフェイト。

 

「おかげでわたしは、ミコトやなのはに出会えた。こうして幸せな時間を過ごせてる。だから、ちゃんと報われているよ」

「……そうだな。払った分は報われなければ、釣り合いが取れていない」

 

 ――オレ自身は、あのときの結果にまだ納得が出来ていない。プレシアが亡くなってもうすぐ半月が経とうというのに、まだ思ってしまう。もっといい結果があったんじゃないかと。

 それでも、フェイトの顔に憂いは一切なく、アリシアもソワレと一緒にはしゃぎまわっており、ミステールがやれやれと後からついていく。少なくとも、二人にとって最良と思える結果にはなっているのだ。

 いい加減、オレもこの気持ちに決着をつけなければ、三人の母親として胸を張れないな。

 

「「責任は後悔するためのものではない」、だな」

「あ、それ以前なのはに言ってくれたやつなの」

 

 後ろから抱き付いてくるなのはは、気付いたようだ。巨大樹騒ぎで対処が遅れ、町に被害を出してしまった後悔に押し潰されそうだったなのはに送った言葉。

 それを今度は、自分自身に送る。そう、オレはいつだって自分本位だった。

 

「そもそもオレの都合で動いたんだ。その上で出来ることは全部やった。他人の都合に合わせて、出来なかったことに思いを馳せても仕方がないことだ」

「あはは。すごくミコトちゃんらしいや」

「うん。わたし達が大好きなミコトだ」

 

 こんな自分本位な人間を好きだと言ってくれる物好きは、はやてぐらいのものだと思っていたが……存外多いものだ。

 だからオレは、フェイトを抱きしめる。顔を真っ赤にしてあわあわ言っているが、しっかり抱きしめて腕を緩めない。

 

「ありがとう、フェイト。オレも、大好きだよ」

「……ぷしゅー」

「ああ、ふぅちゃんが気絶したっ!?」

「あー! フェイトばっかりずるいー! アリシアも抱っこー!」

「ソワレもー!」

「ところ変われど相も変わらず、賑やかな家族達じゃ。呵呵っ」

「自慢の家族やで。な、ブラン」

「はいっ!」

 

 ちょっと場所が違うだけで、概ね平常運転の八神家である。

 

 

 

 

 

 浴室も豪華だった。女性陣全員で入って、なお余裕のある浴場。恐らく海鳴温泉よりも広かったんじゃないだろうか。おのれ、資本の偏在。

 その後、各々の寝巻に着替えて就寝。オレ達子供組は月村の部屋にあるキングサイズのベッドで、全員一緒に寝ることになった。

 ……なお、本来なら一人で寝ることになるはずの藤原凱であったが、さすがに哀れと思われたようで、ブラン、ミステール、アルフが一緒のゲストルームで眠ることになった。もちろんベッドは別だ。

 まあ、特に心配はないだろう。彼はあれで一線を踏み外すことがない。彼女達にセクハラまがいをやったことは――先日の造形魔法で間接的にはしていたが――直接的にはなかった。

 もし何かあったとしても、ブラン達には「遠慮なく叩きのめせ」と言い含めてある。特にアルフならば、何の遠慮もなくヤってくれるだろう。

 それはそれとして、年頃の少女達が集まって、大人しく寝るわけがない。眠気がやってくるまでおしゃべりである。ある意味お泊り会の醍醐味か。

 

「……で、聞いてみたらやっぱりゴールキーパーの彼と付き合ってるんだって!」

『キャーッ!』

 

 懲りもせず、コイバナである。やはり女の子にとっては大好物なのだろう。オレも、聞いている分には楽しくないわけじゃない。

 今の話は、翠屋FCという士郎さんが監督を務めるサッカーチームの、マネージャーの少女とGKの少年が付き合っているという話だ。それを聞いた少女達が、一様に黄色い歓声を上げる。但しオレ除く。

 

「二人とも聖祥の生徒なのか。オレ達では接点がないから、どうにも想像し辛いな」

「せやねー。けど、想像だけしか出来ない分、妄想が膨らむわー」

「も、妄想なんだ……」

 

 八神家でネタ振り、ボケ、突っ込みのサイクルが確立した。共同生活をしているだけあり、息がぴったりである。

 

「海鳴二小では、そういう話ってないの?」

 

 わくわくとした表情の月村。どうやらこの子は同性愛なのではなく、単に恋愛事に人並み以上の興味があるだけのようだ。ホッと胸をなでおろす。

 

「そういやないなぁ。わたしらが知らんだけかもしれんけど、少なくとも知ってる限りではなー」

「恐らくは精神の成熟度の違いだろう。私立ということは、それだけ知能面は高い水準にあるはずだ」

「つまり、うちの生徒はマセてるって言いたいわけね」

「乱暴に言ってしまえばな」

 

 だがそれが真実だろう。うちの連中は、あの5人衆も含めて、良くも悪くも「子供」だ。恋愛という事象に絡むには、まだまだ幼い。

 残念そうにしぼむ月村。そんな親友の様子に、なのはは苦笑する。油断しきった少女に、鋭い眼光のアリサ・バニングスの指摘が襲い掛かる。

 

「まあ、この中で一番マセてるのがなのはだってことは間違いないわよね」

「にゃっ!? ど、どうしてそうなるの!?」

「4年前の時点で、人の性別を間違えた上での初恋だからな。当事者としては、誇ればいいのやら悲しめばいいのやら」

「にゃああっっ!? も、もうやめてよぉ!!」

 

 本日三度目となる死体蹴り。だがコイバナと言えば、やはりコレは外せない。これだからなのは弄りはやめられない。

 と、ここでなのはが思わぬ反撃に打って出た。

 

「そ、それを言ったらミコトちゃんだって! この間、ユーノ君から告白されてたの!」

『えっ!?』

 

 アリサ・バニングスが驚愕でオレを見て、月村があからさまに目を輝かせる。君は節操がないな。

 しかし、驚きだ。この鈍そうな少女がちゃんと気付いていたとは。フェイトなんて「え? え?」と言いながらオレとなのはの間で視線を行き来させているというのに。

 

「どうやら君は恋愛絡みだと鋭くなるようだな。やはりマセて……」

「にゃあああ! やめてってばぁ!」

「そうね、今はなのはがマセてるという当たり前の事実よりも、ミコトがコクられたってことの確認の方が大事よ」

 

 「当たり前なの!?」と叫ぶなのはを華麗にスルーし、アリサ・バニングスはニヤニヤしながら詰問の姿勢。いいだろう、受けて立とう。

 

「あたし達が知らないってことは、最後のお別れのときかしら」

「そうだな。そのときに、告白紛いの発言は、確かに受けた」

「……ええぇ。わたし、その場にいたはずなのに全然気付かなかった……」

「ふぅちゃんはまだまだお子様やからしゃーないわ。ま、今後の参考にしときぃ」

「なるほどね。フェイトの反応からして、そこまであからさまな言葉じゃなかったってわけね」

 

 何せ、最後の最後でヘタレたからな、あのヘタレフェレットもどき。

 

「ち、ちなみになんて言われたの!?」

 

 月村の鼻息が荒い。怖いから落ち着いていただきたい。

 

「「次に会うときにもっと男らしくなっていたら、また指揮官になってくれ」だな。ずっこけるのを耐えたオレ自身を褒めてやりたい」

「……何やってんのよ、あの似非フェレットは」

「ユーノ君の黒歴史が周知の事実となっていくの……」

「忘れたらいかんけど、発端はなのちゃんやで?」

「……あれってそういうことだったの!?」

 

 今更になって気付いたフェイトが、顔を真っ赤にして「うわー、うわー!」と言っている。相変わらず天然だな。そこが我が娘の可愛らしいところというか。

 聞いてきた月村は、ユーノに対してあからさまに失望した顔を見せた。……次に会うときに超えるべき壁が多すぎだな、あの少年は。ほぼ自業自得だが。

 

「それであんたは、何て答えたの? フェイトと違って分かってたんなら、すっとぼけた答えは返さなかったんでしょ?」

「あのヘタレっぷりにはすっとぼけてやってもよかったんだがな。一応最初の一歩は踏み出せたことを評価して、「本当に男らしくなっていたら考えてやる」とだけ。まあ、ユーノはそれなりに喜んでいたよ」

 

 それで満足してしまうか、そこから男磨きの努力をするかは、彼次第だ。オレの知ったことではない。

 

「ちなみに、今のあんたにはユーノへの好意はあるの?」

「さあな。オレ自身、どうすれば異性を意識出来るのかが分からない。彼が本当にそれを望むなら、やるべきことは自分磨きよりもオレの意識の変革だと思う。それに気付くとも思えんがな」

「……中々ハードモードな恋愛してるわねー、あいつ」

 

 「ほへー」と感心したようなため息をつく少女達。そこまで大した話はしていないと思うのだが。

 

「そういう君は、告白とかはされないのか? 聖祥という同年代の中では精神年齢がやや高い集団にいるのだ。先の少年のような例だってあるだろう」

「……うっさいわね! ないわよ、悪い!?」

「あはは。わたし達が女の子三人で固まってるせいで、声をかけづらいのかもね」

「唯一声をかけてくるのが、あの変態なの……」

 

 なのはとアリサ・バニングスが揃ってため息をついた。ああ……それは、辛いな。

 しかし、月村は何気に自信家であるようだ。「自分達に魅力がない」とは欠片も思っていないようだ。オレは男ではないから、実際のところがどうなのかは分からないが。

 

 そんな感じで話をしていると、アリシアが大きなあくびをした。

 

「……あふぅ」

「もう眠いか、アリシア」

「んぅ……ミコトママー」

 

 あくびで涙が浮かんだ目をこすりながら、オレに抱き着いてくるアリシア。しっかり抱きとめてやり、頬にキスをする。末娘へのお休みのキスだ。

 

「えへへー」

「眠るまで隣にいてやる。ソワレは、どうする?」

「ソワレも、アリシアといっしょにねる」

「そうか」

 

 ソワレには額へのキス。眠たげな目を笑みの形にして、二人の少女はベッドの中に潜る。オレは二人の隣で、寝顔を見守った。

 

「……すごいわね。ほんとにママみたい」

「うん。ふぅちゃん達が「ミコトママ」って呼ぶのが、分かった気がするよ」

「むぅー。なんかもやもやするの」

 

 聖祥三人娘が、眠るアリシアとソワレに配慮して、小声で感想を述べる。二人が静かな寝息をたてはじめたのは、それからすぐだった。

 

「オレ達も、そろそろ寝ないか? いつの間にか、もう10時だ」

「あれま、ほんまや。楽しい時間が過ぎるのは早いなぁ」

「うん、本当に。……えと、ミコトママ……」

「分かっているよ、フェイト」

 

 「おいで」と声をかける。控えめなうちの長女は、おずおずとオレの腕の中に収まる。ソワレと同じく額へのキス。

 フェイトは顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうにはにかみながら、笑みを浮かべていた。そして彼女は、アリシアの隣に静かに潜り込む。

 はやてのところに行く。彼女は足が不自由だから、自分から動くことは難しい。だから、オレの方から近寄り、寝る前の「儀式」をする。

 

「今日も一日、楽しかったな。ミコちゃん」

 

 はやてが自分の髪留めを取る。オレもまた、彼女と揃いのバッテン印の髪留めを取りながら、応える。

 

「ああ。今日も一日、はやてと過ごせて楽しかった」

 

 二人分の髪留めを重ね、ベッドサイドテーブルに置く。オレ達の行く末がともにあるように、祈るように。

 はやては……やたらとニコニコしていた。これから寝ようとする笑みではなく、何か思いついたときの笑みだ。嫌な予感しかしない。

 

「ミコちゃーん。いつもの、しようや」

「……人前でするものじゃないと思うんだが」

 

 何かを察した月村がガン見している。それを見たアリサ・バニングス、なのはの順に察していき、顔を真っ赤にして黙り、やはりこっちをガン見する。

 だがはやては、まるで意に介さない。むしろ見られてバッチコイと言わんばかりである。これは……断っても聞かないな。

 恥ずかしいものは手早く終わらせるべく、オレははやての頬に手を添え、素早く顔を近付けた。

 チュッと音を立てて、軽く触れる二人の唇。「おぉ~」という静かな声が三人娘から上がった。

 

「ほら、はやて。あまり皆を待たせないで――」

 

 皆まで言わせてもらえなかった。はやてがオレに抱き着き、唇を奪ったためだ。先ほどのお休みのキスでは足りなかった模様だ。

 オレは……半ば諦めの境地であり、抵抗しなかった。最早三人娘の視線すら気にならない。フェイトも見て顔を真っ赤にしているが、それすら気にする余裕はない。

 唇が触れていた時間は、1分かそこら。離れたときのはやての目は、蕩けそうに緩んでいた。

 

「えへへ。ミコちゃん、可愛い」

 

 オレの顔もまた、真っ赤に染まっていただろう。

 

 

 

 

 

 最後に、翌日の話を少しだけしよう。

 かねての予定通り、ノエルの運転するリムジンで登校したオレ、はやて、フェイトの三人。聖祥と違いそんなものに慣れていない海鳴二小の生徒達に配慮して、学校からそれなりに離れた場所で降ろしてもらった。

 そしてさあ日常に戻って学校生活を始めようと意識を切り替えたところで……。

 

「これマジ? リムジンで登校とかブルジョワ過ぎでしょ……」

「噂! 広めずにはいられないッ!」

「待て、加藤、鈴木! オレ達の言い分を聞け!」

 

 それから数日、「八幡姉妹は実はお嬢様である」という噂が流れることとなった。

 ……はやてのみ被害を免れたことが、解せぬ。




思いっきり百合を書きたかったんです(つまり最後の濃厚なはや×ミコがやりたかっただけ)

フェイトもアリシアも、プレシアとはしっかりお別れ出来たので、普通に話題に出すことが出来ます。引きずっていたミコトも、ちゃんと割り切れたようです。

作中でガイ君が示唆している通り、もうすぐ奴らが出ます。つまり、A's編が開始します。
ミコトという自分本位な少女が彼らとどう出会い、どう対処するのか。それは実際に見てのお楽しみということで(作者も)


※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。