不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
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前回の予告通り、会議話です。


二十六話 闇の書

 はやての誕生日パーティから数日後の放課後、八神家にジュエルシード回収メンバー(ユーノ除く)が集合した。理由は、パーティの最中に藤原凱が語ると宣言した話を聞くため。

 「闇の書について知っていることを話す」、彼はそう言った。今更不思議には思わない。彼は、前の事件のときも、明らかに「知っていた」のだから。今回のことも、予め知っていた可能性は高い。

 思い出してみれば、月村邸のお泊り会のときも、「家族が増える」と予言していた。あの時点で教えてもらっていれば、こんな面倒なことにはなっていなかったものを。

 とはいえ、彼が言わなかった理由も想像がつく。オレに闇の書を破壊させないためだ。ヴォルケンリッターと面識がなかったオレなら、迷いなく破壊を遂行していただろう。

 闇の書について知っていたのなら、ヴォルケンリッターという存在も知っていたということになる。彼らを消したくなかったのだろう。お人好しなことだ。

 

「何処から話したもんかな。……っていうか、こうやって俺が中心になって話すのって、何気に初めてだな。照れるぜ」

「ガイ、今日はおふざけはなしにしろ。この件に関して、ミコトが心血を注いできたことは、お前も知ってるはずだ」

「分かってますよ、恭也さん。単なる感想で、他意はないっす」

 

 彼の言う通り、藤原凱という変態は、小さな騒ぎを起こすことはあっても、まじめな話の中心になることは一度もなかった。慣れていないようで、居心地が悪そうに見える。

 だが、彼には話してもらわなければならない。今は少しでも情報が欲しいのだから。

 そして、彼は話し始める――ところで、シグナムが挙手して出だしを折る。

 

「その前に聞きたい。お前は何者だ。主が友人であると認めている故に同席しているが、我々としては闇の書について知っていたというお前を信用するわけにはいかない」

 

 彼女の言うところはつまり、「藤原凱が闇の書を狙う魔導師でないことを証明しろ」ということだ。これに関しては脳筋騎士だけでなく、ヴォルケンリッター全員が同じ思いを抱えているようだ。

 藤原凱は、二度ほど頬をかく。頭の中で思考をまとめているようにも見える。

 次に口を開いたのは、なのは。普段は彼を変態と罵り、その実彼に絶対の信頼を置いていることを認めようとしない少女だった。

 

「なのはも、ガイ君の本当を知りたい。前のときは話せないって言ってたけど、それでもやっぱり知りたいの。……ガイ君のこと、信じたいから」

 

 これで「嫌っている」と言っても説得力がない。その感情がどの程度育っているのかは分からないが、間違いなく芽吹いてはいるのだろう。

 そして、藤原凱もまた、この少女を憎からず思っているはずだ。女子は他者の視線に敏感な生き物だ。聖祥三人娘の中で、なのはに対する視線だけ質が違うことに、オレはちゃんと気付いている。

 だから、こう言われてしまっては彼は断れない。「うっ」と呻いたあと、小さくため息をついた。

 

「……こうなっちまったら、しゃーねーわな。こうなることも、覚悟はしてきたし」

 

 そうして、表情を引き締めた。ある種、諦めのようなものも感じる、複雑な表情だ。

 

「じゃあ導入ってことで、俺が何者なのかから話すことにするわ。結構突飛な話になるから、心して聞いてくれ」

 

 そして、彼は話し始めた。彼が何者なのか。この世界がどういう世界なのか。「前の彼」が、何を願って消えたのかを。

 

 

 

 一度話が途切れ、沈黙が場を満たす。皆それぞれに、今の話の落としどころを探しているように思える。

 

「言っとくけど、この世界が作品みたいなご都合主義で進むなんて楽観視するなよ。俺が知ってるのはあくまで「よく似た作品」であって、この世界じゃない。もう違うところが多々出て来てるんだ」

「具体例を聞きたい」

 

 挙手をし、意見を述べる。そうすると彼は、オレのことを真っ直ぐに見た。

 そして、告げる。

 

「キミだよ、ミコトちゃん。俺の知ってる「作品」には、「八幡ミコト」なんて女の子は登場しない。キミが存在してくれたおかげで、この世界は「作品」とは全く別の歴史をたどってる」

「……特異点、ということか」

 

 まさか自分がそんなものだとは思っていなかったが、ある意味妥当なのかもしれない。オレには「プリセット」という能力が備わっていた。逆に、そんな能力を持っていたから、特異点となったのかもしれない。

 とはいえ、こんなものはあくまで観測者目線での話でしかない。ここはオレ達にとっての現実であり、「作品」の世界ではないのだ。

 

「ちなみに、ガイの知ってる歴史では、今の時点ではどんなことになってるの?」

 

 オレと深い関わりを持っているフェイトが、興味を持って尋ねる。「作品」の自分がどうなっているのか、知りたかったのだろう。そこには「オレ」はいないのだから。

 藤原凱はしばし頭の中で情報をまとめる。

 

「あーっと、まずフェイトちゃんはここにいない。「PT事件」……俺達の世界線で言う「ジュエルシード事件」の重要参考人として、ミッドに連れてかれてる。アリシアちゃんも、復活できなかった」

「……全部、ミコトのおかげなんだもんね。ミコトがいなかったら、きっとそうなっちゃってたんだね」

 

 この世界線でも起こり得た事実に、フェイトは寒さに耐えるように自身の体を抱く。今の賑やかな環境とは対照的な立場に置かれた「自分」を想像して、心細くなったのだろう。

 彼女の手に、隣に座るアリシアが触れる。大丈夫、自分はここにいると言うように。それで、フェイトの震えは止まった。

 それを見てから、彼は続ける。

 

「フェイトちゃんは敵対したままだし、ジュエルシードの何個かはプレシアさんの手の中。次元断層が発生してプレシアさんとアリシアちゃんは虚数空間へ。……ミコトちゃんの協定は、マジでファインプレーだったんだよ」

「どおりでお前からの評価が無駄に高いわけだ。そんなことは露も知らないはずのオレが、結果的に悲劇的結末を回避したわけだからな」

 

 あくまで結果論でしかないのだが、知っている者からすれば評価に値してしまうわけだ。……何故か知らないはずのユーノからの評価も高いが。

 一応聞いておくか。

 

「ユーノにこの話をしたことはあるのか?」

「あるわけねえじゃん、信じてもらえるとは限らないんだから。俺としてはむしろ、皆があっさり信じたことに驚きだよ」

「お前は既に何回か言い当てている。そこに至るまでの経緯も、作り話にしては出来過ぎている。何より、こんな「与太話」を作るメリットがない」

「愉快犯って可能性はあるんじゃね?」

「そんなことをするぐらいなら、お前は女子のパンツの色を聞いている。いい加減、お前の行動パターンも読めてるんだよ、忌々しい」

 

 「てへぺろー」とうざい反応を返す変態。そしてすぐに真面目な表情に戻る。今日は真面目モードというのは本当のようだ。つまり、ここまで一切虚偽を混ぜていないということだ。

 元々疑ってもいなかったが、確かに突飛な話だった。ヴォルケンリッターの再起動の遅さがそれを物語っていた。

 

「……ガイ君は」

 

 ここでようやくなのはが立ち直る。しかし、表情は暗い。何かを思い悩んでるような感じだ。

 

「ガイ君がなのは達に構ってくれたのは、「知ってた」からなの? 「前のガイ君」がなのは達に幸せになってほしいって思ったから、なのは達を手伝ってくれたの?」

 

 自分が友達だと思っていた男の子が、実はそうではなかったかもしれない。そう思っているようだ。それは、なのはにとってはダメージがでかいな。

 これに対して藤原凱は、苦笑しながらなのはにデコピンを返した。

 

「あうっ!?」

「バーカ。んなわきゃねえだろ。何で「前の俺」がそう思ったからって、俺がそれに従わなきゃなんねえんだよ。俺にその意志がなかったら、あんな大変なことを楽しんでやれるわけねえっての」

「だが、お前の行動の根底にあるのは「皆を幸せにするため」のものだろう。実際そう言っていた」

「恭也さんは自分の周りが幸せになって欲しいって思わないんスか? 俺は、世間一般の人が当たり前に言ってることを、当たり前に思ってるだけっス」

 

 彼の言葉が正しいならば、彼は生まれたときから20歳前後の男性の記憶を持っていたことになる。

 もちろん連続性が途切れているため精神年齢は0歳からのスタートのはずだが、それでも記憶などの情報を持っていることが大きいというのは、オレが実体験として知っている。

 だから彼は、あんなにも「大人らしい」のだろう。……一つ、理解出来たな。

 

「確かに俺は、「前の俺」が「皆が幸せになってほしい」って思ったことでこの世界に生まれたけど、それと俺が「周りの皆が幸せになってほしい」って思うのは別っスよ」

「そうか。……それなら、いいんだ」

 

 恭也さんは、小さく笑って引き下がった。ジュエルシード事件を通して、意外と認められているようだ。ハーレム思考さえなくせば、なのはとの仲を認めてもらえるんじゃないか?

 まあ、当人たちが自分達の気持ちにはっきりとは気付いていないようだがな。

 

「ホラホラホラホラ。元気出せよー、なのは。お兄さんからのNADE☆NADEだよー」

「もう、やめてよ! 結局、なのはと同い年なんでしょ!? お兄さんぶらないで!」

 

 藤原凱はなのはに向けて高速で頭を撫でる。そのためになのはの髪はぐちゃぐちゃになり、彼女は怒って手を払う。結果的に元気は出たようだ。

 次の質問は、はやてから。前の事件で傍観者的な立ち位置だったからこその質問だった。

 

「最初から全部知っとったんなら、何で初めに全部打ち明けなかったん? そら信用してもらえるとは限らんけど、頭の中にあれば皆対策取れたはずやん」

 

 彼女が言いたいのはつまり、プレシアの病気をオレが知っていたなら、準備が出来たかもしれないということだ。……それで一時期オレが凹んでいたため、思うところがあるのだろう。

 

「それなんだけどさ。はやてちゃん、バタフライエフェクトって知ってる?」

「「風が吹けば桶屋が儲かる」の英語版やろ」

「大体合ってる。今回の件に置き換えると、俺が教えることによって、どんな影響が出るか予想がつかないってことだな」

 

 なるほど、そういうことか。それは確かに、迂闊に「知っている」とは言えないし、情報の出し渋りもするわけだ。

 

「たとえば、フェイトちゃんが現れた時点で、フェイトちゃんのバックにプレシアさんがいるってことをミコトちゃんに教えたとする。そうしたらミコトちゃんは、どうする?」

「その時点ではプレシアには何の義理もない。ジュエルシード回収の障害になるわけだから、庭園に侵入して拘束、最悪殺害という結果に到っただろうな。彼女の魔法の力を考えると、後者になっていた可能性が高い」

「……こういうことになり得るわけだよ。さすがにこの答えは俺も予想外だったけど」

「あー……迂闊に話せへんな、これは」

 

 はやても納得したようだ。話したらどうなっていたかは分からないが、今よりよくなっていたとは限らないのだ。ある意味で現状は彼が慎重に検討した結果ということだ。

 

「ついでに言えば、俺が知ってるのは結局「よく似た別世界の話」でしかないわけで、絶対の確証があるわけじゃないんだ。八号さんですら、この世に絶対はないって言ってたしな」

「お前をこの世界に飛ばした"観測端末"だったな。ある種人智を超える力を持った者ですら、絶対はないということか」

「……ならば何故、「別の世界」の闇の書の話をしようとする。確証はないのだろう」

 

 ようやく復活したシグナムが、ない頭を絞って言葉を発する。こういうのはシャマルの担当だと思うが、ヴォルケンリッターの将として行動しているのか。

 かけられた言葉に、藤原凱は首を横に振る。

 

「この件については、かなりの確証があると思ってる。過程と結末に関しては全く参考にならないけど、発端だけは前の事件も「一緒」だったんだよ」

「ゲーム進行には携われないが、後出しジャンケンはないということか」

「多分そうだと思う。前の事件にしろ今回にしろ、俺が生まれるより前に種が巻かれてるはずなんだ。「俺やミコトちゃんがいる」ということによるバタフライエフェクトは、関係ないはずだ」

 

 前の事件は26年前の事故が大元の発端。今回は、大昔に闇の書が作られたことが発端だ。なるほど、「作品の世界線」と同じ道筋をたどっている可能性は高い。

 まだ信じ切れていないシグナムに対し、藤原凱は真摯に訴える。

 

「俺にとって、はやてちゃんも、ヴォルケンリッターの皆も、もう「周りの皆」なんだ。どうか、力にならせて欲しい」

 

 シグナムに向かって頭を下げる藤原凱。彼女はしばし、彼を見た。

 

「……分かった、信じよう。お前の声に嘘は見受けられなかった」

「へへっ。ありがとよ、シグナムさん」

 

 そうして、ようやく本日の本題に入る。藤原凱が知る「作品の世界線」における闇の書と、その顛末についてだ。

 

 

 

 

 

 彼が最初に口にした言葉で、ヴォルケンリッターは一様に驚愕することになる。

 

「まず闇の書がはやてちゃんの魔力を奪ってる件なんだけど……高確率で、闇の書に発生してるバグが原因だ」

「……そんな、バカな!?」

 

 シグナムが反射的に立ち上がり、抗議をしようとする。彼女ははやてにたしなめられ、煮え切らない表情で席に着く。

 一度空気が落ち着くのを確認してから、オレは藤原凱に促し、先を語らせる。

 

「何でこんなこと言えるかって言うと、もちろん「作品の世界線」でそうだったからなんだけど、それ以上に「闇の書」って名前で呼ばれてることが大きいんだ」

「名前で? ……闇の書、ヴォルケンリッター、雲の騎士……っ、そういうことか!」

 

 書に纏わる名前を列挙していくうちに、オレは一つの事実に気付いた。最初の誓言のときに、ザフィーラが口にした言葉だ。

 あのとき彼はこう言っていた。「夜天の主」と。闇の書の持ち主を差す言葉として流していたが、そうじゃない。「夜天の主」が本来あるべき姿なのだ。

 

「……うっそだろ。こんだけで分かっちゃうのかよ。マジでパネェな、ミコトちゃん」

「どういうことだ! 一人で納得していないで、私達に分かるように説明しろ!」

 

 シグナムがいきり立つ。だがオレは、また一つ明らかになった事実がために、歓喜を抑えられない。口角がわずかに釣り上がる。

 

「オレだって、何もヒントがなかったら無理だった。オレが偶然、あるいは必然的に召喚の場に居合わせたことと、お前から得た着想が決め手だ」

「それやと、わたしも気付かんとあかんことになるけど……無理やな」

 

 「あはは」と苦笑するはやて。恥じることは何もない。オレは、はやての足を治すために考え続けているから気付けただけなのだ。

 

「つまりは「何故ヴォルケンリッターなのか」ということだ」

「我らが何故、我らなのか……?」

「ヴォルケンリッター。ミコトちゃんの言う通り、ベルカ語で雲の騎士を意味します。けど……わたし達が生み出されたそのときから、わたし達はヴォルケンリッターだったはずですよ」

 

 シャマルからの追加情報でそれは確信に到る。大事なのはヴォルケンリッターの「中身」じゃない。これもやはり、「名前」なのだ。

 

「雲の騎士、ということは、主は空でなくてはならないか?」

「ッ!? た、確かに! 雲は闇を守るものではなく、空に在るもの! そういうことなんですか、ミコトちゃん!?」

「シャマル! だから私を置き去りにして話を進めるな!」

 

 こうなると、"蒐集"という機能自体、最初からあった機能なのか疑わしくなってくる。元々は純粋に魔導を記録するための書物だったのではないかと思えてくる。

 ヴォルケンリッターの本来の役割は、恐らく「蒐集を助ける」などではなく「主の力になる」のみだったはずだ。でなければ、「空に在る騎士」などという名前は与えられていない。

 

「闇の書は正式な名前ではない。最初の誓言、ザフィーラの節から推測するに、「夜空の書」かそれに近しい名前だったんじゃないか?」

「ビンゴ。正式名称「夜天の魔導書」。それが、歴代の主によって歪められてバグった結果、「闇の書」なんて名前で呼ばれるようになっちまったんだ」

「そん、な……バカな……」

「けど……なんでだ。物凄く懐かしい感じがする名前だ。胸の辺りが暖かくなって、だけど何だか切なくって……」

「……俺がずっと持っていた違和感は、これだったんだな」

 

 ザフィーラの誓言で「夜天」という言葉が出てこなければ、オレは気付かなかった。きっと……彼が何としてでも改竄から死守したんだろう。さすがは"盾の守護獣"だな。

 彼らは初めから、蒐集などという使命は持ち合わせていなかったのだ。あるのは、主とともに……今ははやてとともに在るということのみ。今のこの在り方が、あるべき姿だということだ。

 

「考えてみれば、当然か。もし本当に蒐集を助けるのが目的で生み出されているのなら、戦いを厭う感情を与えられているわけがない。その時点で、後付けの使命でしかないということだ」

「じゃ、じゃあ、わたし達はもう、傷つけるために戦う必要は……」

 

 嬉しいのか、目に涙をためているシャマル。気付けて、自分の意志で抗うことが出来るのなら。無用な戦いは避けられるのだ。

 頷いてやると、シャマルはシグナムに抱き着いて泣き始めた。いまだ理解が追い付いていないバカは、何が何だか分からず目を白黒させる。

 ヴィータはもらい泣き気味で、はやてに頭をなでられていた。ザフィーラは目を瞑っているが……口元は、嬉しそうに釣り上がっている。珍しい表情だった。

 ……本当の名前一つで盛り上がりすぎだな。藤原凱もどうしていいか分からず、頬をかいている。

 

「えーと……はやてちゃんへの魔力強奪はただの不具合なんだよって繋げたかったんだけど、どうしよっか」

「とりあえず、収まるまで待ってやれ」

 

 彼らは、ようやく永い「闇」を抜けることが出来たのだから。今は歓喜にひたらせてやろう。

 

 

 

「……ごめんなさい。もう戦わなくていいんだって思ったら、抑えられなくって」

「君が意志に反して戦わざるを得なかった期間を考えれば、無理もない。気にするな」

 

 まだ涙がにじむようで、目元をハンカチで抑えるシャマルに我慢するなと言ってやる。それでもリッターの参謀である彼女は、会議を進めるために自制した。

 ならばその意志を汲もう。藤原凱に先を促し、はやてに発生してる魔力の簒奪は、バグに付随した現象である旨を説明させる。

 

「で……ミコトちゃん達が懸念してる通り、この魔力吸収は今後強まる可能性がある。「作品の世界線」だと、今年の秋頃に悪化して、さらに冬には体の限界が来てたはずだ」

「……思ったよりも進行が早いな。あまり聞きたくはないが、その世界線でのはやては、その後どうなる」

「ああ、大丈夫。ちゃんと生きて物語を終えてるよ。ただ、そのときに守護騎士が取った手段っていうのが……」

「蒐集、ということね」

 

 シャマルの確信を持った問いに、藤原凱は頷く。さらにその世界線では、蒐集による被害者への償いのために、はやて達は管理局勤めを余儀なくされるという話だ。

 ……オレの「相方」は、あくまで「この世界のはやて」だ。「作品の世界線のはやて」がどうなろうと、オレのはやてには関係がないはずだ。

 だけど……納得が出来ず、握った左手に力が入る。オレの様子を察したはやてが、両手を拳に覆い被せて宥めてくれた。

 

「まあ、ミコトちゃんのことだから、このぐらいのことはとっくに推測出来てたんだろうけどな」

「ああ。わざわざ管理世界に関わる気はない。蒐集は行わず、魔力の簒奪を止める。その方針に変わりはない」

 

 藤原凱からの情報で、「闇の書」を「夜天の魔導書」に戻すことさえできれば、バグによる魔力吸収は止まると分かったのだ。時間は少ないが、また一歩前進出来た。

 この調子で原因を突き詰めて行けば、ミステールの力ならばバグを直すことが出来るだろう。……やはり、懸念点ははやてに残された時間か。

 そう考えたところで、藤原凱から提案があった。

 

「もしかしたら、今から蒐集すれば、残り時間を延長できるかもしれない」

 

 彼の言うところによれば、あくまで「作品の世界線」の話であるが、この魔力簒奪は一定期間蒐集を行わなかった場合に発生するものらしい。

 その世界線のはやては蒐集を禁止したがために秋頃に体調を崩し、リッターは誓いを破り蒐集を開始したが、病気の進行の方が早くて間に合わなくなりそうだったということだ。

 だが……。

 

「蒐集を行うためには、魔導師の協力を仰がねばならん。強硬手段でなくとも、管理世界のしがらみに巻き込まれてしまう。はやての足が治った後のことを考えると、下策だ」

 

 下の下というほどではなくとも、やはり推奨とはとても言えない。オレの言葉に、しかし彼は不敵に笑う。

 

「何も人間から蒐集するとは言ってないぜ。管理外世界にも、リンカーコア持ちの動物はちゃんといるんだよ。ユーノから習ったんだから、間違いない」

「……そういうことか」

 

 釣られるように、オレも小さく笑った。管理世界の人間から奪ったら問題なのだから、管理外世界の動物から分けてもらえばいい。理に適っているじゃないか。

 ちょっとオレ達の笑い方が悪くなっていたのか、なのは達が若干引き気味だった。コホンと一つ、咳払い。

 

「試してみる価値はあるな。一度魔法動物がいる近場の管理外世界に赴き、適当な動物から傷つけない程度に蒐集を行ってみよう。それで魔力簒奪にどの程度の影響があるかをチェックする」

「それならば、普通に完成させてしまえばいいではないか。シャマルの分析では、完成させても主への魔力簒奪は止まる可能性があるのだろう」

 

 ここまで静聴していたシグナムが口を挟む。……確かにその通りだ。その方法が通るなら、それでも構わないはずだ。

 だが藤原凱は渋い顔をする。やはり、何か問題があるのか。

 

「怒らないで聞いてくれよ、シグナムさん。……闇の書は完成と同時に、防衛プログラムが主を取り込んで暴走する。バグのせいでな」

「ッ……またバグか! いい加減にしてくれ!」

 

 それは彼への文句だったのか、それとも改竄を加えた歴代の主への抗議だったのか。虚空に向けていたことから、恐らくは後者だろう。

 

「もちろん、これも「作品の世界線」の話だけど……信憑性は高いって、分かるだろ」

「……ああ。認めたくはないが、な」

 

 ここまでの話で、藤原凱の話が全くの与太話などではないと理解できているのだろう。彼女は、静かに認めた。

 

「ここでまた「作品」の話に戻るけど、その事件の最後っていうのが、完成した闇の書が暴走して、はやてちゃんが取り込まれて、気合で分離して、暴走した防衛プログラムを破壊するって流れなんだ」

「気合て、また無茶苦茶な……」

 

 いくらはやてでも、根性論に任せるわけにはいかない。それは「作品」のご都合展開でしかない。闇の書の完成は廃案直行だ。暴走しない可能性もあるが、試してみるリスクが高過ぎる。

 

「蒐集はあくまで延命措置用だな。やはりこちらの主力はミステールということになるか」

「責任重大じゃのう。あまりプレッシャーをかけんでおくれよ」

 

 ひょうひょうと言いながらも、残り時間を聞いて焦りは感じているのだろう。ミステールの頬には一筋の汗。少し気の毒だった。

 

 

 

 これでやることは決まった。ミステールは、フェイトからミッド式を、シャマルからベルカ式を、それぞれ教わる。そして闇の書のバグを理解し、因果を紡ぎ、夜天の魔導書へ戻すのがミッションだ。

 一方でオレ達は、主にはその補助だ。蒐集による延命が有効だった場合、定期的に魔法動物から蒐集を行う。周期や量に関しては今後の調査で調整。但し、絶対に完成はさせないこと。

 あとは、出来れば管理世界にある夜天の魔導書の資料が欲しいところだ。……何とかユーノと連絡が付けばいいのだが。

 そこで、藤原凱が「あ」と何かを思い出したような声を出し、「やってしまった」と口を押さえた。

 

「まだ何か情報があるみたいだな。今開示するとまずい情報か?」

「あー……どっちだろうって感じ。早いうちに知っといた方がいい気もするし、知らないで済むならその方がいい気もするし……」

 

 つまり、知らない方が平和だが、遅くに知ると不都合が生じる可能性があるのか。それならばオレは、知ることを望む。知らないで済む確証はないのだから。

 そう伝えると、彼はばつが悪そうな表情ではやてを見る。今の話題は管理世界にある情報をどうやって得るか、だが。それがはやてに関係している?

 

「あ、これ話さなきゃダメな流れだ」

「いずれオレが答えに辿り着くからな」

 

 「さっすがチーフ」と皮肉に笑う。翠屋の外でオレのことをチーフと呼ぶな。女言葉でしゃべるぞ。

 

「そういえばミコトちゃんって、その歳で翠屋のチーフスタッフだったのね。凄いと思うわ」

「はい、何せわたし達のマスターですから!」

「そんな事実はない。ただのあだ名だ。ホールのチーフは士郎さんが兼任している」

「だけどバイトさんも皆、ミコトちゃんがチーフだと思ってるんだよ? ねえ、お兄ちゃん」

「ああ、須藤が褒めていたぞ。「あんなしっかりした小学生がいるんだな」とな。お前に彼氏がいるのか聞いてきたから、一発殴っておいたが」

 

 何してんですか、恭也さん。彼氏がいるか尋ねるぐらい、別にいいじゃないか。どうせいないんだから。

 そう答えると、「分かってない」とため息をつかれた。むう、何か間違えたか?

 

「あはは……なのはもミコトも、彼氏作るの大変そうだね」

「たにんごとみたいに言ってるけど、たぶんわたしたちもおんなじだよ、フェイト」

「あたしは間違いなくフェイトに相応しくないと思ったらぶん殴るね」

 

 話が逸れている。軌道修正。

 

「察するにはやてに関連した人物が、実は管理世界、著しくは管理局に絡んでいるということなんだろうが……思い当たる人物は一人しかいないな」

「……あー。実はわたしって、監視されとったん?」

「うぇーい、はやてちゃんまで勘良すぎィ! あんたら心読めるんとちゃいますゥ!?」

「おうあんた下ッ手くそな関西弁使いなや。いてこますで?」

「センセンシャル!!」

 

 方言は迂闊に使ってはいけない。

 おふざけムードはここまでだ。ここからは割と真剣に話さなければならないだろう。

 

「イエスかノーで答えればいい。藤原凱。お前の知る世界線のギル・グレアムは、管理局の人間か?」

「……イエス」

「はやてを後見していた目的は、闇の書と主の監視」

「……イエス」

「彼は管理局から指示を受けてそれを行っているのか」

「……ノー」

「単独行動か……私欲のための行動か?」

「ノー。あ、いや、ある意味イエスなのか? 私情って私欲に含まれる?」

「オレが聞きたい意味では別だな。交渉の方法がだいぶ変わる」

「あー、やっぱ交渉するんだ……」

 

 当たり前だろう。そうでなくて、どうしてこの話を聞き出したりするものか。

 彼が管理局の人間でありながら単独行動をしているというのは、こちらにとって大きなメリットがある話なのだ。何せ、上手く取り込めれば「管理世界に関わらず管理世界の情報を得る」ことが出来る。

 そのためには、向こうが何故単独で監視を行っているのかを知る必要がある。

 

「私情、ということは、過去の闇の書の主による被害者かその遺族と言ったところか」

「イエス、でいいかな。ちょっと微妙」

「なるほど、完成後の暴走の方だったか」

「……迂闊なこと言っちまった。イエス」

「やはり完成させると暴走するのか……クソッ! 我々はそんなこと全く知らなかったぞ!」

 

 ますます闇の書を完成させるわけにはいかなくなっただけだ。大したことじゃない。

 私情、即ち怨恨となれば、理由は自ずから判明する。

 

「復讐目的か」

「っ……い、イエス」

「なッ!? ふ、ふざけるな! 我が主は何の罪も犯していない! 逆恨みもいいところではないか!」

「お、俺に言われても困るって! しかも確定情報じゃないし!」

 

 しかし、残念ながら信憑性は非常に高い。この世界でも、ギル・グレアムははやての前に姿を見せず、正体不明の足長おじさんをやっている。

 そして、怨恨の種がまかれたのがオレ達が生まれる前ならば、確定と言って差し支えないのだ。

 重要なのは、いかにしてギル・グレアムの復讐という目的を吸収するか。そのために、怒りという感情で問題から目を背けてはいけないのだ。

 

「落ち着け、シグナム」

「貴様っ! 貴様は何故落ち着いていられるッ! 主に刃を向ける者がいるのだぞ! 貴様にとって主はかけがえのない人ではなかったのか! 所詮、口先だけの詐欺師か!」

「吼えるな、底が知れるぞ」

 

 自分でも驚くほど冷たい声が出た。……否、きっと元々、オレはこんな風にしゃべっていたはずだ。感情を理解出来るようになるまで、オレはこんな風にしかしゃべれなかったはずだ。

 目的のために、容赦なく。オレの根底にある原理は、今も変わっていないという証明だった。

 ――それでもやはり、オレにとってはやては大切な「相方」なのだ。

 

「ギル・グレアムにはきっちりと働いてもらうさ。はやてを騙した分も、傷つけようとした分も、きっちりと、馬車馬のようにな」

「……うわぁ、こりゃキレてますね。間違いない」

「わたしは別に気にしとらんのやけどなぁ。そら騙されたのはショックやけど、実際に危害加えられたわけやなし」

 

 はやてが優しい分は、「相方」たるオレが非情になればいい。それで釣り合いが取れるというものだ。

 ともあれ、ギル・グレアムとは直接会って話をしなければならない。これだけ入念に準備をしていて、「企みが露見したから雲隠れする」などということはないだろう。今回は真正面から切り込む。

 

「はやてが次にギル・グレアムに手紙を送る際は、オレも送る。交渉への招待状をな」

「本当に大丈夫なのか? もし主と対面して、危害を加えられたら……」

「向こうが下手に動けないように、士郎さんと美由希にも増援をお願いしておこう。まさか"剣の騎士"ともあろう者が、彼らの実力を把握していないということはあるまいな?」

「……いや、それなら問題ない」

「これ、交渉じゃなくて地獄への招待状なんじゃないですかねぇ」

「人聞きの悪い事を言うな。向こうがおかしなことをしない限り、こちらから危害を加えることはない。そうだろう、ミコト」

 

 その通り。向こうの目的が復讐である以上、それを知られたと理解したら特攻を仕掛けてくる可能性もある。それを封殺するための御神の剣士3人だ。

 単独行動ということは、少数精鋭で動いているはずだ。10人を超えることはないだろう。そして相手が魔導師ならば、近距離にさえ入れれば御神の剣士の敵ではない。1人当たり3人斬れば終わる。

 その程度のことが分からない輩ならば、実際に痛い目を見させて、その上で交渉すればいい。いつかの遠藤にやったのと同じことだ。

 これ以上のことを藤原凱から聞く必要はないだろう。交渉には必要のない情報だし、必ずしも正しいとは限らない。どうしても知りたいなら、本人に直接問い合わせればいいだけだ。

 

 こうして、今週の日曜に一度リンカーコア持ちの動物からの蒐集を試してみることになり、会議は解散となった。

 ――なお、なのはと藤原凱であるが、藤原凱の抱えていた秘密を知ったことによって、少しだけ、なのはの側から歩み寄ったようだ。

 もっとも、会議が終わったら元の変態に戻っていたために、進展はなかったようだが。……つまらん。

 

 

 

 

 

 拝啓 時空管理局顧問官 ギル・グレアム様

 

 雨に紫陽花の花が鮮やかに映える季節となりました。ギル・グレアム様におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。

 常は私の同居人、八神はやてをご支援いただきまして、誠に感謝の言葉もございません。

 話は変わりまして、闇の書について分かったことがいくつかありますので、一度直接お話をしたいと、八神家一同愚考しております。

 時空管理局顧問官というお忙しい御身でしょうから、時期に関しましては、そちらの御都合を御優先していただきたく存じます。

 その上で、こちらの希望としては出来るだけ早期にお会いできれば幸いです。

 用件のみの短い書面ですが、ギル・グレアム様のご健康をお祈りし、失礼させていただきます。

 

 敬具 八神はやての同居人 八幡ミコト

 

 

 

 

 

 会談の日程は、7月頭に決まった。




ガイ君の素性があっさり受け入れられていますが、それだけ彼らが「チーム」だったということです。過ごした時間は裏切らないのです。
ガイ×なのはフラグがしっかり立ちましたね。ハーレムルートは考えてません。どう考えてもガイ君にそこまでの甲斐性ないしね。

この話では、出来る限りご都合展開はなくしたいと思っています。一つ一つ丁寧に可能性を潰して、目的を達成させます。それがミコトの強みですからね。
「コマンド」はあくまで目的達成のためのツールであり、「プリセット」もミコトの人格形成に必要だっただけで、積極的に戦闘に関わるためのものではないのです。
ミコトの一番の武器は、現実をフラットに見ることが出来る「目」なのです。

最後の手紙文は結構適当です。プライベートのかしこまった時用のテンプレートを見ながら書きましたけど、この文章は真似しないでくださいね(するわけない)





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