不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
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まさかの微戦闘回。まあ微でしかないですし、相手はただの畜生です。


二十八話 蒐集

 日曜日。本日は翠屋のバイト、もとい"お手伝い"をお休みし、闇の書――まだ「闇の書」でいいだろう――の蒐集実験を行う。

 藤原凱の話によれば、これではやてに対して起こっている魔力簒奪が緩和される可能性があるということだ。もしかしたら、闇の書修復の前にはやての足が動くようになるかもしれない。

 そう思うと気持ちが逸るのを自覚する。氷の精神で自制し、冷静に本日のミッションを確認する。

 

「今日の目標は、最初の1ページを完成させることだ。それで緊急の事態が回避されるならよし、ダメならば今後もう少し蒐集量を増やす」

 

 八神邸の庭に集まったジュエルシード回収メンバー改め、闇の書復元チーム。構成は、前メンバーから不在のユーノを除いたものに加え、ヴォルケンリッター全員。彼らに向けて、口頭で最終確認を行う。

 闇の書を闇の書のまま完成させるわけにはいかない。それをしてしまうと、はやてが気合で防衛プログラムを切り離すという無茶に挑戦しなければならなくなる。

 今は0ページであり、闇の書は全666ページ。すぐに埋まるということはありえないが、それでも蒐集量が少ないに越したことはない。安全面でも、労力面でも。

 

「再三になるが、対象の命に関わるレベルでの蒐集は極力避けること。不要な殺生をすることはない」

 

 これに関してはヴォルケンリッターも全面的に賛成している。そもそも彼らは殺戮者ではない。本来は「書とともに在る者」、それだけなのだ。

 オレにしても同じだ。必要とあらば殺人すら厭わないオレだが(もっとも、その前に恭也さん辺りに止められるだろうが)、常時ならば虫などに対する殺生も可能な限り避けている。不要なことはしないのだ。

 

「蒐集場所は、第57無人世界「ビリーステート」。フェイト、説明を」

「はい。第57無人世界「ビリーステート」は、草原と森と豊かな水源が広がる無人世界です。魔力要素も一定量存在する世界であるため、小型の魔法動物が多数確認されています。中型も少数いますが、大型は未確認です」

「……小型から中型、か。1ページだけとは言え、結構な数を集めることになりそうね」

 

 水色のパーティドレス風の騎士甲冑に身を包んだシャマルが、思案しながらそうつぶやく。……何処が騎士甲冑なんだという突っ込みはなしだ。魔力で防御する以上、見た目はほぼ飾りだ。

 シャマルの懸念に対し、ヴィータが鼻息荒く一蹴する。彼女は鮮やかな赤色の、飾り気の少ないゴシックカジュアルだ。オレが普段着ているのをショートスカートにした感じだ。

 

「関係ねえ! 数が必要なら、そんだけ集めてやるだけだ! 力ずくでな!」

「余計な殺生はなしだ、ヴィータ。意気込むのはいいが、力加減は間違えるな」

 

 濃緑の甚兵衛を着たザフィーラが、ヴィータを諌める。イロモノ揃いの騎士甲冑の中で、彼もある意味イロモノではあるものの、色合いのためか落ち着きがある。

 ヴィータのかじ取りは彼に任せるのでいいだろう。そもそも彼はヴォルケンリッターの、ひいては八神家の保護者的ポジションを取ることが多い。オレが何も言わずとも、上手くコントロールしてくれることだろう。

 さて。ここまでヴォルケンリッターの騎士甲冑(仮)を見てきたが、まだまだ検討段階ではあるが似合わないということはないだろう。さすがはオレのファッション力を矯正したはやてである。

 ……が。最後の一人。"剣の騎士"シグナム。彼女は、騎士からサムライにジョブチェンジしていた。

 

「行ってまいります、主。必ずや、あなたのご期待に沿える戦果をお約束致します」

「あはは……我ながら凄いもん作ってしまったで、ほんと。和洋折衷や」

 

 はやての言が全てを物語っていた。えんじ色の外套に、純白の袴。ミスマッチながら美貌の力技で似合わせているサムライナイトは、相変わらずの所作ではやてにひざまずいていた。

 ちなみにこれは第二案である。第一案は、昨日デパートで購入したウェディングドレスもどきをモチーフにしたドレス型甲冑だった。シグナムが真っ赤になってしまい身動きが取れなさそうだったので、こちらとなった。

 

「この国の騎士装束をいただけた。至上の光栄です」

「間違ってはいないのだろうが……いややはり間違っているな。早急に次の案を頼む」

「せやな。皆を待っとる間、ブランとシアちゃんと一緒に考えとくわ」

「な、何故なのですか、主!?」

 

 この国にかつていたと言われている戦士の装束を、シグナムは大層気に入っているようだが、この国に生まれた者として、このミスマッチを許容するわけにはいかない。修正が必要だ。

 だがまあ、今日はあくまで仮甲冑だ。全員このままで行く。

 

「ヴィータちゃんの格好、可愛いの!」

「そ、そうか? ミコトっぽい格好だし、あたしには似合わないかなって思ってたけど」

「そんなことないの! とってもとっても、似合ってるの!」

「……へへっ。ありがとな、なにょは!」

「なのはなの!?」

「まあ、少しコスプレ感はあるが……皆よく似合っていると思うぞ。いい騎士甲冑だ」

「ありがとうございます、恭也さん。わたしのは、ちょっと前に出るのが躊躇われる格好ですけどね」

「シャマルが前衛に出る必要はないだろう。俺とシグナムの二人がいれば、十分だ」

「……心強いです、本当に」

「恭也さんがまたフラグを立てようとしてる件。ザッフィーは「オトン」って感じだな。そのまま日常生活できそうだわ」

「常在戦場、ということか?」

「そういうわけじゃないけどさ。一度その格好でその辺歩いてみると分かるんじゃね?」

「むぅ……」

 

 ……意外とこのまま本決定になってしまいそうだ。但しシグナム除く。

 手を打ち鳴らし、もう一度皆の意識をこちらに向ける。本格的な戦闘はないだろうが、それでも遠足に行くわけではないのだ。

 

「連絡手段はいつも通り、ミステールによる念話共有だ。リッターは初めてだから説明しておくが、魔導師・非魔導師問わず、常時念話会議を行えると考えておいてくれ」

『戦場におけるわらわの唯一と言っていい存在意義じゃの、呵呵っ』

『謙遜しちゃダメだよー、ミステールちゃん。ボクなんて、空飛ぶための風を起こすことしかしてないんだから』

『エールも、けんそん、ダメ。ミコトの、やくに、たってる』

 

 当然ながら、オレはフル装備だ。既にソワレを闇夜の黒衣として纏い、ミステールのブレスレットをはめ、エールを顕現させて手に持っている。

 肩に乗る、八神邸との連絡役を担うもやし1号が、召喚体の皆に説いた。

 

『各々出来ることが違うのである。我らが成すべきことは、全力をとして女王様のお力となること。悲願を果たすべく、我らは生まれたのであるぞ』

『もやし、いいこといった。えらい』

『そうじゃな。主殿の悲願は、もう目前なのじゃ。わらわも力になりたいと、心の底からそう思うぞ』

『そういうことだね。ボクは最後までミコトちゃんの"翼"になるよ』

「……そうやって感動させてオレの涙を見ようという魂胆だろうが、甘い」

 

 「ちぇー」とわざとらしくくちばしを尖らせるエール。それでも……思いはちゃんと伝わってきたぞ。

 アリシアが、少し落ち込んだように見える。ブランは苦笑しながら彼女を宥めた。恐らく、自身も召喚体であるにも関わらず、何もできないと思っているのだろう。

 オレは、オレに出来る一番優しい微笑みを浮かべ、アリシアの頭を撫でた。

 

「はやてとブランと一緒に、オレ達の帰る場所を守っていてくれ。それが、オレが君に望むことだ」

「ミコトママ……、……うんっ。おるすばんしてるから、早くかえってきてね」

 

 アリシアの頬にキスをする。立ち上がり、ブランを見上げる。彼女は任せろと言うように頷いた。

 これで伝えるべきことは伝え、やるべきことは成した。振り返り、フェイトとアルフ、そしてシャマルの三人に指示を出す。二人から魔力供給を受けたシャマルが、大きなベルカ式の魔法陣を展開した。

 青緑色の巨大な転送陣の中に、皆で入る。これだけの大きさなら、もう数人を一緒に転送することも可能だろう。そんなことを考えている間に、転送が開始される。

 光に包まれる中、オレは魔法陣の外に佇む三人を――そしてはやてを見て、言った。

 

「行ってきます」

「行ってらっしゃい。皆、怪我とかせんようにな」

 

 そうしてオレ達は、第97管理外世界から姿を消し、緑溢れる無人世界へと転移したのだった。

 

 

 

 

 

 第57無人世界「ビリーステート」。比較的安全な無人世界であり、ミッドに住んでいたころは、フェイトとアルフもリニスに連れられてよく利用したそうだ。

 まさに最初の一歩を踏み出すにはうってつけの場所だった。

 

「んー……空気が綺麗なの」

「人間の文明が存在しない世界だからなぁ。川の水とかそのまま飲めるんじゃね?」

「やめておけ。工業汚染の心配はないだろうが、寄生虫や細菌の問題はある。飲むなら煮沸消毒してからにしろ」

「……ミコトちゃん、風情がないの」

 

 風情を重視して病気になったら意味がないだろう。せめて飲める水かどうかチェックしてからやれ。

 それに、オレ達は遠足やハイキングでここに来たわけではないのだ。

 

「シャマル、近くに魔法動物の反応は?」

「……ないわね。転送の気配を感じ取って逃げたのかしら」

「ここいらの奴らは、個体が弱い分警戒心が強いんだ。ちゃんと魔力を隠ぺいしないと近付くことも出来ないよ」

 

 ここに来たことがあるアルフは、動物的感覚で理解しているようだ。となると、簡単に捕獲を行える可能性が高いのは、オレと恭也さん、それからアルフも出来るようだ。

 シャマルは、魔力を隠すこと自体は出来るが、本人がトロいので捕獲は無理。元々任せる気もないが。

 

「ねらい目は、うさぎみたいな羊みたいな、二足歩行の魔法動物だよ。草食で大人しいから、捕まえるときに攻撃される心配もない。あたしは「モコモコなやつ」って呼んでる」

「そういえば、アルフは勝手に狩りをしてリニスに怒られてたね。……ちょっと、懐かしくなっちゃった」

 

 当時はあまりいい思い出がなかったと言っていたフェイトだが、それでもリニスは別だったのだろう。目の端に小さな涙の玉が浮かぶ。

 抱きしめてあげようかとも思ったが、彼女はすぐに涙を振り払った。……強い子に成長しているみたいで嬉しいな。

 

「他に注意すべき点などはあるか?」

「そうだね……あの岩山の方には近付かない方がいい。運が悪いと中型で気性の荒いやつが出てくる。そこまで強くはないけど、集団で来られると厄介だ」

「オレは特に注意すべきだな。ソワレの力で戦うことは出来るが、加減がきかない。ソワレも頑張ってはいるんだがな」

『……てかげん、むずかしい。ごめんなさい』

「謝るな。君が研鑽を重ねていることは、ちゃんと理解している。恥じることは何もない」

「ふふっ。優しいリーダーですね」

 

 相変わらずシャマルはその話題を引っ張るな。まあ、いい。

 「モコモコなやつ」は感知範囲は広いが逃げ足はそこまで速くないので、近付ければオレでも捕まえられるだろうということだ。

 

「今日のところは小型のみを狙うことにしよう。中型と遭遇したら戦闘を避けられない。この面子で敗北はないだろうが、わざわざ怪我をするリスクを背負う必要もない」

「賛成です。今日の目標は最初のページの完成、小型だけでも十分可能だと思います」

 

 極端な話をすれば、一匹を蒐集出来るだけでもいいのだ。ならば極小のリスクすら背負う必要はなく、セーフティの中で小動物と戯れればいいだけだ。

 とはいえ、どんなにリスクを減らしても、自然の中に出るというのはそれだけでリスクになり得る。それは忘れてはならない。

 

「最大の敵は遭難だ。恭也さん以外全員飛べるし、ミステールの念話共有もあるが、油断だけは絶対にしないように」

『了解!』

 

 全員から――シグナムからも。ブリーフィング中に私情を挟むことはしなくなったようだ――いい返事が返ってきた。

 

 基本方針の伝達は終わったので、次はチーム分け。今回の方針から、チーム人数は多くない方がいいので、基本はツーマンセル(但しアルフは単独)でミッションを行うこととする。

 闇の書を持つシャマルは蒐集係として基本は待機、都度転送魔法で移動することになった。必然的に、パートナーは飛行能力を持たない恭也さん。

 魔法動物に感知されない貴重な人員二人だが、移動面での問題であるのでしょうがない。それに、運よく近くに魔法動物が来れば、捕獲することも可能だ。

 本来のパートナーであるアルフが単独で狩りを行えるため、フェイトのパートナーとなったのはザフィーラ。使い魔を使役することに慣れているため、フェイトがザフィーラを上手く扱えるからだ。

 この二人は魔力隠ぺいの技術を持たないが、フェイトの機動性がある。上手く追い込むことが出来れば、ザフィーラがバインド等で捕獲することも可能だろう。

 次の組は順当に一番不安がある、なのはと藤原凱、プラスしてヴィータ。飛行魔法ならば運動音痴は出てこないだろうが、それでもトロいなのはにどれだけ出来るかが問題だ。

 彼女を藤原凱と組ませたのは、彼ならばなのはを上手く制御できること(逆ではない)と、彼のシールド魔法の応用性の高さを見込んでのことだ。なお、ヴィータは変態のお目付け役だ。

 そして、最後にオレとシグナム。なのは達とは別の意味で、一番不安だ。何せ、能力はともかくとして性格的な相性が最悪なのだ。だが、他を上手く活かすためには、この余り者ペアはどうしようもないのだ。

 魔力感知されないオレではあるが、正直捨石である。手を抜くことはしないが、戦果は一切期待していない。そもそもペアのシグナムには不向きのミッションだから、誰かは外れくじを引かなければならないのだ。

 本命はアルフの狩り、次にシャマルと恭也さんの待ち。フェイトとザフィーラがちょっと下に来て、かなり下になのはと藤原凱とヴィータ。そしてドベでオレ達という期待値だった。

 とはいえ、バカとハサミは使いよう。何事も工夫次第だ。

 

「それでは、散会!」

 

 号令一下、シャマルと恭也さん以外の全員が各々の方法で宙に浮き、バラバラの方向に飛んでいく。オレはエールの風を受けて、シグナムと並走した。

 余計な会話はなく空を行く。遠くの方で木々がガサガサなっているから、シグナムの魔力に当てられて逃げている魔法動物がいるのだろう。

 

「……こっちから回り込むぞ」

「何故だ。真正面から行けばいいだろう」

「正直言って、オレ達での捕獲は無理だ。貴様の気配が大きすぎて逃げられる。逆にそれを利用して、他のチームがいるところに誘導した方が効率がいい」

「くっ……了解」

 

 端的に客観情報のみを伝え、シグナムは苦虫をかみつぶしたような顔で指示を聞きいれた。確かあっちの方向にはアルフがいたはずだ。

 大きく迂回するようにシグナムを従えて飛ぶと、木々のざわめきが意図した方向に移動する。ほどなくして、アルフから全体共有の念話が届く。

 

≪ゲットしたよ! モコモコなの三匹と、リスみたいなサル二匹! 大漁大漁!≫

≪そこから動かないでね。座標を特定したから、今から転移します。さ、恭也さん≫

≪ああ。お手柄だな、アルフ。それと、ミコトとシグナムもな≫

 

 ……恭也さんはオレ達がアルフがいる方に追い込んだことに気付いているのか。どうやって把握してるんだ。

 

「ふっ。さすがは我が好敵手だ。分かっている」

「調子に乗るな。貴様一人で突っ走ったらこうはなっていなかったと肝に銘じておけ」

「ぐっ。わ、分かっている!」

 

 褒められて調子に乗りかけるシグナムを律する。オレへの対抗心でいつ暴走しないとも限らないから、コントロールに神経を使うのが難点だな。

 しばしあって、シャマルから蒐集完了の通信が入る。

 

≪今ので大体1行です。闇の書は1ページ当たり30行ですから、これを30回繰り返せば1ページ埋まるはずです≫

≪リスザルもどきの方が魔力は多いようだが、無理をして捕まえようとするな。あっちはかなり動きが素早い。羊もどきを捕まえるのが無難だ≫

≪了解。今モコモコなのを見つけたから、ザフィーラの方に追い込んでる。バインドの準備は大丈夫?≫

≪案ずるな。そちらこそ、追い込みのルートを違えるなよ≫

≪ふぇぇ、皆行動早いの……なのは達も頑張らないと!≫

≪焦んなよー。俺らは俺らのやり方でやりゃいいのよ。な、ヴィータちゃん≫

≪あたしに振んな、変態。つーか……チーム力高ぇな、お前ら≫

≪そりゃ俺らには「最高のリーダー」がついてますから。な、ミコトちゃん?≫

≪オレに振るな、変態≫

 

 全員、特に混乱なく念話共有を行えているようだ。順調だな。

 やはりと言うか、なのは達の組が悪戦苦闘しているようだ。あの組は藤原凱が意外性を発揮できるかどうかにかかっているから、しょうがないと言えばしょうがない。

 だが、彼らが結果を出せずとも、チーム全体で結果が出ればそれで良いのだ。

 

「オレ達はアルフのサポートを続けるぞ。彼女のところが、一番余裕がある」

「そのようだな。……しかし、ヴォルケンリッターの将たる私が、こんなに楽をしていていいのだろうか。もっとやるべきことがあるのでは……」

「それは思考の罠だ。何でもかんでも労力を払えばいいというものではない。少ない労力で最大の効果が出ているのだから、これが最適だ」

「……むぅ」

 

 やはりシグナムは、納得していないようだった。

 

 

 

 2時間ほどが経過し、一旦集合をかける。最初に転移してきた見晴らしのいい丘に戻ってきた。

 これまでの戦果は15行強。羊もどき150体分相当だ。アルフがリスザルもどきをほどよく狩ってくれたので、実際に狩った総数で言えば100体には満たないだろう。

 だが、2時間だ。古強者であるベルカの騎士たちや御神の剣士はまだまだ余裕だろうが、なのはの集中力の限界は近そうだった。

 

「……なのはは一体何を落ち込んでるんだ」

「苦労して捕まえた一匹に入れ込んじゃったみたいなんだ。さっきからずっとこんな調子だよ……」

「うぅ……うちで飼いたかったのに……」

 

 ヴィータに慰められているなのはは、それでも涙目だ。住んでいる世界が違う以上、如何に彼女がそれを望んでも、無理矢理連れ帰るのは筋が通っていないのだ。

 もっとも、飼いたかったという気持ちは分からないでもない。オレも一度眠っている羊もどきを捕獲することが出来たが……あの抱き心地は、癖になる。

 

「だが、第97管理外世界で生存できるかは分からないだろう。ユーノのように魔力要素が適合しないという例もあった。加えて彼らは種族も違う。君の都合で連れ帰って、彼らを不幸にする結果もあり得る」

「……分かってるけど~」

 

 理屈ではないのだろう。なのはがオレが言った程度のことを考えられないとは思わない。既に考えて、それでも自分を納得させられないのだろう。

 ……こういう場合に説得をするのは、オレではなくはやての役目だった。オレは気持ちが分からないから、それを想像して訴えかけるということが出来ない。

 だが……今のオレならば、どうだろうか?

 

「……そうだな。今度、うちに来い。ソワレなら羊もどきの姿を再現することも出来るだろう。それで我慢してくれ」

「ミコトちゃん……ミコトちゃーん!!」

 

 オレに抱き着き胸に顔をうずめてくるなのは。これは、上手くいったと取っていいのか?

 体を震わせる少女の頭を撫で、保護者(藤原凱)に確認を取る。どうやらOKのようだ。まったく……手のかかる"友達"だ。

 

「勝手に決めてしまって悪かったな、ソワレ」

『だいじょーぶ。ソワレも、ためしてみたい』

「そうか」

 

 気を利かせてくれたか。……本当に、よく育ってくれている。母として誇らしいよ。

 

「……小型なら楽かと思ったけど、割ときちーな」

 

 ふうと大きく息を吐き出す藤原凱。恐らく、体力的な意味で一番余力がないのは、彼だろう。

 彼の飛行方法は、以前開発した飛行シールド「ドニ・エアライド」。ちなみにドニ(ドーニー)とは帆船の種類だそうだ。何故ドニなのか、オレは知らない。

 これはシールドに操作プログラムを付加し、それに乗って「無理矢理空を飛ぶ」という代物だ。制御も魔力消費も、通常の飛行魔法と比べて効率が悪い。

 それが、なのはと同程度の魔力量を持ちながら、ここまで余力の差が発生した理由だ。彼の方は気持ちが切れていないようだが、もう30分も動けば限界だろう。

 とは言え、彼らのチームは2時間かけて羊もどき1体だ。今回は藤原凱の意外性を発揮することが出来なかったようだ。

 先に第97管理外世界に戻って待機してもらうという選択肢もなくはないのだ。……まあ、彼らの性格を考えたら、首を縦に振るとは思えないが。

 

「弱いなら捕まえるのも楽だと思ってたけど、そりゃ逃げるよな。そこまで考えてなかった……」

「うむ。我々にはこういった作業は向かん」

「それはオレも思ったことだが、胸を張って言うことではないからな?」

 

 何故か偉そうなシグナムに突っ込みを入れておく。とは言え、オレが有効活用したことによって彼女の存在は結構大きな成果を出している。

 2時間で15行を蒐集出来たのは、アルフがリスザルをそれなりに捕まえられたからだ。だが、それを助けたのは間違いなくシグナムの"威圧"。

 彼女一人ではそんな器用な真似が出来るわけもないが、彼女がいなければオレには出来なかったこともまた事実。実に腹立たしい。

 

「でも、安全に蒐集を行うことが出来ています。このやり方は正解だったと思うわ」

「ああ、やはり危険は少ない方がいい」

 

 移動能力に劣るシャマルと恭也さんではあるが、実は結構働いていたりする。蒐集作業もそうだし、転移先でまだ近場に残っている動物がいた場合、恭也さんが気配を探って捕まえたそうだ。恐るべし、御神の剣士。

 フェイトとザフィーラも、フェイトが追い込みザフィーラが設置型バインド(ミッド式とは違うらしいが、オレは詳しく知らない)を使って捕獲することで、結構な数を捕まえている。

 

「怖がらせちゃってるのは、少し申し訳ないね」

「フェイトは優しいねぇ。いいんだよ、あいつらにとっては「食われなきゃ儲けもの」なんだ。野生ってそういうもんだよ。ねえ、ザフィーラ」

「……俺は自然の狼ではない。聞かれても困る」

 

 元が野生の狼から使い魔になったアルフと、元々守護騎士プログラムの一部として生み出されたザフィーラでは、バックグランドが大きく違う。共感は出来ないだろう。

 アルフの方もそれを分かっていて、冗談のつもりで振ったようだ。狼の姿のまま、カラカラと笑う。

 ……余裕があると言っても、やはり全員疲労しているな。オレも、飛行はソワレとエールに任せているとは言え、考えたり体を動かしたりはしている。それなりの疲労を感じていた。

 

「シャマル。この状況で、闇の書の魔力簒奪の変化を調べることは出来るか?」

「ええ。……初めの頃より弱まってはいると思う。けど、やっぱりそう簡単に止まってくれるほど都合はよくないみたいね」

「そんなご都合展開が現実で起こるなら苦労はしない。やはり、文字通りの「延命」でしかないか」

「まだ分からんぞ。蒐集量を増やしてみれば、意外と止まってくれるかもしれん。目標の1ページには届いていないではないか」

 

 脳筋が何か言っている。だが、それでもそう都合よくいくとは思っていない。根拠は、藤原凱が語った「作品の世界線」での話だ。

 かの世界では、秋頃に蒐集を開始し、現状よりも完成に近い状態になったにも関わらず、冬に魔力簒奪が止まっていなかったのだ。

 となれば、出来ることはあくまで「弱めること」であって、完全に止めるには闇の書の修復を完遂するしかないのだ。

 

「それでも弱まっているなら無意味ではない。今ならはやてに抵抗力を付けさせることも出来る。それが出来れば、緊急の事態は当面回避出来るはずだ」

「……そうね。なら、今日はもう終わりにする?」

「余力のある者もいるが、限界が近い者もいる。ここは限界の方に合わせるのが正解だ」

 

 それに、本当に限界までやって帰りの転送の魔力まで使い果たしたのでは目も当てられない。やはり、ここが切り上げ時だ。

 

 そう、考えていたのだが。

 

「待った。それならば、私に中型討伐をやらせてくれ。中型なら、そこまで数を集めずとも、1ページに届くはずだ」

 

 オレの言うことを聞こうとしないバカが、ここには一人いるのだ。

 はあ、とため息をつき、この騎士道バカに分かりやすいように説明してやる。

 

「貴様はここまでオレの話を聞いていたか? 1ページは目標であって、絶対条件ではない。少々のリスクすら取る必要はないんだ。既に結果が出ている以上、今日はもう蒐集の必要はない」

「だが、私には余力がありあまっている。中型の魔法動物程度には後れを取らぬ自信があるから言っているのだ。それに騎士として、目標を妥協することは出来ん」

「貴様の騎士道など知らん。そんな個人の主張でチーム全体に不利益を及ぼそうとするな。その程度の理解すらないのでは、ヴォルケンリッターの将が聞いて呆れる」

「……貴様、大人しくしていればつけあがりおって。まずは貴様から切り捨ててやろうか?」

「二人とも、やめなさい! もう、どうしてすぐケンカになるのよ!」

 

 ここまで互いに我慢してきた分、一気に険悪になり始めたオレ達の間にシャマルが立つ。睨み合いながらも、とりあえず止まる。

 ……こいつが切り捨てられる相手だったらよかったのだ。だが、はやてにとって大事な家族となってしまった今、オレの一存でシグナムを切り捨てることは出来ない。単独行動をさせるわけにはいかないのだ。

 それをこいつは、分かっているのか。分かっていないに決まっているか。何せ今も単独行動を取ろうとしているのだから。

 

「……私の力が、信用ならんのか?」

 

 オレのことを鋭くにらみながら、シグナムは尋ねかける。彼女にしては珍しく、怒りの感情からのものではなく、真摯な問いかけだった。

 

「戦闘力という意味では、魔法を行使すれば恭也さんに匹敵することから、信用はしている。だが、行動原理が単純すぎて危なっかしい。そういう意味で信用ならん」

「ならば、貴様が私の頭脳となれ。私に足りないものを、貴様が補え。……悔しいことだが、貴様の指揮は確かに効果があった。それをなかったことにするほど、私はものが見えていないわけではない」

「……オレは、適材を適所に配置しただけだ。指揮をした覚えはないが……そういう評価を受けることは、遺憾ながら多い」

 

 つまり、彼女は自身の思うところを抑え、現実を正確にとらえたということか。その上で、ヴォルケンリッターの将として自分を律し、オレに頭を下げて来ているのだ。

 さて、どうしたものか……。

 

「オレを動かしたいなら動かす材料を持ってこい、と言いたいところだが……確かに1ページを蒐集するという目標を達成することに意味がないわけではない」

 

 情に訴えたところで、オレには意味がない。オレは感情では判断しない。損得勘定、利害計算で行動する。それは今も変わらないのだ。では、中型を蒐集するメリットとデメリットは何だ。

 メリットは、今日の目標である1ページを達成できるということと、余らせたシグナムのリソースを有効活用できること。

 デメリットは、戦闘が予想され多少のリスクを背負うことになる。とはいえ、これ自体は非常に小さい。シグナムの実力を考えれば、無視できると言っていいレベルだ。

 だが、彼女を単独行動させると、予想外の事態――極端な例だが、現時点での管理局員との遭遇など――に対処できると思えない。そのためにオレが同行せねばならず、オレ自身が足手まといとなる可能性が存在する。

 このメリットとデメリットを並べ、どちらの方が大きいかだ。

 ……よし。

 

「許可する。但し、時間制限を設ける。30分。この時間が過ぎたら、成果を上げられなくても撤退する」

「分かった。それでいい。30分もあれば十分だ。私の手腕を見せてやろう」

 

 同行するのは、オレと、蒐集係のシャマル。他はここで待機してもらう。中型とは言え野生動物だ。あまり大人数で動いたら、警戒して出てこない可能性がある。

 

「すまないが、30分ほど帰るのを待ってもらえると助かる」

「だいじょーぶ! 気にしないで、ミコトちゃん!」

「シグナムとシャマルがいるから平気だと思うけど……怪我しないでね、おねえちゃん」

「俺が行ければよかったんだがな……そろそろ何か移動方法を考えた方がいいな」

「恭也さんがまた一つ人間を辞めようとしてる件。ま、こっちはこっちで人いるし、気にしないでやってきなー」

「シグナム、シャマル! ちゃんとミコトのこと守るんだぞ! ちょっとでも怪我させたら、承知しねーかんな!」

「ははっ、ヴィータもすっかりミコトっ子になっちゃったね。これ、はやてよりも大事に思ってるんじゃないのかい?」

「守護騎士としてどうかと思うが……きっと、平和である証なんだろうな」

 

 オレとシグナム、シャマルの三人は、皆とは一時別行動を取り、中型の巣になっているという岩山を目指した。

 

 

 

 

 

 草原と隣接した森の明るいイメージと打って変わって、岩山周辺は薄暗くジメジメしていた。入り組んだ地形のせいで日当たりが悪く、空気が湿っている。

 雰囲気の時点であからさまに「ヤバイのが出ます」と言っているようなものだった。……中型なのはいいが、毒持ちだったりしないよな。それはさすがに分が悪いと思うのだが。

 

「シャマル、周囲に生き物の気配は?」

「……います。シグナムに気付いているはずなのに、動こうとしていない。さっきまで捕まえていた動物たちとは、格が違うみたいね」

「だろうな。流れてくる空気に戦意が感じられる。中々好戦的なやつのようだな」

 

 戦闘狂の口の端が釣りあがる。騎士甲冑のサムライスタイルと相まって、レヴァンティンをぶら下げるその姿は完全に危ない人となっている。

 

『……ヤな空気だね。この感じ、ジュエルシード事件のときの暴走体みたいだよ』

 

 エールですら軽い調子を失って、警戒しながら辺りを探っている。どうやら、他に生き物はいないらしい。危険を感じ取って近付かないのか。

 歩を進めると、湿った地面に出来た水たまりが水音を立てる。……不快な感触だ。足元のぬかるみが、まるではがれた動物の皮のように感じる。ひょっとしたら、実際にそんなものが落ちているのかもしれない。

 それで悲鳴の一つでも上げられればさぞかし女の子らしいのだろう。あいにくとここにいる連中は無縁の話だな。

 

『……くうき、きもちわるい』

『お互い呼吸を必要とせぬ装備型になっていて助かったのぅ、呵呵っ』

 

 ソワレの言葉通り、空気に混じる獣臭さが増している。生臭さというか、鉄臭さの混じった湿った空気は、この環境が発しているわけではないだろう。源となる存在は、確実に近くなっている。

 そして。

 

 

 

「……どうやら、こいつがここの主らしいな」

 

 オレ達の前には、一匹の巨大な猪がいた。通常の猪を二回りほど大きくした、体毛が黒に近いこげ茶色の、濁った黄色の瞳を爛々と輝かせる、獰猛な獣。これが、中型。

 猪の口元はこびりついた茶色で汚れている。何度も何度も"食事"を繰り返して、落ちなくなった汚れだろう。羊もどきやリスザルもどきも犠牲になっているかもしれないと思うと、ちょっと嫌な気分だった。

 口からは鋭い牙が伸びており、ごふー、ごふーと生臭い吐息が漏れている。ここまで匂ってきて、ついつい顔をしかめてしまう。

 

「うぅ……わたし、こういうのちょっと苦手です」

「だろうな。君達の将は、むしろ得意そうだが」

 

 オレと同じように顔をしかめるシャマルであったが、対照的にシグナムは獰猛な笑み。そんなに暴れられるのが嬉しいか。

 

「中々の使い手とお見受けする。一つ、手合せを願おうか」

 

 伝わるわけがない戦前の礼儀。事実、猪の方は「御託はいい、早くやるぞ」と言わんばかりに身をかがめている。

 

 そして、猪の足元の地面が爆ぜる。巨体のくせに軽やかな動きで、シグナムに向けて突進してきた。

 彼女はそれを受けはせず、ひらりと身をかわす。オレとシャマルは、巻き込まれないように宙に浮いた。

 

「パワーバカな印象だが、腐っても魔力を持った動物だ! 物理攻撃だけだと油断するなよ!」

「無論! たとえ獣相手だろうと、礼を失するつもりは毛頭ない!」

 

 オレの言葉の意味は正しく伝わっているんだろうか? 不用意に突っ込んでカウンターなんか喰らうんじゃないぞと言っているんだが。……まあ、オレよりはよほど戦いに精通しているのだ。何も言うまい。

 再び突っ込んできた猪をかわし、シグナムは刃を振り下ろす。それは途中に発生した水鏡のような壁に阻まれ、弾かれる。奴の張ったシールドか。

 

「そうでなくては面白くない!」

「……君達の将は、どうやらミッションを忘れているようだ。これは後でお説教だな」

「あ、あはは……はあ。優れたリーダーではあるはずなんですけどね」

 

 あの女、完全に戦いを楽しんでやがる。そういうミッションではないだろう、これは。あくまで闇の書を1ページ埋めて、経過を見るというミッションだろう。何でいつの間にか戦いがメインになっている。

 ああ、この作戦を許可するデメリットを一つ見落としていた。即ち、「シグナムが戦いの興奮で本来の目的を忘れる」ということ。ちゃんと蒐集出来る程度には生かしておけよ、まったく。

 

「さて、万一の対策としてついてきたわけだが、この様子ならオレの出番はなさそうだな」

 

 さすがは"剣の騎士"。着物の裾を翻しながら敵の攻撃をかわし、シールドに阻まれつつも攻撃を重ねていっている。その攻防に危なげはなく、シールドもそう長くは持つまい。均衡が破れるのは時間の問題だ。

 そう思っていたら、猪の方もギアを上げてきた。空気の温度が下がる。

 

「これは……凍結の変換資質!? こんなレアな能力を、こんな猪が!?」

 

 変換資質・凍結。電気、炎熱に続く、確認されている最後の魔力変換資質だ。魔力の性質に冷気を付加し、水や空気を凍結させるという、強力にして凶悪な変換資質だ。

 熱力学第二法則に抗うこの変換は、それに伴いプログラムの複雑さも半端じゃないそうだ。そんな複雑なプログラムを予めリンカーコアにインストールされて生まれてくる人間も、多いはずはない。

 それを、目の前の中型魔法動物が行っているのだ。恐らくはこの個体固有の能力。シャマルの驚きも、むべなるかな。

 猪の足元の地面から凍り付いて行き、水たまりが凍り氷の刃を作り上げていく。なるほど、ここを住処にしているのはそういうことだったのか。

 それと……これだとオレ達も巻き込まれそうだ。

 

「シャマル、近寄れ。ミステール」

「はい、ミコトちゃん」

『魔力と夜の複合にしておくぞ』

 

 オレ達の周りをアメジストの魔力と宵闇が覆う。ミステールによる複合プロテクションだ。「夜」の属性が加わったこれは、通常のプロテクションの防御力に加えて、「黒いカーテン」の性質も持ち合わせている。

 猪が不細工に吼える。それに従って氷の刃が方々に向けて発射される。乱れ撃ちされた一部は、やはりオレ達の方にも飛んできた。

 氷の矢はプロテクションに刺さり、深く沈み込み、勢いを失ってポロリと落ちた。「夜」の柔軟性が加わっているため、威力を逃がすことが出来るのだ。これならば、そう簡単には破れない。

 オレ達の方は問題ない。シグナムの方は……全身から炎を立ち上らせ、迫る氷の刃全てを溶かし落としていた。

 

「美事な技だ! 獣ながら、賞賛に値する! さらば私も、我が力をお見せしよう!」

 

 レヴァンティンを目の前に掲げながら、通じているわけがない獣に向けて口上を垂れるシグナム。おい、やり過ぎるなよ、おい。

 

「レヴァンティン!」

『Explosion.』

 

 ガションと柄の部分に着いたカートリッジシステムが動き、薬莢を吐き出す。同時、レヴァンティンの刀身が炎に包まれ、余剰エネルギーがはるか森の上まで立ち上る。

 これが「カートリッジのロード」によるブースト。オレは最早、祈りに近い気持ちだった。どうかこのバカが非殺傷を切っていませんように。

 シグナムは、炎の刃を大きく後ろに引く。炎の筋が雷光のようなギザギザを描く。そして彼女は、解き放った。

 

 

 

「紫電……一・閃ッッッ!」

 

 一撃は、正しく必殺技。猪の作り上げた氷のフィールドを、圧倒的な熱量で溶かしつくし、炎の刃そのものが猪に直撃した。

 猪は……その巨体が嘘のように弾き飛ばされ、二回、三回とバウンドした後、ゴロゴロと転がり、岩肌に激突する。

 その衝撃で岩壁が崩れ、猪は細かな破片の中に埋もれてしまった。シグナムはそれを確認してから、血糊を払うかのように残り火を斬り消し、レヴァンティンを鞘に納めた。

 

「名も無き戦士よ。良い戦いだった」

 

 そしてたった今自分が屠った(シャマルに確認したところ、生命反応はあるらしい)猪に向けて、満足した表情で頭を下げた。

 今すぐ色々と突っ込んでやりたいところではあるが……とりあえずは、指示を出すか。

 

「シャマル。蒐集の前に猪を救助する。転送魔法で集合場所に戻って、アルフ、ザフィーラ、ヴィータを連れて来てくれ。その間に、オレはあの阿呆に説教をしておく」

「了解。……あれがシグナム最大の欠点よね、ほんと」

 

 シャマルが転送を開始したのを確認してから、オレはまずシグナムの後頭部に飛び膝蹴りを入れるところから始めた。

 

 

 

 

 

「貴様の頭は飾りか? つい数時間前のことも覚えていられないのか? オレは今回のミッションは何が目的だと言った? 答えてみろ、ええおい?」

「ぐっ……蒐集は出来たんだから、別にいいじゃないか……」

「誰が結果論の話をしろと言った。貴様の一撃で猪が絶命していた可能性だってある。ただの時間と魔力の無駄遣いになっていた可能性という意味だ。今回は運が良かっただけだと言っているのが分からんのか?」

「だ、だが! 互いに命を賭した戦いで手を抜くなど、騎士として恥ずべきことだ!」

「ミッションに自分の主義主張という名の私情を挟むんじゃないよ、このド阿呆」

 

 結論として、闇の書の1ページ目は無事に埋まった。凍結の変換資質を持つというだけあり、野生動物にしてはいい埋まり方をしたようだ。2ページ目も5行ほど埋まっている。

 ちょっとオーバーランした感じではあるが、まあ許容範囲だろう。結果的にシグナムは、一番の働きをしたということにはなる。なるのだが、他のリッター達からも刺すような視線が飛んでいた。

 

「ほんとにこのダメリーダーは……ミコトに迷惑かけてんじゃねえよ」

「騎士道も時と場合に寄りけりだろう。柔軟性が足りん」

「非殺傷を切ってなかったのがせめてもの救いよね。切ってたら、あれはあの時点でアウトだったわ」

 

 彼女の働きというのは結局のところ結果論でしかなく、彼女がやったことは「私情を優先して戦いを楽しんだ」というだけだ。それでは真面目にやった仲間から非難されようというものだ。

 多勢に無勢ではシグナムも強くは反論できず、こうしてオレからの説教をほぼ一方的に受けているというわけだ。

 「今回消費した合計1時間でどれだけのことが出来るのか」という説教に入ったところで、フェイトから静止される。

 

「その、そろそろお昼の時間だし、うちに帰らない? はやての様子も気になるし」

「……そうだな。いつまでもこれの説教に割いている時間はないか。フェイトに感謝するんだな、脳筋騎士」

「ぐぅ……今回は何も言えん」

 

 当たり前だ。これで口答えするようだったら、しばらく飯抜きにしていたぞ。守護騎士は飲食が必須ではないからこそ出来るお仕置きだな。

 ソワレの黒衣の内側、オレが着ている服の胸ポケットに入っているもやし1号を取り出す。

 

「そろそろ帰るとはやてに伝えてくれ」

『委細承知!』

「異世界間でも意識の共有が出来るって凄いわよね。どういう原理なのかしら」

「話してもいいが、君が理解出来るとは限らんぞ。オカルト方面だからな。それと、時間もかかる。先に転移を始めよう」

「あ、そうね。それじゃあふぅちゃん、アルフ。またお願いね」

「うん、任せて」

「はいよー」

 

 色々あったが、初回の蒐集実験は、一応、目標を達成することが出来たのだった。




無人世界の番号は適当です。名前はねつ造で、「ビリジアン(緑系の色の名前)」+「ステイト(州を意味する英語)」です。
登場した魔法動物のモデルは、羊もどきが「ルーンファクトリー」の「モコモコ」(羊的なモンスター)、リスザルもどきが「スローロリス」(実在の動物)、凍結変換持ちの猪が「ルーンファクトリー」の「クリスタルマンモス」(水属性のボス、氷山を発生させる能力を持つ)です。
いやぁ、世界ねつ造って難しいですね。何とかそれっぽくなるように書きましたけど、それっぽくなってるかは分かりません。けど今後もねつ造世界作らなきゃいけないんだよなぁ……(シグナムとの和解イベント用)

久々の指揮官ミコトでした。相変わらず自分はあまり動かず、皆をこき使って成果を出すスタイル。優秀な人材だからこそ出来る楽ですね。
まあミコトの場合、たとえ人材が優秀じゃなくても、正しく能力を把握して最高の結果を出せるように方針を決定しそうですがね。そんなことしてるから「最高のリーダー」とか呼ばれちゃうんだよ。
さりげなくヴィータがはやてよりもミコトに懐いています。ミコトとはやてと同じ時期に出会ってるし、二人とも可愛がってくれるから、一緒にいる時間が長い方に懐いちゃうのも仕方ないですよね。

次はいよいよグレアムおじさんとの対談……と行きたいところですが、その前にむーちゃんの告白イベントやらなきゃいけないんですよね。お楽しみに。


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