不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
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今回はガイ視点です。

インターバル的な話だけど、多分こっちの方が本筋ですよね(アヘ顔)

この作品、二次創作としてはタイトルバイバイだろうし、情報の出し渋りのせいで一話だけ読んで「なんだこのオリ主(笑)は」ってなるのもしょうがないなと思いますし、それで低得点入れられるのは残念に思えても短時間で折り合い付けられるんですが、最後まで読んだ上での無言の低得点って意外と堪えますね(致命傷) まあ全て作者の実力不足が原因なんですが。
不屈の心はこの胸に、懲りもせずに続きます。

2016/01/13 20:27 あとがき修正。チーム3150ってなんだよ……。


二十九話 恋愛 転

 シャマルさんの転移魔法で第97管理外世界に戻ってきた俺達は、はやてちゃんとブランさん、アリシアちゃんの三人に出迎えられた。一応もやしさんもいたけど、こっちにいるのと「同じ」らしいから除外。

 

「おかえりー。……って、なんでシグナムはちょっと凹んでるん?」

「うぅ、あるじぃ……」

「結果的には活躍したが、概ねやらかした。察してくれ」

「あー……反省しぃや、シグナム」

 

 さすが「相方」って感じだ。ミコトちゃんの短い言葉で、はやてちゃんは言いたいことを理解したようだ。俺は、この二人のやりとりを眺めているのが、実は結構好きだったりする。

 理由は、二人の雰囲気がとても自然だから。ミコトちゃんもはやてちゃんも、無理をしたり合わせたりすることなく、ごくリラックスした状態で会話が成立している。

 それだけ二人が同じ時間を共有していて、波長もピッタリ合っているということなんだろう。そういうのって、見てて気持ちがよくなってくるもんだ。

 決して百合百合してるのを見るのが楽しいだけじゃないので悪しからず。いや百合も好きだけどさ、俺。

 

「皆、疲れとるやろ。ご飯用意してあるから、手洗いうがい済まして、皆揃っていただこうや」

「アリシアもがんばったよ!」

「ええ、とっても頑張ってお手伝いしてましたね。わたしも及ばずながら、微力を添えさせていただきました」

「三人とも、ありがとう。……皆で一斉に行っても混雑するな。順番で行こう」

 

 八神邸はバリアフリー設計らしく、スペース的にゆとりを持って造られている。とは言え、10人以上が一斉に詰めかければ、さすがに入りきらないだろう。

 10人以上……多いなぁ。普通に馴染んでたけど、ふと「原作」を思い返してみると、大所帯過ぎだった。これの統率を取ってるんだから、ミコトちゃんの指揮能力は間違いなく非凡だ。本人は納得してないみたいだけど。

 実働部隊は、俺、なのは、恭也さん、フェイトちゃん、アルフ、シグナムさん、シャマルさん、ヴィータ、ザッフィー。ミコトちゃんの装備となっていたソワレちゃんとミステールちゃんを除いても9人だ。

 俺じゃまずまとめられない。なのはが突っ走って、恭也さんがそれを追って、フェイトちゃんがオロオロして、アルフがフェイトちゃんを宥めて、リッターは全員個人行動。そんな未来しか思い浮かべられない。

 忘れちゃいけないのは、俺達は確かに個々の能力はそれなりかもしれないけど、軍隊的な訓練を受けてきたわけじゃないってことだ。作戦行動って言われても、実際のところピンと来てない。

 あまり参考にはならないかもしれないけど、それでも「原作」を鑑みれば簡単に分かる。この時期の「なのは」は、管理局の制止を振り切って単独行動している。作戦行動が出来るようになったのは、かなり後の話だ。

 言ってみれば烏合の衆。それをまとめあげて、一つの目的のために一丸となって行動させる。それがミコトちゃんの持つ最大の能力だと、俺は思っている。俺が真似しろって言われても絶対無理だ。

 今も同じだ。ほんの何気ない日常のワンシーンだけど、皆の性格を見て綿密に順番を決めていた。

 最初に我慢の出来ないソワレちゃんとなのは、お目付け役としてヴィータ(多分彼女も比較的我慢出来ていないからだろう)。次にフェイトちゃんとアルフ、シャマルさん。

 本人はごく自然にやってることだろうが、分かって見れば、その圧倒的な才覚の片鱗が如実に表れている。だからこそ、俺達は彼女の指示に、疑問なく従うことが出来るのだろう。ヴォルケンリッターでさえも。

 

「やっぱミコトちゃんは最高だな」

「……ガイ。聞いておくが、それはどういう意味だ?」

 

 ポソッとつぶやいた言葉が恭也さんに聞き咎められる。……なんで実の妹にエロネタ振ったときより眼光が鋭いんですかねぇ。いやミコトちゃんが恭也さんにとって妹みたいな存在ってのは知ってるけどさ。

 ここは、真面目に答えないと命の危険が危なそうだ。

 

「最高のリーダーって意味ですよ。恭也さんもそう思いません?」

「そういうことか。それなら、当たり前だと言っておく。今更過ぎるだろ」

「俺も、今日ミコトの指揮を初めて受けて、納得した。お前達が手放しで信頼するわけだ」

「三人とも、聞こえているぞ。恭也さん、ザフィーラ。シグナムを洗面所まで連れて行ってくれ」

「お前が先じゃないのか? こういう場合は、レディファーストだ」

「不本意ながら全体指揮を任されてしまっているので。オレはこの変態とミステールで行きます」

「そうか。ミステール。ガイがミコトに変なことをしないように、ちゃんと見張ってやるんだぞ」

「信用ないのぅ、盾の魔導師殿。ま、日ごろの行いじゃな」

 

 しゃーないっすわな。時折ミコトちゃんにぶっ叩かれたくなって変な行動起こすし。自分のことだけどもさ。

 いやね、マジで変な快感があるんだよ。しかもミコトちゃん限定で。女王様気質っていうか、俺のM魂が絶妙にマッチするっていうか、そんな感じ。

 「道化」を目指して変態的な言動を取ることはあるけど、これに関しては割と素に近いから俺も困ってる。真面目モードのときに自制すんのに苦労するんだよなぁ。

 とはいえ、自制出来ないというわけではない。適当じゃないときに、おふざけみたいな行動を取る気もない。

 

「……藤原凱。少し、話がある」

 

 皆がいなくなり、庭にいるのが俺達三人だけになったことを確認すると、ミコトちゃんが口を開いた。真面目な感じだ。

 

「お前は、伊藤睦月を覚えているか」

「むつきちゃん? 海鳴二小の5人娘の一人だよね。あの、眼鏡かけたちっちゃい子」

「そうだ。彼女が会いたいという人物が聖祥にいる。男子だ」

 

 ……ファッ!? それってつまり、アレですか!? 恋愛系なお話だったりしちゃうんですかァ!?

 俺の中で俄かにボルテージが上がる。ニヤニヤ笑いを抑えられない。男でもコイバナは楽しいもんだってはっきり分かんだね。

 

「名前は「剛田猛」。藤見第5幼稚園出身だそうだ。知り合いではないか?」

「うわぉ、ビンゴ。1年の頃からの腐れ縁なクラスメイトっす。えー、あのむつきちゃんが、あの剛田にー?」

 

 剛田猛、あだ名は「正義のジャイアン」。体が大きく力も強いが、本名が一音違いの某国民的漫画に出てくるジャイアンとは違って、正義感に溢れた好人物だ。ちなみに顔も悪くない。

 たが、浮いた話は今のところない。俺達の年頃では珍しくもない話だ。むしろ同い年で彼女持ちの藤林(翠屋FCのGK)の方が珍しいのだ。

 俺のニヤニヤ笑いで、ミコトちゃんも俺が察したことを察したようだ。ややこしいな。

 

「今のところ知っているのは、俺と田井中とお前、そして居合わせたミステールだけだ」

「ん? どうしてミステールちゃん先に行かせなかったん? その様子だと、無闇に拡散したくはなかったんっしょ?」

「主殿が極秘に連絡を取るとなったら、わらわを介さんとならんからじゃろう。事情が事情じゃから、わらわも秘密は厳守するつもりじゃ」

 

 「ことが終わったらどうか分からんがのぅ」と笑うミステールちゃん。この子も結構快楽主義なところがあるよなぁ。そういうとこで気が合いそうだ。

 そういうことなら、俺も黙っておこう。どころか、恋する女の子の応援だってしちゃおう。ハーレムを目指すからと言って、他人の恋路を踏みにじるゲスではないのだ。

 

「オッケーオッケー。なら、どっかのタイミングで剛田に話つけて、適当に連れ出すって感じで」

「助かる。お前の知り合いで話が早かった。むつきにその旨を話し、剛田少年とは念話共有でお前を通してリアルタイムに交渉しよう」

「くぅ~疲れました! これにて交渉成立です!」

 

 ミコトちゃんの交渉とか、もうこれ勝ち確でいいよね。これまでに交渉失敗したとこ見たことないんだけど。だってこの子、管理局の提督+執務官相手に普通に交渉成立させちゃうんだぜ? パネェよ。

 

「実際に交渉するのはお前なのだから、あまり油断するなよ。とはいえ、そう難度の高いものではないだろうが」

「ですなー。今度のグレアムさんとの交渉の前哨戦って感じ?」

「そんなつもりはなかったが、図らずもそういうことになりそうだ。……今話すのはこの程度で十分だ。そろそろオレ達も行くぞ」

「りょうかーい」

「面白くなってきたのぅ、呵呵っ」

 

 そんな感じで、俺達三人+いちこちゃんによる、「むつきちゃんの恋を応援する会」が結成されたのだった。

 

 食事時、ミコトちゃんがはやてちゃんに足の確認をした。

 

「んー。やっぱ動かんな。けど、何や調子はいいみたいやで。こう、胸の辺りにあった重みがスッと消えたみたいな。まあ、今まで重みなんて気付かんかったんやけど」

「そうか……。効果が出ているなら、今はそれで十分だ。シャマル。一日一回、闇の書の状態を確認してくれ。魔力の簒奪が再増加したら報告すること」

「了解。……ふふ。何だかわくわくしてしまうわね。不謹慎かもしれないけど、皆で一つの目的に向かって動くのって、楽しいわ」

「そうだよな。今までこんなことってなかったから……凄く、新鮮だ。ありがとう、ミコト」

「礼を言うのはこちらだと思うのだが。……相変わらず、よく分からん」

 

 蒐集は俺の発案だったから、効果があったのは何よりだった。

 

 

 

 晩の9時ぐらい。風呂に入って父さんと一緒に映画のDVDを見てると、ミコトちゃんから念話が来た。

 

「ごめん父さん、念話入った。ちょっと止めといて」

「ん、そうか。相変わらず俺には分からんなぁ」

 

 最初の事件から不思議の受け入れ態勢万全だったうちの両親。俺が家族に一切隠さずに管理世界のことを打ち明けられたのは、この家庭環境も大きかっただろう。

 はっはっはと笑う父さんを尻目に、自室に戻って手帳とペンを取る。念話自体はマルチタスクで並行して受けられるけど、話が話だからメモを取ってまとめないといけない。

 

≪ごめんミコトちゃん、待たせた≫

≪こちらこそ、一家の団らんの時間を邪魔して悪かった≫

≪気にすんなって、念話が来ることは分かってたんだからさ≫

 

 詳細を詰めるために、8時のなのはとの念話(そんなことをしてたのは初耳だった)が終わった後に俺と念話で会議をすることになっていた。父さんにも途中で念話が来ることは伝えておいた。内容はボカしたけど。

 向こうも既に風呂を済ませ、後は寝るだけだそうだ。……湯上がりのミコトちゃんか。温泉で見たときはほんと色っぽかったよなぁ。何で同い年であんなに色気があるんだろう。なのはとかは全然なのに。

 

≪先ほど念話でむつきに確認を取ったが、特徴を確認する限り同一人物で間違いないだろう。確認しておくが、彼に現在付き合っている女の子はいるか?≫

≪んにゃ、そんな話は聞いたことねえな。俺らの周りで浮いた話があるのっていや、せいぜい藤林ぐらいだよ。あーっと、翠屋FCのGKなんだけど≫

≪ああ、月村達から聞いた。なるほど、それならまだチャンスあり、か。彼は習い事等はやっているか?≫

≪確か空手をやってたはず。月水金で稽古してるとかで、その日は遊べないっつってたはずだ。ついでに、赤のキャラパンツを好んではく≫

≪最後の情報はいらなかった。となると、火曜か木曜か。むつきの今週の予定は特にないそうだが、オレが木曜に翠屋の"お手伝い"を入れている。必然的に、チャンスは火曜だな≫

≪っつーことは、早速明日交渉して、予定を押さえるって形か≫

≪そうだな。当日になって予定が埋まったのでは目も当てられない≫

 

 するすると話が進んでいく。俺だって今ばかりはおふざけなしだ。可愛い女の子の恋路がかかってるんだ、協力しないなんて男じゃねえ。

 

≪場所はどうすんの?≫

≪変に凝らない方がいいだろう。無難にクスノキ公園の前で落ちあえるよう調整しよう≫

≪憩いに魔法訓練、ブリーフィングに愛の告白。万能だな、クスノキ公園≫

≪公園とはそうあるべきものだろう≫

 

 さらにはなのはの(勘違いした)思い出の場所だろ? あいつには気の毒だけど、かなり笑える思い出話だよな、あれ。なんでミコトちゃんを男と勘違いしたし。

 

≪時間帯はどうする? やっぱ夕日の中で告白とか、シチュエーションも大事っしょ≫

≪お前が彼の行動を正確にコントロールできるというなら、それでもいいが≫

≪……普通に放課後すぐにしような≫

≪それが無難だ≫

 

 明日はとりあえず遊ぶ約束だけ取り付けて、場所は明後日決めた風に見せるのでいいか。

 

≪いや、それだと「うちに来い」的なことを言われたときの回避が難しい。明日のうちに明確に場所を決めた方がいい≫

≪あー、確かに。やっぱよく考えてんなぁ、ミコトちゃん≫

≪それが必要だからだ。そうだな……聖祥からクスノキ公園の前を通って行く遊び場は、どんなところがある≫

≪ゲーセン、カラオケ、ボーリング。あんまり小学生が寄りつくような場所じゃねえな≫

≪それならゲームセンターに誘え。「急に行きたくなったが明日は既に用事があって、明後日なら行ける」という具合にな≫

≪なるほどなー≫

 

 それなら確かに不自然がない。用事を聞かれて狼狽えることがないように、本当に用事を入れてしまえばいい。明日は八神邸にお呼ばれすることになった。

 実際に交渉をする際は事前にミステールちゃんに念話を入れ、まずい雰囲気になったらミコトちゃんのバックアップを受けて交渉する。そんな流れに決まった。

 

≪……いつもこのぐらい真面目なら、オレも楽なんだが≫

 

 用件は終わったが、ミコトちゃんから珍しく愚痴がこぼれる。そのぐらい俺が珍しく真面目だったということなんだろう。

 俺はメモ帳を閉じて鞄にしまい、リビングに向かいながらミコトちゃんの念話に受け答えた。

 

≪やだなぁ、そんなん俺らしくないじゃん≫

≪かもしれないが、お前は真面目な話をしている最中に変態に走ることがあるだろう。あれをやめろと言っている≫

≪ごめん、あれ割と素なんだわ≫

≪……お前との縁を切ることも視野に入れた方がいいのだろうか≫

 

 やめて! 俺も暴発しないように努力してるから! 何とかミコトちゃんを宥めるために、必死で言い訳を考える。

 

≪ほ、ほら! 前に話したじゃん! 八号さんが俺のこと図太くなるようにしてくれてて、その影響でちょっとMっ気が出ちゃってて、全てはそれのせいなんだよ!≫

≪その説明で女の子が引かないと思っているのか?≫

≪デスヨネー!?≫

 

 いかん! これ何言ってもダメなパターンだ! 大人しく黙ってお裁きを受けることにした。

 

≪まったく。……大変不本意ながら、お前のシールド魔法の才能は貴重だ。「気持ち悪いから」という理由で捨てるには惜しすぎる。自分の才能に感謝するんだな≫

≪あざっす! ミコトちゃんに捨てられたらマジで首吊るしかないとこでした!≫

≪どうしてそう極端な選択肢になる。別にオレに捨てられた程度で人生を儚むことはないだろう。オレと道が交わらなくなるだけで、お前の可能性は他にもあるはずだ≫

 

 割と本気の感謝と謝罪に、ミコトちゃんは若干困惑したようだ。

 ミコトちゃんが俺にとって大きな存在であることは、語るまでもない。彼女は俺にとって特異点だから……などという理由ではなく。

 もっとずっと単純な話。彼女は、俺にとって「最高のリーダー」だから。

 

≪最高のリーダーから価値がないって言われるのは、俺にとっては生きてる価値がないって言われるのも同然なんだよ。俺の主観の話だから、ミコトちゃんには理解できないと思う≫

≪ああ。買いかぶり過ぎだと言いたいが……主観の話と言われてしまったら、オレに説得は出来ない≫

 

 そんなもんだ。極端な話、俺達がミコトちゃんを最高だと思うのは、俺達がそう思ったから最高だというだけだ。

 もちろん色んな理由はあるけど、それは全部最高だと思ったことへの理由付けに過ぎない。「俺達が最高だと思った」というのが、「ミコトちゃんが俺達にそう思わせた」というのが、ただ一つの事実だ。

 理由なんてものは、知らない人間に説明するためのものだ。俺達がどうしてそう思ったのか、自分の頭を納得させるための分析だ。「そう思った」という事実だけは、どんなに言葉を尽くしても伝えられない。

 そんな程度のことは、ミコトちゃんは当然知っている。だって彼女は「違う」んだから。だから早々に説得を諦めたのだろう。

 

≪そう思っているんなら、もう少しオレの負担を減らす努力をしろ。お前の変態的行動に付き合うのは、なのは一人で十分だ≫

≪なかなかゲスいこと言ってますぜ、リーダー≫

≪あの子はあれで楽しんでいる節がある。お前とはお似合いなんじゃないか?≫

 

 うおう、切り込んできますな。いや確かになのはのことは好きだよ。一人の女の子として。でもそれはアリサやすずかも同じであって、皆違って皆可愛いよね。

 

≪もちろん、ミコトちゃんのことも好きだけどね≫

≪……≫

≪あれ、ミコトちゃん? おーい≫

 

 てっきり罵られるかと思ったら黙り込んでしまった。ミコトちゃんの念話って固いから、黙り込まれると雰囲気も伝わらないのよね。

 ややあってから、凄く抑え込んだ念話が返ってきた。

 

≪男が軽々しく女の子に「好きだ」などと言うんじゃない。そういうのは、本当に大事な相手だけに言え≫

 

 ……あれ? これってひょっとして、照れてる? やっべ何これ。想像したらめっちゃくちゃ可愛いぞ。

 

≪いやそれならミコトちゃんも大事な女の子だって。普段から言ってるっしょ、ハーレム目指してるって≫

≪信憑性がない。本当に目指しているならば、もっと綿密に計算して行動しているはずだ。お前の行動は、その場その場の衝動に従って賑やかしているだけだ≫

≪そら俺、我慢とか嫌いだし。そら衝動に従いますよ。その上でハーレム目指したって、別にいいっしょ≫

 

 本当にハーレムを作れるのかって言われたら、まず無理だと思ってる。それでも皆のことが好きだっていうのも、嘘のつけない事実だ。

 まあ、ミコトちゃんに関しては、恋人にしたいとかはないけど。ユーノが狙ってるし、クロノも若干怪しかったし。何より、彼女ははやてちゃんのパートナーとしてあるべきだと思ってるし。

 それでもやっぱり、「好きな女の子」ではある。

 

≪嘘じゃないよ。本当に本気で、俺はミコトちゃんのこと、好きだよ≫

≪……うるさい! もう話は終わりだ! とっとと寝ろ!≫

 

 最後は乱暴に念話が送られ、乱暴に切られた。ブツッという頭に響く音で顔をしかめ、父さんに「どうした?」と聞かれた。

 だけど、俺の言葉で恥ずかしがったミコトちゃんを想像すると……顔がニヤける。父さんに「気持ち悪いぞ」と言われた。

 

 

 

 

 

「おーっす剛田ー。飯食おうぜー」

「藤原か。……今日は高町さん達のとこに行かないのか?」

 

 月曜日の昼、予定通りミコトちゃんと(ミステールちゃん経由で)念話を繋いで、剛田に話かける。ちなみに俺らは弁当だけど、公立に通うミコトちゃん達は給食だ。向こうはタケノコご飯だそうだ。

 俺は、母さんが作ってくれた弁当。剛田も同様だ。体が大きい分、向こうの方が量が多い。

 

「たまにはこういうこともあるさね。いつも押せ押せだと、あいつらも気疲れするだろ。俺の優しさだよ」

「ふーん。本当に優しさ見せるなら、付き纏うのやめりゃいいのに」

「あっはっは、そりゃ無理だわ。一年の頃からの日課なせいで、一日一回あいつらに罵倒されないと調子が出ねえ」

「変な奴。って、これも一年の頃からずっと言ってるな」

 

 男同士のバカ話をしながら飯を食う。掴みは上々だ。念話経由で、今の状況をミコトちゃんに伝える。

 

≪タイミングはお前任せだ。くれぐれも、他の面子が加わることがないようにな≫

≪分かってますって。むつきちゃんの恋を、他の野郎に知られるわけにゃいかねーもんな≫

 

 結構気弱そうな子だったし、あんまり大勢だと告白できなくなりそうだ。そんなラブコメ的展開はいりません。

 周囲は周囲でそれぞれに話をしながら飯を食っている。俺達の会話に口を挟む者はいない。ここだな。

 

「ところで剛田、明日暇?」

「明日? 別に用事はないけど、何だよ」

「いやさ、三年になってからゲーセン行ってないから、たまには顔出しとこうと思ってな」

「それなら今日行けばいいじゃんか。俺は空手の日だから無理だけど、お前が呼べば着いてくる奴って結構いるだろ」

「今日は俺も無理なんよ。ちょっと他の学校の友達の家にお呼ばれしてんよ。ゲーセンとは別方向」

「お前、無駄に顔広いのな。男? 女?」

「絶世の美少女。どうだ、羨ましいだろう」

「いつか刺されちまえ」

 

 物騒な冗談だ。……冗談だよね? 冗談だろう、笑ってるし。俺が言った「絶世の美少女」ってフレーズも、聞くだけなら冗談に聞こえるだろうしな。実際は言葉通りなんだけども。本人に自覚がないだけで。

 まさか話題の当人から念話で指示を受けながら会話をしているなんて、藤林君でも思うまい。あ、ちょ、藤林こっち来んな。

 

「ゲームセンターか。僕も最近顔を出してないね。前は練習帰りに皆で寄ったりしてたんだけど」

「藤林も一緒に行くか? ってか藤林がゲーセンって意外な感じ」

「そうでもないよ。僕だって、ああいう場所で皆で遊びたくなるときもあるさ。男の子だからね」

「っかー! 爽やかスポーツマンさんは発言も爽やかだねぇ」

≪やばいヤバイやヴぁい! 空気の読めない彼女持ちイケメン野郎が凸ってきやがったどうしよう!?≫

≪落ち着け。それなら対応は簡単だ。彼の彼女を引き合いに出して、話題から遠ざけろ≫

 

 うわっ、後で藤林から恨まれそう。許せ!

 

「おーう藤林よーう。鮎川さんほっといていいの? 彼女ほっといて男と遊ぶの? それでいいの彼氏サン?」

「うっ。ふ、藤原君、やけに刺々しいね。どうしたの?」

「じゃっかしい! お前に非モテの気持ちが分かるのか? 女の子から邪険にされてもめげない男の心で流す涙が分かっちゃうっていうんですかァねェ!?」

「き、君だっていいところはたくさんあるんだから、ハーレムハーレム言うのさえなくせば、見直してくれる女子だってきっと……」

「おン前マジでか殴り捨てンぞ!? それ一番言っちゃダメなやつだろ! 俺に存在意義なくせって言ってるのと同じだぜそれよォ!?」

「落ち着け、藤原。悪ぃな、藤林。なんかこいつ、お前に来てほしくないみたいだ。ってかマジ泣きしてる」

「……なんかごめんね、二人とも」

 

 何これ、良心の呵責が半端じゃない。何か涙が出てきたけど、二人とも勘違いしてくれた。結果オーライ!

 

≪……その、なんだ。今日は晩を御馳走してやるから、最後まで完走してくれ≫

≪あざっす! こりゃ頑張らなきゃねぇ!≫

 

 ミコトちゃんもはやてちゃんも料理上手いから、八神家の晩飯に御一緒出来るのは役得だな。

 とりあえず藤林は引き下がってくれたけど、飯はそのまま一緒に食うみたいだ。そのままのノリで「鮎川さん(藤林の彼女)はいいのか」って聞いたら、彼女は彼女で友達と食ってるらしい。ま、そういうもんか。

 

「……で、明日だっけ? まあ、別にいいけど」

「ありがとナス! やー、断られたらどうしようかと思ったぜ」

「わけわかんねえな。俺じゃないとダメな理由でもあったのか?」

 

 ……しまった。気が緩んで迂闊な発言をしてしまった。み、ミコトちゃんヘルプ!

 

≪何をやっているのか……。少し情報を出してやれ。さっきオレのことを話題に出したのだから、オレ達も一緒に行くことにすればいい。男が一人では心細かったから、仲の良い剛田少年を誘った、とかな≫

 

 さすがミコトちゃん、一瞬でリカバリーしてくれた! やっぱ最高の女王様だぜ!

 

「さっき言っただろ、他校の友達。その子の友達も一緒に来るんだけど、女所帯に一人だとさすがにアウェーじゃん?」

「その話引っ張るのか。でもお前、いっつも高町さん達に付き纏って、同じようなことしてんじゃん」

「バッカお前、同じ学校で一年から同じクラスの奴らと、他の学校で最近知り合った子達じゃ気安さが違うっての。その点、お前は遠慮とかいらないし」

「ふーん。まあいいや、別に遊ぶことに問題があるわけでもないし。お前の言う「絶世の美少女」がどんなもんか、見てみたいしな」

「おン前信じてないな。実物見たら、マジで腰抜かすから」

「へえ、そんなになの? 僕も見てみたいなぁ」

「藤林ク~ン? 鮎川さんに浮気未遂って伝えちゃっていいっスかぁ~?」

「ふ、藤原君は僕に何か恨みでもあるの!?」

 

 やかましい、空気読め! お前「原作」のクロノが空気読めなかった分が入ってるんじゃないだろうな!? こっちのクロノは話の分かる奴だったから、普通にあり得るぞ!

 何とか約束を取り付けることは出来た。ミコトちゃんに「ミッション完了」と念話を送り、ねぎらいの言葉を受けて回線が切断される。

 俺は何事もなかったように、男達のバカ話に打ち興じた。

 

 午後の授業。何故かなのはから念話で愚痴られた。内容は、昼休みに俺が彼女らの昼食に凸らなかった件について。

 

≪別に来てほしいわけじゃないけど。いつもとリズム変えられたら、こっちだって困るの。来ないなら来ないって初めから言ってほしいって、ただそれだけなの!≫

≪あのー。今日は大人しくしてたのに、何で文句言われてんスかね?≫

≪ガイ君が悪いんだもん!≫

 

 構ってもらえなくてすねる子犬かっての。

 

 

 

 

 

 その後はこれと言ったイベントもなかったので(しいて言うならエプロン姿のミコトちゃんを見ることが出来た。超眼福でした)、翌日の放課後までカットする。

 そして、決戦の時である。別に俺が告白するわけでもないのに、妙に緊張する。

 何か今日に限ってなのはが一緒に下校しようとか誘って来たし。藤林はやっぱりついて来ようとしたし。アリサとすずかが「モテなさ過ぎて男色に……」とか不穏なこと言ってくるし。俺は女の子が大好きだよ。

 藤林は昨日と同じ方法で追い払った。何の協力もせずに可愛い女の子の告白シーンを見ようだなんて、筋が通ってねえよ。当たり前だよなぁ?

 なのはの誘いを断るのは、ほんと苦労した。今日は用事があるって言ったら捨てられた子犬みたいにシュンってなるし、剛田からは何故か超にらまれるし。

 最終的に、明日は一緒に下校してやるって言ったら、機嫌を直してくれた。剛田からは睨まれたままだった。

 そんな度重なる苦労の末、ようやくここに辿り着いたのだ。俺はやりきったという達成感と、本当に不備はなかったかという不安。そのときが迫る緊張。そう言ったものがのしかかってきて、胃がシクシク痛む。

 

≪……こちら藤原ぁー。もう間もなくクスノキ公園の前を通過しまーす。つーか胃が痛い≫

≪もう少し頑張ってくれ。オレ達は既に公園内にいる。そろそろそちらに向かうとする≫

 

 念話でミコトちゃんに報告し、腹を決める。さっきから剛田が俺のことを心配そうに見てるんだよな。俺のことを気にされ過ぎて、むつきちゃんにちゃんと向き合わないというのも困る。

 

「なあ藤原、お前本当に大丈夫なのか? さっきからどんどん顔色悪くなってるけど……」

「へっ、剛田に心配されるほど落ちぶれちゃいねーよ。それより……ほら、見ろよ」

「あ? ……、……え?」

 

 俺が親指を向けた方から現れた、女子の一団。その先頭に立つのは……眼鏡をかけた小柄な女の子。むつきちゃん。

 彼女を見て、剛田は呆けた表情になった。予想外に懐かしい顔が現れて、思考が停止したようだ。

 

「こ、……こんにちは、たける君。ひ、久しぶり」

 

 むつきちゃんは、ぎこちなく笑った。彼女の後ろには、両サイドを固めるようにミコトちゃんといちこちゃん。彼女達はむつきちゃんの背中を押して、公園の入り口の方に下がった。

 

「え、むつき、ちゃん? え?」

「おら、剛田。しっかり決めて来いよ」

 

 俺も彼女らに倣い、友の背をトンッと小突いて、ミコトちゃん達のところに向かう。相変わらずの無表情ながら、ミコトちゃんは「ご苦労だった」とねぎらってくれる。

 さて、どうなることやら。あとはもう知らねーぞ。

 

「……ほんとに連れてきてくれるとは思わなかったよ」

 

 ミコトちゃんを挟んで向こう側にいるいちこちゃんが、俺を警戒しながらそんなことを言う。おいおい、俺を侮られちゃ困りますぜ。

 

「リーダー直々に頼まれたんだ。ありがたき幸せッ!つって引き受けるってもんだよ」

「ふーん。ミコっちの言うことなら、ちゃんと聞くんだ」

「そうとも限らん。真面目かと思ったら急に変態になる、困った奴だ」

「へへっ、お手数おかけしてます」

 

 ミコトちゃんと話してると、何故かM魂が喚起されちゃうからね。シカタナイネ。

 

「……むーちゃん、大丈夫かな。最初の挨拶からほとんどしゃべれてないけど」

「ここから先は、オレも一切の保証をできん。あとはむつきの勇気と、剛田少年の気持ちの勝負だ」

「俺らは最大限出来るお膳立てをしたんだ。……信じて待とうぜ」

 

 今この場の主役は、むつきちゃんと剛田の二人だ。俺達はあくまで見届け人。出来ることは、見守るのみ。

 二人の会話は、まだあたりさわりのないもの。剛田から「久しぶり」とか「元気にしてた?」とか「学校でいじめられてない?」とか、そんな質問をされている。むつきちゃんの答えは、「うん」と「ううん」のみ。

 彼女は――とても可愛らしい「恋する少女」の顔をしていた。男ならば誰もが見惚れてしまうほど、少女ならば誰もが浮かべるのであろう顔。

 そうやって真正面から見られる剛田も、どうしたらいいか分からないようで、とりあえず矢継早に話題を投げている。俺にヘルプの視線を送ってくることもあったが、その全てを無視した。俺が手を貸す場面じゃない。

 いちこちゃんは、ハラハラした様子でむつきちゃんを見ていた。ミコトちゃんは……相変わらず無表情で、見ただけでは分からない。だけど、この場に残っているということが、むつきちゃんを思っている証明だ。

 俺は、どっちなんだろうな。剛田の側なのか、むつきちゃんの側なのか。両方とも、俺にとっては友人だ。や、むつきちゃんの方が俺をどう思っているかは分かんないけども。少なくとも、俺にとっては。

 だから……だからこそ、上手くいってほしいと思う。告白も、その後も。二人の友人だから、二人の幸せを願わずにいられない。

 そして。

 

「た、たける君!」

「はいっ!?」

 

 剛田が「あの二人は友達?」と聞いた直後、むつきちゃんは声を振り絞った。……行くのか! 俺達は、一様に固唾を飲んでその瞬間を見守った。

 

 

 

「わ、わたし! ……たける君のことが、ずっと、ずっと好きでした! ううん、今も大好きです!」

 

 いっ……。

 

(((言ったーーーっっっ!!!)))

 

 三人の心は、多分同じだった。何故なら、俺もいちこちゃんも、ミコトちゃんでさえも、グッと握りこぶしを作った。むつきちゃんの健闘をたたえるように。

 一方、ど直球の告白を受けた剛田は、「へぇっ!?」と変な声を出して固まった。――ここまでも割とあからさまだったと思うが、当事者はやっぱり驚くものなのだろう。

 思いを口にしたむつきちゃんは、顔を真っ赤にしていた。真っ赤にしながら、止まらない想いの丈を紡ぐ。

 

「さ、三年前っ。たける君、わたしが「メガネザル」っていじめられてたの、助けてくれたよね。あのときわたし、すっごく嬉しかったの」

 

 さすが「正義のジャイアン」。幼稚園時代から正義漢は健在だったのか。

 

「それで、たける君がわたしに優しくしてくれて、本当に、嬉しくてっ。どんどんたける君のことが好きになってっ。それで、わたし……っ」

 

 しどろもどろになりながらも、むつきちゃんははっきりと伝えた。

 

「わたしっ! たける君の、お嫁さんになりたいです!」

 

 ……ファッ!!? 一気にぶっ飛んだむつきちゃんの告白内容に、思わず声が出そうになって堪える。いちこちゃんも同じで、口に手を当てて抑え込んでいる。ミコトちゃんは……目が大きくなってるから驚いてるのか。

 いや、ここは「彼女になりたい」が来るべきだろ。一足飛びにお嫁さんって、ある意味凄いぞ、むつきちゃん。

 だが、それでも、はっきりと伝えた。彼女がどう思っているのか。彼女が剛田にとってどうなりたいのか。

 剛田は……どう、応える?

 言い切ったむつきちゃんは、それっきり沈黙する。剛田も沈黙して、目を瞑り、今の言葉を反芻していた。

 静寂の時間は、何度か時計を確認していたから、1分以上だったことは確かだ。正確には分からない。

 1分以上、あいつはしっかり考えた。しっかり考えて、ちゃんと答えを出した。

 

 

 

「……ごめん、むつきちゃん。俺は、君をお嫁さんにすることは出来ない」

「っ。……そう、なんだ……」

 

 むつきちゃんの顔が悲痛に歪んだ。見ていた俺の胸のうちまでかきむしられるようだ。

 カランッと、寄りかかっていた車止めが音を立てる。いちこちゃんが飛び出そうとしたのだ。俺がすぐに反応して、彼女を止める。

 

「何すんのよ、変態! 離してよ!」

「ダメだ! 俺達が入り込んでいいことじゃないんだ! 分かってるだろ!?」

「っ、だけどぉ!」

 

 いちこちゃんも分かってるんだ。剛田を責めても意味がないことを。

 剛田は、ちゃんと考えた。考えて、自分の心を確認して、それに従った。同情でもなく、迎合でもなく、日和もせず。むつきちゃんの気持ちを受け止めて、自分の気持ちを伝えたのだ。

 その答えに、どうして部外者である俺達が文句を付けられる。傍観者である俺達が納得できなくても、介入してはいけないのだ。これは、彼と彼女だけの問題なのだから。

 

「……理由。聞いても、いいかな」

 

 むつきちゃんは、目に涙を浮かべていた。当たり前だ。三年間想い続けた相手に、はっきりとした形で振られたんだから。悲しくないわけがない。

 それでも彼女は、決して零さなかった。自分が好きになった男の前で、決して零そうとしなかった。彼女は……なんて、強い子なんだろう。

 少女の真摯な問いかけを受けて、少年は答える。

 

「……これが、もし小学校に入る前だったら、違ったと思う。もし俺が、聖祥じゃなくて、海鳴二小に行ってたら、むつきちゃんの想いに答えられたかもしれない」

 

 少年は、むつきちゃんのことが好きじゃないわけではなかった。ただ、もっと大きな想いを向ける相手がいただけだった。

 

「俺にも、好きな女の子がいるんだ。同じ学校の、同じクラスに。だから……その想いに目を瞑って、むつきちゃんの告白に応えることは、出来ない」

「……そっか。それじゃ、仕方ないよね」

 

 むつきちゃんは、目に涙を浮かべながら、零さないように笑った。好きになった男の心を応援するために。

 

「少し、安心したよ。たける君が、わたしの好きになったたける君のままだったこと。曲がったことが嫌いなたける君のままだった。……きっと、届くよ」

「……ごめんね、むつきちゃん。本当に、ごめん」

「心配しないで。今のわたしには、友達がいるから。凄く頼りになる、大好きな友達がいるから」

 

 剛田は、深く頭を下げた。……俺も、行くか。

 

「何か、ごめんな。こんな結果になっちゃって」

「……何故お前が謝る。二人の利害が一致しなかっただけだ。誰かが悪いわけではないし、お前も余計なことはしていない」

「それでも……俺が二人を引き合わせなきゃ、むつきちゃんは悲しまなかった。もちろん引き合わせないのが正しかったとは思わないけど、それでも俺は思わずにはいられないんだ」

 

 「悲しい涙を流させたくはなかった」って。俺は、「笑顔を守れる道化」になりたいのだから。こんなんじゃ……ただ滑稽なだけのピエロだ。

 最後の方の言葉は、俺の秘めた決意故に飲み込む。……ミコトちゃんには、バレバレなんだろうけどな。

 友達に涙を見せないように、ミコトちゃんに抱かれて静かに涙を流すいちこちゃん。そしてミコトちゃんは……やっぱり、無表情だった。

 

「オラ、行くぞ、剛田」

「あ、ああ。……元気でね、むつきちゃん」

「うん。たける君も、元気で」

 

 俺達は、むつきちゃんに背中を向けて歩き出した。しばらく歩くと、背中の方で走る気配。何があったかは、振り返るまでもなく理解出来た。

 公園の入り口で、絶世の美少女が二人の同級生を慰めていることだろう。

 

≪こんな結果にはなったが、オレはお前に感謝している。……ありがとう、ガイ≫

≪……どういたしまして、ミコトちゃん≫

 

 最後に念話で名前を呼んでもらい、回線はプツリと切れた。

 

 

 

 

 

「つーか、何であんな可愛い子振るかなっ! お前ホモなんじゃねえのっ!?」

「はあ!? 人聞きの、悪いこと、言うなっての!」

 

 その後、口実だったはずのゲームセンターに行き、剛田とエアホッケーで汗を流していた。俺もあいつも、そんな気分だったのだ。

 ホッケーのパックを打ちあいながら、遠慮のない言葉を浴びせあう。

 

「それ言ったら、お前は、どうなんだよ! ハーレムハーレム言ってるくせに、全然、口だけじゃねーかっ!」

「うっせ! 簡単に出来たら、意味ないだろ! 苦労してこそっ、意味があるんだよ!」

 

 ガコンと音を立てて、向こうのゴールに渾身の一発が決まる。非モテの執念の一撃であった。

 攻防が終わり、剛田はふぅーと大きくため息をついた。互いにだいぶ熱を発散出来たようだ。

 

「はい、俺の勝ち。負けたんだから、さっさとジュース買ってこい」

「チッ。何飲む?」

「アクエリ。ポカリはあんま好きじゃない」

「何となく分かる。まあ俺はマッチにするけど」

 

 ベンチに腰掛ける。剛田が勝ってきたスポーツ飲料を開け、口を付けて一気に飲む。火照った体によく冷えた電解質が効く。

 

「っあ゛ー! キーンと来たァ!?」

「冷たいものを一気飲みするからだ、バカ。口の中で温めながら飲むんだよ」

 

 アイスクリーム頭痛を楽しむ俺に無粋な突っ込みを入れる空手野郎。スポーツマンとそうじゃない奴の、価値観の違いである。

 

「……今後、むつきちゃんと顔を合わせづらいようだったら、俺をダシに使え。お前まで巻き込まれる必要はないからな」

「何言ってんだ。んなことしたら俺がむつきちゃんに刺されるよ。心配しなくても、こんぐらいで顔を合わせにくくなるほど繊細な野郎じゃねえよ」

「そっか。そういう奴だったな、お前は」

 

 女の子の告白を断るという大イベントをこなしたクラスメイトは、何だかちょっとアンニュイな感じだった。腹が立ったので、マッチ口に含んでるときに横っ腹を小突いてやった。

 

「ブフッ!? 何しやがる!?」

「大人ぶってんじゃねーよ。ガキらしくしてろ」

「同い年が何言ってやがる」

「精神的にはお前より大人のつもりだけどな」

 

 いやほんと。確かに「前の俺」の連続性は途切れたけど、記憶を受け継いだことで精神的な成長は早かったのだ。「別物である」って自覚するイベントも、ちゃんとこなしたしな。

 大人は大人らしく、気を使っていつも通りの空気に戻してやろう。

 

「で、どうだったよ。俺の知り合いの絶世の美少女は」

「……正直、ただのホラ話だと思ってた。お前何なんだよ」

「あの子専属のM男。時々殴ってもらったり踏んでもらったりしてます」

「どういうことだよ……」

 

 君には理解できない大人の世界があるのだよ、フハハハハ!

 

「まー実際のとこ、俺はあの子の「友達」ではないんだけどな。あの子って、友達のハードルめっちゃくちゃ高いんだよ」

「そうなのか? けど、むつきちゃんは友達なんだよな」

「うーん、正直微妙だと思う。確かに名前で呼んでるから一定ライン以上だとは思うんだけど、今のところあの子の友達って、なのはだけだと思うぞ」

「……高町さんの、友達なのか?」

 

 んん? やけになのはのところに食いついたな。さてはお前……――

 

 その考えに到り、思考が凍った。

 え? 剛田が、なのはを? は? 何それ、タチの悪い冗談とかじゃなくて?

 

「おお。4年前に知り合ってたらしくて、最近再会出来たんだよ。で、先月プールで遊んだときに、ようやく友達認定してもらえたみたいだな」

「そう、なのか。高町さんの、友達なのか……」

 

 マルチタスクの一つがほぼ条件反射で剛田の問いに答えた。思考を制御する俺自身がフリーズしているため、暴走したマルチタスクを止めることが出来ない。

 

「お、何だ何だその反応。ひょっとして、お前の好きなクラスメイトって、実はなのはだったりすんの?」

「――そうだよ」

 

 はっきりとした返答で、マルチタスクすら全て凍りついた。俺はただ呆然としたまま、剛田の真っ直ぐな視線を受け止めることしか出来なかった。

 

「俺は、高町さんが好きだ。だからむつきちゃんの気持ちに応えられなかった。……お前が本当はいい奴だってことは、俺も知ってる。だけど……この想いだけは、譲れない」

 

 クラスメイトは立ち上がり、高い位置から俺を見下ろす。俺は……何も答えられなかった。

 

 クラスで一番仲が良いと言ってもいい友人が、俺が最も仲が良いと思っている女子のことを好きだった。

 その事実が、ただただ衝撃的だった。衝撃的で……思考が上手く働かなかった。

 自分が、何でその事実にショックを受けているのかすら、分析することが出来なかった。

 

 

 

 俺はまだ、自分の恋心を自覚するには至っていなかった。そのことに気付いたのは……それからずいぶん先のことだった。




オリジナルモブ・伊藤睦月の恋の話。……と見せかけた、ガイとなのはの恋の話です。モブは犠牲になったのだ……。
いやモブにもそれなりの愛着はあるんですけど、やっぱり最優先はメインなのです。慈悲はない。
剛田君はガイ君の恋のライバル的立ち位置となりました。もう勝負ついてるから。慈悲はない。

この一件を通して、ミコトはガイ君のことを名前で呼ぶようになりました。これでチーム3510で名前で呼ばれないキャラクターはいなくなりました。
クロノ? 彼はチーム3510の一員ではありません。あくまで管理局の執務官です。故にこそ、ミコトと張り合うのです。

次でようやくグレアム提督が登場します。どうなることやら……。


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