不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!

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ようやくグレアムおじさんとの交渉会です。牛歩でごめんあさい;;

前回のまえがきだとネガティブシンキングみたいだったので、今回はポジティブに。
もちろん高評価をいただいている方、感想をいただいている方、お気に入りいただいている方、分量ばかりが多い当作品にお付き合いいただいている方々には、感謝の極みであります。
今後もお付き合いいただければ幸いです。

2016/02/15 字の文の一人称が「俺」になっている箇所があったので修正。


三十話 歴戦の勇士

 むつきの件は、本当に残念だったと思う。オレが何を言っても同情にしかならないから言わなかったが、心の底からそう思えるだけ、オレにとって伊藤睦月という少女は「友達」に近くなっていたのだろう。

 いちこ(あの件を共有したために、アホの田井中から呼称が進化した)はもろに共感してしまったようで、下手をしたらむつき以上に泣いていた。すぐにむつきが立ち直れたのは、いちこのおかげもあったかもしれない。

 ……オレでは、一緒に涙を流してやることは出来ないからな。涙が出せないわけではないが、あの場で共感の涙を流してやることは出来なかった。オレにはまだ、分からない。

 ともかく、5人衆は翌日には平常に戻った。事後報告という形で、むつきの行動と相手の決断を他の面子に伝えたところ、その日は全員で翠屋に繰り出してきた。オレは"お手伝い"だったのだが、普通に巻き込まれた。

 桃子さんが何かを察し、士郎さんに指示を出したようだ。……一応"お駄賃"をもらってる手前、あまり業務から離れたことはしたくないんだがな。

 むつき告白事変の顛末としては、そんな感じだった。

 

 むつきの告白と関係があるのだろう。定時念話で「最近ガイがよそよそしい」となのはから愚痴を受けた。変態をしたらしたで愚痴るくせに、この子も中々難儀である。

 一部始終を知っている故に、オレは全体像を把握することが出来た。つまり、以下の通りである。

 

・剛田少年の「好きなクラスメイト」というのは、なのはのことである

・ガイは自身の気持ちを正確には把握できておらず、友達のために一歩引いている

・対してなのはは剛田少年のことは何とも思っておらず、しかしガイには思うところがあるため、現状に不満がある

 

 見事なとらいあんぐるハートだ。オレは、特に恋愛事に関しては、まだまだ人の気持ちを察することが出来ない。どうしてこう面倒なことになっているのかと思ってしまう。

 正確に事実をとらえて頭の中で整理すれば、何ということはない現実だ。なのはとガイがそれぞれ正直になれば、剛田少年には残念な結果となるが、全てが丸く収まるのだ。

 まあ……なのはの様子からして、気付いていないのだろうが。最近の彼女の話題が、親友二人のことからガイのことに完全にシフトしていることにすら。

 指摘して気付かせてやってもいいのだが、それだと面白くない。……もとい、オレがどれだけ干渉していいのかが分からない。そもそも指摘してやる義理があるのかも分からない。

 故に、オレは静観の姿勢を保ち、なのはの愚痴を聞いてやっている。普段通りに戻ったところで、結局は愚痴という名の惚気話を聞かされるだけのことなのだ。

 

 

 

 とはいえ、今日ばかりは二人ともマジになってもらわないと困る。諸々のことは一旦置いておいて、オレ達のチーム全体として、成すべきことを成さねばならない。

 

「こうして直接顔を合わせるのは初めてだね、はやて君。ミコト君も、フェイト君とアリシア君とソワレ君、それから、お友達の皆さんと……ヴォルケンリッター諸君も」

 

 とうとうこの日がやってきた。ギル・グレアムの協力を要請する、交渉の日が。

 向こうはたったの三人だった。ギル・グレアム本人と、彼の使い魔二人。猫を素体とした双子の使い魔で、髪の長い方が姉のリーゼアリア。短い方がリーゼロッテというそうだ。

 緊張感を持っているのだろう、彼らは一様にピリピリしている。特に使い魔二人の視線はヴォルケンリッターを強く睨み、決して視界から逃がそうとしない。

 事前の準備の通り、この場には御神の剣士が三人いる。その実力を過小評価している、というのではないだろう。立ち居振る舞いから、彼女達が少なく見積もっても恭也さん並の実力を有していることは分かっている。

 それはつまり、彼らを組み伏せられる――ということではない。抗争になれば、既に彼らの間合いになっている以上、為す術もなく首を斬り落とされる。それを理解しているということだ。

 それでもなお、彼らはヴォルケンリッターを――闇の書を恨まずにはいられないということなのだろう。

 

「今更初めましてっていうのも変な感じやな。けど、こうしてグレアムおじさんと直に会えたのは、普通に嬉しいわ」

 

 はやてはそれらを意に介さず――はやてが意に介する必要はないだろう、にこやかに笑いながら、ギル・グレアムとあいさつを交わす。

 オレは緊張感を持ったまま、頭を下げる。

 

「同じく、初めまして。二年前の秋からはやてと同居しています、八幡ミコトと申します。……そちらの使い魔から、詳しい事情はお聞きでしょうが」

「ああ。ずっとはやて君のそばにいてくれて、心を支えてくれた、とね。その件については、私もとても感謝している」

 

 感謝、ね。どういう意味かは測りかねる。まだオレは、彼の「望み」を理解していない。どう言えば彼の復讐を吸収できるのか、それを探る必要がある。

 使い魔二人の視線がオレに注がれ……一瞬、柔らかくなった気がする。一瞬ではあったが、向けられた当人であるため、オレはちゃんと気付けた。今のは、どういう意味だ?

 

「フェイト・T・八幡です。……その、グレアム提督は、わたし達についてどの程度のことをご存知でしょうか」

「「全て」を。ジュエルシード事件の報告の裏側に隠されたことも、どうしてそうしたのかも、ちゃんと全部知っている。それでどうこうと言うことはないから、警戒しないでほしい」

「誰かに見られていたということはなかったはずだが」

 

 あの事件に関わった御神の剣士、恭也さん。そういえば、彼の実力を鑑みれば、見られていたらすぐに気付いていたはずだ。彼ですら、気付かなかったのか。

 恭也さんの疑いのこもった問いかけに、ギル・グレアムが種明かしをする。

 

「ステルスサーチャーだよ。君という存在が脅威であることはすぐに分かったから、目視からサーチャーに切り替えたんだ。かけに近いやり方だったが、結果として魔力を感じられない君には効果的だったようだね」

「……そういうことか。これからは、そういう視線も感じられるようにならなければな」

 

 ある意味盲点を突くやり方だった。ステルスサーチャーがどの程度の隠密性を持っているのかは分からないが、それでも恭也さんが魔導師だったら気付かれていただろう。

 種明かしをした以上、次はもう無理だ。この人なら魔力が感じられないこと関係なしに、「見られている」という事実を感じ取るだろう。

 つまり、ギル・グレアムと使い魔二人は、ここで全ての決着をつけるつもりでいるのだ。食うか、食われるか。その二択だ。

 

「もちろん、ミコト君の"魔法"……「コマンド」と君は呼んでいたね。それを管理局に報告する気もない。余計な混乱は、私も望んでいないよ」

「ご存知でしたか。そのご様子なら、今のアリシアがどういう存在なのかもご理解いただけているのでしょう」

「ああ。君は本当に不思議な子だ。「死者蘇生」を、そんな形で実現してしまうとはね。君自身、どうしてそうなったのかは理解出来ていないようだが」

 

 その通り。アリシアが「元のアリシア」ではないことは間違いないのだが、話を聞く限りだと「元のアリシアと同一」ではあるのだ。オレのやり方では、そうはならないはずだった。

 要するに、本来は出来ないはずの「連続性の複製」が出来てしまったのだ。素体に使ったジュエルシードが関わっていそうなのだが……確証はない。

 

「またやれと言われても無理です。あれはオレにとっても、まぐれのようなものだ。だが、周りの人間がそれを理解出来るとも限らない」

「そもそも「連続性の消失」という意味を正しく理解出来るとも限らないからね。……消えた人間本人が戻ってくるわけじゃない」

「ギル・グレアム顧問官はよくお分かりのようですね。そもそもこれは「死者を生き返らせるための魔法」ではなく、「はやての足を治すための魔法」。それさえ終われば、無用の長物だ」

「どうにも君は自己評価があまり高くないようだね。それは管理世界で発表すれば、それだけで一生遊んで暮らせるだけの大金が手に入る代物だよ」

 

 それがどうした。結果として精神の自由を失うなら、全ての意味は失われる。オレはあくまで目的のための手段を用意しただけで、目的を達成していない自分を評価する気がないだけだ。

 

「管理局に報告する気がないなら、こだわる必要はないでしょう」

「それでも、惜しいと思ってしまうのは止められないものだよ。リンディ君の気持ちがよく分かる」

「ハラオウン提督とはお知り合いで?」

「古い知己だよ。彼女がジュエルシード事件の捜査でこの次元宙域に現れたときは、ひどく驚いた」

 

 つまり、ただの偶然ということか。この様子なら、彼女がギル・グレアムの手先であったなどと疑う必要はないだろう。彼女はただの優秀な提督だ。

 ……いい加減時間稼ぎはおしまいだ。本題に入らせていただく。

 

「闇の書は、現在バグを抱えている。ギル・グレアム顧問官はご存知でしたか?」

「……ああ、知っている。何せ、バグによる暴走の現場に立ち会ってしまったからね」

 

 彼の表情が曇ったのを、オレは見逃さなかった。やはり闇の書に対してよくない感情を抱いているようだな。

 それは使い魔の片方が特に顕著だ。ヴォルケンリッターに対する嫌悪感が、殺意に変わった気すらする。「絶対に許さない」と視線が語っている。

 オレから言わせれば、そんなものはただの逃避だ。が、"雑魚"にかかずらっている暇はない。話を続ける。

 

「正式名称は「夜天の魔導書」。ここからは推測ですが、本来は蒐集も転生も行わない、ただ魔導を記録するためだけに作られた魔導書だったと考えられます」

「……ほう。どうしてそう思うんだね」

「ヴォルケンリッターの本来の性質です。彼らは、先の分析によってデータ欠損以外のバグから解放されている。……シャマル」

「はい。思い出した、と言っていいでしょうが、我々の本来の役割は「夜天の主とともにあり、力となること」。蒐集を行うことも、そのために外敵を排除することも、本懐ではありませんでした」

 

 恐らく、これまでの主のときは叶うことのなかった、管理局提督とヴォルケンリッターの対談。向こう側の現在の感情はともかくとして、この情報共有が行えることは大きい。

 

「まさに"雲の騎士"ということか」

「そうですね。本来の主の名を忘れなかった"盾の守護獣"に感謝しています」

「それが俺の役割だ。たとえ"データの改竄"が相手であろうとも、俺は「書と主を守る者」だ」

「なるほどね……」

 

 あくまで客観的情報。だからギル・グレアムは理解することが出来たようだ。

 

「「蒐集」という機能が後付けでしかないのなら、バグを起こして暴走しているのも理解が出来る。それが、はやてに対して起きている魔力簒奪の正体だと推測しています」

「元々「蒐集機能」自体に無理があったということか。つまり君の目的は、蒐集をオミットすることが出来れば達成される可能性がある」

「もちろんそう簡単に行くものではないでしょう。オミットするにもどうやってアクセスすればいいか分からないし、それだけでは相変わらず闇の書は危険物のままだ」

「ああ。防衛プログラムの暴走の可能性は、なくなっていないからね。書が完成することはなくなるだろうが、それで防衛プログラムが大人しくしている保証は何処にもない」

 

 そもそも防衛プログラムも本来の機能なのかという話はあるが、それは捨て置く。本来の機能じゃなかったら消えるわけじゃないのだから。

 

「やはり君は、「闇の書」を「夜天の魔導書」に戻すしかないが……あてはあるのかね?」

「方法は用意しました。ミステール」

「ご存知と思うが、わらわの能力は因果を紡いで事象を引き起こすこと。そちらの魔法との相性は良い。"やり方"さえ分かれば、わらわに出来ぬことは何もない」

 

 そう言いながら、ミステールは「夜」のシールドを作り出す。プロテクションではない、ラウンドシールドだ。最近ようやく習得することが出来たのだ。

 これは監視していなかったのか、ギル・グレアム及び二人の使い魔は、目を見開いて驚いた。

 

「こちらに足りていないのは、ミステールが「戻す」という事象を起こすための因果連鎖。つまり、"やり方"だ」

「……その"やり方"を構築するための資料が欲しい。君が我々に要求したいのは、そういうことだね」

「そういうことです」

 

 これでこちらの要求ははっきりさせた。次に知るべきは、そのための対価だ。

 オレは一息ついてから、ギル・グレアムに話させるべく、切りだした。

 

「よろしければ聞かせてください。あなた方が、闇の書とどんな因縁を持っているのかを」

 

 そして、昔語りが始まった。

 

 

 

 

 

「あれは今から11年前の出来事だ。君達が生まれるよりももっと前。私は、前の闇の書の主を逮捕する任に就いていた」

 

 ギル・グレアム、及びリーゼアリアとリーゼロッテは、そのときにヴォルケンリッターと対峙しているそうだ。逆にリッターは彼らを覚えていない。書のデータ欠損が原因なのだろう。

 情報の漏らしがないように頭の中で整理しつつ、ギル・グレアムの話を聞く。

 

「前の主は書を完成させて絶対の力を手に入れようとしていたようでね。蒐集の過程で、何人もの魔導師が犠牲になった。……その記憶は、残っているかい?」

「ああ。この手で切り捨てた者達の苦悶の表情を、いまだに覚えている。……その事実から目を背けるつもりはない」

「当たり前よ。魔法プログラムだからって、忘れていい理由にはならないわ。罪は罪よ」

「ロッテ、やめなさい」

 

 リーゼロッテがシグナムの答えに反応し、ギル・グレアムにたしなめられる。彼が黙らせないなら、オレが黙らせていた。彼女の言は、今は関係がない。

 

「失礼したね。……複数人の魔導師を殺害した罪。そして管理局への敵対行為。それで彼女には逮捕令状が降り、私達は編隊を組んで逮捕に当たった」

 

 「彼女」というのは前の主のこと。どうやら前の主も女だったようだ。これも、どうでもいい話。

 

「当然、彼女は抵抗した。戦いは熾烈を極めた。彼女ははやて君と同じだけの魔法の才を持ち、管理世界の生まれだったため魔法の教育を受けており、強力な魔導師だった。そして、守護騎士も戦っていた」

「……その場面の記憶は残っていないな。覚えている者はいるか?」

「あたしはダメ。何も思い出せない」

「一番覚えている可能性があるのはザフィーラだけど……どう?」

「……いや、何も残っていない。恐らく、その場面は終わりが近かったということなのだろう」

「その通りだ。如何に闇の書の主とは言え、書の完成前はただの魔導師。守護騎士も、無敵ではない。人海戦術を越えることは出来なかった。……相応に犠牲は出たがね」

「そんな……」

 

 ギル・グレアムの表情は暗く苦々しげだった。なのはが同情を見せたようだが、オレは相変わらず無感情に、客観的事実のみを整理した。

 

「前の主は、その後どうなりました」

「……ああ、そうだね。彼女は同行には応じず最後まで抵抗した。そして……やむなく、射殺したよ」

 

 そう言ったギル・グレアムの手は震えていた。手を下したのは彼だったということだ。編隊の指揮官だったのだろうから、当然か。

 こちら側の陣営は、息を呑む気配はあったが、動揺はなかったようだ。そういうことが必要になる場面があると割り切れているのだろう。……オレが何度か見せているしな。

 だが、事件はそれで終わりではないはずだ。ガイから得た情報もそうだし、闇の書が回収されているなら、はやての手に渡った理由がない。

 

「それから?」

「彼女は、最後の抵抗で闇の書を完成させた。完成した闇の書が使われる前に射殺することが出来たから、その場は事なきを得られたが……」

 

 その後、暴走したのか。よりにもよって輸送中に。

 

「闇の書は、次元艦「エスティア」に収容され、ミッドの本局に護送されるはずだった。そして……ミコト君の推測通りだ」

「その際にあなたは、近しい人間の誰かを失った。それが、あなた方が闇の書を目の仇にしている理由か」

「ああ。下手な嘘をついたところで、君には看破されるのだろう。エスティアの艦長が、私の友だった」

 

 「彼」は最後まで船に残り、乗員全員を脱出させ、最後はエスティアと命運をともにした。そう語った。

 つまりギル・グレアムは、闇の書の防衛プログラムの暴走により友を殺され、その復讐のために闇の書を狙っていたということか。ガイから聞いた内容と相違ないようだ。

 故人を偲んでいるのだろう、ギル・グレアムの表情は昏い。それには取り合わず、オレはさらに先を聞こうとする。

 

「具体的にどう復讐しようと考えていたのですか」

「それは……」

「っ、ちょっと! 今の話を聞いて、どうしてそんなに冷静でいられるのよ! 人としておかしいでしょ!? 少しは父さまのことを気遣いなさいよ!」

 

 だが、リーゼロッテが、今度はオレに噛みついてきた。……こいつは何を言ってるんだ? オレのことを、ずっと見てきたんじゃなかったのか。

 リーゼアリアの方に視線をずらすと、彼女は若干申し訳なさそうな顔をしていた。ああ……主に姉の方が監視していて、妹の方はオレをそこまで知らないのか。

 双子の使い魔は、姉が妹をたしなめようとしたが、オレがそれを手で制する。ここはオレが動くのが一番手っ取り早い。

 

「それで誰が得をする?」

「!? あ、あんたっ……!」

「もう少し回りを見て発言しろ。お前の言う「父さま」はそれを望んでいるのか? お前の姉は? その発言は、ただの時間の無駄でしかない。「話」にすらならない"雑魚"は引っこんでいろ」

「ーッ!!」

「ロッテ。悔しい気持ちは分かるけど、彼女が正しいわ。忙しい父さまの貴重な時間を無駄にしないで」

 

 冷たい、切り捨てるような発言にリーゼロッテは凍りついた。リーゼアリアの方は、まだ話が分かるようだな。

 

「すまないね。うちの使い魔が、失礼をした」

「気にしていない。オレが人としておかしいことなど、オレ自身が一番理解している。まだオレは「人」になりきれていない」

「……そうか。分かっているのなら、我々が何を言うのも筋違いだね」

 

 そうだ。今重要なのは、オレの人間性の成長具合じゃなくて、そちらが何を望んでいるのか知ることだ。

 互いに気を取り直し、話を続ける。

 

「……これからする話は、君達にとってかなり気分が悪くなる話だ。聞かない、という選択肢はないようだが、それなら覚悟をしてほしい」

「そんなものはこの話を始めた時点で決めている。どんな非情な決断だろうが、ヴォルケンリッターにも手出しはさせない。安心して語ってくれ」

 

 ギル・グレアムは「ありがとう」と苦々しく笑い、……視線を鋭くする。

 彼の考えは、確かにオレにとって、非常に気分が悪くなるものだった。

 

「我々が考えていたのは、闇の書を主ごと永久に凍結封印するという手段だ」

「っ!」

 

 オレの隣に座っているはやてが、さすがに青ざめた。予想はしていただろう、だが彼の口からはっきりと「殺す」と同然のことを言われたのだ。

 オレも、一瞬目の前が赤くなった。それを鋼の自制心で抑え込み、待機形態のレヴァンティンに手を伸ばすシグナムを止める。

 

「やめろ、シグナム。折角設けた交渉の席を台無しにするつもりか」

「このような輩と交渉をする必要などあるのか!? 貴様も聞いていたはずだ! この男は、その口ではっきりと「主を犠牲にする」と言ったのだぞ! 信用など出来るものか!」

「貴様の感情の話は聞いていない。そこの雌猫ともどもつまみ出されたくなかったら、黙って話を聞いていろ」

 

 「ぐっ」と呻くシグナムとリーゼロッテ。……ああ、オレだって不愉快だ。想像の中でだって、はやてを傷つけさせたくはないのに。その最悪の未来絵図を見せられて、何も思わないわけがない。

 それでも、自制するのだ。目的を達するためには、オレの不愉快程度、容易く切り捨てなければならない。

 

「詳しい内容を」

「……君は強い子だね。その歳でそこまで自身を律することが出来る子供を、私は見たことがない」

「そんなことはどうでもいい。必要だからやっているだけだ。必要がなければ、とっくにその首を落としている」

「ならば君に必要とされたことに感謝しなければならないね。私だって……殺されたくはないし、殺したくもない」

 

 呟くように吐き出された言葉は、血を吐いているようにも見えた。

 一度頭を振ってから、ギル・グレアムは"復讐計画"の詳細を説明する。

 

「闇の書には「無限転生機能」というものがある。書が破壊されると、次の主となり得る人間の近くで再構成する。これのせいで、管理局は長年闇の書を捕獲することが出来なかった」

「前の主の死後、はやての近くに闇の書が出現した原因でもあるな。それはオレも知っている」

「つまり、闇の書の凶行を止めるためには、それを機能させずに封印を行う必要がある。しかし、この方法には問題がある。防衛プログラムだ」

 

 防衛プログラムそのものは闇の書の処理系からは独立しており、闇の書へ「封印」という魔法的アクセスが発生した段階で防衛プログラムが感知・発動、自己破壊を起こして転移をしてしまうそうだ。

 そうさせないためには、まず防衛プログラムを封印する必要がある。

 

「防衛プログラムを封印するためには、防衛プログラムを表に出す必要があり、そのためには書を完成させなければならない」

「その通り。そして防衛プログラムは出現と同時に主を取り込む。となれば……必然的に、主ごと封印しなければならない」

「然る後、闇の書本体の封印を行い、防衛プログラムとともに、決して封印が解けないように物理運動の発生しない空間に閉じ込めれば、一件落着ということか」

 

 それが彼の"復讐"。二度と闇の書の犠牲となる人が出ないよう、闇の書を無間地獄に閉じ込める。……今回の主である、はやてを犠牲にして。

 発生する犠牲――はやて以外にも、蒐集の被害者など――にさえ目を瞑れば、彼が取り得る唯一にして最大効率の"復讐"だろう。

 

「凍結封印を行うための準備もした。アリア」

「はい、父さま。デュランダル、セットアップ」

 

 リーゼアリアが取り出したカードが、氷の槍の形をしたストレージデバイスとなった。"氷結の杖"「デュランダル」。凍結変換に特化した特注のデバイスだそうだ。開発費用は、これ一本でビルが数件建つほど。

 11年間。彼が、「闇の書の永久封印」という目的のために全力を注いだ証だった。

 

「真実を言えば、君がはやて君の側に現れたとき、どうすべきかで意見が割れた。排除すべきか、そのままにすべきか」

「計画に不確定因子を混ぜ込むわけにはいかないだろうからな。結局オレは、放置されたわけだ」

「それも、ほだされたからというわけじゃない。もしはやて君が蒐集を行わないようなら、君を人質にして蒐集させるつもりだった。つまりは保険だ」

「目論見が失敗して命拾いしたな。もしそうなっていたら、そのときが時空管理局最後の日だ」

「……君が言うと実際にそうなっていそうだから恐ろしいよ」

 

 少なくとも、自分の身を守るためにオレに伸びる時空管理局の手を切り捨てることはするだろう。どんな手を使ってでも。

 もっとも、ギル・グレアムは早い段階で「人質作戦は不可能」と判断したようだ。リーゼアリアからの報告で、オレが大人しく人質になってくれるわけがないと理解したそうだ。

 これで、計画の全貌は明らかになった。はやてに蒐集を行わせ、書が完成すると同時に防衛プログラムごとはやてを凍結、そして絶対零度の世界に永久に封印する。……想像しただけで、目がチカチカする。

 だがこの計画はもう実行できない。オレ達は知ってしまった。それ以前に、オレ達に闇の書を完成させる意志がない。闇の書が完成するまで、彼らに出来ることは何もないのだ。

 11年かけた計画の頓挫という現実を前にして、歴戦の提督はどう判断するのか。

 

「……ミコト君に当てた手紙の中で、私は書いておいたね。「こうなったときにどうするかも考えてある」と」

「ええ。確かにありました。それは、この状況でなお生きている手段だと?」

「ああ。私が考えていることは……君と似たようなものだ」

 

 オレが考えていること。彼に協力してもらい、管理世界の情報との橋渡しになってもらうこと。その見返りに、彼の"復讐心"を解消するという交渉だ。

 ならば、彼が考えていることというのは……。

 

「君達に協力しよう。但し、期限を設ける。その期限までに闇の書を「夜天の魔導書」に戻せなかった場合……こちらの指示に従っていただきたい」

 

 そう来たか、と内心で舌打ちをする。先手を取られた。向こうも初めから、"交渉"の心づもりでいたのだ。

 オレをただの小娘であると侮ることもなく、オレ達をただの民間チームと過小評価するでもなく、一つの組織として交渉しに来ていたのだ。

 

「指示の内容にもよる。はやてを犠牲にするような計画に従うわけにはいかない。たとえ他の何を犠牲にしたとしても、だ」

「それが君の家族や友人でも、か?」

「それがオレだ。必要ならば、切り捨てることを容赦しない。リーゼアリアが報告しているなら、たとえ表面的だろうとその程度は理解できているはずだ」

「ああ、知っている。君が最初フェイト君を切り捨てようとしたことも、プレシア・テスタロッサを殺害しようとしたことも、報告を受けている」

 

 そうだ。たとえ家族や友達であろうとも、オレは切り捨ててしまえる。必要ならば、それが出来てしまう。出来てしまって……後で悲しむ。それだけのことだ。

 それが分かっているなら、はやての優先順位を下げるような指示が通るわけがないと分かっているはずだ。彼の真意が見えない。

 

「なら、逆ならどうだい?」

「……逆?」

 

 意味が分からず、質問を返す。優先順位の話か? それとも、犠牲にするものの話か?

 次にギル・グレアムの口から滑り出した言葉で――オレは衝撃を受ける。

 

 

 

「凍結封印をする際。防衛プログラムにはやて君が取り込まれる際、ミコト君も一緒に取り込まれる。こうすれば、君達は永久に一緒だ」

『――!?』

 

 全員が、言葉を失った。オレは……やられた、と思った。そんな提案をしてくるとは思っていなかった。あまりに予想外で、あまりに甘美な提案だった。

 オレにとって優先順位の最上位に来るのは、間違いなくはやてだ。だから彼女を犠牲にするという選択肢は論外となるはずだが……もしそこに、オレの犠牲も加わったとすれば?

 この瞬間、ものさしは意味をなさなくなる。世界がオレとはやてだけになるから。優先順位が一位で一意に決まるなら、そんなものは存在しないのだ。

 

「……っ! そんなもの、認められるわけがっ!」

「恭也さん」

 

 真っ先に再起動し、頭に血を上らせる恭也さんを、オレの言葉が制止する。彼の怒り自体はありがたいが……彼の判断は、必要ないのだ。

 

「なるほど、非常に魅力的な提案だ。そういうことなら、闇の書を完成させるのも一興とさえ思えてしまった」

「ミコト、お前っ……!」

「……正直に言おう。提案した私自身、なかったことにしてしまいたいアイデアだ。君は乗ってくれるだろうと思っていたが、現実にその通りになると……あまりにも衝撃的過ぎる」

 

 彼は正常な人間であり、オレとは「違う」。ただ、冷静に論理を積み重ね、オレに効果のある提案を組み上げただけだ。

 だから、道筋は考えることが出来ても、分からないのだろう。ただ「はやてと一緒にいる」という望みを果たすためだけに、自分の命すらも切り捨てることが出来るオレのことを。

 ギル・グレアムは明らかに顔色を変えた。底の知れない歴戦の提督の顔から、一人の人間としての顔に。

 

「期限は出来るだけ長くする。我々も全力で協力する。だからお願いだ。"我々のミッション"にすることはなく、"君達のミッション"を成功させてくれ。頼む」

 

 ギル・グレアムが頭を下げてくる。何故彼は頭を下げているのだろう。彼は、オレにとって利する提案をしてくれただけなのに。

 

「もちろん、オレ達も手を抜くつもりはない。「闇の書」を「夜天の魔導書」に戻すのが最高の結果であることに変わりはない。ただ、次善の策として、あなたの提案は悪くなかったというだけだ」

「っ。そう、か……。それを聞いて、少しだけ安心出来た」

 

 おかしな人だ。元々はやてを犠牲にして闇の書を封印する計画を立てていたくせに、その犠牲が増えるだけのことでショックを受けている。他ならぬ、彼自身の提案なのに。

 

「あなたは闇の書に復讐するために計画を立てていたはずだ。"オレ達のミッション"は失敗した方が都合がいいのではないですか?」

「……そのつもり、だったんだがね。あんな正気を疑う提案で首を縦に振られてしまったら……こっちが正気に戻らざるを得ない」

 

 図らずも、彼自身の行動で復讐心を省みる結果になったようだ。まあ、面倒がないことはいいことか。

 ギル・グレアムは、今まで黙って話を聞いていたはやての方を向く。

 

「君の意志を聞いていなかったが……聡い君なら、もう分かっているね。もし闇の書が闇の書のままだったら、いずれは封印をしなければならないことを」

「うん。誰かが犠牲にならなあかんことも、その方法が一番犠牲が少ないことも、ちゃんと分かっとるよ。……グレアムおじさんが、ほんとはそんなことしたくないってことも」

「……そうだね。本当に、世界はこんなはずじゃないことばかりだ」

「それ、クロノの……」

 

 彼の言葉に、以前クロノから贈られたフェイトが、気付いたようだ。ハラオウン提督と繋がりがあるなら、息子の方と繋がりがあってもおかしくはない。

 もっとも、その繋がりは思っていたよりも強いものだったようだが。

 

「……闇の書の暴走で命を落とした友の名は、クライド。クライド・ハラオウン。クロノの父だよ」

「っ! そう、だったんですか……」

「私達は、クライド君亡き後のハラオウン家を見守ってきたの。クロノは……ちょっと頭は固いけど、優秀で可愛い弟分ってところかな」

「アリアはクロ助に魔法を、わたしは近接戦を教えたわ。まあ、近接戦は、あんまり役に立たなかったみたいだけどね」

「それは単純に相手が悪い」

 

 魔法にリソースを振っていて、御神の剣士の間合いで敵うだけの近接能力を得られるわけがない。

 少し、横道に逸れたな。

 

「私は、ずっと迷ってきた。本当にこんな方法でいいのか、私は誰のために何をしたいのか。今日までその答えは見つからなかったが……やっと、見つかった気がする」

 

 ふう、とギル・グレアムは疲れたようにため息をついた。実際、疲れているのだろう。……プレシアのときと同じように、長い時間走り続けてきたのだ。

 

「あのときクライドを助けられなかった私が納得するため。アルカンシェルの引き金を引いたときの震えを止めるため。ただ、そのためだったんだな……」

 

 すっ、と。彼の目の端から涙の筋がこぼれた。見間違いではないだろう。

 

「そんな私情のために、こんな小さな女の子達を犠牲にしたのでは……クライドから怒られてしまう。そんなことのために闇の書を止めたのではない、と」

 

 彼は……踏み込み過ぎたのだ。迷いながら、生まれた復讐の感情に身を任せ、走り続け……いつの間にか道を外れていることに、踏み外す前に気付いた。

 ギル・グレアムは……ギルおじさんは立ち上がって、オレとはやてを抱きしめた。彼は、震えていた。

 

「騙してしまって、すまなかった。こんな方法しか考えられなくて、すまない。全てを君達に背負わせてしまって、すまない……」

「……謝る必要はありません。あなたがいてくれたから、はやてはオレと出会ってくれた。だから、どんな結果に終わっても……オレはあなたを恨まない」

「せやで。いつも文通してくれてたおじさんは、やっぱりおじさんやった。優しい、わたしのおじさんやった。わたし達は何も騙されてへんよ。だから、安心しぃ」

「……すまないっ」

 

 彼は力強くオレ達を抱く。誰も、何も言わず。オレ達はしばらく、彼に抱きしめられていた。

 

 

 

 少しややこしいことになってしまったが、まとめよう。交渉はこちらの"負け"だ。向こうから提案され、オレが呑んでしまったのだから。

 ただ、その後ギルおじさんが復讐という目的を失ったことで、内容は無条件降伏のようなものに変わった。勝者のいない論戦に終わった、といったところか。

 彼は闇の書、そしてヴォルケンリッターに向けた敵意を霧散させた。もう敵対する意味はない。主が敵対をやめたのだから、使い魔達も同様に。……しこりのようなものは残っているようだが。

 

「……主が従うと言っている以上、我々も従う他はない。ただ、"そのとき"が来ないことを祈るのみだ」

「それについては、私も同感よ。犠牲なんて……出ない方がいいに決まってる」

 

 結局のところ、誰も闇の書が完成して暴走することは望んでおらず、もし夜天の魔導書に戻す方法があるならそちらを選ぶというだけのことだった。

 オレとしても、はやてと一緒に封印されるのは、あくまで次善の策。それをしてしまったら、オレはフェイト達を育てることが出来なくなってしまう。それは、困るのだ。

 

「我々も、資料を集める傍ら、他の代案はないかを探す。くれぐれも自分の身を軽んじないでくれ、ミコト君」

「オレはいつだって自分本位ですよ。自分自身が一番大事だ。ただ、納得のいく選択をしているだけです」

「……そうだったね」

 

 今回の場合、もしも闇の書を完成させなければならなくなった場合、オレが納得できる選択というのがはやてとともにあることだったというだけだ。

 ギルおじさんは、少し困ったように笑った。オレのこの性分が、彼の復讐を思いとどまらせたからだろう。

 

「君は、本当に不思議な女の子だ。たった十数分、私と言葉を交わしただけで、私の凝り固まった考えを溶かしてしまった。もっと早くに会っていればよかったと思うよ」

「結果論でしょう。オレにそんな意図はなかった」

「だが、君が私を救ってくれたんだ。……この場にいる皆が、君の指揮に従ってきた理由がよく分かったよ。君は、持っているんだ。大提督と呼ばれるような人種が持っている才能を」

 

 彼は、その名を口にする。

 

「カリスマ性。それもとびっきり強烈で、管理局の提督ですら惹きつける。きっと、それが君が持つ一番の才能だよ」

 

 「あっ」と皆が納得したような声を漏らす。皆からすれば、とても分かりやすい答えだったようだ。

 カリスマ――人々を惹きつける、ある種の超人間性。なるほど、オレは「異物」であり目立つのだから、それもまた十分にあり得ることだ。

 外れていれば外れているだけ、それは目立ち、人目を引く。それが上手い具合に働いた結果、このチームが出来上がったということだ。

 ……やはりオレからすれば、ただの結果論でしかない。この結果を意図したわけではない、ただの偶然の産物なのだ。

 

「君が管理世界を煩わしいと思っていることは知っているが……もし気が変わったら、私に言ってくれ。君ならばきっと、歴史に名を残す伝説級の提督になれる」

「困りますよ、グレアムさん。彼女はうちのチーフスタッフなんですから、ヘッドハンティングはやめてください」

「二人とも好き勝手言わないでください。オレは、ただの小学生ですよ。正規の指揮官でもなければ、喫茶店のチーフでもない」

 

 本当に勘弁してくれ。

 

 

 

 

 

 それから少し会話をして、ギルおじさんと使い魔の二人は帰って行った。定期的に会いに来てくれるそうだ。

 期限については、とりあえずは未定。今後の闇の書の動向を見て決めるそうだ。全ての状況が落ち着いている今、焦って期限を決める必要はないだろうとのことだ。

 次からは、士郎さん達のヘルプはいらないだろう。どころか、チーム全体を呼ぶ必要もない。

 

「本日はお忙しいところを協力していただき、ありがとうございました」

「気にしないでくれ。俺の力が必要なときは、いつでも遠慮なく声をかけてほしい」

「そーそー、結構レアな経験出来たしね。……ほんとに戦闘になってたら、わたしは役に立てなかったと思うけど」

 

 それだけリーゼロッテの近接戦闘能力は高かったそうだ。正しく脳筋である。美由希は「あはは」と苦笑しつつホッと胸をなでおろすという器用な真似をした。

 もう一度頭を下げると、士郎さんはしゃがんでオレと視線を合わせ、両肩に手を置いた。

 

「……俺達も、君達にいなくなってほしくないんだ。出来ることは少ないだろうけど、君達を守るためならどんな労力も厭わない。本当に、遠慮なんかしないでくれ」

「それは暗に「チーフスタッフになってくれ」と言ってますか?」

「それも本心だが、それとは別だ。もっと単純に、大事なものを守らせてほしい」

 

 ……大事なもの、か。それはオレもやっていることなのだから、士郎さんのそうする権利を侵害することは出来ないな。

 それに、やっぱり嬉しいと感じてしまうのだ。「父親」から、こうして頭を撫でられるのが。……ずるいなぁ。

 

「本当に困った「お父さん」ですよ、士郎さんは。オレが貸し借りは苦手だって知ってるはずなのに、そういうことを言うんだから」

「俺は「娘」とはこういうコミュニケーションしか取れないんだ。甘いと罵ってくれて構わないよ」

「……あっれー。わたし、父さんからも結構弄られてる気がするんだけど」

「美由希は娘である以前に御神流の門下生だからな、しょうがない」

 

 「そっちが先なんだ」と肩を落とす美由希。誰も同情はしなかった。

 

 こうして、オレ達は管理世界の情報への足掛かりを手に入れた。とは言え、ギルおじさんが夜天の魔導書の資料を集めるのには時間がかかる。情報そのものがすぐに手に入るわけじゃない。

 オレ達に出来ることは、やはりまだなかった。

 

「とりあえず今は、当たり前の日常を満喫しようや。明日はプール開きやで!」

「そうか、もうそんな時期なのか。……今年こそは、はやてもプールに入れるようにしたかったんだが」

「焦っちゃダメだよ、おねえちゃん。来年には入れるようになってるかもしれないんだから」

「それに、闇の書の状態次第では、今夏中に入れるようになるかもしれないわ。そのときは、皆で海に行きましょう」

「うみ! アリシア、うみ行きたい!」

「あたしも! かき氷ってやつを食ってみたい!」

「ソワレも!」

「主らは海というよりも海の家が目的じゃろ。また主殿の水着姿が男どもの視線を一人占めしてしまうのう、呵呵っ」

「何を呑気なことを……いや、焦っても仕方がないのか。だが……」

「相変わらずシグナムはお堅いねぇ。ま、そんときゃあたしらで無理矢理水着にしちゃえばいっか」

「そうですね。シグナムさんの水着姿も楽しみですもの!」

「……こういう話題になると、俺には辛いな」

 

 とにもかくにも、夏到来である。




露骨な水着回フラグ。とりあえず夏のプール話と海話のフラグを立てておきました。可愛い女の子が多いことですし、くんずほぐれつにゃんにゃにゃんしてほしいですね。

ミコト視点であるため、グレアムの感情の流れが分かりづらいですが、三行で説明すると
1.復讐を誓い、迷いながらも突っ走る
2.ミコトの意見を封殺するためのアイデアを考えるものの、出てきたものに自分でドン引き
3.MKT「いいわゾーこれ」GRHM「すいません許してください何でもしますから!」
ということです。グレアム提督は第二・第三の提案を持っていたでしょうが、廃案直行のはずの第一案が呑まれてしまったため、ショックで復讐心が消し飛んでしまったのです。
交渉自体はミコトが退いているため敗北なのですが、直後にグレアムが良心の呵責に耐えきれずギブアップしているので、内容としてはドローゲームです。無敗神話崩れず。

実を言うと、グレアム提督にやらせたかったのは、交渉終了後の「ミコトのカリスマ性」発言のみです。ここで出すのが一番説得力があるでしょう。

次回、水着回! 本当です! 信じてください!

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