不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
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今回はクロノ視点です。

前回のあとがきで「まったり日常」と言ったな。
あれは嘘だ。


三十二話 管理世界 時

 第1管理世界ミッドチルダ、首都クラナガン、時空管理局地上本部。それが今僕のいる場所だ。

 

 先の事件、ジュエルシード事件の裁判は、被告人が既に亡くなっていることもあり、既に刑(形式上のものだが)も確定して閉廷している。

 とはいえ、この事件は裏事情が色々と込み入っており、裁判を終えればそれでおしまいというわけにはいかない。表に出せない情報が多すぎるのだ。

 たとえば、チーム3510こと八幡ミコト率いる現地協力者の情報。アースラスタッフはリンディ提督が信頼できる人員のみを集めているため、箝口令をしくのは容易だ。だが通信機器に残った情報まではどうしようもない。

 もし彼女達のことが管理世界に知られたらどうなってしまうか、簡単に説明しよう。

 

 まず、なのはやガイ、フェイトといった魔導師組は、間違いなく管理局から熱烈なスカウトを受ける。本人たちが望む望まざるに関わらず、断り続ける限り付き纏われ続けるだろう。

 それがもしミコトや恭也さんの怒りに触れてしまった場合、彼女達と管理局は敵対してしまう。優秀な人材を獲得するどころか、余計な損失を出してしまうのだ。

 では恭也さんはどうだろう。彼の場合、ひょっとしたら「管理世界の秩序を脅かす」などという理由で命を狙われるかもしれない。非魔導師が魔導師を圧倒するというのは、管理世界の常識ではあってはならないのだ。

 そんなことになったら、彼らは死力を尽くして管理局を潰しに来るだろう。無論そう簡単に潰れるような組織ではないが、ミコトという少女の力量は底が知れなさ過ぎるのだ。

 そして、ミコトの"魔法"。それが成した「死者の復活」(蘇生ではない)という奇跡。管理局どころか、犯罪者たちも喉から手が出るほどにそれを欲するだろう。

 これはもう最悪だ。被害は管理局だけに留まらない。管理世界そのものが立ち行かなくなる可能性すら出てくる。自身の平穏のために、管理世界を滅ぼすぐらいはやりかねない。彼女は、やると言ったらやるのだ。

 それに伴い、当然アリシア・テスタロッサ……ではない、アリシア・T・八幡の情報なんかも秘匿する必要がある。

 もちろんこれらの予想は最悪を想定したものであるが、それなりの確率で発生し得る未来だというのが、リンディ提督、エイミィ補佐官、そして僕の共通見解だ。

 だから、彼女達の情報は一切表に出すことなく、ジュエルシードの持ち主であったユーノと、僕達アースラスタッフのみで処理した事件ということにしなければならない。報告書を誤魔化さなければならないのだ。

 スタッフにも同様の説明をしており、理解を得ている。彼らは知っているのだ。ミコトという少女が、時空管理局の執務官と提督を手玉に取ったことを。大魔導師を論破したことを。

 知っていれば、この未来予想が誇大妄想などではないことは想像がつき、現在進行形で必死になって通信データを誤魔化してくれている。

 

 秘匿しなければならないのはこれだけじゃない。ユーノがミコトに報酬として支払ったジュエルシード。これも、紛失扱いにしなければならないのだ。

 僕は具体的な説明は受けていないが、ユーノが言うことには、彼女に渡ったジュエルシードは全てアリシアを復活させたときと同じような使い方をしているらしい。つまり、彼女の"魔法"に通じる情報なのだ。

 幸い、それらはミコト本人が封印を行ったものであり、デバイスに情報が残っているものではない。さらに、実際にジュエルシードは別物に変質しており、紛失という言い方は出来る。

 隠さなければならないのは、紛失した経緯だ。全て「封印作業中の事故による喪失」という扱いにして、シリアル1、6、14、20につながる情報を断たねばならない。

 ……ミコトはアリシアを助けるために、本来予定していたのとは別の用途にジュエルシードを使っており、本当はもう一つ必要だったのだそうだ。

 だが他全ては、履歴がS2Uの中に残った後だった。さすがにそれを渡すことは出来なかった。ミコトの方も「筋を違える」という理由で、受け取る気はなかったようだが。

 

 他にも、フェイトの存在につながるからという理由で、プレシア・テスタロッサが行った違法実験「プロジェクトF.A.T.E.」は失敗したということにしなければならない。

 これはもう完全に言葉遊びの世界だ。「人造魔導師の作成」という面から見たら成功だが、プレシアの求めた結果ではなかったから失敗。この「失敗」を、公的な報告とした。

 フェイトの証言から、プレシアにはリニスという使い魔がいたことと、彼女らが住んでいたアルトセイム地方の民家から彼女の手記が出て来たこともあった。

 もちろん、公表できるわけがない。これらのことは、フェイトが管理外世界の住人となったことと合わせて、捜査範囲外ということにして処理してある。

 そんな感じで、事後処理としてやらなければならないことが山ほどあった。不謹慎ではあるが、一足先に旅立ったプレシアが羨ましくさえ思えてくる。本当に満足した顔で逝ったからな、彼女は。

 ちなみに、事件が終わってからの僕の平均睡眠時間だが、4時間を切っている。また身長が伸び悩む……。これが終わったら、溜まっている有給を使うのもいいかもしれないな。

 

 さて、そんな忙しい僕ではあるが、今向かっているのは執務エリアではなく、管理局保有のジム施設。事務施設ではなくジム施設だ。

 別に僕が運動をしたいわけではなく、そこでトレーニングを行っているであろう人物に用があるのだ。こちらに戻ってからというもの、彼女に告げた言葉を現実とするべく、彼はここに入り浸っているのだ。

 ……正直、迷走してるんじゃないかと思っている。

 

「やっぱりここだったか、ユーノ」

「あ、クロノ。ちょっと待って、もうちょっとでダンベル終わるから」

 

 薄着のトレーニングウェアになった金髪の少年は、片方10kgのダンベルを軽々持ち上げている。見た目の線の細さとは裏腹に、少年の体は鍛えこまれていた。

 ユーノ・スクライア。事件の発端となったロストロギア・ジュエルシードを発掘した、スクライア一族の少年。8歳と幼いながらAランク相当の魔導スキルを擁し、補助魔法を得意とする優秀な結界魔導師だ。

 チーム3510の中で唯一の管理世界所属者である彼は、本人の立候補もあって、事後処理を手伝ってもらうべく局に残ってもらっている。その見返りとして、ここを自由解放しているというわけだ。

 ここの主な利用者は、武装隊に所属する局員だ。必然的に体の出来上がった厳つい大人たちが利用するのだが、そんな中で明らかにオフィスワーカータイプの少年は浮いている。どう考えてもミスマッチだ。

 が、彼はリーダーとの別れ際、「次に会うときはもっと男らしくなっている」と約束したのだ。具体的にどうするのか僕は知らないが、まずは体を鍛えることから始めたらしい。

 ……ユーノは初めから見た目に反して力持ちだった。理由を聞いたところ、「遺跡の発掘で力仕事は必要になるし、変態の相手をしていたらいつの間にか鍛えられていた」と虚ろな目で語った。ご愁傷様だ。

 少年はダンベルを持ち上げ、「……100!」と数を口にしてから、鉄の塊をホルダーに戻した。

 

「ふうっ。お待たせ」

「前々から思っていたんだが、君の求める男らしさとはどんなものなんだ? 体を鍛えていて身につくものなのか?」

「もちろん、"あの人"が頼れる男になることだよ。身体能力が必要になることだってあるはずだ。何だって無駄になることはないさ」

 

 他の局員の目があるため、「ミコト」という名前を出すわけにはいかない。そこら辺りは、彼女に「最高の守護者」と評されただけはある。ちゃんと一線を守っていた。

 彼にとって八幡ミコトという少女は、恩人であり、唯一従うリーダーであり、そして思い人だ。底知れぬ才覚を持つ少女と釣り合いの取れる男となるため、日夜努力しているというわけだ。

 

「君の長所は補助魔法だ。そちらを伸ばした方がいいと思うが」

「それは最低条件だよ。伸ばして当たり前、プラスアルファの何かが必要なんだ」

 

 なんとまあ、ストイックなことで。意外と前線勤務が向いているかもしれないな。まあ、今のところ彼に管理局に所属する意志はないようだが。

 移動しながらあたりさわりのない会話をし、人目がなくなったところで本題に入る。

 

「事件関連の聴取?」

「いや、別件だ。先方が何故か、僕と君を指名してきた。信用のおける人物ではあるんだが、理由が分からなくて困っている」

 

 僕がユーノを呼びに来た理由。それは、ある人物から召集がかかったためだ。僕にとって縁の深い、もう一人の父とも言っていい存在だ。

 

「ギル・グレアム提督。聞いたことはあるか?」

「歴戦の勇士だね。第97管理外世界出身の、Sランク魔導師。現在は艦隊職を退いて、顧問官を担当。この人で合ってる?」

「さすがに優秀だな。彼は……僕の父の元上司で、友人だったんだ」

 

 さすがに父さんの話を出すときは、一瞬言いよどんでしまう。それでユーノは何かを察し、深入りせずに納得した。

 僕の父は、既に故人だ。11年前、ロストロギア「闇の書」を巡った事件で、暴走した闇の書に次元艦ごと取り込まれてしまい、上司であったグレアム提督の手で撃たれた戦艦砲「アルカンシェル」により殉死した。

 ……僕が、執務官を目指したきっかけの一つでもある。いつかこの手で闇の書を捕獲し、悲劇の連鎖を断つために。

 

「そういうことなら、クロノが呼び出されるのはまだ分かるけど……僕も?」

「むしろ君を呼び出してくれと僕に来た感じだな。君のことは、ジュエルシードの発掘者としてしか報告していないはずだが……」

「スクライア一族への依頼かな。でもそれだったら、僕を通さないで直接族長に行くはずだし……スカウトってことはないよね?」

「……どうだろうな。見る者が見れば、あの報告書だけで君が非凡であることは分かる。もしかしたら、君の力が必要な何かが発生したのかもしれない」

「今のところ局に就職する気はないんだけどなぁ。もちろん、力を貸すだけだったらいいけど。見返りはもらうけどね」

 

 ちゃっかりしている。恐らく、ミコトの影響だろう。彼女は「貸借バランス」を非常に重要視していた。お互いに納得できる貸借バランスを保つことが、平穏な人間関係であると。

 彼女の場合、関わる人間を最小限に抑えるための主義だろう。だがこれは、世の中の多くの人が抱える人間関係の問題を解消するヒントでもあると思っている。

 一時の情に流されて力を貸して、そのときになって見返りを求めるからトラブルの元となるのだ。それならば最初から条件をはっきりさせておけばいい。彼女がやっているのはそういうことだ。

 そのことを、ユーノはしっかり学んだということだ。「管理局に協力することは当然」などと思考停止せず、双方の利害をちゃんと考えている証拠だった。

 

「そのときはしっかり断ってくれ。僕は局側である以上、止めることは出来ない」

「万年人材不足って話だしね。"あの人"だったら、「人材不足を嘆く暇があるなら、どうすれば人材不足を解消できるか考えろ」って言いそうだけど」

「言って、実行するんだろうな。"あの子"の場合は。だから敵に回したくない」

 

 思うに、局の上層部は、人材不足を解消するための手段をしっかりと考えられていないのだろう。他に考えるべきことが多すぎるのだ。だから、単純な募集やスカウトに頼るほかない。

 個人であるミコトと、組織である時空管理局を比べることは出来ないが……それでも、あの子なら何とかしてしまうだろうという不思議な確信があった。

 

「時間は一時間後だ。10分前になったら迎えにくるから、それまでにしっかりクールダウンして汗を流しておけ」

「了解。それじゃ、後でね」

 

 そう言って彼は、再びジムエリアに戻って行った。……後ろから見た彼の腕は、筋肉が浮き出ていた。すっかり筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だ。

 

「あんまり鍛えすぎると、見た目でドン引かれるんじゃないか? ……まあ、知ったこっちゃないか」

 

 何でか彼の恋を応援する気は起きないので、僕は思考を切って執務エリアに戻った。

 

 

 

 

 

 約束の時間にユーノを回収、グレアム提督の執務室へ向かう。

 華美過ぎず荘重なドアの前に立ち、ブザーを鳴らす。待つことしばし、壮年男性の声が僕達を出迎える。

 

『やあ、来てくれたね』

「時空管理局本局所属執務官、クロノ・ハラオウン。民間協力者のユーノ・スクライアを伴い、召喚に応じました」

「ゆ、ユーノ・スクライアです!」

 

 さっきまでの余裕はどこへやら、ユーノは歴戦の提督に会うということでカチンコチン固まっている。全然男らしくないじゃないか。余裕ぶってただけか。

 ちなみに、今のユーノの格好は普段のスクライア一族の衣装ではなく、黒のスーツ。正装だ。着慣れていないのだろう、違和感しかない。

 

『ははは、そう畏まらないでくれ。ドアは開いているから、気兼ねなく入ってくれ』

「了解しました。失礼致します」

 

 横についたボタンを押し、ドアを開く。中では既にグレアム提督と、彼の使い魔であるリーゼ姉妹が待ち受けていた。

 堂々と中に入る僕の後から、ユーノがおっかなびっくりついてきて、ドアが閉まった。

 

「座って、楽にしてくれ。今何か飲み物を出そう。アリア」

「はい、父さま。クロノはいつもの紅茶でいいかしら。ユーノ君は何がいい?」

「え、えと、僕も紅茶で……」

 

 リクエストを受けて、アリアは一旦下がった。ユーノが座りやすいようにまず僕が座ると、ロッテが後ろから抱き着いてきた。

 

「クロ助、ひっさしぶりー。最後に会ったのって一年ぐらい前だっけ?」

「もうそんなにか。ここのところ、アースラに詰めっぱなしだったから、時間の感覚があやふやだな」

「そーだよ! 一年前だったら、こんなことしたら顔を真っ赤にして慌ててたのに! お姉ちゃんが知らない間に大人になっちゃってー!」

 

 姉ぶるな、と言いたいところだけど、実際アリアとロッテは僕の姉のようなものだ。僕がまだ時空管理局に勤める前からの付き合いであり……勤めてからは、教官でもあった。

 アリアには魔法を、ロッテには近接戦闘を。それぞれしごきと言っていいレベルで叩き込まれた。何度地獄を見たか分からないが、おかげで強くなったのは確かだから、あまり文句は言えない。

 そしてロッテは悪戯好きなところがあり、こうやって僕をからかって遊んでいた。……そういえば、いつの間にか平気になっているな。

 僕も少し大人になり、弱点が減ったということなのだろう。自分の中でそう分析し、内心でちょっと感慨にふけった。ようやく、ロッテに一つ勝てたのだ。

 

 ……そう、思っていたのだが。

 

「まあ? あんなに可愛い女の子の裸を見ちゃったら、あたしぐらいじゃ反応しないのもしょうがないのかなー?」

「なっ、……、!?」

 

 完全に虚を突かれ、狼狽え、――そして顔が青ざめる。

 今の発言は、完全に知っていた。ミコトのことを。

 バッとユーノの方を見ると、彼の顔は完全に警戒の色に満ちていた。手元には魔法陣が浮いており、いつでも魔法を行使できる状態。

 対して、グレアム提督もロッテも、サイドボードで紅茶を入れているアリアも、全く動揺がない。いや、提督だけは、ロッテの勝手な行動に呆れていた。

 

「こら、ロッテ。順を追って説明しないから、スクライア君が警戒してしまったじゃないか」

「えー。でも父さま、どっち道あの子の名前を出した時点で、ユーノ君絶対こうなってたよ」

「落ち着け、ユーノ。ここで事を荒立てたら罪に問われてしまう。それでなくとも、君単独ではリーゼ姉妹には勝ち目がない」

「……分かっていても、引けないときだってあるよ」

 

 彼は僕にも疑いの目を向けている。当たり前だ。ミコトのことを知っているのはアースラスタッフのみであり、その統括をしているのは僕と艦長だ。情報の漏えいがあったとしたら、それは僕達の責任なのだ。

 だが、僕の心配は杞憂であるとグレアム提督は証明する。

 

「我々がミコト君を知ったのは、君達よりもずっと前のことだ。だけど今まで、管理世界の人間が彼女を知ることはなかった。これが、私が彼女の平穏を脅かす意志がない証明にならないかね?」

「それに、あの報告書でクロ助がミコトちゃんの着替えを覗いたなんてことは分からないでしょ。独自に監視してたってことよ」

「……その通りみたいですね。とりあえず、クロノは死ねばいいのに」

「蒸し返すな、全く」

 

 とりあえず僕の嫌疑は晴れたようだが、相変わらずグレアム提督たちへの警戒は解けない。それは僕も同じことだ。

 ロッテは言った。「監視していた」と。管理世界とは関係のない、普通の女の子――ということになっている"魔法使い"――のことを。ずっと前から。穏やかな話じゃない。

 僕達の警戒を前にして、歴戦の勇士たちは余裕を崩さない。アリアがホットの紅茶を3カップ持って来て、提督の側に立った。ロッテもその隣に移動する。

 

「まずは互いの近況報告から、と思っていたんだがね。これでは早速本題に入るしかないか。ロッテの悪戯好きには困ったものだ」

「話が始まったら、あなたは黙っているのよ。余計な発言で混乱させられたら困るんだから」

「ぶー。どーせあたしは「話にならない雑魚」ですよーだ」

 

 ミコトが下しそうな評価だ。つまり彼らは、既にミコト達と面通しを終えている? 一体どんな思惑で、何を考えているのか。グレアム提督は、ミコトにとって味方なのか。それとも敵なのか。

 マルチタスクを使用して並行して考えるが、そう簡単に答えが出る問題じゃない。やはり、話を聞くしかなさそうだ。

 

「聞きましょう。どうして僕達がここに呼ばれたのか。そして、何故あなたがミコト達を監視していたのか」

「……その前に確認しておきたい。クロノ。君は今、管理局の執務官か? それとも、ミコト君の知己か?」

「両方です。僕は執務官としての判断で、彼女の情報を管理世界に流すことは、我々にとっても多大な損失を与えるものだと考えた。そして、ともに事件を解決した同士を売る様な真似はしたくない」

「それを聞いて安心した。スクライア君……は、聞くまでもないか」

「ミコトさんのためなら、僕は管理世界を捨てる覚悟だって出来ている。それが答えです」

 

 本当にこの少年は、ミコトという少女に心酔している。……少し、気持ちが分かってしまうのが癪だ。

 ユーノの刺々しい視線をものともせず、グレアム提督はニコリと笑って見せた。

 

「ではまず、君達が一番気になっているであろう、我々がミコト君にとって敵なのか味方なのか、そこからはっきりさせておこう。今は、味方だ。少し前は、敵と言ってよかっただろう」

 

 ……あの少女は、グレアム提督をも交渉で負かし、味方につけたのか。相変わらずの鬼才っぷりだ。

 はっきりしない情報の中、提督は一息つく。そして紅茶を口に含んで湿らせてから。

 

「ロストロギア・闇の書。我々は独自にそれを追っていたんだ」

 

 衝撃的な一言を発した。

 

 

 

 全てを聞き終えて、僕は呆然としていた。それほど衝撃的であり、情報を整理するのがおっつかない。

 

「……まさか、はやての足の原因がロストロギアの影響だったなんて。寝室なんて近場にあったのに、どうして誰も気が付かなかったんだろう」

「闇の書は起動まではただの書物だ。盗難などを避けるために、認識を阻害するプログラムも付加されている。……それと、我々による隠ぺいも。起動前に破壊されたら、再捕捉出来るとは限らなかったからね」

「ミコトさんならそのぐらいしてもおかしくない。他の誰かが犠牲になろうと、あの人にとってははやての方が大事だから。……本当にサーチャーを飛ばしていたんですか? 僕もフェイトも気付かなかったのに」

「今君の目の前にステルスサーチャーがあるけど、気付かないでしょ? このぐらいの隠ぺい度でやってたのよ」

 

 アリアがステルスプログラムを解除すると、ユーノの鼻先に青色のサーチャーが出現し、彼は驚きのけぞった。何せ、僕の魔法の師匠だ。このぐらいは出来るだろう。

 ユーノは、僕よりもミコトの事情に通じていたためか、グレアム提督の話をすんなり受け止めることが出来たようだ。もう彼に警戒の色はない。

 僕は……どうしても困惑を隠せない。だって、闇の書は僕にとって、忌まわしき始まりのロストロギアだ。それが、そんな近場にあったなんて。

 発覚があまりに急すぎたというのもある。グレアム提督の予定通り、近況報告のあとに意思確認をしてから話してもらいたかった。

 

「我々は、何としてでも闇の書を元の姿に復元したい。もう私にとって、ミコト君とはやて君は、失いたくない存在だ。そのために力を借りたい。それが、君達をここに呼んだ理由だ」

「もし闇の書が闇の書のままだったら、二人が闇の書ごと永久封印されてしまうという話でしたね。なんていうか……ミコトさんらしいや」

「……本当に、その通りだ」

 

 提督はユーノに同調し、力なく苦笑する。彼女が納得する答えを出せたはいいが、自分自身は納得できていない。そんな顔だ。

 ユーノに関しては、認められるわけがないだろう。恩人であり、リーダーであり、憧れの人でもあるミコトが、文字通り手の届かないところに行ってしまうなど。だけど、彼女の意志を否定することは出来ないのだ。

 だから二人してこんな顔をして、リーゼ達に心配そうな表情を浮かべさせる。

 

「闇の書、か……」

 

 ポツリとつぶやく。それは、グレアム提督にとっても長年のしこりとなっていたのだろう。そのために彼は友を失い、今度こそ封印するために何年も待ち続けた。

 だけど今の彼にあるのは、復讐の心ではなく純粋に「夜天の魔導書」を復元したいという青雲のような志。だまし続けた少女達の幸せを願う、父親のような優しさだ。

 今回の闇の書の主、「八神はやて」。地球を去る際に、少しだけ顔を合わせた。八幡ミコトの同居人であり、「相方」だそうだ。

 ミコトがジュエルシードを求めたのも、それを使って"召喚体"と呼ばれる存在を生み出したのも、全ては彼女の足のため。彼女の足を治し、平穏な日常を享受するために、管理世界の厄介事に首を突っ込んだ。

 そして辿り着いたのが、管理世界に古くからまとわりついている厄ネタだったというのは、皮肉なものを感じるな。悪い意味で運命という言葉を使いたくなる。

 僕の呟きに、グレアム提督は真摯な視線を向けてくる。負の感情はなく、僕も微かにしか覚えていないが、父さんが亡くなる前の11年前と同じ瞳。

 

「私は気付けた。望んでいたのは復讐などではなく、私自身が納得できる結果であったと。それは、彼女達を犠牲にして闇の書を永遠の眠りにつかせることではなく、彼女達に平穏な日々を与えることだ」

 

 「そのためだったら、私は何でもする」と。……始まりの意志は復讐という仮面だったかもしれない。だけど長年二人を見続けた今の彼にとって、ミコトとはやては、娘も同然になっていたのだろう。

 それほどに強い意志。もしも「正義」というものが本当にあるのなら……今の彼にこそ相応しい言葉だろう。

 では、僕は? 僕の意志は、どうなんだろう。

 闇の書は、僕にとっては父さんの仇だ。友人ではなく、肉親の仇だ。父さん亡き後の母さんがどれだけ苦労してきたのか、間近で見ている。

 管理局を辞めて専業主婦をしていたのに、そのために管理局に戻らざるを得なかった。元々その予定ではあったらしいけど、予定を早めて3歳の僕を抱えての復帰は、苦行と言わざるを得なかっただろう。

 そして、本来は父親が成すべきことをするために、提督という役職まで上り詰めた。僕はその背中を見て育った。おかげで真っ直ぐに育つことが出来た。

 母さんは僕に「父親がいないことで感じる不自由」を極力なくすよう努力してきた。そのために支払ったものがどれほどだったのか……子供の僕には、まだ分からない。

 だから、思ってしまう。「父さんが生きていれば、母さんは絶対にもっと幸せだっただろう」と。理不尽に奪われてしまったことに、恨みを感じないと言ったら嘘になる。

 ……ミコトに対しては多少の義理がある。だけどそれが彼女の「相方」という、僕から見たら完全な他人に対して適用されるだろうか。それは、僕の感じる恨みを抑え込んで協力出来るものだろうか。

 

「スクライア君……ユーノ君は、聞くまでもないだろうね」

「当然です。ミコトさんが僕の力を必要としてくれている。それだけで、僕が動くには十分すぎる理由です」

「本当に、あの子は仲間から慕われているのだね。我がことのように嬉しく思うよ。……クロノ」

 

 提督の意志が再び僕を向く。優しく、宥めるように。

 

「君に関しては、無理を強いるつもりはない。君にとって闇の書は、私以上に"仇"だ。そう簡単に折り合いが付けられるものではない」

「……そうですね。虚偽を語っても仕方がない。正直に言って、迷っています」

 

 時空管理局の執務官としては、次元災害を抑える目的もあるこの計画には協力すべきだろうが、僕は今個人としてのクロノ・ハラオウンとして聞かれている。

 ミコトは管理世界とあまり関わりを持ちたくないと思っている。全てが終わった後に、管理世界のごたごたに巻き込まれて平穏を失ったのでは、何も意味がないのだ。

 だから、局員としての協力ではなく、クロノ・ハラオウンとしての協力を求められているのだ。グレアム提督にしても、提督という巨大な権限を持つ重職ではなく、ギル・グレアムとして協力を求めている。

 

「協力できないというのなら、それで構わない。ただ、ここで聞いたことは他言無用でお願いする。……と言っても、ミコト君につながる情報を管理局に流すのがどれだけ愚かか、君なら分かっているか」

「ええ。自分達の平穏を脅かすのであれば、彼女は管理局と敵対するでしょう。出来ることなら、今後も互いに協力を求められるような関係でいたい」

 

 彼女自身に魔導の力はなくとも、ある意味で僕達よりもよほどうまく使ってくれる。「指揮」という形で。報酬に応じて依頼を引き受けてくれる関係性でいるのが、一番望ましい。

 これが時空管理局がチーム3510と共栄関係を築ける唯一の方法だ。非正規の民間協力団体として、局員としてではなく個人として依頼をする。

 だからこそ、彼女達と敵対するなどというつまらない結果にしてはならないのだ。管理局にとっても多大な損失を意味しているのだから。

 それはそれとして、だ。僕は……「ハラオウン執務官」ではなく、「クロノ・ハラオウン」はどうしたいのだろう。どうすべきかではなく、どうしたいと思っているのだろう。

 目を閉じ、思いを探る。僕にとって八幡ミコトという少女は、そこまでしたい相手なのかどうか。

 僕にとっての八幡ミコトは、ジュエルシード事件を解決した同士であり、事あるごとにからかってくる天敵であり、話の波長が合う気安い知人。何故か腐れ縁の執務官補佐兼通信士、エイミィ・リミエッタを想起させる。

 エイミィとミコトは、まるでタイプの違う女性だ。エイミィはミコトほど無表情ではないし、ミコトはエイミィほど無鉄砲ではない。

 だが、ひょっとしたら……根っこの部分では近しい何かがあるのかもしれない。事件のときは二人の間に会話をする機会がなかったから、気が付かなかった。

 とはいえ、エイミィとミコトを比較しても意味はないか。バックグラウンドが違い過ぎる。士官学校時代からの腐れ縁と、つい最近知り合った女の子。共有した時間の長さが違い過ぎる。

 ミコトと過ごした時間は、本当に短い。事件の調査で地球に行ってから、解決までの二日間。事情聴取のための一日。プレシアの葬儀。そして、別れの挨拶。たったこれだけだ。

 たったこれだけの時間で、彼女は僕の記憶に焼きついた。それほどに濃密な時間だったのだ。あの二日間は。

 交渉で言い負かされ、彼女の指揮に従い、ジュエルシードを回収するために戦い、そして復活の奇跡に立ち会った。その才覚を、まざまざと見せつけられた。

 今の僕にとってのミコトを表す言葉。「目標とするべき好敵手」。これが一番しっくりきそうだ。

 目を開き……視界に入ったもので、僕の腹は決まった。

 

「協力させてください。執務官としてではなく、僕個人として」

「……そうか。そう言ってもらえて助かった。だが、理由を聞かせてもらっていいかな。君はさっき、迷っていると言った」

「闇の書については、確かにその通りです。恨みを消すことなんて出来やしない。だけど、彼女に協力したいという思いの方が強ければ、ねじ伏せることぐらいは出来る」

「それほど、ミコト君は君にとって大きな存在だということか」

「ええ。あの事件のとき、僕は彼女に負け通しだった。勝ち逃げなんて許さない」

 

 僕だって男だ。女の子に負けっぱなしで引き下がれるほど諦めはよくない。

 

「それに……」

 

 とはいえ、これは一番の理由ではない。一番の理由は、ユーノだった。

 

「このフェレットもどきのニヤけた顔が気に入らない。だから、そばについておいて、やらかさないように監視しなけりゃならない」

「なぁっ!? ぼ、僕はニヤけてなんかっ! それに、誰がフェレットもどきだ!」

 

 いーや、ニヤけてた。大方「ミコトの力になれる」とか考えてたんだろう。そんな程度で浮かれてるんじゃないよ、バカ者。

 ユーノの気持ちを察したのだろう、ロッテがニヤニヤしながら彼を弄る。

 

「おー。ミコトちゃん、思われてるねぇ」

「な、何言ってるんですかリーゼロッテさん!? ぼ、僕は別にミコトさんのことが好きってわけじゃ……」

「あたしは「思われてる」って言っただけだよ? 「こんなに仲間に思われるなんて、指揮官の鑑だなぁ」って思っただけなんだけどなー」

「うっ!? こ、これはその、と、とにかく違うんです!」

「ロッテ、あまりユーノ君をからかわないようにね」

「はーい」

 

 「まったく」と言いながらアリアが呆れたため息をつく。僕は奴の醜態には取り合わず、グレアム提督との話を詰める。

 

「協力はします。しかし、アースラ付け執務官として、そちらの業務もおろそかにするわけにはいきません。今もクルーが事件の後処理に追われている」

「それについては、我々も協力しよう。ミコト君の情報保護は私にとっても必須の条件だ。協力だけ求めて見返りなしなどという虫のいい話はしないよ」

「提督とリーゼ達がついてくれるなら、残務もすぐに片付くでしょう。ありがとうございます」

 

 とりあえず僕の協力は、ジュエルシード事件の処理を全て終えてからということになった。

 

「ユーノ君は、資料集めをお願いしたい。闇の書と夜天の魔導書について、スクライア一族の情報網があると心強い。それから、「無限書庫」の使用許可も出そう」

「無限書庫って……もしかして、「図書館の皮を被った迷宮」ですか?」

 

 ユーノの顔が引きつる。元々情報関係に強いからだろう、無限書庫の悪名も聞き及んでいたか。

 無限書庫。本局内にある図書施設で、膨大な情報が眠るデータベース。ユーノが言ったものに加え、「遭難する図書館」だとか「本棚のダンジョン」だとか、いっそ「悪夢の書庫」だとか、物騒な二つ名が多数存在する。

 確かにあそこならば古代ベルカの情報も眠っている可能性は高いが……見つけられるか、見つけられたとして生きて出られるかが問題だな。

 なんといっても、広い。その全貌は誰も把握していないと言われるぐらいに広い。全ての管理世界の全ての歴史を収めているのだから、当然と言えば当然だ。

 そして、構造が複雑だ。元々は目的の情報にすぐにアクセスするためにそうなっていたのだろうが、膨大を通り越して暴力的な量の情報と合わさったことで、侵入者を生かして帰さないような迷路を作り上げている。

 極め付けは、情報が未整理であるということ。管理世界が広がるペースに整理が追い付かなくなった結果、手当たり次第放り込むことになってしまった。

 おかげで無限書庫での調査を行う際には、調査隊を組んでキャンプセットを装備して、年単位でことに当たらなければならなくなっている。

 以前、無限書庫での調査任務に当たったことのある局員と話をする機会があったのだが、書庫の話を出した途端目が虚ろになりうわごとを呟き始めた。トラウマになってしまったようだ。

 そんな場所を調べろと言われてしまったユーノの心境は、推して知るべし。ほら、ミコトに男らしさを見せるチャンスだぞ(棒)

 

「もちろん君にも報酬は出す。それだけの労力を強いるのだから、我々に出せる報酬なら何でも用意しよう」

「……分かりました。ミコトさんが必要としているんだ。そして僕は「最高の守護者」なんだ。そのぐらい、軽く一捻りにしてみせましょう」

 

 固い表情ながら、首を縦に振るユーノ。よくやる気になるものだ。恋愛による補正だろうか。僕には分からないな。

 恐らく彼は、無限書庫を頼ることになるだろう。スクライア一族の情報網とはいえ、そう簡単に見つかるようなら既に時空管理局が「夜天の魔導書」の名前ぐらい把握していてもおかしくない。

 そうではなく、いまだに「闇の書」という「次元災害を引き起こす危険なロストロギア」としてしか認識されていないのだ。夜天の魔導書の情報は失われて久しいのだろう。

 ……もし闇の書を夜天の魔導書に戻すことが出来たなら。それは"闇の書の闇"を殺すということになるだろう。僕に復讐の意志があったとして、それで十分満たされるだろうな。そういう意味でも、悪くない考えだ。

 

「クロノは私達とともに、ユーノ君のバックアップだ。また、万一の際に二人を封印せずに済む代案も一緒に考えてほしい」

「資料方面は彼が主力となるでしょうからね。了解です」

 

 僕はグレアム提督のお手伝いの形になるようだ。妥当なところだろう。僕はユーノのように一分野において突出した能力を持っているわけではないのだ。出来る範囲は広いだろうが、出来ることは限られている。

 方向性は決まった。僕はグレアム提督たちとともに、まずはアースラの残務処理。それが終わり次第ユーノが調査しやすいようにバックアップを行い、並行して代案模索を行う。

 ユーノは、明日からスクライア一族の方に打診してみるようだ。それと、無限書庫での調査のための準備も行うらしい。

 

 これにて、本日の用件は終了のようだ。緊張感のあった空気が弛緩し、世間話のモードに移行する。

 

「そうそう、ユーノ君には是非聞いておきたいことがあったのだよ」

 

 ……だというのに、何故だろう。妙に背筋に寒気を覚えるのは。何故グレアム提督は、世間話になった途端に、今日一番のプレッシャーを放っているのだろう。

 

 

 

 

 

「君は、ミコト君のことが好きなのかい?」

「ふぁいっ!? ど、どうしてそんな!?」

 

 どうしてって……さっきロッテに弄られたときに自白したようなもんだろう。それがなくとも、これまでの発言を統合すれば君がミコトに入れ込んでることは明白だろう。

 大いに狼狽えるユーノを、グレアム提督は柔らかいが鋭いという矛盾した視線で射抜いていた。

 

「好きではないのかい?」

「そ、それはもちろん好きですけどっ! そ、そういうことではなくてですねっ!」

「ふむ……やはり好きなのか」

 

 プレッシャーが増す。僕はそれを確かに感じ取った。グレアム提督の表情は柔らかいままだが、明らかに一言一言が重たい。

 これは、まさか……。

 

「いやいや、何も恥ずかしがることはない。あれだけ可愛い女の子なんだ。男の子ならば、惹かれても無理はない。クロノもそう思うだろう?」

「……そうですね。見た目は、非常に女の子らしくて可愛い美少女だと思いますよ。ただ、口調で圧倒されてしまう」

「ふむ? クロノには彼女の本当の可愛さが分かっていないようだね。あの性格、あの口調あってこその可愛らしさというものだよ」

 

 間違いない。これは、「親バカ」だ! 提督は、ミコトに対して「親バカ」を発症しているんだ!

 

「はやて君の"はんなり"とでも言うだろうか、あの柔らかさと明るさも、少女らしくて可愛らしい。二人とも可愛くて、見ているだけで幸せになれる」

 

 ミコトだけじゃなかった! はやてという少女に対してもだった! どうしてしまったんですか、グレアム提督! 「歴戦の勇士」と呼ばれたあなたは何処に消えたんですか!?

 リーゼ達も、苦笑いをしながら頬をかいていた。彼女達も、こうなった提督をどう扱えばいいか、まだ分かっていないようだ。

 

「二人とも器量が良くて、きっといいお嫁さんになるだろう。だから私は、彼女達に相応しい相手でないと納得できないのだよ。相応しくない男が言い寄っていたら、ブレイズキャノンを叩き込んでしまうかもしれない」

 

 忘れてはならない。この人、人の好さそうな顔をしてSランクの魔導師だ。Sランクの魔力で叩き込まれる砲撃魔法……プレシアの次元跳躍攻撃の脅威を思い出す。

 ここに到り、ようやくユーノは理解したようだ。グレアム提督にとって彼が、「愛娘に言い寄る男」であると。彼の表情が青ざめた。

 

「もう一度聞こう、ユーノ君。君は、ミコト君のことが好きだね?」

「……、……は、はい」

「うむ、正直なのはいいことだ。それでは、君は彼女とどうなりたい?」

「ど、どう、って……」

「恋人になりたい。将来結婚したい。そういう願望はあるのかね」

「っ!? ……けっ、こんって……ま、まだ子供ですよ」

「考えている子は、その歳で考えているものだよ。その様子では恋人になるビジョンもはっきりしていないようだね」

 

 だらだらと脂汗を流すユーノ。グレアム提督は柔らかな表情は崩していないが、目線は鋭くユーノを品定めしていた。

 ややあってから。

 

「……将来性はありそうだ。精進しなさい。今のままでは、私は君にスティンガーブレイド・ジェノサイドシフトを叩き込まなければいけなくなる」

「ジェノッ!? し、死んじゃいますよ!?」

「大丈夫さ、非殺傷だからね」

 

 非殺傷でも死ぬときは死ぬんだよなぁ。何はともあれ、ユーノは第一関門を突破出来たようだ。局員が、しかも提督という重役が犯罪まがいのことをしようとしていることには突っ込みなし。そんな余裕もないだろう。

 次いで、提督は僕に視線を移す。

 

「クロノは、どうだい。ミコト君をどう思っている?」

「……さっき言ったと思いますが、見た目は美少女です。魅力がないとは思いませんが、そういう対象としては見てませんよ。第一、6歳差ですよ」

「私の故国では歳の差婚なんてよくある話さ。6つ程度、あってないようなものだよ」

 

 いや、僕達の歳では結構大きい差だと思うんですが。ロリコン扱いになってしまう。僕は正常なんだ、小児性愛じゃない。

 

「今のところ、恋愛・結婚は考えてません。仕事が忙しくてそれどころではない」

「それは言い訳だよ、クロノ。待っていてやってくるものではない、自分から動かなければ」

「……グレアム提督、どうして僕が待っていると思うんですか」

「私の目には、君がミコト君に惹かれているように見えるからだよ。自覚はないのかもしれないがね」

 

 それは……どうなんだろう。「目標とするべき好敵手」として見ている以上、惹かれていないと言ったら嘘だろう。だがそれは、恋愛的なものなんだろうか? もっと別の何かじゃないだろうか。

 今後どうなるかは分からないが、少なくとも今は、ミコトを恋人にしたいだとか、そういう欲求はない。……そうなったら面白そうだ、というのはあるけれど。

 

「自覚がないなら、それが僕にとっては真実ですよ。彼女にはもっと相応しい相手がいるでしょう。もちろん、このフェレットもどきなどではなく」

「な、なんだとぉ!?」

 

 ちゃんとユーノ弄りを忘れない僕は、なんて友人の鑑なんだろう。

 

「ふむ……。クロノが相手なら文句はなかったんだがね。私もよく知っている男の子だし、社会的地位も申し分ない」

「そういうことなら、僕が管理局の人間という時点で向こうがアウトでしょう。彼女は管理世界に関わりたくないんだから」

「君への愛で意見が変わるかもしれない。私も、彼女の才能は買っているんだよ」

「うぅ……会話が雲の上過ぎて何も言えない……」

 

 頑張れ、民間人。

 

「彼女の裸を見た責任は取るべきではないかね?」

 

 ここでその話題をぶっこんでくるか。

 

「僕と彼女の間では決着した話です。ミコトは要求し、僕は果たした。それで、おしまいです」

 

 見てしまった記憶自体はなくせないが。……いかん、少し思い出してしまった。あのときの可愛さは反則だ。普段と全然違うじゃないか。

 あれやこれやと攻めてくる提督をあの手この手でかわす僕。一体何をやっているんだろうか。

 

 結局、この不毛な攻防は面会時間が終了するまで続けられた。ユーノが不満のこもった目で僕を見てきたが、知ったこっちゃなかった。

 

 

 

 こうして、僕達は「夜天の魔導書」復元プロジェクトに参加することとなった。

 ジュエルシード事件で結成された回収チーム。それが今度は復元チームとなり、僕が彼らに再び深く関わるということに、何かの因果を感じずにはいられなかった。

 ――あれは、連鎖した因果の始まりだった。絶望の連鎖を断ち切り、希望へと返る、因果連鎖の最初の因子。「偶然」という、この世で最も大事なチャンスだったんだ。

 もっとも、それを知るのはもっと先の話。「結果」が出た後のことだが……。

 

 なお、翌日から僕の端末宛にミコトの写真(はやてからグレアム提督に送られたもの)が届くようになった。

 歴戦の勇士ェ……。




というわけで、やらなきゃいけなかったクロノとユーノを巻き込む回。必然的にリンディとエイミィも巻き込まれます(直属の上司と補佐官なので)
今度こそ、次回からまったり日常回です(多分) たとえ次回出来なかったとしても、夏のイベントは出来る限りこなします。夏休み、海、夏祭り、銭湯……。
これ書いてるのって冬なんですよね(白目)

ユーノが「コマンド」ー化し始めました。将来的に筋肉言語で戦う男になるんですかね(すっとぼけ)
なのはそっちのけでミコトに惚れた時点で原作ユーノとは似ても似つかないわけですが、この分だと無限書庫の司書にもならなさそうです。
この後彼はトレーニングとプロテインの量を増やしたようです(筋肉)

グレアム提督、まさかの親バカ化(順当) どうやら彼はユーノよりもクロノ推しのようです。クロノにとってはもう一人の父親みたいな存在だしね。しょうがないね。
クロノに毎日ミコトの写真を送るのは、クロノの気持ちを育てようというのと、娘自慢みたいな気持ちが半々です。
どうしてこうなった……。

書き溜め分が尽きたので、そろそろ更新ペースが落ちると思います。申し訳ないです。


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