不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
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微妙な戦闘回?です。日常話の閑話的な。


三十五話 主

 その日の夕餉時、シャマルから通知があった。

 

「闇の書の魔力簒奪が再開しました。量としては微々たるものなんだけど、確実に増加を始めてる。恐らく、あと一週間ほどで元の量に戻ってしまうわ」

「そうか。調査協力、感謝する」

 

 どうやらおよそ一月の間蒐集を全く行わないと、主から魔力を奪ってせっついてくるようだ。その方法だと結果的に蒐集効率が落ちるんじゃないかと思うが、バグ相手に論理性を語っても仕方ないことだ。

 ともあれ、二つのことが分かった。定期的に蒐集を行えば、はやてに残された時間を延長できるということ。そして、近いうちに再度蒐集を行う必要があるということだ。

 

「幸い、明後日から夏休みだ。すぐにでも蒐集は行える。後ほどミステールの念話共有で関係者には連絡を入れる。全員、それで問題はないか?」

「無論! 主のために剣を振るえる日を、この一ヶ月待ちわびていた!」

 

 穀潰しと化したシグナムがここぞとばかりに意気込んでいるが、ほっぺについたご飯粒で台無しだ。シャマルに指摘され、慌てて取る。

 ……いずれは彼女にも収入源として働いてもらうつもりでいたが、この一月半の間完全に放置になっていた。おかげでアリシアとのやり取りが強化されるばかりだ。

 いい加減、何か職を探してやるか。こんちくしょうに何かしてやるというのは癪で仕方がないが、収入が多い方が助かるというのは間違いないのだ。

 ヴォルケンリッターは、リーダーが何の確認も取らずに先走ったが、首を横に振るとは思っていない。彼らは全員はやてのことを思ってくれている。はやての不都合を取り除くのは早い方がいいと判断出来るはずだ。

 召喚体も、前線要員は基本的に自宅待機させているわけだから、特に予定はない。ブランがバイトの日でも、はやてのことはアリシアが見てくれる。

 残る家族は二人。オレの妹であり娘であるフェイトと、その使い魔アルフ。

 

「わたしも、大丈夫。皆で楽しい夏休みを過ごせるように、頑張るよ」

「全面的に同意! 夏は海に行ったりするんだろ? だったら、余計な心配事なんてない方がいいに決まってる」

 

 全員、問題なし。……心強い家族だ。微かな不安さえ感じさせない。この面子なら、今後の夜天の魔導書復元もきっとうまくいくと思わせてくれる。根拠はないが、余分な不安を感じさせないでくれるのは、ありがたい。

 

「方針は、前回と同じですか?」

「いや。今回は2ページ蒐集して、前回との差を調べたい。それに、あまり一ヶ所で蒐集を行うと、既に蒐集した個体に当たる可能性が高まって効率が悪くなる」

 

 闇の書で蒐集出来るリンカーコアには制限があり、一個体一回までとなっている。だから、たとえばフェイトなどから協力を得て疲弊しない程度に蒐集を行い、回復を待って再度ということは出来ないのだ。

 これは多分、夜天の魔導書の元々の記録機能による制限だろう。本来は数多の魔導を記録するための書物だったならば、同じ魔法を何度も記録しても意味がないということだ。

 だから、一ヶ所だけで蒐集を行うというのは難しいだろう。ページ数を増やすなら、前回と同じやり方では効率も悪すぎる。

 

「明後日は、3ページ目の完成を目指す。中型をメインで狙い、微調整を小型で行う」

「へへっ。前回はチマチマした作業でめんどかったけど、次はそうでもなさそうだな」

 

 シグナム同様、細かな作業が苦手なヴィータ。高い戦闘力を持つ彼女は、中型や大型を狙うときにこそ真価を発揮すると言っていい。今回はアテにしているぞ。

 戦闘が発生する以上、微小であろうがリスクは発生する。特にオレや恭也さんは、バリアジャケットによる強力な防御態勢を持たない。

 だから、ザフィーラの働きも重要だ。彼は「分かっている」と言わんばかりに、狼型のまま静かにオレを見ていた。

 

「危ないことは反対やけど……必要なことなんよね」

「ああ。ギルおじさんの資料集めにどれだけの時間がかかるか分からない以上、こちらで出来ることはやっておきたい」

 

 先日、彼からエアメールが届いた。ユーノとハラオウン執務官の協力を取り付けたそうだ。今後向こうは、彼らに加えてハラオウン提督、リミエッタ通信士とともに調査を進めるらしい。

 少数とは言え精鋭。何せ、提督二人に執務官一人だ。リミエッタ通信士は分からないが、ユーノの情報処理能力はオレも信頼を置いている。こちらも心強いと言っていいだろう。

 それでも、調査は難航するだろうと予想されている。「闇の書」の情報は知られていても、「夜天の魔導書」は失われて久しいのだ。

 管理局には「無限書庫」という超巨大データベースが存在し、そこならば有力な情報が得られる可能性もあるらしい。が、超巨大ということは、それだけ調査に時間がかかるということを意味している。

 エアメールによれば、通常は年単位で調査を行うようなデータベースだそうだ。何のためのデータベースだと言いたいところだが、整理するための人員も足りていないのだろう。とやかく言うまい。

 ともかく、ギルおじさんからもこちらはこちらで出来ることをやってくれと言われているのだ。考え得る限りを尽くすのは、当然の努力だ。

 ……全くの余談だが、エアメールには何故かハラオウン執務官とユーノの写真が何枚か同封されていた。ハラオウン執務官は業務中の、ユーノはジムトレーニング中の写真だ。

 感想としては、ハラオウン執務官に対して「ちゃんと寝ろ」、ユーノに対しては「その歳でウェイトトレーニングはやめろ」だ。思った内容は、既に手紙に付記して返信してある。

 おじさんが何を思ってオレ達に彼らの写真を送りつけたのか分からないが……ユーノの気持ちでも聞いたのだろうか? それなら何故ハラオウン執務官まで? 彼については、特に思うところはなかったはずだが。

 なお、はやての発案で返信にはオレ達の写真を同封している。オレのは、先々月のプールの写真と、ミニ十二単の写真だ。はやてのチョイスである。

 ――どこぞの金髪少年は、写真を見た際に歓喜しながら嘆いたそうだ。「何故自分はその場にいなかったのか」と、黒髪の執務官の胸倉をつかんで涙を流したらしい。どうでもいいな。

 

 閑話休題。ギルおじさん達が頑張ってくれているのだから、こちらもこちらで時間稼ぎはしておきたい。彼らとしても最早復讐の意志などなく、誰も最悪の手段は取りたくないのだから。

 

「皆頑張ってくれとるんや。したら、わたしの我儘で迷惑なんかかけられへん」

「はやてがそんなことを考える必要なんてないと思うが。オレ達は、自分達がやりたいことをやっているだけだ」

「ソワレ、はやてに、あるけるようになってほしい。いっしょに、おまつり、あるきたい」

 

 オレ達の愛娘がピョンと椅子から飛び降りて、はやての膝にすがる。立ち歩きを注意せず、彼女は愛おしそうに頭を撫でた。

 

「姉君に同意じゃ。そう上手くはいかぬかもしれんが……魔力簒奪の具合次第では、奥方が夏中に歩けるようになるかもしれぬじゃろう? そう思ったら、わらわが動かぬ道理なぞない」

「ソワレ、ミステール……あんたら、ほんとええ子達やで。ちょっとじわっと来たわ」

「本当に、よく出来た妹達です。……わたし達ははやてちゃんのそばにいることしか出来ません。だから、ミコトちゃんのことは、あなた達に任せますからね」

「アリシアのぶんもおねがい!」

「うん、まかされた!」

「呵呵っ、言われるまでもないわ」

 

 オレの家族にして、オレの力そのものとなってくれる心強い相棒たち。彼女達がいる限り、オレは最後まで走り続けることが出来るだろう。たとえ、足をもがれようとも。

 もっとも、そんなことははやてがよしとしないわけで。

 

「リッターの皆も、ちゃんとミコちゃんのこと守るんやで」

「ったりめーだ! ミコトには指一本触れさせねーから、安心してろよ!」

「ふふっ。ヴィータちゃんってば、本当にミコトちゃんのことが大好きなんだから。もちろん、わたし達もだけど。ね、ザフィーラ」

「お前まで騎士の本分を忘れてくれるな、シャマル。俺達の主が誰なのか、くれぐれも間違えるなよ」

 

 まったくもってザフィーラの言う通りだ。主命に従っていると取れなくもないが、特にヴィータは、もうちょっとはやてが主であることを自覚してくれ。

 そう思い……シグナムに目線が行く。いつもだったら、彼女がヴィータを諌めそうなものだ。だが今日の彼女は、神妙な顔つきでオレを見ている。

 

「なんだ」

「……いや。私も主に命ぜられて貴様を守るのだ。だから貴様も、ちゃんと自分の働きをしろ。そう思っただけだ」

「今更だ。オレはいつだってオレ自身の思った通りに行動している。貴様に指摘されるまでもない」

「……そうだな」

 

 ……なんだこの素直なシグナムは。悪いものでも食ったのか? 率直に言って、キモチワルイ。

 

「しおらしいシグナムなど、偽物かと疑うだけだ。いつも通りにしていろ」

「……いつも通り、か。いつも通りの私とは、どんなものだっただろうか」

「データ欠損は言い訳にならんぞ。本格的に痴呆を疑ってもいいか?」

「そういうことではないっ! ……貴様と話をしても、余計に分からなくなるだけだ。放っておいてくれ」

 

 わけが分からんな。まあ、いい。明後日のミッションでちゃんと動いてくれるなら、別にそれで構わないのだ。

 心配そうなはやてを宥めるように、オレは口元で少しだけ笑みを浮かべる。ちょっとあってから、はやては苦笑気味に笑った。

 そして、オレは次回ミッションの総括を行う。

 

「それでは明後日、午前9時から、二度目の蒐集実験を行う。対象は中型メイン。戦闘が予想されるため、各員気を抜くことのないように。場所については、後々フェイト、シャマルと相談して決定する。以上だ」

『了解っ!』

 

 その後、場所も決定した。第71無人世界「コルマイン」。赤い荒野で覆われた、不毛の大地が次の舞台だ。

 

 

 

 

 

 今回の参加者は、いつものから恭也さんを除いたメンバー。本当は彼も来ようとしていたのだが、彼の通う大学はこの時期に試験ラッシュがあるそうだ。試験日と重なったため、そちらを優先してもらった。

 こちらの全体戦力としては大きく低下するが、元々が過剰戦力なのだ。大した問題ではない。移動に関してのみ言及するなら、全員が飛行可能のために非常に楽だ。

 ……恭也さんならそのうち自力で空中戦闘を可能にしそうだが、今は無理だ。今後も月イチで蒐集を行うことを考えると、何かしらの飛翔手段を提供した方がいいかもしれない。

 

「わーお、赤っ。グランドキャニオンやらエアーズロックやらも真っ青だな」

「ガイ君、海外行ったことあるの? なのは、国内旅行だけなの」

「さっき言った二つは行ったことないけど、うちの母さんが海外旅行好きだからなー。今年もお盆にどっか行くかも」

「そうなんだ。ねえ、なのはも一緒に行っていい?」

「……何で家族旅行に普通に着いてくる気でいるんですかねぇ」

「だって、将来的に家族になるかもしれないんだし、問題ないよね」

「ミコトちゃん、助けてくれ! なのはが俺を人生の墓場に連れて行こうとしてる!」

「知らん。いい加減、腹をくくって付き合ってしまえ」

 

 先日、互いに思いを伝え合ったはずのガイとなのは。ガイの方がハーレム思想を捨てていないため関係は現状維持だが、進展させたいなのはは攻勢に転じたようだ。完全に攻守が逆転している。

 今日も集合したときからなのはが攻めているため、ガイからのセクハラは一切飛んできていない。実に平和である。

 ……剛田少年は二人の様子を見て、なのはに告白して玉砕したそうだ。以前見た印象通り、潔い少年だった。

 そのことは既にむつきに伝えてある。彼の想い人がなのはであったことに驚き、そして彼女の想い人の失恋に少しだけ悲しそうな顔をした。

 彼女は、彼の心の隙間に入り込むことはしないそうだ。それでは意味がないというのが彼女の考えのようだ。オレとしては、今が未曾有のチャンスだと思うのだが。

 まあ、彼女自身がそう決めたのだから、オレがとやかく言うことは出来ないだろう。恋愛を分かっていないオレに助言できることなど、何もないのだ。

 なお、剛田少年とガイ、聖祥三人娘の友達付き合いは、今も続いているそうだ。不和が発生しなかったというのは、良かったことなのだろう。

 この場にいない恭也さんは、二人の仲について渋い顔をしていた。彼はガイのことは認めているものの、いまだにハーレム思考であることに納得が行っていないようだ。

 とはいえ、ガイが無理に言い寄ったのではなく、なのはが自分だけを見させると宣戦布告したのだ。今の段階で恭也さんに口を挟めることはない。それが、彼の表情の理由だろう。

 我が仲間ながら、色々と難儀な連中である。

 

「バカップルは放っておいて、フェイト、この世界の解説を頼む」

「か、カップルだなんて、ミコトちゃんってば、……えへへ」

「よく聞けなのは、バカップルだ! っていうかカップルでもねえよ!」

「あはは。桃子さんの血もちゃんと引いてるよね、なのはって」

 

 全くだ。高町夫妻は仕事中にも隙あらばイチャついてるから困る。

 気を取り直し、フェイトは真面目な表情になって解説を始める。

 

「第71無人世界「コルマイン」。鉄分を多く含む土が地表を覆う世界で、中型から大型の魔法動物が生息しています。土地柄、動物の体表が金属皮膜で覆われてるから頑丈で、気性が荒いのも多いから、十分に気を付けて」

「こんな世界にも生命が存在するってんだから、摩訶不思議だよねぇ」

 

 おかげで蒐集を行えるわけだがな。しかし……大型もいるのが厄介だな。

 

「分かっているとは思うが、今日のターゲットは主に中型。大型を狙う必要はない。戦闘は必須となるだろうが、なるべくリスクは避ける方向で行きたい」

「それに、大型だと目標ページを超過する可能性もあるものね。完成は程遠いけど、こっちのリスクも捨て置けないわ」

 

 シャマルの言う通り、出来る限りページ数は少なくいきたい。今回目標を2ページに増やしたのは、前回との差を見るため。相変わらず闇の書を完成させる気はないのだ。

 そのためにも、大型と遭遇した場合は、戦闘ではなく退避を選択するべきだ。それを徹底しなければならない。

 

「特に前科のあるシグナム。戦いを求めて大型の巣に吶喊したりしないように」

「ぐっ。……分かっている」

 

 渋い顔をして、オレの言うことに素直に従うシグナム。……やはり、先日からどうにも様子が変だ。

 調子を崩したままで、ミッション中に不都合が生じられても困る。

 

「言いたいことがあるなら言え。悶々としたまま参加されて、集中できなくて撃墜されましたじゃ目も当てられん」

「……別に、何か言いたいことがあるわけでも、調子が悪いわけでもない。少し、考えていることがあるだけだ」

「それを言いたいことがあると言うんじゃないのか? 何も言わず、勝手な行動で全体を乱すような真似はされたくない」

「そういうことではない。私は……見極めたいだけだ」

 

 見極めたい? 何の話だ。

 

「私自身の話だ。貴様は……気にする必要は、ない」

「……いいだろう。その言葉を信用する。但し、失敗しても言い訳は聞かない。そのつもりでいろ」

「無論。ヴォルケンリッターが将、"剣の騎士"シグナム。己が非に見苦しい弁明などはしない。行動で示すのみだ」

 

 事実を言えば、たとえ調子が悪かろうが何だろうが、戦闘になればオレよりも彼女の方が役には立つのだ。オレは、戦闘になった途端に役立たずなのだから。

 だから、ちゃんと行動出来るというのなら、特に言うことはない。シグナムの確認を終え、再び全体に向き合う。

 

「今回は三人一組だ。なのは、ガイ、シャマル。ヴィータ、アルフ、フェイト。そして、シグナム、ザフィーラ、オレ。この三組だ」

 

 構成としては、攻撃役・盾役・補助役でスリーマンセルを作っている。二組目はフェイトに補助役に回ってもらっているが、実質遊撃手のみのチームだ。

 闇の書は、一番取扱いに慣れているシャマルに持たせ、彼女のチームが蒐集係を兼任する。そして今回の主力は、シグナムのいるオレ達のチームだ。

 

「戦闘が発生することを踏まえ、応援の徹底をお願いしたい。少しでも危ないと思ったら、必ず応援を要請する事。要請を受けたら、速やかに応援に駆け付けること。特にフェイト達は、応援に主眼を置いてもらいたい」

 

 これが二組目を遊撃戦力の強いメンバーで固めた理由だ。

 なのは達は魔導師となって日が浅いし、シグナムがいるオレ達のチームも、オレという足手まといを背負っている。バッファがないと、いざというときにどうしようもない。応援主体の戦力が必要なのだ。

 全ては、誰も怪我を負わないための予防策だ。

 

「再度確認だ。極力リスクは失くせ。無理はするな。目標はあくまで目標であり、蒐集量が1ページだけでも構わない。絶対に怪我だけはするな。いいな?」

『はいっ!』

 

 いい返事だ。意気込みだけでなく、結果として残してくれれば、言うことは何もない。

 ブリーフィングを終え、散会する。オレ達はザフィーラを先頭に、シグナムと並走するように、赤い大地の空を飛んだ。

 

 

 

 そうして、一時間ほどが経過した。これまでに蒐集出来たコアの数は、ゼロ。動物が警戒してしまい、誰も遭遇できていないのだ。

 

≪考えてみれば当然か。こんな環境だろうが、いやこんな環境だからこそ、向こうは生き延びるのに必死だ。危険察知能力は高いだろう≫

 

 加えて、こっちがリスクを抑えるためにスリーマンセルで行動しているため、どうしても察知しやすくなってしまう。

 あるいは、こちらが疲労するのを待っているのかもしれない。空を飛ぶので消耗し、集中が切れたところで、一気に襲い掛かられたら。無論、そのときはそうなる前に帰還するが。

 

≪これは、考えてなかったね≫

≪あたしも、小型の狩りは経験あるけど、中型はないんだよね。どうしたもんかな≫

 

 念話共有でチーム合同で対策を考える。……シグナムは、相変わらず不気味なほどに静かだ。ザフィーラもオレも口数の多い方ではないから、非常にサイレントだ。

 彼女が何を考えいるのか、彼女ではないオレに分かるはずもない。だが、大人しくしてくれるなら考えやすいので助かってはいた。

 

≪やっぱり、チーム人数を減らすしかないんじゃないかしら。3チームとも布陣に隙がなさ過ぎるから出てこないっていうなら、隙を作るしかないと思うわ≫

≪でも、危ないの……≫

≪やっぱこの間の世界で蒐集した方がよかったんじゃねえの? 向こうなら、安全も確保できてたし≫

≪えー。あれも面倒だろ。あたしはチマチマしたのは好きじゃねーな≫

 

 今のところの意見は二つ。チームの再編成と、ビリーステートへの移動。このままでは埒が明かない以上、方針の変更は必須だ。

 だが、後者の意見は先日の理屈により却下。必然的に、チーム再編成の案を採用することになるが……。

 

≪少し、試したいことがある。君達はシグナムとザフィーラが見える位置まで移動してくれ。絶対に合流はしないこと。あまり近付きすぎると、動物に警戒される可能性が高まる≫

≪……ミコトがそう言うなら従うけど。何考えてんだ?≫

≪「釣り」だ≫

 

 そう言ってから、オレは肉声でシグナムとザフィーラに告げる。

 

「ここから、オレと二人は別行動だ。正確には、オレが単独行動をして、二人はオレが見える程度の距離を保って追従する」

「……貴様自身が囮になる、ということか?」

 

 シグナムの訝しげな問いに、オレは頷いて肯定を示した。他は全員魔力を持っており、しかもその力も大きい。それに対してオレは魔力を持っておらず、動物の側から検知出来る気配は小さいだろう。

 それを利用して、オレが「群れ」から離れたように見せかけ、食いついてきた動物を全員で捕獲する。オレ自身を餌にした大がかりな「釣り」ということだ。

 

「リスクは極力避けるんじゃなかったのか」

「場合による。極小のリスクでミッションが遂行できないなら、少しは支払うリスクを上げる必要もあるだろう」

 

 所詮、理想は理想だ。現実的に無理だった場合は、何処かに妥協点を置く必要がある。それが今回はオレ自身のリスクだったというだけだ。

 それに、これは支払うリスクの中では最小のものだ。

 

「オレが囮となることで、戦闘人員はフルメンバーで捕獲に当たれる。実際に捕獲するとなったら、オレは無力だからな」

 

 つまり、元々戦力にならないオレが少々の危険を伴うだけで、他全員が全力で事を成してくれれば、危険はほぼないのだ。

 シグナムは……やはり渋い顔をしている。何がそんなに気に入らないというのか。

 

「私は……主から、貴様に傷一つ付けるなとの命を受けている。そのような自ら危険に飛び込む真似を許容するわけには……」

「なら、傷一つ付けるな。貴様が最速で処理出来れば、オレが傷付く道理はない。リスクを実現させるな。それが、オレが貴様に下す命令だ」

「――ッ!!」

 

 目を見開くシグナム。全く、その程度のことにも言われないと気付かないとは。ヴォルケンリッターの将の名が泣くぞ。

 オレの言葉で何かを得た彼女は、レヴァンティンを鞘に収めたまま、両手持ちで目の前に掲げた。

 

「承知した! ヴォルケンリッターが将、"剣の騎士"シグナム! 貴女の命に従おう!」

「……いきなり仰々しくなったな。ザフィーラ。心配はないと思うが、ブレーキ役になってくれ。シグナムが傷を負っても、ミッションは失敗だと思ってくれ。頼むぞ」

「承知。……カリスマ性、か。確かに、その通りだ」

 

 彼も、何かを納得していた。まったく、よく分からん。

 念話で他のメンバーにも同じ内容を共有する。やはり反対を受けたが(特になのは、フェイト、ヴィータの3人から)、シグナムにしたのと同じような説明で、渋々ではあったが納得してもらった。

 

 シグナム達から離れ、単独行動を行う。既に元いたチームは点ぐらいにしか見えない距離だ。他のチームも、オレからだと視認することが出来ない距離だ。

 エールが起こす風に混じり、乾いた風が荒野を吹き抜ける。某国のキャニオンよろしくな大小様々の岩場は、何が潜んでいるか分からない。

 嫌な気配が、背筋に貼り付いていた。――確実に、見られている。

 

『……気を抜かないでね、ミコトちゃん』

「こんな状況下で気を抜けるなら、相当図太い奴だな。オレはそこまで無神経じゃない」

『いやなくうき。ねらわれてる』

『作戦としてはまずまずじゃの。……――主殿っ!』

 

 ミステールの注意喚起に従い、エールに加速の指示を出す。高速でその場を離れると、オレのいた場所を下から貫くように、銀色の影が飛び出した。

 鉄の鷹。オレを狙った狩人の正体だ。金属皮膜で覆われた翼に、ギラリと輝く黄色い瞳を持つ、中型の魔法動物。

 釣れた。上空で方向転換しながら、オレに定めた狙いを外さない。オレも狩られる気などなく、全速力で退避を開始した。

 

「……チッ、中々速い」

『あの翼は風を切るためのものではないな。恐らく磁気で加速しておるのじゃ』

 

 鉄の多いこの星は地磁気も地球より強めに働いているようで、翼にため込んだ鉄が発生する磁気をそれに反発させることで推進力を得ているようだ。

 それはつまり、飛翔による体力消耗がないことと、風で加速するオレよりも高速に動けることを意味する。いずれは追いつかれてしまう。

 もう一つ、厄介な点がある。

 

「知能も決して低くはないか」

『鳥の癖に、生意気なー!』

『エールも、とりさんだよ』

 

 奴はオレの仲間が何処にいるかを把握しているようだ。オレをそちらに逃がさないように、体で壁を作って追い込んで来ている。さっきから何度か旋回を試みているが、先読みされている。

 鳥類は、カラスに代表されるように、決して知能の低い動物ではない。魔法の力を持っているならばなおさらだ。本能的に魔法を操っているのだろうが、それでも一定の知性は要求される。

 オレが「釣り」をしたように、この鉄の鳥は「狩り」をしているのだ。単純な力押しではない、知性を用いた獲物の捕獲だ。

 とは言え、所詮は鳥類でしかないというのも事実だ。

 

「ならば……ソワレ!」

『わかった。リドー・ノワール』

 

 方向転換し、眼前に「黒いカーテン」を展開する。頑丈ではない防御障壁は、大質量をもった鉄鳥にはあまり意味をなさない。

 顔面に貼り付き、次の瞬間には破り捨てられる。くちばしの中にはおびただしい牙が並んでおり、それでかみ砕いたのだ。

 だが、それで十分。そもそもオレは防御のために「黒いカーテン」を使用したのではない。ただの目くらましだ。

 その一瞬で、最短距離で鳥の下方を通り抜ける。一瞬とはいえ視界を封じられた状態で追跡は出来なかったようだ。狙い通り。

 それでも相手は野生動物。すぐさまオレに気付き、奴も反転し追いかけてくる。だが……既に射程距離だ。

 

「やれ、シグナム!」

「承知! 唸れ、陣風!」

『ギギィ!?』

 

 オレが直角に上方に逸れると、奴の目には突然シグナムが現れたように見えただろう。大上段に構えたレヴァンティンから衝撃を伴う剣圧が放たれ、鉄の鳥に直撃する。

 鳥は、きりもみ回転をしながら地面に落ちていく。その途中、地面に出現したベルカ式の魔法陣から鎖状の魔力が飛び出し、繭のように鳥を閉じ込めた。ザフィーラのバインド魔法のようだ。

 高度を落とし、シグナムの横に浮かぶ。彼女はこちらを見て……これまでオレに向けていた刺々しさが嘘のように穏やかな瞳をしていた。

 

 

 

「お怪我はありませんか、主」

「大丈夫だ、問題な……、……?」

 

 おい、ちょっと待て。主って何だ。貴様の主ははやてだろう。とうとうバグが目にまで進行したのか。それとも頭の方か。

 酷く困惑する。オレの方が間違っているのではないかと思うほど、シグナムは優しくオレを見ている。どういうことだ。一体彼女に何があった。

 

「……ザフィーラ、解説を頼む」

「それはいいが、どうやらまだ終わっていないようだぞ。気を抜くな」

 

 いや、オレも気付いてはいるんだ。仲間がやられて、総力戦に切り替えた鉄の鳥の群れが、岩山の巣から飛び出してきているのは見えているんだ。

 いるんだが……何かオレの横で「さあ、ご命令を」とでも言いたげな目をしている騎士がどうしても気になってしまい、集中が乱れる。

 ……とにかく、状況最優先だ。悠長に話をしている場合じゃないんだから。頭を振り、思考を切りかえる。

 

「こちらの目的は殲滅ではない。群れの頭を叩けばいい。それを探すから、オレに着いて来い。ザフィーラは撃墜した鳥を捕獲。10羽もいれば十分だ」

「了解。シグナム、主と認めたのなら、しっかりとミコトを守れ」

「無論だとも! 騎士シグナム、貴女の道を切り拓く剣となりましょう! 主ミコト!」

 

 ……やっぱりオレのことを差して主と言っているようだ。どうしてこうなった。

 

 

 

 何故かオレのことを「主」と呼び始めたシグナムだが、それでも腕は確かなものだ。磁気に従って空を疾走する鉄の鳥を、剣裁きのみでいなし、かわしている。

 彼女が本気を出せば、それこそ殲滅も可能だろう。それでは意味がないのだ。オレ達の目的は蒐集であり、生きたまま、なるべく傷つけないように捕獲する必要がある。

 だからこそ、無力化はバックの仲間に任せる。オレ達が成すべきことは、群れの頭を叩いて戦意を喪失させることだ。そのためには、まずはこいつらのリーダーを探す必要がある。

 

「しかし、どのように探すのです。彼奴らは一見しただけでは見分けがつかない。大きさを比べようにも、これだけ入り乱れて動かれては容易ではありますまい」

 

 ……敬語で話してくるシグナムというのが、どうしても気持ち悪い。慣れればそうでもないのかもしれないが、今までが今までだっただけに、コレジャナイ感が酷い。

 オレが女言葉でしゃべったときに皆が感じる拒否感に近いのかもしれない。分からんが。

 

「群れのリーダーは通常一匹だ。そして、統率を取る以上動きは他の個体と異なる必要がある。言葉のようなもので統率を取っていたとしても、それは同じだ」

 

 よく指揮官役をやらされるオレを見れば分かることだ。指揮を執るということは、何らかの方法で命令を伝達しなければならない。そうなると、他の個体とはどうしたって違う動きになる。

 こいつらがリーダーの指示に従って襲い掛かってきているのは明白だ。自陣を守りながら飛ぶ群れと、こちらに特攻してくる個体が、はっきり分かれているのだ。

 いくら一定の知性を持っているからと言って、個々の判断で行動しているのだったら、ここまで統率のとれた狩りにはなり得ない。人に置き換えても同じことが言えるのだ。人に劣る知性の鳥ならば、何をかいわんや。

 

「もう一つ。こいつらの知性が、獣にしては高いが、知的生命と言うには低いという点。戦術はごく単純なものしか考えられないはずだ。1羽撃墜されただけで総力戦に切り替えたのがいい証拠だ」

 

 もし奴らにもう少し知能があれば、伏兵戦法なども考えるだろう。それがなく、機を伺っての強襲と物量作戦しかない。故に、相手方の布陣も大体想像がつく。

 

「群れが固まっているところで、動きが違う個体がいれば、それがリーダーだ。ここまで言えば、敵陣に切り込んだ理由が分かるだろう」

「なるほど……さすがです、主」

 

 だからなんでオレが主なんだ。何なんだその熱い掌返しは。新手の嫌がらせか。いやそんな高度な嫌がらせが出来る奴じゃなかったなこいつは。

 どうせ考えても(脳筋の思考だから)分かるわけがないので、コレジャナイ感を無理やりねじ伏せる。追及は後だ、後。

 

「とはいえ、ああも密集されると、見分けることも出来んな」

「私ならば群れごと落とすことも可能ですが」

「可能だろうが、それでは意味がない。それにこの場で隙を晒しては、攻撃されるリスクも伴う。誰が怪我をしてもミッションは失敗だ」

「承知」

 

 素直に聞き分けてくれるのは楽だな。これは改善されて良かったと思う。

 シグナムは温存しつつ、あの群れを攻撃する。そのためにはどうすればいいか。答えは、割と単純だ。

 

≪なのは、オレ達が見えるか?≫

≪ミコトちゃん! うん、見えるよ! もう、危ないことして! 後ではやてちゃんに教えちゃうんだからね!≫

≪それは勘弁願いたいところだ。オレ達の前方に、群れが密集しているところがある。少しずつ移動しているが、オレ達が捕捉している。そこに砲撃魔法を叩き込むことは出来るか?≫

≪えっと……ちょっと、難しいかも。距離は届くと思うんだけど、狙いが……≫

≪シャマル、補助は出来るか?≫

≪砲撃魔法の補助ね……やったことはないけど、試してみるわ≫

 

 即ち、アウトレンジからの火力支援。とはいえ、そう上手くいくとは思っていない。遠距離からの砲撃は、少しでも照準が狂えば見当違いの方向へ逃げていく。シャマルの補助があったとしても、難しいだろう。

 だから、これはあくまで布石だ。群れを崩し、リーダーを特定するための布石。

 桜色の閃光が、オレ達の視界を横切る。案の定、狙いはブレて見当違いの岩壁を叩くのみに終わった。だが、効果がないわけではない。

 如何に知性を持ち群れを成していると言っても、個体の行動を完全に統率出来るわけじゃない。砲撃の閃光、爆音、衝撃波で、鉄の鳥が驚いて群れを崩す。

 

『ピィィーッ!』

 

 そして甲高い鳶のような鳴き声が響くと、途端に群れが統率され、再び一塊となった。今のがリーダーの鳴き声か。さすがにどの個体が発した音かまでは分からなかった。

 だが、あの塊の中にいることは分かった。頭の中でマーキングし、次なる指示を出す。

 

≪ザフィーラ、現在の捕獲数は≫

≪既に10を超えている。これ以上の捕獲は必要ない。構わず鎮圧してくれ≫

≪よくやった。フェイト。さっきなのはが狙った群れの中にリーダーがいる。アルフとヴィータとともに、群れをバラけさせてくれ≫

≪分かった。布陣は?≫

≪ヴィータをフォワード、アルフをディフェンスにして、フェイトはリベロだ。こけおどしで構わない≫

≪はいよ! へへっ、腕がなるぜ!≫

≪あたしは二人が怪我しないように防げばいいんだね。了解っ!≫

 

 あとは制圧して蒐集を行うのみ。指示を出した通り、ヴィータが先頭となって、フェイト、アルフが追従してこちらに向かってくる。

 

「オラオラオラオラ! "鉄槌の騎士"様のお通りだァ!」

『Raketenhammer.』

 

 カートリッジをロードし、ラケーテンフォルムと化したアイゼンから噴射炎をまき散らしながら、ヴィータは群れの中を縦断した。

 当てる気のない攻撃は、しかし迫力は圧巻であり、鉄の鳥が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

『キィィーッ!』

 

 先ほどとは違う鳴き声。恐らくは攻撃の合図であり、通り過ぎて行ったヴィータを攻撃するように群れが追走を始める。

 だがそれは、何体かは鼻先を掠めるように撃たれた黄色い魔力の矢で動きを止める。

 

「フォトンランサー・マルチショット。残りはお願いね、アルフ」

「はいよぉ! 残念でした、お疲れさんっと!」

 

 残りも、アルフの張ったラウンドシールドに阻まれて身動きが出来なくなる。

 そして……群れのリーダーが裸単騎となった。他の個体よりも一回り大きな、鳴き声で指示を出していた一羽だ。

 これこそが待っていた瞬間だ。

 

「シグナム!」

「承知! レヴァンティン!」

『Explosion.』

 

 オレの指示に従い、シグナムはカートリッジをロードする。刀身から炎が噴き出し、巨大な刀を形成する。彼女の必殺技の構えだ。

 群れのリーダーがこちらに気付くが、もう遅い。シグナムは既に刃を横に引いており、あとは振り抜くのみ。

 が。

 

『ギュイィ!』

 

 ただでやられるつもりはないのか、それとも起死回生にかけているのか、鉄の鳥は翼を折りたたみ、こちらに特攻を仕掛けてきた。

 それで怯むシグナムではないが、こちらの勝利条件は「誰も怪我をしないこと」なのだ。

 

≪シャマル、ガイ!≫

≪! 分かったわ!≫

≪任せとけ!≫

 

 バッファ要員に念話で指示を出し、その間に決着はついた。

 

「紫電、一閃!」

『ギュアッ!?』

 

 炎の刃の直撃を受け、気を失う鉄の鳥。だがその慣性は死んでおらず、巨体がシグナムに向けて"落ちて"来る。

 そして……赤紫色の弾性シールドに受け止められ、停止した。

 

「へへ、ネタで作ったラバーシールドが役に立つとは……」

「バカとハサミは使いようと言うだろう。何だって無駄になることはない」

 

 おっぱいシールドだけは許さんがな。

 

 鉄の鳥の群れは、リーダーが撃墜されたことによって、統率を失って逃げて行った。読み通りの結果であった。

 

 

 

 

 

 赤の大地に立つ。現在近場では、シャマルによる蒐集作業が行われている。拘束を解かない程度に鎖の繭を解き、リンカーコアを取り出している。

 そこから少し離れた場所で、オレはシグナムからひざまずかれていた。……彼女の騎士甲冑は、前回の反省を活かしてマタドール風の洋風なものに変更されている。とてつもない和洋折衷の違和感はなくなった。

 だが、そんなものは関係ないぐらいにコレジャナイ感で背筋がぞわぞわする。他の皆も、困惑したり苦笑したりだ。

 

「……とりあえず、顔を上げろ。どうしてそういう結論に至ったのか、説明してもらいたい」

「はっ!」

 

 彼女は宣誓した。「八幡ミコトを"騎士シグナム"の主として、今後仕えていく」と。表現はもっと仰々しかったが、意訳すればこんなものだ。

 つまり、"夜天の守護騎士"としての主ははやてのままなのだが、"彼女個人"としての主はオレだと言いたいのだ。どうしてそうなった。

 ここまでを考えて、オレ達はお世辞にも良好な関係を築いてきたとは言えない。互いにいがみ合い、最低限認めるべき部分だけを共有し、相容れない仲であったはずなのだ。

 それがここにきて、まさかの180°掌返しだ。理由を説明してもらわないことには、理解も出来ないし納得も出来ない。

 シグナムはひざまずいたまま……本当はそれもやめてほしいところだが、言っても聞かないだろう。そのままで話を聞く。

 

「無礼を承知で申し上げます。私は、初め主のことを「何も力がないくせに口だけは達者な小娘」と侮っていました」

「知っている。それはそちらの態度で想像がついていた。だからオレも、相応の扱いしかしていなかったはずだ」

「そのために私は、長らく主の"力"を見ようとせず、自分は間違っていないのだと言い聞かせていました。今から思えば、恥ずべき事です」

 

 彼女のタイプにはありがちな、「結論を決めてしまう」ことの弊害だ。意志は強くなるだろう、その代わり視野が完全に塞がってしまう。あのプレシアでさえ、そうだったのだ。

 シグナムの場合、「こいつは自分の敵だ」と決めつけてしまったがため、オレを認めるための要素を視界に入れることが出来なかったのだ。

 それが解消されたがために、今こうなっているということになるが……一体何が原因で。

 

「主も既にご存知の通り、我々は長らく時空管理局に追われる立場でした。我らもまた、管理局は敵であると思っていました」

「……それが、協力関係になったから。その要として働いたのが、オレだったから。そういうことか?」

「その通りです。衝撃でした。闇の書の……そう、闇の書の主で、それを成せた人間は誰一人いなかった。闇の書の主であると知られれば、追われる身となった。貴女は、その前提を覆したのだ」

 

 それがために彼女は、決めた結論を覆さざるを得なくなった。敵であるはずの人間が、敵であるはずの時空管理局を、自分達の味方にしてしまったから。

 彼女は語る。そうして今日まで、オレを観察し続けたと。

 

「貴女は、成し遂げると決めたことは必ず成し遂げていた。どんな些細なことでも、決して妥協はせず。必ず結果を出していた」

「少し買いかぶっている。それは、出来ることをやろうとしていただけだ。出来ると分かっているなら、妥協をする必要はない」

「それでも、貴女が結果を出し続けたという事実は、変わらず残る。貴女にとってはその程度であっても、私にとっては多分に過ぎるほど、貴女の"力"を見せつけられた」

 

 それが、先日からの彼女の不審な言動の正体。最後に認めるための一歩の前の、足踏みだったということだ。

 

「そして今日、貴女は私におっしゃった。「自分に傷一つ付けさせるな」「リスクを実現させるな」と。目的を達成するために、いがみ合っていたはずの私にすら命令してみせた。私は……嬉しかったのです」

 

 噛みしめるように、オレの言葉を反芻するシグナム。オレから命令されたことが……オレが彼女の能力に関しては信頼していたことが、認めていたことが、嬉しかったと。彼女はそう語った。

 

「今ならば、ギル・グレアムが言った言葉の意味が分かる。私は、貴女のカリスマ性に惹かれたのだ。貴女の剣となれることが、私の喜びです。騎士シグナムは、最期の一瞬まで、貴女の剣であることを誓います」

 

 そう言って、シグナムは鞘からレヴァンティンを抜き、オレの足元に差し出した。

 少し、困った。理屈は理解出来たし、いがみ合わずに済むなら、その方がいいに決まっている。だが……オレがこんな宣誓を受けることになるとは思っておらず、心構えが出来ていなかった。

 意見を求めるように、ヴィータに視線を移してみる。この場にいるシグナム以外で唯一の"ベルカの騎士"に、どうすればいいか伺ってみる。

 彼女は、無言で頷いた。最高にイイ笑みを浮かべて、サムズアップまでしながら。つまり、どちらかと言えば大賛成ということか。まったく、他人事だと思って。

 はあ、とため息をつく。身をかがめ、レヴァンティンを手に取る。……結構重いな。デバイスとは言え用途は剣なのだから、ある程度の重さは必要ということか。

 よろけそうになるのを、闇夜のドレスとなったソワレに補助してもらい、レヴァンティンをシグナムの肩に軽く当てる。

 

「騎士シグナム。汝に、"八幡ミコトの騎士"となることを命ずる。その命ある限り、最期の一瞬まで我が剣となり、悲願を成就するための力となれ。誓約の証として、汝の刃に口づけを」

「はっ!」

 

 オレが持つレヴァンティンの刃に、シグナムが口づけをする。レヴァンティンのコアが、喜びを表現するかのように明滅した。

 これで、騎士の盟約は完了のはずだ。作法など分からんから、結構適当だ。レヴァンティンの柄をシグナムに持たせる。

 

「誓約したからには、今後は作戦中に勝手な行動は慎んでもらうからな。日常生活は、今まで通りで構わない」

「ありがたき幸せ」

「ったく、シグナムは相変わらずの堅物だよな。「ミコトのことが好きになったから従います」でいいじゃねーか」

「なっ!? ヴィータ!」

 

 そのぐらいの方がこっちも気が楽だが……まあ、シグナムだからな。彼女の満足いくようにさせてやるさ。

 顔を赤くするシグナムに、皆が笑う。と、シャマルとザフィーラが戻ってきた。向こうでは鉄の鳥達がぐったりしている。蒐集が終わったようだ。

 

「11体の蒐集で、無事3ページ目が完成したわ。今回はオーバーランはなし。魔力簒奪も、前回より弱くなっています」

「それはいい報せを聞けた。それでは、早く帰ってはやて達を安心させてやろう。立て続けで悪いが、転送を頼む」

「了解です。……ふふ。シグナムも、ようやく素直になれたのね」

「ああ。目が覚めた気分だよ」

 

 ザフィーラも、無言で頷いて意を伝えた。

 シャマルがベルカ式の魔法陣を展開し、オレ達はコルマインの地から姿を消した。

 後には、悔しそうに、しかしどこか安堵した様子でか細く鳴く、鉄の鷹の長達の姿が残った。

 

 

 

 こうして、ヴォルケンリッターの将"剣の騎士"シグナムは、その役割とは別に、"八幡ミコトの騎士"としての使命を帯びたのだ。

 ……本当に、どうしてこうなった。




施 工 完 了 。これにてミコトとシグナム、完全和解です。……和解?
この流れは最初から考えていましたが、最初はもっと急激に変化させるつもりだったんですよね。まあ予定なんてそんなもの。書いてるときの感覚を大事にしたらこんなもんです。

シグナムが"ミコトの騎士"となりました。ミコトリッター? 別にヴォルケンリッターを辞めたわけではなく(そもそも存在の基本なので辞められるわけがない)、兼任的な感じです。ヴォルケンリッターの上乗せとしてミコトの騎士がある感じ。
これにより「主」が二人となるため、名前呼びが必須となります。そのためのダブル主? 普通に「はやて」って呼ぶシグナム見てみたいじゃないですか。
はやては「夜天の主」なわけですが、ミコトはなんでしょうね。「最高の主」? 何をもって最高とするんでしょうかねぇ。後々考えていきまっしょい。

新登場の無人世界、数字は適当で名前は「カーマイン(赤っぽい色)」からです。
今回登場した魔法動物の元ネタは、実は「メトロイド」の「リドリー」だったりするんですが、鳥っぽいことと牙が生えてること以外は共通点ないです。ほぼオリジナルですね。
またモコモコ出したいわー。





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