不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!

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お待たせしました、お風呂回二回目です。今回はなんとほぼ全編入浴中に加え、前後編構成です。

※注意:今回若干程度ですが性的描写があります。苦手な方はご注意ください。


A's章 中盤
三十七話 銭湯 前編


 唐突だが、スーパー銭湯に行くことになった。

 

 翠屋の"お手伝い"の際、士郎さんは時折オレにタダ券やらクーポンやらをくれる。「たくさん働いてくれているお礼」なのだそうだが、それは"お駄賃"をいただいている分で相殺されるのではないだろうか。

 とはいえ、オレが受け取り拒否をしたところでシャマルかブラン経由で八神家の手に渡るので、今は素直に受け取ることにしている。これらも八神家の家計の助けになっているという事実があるのだ。

 今回もその一つで、その銭湯の経営者(知人だそうだ)から大量のタダ券をもらってしまったそうで、八神家全員分(アルフとザフィーラも含む)のチケットをいただいた。

 これに目を輝かせたのが、何にでも興味を持つ年頃のアリシアと、温泉でお風呂の魅力を知ったソワレだ。そしてはやての「ほな早速行こか」という鶴の一声により、翌日八神家総出で赴くこととなった。

 

「おぉー! おっきいおふろやさんだー!」

「この中全部風呂なんだろ? すげえなー」

 

 外観は、大きめの屋内プール施設といったところか。実際のところ、中にはボイラー等の設備を置くスペースが必要だから、全部が全部浴場というわけにはいかないだろうが、それでも十分巨大と言えた。

 最初はあまり興味を持っていなかったヴィータも、これを目の前にして目を輝かせている。かく言うオレも、実はちょっと楽しみになってきている。

 一番乗りと走り出すアリシアを、「あ、ずりーぞ!」と言いながら追いかけるヴィータ。全く、子供は元気だな。……そういえば、オレも子供か。

 

「こら。二人とも、あまり騒ぐな。他の客の迷惑になるぞ」

 

 年少組を嗜めるように後に続くシグナム。彼女はアリシアと過ごす時間が長かったから、面倒を見るのに慣れている。ヴィータは言わずもがな。

 家ならばシグナムをからかって追いかけっこを始めるアリシアだが、外でまでそんなことはしない。素直に聞き入れ、ヴィータともども抑え気味にはしゃぐ。

 繋いだソワレの手を引きながら、オレも彼女らに続く。今日のはやての車椅子係はシャマルだ。オレが車椅子を押せないときは、シャマルとブランが交代でやることになっている。

 そのブランは、笑顔を浮かべてはやてと話をしている。ミステールも参加し、からからと笑っている。

 フェイトと人型になったアルフは、やはり楽しそうに会話中。なんだかんだ、全員大きなお風呂を楽しみにしているというわけだ。

 ……決して道中一言も発さずについてきたザフィーラの方を意識しないようにしているわけではないのだ。

 

 公衆浴場ということは、当たり前の話だが男女別浴だ。よく知りもしない男女が裸身を見せびらかすなど、公序良俗に反する。そう、当たり前の話なのだ。

 そして八神家の男女比は、11:1。ものの見事に男性(というか雄)は一人なのだ。オレ達は一緒に入浴するが、ザフィーラはどうあがいても一人なのだ。

 一応9歳未満の子供はどちらでも可なのだが、オレは男に裸を見せるとか恥ずかしいから嫌だし、フェイトも同様。はやては既に9歳になっている。

 オレとはやてが女湯ならソワレも一緒だろうし、普段仲間外れで不満を感じているアリシアが進んで男湯に行くわけがない。ヴィータは、見た目が子供なだけだ。

 やはりザフィーラは一人で男湯に行くしかないのだ。……普段影ながらオレ達を支えてくれている"盾の守護獣"に対する扱いとして、不憫でならない。

 

「……その、なんだ。定期的に念話は飛ばすようにするから……」

 

 さすがに何も言わず脱衣所に入ることなど出来ず、ザフィーラに言葉をかける。が、上手い言葉が見つからない。交渉のときはポンポン浮かんでくるくせに、肝心なときに役に立たない頭脳だ。

 言葉が出ず、しどろもどろになったオレの頭に、大きな手がポンと乗せられた。ザフィーラの手だった。

 

「気にするな。俺は気にしていない。そも、ヴォルケンリッター自体男は俺一人なのだ。こういう状況には慣れている」

 

 涙なしには語れない過去だった。データ欠損により全ての記憶はないのだろうが、どれだけ不遇な扱いを受けてきたのだろう。もっとも、それはリッター全員に言えることなのだろうが。

 そんなことを考えるオレの内心を宥めるように、力強く、しかし優しく頭を撫でられる。……むぅ、やるな、ザフィーラ。

 

「しおらしいミコトというのは珍しい。いいものを見れた気分だ」

「……やかましい。見世物にした覚えはない」

「そうしている方が、君らしい」

 

 手を離され、ちょっと名残惜しく感じた。士郎さんといい、「大人の男」はずるい。ああして頭を撫でられると、身を預けたくなってしまうのだから。

 ザフィーラは一時の別れを告げ、男湯の暖簾をくぐって行った。オレも、女湯の暖簾をくぐって皆に合流する。

 まず最初に、はやてからニヤニヤ笑いとともに話しかけられた。

 

「なんやミコちゃん、ザッフィーとええ感じやったやん。ザフィーラやったら、ミコちゃんのこと任せてもええかもな」

「何を言っている。家族として伝えるべきことを伝えただけだ。オレにしろ彼にしろ、そういった意味合いは持ち合わせていない」

 

 何でもかんでも恋愛に絡められると思ったら大間違いだ。オレにその準備が出来ていないというのもあるし、彼にもその気はないだろう。

 まず、ザフィーラは(今は)人の姿をしているが、魔法プログラム体だ。本来の姿も青い狼である。人間とそういった関係になるというのは、理に適っていないだろう。

 次に、年齢的な問題。向こうは加齢など関係ないだろうから、数年もすればオレも釣り合いの取れる大人になるだろうが、それでも経験してきた時間の差は如何ともしがたいだろう。

 そして、性格の問題。オレにしろ彼にしろ、外側に向かうエネルギーが小さい。彼の内面は知らないが、外に顕れるものが小さくては、互いの心に与える影響はごく小さいものだ。

 以上の理由から、互いにストレスのない関係は築き上げることが出来たとしても、恋愛感情に発展することはないと断言しよう。

 

「そもそもヴォルケンリッターは恋愛という感情を持っているのか?」

 

 人としてエミュレートされているなら、人の持ち得る感情は全て発生し得るのだろうが。

 シャマルも、これまでにそんな経験はないため、断言はできないようだ。

 

「恋愛を出来る出来ないで言えば、「多分出来る」でしょうね。少なくとも、わたしに関してはそう思ってるわ」

「お? ってことは、シャマルは気になる人がおったりするん?」

「相手は彼女持ちの人なんですけどねー」

 

 なるほど、恭也さんか。最初の蒐集のときに行動を共にしていたし、翠屋のバイトで接点はあるわけだから、不思議はないか。

 キャミソールを脱ぎ、スカートのファスナーに手をかける。……恭也さん、か。

 

「彼も中々罪な男だな。恋人を持ちながら、無自覚に周囲の女性を落としている。翠屋の客にも、彼目当てで来店している女性はいるよな」

「あの子達は、遠くから眺めるだけで満足らしいわね。だけどわたしはなまじ近くにいるものだから、変に期待を持たないようにするのが大変よ」

「はぁー……シャマルさんは大人ですねぇ。わたしはそういうの、全然分かりませんよ。やっぱり経験値が足りてないんでしょうか」

 

 感心したため息をつくブラン。彼女は恭也さんに落とされていないようで安心すればいいのやら、見た目に反した子供っぽさに呆れればいいのか。

 もっとも、オレもブランのことは言えないわけで。

 

「男性というものを意識するという意味では、オレもはやても経験が足りんよ。ともに成長していこう」

「はいっ!」

「ま、そうなんよねー。わたしら全員経験ないんやから、これじゃただの耳年増やで」

「あはは……耳が痛いわね」

 

 オチを付けたところで、服を脱ぎ終わった。他の皆は既に浴場の方に行ったようだ。

 シャマルがはやてを抱きかかえ、オレ達もまた、家風呂とは比較にならない巨大さを持った浴場に入った。

 

 

 

 

 

 体を洗うために洗い場の前に座る。隣には、見覚えのある金髪少女。オレはそちらを一瞥もせず、声をかけた。

 

「君も来ていたのか」

「ん? ああ、ミコトじゃない。あんたも士郎さんからチケットもらったの?」

 

 聖祥大付属小学校に通うなのはのクラスメイト、アリサ・バニングス。どうやら彼女もオレ達と同じようだ。この分だと、なのはと月村も来ているんだろうな。

 

「昨日の"お手伝い"の際にな。他には誰が来ている?」

「ご想像通り、なのはと美由希さん、すずかと忍さん。ガイと恭也さんも来てるわよ」

「高町家の子供達が見事に勢揃いだな。翠屋のホールはバイトが入ってるから大丈夫だろうが、少し不安だな」

 

 今日はシフトを入れていなかったが、これならいつでもヘルプに入れるように待機しておいた方がよかったかもしれない。別に今日限りのチケットではなかったのだから。

 まあ、過ぎたことか。気にしても仕方がない。男湯に知人がいるなら、ザフィーラも平気か。一応後でミステールに言って念話は飛ばしておこう。

 シャンプーを手に取り、泡立てる。洗い方は人によって違うが、オレは上から順々に洗っていくタイプだ。頭、洗顔、体の順ということだ。

 シャカシャカと頭を洗うオレをじとっとした目で見ているアリサ・バニングス。……なんだよ。

 

「前から思ってたけど、綺麗な髪と肌してるわよね。使ってるシャンプーやボディソープに秘訣があるのかと思ったけど、そうでもなさそうだし。どうなってんの?」

「もやしパワーだ。君も試してみるといい」

「……うさんくさいわね。ほんとにそんなんで大丈夫なの?」

 

 もちろんもやし以外にも色々バランスよく食べているが、手入れよりも食生活が大きいのは間違いないだろう。オレは昔からこうなのだから。

 

「医食同源という言葉がある。食は体を作る基本だ。好きなものばかり食べていればいいというものではないぞ」

「ふん! そんなこと分かってるわよ!」

「その割には、君はピーマンが苦手だよな。翠屋で食事をするとき、ピーマンだけはいつも月村に食べてもらっている。苦味も経験しないと、舌がバカになるぞ」

「うっさいわね! なんでそんなこと知ってんのよ!」

 

 客の状況は常に把握しているだけだ。それが知人ともなれば、趣向の把握にまで伸びるのも不思議ではないだろう。

 ちなみに彼女、辛味は平気らしい。逆に月村は辛味が若干苦手のようだが、この金髪少女ほど好き嫌いはしない。

 髪は女の命と言う。オレは別にこだわりはないが(というか正直切りたい)、ちゃんと手入れしないとはやてが悲しむので、しっかりと丁寧に洗うようにしている。

 

「そんなに長いと、大変じゃない? あたしも人のことは言えないけど、あんたってあたしやすずかよりも長いじゃない」

 

 彼女の言う通り、アリサ・バニングスと月村も、ついでに忍氏も、全員髪が長い。大体腰の上ぐらいまである。それに比してなおオレの方が長いのだ。足の付け根ぐらいだ。

 

「元々は散髪代の節約だったんだがな。今では切ろうとすると本気で止める人間が何人もいる」

「あー……ちなみに何処で切るって言って止められた?」

「理容室だが。皆はせめて美容室にしろと言っていたが、そんなもったいない真似は出来ん」

 

 「ああ……」と納得したため息をつく金髪少女。どうやら彼女は5人衆やはやてと同じ側のようだ。

 確かに理容室を使う女性というのはあまり多くないかもしれないが、別にいいじゃないかと思う。たかだか髪を切るのにどうして金をかける必要があるのか、オレには理解出来ない。

 シャワーを出し、頭の上の泡を洗い流す。ついでに汗で不快だった顔も流し、さっぱりする。

 

「そりゃ全面的に皆が正しいわ。あんた、可愛いくせに自分の容姿に無頓着過ぎ」

「別に可愛くあろうとしているわけではないからな。醜くならなければ、何だっていいだろう」

「……その発言は世の女性の大半を敵に回すわよ。迂闊に口外しない方がいいわ」

 

 そんなものか。やはり女心と言われるものは、いまいち分からんな。

 洗顔をしている間、一時会話が途切れる。さすがに顔を洗顔料が覆っているときは口を開けない。

 シャワーでさっと泡を落とし、スポンジにボディソープを付けて泡立てる。そして、首のところから洗い始めた。

 

「なんであんたはそう女らしさってものが欠けてるのかしらね。そのくせ女の子としての自覚はないわけじゃないし、わけわかんないわよ」

「ふむ。ならば女心というものを分けて考えてみよう。オレが持っていないのは、集団生活の中で形成される「社会的女心」であり、生得的に持っている「生物的女心」は正常ということだ」

 

 これはオレの分析である。オレはオレ自身を女として自覚しているが、世の女子達が言う「女心」を理解出来ない。それはつまり、普通の女子が成長の過程で得るものが理解出来ないということではないだろうか。

 「プリセット」の中にあるのはあくまで普遍的法則であり、人間心理や社会風習・風土文化に関しては普通の子供同様に外部的に覚える必要がある。

 そして普通の子供は、自然法則も外部的に覚えるため、並べて等しく「覚えたこと」なのだ。故に、生まれた時からの生物的な自覚としての女子と、社会的位置付けとして覚えた女子が、乖離なく「女心」となっている。

 それに対してオレは、社会的な意味での女子を知る前にパーソナリティが完成した。だからオレの人格の礎となっている女子は生物的な自覚のみであり、社会的には無性別状態ということだ。

 

「……と説明して、君なら分かるか?」

「完璧に、とは言えないけど、何となくはね。つまりあんたにとって「女の子」って言葉は、極端な話「人間の雌」って意味しかないわけね」

「乱暴な言い方だが、そういうことだろうな」

 

 もちろん社会性が全くないわけじゃない。はやて達と一緒にいるうちに、オレにも多少の「社会的女心」は身に着いた。服装をちゃんとした女物にしているのがいい例だ。

 それでも、まだまだ足りないのだろう。少なくとも感情面に関しては、オレはフェイトより手前のレベルなのだ。社会性についても、同じことが言えるのかもしれない。

 「なるほどねー」と言いながら、アリサ・バニングスは桶に溜めたお湯で体を洗い流した。

 

「あんたが色々ズレてるってのは分かってたけど、おぼろげながら輪郭が見えてきた気がするわ。ほんと難儀な子よね、あんたって」

「自覚している。それでも、オレがオレである以上、オレを辞めることは出来ない」

「そういう言葉回しも含めてね。ま、少しずつ変わってきてるってんなら、それで十分なんでしょ。無理に変えてるわけでも、意固地に変わらないわけでもないなら、それでいいんじゃない?」

 

 投げやりな結論だ。足の先まで洗い終わり、シャワーで首から洗い流していく。断続的に噴射する暖かな水滴が肌を打つ感触が心地よい。

 シャワーを止めて立ち上がると、アリサ・バニングスもまた立ち上がった。どうやらオレが洗い終わるのを待ってくれていたようだ。

 

「別に先に行ってもよかったんだが」

「水臭いこと言ってんじゃないわよ。せっかく一緒したんだから、皆で一緒にお風呂を楽しめばいいのよ。そのぐらいの社会性は、あんたにだってあるでしょ?」

「ククッ、よく見ている」

「言ったでしょ。あたしはあんたに「友達になりたい」って思わせてやるんだから。そのぐらいは観察してるわよ」

 

 もしかしたら頻繁に翠屋に食事に来るのも……関係ないか。元々彼女は翠屋の固定客なのだから。オレのことは、もののついでだろう。

 だが、それでも彼女はオレを見ているのだ。しっかりと、見誤らず、そこにいるオレを見ている。

 だからオレも、そこにいる彼女をしっかりと見据える。アリサ・バニングスという少女の本質を見誤らないように、小さくとも気高い器を視界の中央に収める。

 ふっと小さく笑ってやる。

 

「いい加減、アリサ・バニングスと呼ぶのも長ったらしくて面倒になってきたな。今後はアリサと呼んでやるから、光栄に思うといい」

「……全っ然嬉しくない理由ね。いいわ。あたしのことを名前で呼ぶ栄誉を与えてやるから、むせび泣きなさい」

「傲慢なやつめ」

「お互い様よ」

 

 そうだな、お互い様だ。オレ達の顔には――オレは「恐らく」だが――おかしそうな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 大浴槽はプールのような広さを誇るサイズだった。オレ達以外の客もそれなりにいるが、広さのためにまばらでしかいない。

 そんな中で知り合い全員を見つけるとはいかず、月村と美由希、それからフェイトとミステールと合流出来ただけだった。

 

「なのはは一緒じゃなかったのか?」

「あの子は今男湯の方だよー。ガイ君に色気で攻めるんだって」

 

 美由希から回答。迷走してるな。歳相応でしかないなのはの色気でガイが陥落するとは思えないが。

 

「あはは……ほんと変わったよね、なのは」

「それは違うのう、フェイトや。あれは「素直になった」と言うのじゃ。元々内側に秘めておった感情が表に出とるだけじゃよ」

「ミステールちゃんの言う通りだと思うかな。なのちゃんって、思い切ると突飛な行動に出ることがあるから」

 

 なるほど。どの程度突飛になっているか、ザフィーラ経由で聞こうじゃないか。

 

「ミステール。この場にいる全員で共有だ。ザフィーラに繋いでくれ」

「アイアイサーじゃ!」

 

 アメジストの少女が、意味もなく印を組む。ソワレに限らず、召喚体が力を行使するときは、基本的に意思一つで行うことが出来る。わざわざ表示する必要はない。

 気分の問題なのだろうが、オレにはちょっと理解出来ない。

 ややあってから、頭の中で何かが繋がる音。聞き慣れた成人男性の渋い声が頭に響く。

 

≪ミコトか。どうかしたか?≫

≪そちらにガイと恭也さんがいるそうだ。一人で退屈なら、彼らと合流すればいいと思ってな≫

≪ああ、合流済だ。既に聞いているかもしれないが、なのはがガイを誘惑しようとしている。中々珍妙な光景だな≫

≪ふむ。音声を繋ぐことは出来るか?≫

≪難しい注文だ。シャマルなら出来るだろうが……と、恭也が繋いでほしいそうだ≫

 

 ミステールに指示を出し、彼も念話会議に参加させる。すぐさま恭也さんの疲労のにじんだ念話が飛んでくる。

 

≪ミコト。今からなのはをそっちに持っていくから、こっちに来させないようにしてくれ≫

≪お疲れのようですね。そんなになのはが暴れましたか≫

≪ああ。ガイの背中を流すと言って自分の体をスポンジ代わりにしようとしたり、それでガイがへたれて逃げたら、男湯を駆けまわって転んだり……俺はどうすればよかった?≫

 

 オレに聞かれても。これまではガイの方が変態言動で騒ぎを起こしていたのに、今は自分の妹の方が騒いでる状況に頭を痛めているようだ。

 

≪やりすぎたらしっかり叱ればいいかと。ガイだけ叱って、なのはは叱らないというのでは不公平でしょう≫

≪分かってはいるんだが、どうしても納得がいかん……。どうしてこうなった≫

 

 あなたの妹が、その変態に惚れたからです。しいて言うならば、運が悪かったとしか。

 こちらも運が悪かった。いやタイミングが遅かった。一番の見せ場は終了した後だったようだ。ミステールに念話は繋いだままにしてもらい、オレが代表して男湯との連絡通路まで行く。

 しばしあってから、消沈した様子のなのはが扉を開けて現れた。

 

「君は何をやっているんだ」

「うぅ、だってぇ……」

 

 転んだときに打ち付けたようで、額のところが赤くなっている。転び慣れているためか、怪我自体は大したことがないようだ。

 なのはの横に並んで、洗い場まで連れて行く。体をざっと洗い流して、再び皆と合流する。

 

「聞いたよー。誘惑失敗した上にすっころんで恭ちゃんに怒られたんだってねー」

「うぅぅっ! お姉ちゃんのバカー!」

 

 彼女はニヤニヤ笑いの美由希の遠慮ない一言に出迎えられた。浴場は音が反響するんだから、声のボリュームは自重しなさい。

 皆で取り囲み、なのはを逃がさないようにして話を聞く。

 

「なのはだって、怒られても仕方ないってちゃんと分かってるもん。でも、どうしてもガイ君と一緒にお風呂に入りたかったんだもん。来年にはこんなこと出来なくなっちゃうから……」

 

 確認だが、男女ともに連絡通路を使えるのは9歳未満の児童に限られる。オレ達は現在ギリギリ8歳であり、誕生日を迎えた順に使えなくなっていく。アリサは既に9歳だそうだ。

 なのはの誕生日は3月であり、まだまだ時間があるとはいえ、今年中にもう一度ガイと銭湯に来れるとは限らない。今しか出来ない思い出作りということだろう。

 

「だが何故体スポンジという発想になる」

「だってガイ君ってエッチだから、きっと喜んでくれると思って……」

 

 それ以前に彼がヘタレだということを忘れてはならない。口ではあれこれ言っているが、実際にはボディタッチすらまともにできていないのだ。結局はオレ達と同じで、知識が先行しているだけだ。

 

「そもそもの話として、公共の場でやることでもない。そういうことをしたければ、彼を家に呼んで一緒に入浴したときにしろ」

「ちょっとちょっと、ミコトちゃん! それやられると家族として非常に気まずいんだけど!?」

 

 知らん。いずれはそうなるんだから、今のうちに覚悟を決めておけ。

 オレの正論に、なのははシュンとしぼんだ。これだけ言えば、もう男湯に吶喊などしないだろう。

 

「元気出しなよ、なのは。ガイと一緒は無理かもしれないけど、今日は大きなお風呂で皆でゆっくりしよう。ね?」

「……ふぅちゃぁーん!」

 

 涙目になりながらフェイトに抱き着くなのは。「泣き虫なのは」の名に恥じない泣き虫っぷりであった。

 

 落ち着いたところで、なのはからガイに対する不満が噴出した。

 

「大体、ガイ君はずるいの! なのはが勇気出して告白したのに、自分は相変わらずなんだもん!」

「元々ガイ君って誰に対しての好意もオープンだったからねー。そういうところは凄くいい子だと思うよ。告白されたのにハーレム目指してるってので大減点だけど」

 

 高町姉妹によるガイに対する酷評。致し方あるまい。好きな相手が自分をちゃんと見ず、他の女の子達にも目を向けているのだ。

 オレの目には、なのはを恋人とする勇気がまだないから逃げているだけのように見える。彼自身、本当にハーレムを作れるとは思っていないようだからな。

 

「そもそも彼の器量でハーレムなど成立するわけがない。そこまで器用に切り替えが出来るゲス野郎じゃないだろう、ガイは」

「結局、何処まで行っても「いいヤツ」なのよね。変態という名の紳士って、あいつのためにある言葉だと思うわ」

「二人とも、褒めてるんだかけなしてるんだか、よく分からない評価だね……」

 

 奴がそういう輩なのだから仕方ないだろう。あれだけ真っ直ぐな心根を持っていて、何故道化を演じようという結論に至ったのか、今でも理解出来ない。

 

「人を好きになるって、難しいことなんだね。お互いに好きっていうだけじゃ、まだ足りないのかな」

「いや……これはごくごくレアなパターンじゃと思うがの。フェイトの言うことに間違いはないはずじゃが」

 

 まったくだ。こんなのが一般的でたまるか。あんなおかしな男、そうそう見つけられるものじゃないぞ。

 根っこの部分は好感の持てる人物だが、なのははどうしてあんな面倒な男を好きになったのだろうか。理屈じゃないとは言うが、きっかけぐらいは気になる。

 

「きっかけ?」

 

 オレの問いに、なのはは首を傾げる。そのまま考え込み、待つことしばし。

 

「……特にない、かな。ガイ君のおバカな言動に付き合ってる間、なんだかんだ楽しんでて、いつの間にか好きになってて、この間そのことに気付いたっていう感じだよ」

「あー……そういえばなのはって、色々と言いながらガイとは波長ぴったりだったわね。思い返してみたら、あれって完全に夫婦漫才よね」

 

 なるほど、そういうこともあるのか。文字通り、過ごした時間が育んだ恋心ということだ。

 「夫婦」という単語に反応し、恥ずかしそうに嬉しそうに、頬に手を当てながら首を振るなのは。少し前までなら顔を真っ赤にして否定していたというのに。素直になるとは、物凄い変化だ。

 

「いいなー、なのはは。勝算のありそうな恋が見つかって。わたしなんて、はじめっから勝ち目ほぼなしだったもん」

「そういえば美由希は初恋実らずな女だったな。勝ち目がないと分かっていたのに好きになったのか?」

「そーゆーもんだよ。自分の気持ちに嘘はつけないの。ミコトちゃんも、恋をすれば分かるよ」

 

 そんなものなのか。やはり、恋というのはよく分からんな。先にも思ったが、まさに理屈ではないということなのだろう。

 答えの出ない疑問をいつまでも考えていてもしょうがない。話題を流し、別の話題にしようとしたとき、月村が食いついた。

 

「あの! もしよかったら、美由希さんの初恋の話、聞かせてもらえませんか!?」

「え゛っ!?」

 

 恋愛話大好き少女の要望で、美由希は表情をビシリと固めた。まだ吹っ切れていないということか? そういえば、何年前の話かも聞いていないな。

 キラキラした瞳を受けて、あたふたと周囲に助けを求める美由希。しかし悲しいかな、彼女に救いの手を差し伸べる者は誰もいない。そう、彼女の妹でさえも。

 

「あー、うー……これ話すと、うちの家庭事情の話に発展しちゃうんだけど……」

 

 マジか。その発言で、美由希の初恋の対象だとか、彼女が三兄妹の中で一人だけ共通点がない理由だとか、色々察してしまったぞ。

 気になってなのはを見てみると、キョトンとした表情でよく分かっていない様子。これは……なのはは知らないことなのか。つまり、彼女が物心つく前から、美由希は当たり前に姉であったということだ。

 これは、迂闊に触れない方がいい話題だ。ようやく先の美由希の硬直の意味を理解した。

 

「分かった、やめよう。「オレ達が」もう少し大きくなったら、改めて聞くことにしよう」

「……ミコトちゃんがいてくれて助かったよー」

「? ?? なんだったの?」

 

 ほぅ、とため息をつく美由希に、相変わらず理解していないなのは。アリサと月村、それからフェイトは、事情があると聞いた時点で半ば諦め状態だったようで、頭の中で追及はしていないようだ。

 ミステールは、視線をオレに合わせて頷いた。彼女は理解しているか。

 なら……ジェスチャーでミステールに指示を出し、今度は彼女が頷く。念話共有により、美由希とオレのみが参加する念話会議を作り出す。

 

≪念のため確認しておくが、恭也さんとなのはと、血縁関係はあるのか?≫

≪4親等だけどね。本当の関係は従兄妹だよ。父さんと、わたしの本当の母さんが兄妹≫

≪それを聞いて安心した。さすがのなのはも、長年姉だと思っていた人間が完全に赤の他人だったら、ショックが大きかっただろう。血縁はあるなら、折り合いをつけられる可能性が高い≫

≪あはは、そうだね。……ミコトちゃんはやっぱり凄いなぁ。あんな短い会話で、大体察しちゃうんだもん≫

≪少し察しがよければ、誰でも気付く。事実ミステールも気付いているから、こうして念話を飛ばせているんだ≫

≪この場ではわらわと主殿以外は気付いておらんようじゃがの。想い人が義兄で、しかも恋人持ちとは。主もなかなかに厄介な恋をしたのう≫

≪ほんとにねー。はぁ……≫

 

 あまり念話には慣れていないくせに、念話でため息をつくという器用な真似をしてみせる美由希。やはりオレが下手なだけなのだろうか?

 しかし……恭也さんの天然女たらしっぷりは本当に見境がないな。高校時代は下駄箱がラブレターで溢れ返る人だったりするのだろうか。

 美由希への念話と並行して――マルチタスクではなく、人力の並列思考だ。料理をする人なら基本だろう――口頭でなのはへの説得を行う。

 

「事情があるなら、部外者のオレ達が勝手に踏み込むわけにはいかない。君の知らない君の家庭の事情ならなおさらだ。それはとりもなおさず、士郎さんと桃子さんが考えて黙っているということなんだからな」

「うーん、そっかぁ。なのはの知らないおうちのことって、いっぱいあるもんね。あの人外剣術とか……」

「そういうことだ。あの二人なら、最適な時期に教えてくれるだろう。そのときを待てばいい」

「お父さんとお母さんは、なのはのことを思って黙ってくれてるんだよね。うん、待てるの!」

 

 聞き分けがよくて助かった。二人がなのはに話すまで、オレもこの記憶には封をしておくことにしよう。

 少し慌ただしくなってしまった。美由希との念話を切り、オレは一旦移動することにした。フェイトとなのはは着いてくると言ったが、他はまだここでまったりしているようだ。

 オレは一度思考をリセットするべく、打たせ湯の方に向かった。

 

 

 

 

 

 打たせ湯とは、高い位置からお湯を落とすことで、体に湯を当てマッサージ効果を得るためのものだ。最近はだんだんと姿を消していると聞いたことがあるが、この銭湯では普通に稼働しているようだ。

 オレがここに来た理由は、湯を頭に浴びて思考を一旦ストップさせ、頭をすっきりさせるためだ。打たせ湯を浴びる姿は、滝行のようになることだろう。

 ちょうど、目の前のシグナムとヴィータのように。

 

「二人は何をやってるんだ?」

「えっと、修行だそうです」

 

 そばで大浴槽につかっているシャマルが答えた。発想が小学生男子のレベルだ。ヴィータはともかくとして、シグナムまで何をやっているのか。

 シャマルと一緒にいたはやても同じように思っているようで、軽く笑う。……ちょっと、あの横に並ぶのは憚られるな。

 仕方がないので、二人が満足するまで再び大浴槽につかって待つことにした。はやての横にいたソワレが、オレに抱き着いて来たので受けとめる。相変わらず甘えん坊な子だ。

 

「アリシアとブランは一緒じゃなかったのか?」

「ブランはアルフと一緒に露天の方に行ったでー。シアちゃんは、二人を見っけたときにはもういなかったわ」

「あ、シアちゃんなら忍さんと一緒に電気風呂の方に行くって言ってたよ。何だか凄く盛り上がってて、会話に入り込めなかったの」

 

 ふむ。それならまあ大丈夫だと思うが……アリシアと忍氏が、ねぇ。何故かはるかの時と同じ予感がするのだが、気のせいだろうか。

 

「ミコト、おっぱいほしい」

「言うと思ったが、今日はダメだ。オレ達以外にも人が多いだろう。あまり人前でやることじゃないぞ」

 

 不満げな顔をするソワレを、代わりに撫でてやる。気持ちよさそうに目を細めたので、満足してくれたようだ。

 なのはとフェイトは顔を赤くして視線を逸らし、シャマルが苦笑しながら頬をかく。彼女達はまだ、ソワレのこの発言に慣れていないようだ。

 

「あはは……ソワレちゃん、本当にミコトちゃんのおっぱいが好きなのね」

「うん。ミコトのおっぱい、おちつく。いちばんすき」

「ミコトママのおっぱいには敵わんかー。はやてママのハグも自信あったんやけどなー」

「はやてのだっこ、ミコトのおっぱいのつぎにすき。はやてママもミコトママも、だいすき」

「にゃ、にゃはは……子供って素直に好きって言えるから、凄いよね」

「君も子供だろう。想い人に素直になれたのだからな」

 

 別の意味で赤くなりながら、やはり嬉しそうに笑うなのは。彼女が素直になったことによる変化は大きいが、これは喜ばしい変化なのだろう。暴走癖が相変わらずなだけだ。

 ……フェイトの発言がないが、彼女はまだ顔を赤くしたまま、何かを言おうとし、やっぱりやめるを繰り返している。見ているだけでもどかしい。

 

「言いたいことがあるなら遠慮せずに言ってしまえ。ここにいる面子に、今更遠慮など必要ないだろう」

「えう!? えと、その……や、やっぱり恥ずかしくて……」

「大丈夫だよ、ふぅちゃん! ふぅちゃんがどんなこと言っても、なのはは笑わないから!」

 

 ガシッと彼女の肩を掴むフェイトの親友。フェイトはびっくりして目を開いた後、なのはから勇気をもらって頷く。

 そしてオレの方を向き。

 

 

 

「み、ミコト! その……、……っ、わ、わたしも、ミコトママのおっぱい……ほしい、な」

 

 オレは、天を仰いだ。大浴場の天井が視界に映る。本格的に育て方を間違ってしまったかもしれないと後悔に似た念が胸を満たした。

 いや、彼女が時折ソワレのことを羨ましそうに見ているのは知ってたんだ。最初からもしかしてとは思う節はあったんだ。そうではないと信じたかった。ああ、信じたかったとも。

 

「あ、へ、変な意味じゃないんだよ!? ただ、ソワレがほんとに幸せそうだし、どんな感じなのかなって知りたくて……」

「いい、皆まで言うな。言わないでくれ、頼むから」

 

 考えてみれば、フェイトは肉体年齢が8歳相当であり、インプリンティングされた記憶から肉体相当の精神を持っているだけで、実際に生きた年数はオリジナルのアリシアとどっこいどっこいだ。

 つまり、乳幼児期に満たされるべき欲求が満たされないまま来てしまっている。それが今表出しても、何ら不自然はないのかもしれない。

 だが……どうする。彼女は、肉体的にはオレと同年齢だ。身長もオレよりかなり高く、そんな少女がオレのおっぱいをむさぼる絵面を考えてみよう。どうあがいても「そういう性癖でそういうプレイ」だ。

 いや、好意的に解釈されて、同年代の少女のじゃれ合いと受け止められるかもしれない。多分そうだろう。そうに違いない。他者がどうかなんて関係ない。フェイトの成長に悪影響でないかという問題だ。

 もしこれでフェイトが同性愛に目覚めでもしたら。オレは後悔してもしきれないだろう。オレはプレシアから信頼されてフェイト託され、そしてオレ自身の意志として愛情を注いでいるのだ。

 彼女には、真っ当に生きてもらいたい。今後の成長の過程でソレに目覚めてしまったらどうしようもないが、少なくとも今種をまくべきではないのだ。

 

「落ち着け、フェイト。君は今何歳だ」

「はちさい」

「そうだ、8歳だ。肉体年齢は8歳相当だ。そしてオレも8歳だ。ここまでは分かるな?」

「うん」

「8歳の子供は、8歳の子供のおっぱいを欲しがったりはしない。そうだよな」

「……おっぱい、ほしいの」

 

 完全に幼児退行してる。今ここで「ダメだ」と言おうものなら、泣き出してしまうかもしれない。オレは、どうすればいい……っ!

 はやて。推奨ムードだ。「おっぱいぐらいええやん、減るもんでもなし」と目が語る。精神的に減るんだよ。

 シャマル。こちらは諦めムード。「わたしには助けられません」とジェスチャーが返ってきた。こういうときのための参謀だろう。

 ソワレ。フェイトに共感している。同じ娘ポジとして、今は彼女が姉としてフェイトを応援していた。その成長は嬉しいところだが、見せる場面を考えてほしかった。

 そして、なのは。暴走状態である。親友を無条件で応援している。オレが彼女にOKを出すまで、決して逃がしてはくれないだろう。

 四面楚歌とはまさにこのことだ。どこにも味方がいない。これは……断りようがない。

 

「……分かった。家に帰ったらあげるから。それまで大人しくしてなさい」

「いま、ダメなの?」

「さっきソワレに言った。ここにはオレ達以外の客が大勢いる。君は公衆の面前で出来るのか?」

「今こそわたしらのチーム力を見せるときやで、シャマル!」

「はい、はやてちゃん! 陣形「デザートランス」発動!」

 

 フェイトの後ろに扇型に並ぶ4人。オレの後ろは打たせ湯があるだけであり、他の客からは見えない。こんなところで無駄にチーム力を発揮するな。

 圧倒的多勢に無勢。最早オレに逃げ場はない。

 深く。深くため息をつく。諦念にして、覚悟のため息である。……オレも女だ。三人の娘の母親だ。このぐらい、乗り切ってみせよう。

 受け入れるべく、段になっているところに腰掛け、両手を開いた。そして彼女に、オレに出来る最大の優しさで微笑み、呼びかける。

 

「おいで、フェイト」

「うんっ!」

 

 彼女は顔を蕩けさせてオレの胸に飛び込んできた。普段の大人しさが嘘のようなアグレッシブさである。

 そして彼女は、艶めかしい唇をオレの左胸の先に付ける。

 

「んっ……」

 

 くすぐったさとこそばゆさで、小さく吐息が漏れる。彼女は探るように少しだけ口を開き、桜色の先端を口の中に含んだ。少し高めの体温と湿度で、敏感なソレがじんわりとうずく。

 

「はっ、……ん」

 

 フェイトは、音が出ない程度に吸い始めた。当然出るものはなく、吸引力に引っ張られて先端が刺激されるのみ。先ほどよりも強い刺激で、少し声が漏れた。

 

「ぁっ……!」

 

 必死で抑える。浴場は声が響く。こんなところで喘ぎ声でも出そうものなら、如何に人の壁を作っていようが、注目されてしまうに決まっている。

 だから耐える。フェイトはオレの忍耐に構わず、ちゅうちゅうとおっぱいを吸い続ける。強すぎず、弱すぎず。オレがここにいると確認するかのような行為だ。

 声を漏らさないように努めながら、フェイトの頭を撫でる。彼女の目はとろんとしており、とてもリラックスできていることが伺えた。

 刺激にも慣れ、このまま後は終わりまで耐えるだけ。そう思ったところで……予想外の刺激に、体がビクンと跳ねた。

 

「ちょ、っと、フェイトっ……!」

 

 まるでオレのおっぱいを味わうかのように、舌でなめたのだ。唾液で湿った、少しザラザラした舌の感触。敏感な胸の先は、その一つ一つを識別できるほど、鮮明な感触を伝えた。

 舐められるたびに、体が意思に反して跳ねる。抑え気味の声が、どうしても漏れてしまう。それを意図しているわけではないだろうが、フェイトの行為はだんだんと激しさを増している。

 彼女は、もっとオレを求めていた。五感全てでオレを感じようとしていた。

 

「ダメ、だって……こんな、されたら……オレ、声、出ちゃう……っ!」

 

 意識せず、目の端に涙が浮かぶ。感覚の波に耐えているせいで、涙腺が緩んでいる。オレの制止を聞かず、フェイトは行為を続ける。吸いながら、舐めながら、甘噛みする。刺激は増す一方だ。

 そして、一際大きな波がやってきた。

 

「っ~~~……――!!」

 

 最後はもう必死だった。目を瞑り涙が流れ、体が痙攣し、それでも声だけは絶対漏らさないように必死で耐えた。

 そのかいあって、最後まで声を漏らすことだけはなかった。

 

 

 

「ふぃー、いい修行になったぜー……ってお前ら何やってんの!?」

「こ、こら、フェイト! 主ミコトを離せ! シャマル、お前が着いていながら何ということだ!」

 

 お前も小学生男子並の発想に熱中しててこっちに気付かなかっただろうが。シグナムに対する突っ込みは、心の中だけにとどまった。とてもではないが声を出せる状態ではなかったのだ。

 ヴィータとシグナムに引っぺがされたフェイトは、その段階になってようやく正気に戻り、首どころか肩から上を真っ赤にしてその場にうずくまった。そして何度も謝られた。

 オレは何とか手で「気にするな」とジェスチャーを送り、大浴槽の縁に体を預けて休んだ。

 

「……ふぇーとのくひ、ひゅごい……」

 

 ろれつが回らないオレが何とか発することの出来た感想である。

 

 回復するまで、だいぶかかった。




お 待 た せ 。お風呂回は微エロの大チャンスってはっきり分かんだね。
今のところフェイトは、ミコトの分析通り、精神的に乳幼児な部分を持っているだけであり、同性愛的な要素はありません。激しくなってしまったのは、もっとミコトの「母親」を感じたかったからです。
舌ったらずなミコトちゃん可愛い(ゲス顔)

ザフィーラ、一人で男湯を回避。聖祥組とチームを組めたのが大いに効きましたね。これがなかったら、男女比11:1の中で過ごし続けるという恐怖。ザッフィーマジ健気。
さらりとミコトといい雰囲気を作っているザフィーラですが、実は波長は結構合ってます。基本的に寡黙なザフィーラですが、ミコトと話しているときは結構饒舌になります。
まあ、ミコトの分析通り、そういう関係になることはないんですが。気安いだけじゃ恋じゃない。何よりルート作ってませんから(メメタァ)

ようやくアリサが名前で呼ばれるようになりました。何か特別なきっかけがあったわけではなく、順当に成長を認められてのことです。
それに対してすずかは相変わらずの月村呼び。実際、アリサに比べてすずかは変化がありません。どうしても皆から一歩引いてしまうのです。原因は皆さんご存知の通り。
本編終了までにそれを解消できるかどうかは分かりません。でも、解消出来たら素敵ですよね。

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