不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!

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お待たせしました、水着回です! しかも今回は前後編です!



4日も間が空いてしまいすみません。リアル事情が立て込んだため、更新が遅れてしまいました。
次は2日以内に……と行きたいところですが、次もどうなるか分かりません。最低でも一週間以内には何とかしたいと思います。


三十九話 ビーチ 前編

『海だーっ!!』

 

 連れの何人かが、砂浜に向けてテンション高く走り出した。まだ水着に着替えてもいないのに、気が早すぎる。

 眺めながら、海辺に住んでるんだから海自体は珍しくもないだろうと、呆れの嘆息。隣で車椅子に乗っているはやてが、「あはは」と軽く笑う。

 先日から足のリハビリを始めたはやてだが、本人の「歩きたい」という意志も相まって、既に日常生活のいくつかの場面では車椅子を必要としなくなっていた。

 が、今日は海鳴市内のビーチとはいえ、八神邸からそれなりの距離を移動する。体力の消耗を避けるために、今は車椅子に乗ってもらっている。

 さて、本日の面子だが、八神家全員はもちろんとして、聖祥3人娘と海鳴二小5人衆。当たり前のようにガイ。そして先日知り合った翠屋FCカップルと、剛田少年もいた。

 恭也さんと美由希は、翠屋のお手伝い中。本当は彼らも誘うはずだったのだが、シフトの関係で断念することになった。特に美由希が悔しがった。

 恭也さんが来なかったので、月村の姉の忍氏もアリシアプロジェクト(仮)の研究を優先した。彼女にとってはそれも大事なことなので、気にせず楽しんでほしいと言われた。

 一応、監督役の大人はリッターの二人、それから見た目は大人のブランがいる。もっとも、オレの周りの人間というのはそれなりにしっかりした子供が多いので、子供だけでも問題はなかろうが。

 

「元気がいいのは結構なことだが、先に着替えだ。その方が気兼ねなく遊べるだろう」

 

 手を叩き、吶喊した連中に向けて声を張る。連中――全員女子である――は、えへへと恥ずかしそうに笑いながら戻ってきた。

 いつもと少し面子は違うが、それでも自然とオレがまとめ役をやることになり、そして皆も当たり前に受け入れている。その現実を思い、もう一度ため息をついた。

 

 

 

 事の起こりは、一昨日のなのはとの定時念話だ。

 

≪そういえば、最近海鳴二小の皆と会ってないの。最後に会ったのっていつだっけ?≫

≪オレも夏休みに入ってから会ってないが……なのはとは、多分はやての誕生日パーティーが最後じゃないか? 学校が違うのだし、仕方ないだろう≫

≪そっか。蒐集とかグレアムさんとの協力とか、色々あってつい忘れてたけど、もうそんなになっちゃうんだ≫

 

 休みの日も頻繁につるんでいる聖祥3人娘と違い、オレ達と5人衆はそこまででもない。オレが生活費のために働いていることを皆知っているし、現在うちは12人家族であり、そちらに構う必要もある。

 こうして毎日念話を行っているなのはも、彼女の意志と念話という通信手段があるから行っているだけで、これがなかったら彼女との付き合いも5人衆並に減っているだろう。

 基本的にオレを介さないことには5人衆と交流を取っていないなのはが、学校も違う彼女達と会う機会などほぼないだろう。なのはが翠屋を手伝っているときに来店すれば別だが。

 所属するコミュニティが違うというのは、それだけ交流を取りづらいということなのだ。

 

≪うーん。折角お知り合いになったんだから、皆とももっと仲良くしたいなぁ≫

 

 なのはという少女らしい意見だ。さすがに「お話したら皆お友達」とお花畑過ぎる発想はしないようだが、「知り合い皆と仲良くしたい」という程度にはお花畑である。

 

≪君ならそう感じるだろうが、あまり手広くやろうとすると、今の君の友人達との交流にも支障が出るぞ。ほどほどにしておくのが賢いやり方だ≫

≪そうかもしれないけど……やっぱり寂しいよ≫

 

 「寂しい」か。つい最近その感情を理解したオレは、その言葉を使われるとどうにも弱い。どうしてそう感じるかは分からないが、そう感じることが辛いということは分かるようになった。

 彼女の言う「寂しい」が全て胸を締め付けるほど苦しいものではないとは思うが、以前のように一蹴することは出来なくなってしまった。

 

≪そうか。寂しいのは、嫌だな≫

≪そうだよ。ミコトちゃんだって、アリサちゃんとお話できなくなるのは寂しいでしょ?≫

≪……いや、彼女に対してはそこまででもないな。オレも彼女も、そんなことでセンチメンタルになる性格ではない。だが、なのはと話せなくなったら……少し、寂しい≫

≪……ふぇっ!?≫

 

 最初は彼女の希望に従い仕方なく、ミステールの訓練も兼ねて行っていた定時念話。だけど、もしこれがなくなってしまったら。今のオレは、多少なりとも寂しいと感じるだろう。

 慣れてルーティンと化したというのもあるだろうが、あの頃よりもなのはと親密になったのも関係しているだろう。初めての友達との会話を、失いたくはない。

 アリサを引き合いに出して同意を求めようとしたなのはは、自分がやり玉に挙げられたことに驚き、しばししどろもどろな念話が返ってきた。

 

≪あの、その! なのはも、ミコトちゃんとお話できなくなったら寂しいの! とってもとっても寂しいの!≫

≪そうか。そう言ってもらえると嬉しい。本当だよ≫

≪う、うん! ……なんかミコトちゃん、この間から優しいの≫

 

 そうか? シャマルからは以前から「優しい子」と言われて、自己評価との齟齬に座りの悪さを感じていたが、なのはの言っているのは少し意味合いが違うように感じる。

 

≪うーんと……前のミコトちゃんなら、今のも「そう思うのは君の自由だ」とか返しそうな気がするの。今は、言葉遣いも柔らかかったし≫

≪ふむ。確かに言いそうだ。だが実際に嬉しかったのだから、嬉しいと返すのは間違っていないだろう?≫

≪そ、そうなんだけどー……≫

 

 なのはの言いたいことも分かる。以前のオレは「寂しい」という感情が分からなかったから、他者からそう思われた際にどう感じるかも分からなかった。それが分かるようになったのだから、反応は変わる。

 オレは、それだけなのはにとって大事な人間だと思われているということだ。言い換えれば、彼女に好かれている。それは普通に嬉しいことだ。オレは人に好かれて嫌がる天邪鬼ではないのだから。

 

≪優しい云々に関しては君の感じたことだから、オレが考えても仕方がない。違和感はあるが、捨て置くことにしよう≫

≪……やっぱりミコトちゃんなの。うーん、なんなんだろう……≫

 

 それは君が答えを出すしかない。君の中で生まれたものなのだから。

 

≪それよりも、君が5人衆と遊びたいという話だったな。ちなみに君達は普段どんな遊びをしている?≫

≪えっと……すずかちゃんちでお茶会したり、アリサちゃんちだったり、翠屋に集まっておしゃべりしたり、かな。あとは、皆でお出かけしたりもするよ≫

 

 生活水準の差を感じる。やはり彼女もオレ達とは違って裕福な家庭の子である。知ってた。

 

≪それだと彼女達とは合わないだろうな。彼女達の遊びは、オレはあまり付き合わないが、公園で遊んだり、誰かの家に集まってゲームをしたりだ。皆でお出かけなんていうのもない≫

 

 服を見たりとかはあったが、あれはお出かけには含まれないだろう。海鳴温泉みたいなことではない。

 なのはにとってはあまりなじみのない遊び方だったのだろう、苦笑の気配。念話越しで感じ取るのも慣れたものだ。

 

≪学校が違うと遊び方もだいぶ違うんだね≫

≪というか、これは単純な生活レベルの差だ。君は自分が相当恵まれた環境にいることを自覚した方がいい≫

≪うっ。わ、分かってはいるんだよ? ただ、近くにいるのがアリサちゃんとすずかちゃんだから……≫

 

 それでなくとも、周りにいるのが「小学生から私立に通わせるだけの経済的余裕がある家の子供」で構成されているのだ。それが一般的だと思ってしまうのだろう。

 うちが一般的とは言わないが、それでも経済的にはうちの方が高町家よりも一般に近いと胸を張って断言しよう。

 

≪君はその歳で一人部屋を持っているだろう。それはあまり一般的ではない。現にうちの娘組は共用だし、あきらも弟と同じ部屋だそうだ≫

≪はやてちゃんちの場合、単に人数が多いだけだと思うの。あきらちゃん、弟いたんだ≫

 

 一つ歳下で、名前は「千尋(ちひろ)」というそうだ。姉弟揃って名前で性別が判断しづらい。

 他には、いちこに中学生の兄がいると聞いている。他は全員一人っ子だ。少なくとも、オレの知る限りは。

 

≪家に道場があって、両親は人気の喫茶店を個人で経営している。これで普通だと言われた日には、海鳴二小の大半が貧乏ということになってしまう≫

≪うぅ、わたしが間違ってました……≫

 

 分かればよろしい。

 

≪ともかく、5人衆と交流したいなら、何か遊び方を考えておくんだな。君と彼女達両方が楽しめなければ、意味はないだろう≫

≪そ、そうだね。何かあるかな……≫

 

 生活水準の違いは文化の違い。とはいえ、同じ国に住んでいるのだから、共通点も多かろう。

 たとえば、5月の終わりに行ったプールなどは、あの5人でも楽しむことが出来るだろう。……あそこは出費が小学生には痛すぎるが。

 「プール」という例示で、なのはは着想を得た。

 

≪そうだ! 皆で海に行こうよ、ミコトちゃん! 臨海公園の方じゃなくて、海浜公園の方!≫

 

 つまりは、そういうことだ。

 

 

 

 5人衆も海遊びには乗り気であり、日程は即決定した。あまり遅くなるとクラゲが出て泳げなくなるし、お盆には帰省する者もいる。妥当なところだろう。

 なのはは聖祥の友人を呼んだのだが、その中に例のカップルと剛田も含まれているというのは予想していなかった。もっとも、彼らはなのはの友人というよりはガイの友人とその恋人なのだろうが。

 

「少し予想外の顔もあったが……大丈夫か、むつき」

 

 剛田が来たというのは、オレのクラスメイトにとっては重荷になっていないだろうか。彼はむつきにとって、いまだに想い人であるはずだ。

 海浜公園のビーチに建てられた簡易更衣室内で、水着に着替えながら彼女に問いかける。……オレの水着は、プールの時にアリサが購入した黒ビキニ。スクール水着を除くと、これしか持っていないのだ。

 眼鏡を取って半袖のシャツを脱いだむつきは、オレの言葉に少し力のない苦笑を返した。

 

「まったく気にならないってわけにはいかないけど、楽しめないほどじゃないよ。たける君と海に来れたことは、純粋に嬉しいしね」

「そうか。……あまりオレが気にしても仕方ないとは思うが、一応な」

 

 海鳴二小側で聖祥組との連絡役になっているのは、間違いなくオレだ。ある意味、彼をこの場に呼んだのはオレの責任みたいなものだ。

 もちろんオレとしては、とっとと互いの想いを打ち明けてすっきりしろと思う。とはいえ、むつきの感情に土足で立ち入るわけにもいかない。やはり恋愛とはデリケートな問題だ。

 聖祥側でオレと同じ立ち位置の、そして剛田に思いを寄せられていたなのはが、オレ達の会話に加わる。

 

「なのはは、むーちゃんのことを応援するよ。……むーちゃんの告白が断られちゃったのは、ある意味わたしのせいだもん」

「なのちゃん……。ううん、そんなこと気にしなくていいんだよ。わたしが、もっと早くに勇気を出せてればよかったんだもん。なのちゃんのせいじゃないよ」

「でもでも、なのはがもっと早く自分の気持ちに気付いてれば、剛田君だってむーちゃんにOKしてただろうし……」

「それは違うよ。たける君は、なのちゃんを好きになった時点で、たとえ勝ち目がなくたって思い続けたはずだよ。そういう男の子だもん」

「そうかもしれないけど……」

「二人とも、あまり仮定の話でネガティブになるな。過ぎた話をしてどうなったかなど分かるものでもないし、今がどうなるものでもない。もっと生産的に考えろ」

 

 なのはとしてはむつきを元気付けようとしたのだろうが、どうしても後ろめたい感覚があるのか、盛大な自虐大会に発展しかけた。鋭く差し込み、二人を止める。

 だが、逆にこうなればオレはいつも通りに振る舞える。客観的に、冷静に状況を判断する。

 

「なのははむつきの恋を応援したい。それだけで十分だろう。余計なことを考える必要はない。むつきだって、そんなことで応援されても嬉しくないだろう」

「……そうだね」

「むつきも、臆病になるな、と言うのは酷だろう。だが自分に何の魅力もないなどとは思うな。オレが名前で呼べた、その意味をよく考えろ」

「ミコトちゃん……そう、だったね」

 

 むつきにとって、あの告白は「ふられた」という結果になってしまっているだろうが、客観的に見た場合、全く脈がなかったとは思えない。彼は「なのはに会わなければ違っていた」と語った。

 むつきを傷つけないための方便、ではないだろう。むつきの証言、そしてなのはの変化を受けての行動から、そんな駆け引きが出来る性格ではないことが分かる。正面突破が似合うキャラクターだ。

 つまり、あのときむつきに語った言葉は、紛れもなく彼が思った本心である可能性が高いのだ。そして今の彼は、なのはにふられている。

 もちろんそれですぐにむつきとくっ付くとはいかないだろう。彼は一度彼女の気持ちを袖にしている。剛田にだって思うところはあるだろう。翠屋FCの応援の際にそれは分かっている。

 二人が自分の気持ちに逃げずに向き合い、もう一度真正面から顔を合わせる必要がある。それがいつになるかは分からないが……オレだって、応援したい。むつきは「ただの知り合い」ではないのだから。

 

「そうだよ、むーちゃん! 水着姿で悩殺しちゃえ!」

「い、いちこちゃん!? 急に抱き着かないで、水着着れないっ!」

 

 さくっと水着に着替えたいちこ(緑と青の縞模様のセパレート)が、まだ水着を着ていないむつきに後ろから抱き着いた。彼女もむつきの告白を手伝った身として、協力の意志があるようだ。

 

「悩殺云々は置いておくとして、一緒に遊ぶというのはいい考えだな。何かに夢中になっているうちに、お互い意識の障壁が取り除かれるかもしれない」

「それ、絶対いいの! じゃあ、どこかのタイミングでむーちゃんと剛田君を二人っきりにして……」

「待った待った、それだとむーちゃん固まって動けなくなっちゃうよ。最初は皆一緒で、さりげなく二人の距離を近付けるようにしなくちゃ!」

「む、無理だよぉ! っていうか、そんな相談わたしの前でしないでぇ! あといちこちゃん、本当に水着着れないからぁ!」

 

 ちなみにむつきはいつもと同じてるてる坊主スタイルだ。水着を手に持って着ようとしているので、タオルの下は一糸纏わぬということになる。

 いちこがふざけてタオルをめくる。案の定パンツすらはいておらず、裸を見られたむつきは悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。顔を真っ赤にして涙目である。

 

「い、いちこちゃんのバカぁ!」

「いやぁ、いい反応。むーちゃんもキレーな体してるんだから、隠す必要ないのにー」

「だ、だって恥ずかしいんだもん!」

「女の子同士だし、そこまで恥ずかしがる必要ないと思うんだけど……」

「それはオレも同意だが、人それぞれだろう。皆が皆、君のように男にでも裸を見られて平気というわけにはいかんよ」

「なのははそんなに恥知らずじゃないもん! ちゃんとタオルで隠してたもん!」

 

 先日銭湯で男湯に吶喊した女が何を言っているのか。オレにはとても出来ない。

 他の連中もガイが女湯の露天風呂に来て平然としていたが……オレが過剰反応なだけなのだろうか? 確かに彼はヘタレ故に無害だが、だからと言って男に裸を見られて平気という神経は理解出来ない。

 ……もしかしたら、ハラオウン執務官に着替えを見られたことが、心的外傷(トラウマ)気味になっているのかもしれない。自分がそんな繊細な女だとは思えないんだがな。

 そんなこんなをしているうちに、オレは水着に着替え終えた。相変わらず、子供らしくない格好だ。

 

「……何をジロジロ見ている」

「ちょっとこれは、むーちゃんが悩殺するのは無理かなーって」

「ミコトちゃん、大人っぽい……わたしよりちっちゃいはずなのに」

「にゃはは。ひょっとしたら、ナンパとかされちゃうかもね」

 

 こんな幼児体型にナンパする男がいたら、途方もないロリコンだな。

 そんなこんなで話は移り、着替えを終えた順に更衣室を出た。

 

 

 

 

 

 いたよ、途方もないロリコン。

 

「ねえねえ、キミ一人? 暇だったら、俺らと一緒に遊ばない?」

「いいとこ知ってんだけど。退屈させないからさ」

 

 見たところ中学生から高校生ぐらいの、頭に何も詰まってなさそうな顔つきの少年……青少年? ともかく、そんな二人組が皆から離れたオレに声をかけてきた。

 アリサが持ってきたというパラソルを立てて荷物置き場を作り、とりあえずいくつか飲み物を買って戻る途中の出来事だ。

 ……学校では男から声をかけられることはなく、彼らの意気地のなさに落胆のような感情を覚えないでもない。かと言って、このように軽薄な対応を望んでいるわけでもない。

 オレは無視して、目の前に立ちはだかった二人組の間をかき分けるように、無言で通り過ぎようとした。そんなオレの腕をつかむチャラ男A。

 

「まあまあ、そう慌てないで。少しぐらいお話しようぜ?」

 

 特段体格に優れているわけでもないオレが、力で年上の男に敵うはずもない。……握られた腕が少し痛い。女の扱いがなってない連中だな。ナンパをするなら、まずはそこから学べというのだ。

 言葉を交わすのも不愉快に感じたから無言で通り過ぎようとしたのだが、致し方ない。

 

「人を待たせている。邪魔だから失せろ、ロリコンども」

「うわっ、強気ぃ。気の強い子って嫌いじゃないわ」

「そういうのも需要あるからさ。身長や胸の大きさなんか気にしなくていいんだよ」

 

 何やら勘違いしているようだ。どうやら彼らはオレのことを「発育の遅れた同年代」と認識しているようだ。現実を突き付けてやれば、目も覚めるか。

 

「小学三年生を口説こうとしているロリコンという意味だ。性犯罪者を相手にする趣味はない」

「あはは、冗談も上手いんだねぇ。こんなにビキニが似合う小学生はいないっしょ」

「どこ中学? もっとキミのこと知りたいから、一緒にお茶しようよ」

 

 断るための方便と思われてしまった。紛れもない真実なのだが。というか見た目で分かるだろう。125cmにも達していない身長だぞ。解せぬ。

 さてどう切り抜けたものかと、一切の危機を感じず睥睨する。最悪関節でも外してやればいいのだが、今日は遊びに来たのだ。あまり荒事にするのも好ましくない。

 なおもオレを誘おうと、掴んだ腕を離さないチャラ男A。ここまでされたら正当防衛も成立するだろうかと思考がバイオレンスに傾き始めたとき、状況が動いた。

 

「そこの男二人。我が主に何か用か?」

 

 覇気をまとったシグナムが現れた。買い物から帰って来ないオレを心配してきたようだ。

 彼らよりも身長が高く、歴戦の空気を纏う女性に対し、ここまで押せ押せの姿勢だった二人組がたじろぎ、ようやくオレの手を離す。掴まれていたところが赤くなっている。痣にはなっていないようだ。

 シグナムの覇気が怒気に変わった。どうやら彼らを「オレに害を成す外敵」と判断したようだ。立ち居振る舞いでこいつらが武道をやっていないのは明白だが、それでもヤバイということは感じ取れたようだ。

 

「し、失礼しましたーっ!」

「あ、ちょ、こら! 置いてくなよォ!?」

 

 一目散に退散していくナンパども。奴らが視界から失せるまで怒気を放っていたシグナムは、その後気遣わしげな視線をオレに向けた。

 

「大事ありませんか、主ミコト」

「多少痕になった程度だ。すぐに治る。心配をかけたな」

「騎士の務めです。御身の危機にすぐに駆けつけられず、不覚でした」

 

 オレも、まさか中学生と勘違いされるとは思っていなかった。見るからに小学生、その中でも小柄の部類なのだが。シグナムの落ち度ではない。

 そう言って、謝罪するシグナムの頭を上げさせる。「気にしていない」ではなく、ちゃんと「許す」と言わないと納得できないやつだ。

 

「……シグナム。オレはそんなに小学生に見えないか?」

 

 ビニール袋に入れたジュースを半分持ってもらい、荷物置き場に戻りながら、隣を歩く"オレの騎士"に尋ねる。

 しばし、彼女は考えた。

 

「普段の御格好ならば、とても愛らしく、歳相応に思えましょう。今日の御姿は、可愛らしさよりも妖艶さが際立っている。恐らくはそのせいかと」

「そうか。やはりアリサのせいか」

 

 やはり、この水着のせいだった。奴らも言ってたしな、「ビキニの似合う小学生はいない」と。これは抗議せねばなるまい。

 別に可愛さを求めているわけではない。だが、ナンパという実害を被ってしまった。これは十分にデメリットと言えるだろう。

 戻ったら、まずはアリサに文句を言おう。そう決めて、改めてシグナムを見る。

 

「そうそう。似合っているぞ、シグナム。やはりビキニは、お前やシャマルのように、スタイルのいい大人が着るのが相応しい」

「も、もったいなきお言葉です……」

 

 赤と紫のビキニで素晴らしいボディラインを強調するシグナムは、本心からの褒め言葉に顔を朱に染めた。

 

 

 

「――以上の結果から、「オレにビキニは適していない」と主張する。似合う似合わないの問題ではなく、好ましくない結果につながるということだ」

「みみっちいこと気にしてんじゃないわよ。相手の頭がパープーだっただけで、似合ってたって証明でしょ。自分の容姿を自覚して注意しておかないからそういうことになるのよ」

 

 戻るなり、アリサと口論を始める。彼女としては、オレがナンパされたという事実は大して驚くべきものでもないという認識のようだ。

 海鳴二小の面々(特にあきらとむつき)はナンパ男どもに対して殺気立ったが、シグナムが威圧して追い払ったと聞いて落ち着いた。彼女達の誰かと一緒だったなら、ナンパなどされなかっただろう。

 確かに、一人で問題ないと判断したのはオレだ。故にオレ自身が招いた悪因悪果かもしれない。だが、大元の原因を作ったのはアリサなのだ。

 

「いい? あんたは「可愛い女の子」なのよ。無防備でいたら、悪い男にいいようにされちゃうわよ」

「そうなったら相応の報いを受けさせるまでだ。一応、自分の容姿が人目を引いている自覚はある。オレはそこまで鈍感でもなければ、謙虚を気取るつもりもない」

「それじゃ足りないっつってんのよ。自分が男の子にとって魅力的だってこと、ちゃんと自覚しなさい」

 

 どう違うのだろうか。男がオレの容姿に見惚れることがあるというのは、経験則的に分かってはいるのだが。それでも今まで行動を起こしたやつなど、ユーノぐらいしかいない。

 ナンパなどという行為を受けたのは初めてなのだ。というか、この歳でこの見た目で、そうそう受けてたまるものかという話だ。

 やはり、解せぬ。

 

「大体、本当に嫌なら新しく水着買ってるはずじゃないの? 資金難は脱出したんでしょ?」

「無駄遣いを嫌っただけだ。着られる水着があるのに新しく購入するなど、無駄以外の何物でもないだろう」

「……ああ、そういうやつだったわね、あんたって」

 

 口には出さないが、リッターの三人とはやての水着を購入したというのも大きい。ギルおじさんが仕送りを自重しなくなったため貯蓄は出来たが、出費は出来るだけ抑えたいのだ。

 オレが一般的な女子と違って着飾ることにそれほどの興味を持たないことを思いだし、アリサはため息をついた。相変わらず失礼なやつだ。

 ……別に、代わりの水着をアリサに要求するつもりではない。単にあった事実を共有し、次があったときに気を付けてもらいたいだけだ。

 

「体が大きくなったら、水着を新調することもあるだろう。そのときに、君がまた同じことを言い出さないとも限らない」

「あんたがビキニは嫌ってのは分かったわよ。次のときは気を付けるわ」

 

 次はない方が望ましいがな。借りを作るのは、相変わらず苦手なのだ。

 とりあえずの決着をつけ、アリサとの口論を終える。ここまで黙ってオレ達のやり取りを見ていたあきらが、アリサが選んだ水着に評価を下す。

 

「けど、実際皆似合ってるのよね。ミコトもそうだし、フェイトのや、ソワレとアリシアのもアリサが選んだんでしょ?」

「うん。わたし達、学校の水着しか持ってなかったから、アリサが「それじゃダメ」って買ってくれたんだ」

 

 色気づくには早い歳だし、学校指定の水着でもいいと思うがな。下手な水着よりはまともな格好だ。

 あきらの水着は、普通の夏物衣類のようなもの。タンキニ、というやつだったか。白地に赤で模様が付けられた、活動的な彼女らしい水着だ。

 スクール水着を着用している子供は一人としていない。……状況は、かつてのアリサの言葉を肯定しているようだ。

 

「ミコトの言い分も分かるんだけど、アリサの意見も間違いじゃないと思うし、わたしはどっちかっていうとアリサ側なんだよね」

「それが正常な反応ね。ミコト達が貧乏根性染み付きすぎてるだけなのよ」

「わ、わたし達も?」

「節約家と言ってもらおうか。誰が何と言おうが、贅沢は敵だ」

 

 贅沢をして経済を回すのが仕事の君達とは違うんだよ、ブルジョワジー。オレの言葉に、アリサは「分かってるじゃない」とふんぞり返る。

 

「一度アリサの家も見てみたいわね。ミコトと違って、わたし達は聖祥組とそこまで付き合いあるわけじゃないし」

「こいつもあたしの家は見てないけどね。何なら、お茶会のときに海鳴二小組も全員招待するわよ。そのぐらいでどうこうなる家じゃないし」

「月村レベルで考えれば、言葉通りなんだろうな。あの屋敷で個人の邸宅だということが、いまだに馴染まない」

「そうかな。あれぐらいなら、個人での所有もあり得ると思うけど」

「……そうだったわね。フェイトも元々はブルジョワの子だったのよね」

「貧乏人は肩身が狭い」

 

 ふざけてあきらと肩を組みながらフェイトと距離を取る。彼女はショックを受けてこの世の終わりのような顔をした。泣かせないように、抱きしめて慰めた。

 話を切り上げ、はやてを探す。彼女は狼形態のザフィーラにまたがって、ビーチバレーの観戦をしていた。今はヴィータ&月村となのは&アリシアが対戦中。……いじめもいいところだ。

 荷物番を買って出てくれたシグナムに礼を言い、オレたちも皆に合流することにした。

 

 

 

 

 

「ミコちゃん、遅かったなぁ。何かあったん?」

 

 はやての隣で手を繋いでいたソワレを抱きしめながら、彼女の問いに答える。

 

「少しな。あまり気分のいいものではなかった」

「あー……手ぇ出さんかった?」

「出す前にシグナムが来てくれた。彼女の一睨みで退散する小物だったよ」

「ならええわ。ミコちゃんも怪我してないみたいやし」

 

 一応周りに配慮して――特にソワレの情操教育に――省略多めで会話をする。それではやてはおおよそを察してくれた。

 あまり引っ張っても仕方がないことだ。さっさと話題を変える。

 

「水着、似合ってるぞ」

「あはは、ありがと。まあ、海には入れへんのやけどな」

「気分は味わえるだろう。着ることすら叶わなかったプールのときから考えれば、大進歩だ」

 

 はやての水着は、着るのが楽そうな白黒縞々のセパレート。だらしなくはない、絶妙なチョイスだ。さすがはヴォルケンリッターのファッションを一手に担っているだけはある。

 リッターの女性三人の水着は、全てはやてが選んだものだ。シャマルは明るい緑色のビキニで、ヴィータはワインレッドのワンピースタイプ。シグナム同様、よく似合っている。

 

「はやてが楽しんでくれていれば、オレも嬉しい」

「楽しんどるよー。今も圧倒的な実力差のビーチバレーを見て楽しんどるしな」

「ふぇぇ! す、少しは手加減してほしいのぉっ!」

「ヴィータもすずかおねえちゃんも、ほんき出しすぎだよ!」

「へっ! 勝負事、しかも球技で手なんて抜けるかよ! そうだろ、すずか!」

「もちろんだよ! 遠慮なんて一切しないからね、なのちゃん! シアちゃん!」

 

 ズドンッという音を立てて月村のスパイクが炸裂し、二人はピクリとも反応できず得点を許す。もはや二人とも涙目だ。

 それを月村は、恍惚とした表情で見ていた。……やはり、そういう性癖も持っているのだろう。オレは対象になりたくないものだ。

 

「ミコちゃんもビーチバレー、せえへん?」

「……月村かフェイトのどちらかと組めるのなら、考えてもいい。オレの身体能力でアレを相手にするのは無理だ」

 

 何度でも言うが、オレ自身の身体能力は、同年代女子の平均にちょっと色を付けた程度のものだ。常識外れのパワーを相手に出来るレベルにはない。

 フェイトも、月村のあのパワーを真正面から相手にする気は起きないようで、苦笑いだった。……今日は管理世界の事情を知らない連中もいるし、こっそりでも魔法は使い辛いだろうしな。

 

「アレを相手にするのは、男連中の仕事だろう。そうは思わないか、藤林」

「えっ!? ぼ、僕ですか!?」

 

 たまたま近くにいた翠屋FCのGKにしてキャプテンの少年に向けて無茶振りをしてみる。必然的にその隣には、彼の恋人である鮎川の姿があった。

 ……どうでもいいが、ガイと名字が近すぎだ。さすがにいちことはるかの田井中・田中コンビほどではないにしろ、間違えそうになって困る。

 いきなり話を振られ、どう答えていいか分からず狼狽える少年。柔軟性が足りないな。お前の友人ならば、軽口の一つも返していたぞ。

 

「恋人の前なのだから、いい格好の一つでも見せてやるといい。命の保証は出来んがな」

「いやですよ!? ……っていうか、大げさすぎですよ、チーフさん。たかだかビーチバレーで、そんな……」

「チーフ言うな。あれを見て同じことを言えるのか?」

 

 なのはが「にゃあああ!?」と悲鳴を上げながら逃げた地面に、バレーボールが突き刺さり、埋まる。跳ねろよ。よくあれでボールが壊れないものだ。

 藤林少年が言葉を失った。どうやら彼はこんなバカげた光景を目にしたことはないようだ。これなら恭也さんの剣術の方が衝撃映像だな。

 折よくなのはとアリシアが降参宣言をし(ビーチバレーとしては激しく間違った光景である)、対戦枠が空いた。

 

「ほら」

「「ほら」じゃないですから! 無理ですって、あんなの受けたらほんとに死んじゃいますよ!」

「お前はゴールキーパーなのだろう。あのぐらいを受け止められないでどうする」

「あれを止めるぐらいなら至近距離からシュートを止める方がずっとマシですっ!」

 

 弱気な藤林少年。情けない姿だが、鮎川の方も彼の意見に賛成らしく、オレに苦笑を向けた。うまいことスケープゴートにしてやろうと思ったのだが。

 ならば仕方がない。

 

「剛田、お前はどうだ。あれを前にして臆するか?」

 

 視線を巡らせるまでもなく、小学三年生にして身長150cmを超える巨体を持つ剛田少年のことは、視界に収めていた。彼に向けて、やや挑発めいた問いかけを投げる。

 彼は――少しプライドを刺激されたようで、心外だと言うようにオレを見た。

 

「別に。空手の試合で、顔面で受けることもあるっすから。バレーボールはやったことねっすけど」

「逃げ言葉に聞こえるぞ。月村もお前と同じカリキュラムで体育の授業を受けている以上、未経験である可能性は高い。それでも彼女は、逃げていない」

 

 「む」と黙る剛田。事実、月村の動きは身体能力任せで無駄が多く、手探りでプレイしている印象を受ける。……手探りでアレというのが、恐ろしい話だ。

 彼が言葉に詰まったのを見て、オレは一気に畳み掛けた。

 

「自分に言い訳をするなよ。現実は覆らず、待ってもくれない。機を逃せば、もう取り返しはつかないかもしれない。それを見定める目を持たないお前は、愚直に突っ走るしかない。障害物を全て蹴散らしながら、な」

「それって……」

「どういう意味で受け取るかはお前次第。オレは自分がビーチバレーに参加したくないから、適当にスケープゴートを立てようとしているだけだ」

 

 むつきに協力すると宣言したのだ。これぐらいの背中押しはするさ。彼も、この言葉を理解するだけの知力はあるはずだ。

 彼はしばし押し黙り、――パァンと自分の頬を打った。気合を入れたようだ。

 

「藤原ァ! 次行くぞ!」

「はぁ!? 俺ぇ!? 巻き込むんじゃねえよバカヤロウ!」

「うるせーよバカ! 死なばもろともって言うだろうが!」

「一人で死んでろよ、バーカ! 俺はお前みたいなカラテお化けと違って繊細なんだよ!」

「何が繊細だ、バーカ! 斬っても刺しても焼いても死ななそうな面だろうが! ごちゃごちゃ言ってねえで、やるんだよ!」

「やめろバカ! HA・NA・SE・YOっ!」

 

 なのはを慰めていたガイが剛田に羽交い絞めにされ、決戦のバトルフィールド(試合コート)に連行された。

 じたばたと暴れる想い人に向けて、なのはは大声で声援を送る。

 

「ガイ君、頑張って! なのはの仇をとってなの! ……ほら、むーちゃんも!」

「う、うん。……たける君! ファイト、だよ!」

 

 そして、剛田を思う少女もまた。彼は、右拳を握りしめ、高く掲げることで答えた。

 一連の出来事を、藤林は理解出来なかったようだが……鮎川なら理解出来るだろう。女の子ならば、理解出来ることだ。

 

「むつきちゃんって、そうなの?」

「そうらしいんよ。ミコちゃん達が手伝って、告白までしたみたいやで。結果はまあ、お察しやったけど」

「へー……友達思いなんですね、チーフさん」

「そういうわけではない。オレは、「手伝う」という自身の宣言を守っているだけだ。あとチーフ言うな」

 

 あんまりオレをチーフと呼ぶと、君の恋人が血を吐くことになるぞ。急性ストレス性胃潰瘍で。オレの忠告を、最初は冗談だと思って笑っていた鮎川だが、オレが真顔のままなのでコクコクと頷いた。

 これで一気に進展とはいかないだろうが、それでもわずかに前進は出来た。少しずつでも前進出来るなら、二人の関係はいずれ収まるべきところに収まるだろう。

 それがいつになるのかは分からないが……その日が来るまで、オレは協力し続けよう。オレは自分の意志で彼女の恋を手伝うと決めたのだから。

 心の中で誓いを新たにし、やけくそ気味のガイが構えを取ったことで開始したビーチバレーの試合を眺めた。皆と一緒に。

 

 

 

 そんなオレの背に――オレ達の背に、ひどく懐かしく感じる声音がかけられた。

 

「相変わらずみたいですね、ミコトさんは。だけどとてもミコトさんらしくて……素敵だと思います」

 

 最初に気付いたのは、なのはだった。……思えば彼女は、彼とは長い時間を共にしていたのだ。それだけ、オレ達以上に彼の声を聞き慣れていただろう。

 彼女は弾かれたように後ろを振り返り、固まった。釣られるようにフェイトも同じようにして、同じように固まる。

 彼を知る人間が、次々に同じ行動を取り、そして固まっていく。懐かしさからどうしてもそうなってしまうのだろうと、冷静な思考が答えを弾く。

 オレは……すぐには振り返らず、思い出を振り返っていた。彼の依頼を受けて奔走した一ヶ月間のことを。そして、別れ際の約束のことを。

 まさかこんなに早く再会をすることになるとは思っていなかった。それも、こんなビーチで。彼はミッドチルダで資料探しをしているはずだったのに。もう終わったんだろうか。

 様々な思いや考えが、浮かんでは消える。オレ一人で考えたって分かることではないのだ。本人が後ろにいるのだから、直接聞けばいい。

 オレは口元に小さく笑みを浮かべた。皮肉ではなく、本心からの笑みだ。知人との再会の喜びだったのか、それとも別の何かだったのか。それはオレにも分からない。

 

「そう思うのはお前の自由だが、随分と偏った評価だな。少なくとも、公平ではない」

「そうかもしれません。けど、それで構いませんよ。僕にとってあなたは、今でも最高のリーダーのままなんです」

「随分と買いかぶられたものだ。……まあ、悪い気はしないよ」

 

 言葉を先行し、オレもまた、彼女らに倣うように振り返った。

 

「そういうお前は、さぞ頼れる男になっ……――」

 

 そして皆と同様、言葉の途中で固まってしまった。

 

 

 

 なんだ、これは?

 

「あはは、どうでしょうね。さすがに2ヶ月半じゃ、あまり大したことは出来ませんでした」

 

 そう言って鼻の頭をかく筋肉お化け。

 

 もう一度言う。筋肉お化けである。

 オレ達がよく知るボーイソプラノの少年は、豊かな金髪をショートカットにしたあどけない少年の顔のまま、筋肉お化けとなっていた。

 隆起した二の腕。逞しい大胸筋。腹筋は6つに割れ、くっきりとした濃淡の溝を作っている。バミューダタイプの水着から覗く足は、水着の布地に悲鳴を上げさせるほどゴツゴツしていた。

 かつての少年の頼りなさは何処にもなく、筋肉お化けの形容に相応しい姿となったユーノ・スクライアの姿が、そこにはあった。

 皆が固まった理由を理解した。ああ、これは固まるしかない。それが正常な反応だ。

 これは、ない。

 

「……チェンジで」

「えっ!? な、なんで!? どうしてなんですか、ミコトさん!」

 

 何とか絞りだしたオレの一言に、皆が頷き、同意を示したのだった。

 

 彼は「夜天の魔導書」の情報と引き換えに、少年時代の大切な何かを失ってしまったのかもしれない。……そんなわけないか。




筋 肉 流 法 。というわけで、結局ユーノ君の筋肉化は止められませんでした。ちなみに身長もあまり変わっていないので、非常にミスマッチな格好となっています。そりゃチェンジだわ。
ちなみに見せ筋ではなく実用筋です。トレーニングで身に付けたものではありますが、(実用方面での下地がないわけじゃ)ないです。

ミコトちゃんをナンパさせてみました。なお、ナンパした少年たちは中学生なので、一概にロリコンとも言えません。年齢差4程度なら許容範囲か? ただ、海に来て小学生をナンパはないでしょう。
実際ミコトは小学三年生としても低い身長であり、もしそれで中学生だったとしたら、低身長ってレベルでは済まないでしょう。多分。
ナンパされてしまったのは、ミコトの持つ雰囲気の為せる業なのでしょう。あと黒ビキニの魔力。

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