不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!

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オリジナル増し増し。一応、本筋からしたら閑話です。異世界行ってるけど。

2016/07/23 18:07 誤字訂正 散会→散開


四十三話 共栄共存

 話は夏休み最後の週まで遡る。

 

 

 

 初回ミーティングより計画されていたオレ達への依頼だが、ようやく調整が終わりテストを兼ねた初回案件が舞い込んだ。

 

「今回君達に依頼したいのは、未探査の無人世界の現地調査だ」

 

 八神家リビングにて、対面に座るハラオウン執務官から内容を告げられる。今日の話はオレと彼のみで行われている。

 はやてとソワレは家の中にいるが、この話には参加していない。したところでどうなるものでもないからな。

 管理局は管理世界の治安維持の他に、未知の次元世界の探査や開拓を行うことがあるらしい。お題目としては「魔法文明を持つ世界の発見と管理世界への加盟」を目的としているそうだ。

 恣意的に見れば「領土拡張」と受け取ることも出来るが。一応お題目通り、魔法文明を持たない世界は「管理外世界」、文明が存在しない世界は「無人世界」として、非干渉帯に分類されるようだ。

 もっとも、こちらとしては管理局の目的などは関係のない話だ。オレ達が依頼を受けるのは管理局からではなく、あくまで「個人」からだ。

 

「この世界は数年前に発見されたんだが、そのときに衛星軌道上から確認しただけで、実地での調査はまだ行われていない。現在は無人世界であることと、大型魔法動物が存在しないことのみ確認されている」

 

 前述の理由から、管理世界は年々広がっており、全域を常時カバーできるほどの人員はない。それ故、アースラのような航行艦が巡回の任務に当たっているそうだ。

 いわんや人類文明が存在しないような世界の調査など、余程有用な資源でも発見されない限り、優先度は限りなく低いだろう。

 そんな感じで、「発見したはいいが通し番号すら振られずに放置されている管理外・無人世界」というのは、管理世界の倍以上存在するそうだ。

 投影ディスプレイに映しだされている山林の世界もその一つ。当たり前だが上空から撮影した資料であり、動物の姿は確認できない。

 大型が存在しないというのは、大まかな映像調査に映りこむサイズのものがいないことと、魔力探査に強い反応がなかったことから判断しているそうだ。

 

「とはいえ、未知の多い世界であることに違いはない。危険は少ないはずだが皆無とはいかないので、そこだけは注意してくれ」

「わざわざ言及するまでもない。未知に対して油断して挑むのは、余程の命知らずか小慣れてしまった冒険者ぐらいのものだ」

 

 通し番号が振られた無人世界は、管理局に属さない冒険者が調査したものが多数を占めるそうだ。当たり前かもしれないが、管理世界にもそういう種類の人間はいる。オレ達への依頼として選ばれた理由の一つだろう。

 オレが返した言葉に、ハラオウン執務官は「一応な」と苦笑した。彼の立場を考えれば分からなくもないか。

 今回の件は彼個人として――ハラオウン執務官としてではなくクロノ・ハラオウンとして依頼する体裁だが、それにしたって管理局絡みの案件だ。

 もし万一オレ達に重大な事故が発生した場合、彼は執務官として責任を取らなければならない。個人的な取引に落とし込めるのは、上手くいった場合のみなのだ。

 それでなくとも、これまでに出会った管理世界の住人は須らく責任感が強い。一見お調子者に見えるエイミィ(ソワレが気に入ったため名前で呼んでいる)でさえそうだった。

 彼としては「多少の危険を伴う案件を民間人に依頼する」という責任を真正面から受け止めているのだろう。それ自体は信頼のおける人柄だと思うが、頭が固いことに間違いはない。

 

「期間はどれぐらいを想定している?」

「初回案件だし、そこまで長くは考えていない。一日か二日か。君達の本分を邪魔しない範囲に収めたい」

「とはいえ、最低一日は丸々潰れることになるな。やるなら連休の期間中がいいか」

 

 夏休み中なら特に気にすることもなかったのだが、残りは数日だ。内容が内容だけにフルメンバーで当たりたいが、今から召集をかけたのでは慌ただしくなってしまう。

 かと言って普通の土日に行おうとすると、少々過密スケジュールになってしまう。オレだけなら別に平気だが、全員のことを考えるとかつかつなスケジュールを組むのも憚られる。定期蒐集もあるのだ。

 

「シルバーウィークに決行する予定で全員に確認を取ってみる。その後引き受けるか引き受けないか、連絡を返すことにする。それで問題ないか」

「ああ、大丈夫だ。無理なら無理で構わないから、気負わないでもらいたい」

「無論だとも。あくまでもオレ達の都合優先だ。元々そういう取引のはずだからな」

 

 引き受けた方が収入面でのメリットは大きいが、強行するつもりもない。八神家の財政状況にはまだ余裕があるのだ。他の面子については語るまでもないだろう。

 ……オレ達八神家の者は、ハラオウン執務官達の依頼から受ける恩恵が大きいが、他はそこまででもない。にも関わらず彼らが協力してくれるのは、厚意によるものだ。

 彼らがお人好しであることはいい加減理解しているが、今後もこの関係を続けていくなら、契約を明示しなければならないと思っている。ちょうどオレが翠屋の"お手伝い"をしているようなものだ。

 大きな力を持たないオレの力となってくれる彼らから借り続けるだけというのは、健康的な人間関係ではないだろう。こちらからもちゃんと返さなければ、貸し借りの釣り合いが取れない。

 ――最近色々な感情を知って人間として成長してきてはいるが、根本的なところに変わりはなかった。それがオレの性分なのだ。

 一瞬思考が逸れた。ハラオウン執務官は紙媒体にプリントアウトされた詳細な資料をオレに渡した。依頼については以上のようだ。

 

「お前達の依頼を受けるこちらのメリットだが、依頼料と自由の保証に加え、守護騎士のイメージアップがあったな。それはどうなっている?」

 

 質疑応答。今回の案件では最後のは満たせないように思う。こちらとしても、そこまで期待していた内容ではないが。

 

「今回はまだ見送りだ。まずは実績作り。君達のチーム力は信頼してるけど、何処まで出来るのかを把握しなくちゃならない。それに、こっちもまだ手探り状態だからな」

 

 管理局に対するオレ達の情報保護――具体的には住所や一部のスキルなどの秘匿すべき情報を隠したまま、何処まで管理局の業務を外注出来るかということだ。

 さすがに「オレ達という存在がいる」ということまでは秘匿出来ない。オレとしてもそこまで要求する気はない。

 だが、能力や素性を秘匿すれば必要以上に目立つことを避けられるし、日常につながる情報を断てば、少なくとも平時はストレスなく生活することが出来るだろう。

 オレが恐れているのは、オレ達が管理世界のしがらみに組み込まれること。具体的には、闇の書関連で危険視されること、魔導師組が入局を強要されること。著しくは管理局の命令に従わされることだ。

 それは即ち、オレ達の精神的自由が奪われるということに他ならない。そんなことになったらオレがどういう行動に出るか、ハラオウン執務官は分かっている。

 だから、出せる依頼を慎重に検討しているのだ。Win-Winの関係を保つために。

 

「そちらも気負う必要はない。ヴォルケンリッターのイメージ改善が不可能なら、夜天の魔導書を管理世界に開示しなければいいだけの話だ。こちらはそれほど不都合もない」

「そうだろうけど、あれは元々古代ベルカ文明、つまりは「こちら側」に属するものだ。出来ることなら、管理世界を大手を振って歩ける状態にしたいのさ」

「気持ちは分からないでもないが、今の主ははやてだ。彼女はオレと同じで、必要以上にそちらに関わる意志を持っていない。あまり意味があることではないぞ」

 

 無論のこと、オレとしても闇の書の所在を報告するのは筋だと思っている。だが今述べた通り、それにより得られるメリットというのは皆無と言っていい。

 ハラオウン執務官・提督やギルおじさんといった、管理局員かつこちらも信用できる人間が情報を持っている。それだけで十分と考えることも出来るだろう。

 とはいえこれは詭弁であり、もし夜天の魔導書を「危険なロストロギア」という認識ではなくせるなら、「管理外世界の住人が主となり、信頼関係のある管理局員が監督している」という情報ぐらいは開示したい。

 

「確かにそうやけど、一度ミッドチルダを見るぐらいはしてみたいよ? ミコちゃんやソワレと違って、わたしは行ったこともないし」

 

 彼女に関係のある話題だったためか、はやてがソワレを伴って、お茶のお替りを持ってやってくる。

 ……オレ達がミッドに行ったのは、プレシアの葬儀の時だ。遊びに行ったわけではないし、日帰りだったため街も見ていない。葬儀が執り行われた教会と墓地だけだ。

 あそこだけを切り取れば、この世界と大差なかったように思う。ヨーロッパ辺りに行けば、似たような土地もあるだろう。

 

「きょうかい、おっきかった」

「あれは聖王教会の系列だったな。管理世界で最大勢力を誇る宗教団体だよ。本部の方に行けば、もっと大きな教会もある」

「そういえば、管理世界にも宗教はあるんだな。あのときは余裕もなかったし、特に気にしていなかったが」

 

 冠婚葬祭と宗教は切り離せないものだから、考えてみれば当たり前の話だ。そも、人の営みがあれば宗教が生まれるのは必然と言ってもいい。人は己のみで生きていけるほど強くはないのだから。

 オレにとってのはやてのように。はやてにとってのオレのように。人は立ち続けることに疲れたとき、寄りかかれる何かが必要なのだ。

 管理世界の人間にとってのそれは管理局だと思っていたが……聞くところによれば「聖王教」は管理局よりも歴史が古いらしい。

 

「ただ、聖王教は元々ベルカの宗教だ。君達も覚えがあると思うが、ベルカの騎士というのは戒律を重んじすぎて融通が利かない人種が多い。それ故、より対応力のある組織が求められたんだろうな」

「分からないでもないが、オレには時空管理局も融通が利くとは思えないな。法律で魔導師をがんじがらめにしている」

「魔法というのは、それだけ危険な使い方も出来るということだ。それこそ、ジュエルシードの暴走のように一つの世界を消滅させることだって出来てしまう」

「規制すればいいというものでもないだろう。もしそれで済むのならば、ジュエルシード事件は起きていなかった」

「……その通りだ。そのために、僕達のような局員がいる。カバーしきれているとは言い難いがな」

 

 どれだけやっても完全にカバーすることは出来ないだろう。一つの世界だけであるオレ達の世界でさえ、全ての犯罪を取り締まることは出来ていないのだから。それが人の限界だ。

 オレが思うに、管理局はやり方を間違えているのではないだろうか。

 魔法やロストロギアの規制が存在するということは、これまでに一定の成果は得られたのだろう。だがその段階はもう終わったのだ。

 組織に限らずあらゆるものは、状況の変化に合わせて変革していかねばならない。それが出来なければ、陳腐化して滅びの道を歩むことになる。

 単純に規制すれば犯罪が減少する時代は終わったのだ。次に必要なのは、犯罪に走らせないための施策。人が犯罪に走ってしまう心理的要因を取り除く何かだ。

 

「とはいえ、こんな小学生がちょっと考えただけで思いつくことぐらい、政治のプロならとっくに考えているとは思うが」

「……いや、かなり有用な意見だ。そんなこと、僕は考えてもみなかった。下手したら管理局のトップすら、考えたことがなかったかもしれない」

 

 おい。そんなことで大丈夫なのか、時空管理局。

 別に管理局が解体されたりすること自体は構わないのだが、それでハラオウン執務官達が失業することになっては、さすがに寝覚めが悪い。

 「今度提督と相談してみることにするよ」という言葉を聞きながら、彼らの世界に若干の不安定を感じた。

 話が逸れてしまったように思ったが、依頼に関するオレからの質問はもうない。雑談でも問題ないだろう。

 

「足。だいぶ動くようになったんだな」

 

 車椅子ではなく松葉杖で移動したはやてを見て、ハラオウン執務官が感想を述べる。彼女は今、オレの隣に座っていた。ソワレははやての膝の上だ。

 ソワレが運んだ熱いお茶を飲む。彼女の頭を撫で、ねぎらった。くすぐったそうに笑うソワレ。

 足の件で感心されたはやては、それだけではないと胸を張る。

 

「魔法もだいぶ進んだんやでー。もうプロテクションはばっちり。今は飛行魔法を練習中や」

「……順番がめちゃくちゃだな。普通、防御魔法の次は射撃魔法を学習するものなんだが」

「必要ないからな。はやてが魔法を習得しているのは、あくまで魔力簒奪対策だということを忘れるな」

 

 フェイトからも言われたことだ。射撃魔法を習得することで、魔力の放射・発散を理解し、魔法の遠隔操作の習熟につながる。それ故、基本中の基本であるプロテクションの次はシュートバレットを習うのだと。

 遠隔操作技術は魔法の応用性を大幅に広げる。エクスプロアやサーチャーのような探査魔法はもちろんのこと、シャマルが得意とする転送魔法にも関係している。これが出来るのと出来ないのでは大きな差があるのだ。

 ――そこを行くとシールドしか出来ないガイは若干不憫なものがある。もっとも、彼はシールドでさえあれば飛行すら可能とする規格外なので、そこまででもないかもしれない。

 はやてに戻り、彼女に必要なのは「魔力を取られないようにする方法」だ。彼女自身に作用する魔法であり、射撃はそのカテゴリからは外れることになる。

 現状優先すべきなのは、「防壁を作れるようになること」と「自身に作用する魔法を覚えること」だ。

 オレの解説に、ハラオウン執務官はこめかみを押さえた。管理世界の常識とやらとの差に頭を痛めているのだろう。お堅いことだ。

 

「オレ達の世界はこういう場所だ。いい加減慣れろ」

「分かってはいるつもりなんだけどな。本当にタチの悪いファンタジーだな、この世界は」

「何言うとんのや、魔法世界の住人さん。こっちからしたら、そっちのがよっぽどファンタジーやで。SFの方やけどな」

 

 全くだ。

 

 

 

 

 

 そして現在、オレ達は件の無人世界にいる。予定通り今回はフルメンバーだ。

 

「基本的には定期蒐集と同じく、現地の生態に注意を払うことになる。大型はいないとのことだが、それでも絶対安全とは言い切れない。各員とも、油断だけはしないようにしてくれ」

 

 山林に入る前に、小高い砂礫の丘にてミーティングを行う。環境的にはビリーステートと似た、生物の生存が比較的平易な世界のようだ。

 環境が似ているということは、生息する動物も似たようなものと思われる。が、あそこには凶暴な中型がいたという前例がある。ここにそういった生き物がいないとは限らないのだ。

 全員、相応に緊張感を持っていた。緊張を持ち過ぎて表情が固くなっている者もいたが。

 

「緩んでいいわけじゃないが、今からそれだともたないぞ。今日は定期蒐集のときより長い予定なんだからな」

「う、うん。分かってるんだけど……」

 

 こういうことに慣れていそうな兄に諌められる、こういうことに慣れていない妹。レイジングハートにすがるように強く握りしめ、なのはは緊張を抑えられないようだった。

 彼女の手綱取りはガイの役割だ。彼の方はなのはに比べれば余裕があり、オレが目線で指示を出すと頷いて従った。

 

「ったく。こういう世界に来るの、初めてってわけじゃないんだからさ。もうちょい肩の力抜いていいだろ」

「……うー、ガイ君はなんでそんな平気そうなの。ふぅちゃんも全然落ち着いてるし……」

「旅行慣れかなー。夏にマレーシア行ってきたばっかだし。熱帯のジャングルに比べりゃマシだって」

「わたしは、実戦慣れだね。魔法戦の訓練だけは、なのはよりも受けてきたんだよ」

 

 ちなみにガイの旅行土産は木彫りの置物だった。正直もらってもどうしようかと思ったが、ちゃんと八神邸のリビングに飾られていたりする。

 彼は軽く言っているが、普段よりも表情が引き締まっている(真面目モード)ことから、緊張感は忘れていないことが分かる。フェイトは言わずもがなだ。

 そして言うまでもないことだが、ヴォルケンリッターに怖気などというものは存在せず。

 

「主ミコトの御期待に応えられるよう、全力を尽くさせていただきます!」

「あたしの方が役に立ってやるよ! ミコトのことはぜってー守ってやるからな!」

 

 当然ながら、一部過熱しすぎている。大体予想通りであり、少しは学習してくれと頭を痛める。

 

「この二人は相変わらずだねぇ。シグナムに関しては、相変わらずになったって感じだけど」

「そうね。落ち着きがないのは相変わらずだけど、仲良くなってくれたのは本当に嬉しいわ」

「ほっこりしてないで止めてやってくれ。……大丈夫だとは思うが、二人が生態系の破壊などをしないように留意してやってくれ」

「ああ、分かっている。我らの将にも困ったものだな」

 

 初期から立ち位置の変わらない、安定感に定評のあるザフィーラ。"盾の守護獣"は伊達ではない。

 今回の依頼は調査。戦闘行為を行うようなものではない。現地の動物から敵対行動をとられたら対処はするが、進んで攻撃することはないのだ。

 ……油断を注意するよりも、今回は調査であるというところを強調すべきだったか。少し、失敗したな。

 

「はあ、まったく。……とりあえず、チーム分けだ。今回はツーマンセルで調査を行う」

 

 フルメンバーの10人。2人1組となれば、全部で5チーム。今回は初回蒐集時のような特殊編成を行うこともない。

 求められるのは、安定と安全。全てのチームに均等に戦力を分散する必要がある。

 

「まず、フェイトとアルフ。本来の主と使い魔だから、コンビネーションは最高だろう。君達には広域調査をお願いしたい」

「お、久々にフェイトとのコンビだ。定期蒐集だとどうしても別々になることが多いからねぇ」

「二人とも、単独行動が可能だからね。でも、アルフがコンビっていうのは、やっぱり心強いかな」

「へへ、嬉しいこと言ってくれるご主人様だよ!」

 

 二人とも、他の面子とのコンビが出来ないわけではないのだが。特にフェイトの方は、なのはやシグナムとの相性が非常にいい。

 だが、それだとどうしても一部特化の形となってしまい、安定を望むならやはりこの組み合わせを置いて他にない。

 

「そして、なのははシャマルと組んでくれ。シャマルの補助能力なら、なのはの力を調査に活かすことも可能だろう」

「ええ。なのちゃんの魔力放射能力と組み合わせれば、色々なことが出来ると思うわ。ガイ君じゃなくて申し訳ないけど、一緒にがんばりましょうね!」

「はいっ! なのはも、精一杯がんばります!」

 

 やはり肩に力が入っているが、シャマルならばそれも解してくれるだろう。この二人はこの二人で相性がいい。シャマルの補助魔法が、なのはの一点特化と上手くかみ合ってくれるのだ。

 単純な調査となったらなのはに出来ることはない。が、シャマルならば彼女の魔法に自身の魔法を組み合わせることで、調査に応用することが出来るのだ。

 

「ガイはヴィータとだ。二人に関しては、他のメンバーの調査補助をお願いしたい。要するに「いつもの」だ」

「あいよ! ま、あたしはサーチャー飛ばすの苦手だし、この変態はシールド特化だし、しょーがねーよな」

「俺もシールド応用すれば何か出来るかもしんないけど、今んとこネタないんだよね。しゃーねーっすわ」

「うー……ヴィータちゃんいいなぁ……」

 

 なのはがヴィータを羨ましがるが、ヴィータからしたらたまったものではないだろう。彼女にとって、というかこの場にいるなのは以外にとって、ガイは「変態という名の紳士」でしかないのだ。

 平穏そうなこの世界でヴィータ達の力が必要となることは稀だろうが、それでも備えがあって憂うことはないのだ。同様に、シグナム達も。

 

「シグナム、ザフィーラ。お前達も、ヴィータ達と同じく「遊撃」に努めてくれ。無論、野生の勘で何か発見をしてくれても構わない」

「……私は、主のお側でお守りしたいのですが」

 

 オレの決断に不服を持っているようで、シグナムは渋い顔をした。まったく、従順になったらなったで文句を言う奴だと、何故だか苦笑が漏れてしまう。

 すぐに表情を引き締め、彼女が納得せざるを得ない一言を紡ぐ。

 

「お前が恭也さんに勝てるなら考えてもいいが」

「……いえ、主の御判断は正しい。恭也よ。我が主をお任せするのだ、傷の一つでも付けたら許さんぞ」

「言われるまでもない。それとも、俺の実力を信用できないか?」

「いいや、誰よりも信頼しているよ。我が好敵手」

 

 分かってはいても、一言言わずにはいられないというやつか。ザフィーラと顔を見合わせ、肩を竦める。

 「戦力を均等に」という視点で見たら、オレのパートナーは恭也さん一択なのだ。オレはこの中で最弱の戦力しか持たず、恭也さんは最強の戦力を持っているのだから。

 確かにソワレの一発は重い。ミステールの補助もある。いざとなれば、エールが殺傷力のない風を起こすことも出来る。だが、やはりそれらは不自由な選択肢でしかない。

 とにかく加減が難しいのだ。それが未知の生物相手ならばなおさらだ。単純な殲滅戦以外にソワレの力を活かすことが出来ないというのは、非常に困ったものだ。

 そこで、強弱活殺自由自在の達人である恭也さんがオレのパートナーとなるのだ。これならば、オレは純粋な補助に回れる。ミステールの因果操作を十全に活かせる。

 最大のネックであった恭也さんの移動手段が解消された今、「魔法」を持たないオレが彼と組むことに一切の問題がなかった。

 そう。彼はとうとう空を往く手段を手に入れてしまったのだ。

 

「"ベクターリング"のバッテリーも満タンだ。一日中使い続けてもバッテリー切れを起こさないって技術班のお墨付き。万事抜かりなし、だ」

「……頼もしいやら恐ろしいやら、アリシア達が末恐ろしいのやら、ですね」

「まったくだ」

 

 同意らしく、恭也さんは左手首にかけられたブレスレットをかかげ、オレ同様に苦笑を浮かべた。

 

 "ベクターリング"。「外付け魔法プロジェクト」で試作された、オリジナルインスタントデバイスだ。ハラオウン執務官達からもたらされた、現代の管理世界のデバイス技術により完成した代物だ。

 初回ミーティングで忍氏が述べていた通り、彼女達はまず恭也さんの空中移動手段の提供から取りかかった。そしてあっさりと完成してしまった。

 というのも、このインスタントデバイスが提供する魔法というのが至って単純なものだからだ。一定方向に力学的ベクトルを発生させる、それだけだ。「トラクターフォース」という魔法らしい。

 飛行魔法とは似ても似つかない、重機代わりに使用される魔法だそうだが、それをこの人外剣士が使った瞬間全ては変わる。

 魔法陣を足場として待機。尋常ではない脚力と合わせて魔法を発動することで超跳躍。これを繰り返すことで、文字通り「空を駆ける」ことが出来てしまうのだ。

 当たり前だが、普通は出来るようなことではない。跳躍力はもちろんのことだが、変則力場の中で体勢を維持するバランス感覚も必要になる。適切なタイミングで魔法陣を展開できなければケチャップ不可避だ。

 身体能力、度胸、何よりもセンスが問われる超高等技術。だが恭也さんにとっては大して苦でもなかったらしく、テストのときに一発で決めてしまった。美由希も試したが、思いっきりこけて終わったそうだ。

 

 そういう理由で、恭也さんが恐ろしいというのは疑いようのない事実であるのだが、この短期間でインスタントデバイスを高度に実用化したアリシア達もまた、恐るべきポテンシャルである。

 ベクターリングは腕にはめるリングタイプのブレスレットという形状だ。相応に軽く、恭也さんの剣を一切阻害しない程度に小さい。

 それでいて前述の通りの燃費の良さ。単純な魔法であることも大きな要素だが、変換効率・蓄積魔力量の高さも無視できるものではない。

 事実、これをハラオウン執務官に見せたところ「管理世界なら特許が取れるレベル」との評価を受けている。オレ達同様、彼女らにその意志はないようだが。

 

「いやー、どう考えても恭也さんの恐ろしさが天元突破っしょ。何であの方法であんな速く動けるんスか」

「足場があればどうにかなる。「走って」移動できるなら、飛行魔法にもそう簡単には負けないさ」

「あはは、本気出されたらわたしでもギリギリだからね……」

「わたしの家族ってー……」

 

 外付け手段としてではあるが、空中移動手段を手に入れてしまった恭也さんは、まさに人外剣士に相違なかった。そんな家族を持つなのはの苦悩も、最早「いつもの」だ。

 今月初旬に行った定期蒐集では、アルフを抜いて最大捕獲量を叩きだした。その際の彼の動きは……まあ、人間を辞めていると言われても反論は出来ないだろうな。

 いつだったかはやてに見せられた漫画にあった「大魔王はナイフ一つでも最強になる」というのはこのことだろう。アダプトデバイス(仮称)が完成したときはどうなってしまうのか。想像するのも恐ろしい。

 ……いい加減話を戻そう。

 

「いつも通り、ミステールを使って全体念話で情報を共有する。特に今回は調査目的だから、情報がメインとなる。少しでも気になることがあったら、すぐに念話を飛ばしてもらいたい」

 

 改めて、今回の目的が普段と違う「調査」であるということを明示する。全員ほぼ経験がなく、手探りでやっていくことになるだろう。

 だが、だからこそ初回案件にちょうどいいだろう。今後も依頼を受けていく上で、0からメソッドを構築していく経験は重要だ。いつも平易なものとは限らないのだから。

 多少の危険は伴うとは言え、比較的安全な世界。失敗がそこまで致命的にならない状況下で、試行錯誤を覚えるのだ。……多分、ハラオウン執務官も同じ考えだろうな。

 全員の表情を見て――なのははまだ少し固いが――意識の切り替えが出来たことを確認する。

 さあ、仕事の時間だ。

 

「それでは、散開!」

 

 オレ達は別々の方向に飛び、緑に覆われた世界の調査を開始した。

 

 

 

 

 

 オレの飛翔方法は相変わらずで、エールが起こす風をソワレが作った翼で受け止めるというものだ。ミステールも飛行魔法の学習を続けているのだが、中々成果に結びつかない。

 というのも、彼女が魔法の調査以外にアリシア達のプロジェクトに参加しているのが非常に大きい。ただでさえ難しい飛行魔法の因果理解に割くリソースが足りなくなっているのだ。

 とはいえ、飛行自体は出来ているのだから、現状ではミステールがそこまでする必要はない。あくまで魔法理解の一助になればというだけのことだ。

 だが、オレの飛び方というのはどうしても狭い空間を通りづらい。風で飛ぶというのは微調整が難しく、また障害物の影響も受けやすいのだ。

 そのため、恭也さんが森林の中を低空走行(おかしな表現だ)している上空で、オレは付近を観察するというやり方を取っている。

 

「植生はオレ達の世界に近い。ここらにあるのは広葉樹だな。さすがに品種は見たこともないものだが」

『惑星環境自体が地球に近いみたいじゃの。魔力要素の濃度も、それほど高くはないようじゃ』

 

 ミステールは魔力を計るための因果を組んでいたらしく、大気中の魔力要素の量を調べたようだ。第97管理外世界も魔力要素は少ない部類に入る。そこも似ている点なのだろう。

 無人世界とは言っていたが、ひょっとしたら今後人類に当たる種が出現するかもしれない。あるいは、その祖先となる種がもう存在しているかもしれない。

 とはいえ、現時点で文明が存在しないのだから、オレ達が生きている間に発生することはないだろう。やはりここは無人世界なのだ。

 

≪ミコト、一旦そっちに戻る≫

 

 恭也さんから念話が入ったので、オレは緩やかに移動していたのを停止する。ややあってから、森の中から恭也さんが勢いよく跳躍してきた。

 ……魔法で跳躍を補助しているのだろうが、それにしたって一息にこの高さまでジャンプするのはどうかと思う。20mぐらいあるんだぞ。10階建マンションの高さだぞ。

 

「どうでした?」

「ああ。……ちょっとこれを見てくれ」

 

 そう言って彼は、小型端末――今回の調査に当たってハラオウン執務官から支給された撮影機器だ。デバイスを持たない者は、これを使って記録する――から空中に映像を投射した。

 何の変哲もない森林の中だ。一見すればそうとしか思えない。だが、恭也さんの様子からそれだけではないのだろうと感じ取る。

 

「この、実がなってる木の幹の部分をよく見てくれ」

「……傷? 見た感じ、まだ新しいものみたいですね。これが何か」

「おかしいとは思わないか?」

 

 思う。縄張りを示す傷にしては位置が高過ぎるし、かと言って鳥が付けたものとは思えない。尖った何かを突き刺したような痕だ。

 まるで、実を取るためにこの高さまでのぼり、落ちないように体を固定した跡のようだ。樹上で生活する動物もいるだろうが、こんな痕を付けるようなことはないだろう。

 

「つまり恭也さんは、「この世界には道具を作れる文明を持った何者かがいるんじゃないか」と言いたいわけですね」

「無人世界というのは、所詮上空からの観察でしかないからな。俺の目には「人工物」の痕跡にしか見えないんだ」

 

 一理ある。それは先のオレの考察の通りである可能性と、もう一つの可能性が浮上してくる。

 

「……あるいは、次元犯罪者の潜伏先であることも考えられますね」

 

 それは、この世界の情報を見た段階で削っていた可能性だ。そういった連中が潜伏するにはメリットが少ないのだ。

 管理世界の文明圏に近すぎる。それだけで管理局の巡航に引っかかる可能性は高くなり、身を隠す場所があるわけでもない。拠点を構えるにしても、この山林地帯では適さないだろう。

 管理局から放置されていることから、有用な資源が見つかっているわけでもない。資金源となり得るものがないのだ。それでは彼らも活動を続けることは難しいだろう。

 だから可能性は低いと考えていたのだが、どれだけ低くても0になることはない。たとえば、その犯罪者が管理局をもしのぐ技術力を持っていて、地中深くに拠点を作れた場合、そう簡単には見つからないのだ。

 少ないとはいえメリットがないわけではない。前述の通り豊かな森林には恵まれており、相応に食糧も手に入りやすい。植物が育つということは水も豊富だろう。単純に生存を考えるなら、不毛の土地よりは余程楽だ。

 目の前に人工物の痕跡を提示され、犯罪者との交戦の可能性が浮上してきた。オレ達自体は管理世界とは直接繋がりのない民間団体だが、犯罪者からしたら関係なく見敵必殺だ。

 それが分かっているから、恭也さんの持つ緊張感が増した。オレとしても、これは少し方針を変える必要が出てきた。

 

≪全員に通達。一度最初の場所に集合、見てもらいたいものがある≫

 

 ミステールの念話共有で召集をかけると、全員から了解の返事が返って来る。ここまで一切の問題が起きていないというのは幸いだった。

 

 やはりあれは人工物の痕跡であるという見解になった。そのため、少し隊列を変えることとなった。チーム編成は変わっていない。

 前線要員として、シグナム組、ヴィータ組、オレ達が探索を行い、やや離れたところからシャマル組とフェイト組がサポートを行う形だ。

 調査のメインチームが後方に配置されるため最初の目的である「調査」としては効率が落ちるが、突発の戦闘となった場合の対処がしやすい隊列とした。

 現在は例の痕跡が見つかった周辺を、後方チームを中心として三方に分かれて探索中である。

 

『……うーん』

 

 そんな中、右手に持つエールが唸った。オレを浮遊させ続けるので力を行使しっぱなしだから、疲れてしまっただろうか。

 

「疲れたのなら早めに言え。休憩を挟む」

『そんなんじゃないよ。このぐらいなら定期蒐集でもやってることじゃん。そうじゃなくて、さっきの痕跡の件で、なんていうか違和感っていうか……』

 

 違和感? 自然物の中に人工物の痕跡があるのだから、違和感と言えばそれは違和感だろう。だが、エールが言いたいのはそういうことではないようだ。

 ミステールに指示を出し、エールも念話共有に参加させる。改めてエールは、念話で自身の考えを述べた。

 

≪あれが人工物っていうのはボクも異論なしなんだけど、犯罪者かもしれないっていうのは気にし過ぎじゃないかなって≫

≪相変わらず可能性は低いが、無視できるものでもない。だから危険な方の可能性に合わせて隊列を組んだ。これは必要ない、ということか?≫

≪そこまでの判断は出来ないけど。なんて言ったらいいのかな……犯罪者だったとしても、危険の少ない犯罪者なんじゃないかなって≫

 

 どういうことだ? 次元世界を逃走するような犯罪者に、危険度の低いものなどあるのだろうか?

 あまり真面目な考えを述べることに慣れていないエールはしどろもどろになる。少し答えを急かし過ぎたか。慌てず考えをまとめろと告げる。

 もうしばらく待つと、彼はようやく自身の違和感の謎を突き止めた。

 

≪そうだ! 痕跡が原始的過ぎる! もし次元犯罪者だったら、それこそ魔法を使って痕跡を残さないことも可能なんじゃないかな!?≫

≪あ! 確かにそうなの! なのは達だって、皆空を飛んでるんだし!≫

≪魔力反応を残さないためじゃないかしら? 飛行魔法なんて使ったら、それこそ魔法使用の痕跡だらけになるわ。それに飛行魔法は適性が必要だから、魔導師なら皆使えるってものでもないし≫

≪そこはほら、恭也さんみたいな方法取れば反応もほとんど出ないんじゃねーの? あのぐらいの高さなら、飛行魔法が絶対必要ってわけでもないし≫

≪あんな人外みてーな真似をほいほい出来るわけねーだろ。飛行魔法のがよっぽど現実的だっての≫

≪む、確かに。あれは私でも難しいからな……≫

≪……ちゃんと訓練すれば、そう難しいことでもないと思うんだけどな≫

 

 話が若干恭也さん弄りに逸れだした。修正。

 

≪エールの考えも一理ある。だが、やはり次元犯罪者の可能性が無視できるレベルまで落ちるわけじゃない。そこに到るまではこの隊列に変更はなし、だ≫

≪そっか。……ごめんね、変なこと言って混乱させちゃって≫

≪構わない。どの道全て手探りの状況なんだ。そうやって意見を言ってくれた方が、こちらとしても助かる≫

『エール、いいこ。がんばった』

『そうじゃぞ、長兄殿。自分の考えを持つというのは尊いことじゃ。それが主殿の助けになることもあろう』

 

 ソワレとミステールがエールを励ます。

 正直に言ってエールの考えていたことはオレも既に考えていた。その上での判断であり、そういう意味では彼の意見によって状況が変化することはなかった。

 だがそれは別にして、オレは内心で感動していた。おふざけぐらいでしか発言できなかったエールが、真面目に考察して自分の考えを述べたのだ。

 有事にしか顕現されずあまり注目されていないが、彼も成長しているということなのだろう。同様に、胸ポケットの中にいるもやしも。

 

「焦る必要はない。お前達も、ちゃんと成長出来ている。自分のペースでいいんだ」

『ミコトちゃん……。……へへ、そうだね!』

「……ふふ。本当に、ミコトはいい顔をするようになったな」

 

 オレ達の様子を見ていた恭也さんが、微笑んでそんなことを言った。相変わらず、オレには分からないことだった。

 

 

 

 結論から言うと、次元犯罪者かもしれないというのは杞憂であった。ガイとヴィータが発見してくれたのだ。

 

「これは、なんとも……」

「樹上生活の文化を持っている、ということか」

 

 太い木々の上に作られた、小型ログハウスのような住居。それは紛れもなく一定の文明を持っている証だ。

 だがそこで生活しているのは人間ではない。白い毛に覆われた犬のような二足歩行生物。背丈は人間の子供ぐらい……ちょうどオレ達ぐらいか。魔力を持たない、この世界で独自の進化を遂げた種族だった。

 

「「亜人種」ってやつだね。あたしらも見るのは初めてだけど」

 

 オレ達は全員、シャマルのステルス魔法で姿を隠している。狼の姿をしたアルフも、これならば問題なく「村」に近づくことが出来るだろう。

 フェイトが解説してくれる。広い次元世界の中には、人類種のように文化・文明を持つ動物種が生息するところもある。こういった種族を「亜人種」と呼ぶそうだ。

 これらの種は人類ほど高度な文明を築き上げることはなく、自然の中で調和とともに生きる。「無人世界の住人」ということだ。

 当たり前かもしれないが、こういった種が存在する世界は非常に珍しく、管理世界で知られている亜人種は10にも満たないそうだ。

 彼らが運んでいる荷物の中に、先ほどの映像で見た木の実があった。つまりあの傷痕は、彼らが食糧を得る際に道具を使用した跡であったということだ。

 

「あれって、話をしてるのかな。ひょっとしたら、今発見されてる亜人種の中ではかなり高度な文化を持ってるのかも」

「少なくとも、樹上生活を可能とするだけの技術は持っているだろうな。一つの指標としては、金属の精錬技術を持っているかどうかだが……」

 

 彼らの住居は、木材と呼ぶには少々原始的な扱い方をしている。切った木をそのまま組み合わせて、隙間は葉っぱを乗せて塞いでいた。

 木を切り倒すだけなら、固い石を研いで斧を作れば何とか可能だろう。ざっと見たところ、炉を作れそうな場所は存在しない。

 恐らくは金属に依らない文明を築いているのだろう。イコール文明レベルが低いとはならないが、それでも原始的な生活を営んでいることから、大体は推しはかれる。

 

「「道具を作る」だけの技術が存在し、「言語や住居という概念」が存在する程度の文化レベルか。オレ達の国で言えば、縄文時代ぐらいだろうな」

「数が増えれば耕作が始まるかもってことか。なんつーか……管理世界に関わってから、一番ファンタジーな光景見てる気がする」

 

 確かに。人に似た、確かに人でない存在が、幻想的な光景の中で日々の営みを送っている。SFでない方のファンタジーだ。

 あの犬人間――差し当たってはコボルドと呼ぶことにしよう――の存在そのものが、オレ達の世界には存在し得ないものだ。正しくファンタジーだろう。

 

「とはいえ、あまり長居するものでもないな。必要な映像だけを撮ったら、さっさとここを離れよう」

「えっ!?」

 

 驚きの声はなのはから。何か問題でもあるのかと彼女を見た瞬間、言いたいことが分かってしまった。

 触りたい。……まあ、一女子として気持ちは分からないでもないが。

 

「いくらシャマルのステルスとは言え、さすがに近寄ればバレる。オレ達が彼らの文明に干渉すべきではないというのは、君でも分かるだろう」

「うっ。で、でもぉー……」

「いつもの蒐集で捕まえている小動物たちと同じで考えるな。あれらと違って、彼らは紛れもない文明・文化を築いている。他所の世界の文明を持ちこんでは、歪みを与えることになりかねない」

 

 コボルド達は彼らのペースで文明を成長させるべきなのだ。外部からの力によって急激に成長させたり、逆に抑制してしまっては、精神文化の成長と技術文明の進化に隔たりが出来てしまう。

 技術を扱うための精神が未成熟だと、「踏み込んではいけない領域」へと暴走し自分達の首を絞めてしまう。だからと言って技術を抑制すると、するべき進化すらできなくなってしまう。歴史がそう物語っているのだ。

 それだけでなく、コボルドは言ってしまえば「この世界の人間」なのだ。愛玩動物のように扱うというのは、筋が通っていないだろう。

 

「彼らを「愛らしい」と思う心があるなら、それを使って彼らのためにどうすべきかを考えろ。君なら答えを出せるはずだ」

「うぅ……我慢するの」

 

 よく出来ました。なのはを励ますのは、ガイに丸投げした。オレがやってもいいが、こっちの方がなのはにとってはご褒美になるだろう。

 他は特に異論はないようだ。相手が魔法を持たず戦闘行為に特化した存在でないことから、シグナムも暴走を起こしていない。

 そうしてオレ達は、コボルド達に気付かれない程度の距離から村全体を撮影し、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 後日、ハラオウン執務官にこの映像を見せたところ、やはり亜人種は驚かれた。

 

「気軽に調査してもらうつもりで出した依頼だったんだが、まさかこんな大発見をしてくるとはな。狙ってやってるんじゃないだろうな?」

「むしろこっちがマッチポンプを疑っているんだが。オレ達に成果を上げさせるために、実は調査済の無人世界を指定したということはないよな?」

「そんなことしたら真っ先に君が気付いてるだろう。……偶然って恐ろしいな」

 

 全くだ。

 

 その後の話だが、亜人種の発見は「匿名の民間団体によるもの」として公表され、「ラピス族」と名付けられた。

 また、件の世界は正式に無人世界として番号が振られ、第113無人世界「コボラント」の名で呼ばれることとなった。……名前を提案したのがはやてであることは言うまでもない。

 これらは管理世界での話であり、オレ達には関係のない話だ。管理局がラピス族に対し、オレ達と同じ判断を下すことを願うばかりである。

 

 

 

 ともあれこうしてオレ達は、ハラオウン執務官からの依頼を達成するという実績を上げられたのだった。




無人世界の番号とか超適当です。保護区にすると局員が常駐することになっちゃいそうだから、あくまで無人世界ということにしました。
ラピス族の元ネタはフリーゲーム「洞窟物語」に登場する種族「ミミガー」です。あれって結局何なんでしょうね?
ラピス族という名前は、狼を意味するラテン語「lupus」から、近しい発音のものを使いました。(ラピスラズリは関係)ないです。
なお、この世界、及びラピス族の出番は今回限りです。予定は未定。

実際にクロノ君からの依頼を遂行してみる話です。あくまで管理局ではなくクロノ君個人からの依頼である点がミソです。
つまり支払われる依頼料はクロノ君のポケットマネー。余ったお金を有効活用できるよ、やったね!(白目)
未来時点での語りで、ミコト達は少なくとも一回以上クロノ君の依頼を受けていることが示唆されていたので、早めにやってしまうことにしました。
内容に関しては、初回ということとミコト達のスタンスから、単純な調査依頼を選びました。なお、やたらとでっかい功績をあげてしまったのは完全に偶然です。

具体的な内容の方は、恭也さんがとうとう人間辞めた話、そしてあまり描写されていなかったエールも意外と成長していた話です。
「アリシアプロジェクト」改め「外付け魔法プロジェクト」は、現状インスタントデバイスを製造できる程度です。通常のものはストレージデバイスも作れません。
その程度でも使う人が使えば疑似空中移動が可能となってしまうという、デバイス紹介に見せかけた恭也さん人外説でした。
エールに関しては、「デバイスとは違う」という点をはっきり描写したいと考えました。彼はサポートの道具ではなく、ミコトの「相棒」なのです。
だからデバイスとは違い成長するし、これまでにも描写された通り感情表現も非常に豊かです。もしかしたら、今後の努力次第ではジュエルシード素体の召喚体を上回ることもあるかもしれません。

何だかんだ久々にまともにミコト視点で描写した気がします。やっぱりミコトがナンバーワン、可愛いは正義(オレっ子可愛い)
次回こそは彼女達の世界での閑話を描きたいと思います。
それではまたいつか。

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