不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
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2016/09/07 「クロノへの報告」パートを全てカギ括弧で括りました。
2016/10/27 誤字報告を受けたので修正。
急激の→急激に こういう系の誤字って実は結構多そう。


四十七話 宣告

「……そこから先は何があったか、断片的にしか覚えていない。フェイトからの報告があまりに寝耳に水で、思考がショートしたんだろうな。

 覚えているのは、オレ達が駆けつけたときには既にはやては気を失っていたこと。帰宅の1時間前、夕飯の支度をしている最中に苦しみだしたと聞いたこと。速やかにお前達に連絡をするよう言ったこと。それぐらいだ。

 お前達が来たときには小康状態になっていたわけだから、シャマルに応急処置の指示を出したか、あるいは彼女が自身の判断でそれをしたか。推測できるのはそのぐらいだ。

 多分……オレは、油断していたんだろうな。「夜天の魔導書のバグは落ち着いているから、はやては安全だ」と。そうやって油断して、はやてに回す意識を緩めた結果がアレだ。

 分かってるさ。オレは、全てが終わった後に必要なことを先んじてやっていた。無駄に時間を過ごしていたわけじゃない。ちゃんと理解出来ている。

 だが、それも「全てを終わらせられれば」という前提条件の下での話だ。終わらせられなければ、結局全ては無駄に終わってしまう。オレは、優先順位を振り間違えたんだ。

 ただ、自分のミスを認めているというだけだ。今更過ぎたことをグダグダ言う気はない。……それはもう終わらせてきたからな。

 

 以降の話は、お前も知っての通りだ。

 はやては治療のためにアースラに運ばれ、オレ達八神家もそれに同行した。連絡を入れたなのはと恭也さん、ガイの三人も、すぐに集まった。

 はやてが倒れた原因は、急性の魔力虚脱症。一般的には大魔法などを行使し魔力を消耗しすぎた場合に起こる症状、だったな。

 幸いにしてそのときは命に別状はなかったが、その原因はやはり、夜天の魔導書による魔力簒奪だった。

 定期蒐集により落ち着いていたはずのバグが急激にその活動を増して、はやてが構築していた防壁を抜いて魔力を奪った結果、リンカーコアが圧迫されてはやては気絶した。

 ……これも未報告だった、というか報告する機会がなかったんだが、はやてはあの時点で魔力簒奪に対抗するプログラムのプロトタイプを構築出来ていた。あの件の一週間ほど前から、実際に行使していた。

 お前達から提供された資料で、夜天の魔導書の蒐集のロジックというのが「コア境界の同化による疑似一体化」だということが分かっていたので、コアを覆う形でダミーターゲットを用意するという手法を用いていた。

 実際にそれは功を奏し、はやての足の麻痺はみるみる回復していった。あの依頼があった日、はやては試験的に松葉杖を手放して動いていたはずだ。……倒れたはやての周りに、杖はなかったと思う。

 少し話は逸れたが、検査を行ったときには魔力簒奪も小さくなっていた。だが確実に以前よりも強くなっており、予断を許さない状況であることは明白だった。

 オレ達にはタイムリミットが課せられ……とうとうプロジェクトの期限を切るときがやってきた」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 まだ頭の中がグルグルしている。様々な取り留めのない思考が、意味がないと分かっているのに浮かんでは消える。自分で自分をコントロールできなかった。

 今は次元航行艦「アースラ」にて、はやての処置を待っている。……この艦に簡単とは言え医療施設が存在して本当によかった。

 シャマルの診断で魔力消耗による虚脱であることと、はやてのリンカーコアに強い圧力がかかったことは分かっている。だがあの場で出来たことは、コアを圧迫しないように外側から魔力を供給することだけだった。

 もしもコアが損傷していたら、すぐに治療を行わないと取り返しのつかないことになりかねない。魔法使用の面でもそうだし、肉体面でも何らかの後遺症が発生する可能性が十分にある。

 何の医療器具もないあの場でコアの治療など出来るわけがない。だからハラオウン執務官に連絡を取り、早急にアースラに運んでもらった。そうやって何とか本格的な治療までこぎつけることが出来た。

 ……もしあのまま何も出来なかったら、はやてはどうなってしまっただろう。よくて麻痺の拡大、最悪命の危険もあった。それを思うと、背筋が震えた。

 そして今もまだ、予断を許す状況ではないのだ。

 

「っくそ! どうなってやがんだ! 今朝まではやては元気だったじゃねえか!」

 

 ダンッとアースラの壁を叩き、ヴィータが吐き捨てる。その疑問に答えられる者は誰もいない。いくつか仮説を立てることは出来ても、自信を持って答えることは出来ない。

 こういうことを嗜めそうなザフィーラも、今はヴィータを止めない。同じ思いだからだろう。どうしてこうなってしまったのか。

 シグナムはオレを支えてくれている。正直、彼女の支えがなかったら崩れ落ちてしまっているかもしれない。自分の体が自分のものでないかのように、力が入らない。

 皆の視線は、「処置中」のランプが点灯する医務室へと向けられている。あそこでは今、シャマルとミステール、アースラの医療スタッフが懸命に治療を行ってくれている。

 フェイトとアリシアは、互いの体を抱きしめて震えをこらえていた。アルフは、そんな二人を守るように人型となって抱きしめる。

 オレとはやての娘であるソワレは一番悲しんだ。今は泣き疲れて眠っており、ブランが彼女を背負っている。……ブランもまた不安を隠せていない。

 

「皆! はやてちゃんはっ!?」

 

 通路の方から、三人の仲間が走ってくる。なのは、恭也さん。それからガイも。彼らにも、はやてが倒れたという報告は行ったようだ。

 オレは答えられず、代わりにシグナムが首を横に振る。ここまで必死で走ったのだろう、なのはは疲労と心労により膝から崩れた。

 それを支えたのは恭也さん……ではなくガイ。恭也さんよりも素早くなのはの異変を察知し、滑り込むように肩を貸した。

 一瞬驚いた恭也さんは、頷いてからオレの方に近づく。シグナムの肩に手を置き、「お前も少し休め」と言って役目を交代した。

 

「……はやてを信じろ、ミコト。あの子は、「相方」を残して逝くようなタマか」

 

 恭也さんから力強く励まされる。……以前のオレなら、「無根拠な励ましは求めていない」と突っぱねたかもしれない。

 だけど今は分かる。この人がどれだけオレのことを思ってくれているか。「無根拠な励まし」が誰のために向けられているか。

 もしかしたら、それが今一番欲しかった言葉だったのかもしれない。……まったく、天然女殺しが奇妙なところで役に立つものだ。

 

「少し、気が楽になりました。ありがとうございます」

「ああ。もっと俺を、俺達を頼ってくれ。何もかもをお前一人が抱え込む必要はない」

 

 その通りだ。オレに出来ることなどたかが知れている。今はこうして心配することしか出来ないように。だったら、出来ないことは人に任せて、出来ることをするまでだ。

 混乱状態にあった頭を鎮める。……まだ完全とは言わないが、ある程度は制御が戻ってきた。ならば考えよう。オレにはそれしか出来ないのだから。

 

 何故はやては倒れてしまったか。急性の魔力消耗による虚脱症。これはつまり、原因が夜天の魔導書の例のバグにある可能性が非常に高い。

 今まで沈黙を保っていたバグが何故急に活性化したのか。やはり仮説はいくつか立てられるが、現段階で確定することは無理だろう。判断材料が足りなさ過ぎる。

 たとえば、蒐集バグに対抗するための「防壁プログラム」がバグを刺激してしまい、それが原因で活発化したとしよう。

 それならば、魔力簒奪の勢いが衰えた理由が分からない。もしこれが一時的なものでなかったら、今頃はやては……考えるな。今それを考えて何になる。

 思考をクリア。ともかく疑問点への答えがないため、仮説一に過ぎない。

 あるいはガイが語った「作品の世界線」と同じ形に世界そのものが収束しようとしたとする。そういう力もないわけじゃない。

 だがこれもおかしい。何故なら、オレ達のいる時間軸は「作品の世界線」が満たすべき可能性を振り切っている。こうなってしまえば、所謂世界の修正力とでも言うべきものは、効力を発揮することができない。

 戻るべき基準が存在しないのだ。あるいは、戻るべき基準が違うとも言える。基準が違えば、収束する結果もまた違う。つまり、「作品の世界線」への収束は最早ありえないのだ。

 とはいえ、「前例」ではある。故にバタフライエフェクトが連鎖した結果として、似たような結果に収束することはありえるかもしれない。やはり仮説二でしかないわけだが。

 結局今ある現実というのは、はやてが魔力簒奪の活発化によって倒れてしまったという事実のみ。原因を考えるのは、今すべきことではないな。

 考えるべきはこれからのことだ。均衡は破られてしまった。つまり、これまで無期限ということになっていたプロジェクトに、明確な期限が発生することとなる。

 それがいつになるかは分からないが、現段階で修復の目処は立っていない。……最悪のパターンが起こり得るものとして現実味を帯びてきた。

 

「っ……それは、いや、だな……」

「ミコト……?」

 

 はやてとともに封印されること。それは次善策としてオレ自身が望んだことでもある。もし修復が叶わないなら、せめてはやてと永劫をともにしたいと。

 だけどそれは、当たり前だが、他全てとの別れを意味する。オレの家族。オレの友達。オレの仲間。オレの知人。

 そういったもの全てを、簡単に切り捨てられるのか。……以前も簡単ではなかったが、今よりは簡単だった。何せオレはあのとき、「寂しい」という感情を知らなかったのだから。

 だけど、知ってしまった。大事なものは増え、弱さを得てしまった。以前ほど冷徹に切り捨てることは出来なくなった。

 皆と永遠の別れをすることが……今のオレには、明確に嫌だと思えた。

 

 なら、どうするのか。最高の結末を迎えるしかない。その可能性を、最後まで捨てない。そして考える。そのためにはどうすればいいか。

 最悪の結末はもう用意したのだから、これ以上考える必要はない。そのときが来てしまったら……騒がず、受け入れるだけの話だ。

 オレは本当に出来ることを全てやってきたのか。出来ないことは人任せにしてきたが、その間オレはオレに出来ることをやり切っていたのか。

 資料の解読はミステール任せにしていたが、本当にオレに出来ることはないのか。あるいは「コマンド」が役に立つことがあるのではないか。

 もう一度精査すべきだ。オレに出来る可能性を、全て洗い出す。そして成し遂げるのだ。

 

 決意を改めたところで、医務室のランプが消えた。全員が弾かれたようにそちらを見ると、扉が開き騎士甲冑姿のシャマルとミステールが出て来た。

 

「シャマル! はやては!?」

「……大丈夫よ、ヴィータちゃん。後遺症も特になし。今は麻酔が効いてるけど、あと数分もすれば目を覚ますと思うわ」

「わらわもちと疲れたわい。湖の騎士殿は、存外人使いが荒いようじゃな」

 

 二人とも疲れた顔をしていたが、表情は安堵のものだった。ミステールなどは冗談を交える余裕も戻ってきたようだ。

 ヴィータはそれだけ聞くと、一目散に医務室の中へと駆け込んだ。フェイト達、なのはとガイがその後に続く。

 オレは彼女達には続かず、シャマルとミステールから詳細を聞くことを優先した。

 

「原因は?」

「やっぱり、夜天の魔導書のバグで間違いないでしょう。はやてちゃんが使っていた防壁が、跡形もなく消し飛んでいた。あんなことが出来るのは夜天の魔導書ぐらいのものだわ」

「起こり得る可能性としても、じゃな。そんなことが自然に起こり得るなら、魔導師はおちおち眠れやせんじゃろう」

「……それで」

「詳しいことは分かってないけど……ある一瞬に蒐集の力が強烈にかかった可能性が高いわ。それがはやてちゃんの魔力まで奪い、無防備になったコアは魔力簒奪の影響を強く受けることになってしまった」

 

 つまり、バグが活性化したのはほんの一瞬であり、その一瞬でダミーターゲットが消滅し、コアにまで影響を及ぼしたのか。……防壁プログラムが使われていなかったらと思うと、ゾッとする。

 

「それ以外には、何か」

「……これはまだ事実確認できていないけど、夜天の魔導書の中に、"何か"がいるわ。あの子と防衛プログラム以外の"何か"が」

 

 曰く、はやてのコアに残されていた魔力の波長に、おかしなものが混じっていたとのことだ。それは魔導書のものではないし、防衛プログラムとも思えないものだそうだ。

 

「防衛プログラムは、わたし達守護騎士とは違って、ただのプログラムに過ぎないはずなの。つまり、それを動かすもとになる魔力は夜天の魔導書から供給されることになる。波長がそれほど変化することはないのよ」

「ところが今回検出されたそれは、大幅にずれておった。たとえるなら、真っ白であるはずのものが漆黒に染まるほど、といったところじゃ」

「……"夜天の魔導書に封じ込められた闇"、ということか」

 

 また一つ明らかになった事実に頭を痛める。確かに事実が明らかになるのは喜ばしいことだ。だが、防衛プログラムというただでさえ頭を痛める事柄が既にあるのに、お替りが来た日には苦しくもなる。

 ともかく、バグが急激に活発化した原因は、その"闇"にありそうだ。……そういうことならば。

 

「分かった。そちらに関してはオレの方で調査を進めよう。君達は気にしなくていい」

「ミコトちゃん? で、でも……」

「"封じられた闇"と呼称しよう。これは、バグそのものではない。バグの原因と決まったわけでもない。つまりは調査したところで直接的に修復の役に立つものとは限らない」

「じゃから、わらわ達は今まで通りバグを直すことだけを考えろということか。……主殿は分かっておろうが、一人でどうにか出来るようなものではないぞ」

「だからこそ、だ。優先順位を間違えるな。正直に言って、調査という面で考えた場合、オレは君達の足元にも及ばない。こんなものは、わずかでも可能性を増やすためのものでしかない」

 

 0.1%か、0.01%か。あるいは百万分の一の確率か。そんなものに、調査の主力を割り当てるわけにはいかないのだ。

 

「もう、時間は残されていない。……君達はとっくに気付いているだろう」

「それ、は……っ。どうして、もっと早く気付けなかったのかしらね……」

「表面上は平穏じゃった。慢心しておったのは、わらわも同じじゃ。時間さえあれば何でも出来る、とな。……こんな体たらくで、何が"理の召喚体"か」

「あまり自分を責めないでください、ミステールちゃん。あなたにそんなことを言われたら……何も出来ないわたしには、何も言えなくなってしまいます」

 

 自己嫌悪に陥ったミステールを、悲しげな顔でブランが窘める。ミステールはそのまま黙り込んでしまった。

 ……皆、同じなのだ。平穏を望むあまり、最悪の事態を想像することを怠ってしまった。それでどうにかなったとは限らないが、危機感はもっと違っただろう。

 オレがこのチームのリーダーだと言うのなら、オレがかじ取りを間違えたことが原因なのだ。そのことについてまで、皆が責任を感じる必要はない。

 

「分かっているなら、今反省会をするな。全てが終わった後で……どういう形になるかは分からないが、そのときで十分だ」

「……分かり、ました」

 

 冷たく切り捨てるような言葉だが、シャマルには理解出来たようだ。考えるべきことは、どうにかして時間内に夜天の魔導書を元の形に戻すことなのだ。何故気付かなかったか、ではない。

 今得られる情報はこんなものか。ミステールとソワレのことはブランと恭也さんに任せ、オレも医務室の中へと入ることにした。後ろから、シグナムが従うように着いてきた。

 

 

 

 はやては既に起きていた。体を起こし、ヴィータに抱き着かれている。表情はいつものあっけらかんとした明るいもの。

 だけどタイムリミットが迫っていることを知ったオレには、それが胸を締め付けるほど辛いと感じられた。

 

「あ、ミコちゃん。心配かけて悪かったな。もう大丈夫や」

「……そうか。足は、動くのか?」

「あー……またちょっと鈍なっとるわ。せっかく杖なしで歩けてたのになぁ」

 

 後遺症はなかったが、防壁がなくなったことによって再び魔力簒奪の影響を受けている。リンカーコア圧迫の影響による麻痺が出てしまったようだ。

 今この場に松葉杖はない。帰りは誰かの肩を借りるか、あるいは負ぶって行くしかないな。

 はやての表情に陰りはない。オレなどより、よほど強く現実を受け止めていた。

 

「大丈夫なの!? ほんとのほんとに、痛くないの!?」

「なのちゃんは心配性やなぁ。さっきから何ともないって言うとるやろ? 一瞬苦しかっただけやって」

「でも、たおれたんだよ!? あんな、バタンって……!」

 

 目の前でそれを見ていたフェイトは気が気でなかっただろう。さすがのはやてもばつが悪そうに笑いながら、彼女の頭を胸に抱く。

 

「ほんとごめんなぁ。けど、ふぅちゃんのおかげで助かったんよ。倒れたとき、ずっと手を握ってくれとったやろ。安心できたわ」

「うぅ、はやてぇ……」

 

 アリシアはアルフに負ぶわれていた。緊張の糸が切れて眠ってしまったようだ。小さな体には、この時間まで起きていることだけでも酷だったろうに。

 そしてガイは……悔恨の表情で顔を下に向けていた。

 

「……すまねえ、はやてちゃん。すまねえ、ミコトちゃんっ。俺が、俺が蒐集を提案したばっかりに……!」

「ガイ……」

 

 彼は、今回の事態が自分の提案が招いたことだと自身を責めていた。実際のところ、それが原因なのかはまだ分からない。

 彼にとって微量の蒐集の継続は「イレギュラー」な行為だったのだろう。だから予想外の事態が全て自分の責任だと思ってしまっている。

 

「お前の責任ではない。お前の話では、蒐集を行わなくてもはやては倒れていたんだろう。少なくとも定期蒐集の結果として、はやてはある程度回復した。お前が自分の提案を悔やむ必要は何処にもない」

 

 それに、実行を決断したのはオレだ。彼は提案しただけであり、それが有用であると判断したのは、他ならぬオレなのだ。

 だからやはり、全ての責任はオレが背負うべきなのだ。リーダーを任されている以上は、それが必然だ。

 

「背負う必要のない責任に思考を巡らせるな。下手の考え休むに似たりと言うだろう」

 

 こいつはヘラヘラ笑って茶化しているぐらいでちょうどいい。……オレも、なんだかんだとそれに助けられてきた面はあった。

 すぐには切り替えられないだろう。彼の近くになのはが寄り添い、支える。この二人も、互いに支え合う関係になれたようだ。……お似合いじゃないか、本当に。

 しばらく二人にしておくのがいいと思い、オレは改めてはやての方に行く。

 

「今、ハラオウン執務官がギルおじさん達に連絡を取ってくれている。今すぐは無理だろうけど、明日か明後日ぐらいには来てくれるはずだ」

「おじさん達にも心配かけてまうなぁ。……今後のことでも」

 

 やはりはやてにも分かっているか。この子は非常に聡明だ。その程度の理屈が、分からないはずがない。

 

「それで、その間は学校を休んで、はやてはアースラで看てもらおうと思っている。ここなら何かあってもすぐに処置が出来るからな」

「そこまでせんでもええやろ。わたしのことで艦の皆に迷惑かけられへんわ。他にもお仕事あるんやから」

 

 この艦のスタッフは、全員ハラオウン提督の息がかかっている。信頼は出来ずとも信用だけならそれなりに出来るはずだ。最悪夜天の魔導書のことが明るみになったとしても、艦内だけで止められるだろう。

 逆にこの艦以外で管理世界の医療施設を使おうとなると、どうしても情報の秘匿が難しくなる。だから、この艦がはやてを治療できる唯一の医療施設と言ってもいい。

 

「またはやてが倒れたら、どの道ここに駆け込むことになる。急患と入院患者、どっちの方が病院にとって楽か考えてみろ」

「アースラを病院扱いしないでもらいたいな。僕達に出来ることはそのぐらいしかないのかもしれないが」

 

 ハラオウン執務官が医務室に入ってきた。ギルおじさん達への連絡が終わったようだ。

 

「無限書庫にこもっているユーノにも連絡をして、明日来るそうだ。会議室は既におさえてある。手間を考えたら、今日一日はここに泊まってもらった方がこっちにとっても都合がいい」

「だ、そうだ。はやて、どうする?」

「……しゃーないなぁ。学校はちゃんと行っときたいんやけど」

 

 それについてはオレも同意見だが、こればかりは仕方がないことだ。オレとフェイトも、なのはと恭也さんとガイも欠席することになる。

 彼らもそれで異論はないらしく(ガイは何とか返事が出来る程度にはなったようだ)、この日は全員アースラに泊まることになった。

 

 

 

 

 

 翌日早朝(と言ってもアースラ内では日の出が分からないため、時刻での判断だ)ギルおじさん達はやってきた。……ギルおじさんと、リーゼロッテのみだ。

 ユーノが無限書庫のかなり深い場所で調査をしていて、アリアがそれを呼びに行っており時間がかかるとのことだ。そういうことならば仕方がないか。

 ともあれ、今いるプロジェクトメンバーのみで会議室を使用し、一応盗聴対策をしてから緊急会議を始める。

 

「皆さん既にご存知の通り、昨晩8時頃、はやてちゃんが倒れました。原因は魔力消耗による虚脱。検査の結果から、夜天の魔導書の魔力簒奪が一時的に激化したために発生したと考えられます」

 

 まずは治療を行ったシャマルが発言者となる。全員、真剣な表情で聞いており、空気が張りつめている。

 

「何故バグが活性化したのか、今のところは判断できませんが、夜天の魔導書内部に管制人格・防衛プログラム以外の「第三のプログラム」の存在が示唆されています」

「……また新たな障害が発生したということかね」

 

 シャマルの報告に、重々しく口を開くギルおじさん。やはり"封じられた闇"については、彼も知らなかったようだ。表に出てきているのはあくまで防衛プログラムの影響なのだ。

 「残念ながら……」と言葉を区切り、表情を仕切り直してシャマルは続ける。

 

「以降はこれを"封じられた闇"と仮称します。"封じられた闇"のバグそのものとの因果関係は不明であり、これについてはミコトちゃんが調査を進めることを予定しています」

「ミコト君が?」

「調査の主力をバグ解消から外すわけにはいきません。現状で調査作業が可能であり、かつ余剰となっているオレが動くのが妥当であると考えました」

 

 ギルおじさんの疑問に、オレが捕捉して答える。理解は出来たようだが、納得はいかない様子だ。

 

「だがそれだとミコト君一人に負担が集中してしまわないかね。君はチーム全体の指揮という役割も担っているだろう」

「……その件については、現場判断に任せて大丈夫かと思います。もう、方向性は決まっていますから」

 

 「指揮」という言葉にはツッコミを入れず(言いよどんだが)、ギルおじさんの懸念に解答を示す。

 一度彼から視線を外し、全体に向けて今後の方針について提示する。

 

 

 

「今後は、夜天の魔導書の完成に向けた蒐集を行う。可能であるなら、665頁までだ」

『えっ!?』

 

 なのはとフェイトが驚きの声を上げる。他は……何となく理解していたようだ。

 二人の驚きを今は放置して、オレは理由を述べた。

 

「バグの活性化は、いつまた起きるか分からない。そしてはやてがいつまでそれに耐えられるかも分からない。……耐えられなかったとき、夜天の魔導書は新たな主を求めて転移することになる」

「つまり、我々が協力するための「利害の一致」が破綻してしまう。そうなる前に、次善策の方に移らなければならない。そのためには夜天の魔導書が完成目前になっていることが前提となる。……そういうことだね」

 

 ギルおじさんが引き取った説明に、頷いて肯定を示す。次善策――完成した夜天の魔導書の暴走に取り込まれ、オレとはやてごと凍結封印を行う。だからいつでも移れるように、魔導書は完成間近でなければならない。

 今の今まで思考の外に追いやっていたのだろう、二人は「それ」が現実に起こりうることだと認識し、悲しみを表情に浮かべた。

 

「そんなのっ! わたしは嫌だよ、ミコトちゃん! ミコトちゃんともはやてちゃんとも、お別れしたくないよぉっっ!」

 

 涙交じりの叫び。……オレだって嫌だ。だけど、可能性は可能性だ。そこだけは割り切らなければならない。

 崩れそうになる表情を取り繕い、オレは言葉を紡ぐ。

 

「まだ諦めるとは言っていない。だが、次善策を視野に入れなければならない状況になった。いざそのときが来て何の準備も出来ていなければ……はやてを無駄死にさせたいのか」

「っ……! やらなきゃ、いけないんだね……」

「ふぅちゃん!?」

「なのは。わたしも、家族を失いたくなんかない。でも、もし復元に失敗して、そのときに書の準備が出来ていなかったら……本当の意味で、はやてを失っちゃうんだ」

 

 ……誰一人、次善策と言いつつも、それを選択したいなどとは思っていない。ギルおじさんも、表情こそ無を貫いているが、手が白くなるほどに握りしめられている。

 それでも、やらなきゃならない。そのときが来てしまったら、個人の感情など関係がない。

 それを理解し、なのはは静かに泣いた。……もう反論はないようだ。

 

「完成を目指すということになれば、必然的に目標は大型魔法動物に移ることになる。危険は大きくなるが、人間から奪うわけにはいかない。シャマル、効率はどの程度になる?」

「通常の大型で2頁前後、大物で5頁、竜種なら10頁ほど。古代竜なら100頁以上も可能だけど……そもそもの遭遇率からして現実的ではないわね」

「なら竜種は狙わなくていい。現在5頁で、残りは660頁。一日20頁ずつ蒐集出来れば、およそひと月で完成目前まで持っていける」

 

 竜種ともなれば、下位種でも相応の苦戦を強いられることになる。それでは逆に効率が悪くなってしまう。面倒でも特殊性のない大型を狙うべきだ。

 万全のバックアップ体制さえあれば、ヴォルケンリッターならば十分に戦えるだろう。

 

「あとは無理のないスケジュールさえ組めば、現場判断のみで十分こなせるはずだ。オレのような足手まといがわざわざ前線に出る必要はない」

「……これだけは言わせて。ミコトちゃんは、足手まといなんかじゃないわ。わたし達の頼れる指揮官。後ろにいてくれるだけで安心できる、わたし達全員のリーダーよ」

「そう言ってもらえるだけで十分だ」

 

 オレの自己評価が納得できなかっただけで、シャマルは異論なし。心情的に納得できているかは別問題だが。

 ヴォルケンリッターは皆同じ。納得はできない、それでも従うしかない。そういう表情だった。……そんな顔をさせてしまって、本当にすまない。

 

「高町兄妹とガイ、それからフェイトとアルフについては、協力出来るときだけで構わない。君達には……どんな形になったとしても、確実に明日が残されている」

「っ、ミコト、ちゃん……」

 

 なのはがポタポタと机の上に涙をこぼす。けれど、それが現実だ。彼女達の日常は、たとえオレ達が封印されても続く。蔑ろにするわけにはいかないのだ。

 フェイトも泣きながら、なのはを抱きしめた。……彼女達を見ていたら、オレまで零してしまいそうだ。

 

「今後の現場判断はシャマルに任せる。オレは、無限書庫を当たるか、これまでの資料をもう一度精査するか、ともかく情報面で動かさせてもらう。これがオレの考えです」

 

 改めて、ギルおじさんの方を向く。彼も分かっている。もう次善策の準備に入らなければならない段階まで来ていることを。分からないはずがない。

 だからその現実をしっかりと受け止めてから、頷いた。

 

「……分かった。ミコト君に、無限書庫の使用許可を与えるように手配する。気が済むまで調べるといい。……辛い戦いになるぞ」

「ありがとうございます。覚悟の上ですよ」

 

 これで、やることは決まった。ヴォルケンリッターは夜天の魔導書完成に向けた蒐集、なのは達はその手伝い。ミステール達は、バグ除去の方法確立。

 そしてオレは――

 

 

 

「その決定、待ってください!」

 

 ズバンという激しい音を立てて、会議室の扉が開かれた。……なお、扉は自動ドアなので手で引く必要はない。壊れていないだろうな。

 そんな非常識な真似をしたのは、扉の向こうで肩を上下させている、巨大なバックパックを背負った筋肉質な少年。オレ達の、最高の守護者。

 

「話は、ロッテさんから、念話経由で、聞きました!」

「無茶よ、ミコト。あなたは無限書庫を甘く見てるわ。検索魔法もなしで太刀打ちできるところじゃないわよ」

 

 ユーノの後ろから、彼よりはゆったりとしたペースで走ってきたアリアが、会議室に入ってくるなりそう言った。

 

「無駄骨に終わることも織り込み済みだ。当たれば儲け程度にしか考えていない。この段階になったら、もうオレに出来ることは残っていない」

「あるわよ。ちゃんと最後まであなたのチームを導くこと。それがあなたに出来る最大の仕事じゃない。どうしてそれを放棄しようとするの」

「オレにそんな大それた力はない。自分の都合で振り回しているに過ぎない。全ては結果論だ」

 

 はあ、とため息をつくアリア。そしてツカツカとオレに歩み寄って来て、前触れなしに頭にゲンコツを落としてきた。……結構痛い。

 

「あなたの自己評価が低いのは分かってるけど、私達からの評価まで否定しないでくれる? あなたのチームは、あなたを中心として集まって、あなたを中心にまとまっているの。その現実を、ちゃんと見なさい」

 

 姉のような叱責。事実、この数ヶ月で彼女はオレにとって歳の近い姉のような立場になっていた。実際はかなり離れているのだが、そんなことはどうでもいい。

 彼女は、オレと同じようにものを見る。出来る限りフラットに、現実を客観的にとらえようとする。だからこその言葉だった。

 

「皆、あなたの言葉には従ってしまう。だってあなた以上の判断が出来ないんだもの。あなたが考えに考えた末の結論だから、それを尊重してしまう。どれだけ納得がいかなくてもね」

「それが、悪いと言うのか?」

「ええ、悪いわ。意見の多様性が生まれなくなっちゃうもの。一種類の考えしかなかったら、予想外には対応できないわ。あなただって、例外じゃない」

 

 それは……その通りだ。先のジュエルシード事件で、オレは自分のロードマップを尽く粉砕された。"真の召喚体"までたどり着かなかった理由だ。

 もしオレが他の誰か、たとえばガイの意見に耳を貸すことをしていれば、あの事件は全く違った様相を呈していただろう。あるいは、プレシアの病気を治すことだって出来たかもしれない。

 つまり……「最高の結果」を引き寄せるためには、意見の多様性が不可欠だということになる。

 

「だが、それならば対立意見を出してもらわなければならない。この場合は、オレが調査をしなくてもいいという意見だ。それを成立させる根拠とともに」

「だからユーノが慌てて駆け込んだんじゃない。……いい加減息整った?」

「はい、大丈夫です」

 

 対立意見を持っているのは、アリアではなくユーノのようだ。……聞こうじゃないか。

 ずいと一歩前に出て、彼ははっきりとこう言った。

 

「"封じられた闇"の調査、僕に任せてもらえませんか」

 

 ……それは、先にオレが潰した「調査戦力の浪費」だった。論外だ。議論の余地もない。

 

「同じことを何度も言う趣味はないが、もう一度だけ言う。お前は調査の主力の一人だ。「余談」の調査に割くべきではない」

「なら、その前提を覆させてもらいます」

 

 そう言って彼がバックパックから取り出したものは、一冊の古ぼけた資料。かなり分厚く、表紙にはベルカの言葉でタイトルが書いてある。

 

 

 

「……Nacht Wal(ナハトヴァール)? ……運用システム、自動、防衛……っ!」

 

『!?』

「ついに見つけました。夜天の魔導書の、防衛プログラムの詳細な資料です!」

 

 ガタガタと音を立てて全員が立ち上がる。それは、夜天の魔導書を修復する上で最も重要になる資料の一つだった。

 夜天の魔導書に手出しが出来ない最大の理由は、この防衛プログラム……今名前が明らかになった「ナハトヴァール」のせいだ。

 書に対する魔法的なアクセスに対し自己破壊を起こすという、何処が防衛システムだと言いたくなる対処法をもって阻害してくる。そして無作為転移という厄介な移動方法により所在を掴めなくしてしまう。

 どれだけバグを直す方法を考えても、この防衛プログラムを突破する手段がなければ、手の出しようがないのだ。技術班にとって最も頭を痛めていた問題だった。

 それを打開するための資料が、ついに見つかった。ユーノは……オレ達が右往左往している中で、しっかりと目標を見定め、達成したのだ。

 オレは……気が付いたら、声を出して笑っていた。生まれて初めて、顔全体が表情を変えて、腹を抱えるほど笑った。

 

「み、ミコトちゃんが……」

「わらった……」

「あっはっはっは! 何だこれは!? おかしすぎないか!? ユーノが有能過ぎるぞ、あはっはははは!!」

「お、親父ギャグまで……」

 

 息が苦しくなってくる。立っていられない。膝を着き、それでも笑いが止まらず、涙が出てきた。

 凄いやつだ。今まで鎮痛だった空気が、一瞬にして明るいものに塗り替えられてしまった。本当に、なんて凄い……"最高の守護者"。

 

「だ、大丈夫なんですか、ミコトさん!?」

「くくっっ、こ、これが大丈夫に見えるなら、お前は眼科に行けっ……くふっ。こんなに、笑わされたことは、はやてにだって、ないぞ」

「えっ、と……えへへ?」

 

 はにかんだ笑いを浮かべる女顔の筋肉だるま。はやてでさえ、ポカンとした表情でオレ達を見ていた。

 ようやく笑いが収まってきた。まだちょっとしたことで腹筋が痙攣しそうだが、ユーノの手を借りて何とか立ち上がる。

 

「ふぅっ……まったく、タイミングがいいにも程がある。実は今まで隠してたんじゃないか?」

「そんなことしません! ミコトさんが探していたものなのに、どうして隠したりする必要があるんですか」

「冗談だ、怒るな。……助かったぞ、ユーノ。ありがとう」

 

 微笑みは多分、顔全体ですることが出来た。ボンッと音が出そうなほどの勢いで顔を真っ赤にするユーノ。これで本人は自分の気持ちに気付かれていないつもりだというのだから、彼も鈍いものだ。

 オレが大笑いするという事態が予想外だったようで、全員呆けていた。とりあえずミステールを起こし、その手に資料を掴ませる。

 

「これがあれば、何とかなるか?」

「あ、ああ……うむ。これでようやく五分と言ったところじゃ。主殿が挑戦しようとしていた無理ゲーに比べれば、随分とマシじゃがの。呵呵っ」

 

 言ってくれるな。オレだって無茶だったことは分かっていたんだから。まあ、アリアの反応からしてオレが想定するよりもずっと無茶だったのかもしれないが。

 打開できたのだから、何だっていい。オレは改めてユーノに向き、いまだ現実に戻って来ない彼に告げる。……ニヤニヤしててちょっと気持ち悪い。

 

「起きろ、ユーノ。ともあれ、お前の働きで技術班にかなり余裕が出来た。ここからは"封じられた闇"に関する資料を探し、プロジェクトの成功率を上げることを考えてもらいたい」

「あっ、と……はい! 任せてください!」

 

 分厚い胸板をダンッと叩く彼は、以前とは比べ物にならないほど、頼りがいのある"男"だった。

 ――今気にするべきことではないかもしれないが、胸の真ん中がキュッと狭まった。オレは今初めて、彼に"異性"を感じたんだなと、直感的に理解した。

 まあ、いい。いいったらいいんだ。そういうことにしておけ、オレ。

 

「ギルおじさん、あなたも帰ってきてください。そういうわけだから、申し訳ないですがさっきのは撤回させてください」

「う、うむ、全く問題ない。……ミコト君、笑えばもっと可愛らしいじゃないか。普段からそのぐらいでもいいんだよ?」

「そういうのは後にしてください」

 

 先ほどとは一変した空気。暗い雰囲気はなく、重苦しいものは残っていても、そこにはたしかに希望の光が差し込んでいた。

 ギルおじさんが復活する頃には、全員意識を会議に戻していた。

 ユーノがやってくれたのだ。オレもいい加減、腹を括ろう。

 

「決定を変更して申し訳ないが、蒐集にはオレも同行する。確実に、無理なく、それでいて迅速に遂行する。散々オレを指揮官と呼んでくれたんだ、異論は挟ませんぞ」

「是非も無く。貴女がいてくれるだけで、私達は何倍も強くなれる。最後までお供させてください、我が主」

 

 やはりと言うか、最初に応えたのはシグナム。触発されたように、ヴィータもまた気を引き締める。

 

「あたしは絶対、はやてとミコトを諦めねえ。たとえ夜天の魔導書を完成させることになっても、防衛プログラムだろうが"封じられた闇"だろうが関係ねえ、ぶっ飛ばしてやる。あたしは絶対、家族を守る!」

「全面的に同意ね。……相変わらず安心出来ない状況だけど、ミコトちゃんが後ろにいてくれるだけでも、それだけなのにずっと違うわ。これからもよろしくね、わたし達のリーダー」

「……大した奴だ。これはいよいよ、俺もミコトを主と認めねばならないか」

 

 ザフィーラ、お前はそのままでいてくれ。頼むから。

 シャマルの言った通り、防衛プログラムの資料が見つかったからと言ってはやてのタイムリミットが伸びるわけではない。相変わらず、いつ終わりのときが来てもおかしくない。

 だから蒐集は進めなければならず……それが示す現実に、なのはやフェイトは心の底から納得できていない。

 

「本当に、蒐集はするしかないの?」

「現実的な限界が目の前にある以上、次善策を選択できる準備はしなければならない。運を天に任せて失敗した場合は……二度は、言いたくない」

「っ……ごめんなさい」

「……、そう暗い顔すんなよ、なのは。ミコトちゃんだって、夜天の魔導書を完成させる選択肢を選ぶ気はないんだよ。それにヴィータちゃんも言ってただろ。もしそうなっても、防衛プログラムを叩き潰すって」

 

 実際にそれが可能かどうかはまだ分からない。「ナハトヴァール」の資料を読み解き、こちらも対策をしておくべきだろう。

 が、それはガイの言葉には関係ない。彼は彼で考えているのだ。どうすれば「最高の結果」を手繰り寄せられるか。オレはそれを尊重したい。

 

「俺らは俺らで、出来る限りのことをしようぜ。なーに、いざとなったら恭也さんが無敵の御神流で何とかしてくれるって」

「俺にだって出来ないことぐらいある、と言いたいところだが……妹分を守るためなら、無理ぐらい通してみせるさ」

「な、なんかお兄ちゃんなら本当に出来ちゃいそうなの……」

「う、うん。凄く、頼もしいかも」

「……自分で振っといてなんだけど、おいしいところ持ってかれた気がする。やっぱイケメンは敵だチクショー!」

「何をやっているんだか……。僕達も、防衛プログラムの対策はしておこう。ミコトにいなくなられて困るのは、僕も同じだ」

 

 「マスカレード」の面子ではない、ハラオウン執務官もまた触発される。復元プロジェクトに関しては、彼も参加者の一人だ。おかしいことではない。

 ただ、その根拠となっているのが魔導書ではなくオレであるというのは、どうかと思うが。

 

「おおー、クロノ君ってばだいたーん。皆の前で愛の告白?」

「なっ!? そういうことではない! 単純に取引相手としてだなぁ!」

「クロノォーッッッ! 君って奴はァーッ!」

「落ち着け筋肉!」

 

 案の定、エイミィにからかわれてユーノに詰め寄られた。ハラオウン提督は慈愛に満ちた表情でそれを見ていた。

 さて……色々と混沌としてきたが、今度こそ方針は決定した。オレ達は蒐集を行い、次善策の準備をする。ハラオウン執務官達は次善策のブラッシュアップ。

 ユーノは引き続き無限書庫で"封じられた闇"の資料を探し、プロジェクト全体の成功を盤石なものにする。

 そして、ミステールとアリシア達の技術班は、「ナハトヴァール」を無力化してバグを解消する方法の模索。

 

「これからはわたしもいっぱい手伝うよ、ミステール。デバイスのほうはあとまわし! いまはミコトおねえちゃんとはやておねえちゃんのほうがだいじだもん!」

「及ばずながら、身の回りのお世話は任せてください。わたしには、本当にそのぐらいしか出来ませんから」

「何言ってんのさ。それも大事なことだよ。あたし達が気兼ねなく全力を出せるのは、ブランが家のことをしっかりやってくれるからじゃないか」

「ブラン、えらいこ。もっと、じしん、もっていい」

「じゃの。光の姉君よ、ぬしは主殿が与えた役割を立派に果たしておるよ。もっと誇ってもよいことじゃぞ?」

 

 今後はオレも家を空けることが多くなるため、またブランに頼ることになるだろう。彼女がいるから、オレは安心して家を空けられるのだ。

 この場に「無力」な者はいない。全員が、何かしらの役割を担ってくれている。

 多分、それが「チーム」ということなのだ。

 

「みんな頼もしいなぁ、ミコちゃん。不安なんてどっか行ってしまいそうやわ」

「……まったくだ」

 

 まさにはやての言う通りだった。

 

 

 

 

 

「期限は12月末まで。全員、ここが正念場だ。最後まで諦めず、必ずプロジェクトを成功させよう」

『はいっ!』

 

 こうして、オレ達の「夜天の魔導書復元プロジェクト」は、最終局面へと突入することになった。

 結末はまだ、分からない。




鬱話だと思った? 残念、一転攻勢でした! ユーノは有能ってはっきり分かんだね(Yuno is God)
っていうかここまで入念に準備進めて鬱展開とかないですわ。もっとも、まだ完全に鬱回避されたわけではないのですが。
引き続き、ミコト達はハッピーエンドに向けて疾走します。満面の笑みで終わりを迎えるために。

ミコトちゃん大爆笑(爆笑というのは複数人が大笑いすることであり、一人が大笑いする場合に使うのは誤用である。ミコトちゃんは複数人いた可能性が微レ存……?) ここまで表情を崩したのは、恐らく無印最後の話以来でしょう。ユーノ君、やったぜ。
なお、一過性のものであり完全に表情が変わるようになるにはまだまだ時間がかかるでしょう。しかしきっかけにはなるかもしれません。
どうやらミコトはとうとうユーノに異性を感じたようです。そして上げた好感度を男への嫉妬で下げるホモの鑑(Yuno is not God) 本編完結までは恋愛話を書けないから仕方ないね(ユーノは犠牲になったのだ……話の都合の犠牲にな)

実は四十二話にもちょろっと出ていたアレの存在が明確に示唆されました。もちろん正体はアレです。アレだよアレ。
多分以降の話で描写することになるとは思いますが、予め言っておくと、ガイ君はアレの存在を知りません。元の人物がゲーム未プレイ勢です。
なので話が進めば「あれ?」と思うかもしれませんが、現段階で彼がそのことに気付くことはありません。
なお、作者はゲーム未プレイのため相当な独自設定が盛り込まれる可能性が高いです。先に謝っておきます。ごめんなさい。

この物語の終焉がどんな形になるか。それは作者にも分かりません(行き当たりばったりで書く創作者の屑)
ここまでお付き合いいただけた皆様には、どうか最後までお付き合いいただき、結末をご覧になっていただければ幸いと思っております。
それではまた、いつか。


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