不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
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独自補完設定増し増し。一応ゲーム動画見たりサイト見たり二次創作見たりして勉強した結果を整合性取れそうな感じに整形した次第です。
原作設定との乖離があっても泣かない。


四十九話 名前

「特定魔力の無限連環生成プログラム「システムU-D」。……これが"封じられた闇"の正体で、間違いないと思います」

 

 再び、アースラ会議室にて。ユーノが無限書庫より発掘(表現はおかしいが的確ではある)した資料をもとに対策会議を開いている。

 「ナハトヴァール」の資料発掘の際に、無限書庫の古代ベルカ領域を大体把握したようで、今回はあまり時間がかからなかった。いくつか見つけた資料の中から、さらに精査する時間もあったようだ。

 

「言い換えれば「永久機関」ということか。俄かには信じがたいが」

「「エグザミア」と呼ばれる結晶を用いて魔力を連環するシステムを構築しているみたいなんですが……細かい作用機序までは分かりませんでした」

「ああ、なるほど。錬金術で言うところの「賢者の石」を使っているのか。それなら納得だ」

 

 一転したオレの意見にユーノは苦笑を返した。確かに扱いが難しいものではあるだろうが、そう考えれば不可能ではないのだ。

 さすがに今のミッドの科学では再現することは不可能だろうが、古代のオカルトならどうか分からない。事実として、"封じられた闇"という高エネルギー炉の存在は推定されているのだ。

 細かい部分はオレが一人で納得しておけばいい。どうせこの「知」を伝達する「識」は持っていないのだ。気にすべき論点はそこじゃない。

 

「資料によれば、「闇、掴むこと能わず。夜のうちに沈め、目覚めのときを待つ」とありました。僕の解釈では、「システムU-D」は制御不能なプログラムだったんじゃないかと思います」

「オレもその解釈で間違いないと考えている。連鎖式の永久機関など、どう考えても危険物だ。下手に放置すれば、それこそ幾つもの世界を巻き込んでの「だいばくはつ」だろうな」

「……そこで、広大なストレージと堅牢な保護機能を持つ夜天の魔導書が目を付けられたというわけね。誇ればいいんだか、呆れればいいんだか……」

 

 件の魔導書の一部であるヴォルケンリッターの参謀は、なんとも表現しづらい表情だった。喜怒哀楽のどれでもあってどれでもないような、そんな感じだ。

 "封じられた闇"がどういうものかは分かった。だがこの話には続きがある。

 

「そして後に開発された「システムU-D」制御用プログラム。それがこちらの、「紫天の書システム」です」

 

 ユーノが取り出したもう一つの資料。そこに描かれているのは、夜天の魔導書と酷似した、色だけが紫色になっている本だった。

 

「「マテリアルズ」と呼ばれる三基の自律型プログラムによって夜天の魔導書の深部にアクセス、その後魔導書ごと「システムU-D」を制御する計画だったようです」

「過去に魔導書が乗っ取られる危機があったということか? ……我々を、何だと思っているのだ」

 

 身勝手な過去の主に対し、憤りを感じるシグナム。今更と言えばそうなのだが、それでも思わずにはいられないのだろう。今の主が優しい分、余計に。

 ヴィータは「落ち着けよ」とぶっきらぼうに言い、シグナムを宥める。彼女の方は「過去は過去」と割り切っているようだ。実際、その通りだしな。

 

「この計画は、幸か不幸か「ナハトヴァール」インストール後に行われたもので、結果は防衛プログラムに阻まれての失敗。三基も夜天の魔導書に取り込まれ、眠りについたようです」

「自業自得と言えばそれまでだが……同情はする」

 

 ザフィーラは話の内容に不快を感じた様子ながら、静かに瞑目した。人の都合で生み出され、いいように振り回された「紫天の書システム」という存在に、シンパシーを感じたのかもしれない。

 

 ともかく、時系列をまとめよう。まず初めに、夜天の魔導書という大規模ストレージデバイスが開発される。この時点では、まだただの高機能ストレージに過ぎなかった。

 その後、記録した魔法の管理のために管制人格が生み出される。さらには補助のために、守護騎士システムが付与された。

 そこまでは良かったが、記録の手間を省こうとした時の主が「蒐集」という機能を付けてしまった。これが転機となり、それから後の主は様々な攻撃的な機能を付けてしまう。

 その合間に、どういう事情が夜天の魔導書にアクセス可能な第三者が、「システムU-D」の退避場所として夜天の魔導書を選ぶ。その後、「ナハトヴァール」が追加されてしまう。

 時が経ち、「システムU-D」を制御する目処が立った彼の人物の遺志を受け継いだ誰かが、「紫天の書システム」を夜天の魔導書にインストールする。

 だがそのとき既に書は「ナハトヴァール」の管理下に置かれてしまっており、防衛プログラムはこれを正しく迎撃。数あるバグの中の一つとして、役目を果たせぬままに沈黙する。

 時間の経過とともに愚かな主達が欲望のままに改竄を行い続けた結果、「ナハトヴァール」は手の付けようのない化け物へと進化を遂げてしまう。

 そして最後にはやての手元へと渡り……現在に至る。

 

 

 

「これが、僕の調べた夜天の魔導書の、過去から現在までの概要です」

「…………、……なんと、まあ」

 

 本当に、それしか言えない。今に至るまでの長い歴史に。最初の理念から大きく逸れてしまった現状に。人の欲望の大きさに。犠牲となった、多くの人達に。様々なことに対し、「なんと、まあ」だ。

 想像も及ばない大きさに眩暈を覚える。目を瞑り、頭の中の混沌とした情報をまとめる。

 

「「システムU-D」は、「ナハトヴァール」の管理下にあるわけではないんだな」

「はい。システム保護のために隠ぺいを施しているようなので、本来なら稼働すら出来ないはずです。……机上の空論でしかないってことですね」

 

 その通り。「ナハトヴァール」、というか魔力簒奪バグ(結局は繋がっているわけだが)が「システムU-D」の魔力を使用した以上、稼働できない「はず」でしかない。

 ただ、隠ぺい自体に効果がないわけではないだろう。少なくとも本来の性能は出せておらず、恒常的に使用可能なものでもない。

 隠ぺいされたまま、自己判断能力を持たない防衛プログラムが、あくまで機械的に使用しているということだ。まだはっきりしないが、ここに付け入る隙がありそうだ。

 

「もう一つ気になっていることが、「システムU-D」が持つ「無限連環再生能力」だ。現在の夜天の魔導書が持つ転生・無限再生機能と、あまりにも酷似している」

「はい、それは僕も気になりました。多分……「ナハトヴァール」が吸収してしまったんでしょうね」

 

 あるいは逆に、システムU-Dの側が夜天の魔導書本体を自身の一部であると誤認する事で、一緒に再生しているのかもしれない。

 これに夜天の魔導書が本来持つという「旅」の機能が組み合わさることで、主の資質を持つ者の手を転々としながら「ナハトヴァール」が力を吸収し、破壊をばら撒くという悪循環となったわけだ。

 全ては、過去の主達の手による自業自得。夜天の魔導書はあくまで被害者なのだ。「システムU-D」や「紫天の書システム」、果ては「ナハトヴァール」までも。

 ……余計なことまで考えてしまった。オレ達に何とか出来るかもしれないのは夜天の魔導書までだ。それ以上は、手を出しても失敗するのがオチだ。割り切らなければならない。

 頭を振り、余計な思考をカットする。

 

「となれば、いずれは「システムU-D」と「紫天の書システム」を除去することを考えねばならないが、今のところは「ナハトヴァール」に利用されないようにするだけで十分だ」

 

 というかそれ以上のことをやりようがない。相変わらず防衛プログラムをどうにかしないことには、書へのアクセスもままならないのだ。

 できれば今すぐにでもミステールにエネルギー供給路を断つ作業をしてもらいたいところだが……ここで「システムU-D」の隠ぺいが邪魔になる。

 

「標的が分からぬのでは、さすがに厳しいのぅ。これは予想外じゃった」

「判別論理を組むというのは?」

「出来ぬことはないじゃろうが、「シンクロ法」しかない現状では行使する余裕もなかろう。他の方法を考えるか、さもなくば大人しく魔導書殿の人格起動を待つのが無難じゃろ」

 

 やはり、今すぐは不可能か。隠ぺいのおかげで「ナハトヴァール」も自由に利用することは出来ないが、こちらも手出しすることが出来ない。「システムU-D」は味方というわけではないのだ。

 本格的に管制人格の起動待ちだ。少なくとも「彼女」が起きれば、現在書の内部がどうなっているかは分かるはずだ。

 

「分かった。現在夜天の魔導書の蒐集量は341頁。あと59頁で人格起動が可能だ。今週末にはこぎつけられるだろう」

「……相変わらずとんでもないスピードだな。こっそり人から蒐集したりしてないだろうな」

「するか。どれだけ効率がよかろうが、しがらみを生むなら願い下げだ」

 

 当たり前かもしれないが、夜天の魔導書が記録――蒐集する魔法というのは「人が使う魔法」だ。獣と人とでは、蒐集効率に天と地ほどの差がある。

 定期蒐集で大変お世話になったモコモコ(仮称、正式名称は不明)を例に取ってみよう。奴らは1匹当たり1行に満たない程度の蒐集量だが、同じだけの魔力の人間だった場合、1頁程度まで跳ね上がる。

 そう考えると、それなりの戦闘が必要ながら2~5頁しか蒐集出来ない大型動物は、実は非効率な蒐集方法なのだ。同じだけの魔力を持った人間なら、一人頭20頁は下らないだろう。

 が、何度も言うようだが、こちらは管理世界のしがらみに巻き込まれるつもりは毛頭ないのだ。そんなことをして管理局からマークされたくはない。

 まあ、ハラオウン執務官も分かっていてジョークで言っているのだろうが。センスのないジョークだ。

 

「優秀なメンバーに囲まれ、安定した狩場を提供され、バックアップ体制も万全。これで蒐集できていなかったら、指揮官として無能なんじゃないのか?」

「……それもそうだ。君なら、出来て当たり前のことだったな」

「分かっているならいい。ついでに、今後も協力願えると非常に助かる」

「お安い御用さ、指揮官殿」

「……ぐぬぬ、おいしいところをっ……!」

 

 オレとハラオウン執務官で軽口をたたき合い、ユーノが嫉妬する。これはもう一つの様式美なのかもしれないな。

 

 さて。これにて長らく無限書庫にて調査を行ってくれたユーノが、ようやく解放された。プロジェクト開始前の7月から、約半年だ。

 

「本当に、よく色々と調べてくれた。感謝する」

「いえ……ミコトさんのためなら、なんのそのです!」

 

 グッと力瘤を作ってみせるユーノ。実際歳不相応な力瘤であるから、彼の努力(の迷走)のほどが見て取れる。

 ……ユーノ当人は気にしていないだろうが、オレはこれを立派な借りだと思っている。何か返さないことには、あまり気分がよろしくない。最悪の結果になったときは踏み倒すことになってしまうのだから。

 

「そうだな……お前はこれから、どうしたい?」

 

 本人の意向を聞いてみることにする。オレではろくな考えが思い浮かばない。彼が何を欲するかを想像することが出来ない。

 だから差し当たって何かしたいことはあるかと聞いてみたのだが。

 

「もちろん、ミコトさんの指揮下に入って、蒐集をお手伝いします!」

「いや、そういう意味ではなかったのだが……まあ、助かることは助かるか」

 

 彼は引き続きプロジェクトに参加するようだ。……考えるまでもなく、彼ならばそうするか。意思確認は必要だったが、聞くまでもなく分かっていたことだ。オレが聞きたいのはそういうことではない。

 

「そうだな、質問を変える。オレからお前に出せる報酬は何だ?」

「必要ありませんよ。僕は、ミコトさんの指示で動けることが嬉しいんです。それが望みなんです。強いて言うなら、その望みを叶えてくれることが一番の報酬です」

 

 狼狽えることなく真っ直ぐ返してきた。……視線がむずがゆくて彼を上手く直視できず、オレから目を逸らした。動悸も少し早い。

 それを悟られぬよう、努めて平静に返す。

 

「そうか。余計なことを聞いたな。悪かった」

「いえ。とてもミコトさんらしいなって思いました。あなたはそのままでいてください。……ずっと、僕達の指揮官でいてください」

「……厄介な役回りを任されてしまったものだな」

 

 ヘタレめ。心の中で一言付け加える。彼に"異性"を感じられるようにはなったかもしれないが、魅力を感じられるかどうかは別問題のようだ。

 それならそれで別にいい。ユーノにはもっと頑張ってもらうだけだ。何を頑張るかは、彼次第だが。

 

「分かった。そういうことなら、今後は「マスカレード」の実行部隊としてよろしく頼む。事実として、お前の補助魔法があるのは心強い」

「任せてください!」

 

 これで彼の方針は決まった。次いで、時折彼のサポートを行ってきたアリアが動く。

 

「私の方も、本格的に次善策に向けて動かさせてもらうわ。……そんなことにはならない方がいいけどね」

「それでも準備は必要だ。今行っている蒐集はそのためでもある。言うまでもないと思っていたが」

「ええ、分かってるわ。たとえプロジェクトが失敗しても、次善策だけは絶対に失敗が許されない」

 

 失敗するということは、オレ達の犠牲が無駄になるということだ。さすがにそれはオレも許容するわけにはいかない。相応の成果を出してもらわないことには困る。

 アリアはオレから視線を外し、ハラオウン執務官へと歩を進める。そしてポケットからカード型の待機形態となったデバイスを取り出す。

 それは次善策の要である特注デバイス。氷結の杖「デュランダル」だった。

 

「……どういうつもりだ、アリア」

「どうもこうもないわ。これはあなたに託す。あなたなら、使いこなせるでしょう」

「ふざけているのか。それは君の役割だったはずだ。ここに来て、それを放棄するというのか?」

 

 もしものとき、オレとはやてが「ナハトヴァール」に取り込まれた後、凍結封印を行うのはアリアの役目だった。このプロジェクトチームの中で、ミッド式魔法を一番上手く制御できるのが彼女なのだ。

 ここに来て、その役割を二番手に託すと言っているのだ。譲られたみたいで、ハラオウン執務官としては納得がいかないだろう。

 だがアリアの様子を見て、そうではないと分かった。彼女は……デュランダルを持つ手が震えていた。

 

「……見れば分かるでしょ。私にはもう、無理なのよ」

 

 彼女は……彼女だけじゃない。ロッテも、ギルおじさんも。彼らは既にオレ達八神家の家族同然だ。家族と言えるだけ深い付き合いをしてしまった。

 そんなアリアに家族を手にかけるということは……長年管理局で犯罪者と戦い続けた彼女でも、耐えられることではなかったのだ。

 

「こんなの、考えてもみなかったわ。だって、私達は元々はやてを犠牲に闇の書を封印しようとしてたのよ。ちょっと一緒に生活したぐらいで、意志が揺らぐことなんて、ありえないって……思って、たのに」

 

 ポタポタと涙がこぼれる。必死に自制しているのだろう、彼女は肩まで震えている。ハラオウン執務官は、師匠の弱々しい姿に、何も言葉を返せなかった。

 

「知ってる? はやてって、ミコトと一緒にいるとき、本当に幸せそうに笑うのよ。ミコトも、仏頂面ばっかりじゃなくて、ソワレには優しく微笑んだりして、本当に幸せそうなのよ」

「アリア……」

「知っちゃったら、もう無理よ。私の手で、あの幸せを壊すなんて、出来ない。……妹を殺すなんて、私には、……っ」

 

 彼女は、もう言葉を紡げなかった。嗚咽を必死に耐え、ただ涙を流し、ハラオウン執務官がデュランダルを受け取るのを待っている。

 ……作戦として見ても、彼女の行動は正しい。もう彼女は、「オレ達を封印する」という状況下において、一番の魔導師ではない。彼女の想いが重しとなって、チャンスを逃してしまうだろう。

 そんなことは……ハラオウン執務官にだって分かるだろう。だから彼は、迷いなくデュランダルを受領した。

 

「君の意志は僕が受け継いだ。もう、背負わなくていい」

「……ごめんね、クロノ。あなたに背負わせてしまって。こんなダメなお姉ちゃんで、ごめんね……」

 

 しばらくアリアは泣き続けた。ハラオウン執務官は、甘えてくる姉をあやす弟のように、彼女を慰めた。

 ……アリアの本当の妹であるロッテの方は先ほどから号泣しており、ギルおじさんが困ったように頭を撫でていた。彼女も同じ想いであったということだ。

 彼女達が泣き止むまで待つ。それほどかからず、アリアは気持ちを立て直した。ロッテの方はまだぐずっているが。

 

「見苦しいところを見せてしまったわね。……私達は、次善策になったらもう役に立てない。だから準備の段階で全力を尽くさせてもらうわ」

「うぉぉ゛……はや゛てちゃ゛んもミコ゛トちゃん゛も、い゛なくなっちゃ゛やだぁ……」

 

 気持ちは嬉しいんだが、女性としてそのうめき声はどうなんだ、ロッテよ。姉を見習ってとっとと立ち直れ。

 

「私も、二人と同じ気持ちだ。こんな策を提案した手前何をと思うかもしれないが……どうか、最後まで諦めないでほしい」

「言われるまでもありません。オレは、やると言ったらやるんです」

「……そうだったね」

 

 ギルおじさんは寂しそうに、だけどわずかな希望を込めて微笑んだ。

 あとひと月。無駄にせず、考えよう。オレ達が明日を迎えるための妙手を。

 

 

 

「そういえばスクライア。お前はこれから自由に行動できるが、剣の話はどうする?」

 

 会議が終了した後、シグナムがユーノに話しかけた。海水浴のときに、シグナムがユーノに剣を教える約束をしたらしい。

 何をやっているのか。そりゃ体を鍛えただけじゃ使い物にならないだろうが、そこで何故剣という選択肢になった。そういうキャラじゃないだろう、お前は。

 内心で突っ込みつつ、二人の会話を聞く。

 

「そうですね。なんだかんだ、これまで調査が忙しかったからお邪魔できませんでしたし。ご迷惑でなければ、お願いしたいです」

「そうか。調査が忙しかったという割には、体は衰えていないようだな」

「あはは。バックパックって結構重いですから。上手くやれば、調査しながら筋トレも出来るんですよ」

「なるほどな。……お前は、私や恭也とはまた違ったタイプの剣士になりそうだ。それもまた面白い」

 

 結局、剣の稽古はつけるようだ。……彼がそれで納得しているなら、別にいいか。オレの知ったことではない。

 

 それから数日の間、八神邸の庭から少年の悲鳴が絶えなかったことを記しておく。

 

 

 

 

 

 ユーノが参加したことで、蒐集範囲を拡大することになった。いくら大型の数が豊富とはいえ、あまり一ヶ所でやっては既蒐集個体に当たりやすくなり、効率が悪くなってしまう。

 そこでユーノはフェイトと組ませ、海洋の方で蒐集を行わせることにした。ヴィータにはなのはとガイを見てもらっている。

 

「フェイト、あそこだ!」

「分かった! バルディッシュ!」

『Photon lancer.』

 

 ユーノが索敵した場所に向けて、フェイトが魔力の槍を放つ。すると、それに反応し回避した魚群(?)が水面から顔を出し、一斉に彼らに向けて襲い掛かってくる。

 だが既にユーノは頑強なラウンドシールドを複数枚展開しており、大トカゲのような大トビウオどもの牙はシールドに阻まれる。

 

「今だ! チェーンバインド!」

 

 それだけにとどまらない。ユーノがさらに複数展開した魔法陣から緑色の鎖が飛び出し、憐れにも「罠」にかかったトカゲ魚を縛り上げていく。抵抗はしているが、奴らに彼のバインドを破れるほどの力はない。

 そうして捕獲した中型の水棲魔法動物を、近場の陸に「水揚げ」していく姿は……適当なたとえかは分からないが、漁師のようだった。

 

「よいっしょぉ!」

「……よく働いてくれるものだな。こちらとしては助かる話だが」

「あ、ミコト。どう、結構捕まえられたよ」

 

 フェイトがオレに気付き声をかけてくる。念話用のインスタントデバイスである程度やり取りは出来るようになったが、やはりミステールの念話共有には届かない。今もこうして各組を渡り歩いて様子を確認している。

 彼女の言う通り、「魚河岸」には釣り上げられたばかりのトカゲ魚がビチビチと跳ねている。数十を数えるほどだろう。蒐集量は大型に劣るが、圧倒的な数でカバーしていた。

 

「見事なものだ。ミッド式魔法の扱いに一日の長があるだけはある」

「うん。分かってたけど、シールドとバインドの制御が特に凄いんだ。捕獲っていうミッションなら、ユーノが一番凄いかもしれない」

「ふぅ、これでよしっと。あ、ミコトさん!」

 

 「水揚げ」を終えたユーノもこちらにやってくる。……「水揚げ」の方法は魔法的なものではなく、チェーンバインドを手でつかんで力任せに引っ張るというものだ。もうちょっとスマートな方法はないのか。

 

「大型ではありませんけど、これで足しになりますかね」

「十分だ。こいつら全員を蒐集出来れば、10頁程度にはなるだろう。……ところで、こいつらは陸に放置して大丈夫なのか?」

「あまり長時間は放置できませんけど、蒐集の間ぐらいならもちますよ。そろそろシャマルさんを呼ぼうかと思ってたところです」

 

 個体数が多くなれば、それだけ蒐集には時間がかかる。時間当たりの蒐集量に換算したら、大型には圧倒的に劣るだろう。

 だから少しでも効率を上げるために、ある程度数が揃うまで溜め込んでおいたそうだ。その判断に間違いはない。

 

 間違いがあったとすれば、この世界の生態を完全に把握していなかったことだ。彼だけでなく、オレも、管理局も含めて。

 突如として轟音。大地が揺れる。トカゲ魚どもが恐怖したようにビチビチと跳ねている。

 異変を察知し、オレはすぐさまユーノに指示を出した。

 

「こいつらを岸から退避させろ! 海の方からだ!」

「了解! ずえりゃあああ!!」

 

 彼は何本かのチェーンをひとまとめにし、力任せに森の方へとブン投げる。転送魔法を使え、それがお前の得意技だろうが。

 ……いや、違うか。それでは間に合わないのだ。転送魔法「トランスポーター」で一度に運べる数はそう多くない。一回にかかる時間もバカにならない。

 だから、手っ取り早く物理的な方法で退避させている……のだと思う。決して鍛えた肉体を使いたいだけじゃないはずだ。多分。……少し自信がなくなってきた。

 ユーノの行動は迅速だった。フェイトも、いつ海から怪物が現れても対応できるよう、既にフォトンランサーを待機状態にしていた。

 

「これでラス、とぉ!?」

 

 最後の3匹を投げた瞬間、水柱が起きた。そこから伸びた黒い影が、中空に投げ出されたトカゲ魚どもに喰らいつく。

 チェーンバインドごと、その3匹は噛み千切られた。……被害が3匹で済んだだけよしとするか。

 

「……うそ、なんで竜種が……」

「管理局め、調査を怠ったな。何が「竜種は存在しない」だ」

 

 事前情報ではそのはずだった。この世界は大型が多数存在するが、竜種の存在だけは確認されていない。そのためにこの世界を選んだはずだった。

 それを、目の前の現実が否定する。水柱の奥から現れたのは、巨大な甲羅と長い首を持つ海竜だった。

 水柱が起きた瞬間に、フェイトはフォトンランサーを全弾射出していた。だというのに全く効いた様子はない。固い甲羅で弾かれたか、それとも鱗に阻まれたのか。

 

「これは、まずい……ですよね」

「オレ達だけでは、まず無理だな。攻撃力が足りない。……他の邪魔はしたくなかったが、仕方ない」

 

 逃げるのも難しい。奴は既にオレ達を見ている。襲って来ないのは、警戒しているのか、あるいは余裕からか。

 待ってくれるなら、その時間を使うまでだ。インカム型の念話用インスタントデバイスをオンにして、全体に通達する。

 

「こちらミコト。ユーノ・フェイト班が竜種と遭遇、現在交戦待機中。手を貸してもらえると助かる」

『なのはです! 三人とも、大丈夫なの!? 急いでそっち行くから……にゃあああ!? なんでなのはばっかりぃ!?』

『くっそ! 女の子ばっか狙ってんじゃねえよ、このロリコンドルがっ!』

『ヴィータだ! 聞いての通り、こっちはちょっと時間かかる! 終わったらすぐに向かう! 海岸だったよな!?』

 

 ヴィータ達は、またしてもなのはが狙われて苦戦中のようだ。すぐの増援は期待できない。

 次いで、シグナムから念話が入る。

 

『主、ご無事ですか!? 今私が助けに参り……ええい、鬱陶しいわァ!』

『アルフだよ。ごめん、こっちも竜種だ。ったく、何処が竜種はいないんだよ! 群でいるじゃないか!』

『愚痴っている暇はないぞ。ザフィーラだ。こちらも遅くなる。……なるべく早く駆けつける。それまで耐えてくれ』

 

 あっちでもこっちでも竜種か。向こうについては、アタッカーが二人いるから心配ないだろう。群ということは、一体一体はそう強くないはずだ。

 そして最後の一組。恭也さん達は、念話が入る前に到着した。シャマルの転送魔法だ。

 

「なるほど、手ごわそうだな。これは、俺の剣が通用するかどうか……」

「わたしのランサーは弾かれちゃった。あの甲羅が厄介です」

 

 これでアタッカー二人のディフェンス一人、アシスト一人。……相手の防御力を考えると、もう一人アタッカーが欲しいな。

 

「ソワレ、やれるか」

『……こわいけど、がんばる』

 

 仕方がない。ここは純粋な火力が必要になる。オレ達がその役割を務めるしかないだろう。

 ――オレが戦線に加わると、指示出しがほとんどできなくなる。というのも、忍氏から提供された念話用デバイスは、受信は完璧だが発信に口頭での入力が必要という仕様だったのだ。

 これは、オレ達非魔導師には「リンカーコア経由でデバイスに命令を出す」という本来の使い方が出来ないことが理由となっている。あくまでニュートン系での事象で入出力を行わなければならない。

 たとえば恭也さんが使用しているベクターリングは、筋電位によって作動する。筋電位のパターンによって、魔法陣の発生位置制御等を行っているのだ。

 頭の中だけで済ませられない分、必要になるリソースが増える。それこそ、後方で指示のみに徹さなければ無理だろう。

 

「ミコト、お前は……」

「シグナムかヴィータが合流出来たら下がります。それまでは、オレが砲手をやります」

「……分かった」

 

 恭也さんが異論を唱えようとしたが、彼も攻撃戦力が足りないことは理解している。飲み込み、前を向いた。

 オレ達が構えると同時に海竜が吼えた。こちらの準備が整うまで、律儀に待っていたのか。……行動パターンがよく分からんな。

 海竜が動く。各々空中に回避行動を取った直後、先ほどまでオレ達がいた場所が爆ぜた。動作から考えて、恐らくはブレス攻撃か。

 

「もう一度、バルディッシュ!」

『Yes sir. Photon lancer.』

「ソワレ!」

『うん。バール・ノクテュルヌ』

 

 怯まず、フェイトとオレからの射撃攻撃。雷の槍と夜の魔弾。海竜は巨躯に似合わぬ旋回速度で動き、甲羅でそれらを受ける。炸裂の煙幕が晴れた後には傷一つなかった。

 

「なるほど、確かに甲羅は固いようだな。だが、それ以外の部分はどうだ?」

「おおおおっ!!」

 

 オレ達の射撃は、あくまで牽制。本命は恭也さんによる近接斬撃。今のは接近の隙を作るためだけのものだ。

 そうして彼は奴の長い首に、すれ違いざまの一閃。ギィンという金属同士をこすり合わせたような音が響く。

 衝撃を受けたのか、海竜は少しだけのけぞり、再び旋回して尻尾で恭也さんを撃ち落とそうとする。だが、回避するまでもなく緑色のシールドが発生し、その一撃を大きく逸らす。

 彼の足もとに翡翠色のベルカ式魔法陣が発生し、転移魔法でシャマルの横まで退避する。連携は上々。だが……やはり防御が固い。

 

「恭也さんの剣でも傷が入らないなんて……」

「鱗が厄介だ。鋼並の固さを持っている上に滑る。ただの剣じゃ、通すことは難しいな」

 

 無理ではないのか。いや、確かに恭也さんなら出来ても不思議じゃないと思えてしまうが。……気にしないことにしよう。

 恭也さんは今の一撃でさらに海竜を分析していた。

 

「「斬」は通じなかったが、「徹」は効果があった。鱗に衝撃吸収の能力まではないんだろうな」

「つまり、甲羅以外の部分は意外と脆いということか。……遠距離からの射撃では、難しいな」

 

 奴は巨体に似合わず動きが鈍重ではない。遠くから撃ったのでは、出を察知されて防御されてしまう。零距離からの砲撃か……逃げ場のない攻撃が必要になる。

 

「ソワレ。奴に「爆発する棺」を当てられるか」

『……わかんない。あいつ、けっこう、うごく』

「皆で一斉攻撃して、動きを止められないかしら」

「……無理だろうな。その気になれば、海中に逃げられる。それなりに知能はあるようだからな」

 

 目の前で作戦会議をしているというのに、海竜は動かない。やはり、何を考えているか分からない。余裕なのか、それとも別の何かなのか。

 これだけ隙を見せてくれるなら逃げられるか。……森の中のトカゲ魚を回収しなければいけない。捨てれば逃げられるかもしれないが、出来ればそれは避けたい。

 ……ダメ元で試してみるか。

 

「とはいえ、現状で出来ることはそれしかない。上手く動きを縫いとめてくれ」

「分かった。……無理はするなよ」

「こちらの台詞ですよ」

 

 再び散開する。こちらが動き出すと、海竜も動き出す。狙いは……恭也さん。

 

「ほう、俺を敵と認めたか! ならば、御神の剣士として受けて立とう!」

「む、無茶しちゃダメですからね!」

 

 少し離れたところでいつでも転送退避させられるように待機するシャマルが、心配そうな声色で叫んだ。

 オレは海竜の攻撃が届かないところまで浮き、ソワレに指示を出す。

 

『ル・クルセイユ』

 

 戦場に「夜」の粒子が集まり始める。ほの暗く、光を曲げる重力の粒子が。

 海竜はすぐに異常に気付いたのだろう。急旋回して「夜」から逃れるよう移動を始めた。

 

「この、止まれぇ!」

「ぐっ、ぎぎっ、ぃ!」

 

 フェイトはフォトンランサーを撃ち、動きを止めようとする。しかし海竜は首を甲羅の中に引っ込めることで防御した。ランサーは固い甲羅に弾かれ、不発。

 ユーノもチェーンバインドで絡め取り、何とか止めようとしているが……人と竜では膂力に差があり過ぎる。

 予想通り効果範囲から逃げられてしまった。これ以上「夜」をとどめておく意味はなく、ソワレは技を解いた。やはり、発動時間がネックだな。

 

『ミコト、ごめん……』

「気を落とすな。別の方法を考えよう」

「……けど、本当にどうしましょう。早く何とかしないと……」

 

 恭也さんが交戦している様子を見て、シャマルが焦る。危なげなく戦っているように見えるが、たった一回のミスで全てが終わるのだ。

 だからと言って焦って判断を誤れば、もっと彼を危険にさらすことになる。オレ達は冷静でなければならないのだ。

 そうだ、冷静に考えろ。今必要なのは何か。今成したいことは何か。どうすればそれを成せるのか。

 

「足りないのは、火力。補おうとすると、時間が足りない。時間、火力……速さ?」

 

 速さは、フェイトが持っている。だが彼女では火力が足りない。いや、集中すれば十分な火力を出せるかもしれないが、オレと同じように時間を犠牲にする。

 では、もし彼女の速さをそのままに、火力を補うことが出来たとしたら。

 

「フェイト、ユーノ。一旦集まってくれ。……恭也さん、少しの間辛抱してください」

『気にするな。このぐらいなら、軽いものだ!』

 

 海竜の角をかわしながら、通信を返してくる恭也さん。彼はお返しとばかりに、海竜の眉間に蹴りを入れた。その一撃に大きくのけぞる巨獣。

 ……本当に大したことなさそうに見えるから困る。実際に強がりなどではないのだろうが。

 

「ミコト、何か思いついたの?」

「ああ。ちょっとばかり、無茶なことをな」

 

 オレの表情を見て、若干引き気味の三人。そんなに悪い顔をしていただろうか。

 ともあれ、思いついたことを三人に説明する。話が進むにつれ、だんだんとシャマルとフェイトの表情が引きつった。

 

「ほ、本気でやるんですか?」

「今あるものを活かすとなったら、これぐらいしか思い浮かばなかった。無論、実行するかしないかは君達の意見を尊重する」

 

 特に、ユーノの。これを実際にやったら、一番危険を伴うのは彼なのだ。

 彼は、一点の迷いもなく頷いた。

 

「やりましょう」

「え、ええ!? そんなにあっさり……」

「あの……ユーノ君、ほんとに危ないですよ? ミコトちゃんにいいところ見せたいなら、別の機会で……」

「ち、違いますよ! そういうことじゃなくって!」

「コントはいいから、決断は早く頼む。いつまでも恭也さん一人に任せておくわけにはいかない」

 

 確かに安定はしているが、決定打を打ち込めない。消耗する一方なのだ。時間をかけるだけ、恭也さんの危険は増していく。

 オレの叱責に、三人は少し慌ててから、やはりユーノは頷いた。

 

「やらせてください。僕はミコトさんの判断を信じます」

「判断というほど高尚なものでもない。ただの思いつきだ」

「それでもです。僕は……「ミコトさんの力」に、なりたいんです」

 

 酔狂なことだ。お前がそれを望むなら、そうすればいい。

 

「……分かりました。本当は止めたいところだけど、当のユーノ君がこれじゃ言っても止まらないだろうし」

「うぅ、責任重大だよ……」

 

 「運び役」をすることになるフェイトは緊張の面持ちだった。

 この「作戦」の成否には、三人の「連携」が不可欠だ。誰一人かけてはならない。

 彼女の緊張をほぐすべく、エールを持っていない左手でフェイトを抱き寄せ、額にキスをする。

 

「あっ……」

「フェイトならきっと上手くやれる。……大丈夫だ」

「……うんっ!」

 

 気合が入ったか、フェイトは満面の笑みだ。これで、本当に大丈夫だろう。

 ……何物欲しそうな顔してんだ、筋肉。お前にしてやるわけないだろう。

 

「覚悟が決まったなら、早速作戦実行だ。……三人とも、頼むぞ」

 

 ユーノはちょっと残念そうな顔をしていた。

 

 まず、フェイトが動き始める。

 

『Sonic move.』

 

 高速移動魔法により一瞬で最高速に達したフェイトは、見る間に海竜との距離を縮めていく。

 海竜は当然それに気付く。彼女に向けて、雷撃のブレスを放ってきた。しかしフェイト一人ならば十分回避可能だ。

 そのために、彼女一人でトップスピードに乗る必要があったのだ。

 

「行きますよ、ユーノ君!」

「いつでもOKです!」

 

 余所見をした海竜の横っ面に恭也さんが蹴りを入れる。その隙に、今度はシャマルがベルカ式の転移魔法を発動する。対象は……ユーノ。

 彼は一瞬にして海竜のすぐ近く――フェイトの進行方向に出現する。直後にシャマルは恭也さんに転送魔法を発動させ、こちらまで退避させる。

 

「フェイト!」

「うん!」

 

 ユーノの手を、最高速のままフェイトが掴む。かなりのGがかかるだろうが、肉体を鍛え上げた彼ならば耐えられる。以前の彼のままだったら、この作戦は不可能だっただろう。

 最後に、ユーノはシールド魔法を発動させる。自分の前方を覆うように。十分にフェイトの速度が乗った時点で、彼女はその手を離した。

 フェイトの速度+シャマルの転送+ユーノの固さ。全てを合わせて一瞬の「火力」に変換する連携技。それがこの作成の内容だった。

 

『ギゥォ!?』

「これでぇっ」

 

 海竜が気付いたときにはもう遅い。ユーノは奴の顔面目掛けて襲来する砲弾となった。

 

「終わりだあああっ!」

『ッッッゴガアアアア!?!?』

 

 ドォン!という衝撃がここまで響く。それほどの一撃を露出した急所に受けては、さすがの海竜もひとたまりもなかった。

 巨体がグラリと傾く。シャマルの転送によってユーノが回収された後、奴は巨大な水柱を立てて海に倒れた。

 視界が晴れるのを待つ。奴は海面に首を浮かばせてぐったりしており、気を失っていることは明白だった。

 

「……ふぅ。何とかなったか」

「フェイトの速度を攻撃力に転化したのか。上手いことを考えたもんだな」

『名付けて、「南斗人間砲弾」だよ!』

 

 勝手に作戦を命名するエール。何故そんな作戦名になったかは知らない。

 

「ともあれ、せっかくだ。あの海竜からも蒐集させてもらおう。生き残った魚類と合わせれば20頁にはなるはずだ」

「これだけ苦労させられたんだもの、そのぐらい欲しいわ。……ほんと、竜種って割に合わないわね」

 

 だからこそ「竜種がいない」というこの世界を選択していたのだが。……アースラに戻ったら、ハラオウン執務官に報告しておくか。

 

 どうやらオレ達が捕獲した海竜は大物だったようで、一気に20頁ほど埋まった。

 だが、戦闘が長引きすぎたせいで半数ほどのトカゲ魚が蒐集不能になってしまい、こちらは思ったほど蒐集量が伸びなかった。結果だけ見れば、予定よりも多く蒐集できたことにはなるのだが。

 蒐集出来なかったトカゲ魚は、海竜に責任を持って処理してもらうことにした。美味そうに食べていたところからして、好物だったようだ。

 ……もしかしなくとも、オレ達からトカゲ魚を横取りするために戦闘を仕掛けてきたのだろう。そう考えれば、戦闘中の不可解な行動にも納得が行く。要するにオレ達の逃走待ちだったということだ。

 食事を終えた海竜は、満足したように海へと帰って行った。

 

 

 

 

 

「そうか、竜種が……どう考えても先遣隊の手抜きだな、こりゃ」

 

 「ディーパス」で起きた出来事を伝えたところ、ハラオウン執務官は呆れたようにため息をついた。

 同じように竜種(飛竜)の群に襲われたシグナム達であるが、彼女が本気でキレたら全部逃げてしまったそうだ。その潔さをオレ達が遭遇した海竜にも分けてほしかったものだ。

 当然ながら、「竜種がいない」ということになっていた世界の竜種なわけだから、新種である。いつぞやの依頼に引き続き新種発見の栄誉をいただいた(いらない)。

 

「危険な目にあわせてしまったな。本当にすまなかった」

「謝ってもらう必要はない。お前が調べたわけではないんだからな」

「それでもこの世界を紹介したのは僕だ。全員無事だったとはいえ、その責任を放棄する気はない」

 

 真面目なことだ。それが彼の良さでもあり、融通の利かないところでもあるのだろう。

 彼は「代わりとなる世界を探す」と言ったが、そこでオレが待ったをかけた。

 

「今後の蒐集も「ディーパス」を使おうと思っている。そこまでしてもらう必要はない」

「……本気か? 君も経験しただろう。竜種は、たとえ下位でも厄介なのが多い。今回上手くいったからと言って、次も無傷で済むとは限らない」

「そのリスクを補って余りあるメリットがあるということだ。事実として、ひと月で管制人格起動に必要な400頁を達成できたという結果がある」

 

 確かに竜種が出てきたら厄介だが、それならば遭わなければいいだけの話だ。今後は広域索敵が可能なユーノとシャマルを主軸に布陣を考える。それで万事解決だ。

 

「それに、今から場所を変えたのではアースラの巡航スケジュールも変更しなければならないだろう。さすがにそこまでの借りを作る気はない」

「……分かった。それを出されてしまったら、君を説得する術はない。いい加減、僕も学習したよ」

「懸命だな」

 

 多少の危険はあるだろうが、極論を言ってしまえば、大型を狙うならば何処だって大差ない。近場であり管理局の目が届きにくい大型の楽園は、捨てるには惜しいのだ。

 それに、何事もやり様であることがよく分かった。使い方次第ではユーノやガイを直接戦力としてあてにすることだって出来る。

 今回の「事故」は、オレの中で確かな経験となったのだ。オレ個人としては、労力に見合った収穫を得させてもらった。

 

 

 

「それで……400頁を超えたわけか」

 

 さっきちょろっと言ったが、今回の蒐集量は竜種のおかげもあって60頁に届いた。これまでの分と合計して、401頁だ。

 あとははやての承認さえあれば、人格起動が可能だ。

 

「……これでようやく、この子とお話が出来るんやな」

 

 シャマルから受け取った黒い魔導書を胸に抱え、はやては目を瞑り、万感の思いを込めて呟いた。不確かな夢の中ではなく、現実として言葉を交わせるのだ。

 彼女に贈り物をすることに決めてから3ヶ月。長いようで短く、やっぱり長かった。

 

「……はやて」

「うん。それじゃ皆、準備はええか?」

 

 この場にいる全員――チーム「マスカレード」のメンバー。プロジェクトに参加しているアースラの三人。皆が頷く。

 はやては、一歩前に出る。皆に夜天の魔導書が見えるように。夜天の魔導書が皆を見られるように。

 

 そしてはやては、言葉を紡いだ。

 

「夜天の魔導書、管制人格起動承認」

『Ja.』

 

 短く応答し、魔導書は十字飾りを輝かせる。はやての手を離れて宙に浮き、ひとりでに頁を開く。

 これまでに蒐集した全ての頁を開き終え、魔法陣を展開する。「彼女」のルーツである、ベルカ式の魔法陣。

 パキンと何かが弾ける音がして、魔法陣は消える。機能のロックが一つ外れた証だった。

 魔導書は、再びはやての手元に戻る。そして人格が正しく起動した証を発した。

 

『……闇の書、管制人格の起動を完了しました。おはようございます、我が主』

 

 話には聞いていたが、初めて聞く彼女の声は……はやての言う通り、どことなくオレと似ていたかもしれない。声質ではなく、雰囲気だろうか。

 はやては「あはは」と一つ笑ってから、書に向けてデコピンを繰り出した。「彼女」は困惑した声を出す。

 

『あ、主……?』

「まーたこの子は。言うたやろ、闇の書なんて呼ばんって。あんたは、「夜天の魔導書」や」

『主……覚、えて……』

「全部やないけどな。あんたが闇の書なんて呼ばれたくないってこととか、あんたが実はキレーなお姉さんやったとか、そのぐらいや。ほんとはもっと覚えときたかったんやけど」

「……おい、どういうことだ?」

 

 小声でハラオウン執務官が尋ねてくる。何を……って、そうか。彼にはまだ、はやてが夢の中で「彼女」に会ったことを話していなかったのか。すっかり忘れていた。

 

「あとで話す。タイミングが悪くて伝え忘れていただけだ」

「……そうか。ならいい」

 

 改めて、意識をはやてと「彼女」に向ける。はやては一度話を区切り、咳払いをした。

 

「あとは、あんたの新しい名前。……あー、新しいも何も、あんた自身に名前はない言うてたっけ?」

『主……、我が、主……。どうして、あなたは……』

「気合や気合。気合があれば何でもできるんや。あんたを元の姿に戻してやることだって。皆が気合出せば、絶対に出来ることなんや」

 

 「な?」とこちらに振ってくるはやて。……オレ個人の意見としては、根性論は採用したくない。効率度外視の迷信だから。

 だが、はやてが言いたいのはそういうことじゃないし、「彼女」を元に戻したいと思うこの気持ちに効率は関係ない。

 

「そうだな。だが、オレ達にはまだ力が足りない。それを確実に可能にするためには、君の協力が必要だ。君も「気合」を出してくれ、夜天の魔導書」

『……我が、もう一人の、主。あなたも……どうして……』

 

 ……。今、物凄く聞き捨てならないことを言われた気がする。よりにもよって夜天の魔導書本人から、「アナザーマスター」扱いされなかったか。公認されなかったか。

 最後の砦であるザフィーラを見る。彼は……無言無表情を貫きながら、グッと親指を立てていた。承認。最後の砦、あっさり陥落。

 ――これによりオレは、「もう一人の夜天の主」となってしまったのである。閑話休題。閑話休題ったら閑話休題。

 

「どうして、と問われても分からない。どうしての後に何が続くのか、オレは知らない。だからオレの判断で答える。……諦める気がさらさらないからだ」

『……っ』

 

 「彼女」が息を呑む気配を感じる。どうやっているのかは知らないが、書の中では人と変わらない感覚を持っているのかもしれない。

 構わず、続ける。

 

「君が何処まで知っているかは分からないが、オレはやると言ったらやる。やめるという選択肢はない。やめるぐらいなら、初めから手を出さない。勝算があるからやるんだ」

 

 はやての足の件も、もし「プリセット」という能力がなければ手を出せなかっただろう。あったから、そしてはやてがオレにとって大切な人となったから、オレは始めたのだ。

 結局オレは、自分本位なのだ。出来なければ、大切なはやてのことだったとしても、何もしないのだ。今も昔も変わらず。

 

「「どうして私を助けようとするのか」。簡単だ。助けられる可能性があるから。可能性がなかったら、オレはとっくに君を破壊している」

『……そんな、可能性は……』

「ない、とは言わせん。オレはそのためにプロジェクトを動かしてきた。蒐集で時間を繋ぎ、資料を集めさせ、君の力を借りるために人格を起動させた。それを……否定するか?」

 

 どうしても言葉が厳しくなってしまう。「彼女」がネガティブシンキングに囚われているからだ。オレは、こういうときに優しい言葉を持ち合わせていない。厳しい言葉で奮い立たせることしか出来ない。

 

「君が……コアの繋がりのない、魔法の素質すら持っていないただの少女を、もう一人の主と認めた君が……否定出来るのか?」

『主……もうひとりの、あるじ……!』

「そうだ。オレは君のもう一人の主。そしてオレは君を直すと宣言した。だから……少しはオレを、信じてくれ」

 

 そこからの「彼女」の声は、完全に涙声だった。泣かせてしまったか。やはり、「優しい言葉」は難しいものだな。

 

『ごめんなさい、主……! ごめんなさい……』

「謝らなくていい。ただ、オレを信じて、少しだけ「気合」を出してくれればそれで十分だ」

『ごめんなさい、ごめんなさい……!』

 

 ふう、とため息をついてはやての顔を見る。彼女は……微笑みながら苦笑するという、中々難しい表情をしていた。

 

 

 

『……ごめんなさい、主……』

「だから謝る必要は……ふう。エンドレスになりそうだから蒸し返すのはやめよう」

 

 泣き止んだ「彼女」は、それでも謝り続けた。これはもう素の性格がそういうものだと思うしかないだろう。改善には時間がかかるので、今は捨て置く。

 

「それで、力を貸してくれるのか否か。それを表明してもらわないことには何も始まらない」

『……私は……』

 

 しばしの沈黙。書の中にいる「彼女」の表情は分からないため、何を思っているのか推し量ることは難しい。

 ただ、待つ。彼女の意志が何処にあるか、それを知るために。

 

『私は、ずっと諦めていました。この破壊の連鎖を止めることは出来ないと。永遠に続く悲劇を、止めることなど出来ないと』

 

 「永遠に続くものなどない」と言いたいところだが、黙って先を聞く。彼女にはそれだけの重さだったのだ。

 

『……もう一人の主が「可能性はある」とおっしゃられても、私は信じ切ることが出来ませんでした。あなたを主と認めたのは、私の意志なのに……』

「気にしていない。続けてくれ」

『……魔導書のくせにと思われるかもしれません。ですが……先ほどのもう一人の主の声を聴いたとき、私は……信じられたのです』

 

 何を、とは彼女は言わなかった。彼女も、分かっていないのかもしれない。非常に感覚的なことだったのだろう。

 

『主は……我がもう一人の主は、無根拠な気休めなど絶対に言わない。可能性があると言ったら、それは本当にあるのだと。……心の底から、震えたのです』

 

 そうか、と短く返す。もう答えは言ったようなものだが、彼女の口から意志を聞かないことには意味がない。

 一拍の間。そして彼女は、これまでで一番力強く応えた。

 

『我がもう一人の主・八幡ミコト。不肖の我が身を修復しようとされる尊き御意志に従います。私の力が必要なときは、なんなりとお申し付けください』

 

 それは紛れもない宣誓だった。正式に、夜天の魔導書がオレを主として従うという宣誓。

 ……何となく気配で分かっているが、ゆっくり後ろを振り返る。予想に違わぬ光景がそこにあった。

 

「我ら夜天の下に集いし雲の騎士」

「一同、あなた様をもう一人の主とし、従うことを誓います」

「この身尽きるまで、我らは御身の手足なり」

「最期まで我らがもう一人の主、八幡ミコトの下にあり」

 

 予想通りとは言え、ちょっと眩暈を覚えた。夜天の魔導書がオレをもう一人の主と呼んだり、ザフィーラが陥落した辺りで想像はついていた。

 だがこうして実際に、シグナム個人だけでなく、「ヴォルケンリッターを含めた夜天の魔導書の全て」が「オレの騎士」となる宣誓を受けると……胃がもたれる。

 

「……君達の宣誓、確かに聞き届けた。略式ですまないが、場所が場所なので勘弁してくれ」

 

 忘れてはいけない。ここはアースラの会議室だ。無人の荒野ではないし、八神家のリビングでもない。よそ様のお宅だ。というか、君達もそういうのは帰ってからにしてくれ、まったく。

 顔を上げたヴィータが、「へへへ」と悪戯っぽく笑ってオレに抱き着いてきた。……分かっててやったな、こいつは。

 

「それでは、帰ったら早速ミステールとアリシアを交えて会議だ。「気合」を入れてくれよ、夜天の魔導書」

『お任せあれ、我がもう一人の主!』

 

 彼女の声に、もう憂いはなかった。

 

 

 

「って何綺麗に締めようとしてんねん! まだわたしの話終わっとらんわ!」

 

 会議室を出ようとしたオレ達を、はやてのキレッキレの突っ込みが止めた。……そういえば途中で話の腰が折れてたな。

 

「だが折ったのも君だ。オレに話を振った結果、こうなったんだから」

「うっ。そらそうなんやけど、なんかこう……あるやん?」

 

 分からん。何があるのか知らないが、早く話してくれ。急に止められたもんだから、入口のところがつっかえて大変なことになっている。

 はやてはコホンとまたしても咳払い。

 

「夜天の魔導書ちゃん! あんたに、新しい名前を授けたる!」

「ああ……そういえば言ってたな。帰ってからでよくないか?」

「なして!? 何か今日のミコちゃん、対応がしょっぱい!?」

 

 正直早くミステール達と話し合いたくてうずうずしてるからな。はやてには悪いと思うが、何事にも優先事項というものはある。

 が、なのはが喰いついた。その様は今日のトカゲ魚を思い出す。まさに「釣れた」といったところか。

 

「そうなの! なのはも夜天の魔導書さんの新しいお名前、聞きたいの! いつまでも夜天の魔導書さんだと呼びにくいし!」

『よ、呼びにくい。そんな理由で……』

「でも、大事だよ? これから一緒に生活していくんだから、早く新しい名前に慣れた方がいいかもね」

 

 フェイトはなのはの援護に回った。なんだかんだで彼女も気になっているようだ。

 次いで、ガイ。

 

「んー。確かにはやてちゃんがどんな名前を付けるかは気になるよな。なんかスゲー気合入ってるみたいだし」

「んっふっふ。ものっそいかっこかわいい名前やでー。なにせ、決めるのに一ヶ月かかったからなー」

 

 そうか。「作品の世界線」でも、「はやて」は「彼女」に名前を与えたはずだ。ガイは、それを知っているということだ。そして同じにはならないことも知っている。

 ともかく、複数人が聞きたいようだ。ならばとっとと聞いて、さっさと帰ろう。

 はやて、三度目の咳払い。よほど自信があるらしく、気が済むまでもったいぶった。

 

 

 

 偉大な魔導書には、新しい名前が与えられた。

 

 

 

「あんたは、「トゥーナ」や。ベルカ語で「夜」を意味する「ナハト」と、「光」を意味する「リヒト」。ひっくり返して「トゥーナ・トゥーリ」。夜空に輝く星の光ってことで、「トゥーナ・トゥーリ」や!」




ル ー ン フ ァ ク ト リ ー 3
というわけで夜天の名前は「トゥーナ・トゥーリ」となりました。「トゥーナ・トゥーリ」で一つの名前です。中黒入れないとゲシュタルト崩壊しそう。
もちろん由来は「ルーンファクトリー3」のヒロインが一人「トゥーナ」ですが、作者がミコトの声を脳内再生するときの声がこのトゥーナだったりします。これをもとにそれっぽい理由付けして名前を構築した次第です。
これだとベルカっぽい名前に聞こえる……聞こえない?

「ディーパス」の世界は無人モンスターハンター(偽)です。何故(偽)かというと、作者はモンハンをプレイしたことがなく(だからPSPないんだってば)、知人からの情報提供でイメージを構築しているからです。
前回出てきたムカつく顔の鳥は一応イャンクック先生がモデルです。原型ないですけどね(こっちは紛れもない鳥類ですが先生は一応竜です)
トカゲ魚はガノトトスがモデルで(これもただの凶暴な魚ということにしてます)、海竜はラギアクルス+玄竜先生(ロマサガ3)です。
いずれもあくまでイメージをお借りしているだけなので、本家の強さや行動そのままというわけではありません。ご了承ください。

システムU-D及び紫天の書システムについて、資料提示及び考察しています。現段階では、あまり役に立たなさそうな情報ですね。
しかしながら、彼女達は一つのゲームの題材になった存在、一筋縄でいくはずがありません。果たしてどう絡んでくるのか……。

ミコトについては……順当です。普通だな!(ゲスい)

次回、いよいよ決戦開始! ……できたらいいなと思ってます(準備回延長の可能性)
ではまた。


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