不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!

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今回は戦闘シーンから「決戦!サルーイン(ミンサガ版)」を聞くと臨場感があるかもしれません。



長すぎィ!(普通だな!)


五十一話 最終決戦 その三

 まずは時間を少し遡ろう。

 

 

 

 

 

 オレがした提案に、ディアーチェはしばし沈黙した。沈黙の後、再び笑い出す。

 

『フハハハハ! 何を言い出すかと思えば! この我に、この魔導書を諦めろと申したか! 片腹痛いとはまさにこのこと!』

「それは「解放したら夜天の魔導書を乗っ取る」という宣言として受け取るが、よろしいか?」

『知れたことを。我らはそのために生み出されたのだ。この魔導書ごと「砕け得ぬ闇」を手に入れ、全てを手中に収める。それが我の、王としての矜持よ』

 

 取引を前にして偽りの回答で誤魔化さない辺り、「王」としての誇りを持っていると感心すればいいのか。それとも堂々と泥棒宣言をすることに呆れればいいのか。盗人猛々しいとはまさにこのことだろう。

 ……まあ、いい。彼/彼女の目的自体はどうでもいいのだ。大事なのはそれを知り、状況をコントロールすることなのだから。

 

「ならばあなたは何も得られないまま、魔導書の中で朽ちる時を待て。利害が一致しない以上、我々があなたの力を借りることも、あなたが我々の力を借りることも能わずだ」

『ほう、いいのか? その様子では、「システムU-D」に手を焼いているのだろう。我なくしては制御出来ぬのではないか?』

「制御しなければいいだけの話だ。多少の被害は出るだろうが、切り離して外部に捨てる。適当な宇宙空間で消滅させれば、再生したとてそう簡単には戻って来れないだろう」

 

 ブラフであるが、彼らの力を得られないときにオレ達が出来る最善策でもある。無限連環再生により完全に滅びることはないだろうが、それでも周辺になるべく被害を出さずに事を収められる。

 闇の王から再び笑い声が消える。オレの言葉が単なるその場しのぎの嘘でないと認識できたか。

 

『……貴様、何を考えている。無限の力を自ら捨てると言っているのだぞ。分かっているのか?』

「そんなものは初めから求めていない。夜天の魔導書の修復も、力を求めるために行っているわけではない。平穏な日常に戻るために、無差別な破壊を食い止めているに過ぎない」

『ハッ! 無限の力を持つ魔導書に、平穏な日常だと? そんなものが本当に可能だと思っているのか』

「可能にするために修復している。それとも闇の王は不可能を証明することも出来るのか?」

『歴史が証明しておるわ。力を持つものの周りには人が集まり、それを求めて争いを起こす。醜い人間の争いを、書を通して何度も見てきたわ』

「オレは不可能を証明できるのかと聞いている。争いが起こることを証明しろなどとは言っていない」

 

 事実として、ディアーチェの言っていることは理解出来る。たとえ今修復出来たとしても、遠い未来でオレ達の寿命が尽きた後に、それでもトゥーナ達が保護されるとは限らない。また同じことが起こるかもしれない。

 だがそうではないかもしれない。か細い可能性ではあるが、未来はいつだって不確定なのだ。そうなることを否定出来るのは、それが過去のものになってからだ。

 つまり今の時点ではどの未来も否定することが出来ない。彼/彼女の語る未来も、オレ達の望む未来も、等しく起こり得るのだ。

 

「もしここで不可能だと断ずるなら、あなたは未来の不確定さを理解出来ない狭量な王であることを証明することになる。よく考えて発言することだ」

『……口の減らぬ小娘だ。だが、少し貴様に興味が湧いた。光栄に思うがいい』

「それはどうも。話を戻させてもらう。あなた方の力を借りられずとも、被害を度外視すればやりようはある。その上であなたに交渉を持ちかけていることを、まず理解していただこう」

『はったり……ではないようだな。貴様からは「やると言ったらやる」スゴ味を感じる。……ならばもし、我らが解放された後、約束を反故にして魔導書を乗っ取ったとしたら、どうするつもりだ?』

「あなたがそんな狡い手を使うとは思えないが……そのときは、あなた方から魔導書を奪い返すまでだ。あなた方を消滅させてでもな」

 

 またしても闇の王は笑った。だが今度は先ほどまでと意味合いが違う。単純な愉悦の笑いだった。

 

『クハハハハ!! 魔導の才を持たぬただの娘が、ここまでの胆力を備えているとはな! いい! 実にいい!気に入ったぞ、娘!』

「もう一度名乗ろう。八幡ミコトだ。小娘でも娘でもない」

『ならば我も、そちに敬意を込めてもう一度名乗ろう。我こそは闇統べる王、ディアーチェ。ロード・ディアーチェだ』

 

 交渉相手と認められたと見ていいだろう。そうなれば、後は早いはずだ。

 

「こちらからあなた方に提示できる条件は、書からの解放と「システムU-D」の所有権のみ。夜天の魔導書は既にオレ達にとって重要なものだ。手放すわけにはいかない」

『ふむ。我らとしては闇の書……否、夜天の魔導書も手中に収めたいところではあるが、それでは取引は成立せぬということか』

「理解が早くて何よりだ。あなたはここから解放されたくて、はやてに自身の存在をアピールしたのだろう」

『一縷の望みをかけて、だったがな。この様子では、子鴉ではなくそちが主導となって我らの存在を突き止めたようだな』

「っていうか、わたしが王さんのこと思い出したの、ここに来てからやで。もうちょい記憶に残るアピールしてくれへん?」

 

 「なん……だと……?」と驚愕するディアーチェ。一縷の望みと言ったくせに、割と自信はあったようだ。それではただの慢心だろう。

 まあ、別にいいが。彼/彼女ではなく、「システムU-D」の方が強烈に"アピール"したおかげで結局は辿り着いたのだから。ディアーチェの空回りなどどうでもいい話だ。

 

「まだ答えを聞いていない。それで、どうする?」

『……いいだろう。そこが落着点のようだ。それに今は手に入れられずとも、後々我が手中に収めればいいだけの話だ』

「言い忘れていたが、手出し禁止の期限はなしだ。もし夜天の魔導書を乗っ取ろうというそぶりを見せたら、その時点で消滅させる。覚えておいていただきたい」

『ぐぅ、しまった……』

 

 こっちがその程度を考えていないとでも思ったのか。甘いわ。

 ともあれ、首輪を付けることには成功したようだ。ミステールと念話を繋ぎ、解放作業の指示を出す。

 少しの間があってから、彼らの周囲でパキンと何かが弾ける音がした。「紫天の書システム」が「ナハトヴァール」の檻から解放された証だ。

 紫色の光の向こうで弱弱しく輝いていた二つの光――紅蓮と水色が強さを増す。「起きた」のだろう。

 

『ふわあぁ~……あー、よく寝た。あ、王様おはよう!』

『起き抜けに叫ばないでください、頭に響きます。……ああ、私達に頭はありませんでしたね』

『情けない臣下どもだ。客人の前だぞ、もう少しシャキっとせんか』

 

 やはり、どちらも男性とも女性ともつかぬ声だった。ただ、青の方は年少のイメージがあり、赤の方は歳経た印象を醸し出す落ち着いたものだった。

 大体の関係性を理解する。正直、交渉するなら赤マテリアルの方がよかったと内心嘆息する。

 ディアーチェの「客人」という言葉を聞き、青マテリアルの方がオレ達の周囲を飛び回る。

 

『うわー! こんな場所に人がいる! すごいすごい! こっちの子、人形みたいで超可愛い!』

『こら、レヴィ! その娘は我のものだ。勝手に手を出すでない』

「ちょっと待て、オレはあなたのものになった覚えはないぞ。勝手なことを言わないでもらいたい」

「そうやで! ミコちゃんはわたしのお嫁さんや! あんたなんかに渡すかいな!」

 

 妙なことを言い出したディアーチェに対抗するはやて。だからそんな事実はないと。

 

『なぬッ、そうだったのか!? その歳にして伴侶持ちとは、侮れぬ……』

「違う。はやては「相方」だと最初に言ったはずだ。そういう間柄ではない」

『相方……漫才等のパートナーを意味します。芸人の方でしょうか』

「ちゃうわ! 赤さん天然系かいな!?」

『私の名は「シュテル」と申します、夜天の主殿』

 

 紫がリーダーでシステムの核となる「ディアーチェ」、青が実働担当の「レヴィ」、赤が参謀の「シュテル」。推測するに、そういう役回りだ。

 これで「紫天の書システム」は解放したのだ。いい加減働いてもらいたい。……本当にこいつらに任せていいのかという疑念は尽きないが。

 まあ、キャラクターは性能に関係ないのだろう。多分。きっと。そこはかとなく。

 

「久々の他人でしゃべりたくなる気持ちは仕方ないかもしれないが、そろそろあなた方を解放した目的を果たさせてもらおう。あまりこの場に長居できるものでもない」

『まあそう急くな、ミコトよ。我が妃となる者ならば、もっと余裕を持たねばな』

「誰がなるか。……オレ達が脱出しなければ、あと20分ほどで書の凍結封印が始まる手筈になっている。巻き込まれたいというならゆっくりしてもいいが」

『な、何だと!? 中にそちらがいるのにか!?』

「そういう作戦だ。ちなみにオレもはやても納得してここにいる。犠牲になる気はさらさらないがな」

 

 ようやく危機感が出てきたディアーチェ。……最初からこうしておくべきだったか? いや、さっきの段階でそれは危なかったな。逆に足元を見られる可能性があった。これが最善だ。

 

「書とともに氷漬けになりたいなら、ゆっくり茶でも飲んでろ。それが嫌なら急げ」

『そ、そうは言うが!』

『その前によろしいでしょうか、お妃様』

「……、……なんだ」

 

 突っ込みたかったが、突っ込んだらまた時間を消費する。ぐっとこらえてシュテルの先を促した。

 

『このままだと我々は書の外部で活動が出来ません。「システムU-D」を外部に運び出すためにも、躯体を作る時間をいただきたく存じます』

「……確かに、それは必要だ。分かった、だが早くしてくれ」

『御意に。……このデータがよさそうです。躯体、構築』

 

 シュテルの赤い光が書の中の魔力を吸収し、人の形を成す。……中々派手にやらかしているが、大丈夫だろうか。「ナハトヴァール」に感づかれないか?

 まあ、ここまで自由に行動出来ているということは、外でシャマル達が頑張ってくれているのだろう。戻ったらねぎらってやらねば。

 

「……躯体構築、完了。"理のマテリアル"「天秤座の断罪者(シュテル・ザ・パニッシャー)」。稼働、開始」

 

 シュテルが構築した躯体は、クロノの姿だった。髪が赤になっているのは、シュテルのパーソナルカラーが現れているのだろう。

 ……妥当なところか。勝手に姿を使うのはどうかと思うが、「参謀」としての判断は間違っていない。

 

「さあ、レヴィと王も急いでください」

『おー、シュテるんかっこいい躯体選んだね! じゃあ僕も、凄くて強くてかっこいい躯体にするぞー!』

『こ、こら! 何故うぬらが先に躯体を作っている! こういう場合は王たる我が……』

 

 皆まで言わせず、レヴィは「へんしーん!」と掛け声を出し、躯体を構築した。……もたもたしてるからだ、愚か者め。

 レヴィの躯体は……見た瞬間、頭が痛くなった。何故よりにもよって"コレ"を選んだのか。

 

「ふふふ、どうだー! 凄くて強くてかっこいいぞ、僕!」

「見事な肉体美です。"力のマテリアル"に相応しい姿ですね」

「おー! "力のマテリアル"「鉄拳の破壊者(レヴィ・ザ・グラップラー)」! 僕より強い奴に会いに行く!」

 

 筋骨隆々の少年。つまりはユーノの姿だ。髪の色だけが違い、水色になっている。シュテルはまだイメージを離れていないが、彼はユーノの性格と違い過ぎる。違和感が酷い。

 ちなみにこの躯体を選んだ理由というのが、「筋肉=強い=かっこいい」という連想だったそうだ。……彼については、考えるだけ無駄なのだろう。脳筋だから。

 最後に残った闇の王、ディアーチェ。彼/彼女は、自身の部下が先走ったことに大層腹を立てていた。

 

『だから何故我を後回しにする! うぬらリソースを食い荒らし過ぎだ、この……バカ者ども!』

「えー。王様がもたもたしてるのがいけないんじゃーん」

「文句を言うぐらいなら、解放された直後に躯体を作ればよかったのです。相変わらずウスノロなんですから」

『ウスノ……!? シュテル、貴様今我のことを侮辱しなかったか、おい!?』

「してませんよ。いつでものんびり出来てうらやましいなぁと言ったんです。ふふふふふ」

『んがあああああ!?!?』

「コントは後にしろ、大バカ者どもが。時間がないから早くしろともう一度言わなきゃ分からんのか、ええおい?」

 

 さすがにイライラしてきたので、言葉で急かした。そこまで怖くしたつもりはなかったが、レヴィが怯え、シュテルがその場で平伏した。……妙な力関係が出来上がりつつある気がする。

 

『うぅ、リソースがあまり残っておらん……近場で妥協するしか……ええい、仕方あるまい!』

 

 わずかな葛藤の後、やはり氷漬けは嫌だったようで、ディアーチェは躯体を構築した。

 紫色の光が人型となり、質感を持つ。現れたその姿は……髪色が銀になったはやてだった。それを見て、オレもはやてもちょっと顔をしかめる。

 

「……本当はミコトに見合うだけの男を構築したかったが、致し方ない。今はこの貧相な姿で我慢、して……」

 

 不機嫌を露にしたディアーチェは、突然言葉を区切り、自分の股間に手をやる。そしてわなわなと震え出し。

 

「子鴉、貴様……女じゃないかッ!」

「はぁ? 今更何言うてん。どっからどう見ても可愛い女の子やろが」

「ミコトを嫁などと言い出すから、てっきり女装趣味の男かと思っておったわ! これではミコトを妃に出来ないではないか! どうしてくれる!?」

「知るかァ! あんた、失礼にも程があるわ! 貧相言うたり男言うたり、あんたの都合なんか知るかいな!」

『あ、主……どうか落ち着いて……』

 

 ため息が出た。これはもう、許されるよな。

 オレは口ゲンカを始めた二人にツカツカと歩み寄り、二人の頭に拳を叩き落とした。

 

「あだぁ!?」

「いたっ! み、ミコちゃん?」

「いい加減にしろよ、バカども。これで三回目だ。ぐだぐだやってる時間はないんだよ」

「み、ミコちゃん……ごめん……」

 

 自分でもついヒートアップしてしまったことが分かっているはやては、シュンとなった。……ちょっと言い過ぎたかもしれないけど、本当に時間がないのだ。

 ディアーチェは……まだ納得がいっていない顔だった。それでもオレの言い分は分かるからか、何も言ってこなかった。……少し悪いとは思うが、注文をさせてもらおう。このままではオレの精神がもたない。

 

「……ディアーチェ。その髪留めは取ってくれ。正直不愉快で仕方がない」

「髪留め? ……このペケ印のことか。これがどうした」

「それはオレとはやての絆の証だ。何も理解していないあなたに付けてもらいたくはない」

 

 彼女ははやての姿をコピーしたため、髪留めまで同じだった。だけどオレも付けているこれには、二人の想いがつまっている。形だけの模造品など、見ていてイラつくだけだ。

 事実、ディアーチェは何も理解出来ていない。「こんな安物の何が大事なんだか」と言いながら、髪留めの部分を消した。

 欲を言うならば、はやての姿もやめてもらいたいところだが……今はそれを望むべきではない。これ以上無駄な時間を費やすわけにはいかないのだ。

 

「準備が出来たなら行くぞ。……はやて、頼む」

「むー。色々納得出来てへんけど……時間、ないもんな。我慢するわ」

「こちらの台詞だ。まったく、何が悲しくてこんな貧相な娘のボディを使わねばならんのか……」

 

 ぶちぶち言い出したディアーチェを無視し、オレ達(彼女を除くマテリアルも)は空を飛び「システムU-D」のある場所へと向かった。しばらく経ってから、慌てたディアーチェが追い付いてきた。

 

 

 

 先ほどの場所へと戻ってくる。やはり、オレの目には何も見えない。はやての目にも、トゥーナにもだ。ミステールのみ、修復の感触として知っている。

 だが対「システムU-D」の制御プログラムとして作られた「紫天の書システム」には、その存在を間近に感じられたようだ。

 

「おお……感じる! 感じるぞ! 震えるほどの暗黒を! 我が求めた忌まわしき無限連環機構が、すぐそこにあるぞぉ!」

「やかましい。悲願を目の前にしてテンションを上げるのはいいが、ちゃんと制御できるんだろうな?」

「ふん、今更何を! 我は「砕け得ぬ闇」を制御するための存在ぞ! 誰に物を申しておる!」

「ディアーチェとかいう人の話をまともに聞くことも出来ないド阿呆に、だ。シュテルに交代できないのか。彼の方が安心できるのだが」

「な、何故だミコト!? 我はそんなに頼りないというのか!? やはりこのボディなのか!? ちんちくりんなのがいけないのか!!?」

「やっかましいわ! 誰がちんちくりんや! ミコちゃんよりは身長あるわ!」

「重ね重ね我が王がご迷惑をおかけして申し訳ありません。……謝罪ついでに、「紫天の書システム」の核である紫天の書は、王にしか使用できません。私も代われるものなら代わりたいのですが」

 

 またしても口ゲンカを始める二人を無視し(はやてには悪いが余裕がない)、シュテルの応答を聞く。やはりコレに頼らなければならないのか。……不安だ。

 不安の原因というのは、ディアーチェの頼りなさもそうなのだが、何よりもこいつの「斜め方向に突き抜けた感じ」がヤバい。首輪はつけたが、それだけでは不十分だったかもしれない。

 今一番怖いのは、「制御不能な予想外」が起こることだ。時間的余裕がないこの状況では、それが発生した時点で現段階での修復を諦めなければならない。

 無論のこと、そうなったらそうなったで「ナハトヴァール」を分離・打倒してから修復を行えばいいだけなのだが、その「ナハトヴァール」に「システムU-D」がくっ付いている状態なのだ。何が起こるか分からない。

 だからこそ「システムU-D」を唯一制御できるディアーチェに頼らざるを得ないのだが、そのディアーチェが別の予想外を発生させそうだというのだからタチが悪い。

 本当に、開発者はなんでこんな性格設定にしたんだか。

 

「なら仕方がないか。おい、そこの大バカ愚鈍王。油を売るのはその辺にして、ここに来た目的を果たしてもらおうか」

「大バカ愚鈍王ってなんだ!? ……ま、まあよかろう。ミコトだから特別に許す。して、我が「砕け得ぬ闇」を制御するとしても、まずはこの厳重な隠ぺいを解いてもらわねばな」

「それだけならば私でも可能です。しばしお待ちを……「ルシフェリオン」」

 

 シュテルが手にするデバイス(ルシフェリオンという名前らしい、形はS2Uにそっくり)が宝玉部分を明滅させ、辺りを覆う闇を歪ませる。

 歪みは収束していき、球体を形成する。一際濃い闇色の部分が、恐らくは「システムU-D」が隠れている部分なのだろう。

 空間の幕が、一枚一枚はがれていく。闇は、だんだんと明るい色彩を映し出していった。そして最後の一枚がはぎとられ、ようやく「システムU-D」の姿が露となる。

 ……オレにとってもはやてにとっても、マテリアルズにとっても予想外であった、「システムU-D」の姿が。

 

「こ、これは……人間型、だと? 「砕け得ぬ闇」が人の姿をしているなどとは聞いておらぬぞ!!?」

「どういうこと、なのでしょうか。お妃様は、何か詳細を?」

「……知らん。資料にもそこまでのことは書いてなかった。長い歴史で欠落したのか、それとも製作者が意図的に隠したのか……」

「この子、本当にプログラムなんかな。……なんや、キナ臭くなってきたわ」

 

 はやての言う通りだ。これは、プログラムであるようには思えない。ヴォルケンリッターやトゥーナ、マテリアルズとは違い、最初から人の――少女の姿をしている存在だ。

 緩くウェーブのかかった長い金髪。深窓の令嬢を思わせる白い肌。身に纏う白を基調としたフリルのついた衣装が、眠る少女のあどけなさを演出する。

 もし「システムU-D」が年端もいかない人間の少女に「エグザミア」を埋め込んで構築されたシステムだったとしたら、その事実を隠ぺいされる可能性は十分にあるだろう。……なんだか、嫌な感じだ。

 

「ねー。「砕け得ぬ闇」の起動、まだ終わらないのー?」

 

 レヴィの何も考えてなさそうな声で現実に引き戻される。……今は考察をしている時間ではなかったな。

 ちなみにそのレヴィだが、さっきから倒立やらバク宙やらをして遊んでいる。実行戦力である彼は、防衛プログラムの目が外に向いている現状ではすることがないのだろう。

 

「そうだった。少々予想外ではあったが、やることに変わりはない。ディアーチェ、やるからにはきっちりとやれよ」

「わ、分かっておるわ! ちょっとびっくりしただけだ! ……、よし」

 

 彼女は手にした紫色の魔導書――紫天の書を開く。右手に持った杖状のデバイス(はやてが持つものと酷似)を「システムU-D」の本体の胸元に向けた。

 そのまま深呼吸をし、気持ちを落ち着ける。何のかんの言いながら緊張している辺り、実は小心者なのか。いや、ただ集中するためとも考えられるか。結局よく分からない。

 待つことしばし。そして彼女は「システムU-D」の制御を――始めなかった。

 

「ミコトよ。始める前に、その……ほっぺでいいからチューしてくれんか?」

「寝言は寝て言え。真面目にやらんか、大バカ色ボケ愚鈍王」

「増えた!? い、いや、しかしだな。やはりご褒美があった方が励みになるというか、我もやる気が出ると思わんか?」

「報酬なら先に提示した。今更条件を変えるつもりか? それでは王の器が知れるぞ」

「王、私からも提案します。これ以上お妃様の好感度を下げる前に、「砕け得ぬ闇」の制御を実行した方がよろしいかと」

「う、うぅ、だがなぁ……」

 

 先ほどまでの不遜な態度は何処へやら。今の彼女は駄々をこねる少女以外の何者でもなかった。……もしかしたら、はやての体をコピーした際に思考が影響を受けたのかもしれない。

 だがしかし、それで手心を加えるわけでもない。この手合いは一度甘い顔をしたらつけあがる。強気の対応を取り続けなければならない。女の子の唇はそんなに安くないのだ。

 

「状況を考えろ。もう時間がないと何度も言っている。あと10分だ」

「ちゅーかミコちゃんにチューしてもらおうとか、いくらなんでも調子に乗りすぎやわ」

「ええい、さっきから黙って聞いていれば好き放題言いおって! 貴様に言われる筋合いはないぞ、子鴉!」

「やかましゃあ! ミコちゃんはわたしの「相方」や! わたしが認められんような相手にミコちゃんの唇やれるかい! 大体、どの辺が黙ってたんや! ピーピー喚いとったやないか!」

「あの、お二方。本当に、その辺にしておいた方が……」

 

 シュテルが止めるが二人は聞かない。……ディアーチェは論外だが、はやてもはやてだ。何故こうも彼女に突っかかってしまうのか。姿をコピーされたからだろうか。

 ともかく、ディアーチェは何度時間がないと言えば理解出来るのだろうか。もう数えるのも嫌になってきたぞ……。

 仕方ない、また実力行使で言うことを聞かせよう。――そう思ったときだった。

 

 突如として、夜天の魔導書の中が揺れ出す。これまで外での戦闘の影響が一切なかった魔導書の中に、空間そのものを揺らしたような震動が伝わってきたのだ。

 

「な、なんだ!? 一体どうしたというのだ!」

「……王。大変残念なお知らせです。「砕け得ぬ闇」が起動暴走を起こしました。隠ぺいを解いたのにしばらく放置してしまったのが祟ったようです」

 

 シュテルが無感情・無表情で状況を告げる。だが彼の目だけは、間違いなくディアーチェを蔑んでいた。……オレも同じ気持ちだ。こうならないためにこいつらに助力を求めたというのに。

 今になって慌てだしたディアーチェが、再び「システムU-D」の制御に向かおうとする。が、「システムU-D」はそれを拒絶するかのように、黒い闇の中に包まれてしまった。……これで完全に制御不能だ。

 

「おい、この大バカ色ボケ愚鈍無能王。どうしてくれるんだ、ええおい」

「お、落ち着くのだミコト! ま、まだ万策尽きたわけでは……」

「いえ、万策尽きました。残り時間内に「システムU-D」を止めて制御プログラムを打ち込む術はありません。ああ、防衛プログラムも取り込み始めたようです。全部あなたのせいですね、この大バカ色ボケ愚鈍無能王」

「ぬああああ!?!?」

 

 事態はどんどん悪化していく。もう、オレ達に出来ることは一つしかなかった。

 

≪……ミステール。こうなったら仕方がない。「システムU-D」を書から切り離してくれ≫

≪それしかないか。じゃが、かなりごっそり行くことになるぞ。トゥーナにどんな影響が出るか……≫

≪構いません。主達を危機に晒すぐらいならば、多少の傷は厭いません。やってください、ミステール≫

≪……分かった。ぬしの覚悟、しかと受け取ったぞ!≫

 

 ミステールに指示を出し、因果操作による修復……否、システムの切り取りを行う。膨れ上がる黒い闇が空間ごと削り取られ、その向こうに明るい光が現れた。外の空間へとつながる出口だ。

 

「こちらでシステムの切り離しは行わせてもらった。取引は続行だ。一緒に外に出てもらう。「システムU-D」の暴走を止め、その後制御を行う。……今度ミスしたら二度と口を聞かんから、そのつもりでいろ」

「了解です、お妃様。行きますよ、ディアーチェ。次にお妃様の御不興を買う真似をしたら、私があなたを焼きます」

「うぬは誰の臣下なのだ!?」

「わーい! 久々の外だー! いっちばんのりー!」

「……はあ、頭痛い。どうしてこうなったんやろな」

 

 それはオレも知りたかった。

 

 

 

 

 

 何が悪かったと問われれば、一言では言い表せないだろう。

 「紫天の書システム」に期待しすぎた。ディアーチェに舐められないためにやり過ぎた。「システムU-D」がここまで不安定だとは想定していなかった。余計なことで時間をかけ過ぎた。などなど。

 先ほどはついディアーチェに当たってしまったが、最終的にオレの責任に行きつくことは理解している。方針を立てたのは他でもないオレなのだ。

 それでもどうしても思ってしまうのだ。「ディアーチェがもう少し真面目だったら、こうも七面倒くさい状況にはならなかった」と。

 

≪陣形「ディフェンシブスフィア」。絶対、迂闊に手を出すな≫

 

 対象を取り囲む防御陣形。全員が防御態勢となることで守りを固める「見」の陣形だ。まずは「システムU-D」の攻撃範囲と方法・威力を知らなければならない。

 連携訓練に参加していなかったクロノ達は、自分達の判断で防御を固めることにしたようだ。対照的にマテリアルズは攻めの姿勢。

 ――ここまで、マテリアル達に召喚体の存在を教えることはしていない。特にディアーチェがあの性格なので、信用に値しないのだ。

 だから、ミステールの念話共有も彼らには行っていない。ある意味、彼らがいるからこその「ディフェンシブスフィア」と言ってもいいかもしれない。

 

「行くぞ、シュテル、レヴィ! 何人たりとも、我らの覇道の邪魔はさせぬ!」

「おー! スーパーでスペシャルな僕のパワー、見せてやるぜー!」

「御意。……皆様に「よく御観察ください」とお伝えください」

「……気を付けて行けよ、シュテル」

 

 シュテルのみはオレ達の意図を理解していたようだ。苦労をかける。……彼はディアーチェの臣下のはずなんだがな。

 先陣を切るのはレヴィ。他二人とは違いデバイスを展開せず、肉体一つで戦うつもりらしい。元となったユーノにそんな経験はないはずだが。

 

「いっくぞー! 雷神拳!」

 

 パチパチと水色の火花を散らす魔力。どうやら彼は電気変換資質を持っているようだ。……本当に、何故ユーノを元にした。フェイトの方が適合率が高いんじゃないのか?

 火花を拳に纏い、「システムU-D」に叩き込む。しかしそれは彼女に届くはるか前で、見えない壁に阻まれ弾かれた。かなり分厚い障壁みたいだな。

 

「次は私です。……フレイムスロワー!」

 

 一方シュテルは、遠距離からの射撃魔法。彼の方は炎熱の変換資質か、もしくは炎熱変換プログラムを習得しているのか。彼の場合はどちらでもあり得そうだ。

 彼の攻撃は、攻撃というよりは障壁の形をはっきりとさせるためのものだ。複数個の炎の塊を異なる方向からぶつける。……本体を中心に、半径1.5m程度。やはり、分厚い。

 そして最後は、彼らの王。ロード・ディアーチェによる砲撃。

 

「温いぞ貴様ら! 攻撃とはこうやるのだ! 黒竜波!」

 

 デバイスから放たれる黒の衝撃波。……察するに、彼女の魔法は夜天の魔導書に記録されたものを元にしているのだろう。リソースが足りないと言っていた割には、結構余裕があったようだ。

 砲撃は障壁にぶつかるとともに、周辺を飲み込む黒い渦へと変化した。近くにいたレヴィが巻き込まれたようだが……退避しろよ。

 渦にのまれ、「システムU-D」の姿は目視で確認できなくなる。が、確認するまでもなく通用していないだろう。あれは多分、ただの力押しでどうにかなる相手ではない。

 

「っぺっぺ! ちょっと王様ー! 僕まで巻き込むなよー!」

「近くにおったうぬが悪い。それに、"力のマテリアル"ともあろう者があの程度の余波でどうにかなるものかよ」

「……まだ油断してはダメですよ、レヴィ、王」

 

 脳筋のレヴィは別としても、リーダーであるディアーチェに隙が多すぎる。紫天の書が非常に高性能であることは分かったが、過信していると言っていいだろう。

 特に今回の相手は、「無限連環機構」などという化外の存在が相手なのだから。過信は、命取りとなった。

 渦の中から黒い爪のような刃が伸びてくる。まずレヴィが腹部を貫かれ、大きく投げ飛ばされた。進行方向にいたアルフがそれをキャッチ。

 反撃は当然、シュテルとディアーチェにも及ぶ。警戒を続けていたシュテルがディアーチェのそばに飛び、ラウンドシールドを展開して防御した。

 

「……かふっ」

「レヴィ、シュテルっ!? ……おのれぇ!」

 

 闇色の爪はあっさりとシールドを貫通し、シュテルにも突き刺さった。彼が身を挺してかばったおかげで、ディアーチェは無傷で済んだようだ。

 ……攻撃範囲も、かなり広い。どうやら背後に浮かんでいる赤黒い二つの球体が、形を変えて攻撃を行うようだ。射程は最低でも20mで、360°全方位を薙ぎ払えると見ていいだろう。

 近付くことは危険だ。まずは遠距離から攻撃するしかない。

 

≪なのはと管理局組は遠距離から砲撃を行ってくれ。フェイト、シグナム、恭也さん、ヴィータは、引き続き「見」で奴の攻撃を見切ってもらいたい。シャマル、彼らの治療を行ってくれ。他は全員防御≫

≪『了解!』≫

 

 はっきり言って、この攻撃で障壁を破ることは不可能だ。まずは近接組が安全に攻撃に移るための土壌を作る必要がある。全てはそこから。

 砲撃が始まる。何発かは障壁に命中するが、「システムU-D」はびくともせず、ただ砲撃の方向を見ていた。

 ディアーチェが戻ってくる。シュテルに肩を貸し、彼の方は腹部を抑えている。……血が流れないあたり、肉体を完全にエミュレートしているわけではないようだ。やはりヴォルケンリッターとは違う。

 それにしても、何のかんの言いながらディアーチェは臣下のことを大切に思っていることが伺える。慢心と色ボケさえどうにかしてくれれば、こちらもストレスがたまらずに済むのだが。

 

「大丈夫か、シュテル」

「はい。私達はプログラム故、肉体的な損傷自体はさほど問題になりません。……痛みは別ですが」

「無理をするでない、シュテル! 今我の魔力を分け与えて……」

「その必要はありません。この程度なら、自力で修復できます」

「シュテルの言うことを聞いておけ。あなたには重要な役割がある。大局を見誤るなよ」

「っ……くっ!」

 

 ディアーチェは己の浅はかな判断を悔やんでいるようだが……オレも彼らを捨石にするような判断をしている。何を言えるものでもないだろう。

 ただ目的を達することだけを考えるべきだ。何とかして「システムU-D」の活動を停止させ、ディアーチェに制御プログラムを打たせる。それが今の目的。

 だから、ディアーチェを消耗させるようでは本末転倒なのだ。

 

「お待たせしました、ミコトちゃん! 今その子も治療します」

 

 レヴィの治療に向かったシャマルが戻ってくる。回復したレヴィは、性懲りもなく「システムU-D」に吶喊していた。……彼については自己修復任せでよかったかもしれない。

 ディアーチェとシュテルの足元に、翡翠色のベルカ式魔法陣が展開される。シャマルの治療魔法なのだが、ディアーチェは警戒しているようだった。

 

「……どういうつもりだ、守護騎士。何故我らを助ける」

「協力するという話だったでしょう。……あなた達が夜天の魔導書を乗っ取るつもりだったこと、気にしてないって言ったら嘘になるわ。でも……あなた達だって、過去の主の被害者だもの」

 

 シャマルは分かっている。彼らが「人の都合で生み出され、振り回された存在」であることを。同じ「ナハトヴァール」の被害者であることを。

 だから、思うところを飲み込み、オレの指示に従ってくれている。命令をすれば従わせることは出来るだろうが、あくまで彼女達の意思で、判断で、従ってくれているのだ。

 シャマルは治療を進めながら、「システムU-D」を見る。レヴィは爪を回避したが、拳のようなものを避けきれず殴り飛ばされた。彼が頑張ってくれているおかげで、砲撃部隊は攻撃を受けていなかった。

 

「あの子も同じ。あの子だって、好きで夜天の魔導書に沈められたわけじゃない。誰にも扱えなかったから、保管場所として夜天の魔導書が選ばれただけ。……出来ることなら、日の当たる場所で過ごさせてあげたい」

「お優しいことだな。それで我らが心打たれ、夜天の魔導書を諦めると思ってのことか?」

「そもそも夜天の魔導書に手を出すのは契約違反だがな。闇の王は物忘れがひどいと見える」

 

 「うぐっ!?」と呻くディアーチェ。よく考えて発言しろ、バカ者が。

 シャマルは、しかしディアーチェの言葉に、首を横に振る。

 

「ただわたしが満足したいから。そうやって、ここまでの長い旅路が無駄じゃなかったって納得したいから。「わたし達の都合」なのよ」

 

 「ね?」とオレに微笑みかける。……ああもう、オレの周りはお人好ししかいないのか。わざわざオレに確認を取るな。

 

「こうなってしまったからには、全部助ける。夜天の魔導書も、「紫天の書システム」も、「システムU-D」も。その方がいっそ手っ取り早い」

「……ということ。それに、主の命に従うのは騎士の誉れなのよ」

 

 ディアーチェは、信じられないものを見るような目でオレ達を見た。オレの滅茶苦茶な発言にか、それとも守護騎士がオレを主としていることにか、それは分からない。

 ベルカの魔法陣が消える。シュテルの治療が完了したようだ。彼はディアーチェから離れ、一人で浮かんだ。

 ディアーチェは……笑った。豪快に、オレを認めたときのように。

 

「クハハハハッッ!! 我が目に狂いはなかったようだ。否、我が思っていたよりもはるかに大きな器だった。ミコトよ、そちは何者なのだ?」

「ただの小学生だ。魔導の力はなく、戦えるだけの力も持たず、小賢しく考えることしか出来ない……それで夜天の魔導書に「もう一人の主」と認められただけの、ただの小学生だ」

「それは最早「王」の在り方よ。ショウガクセイが何かは知らぬが、卑小なる民草とは比するべくもない。よかろう、我が「盟友」よ。今は貴公に従おう」

 

 オレの扱いがコロコロ変わる。忙しい奴だ。だが、期間限定でも従ってくれるというなら、助かることに間違いはない。有効活用させてもらうまでだ。

 

「よろしい。それでは早速だが、あなたの配下に危険な役回りを担ってもらおうか」

「……やってくれるか、シュテル」

「是非もなく。王のため、お妃様のためならば、喜んで捨石になりましょう」

 

 初めからオレの言葉に従っていたシュテルだが、もしかしたらこうなることを予見していたのかもしれない。だとしたら、とんだ食わせ者だ。

 だが、一つだけ言わせてもらおう。

 

「布石にはするが、捨石にする気はない。オレの「チーム」を侮らないでもらおうか」

「……ふふふ。失礼致しました」

 

 ――君の行動は十分に見させてもらったぞ、「システムU-D」。そろそろこちらも攻撃に移らせてもらおう。

 

 

 

 ディアーチェに念話で指示を出させ、レヴィに内容を通達する。彼に与えた指示は単純明快、「周りは気にせず死ぬ気で殴れ」。

 彼はユーノを元にしたためか、それとも元のプログラムが実行担当だからか、かなり頑丈な作りになっているようだ。先ほどの治療も、シャマルはほとんどやることがなかったと言っていた。

 刺されても斬られても殴られても、数秒後には何事もなく吶喊している。これで、「システムU-D」が持つ攻撃手段の一つは潰せている。

 彼女が持つ黒球は二つ。つまり、同時に攻撃出来る対象は二つまで。そのもう一つを、シュテルに埋めさせる。

 

「私はこちらですよ、「砕け得ぬ闇」。バスターフレア!」

 

 炎熱の砲撃が「システムU-D」の障壁を叩く。オレは魔力が感じられないから威力は分からないが……見た目クロノのブレイズキャノンと同等程度か。かなり頼もしいな。

 それでも障壁を破るには至らない。可視化されていないことから、実体ではなくエネルギー性の障壁と思われるが、相当な高出力だ。無限連環機構により生み出された余剰エネルギーなのだろうか。

 「システムU-D」の目がシュテルを捉える。左の黒球が形を変え、シュテルを迎え撃つ槍となった。

 今だ!

 

≪連携発動! コード「アタックチェーン」!≫

 

 オレの号令を受けて、近接攻撃組が動く。「システムU-D」へと向けて、別々の方向から一斉に襲い掛かった。

 まず最初に攻撃したのは、フェイト。

 

「やあっ!」

『Scythe slash.』

 

 すれ違いざまの一閃。魔力の刃が障壁をひっかき、火花を散らす。次いで、恭也さん。

 

「御神流・斬徹!」

 

 斬撃と衝撃の合わせ技。速攻でありながら、かなりの威力を誇る一撃だろう。それでも障壁を破ることは出来ない。

 もう一発、「システムU-D」の障壁に蹴り(恐らくは「徹」)を入れ、その反動で離脱する。入れ替わるようにヴィータが吶喊した。

 

「ラケーテンハンマー! 吹っ飛べぇ!」

 

 ヴィータお得意の回転打突撃だ。それだけの威力であれば、障壁にかなり深く食い込むことが出来た。が、そこまでだ。まだ届かない。

 ここで満を持して、シグナム。

 

「出し惜しみはせん! レヴァンティン!」

『Explosion.』

「紫電一閃ッ!」

 

 カートリッジをロードして増幅された一撃。射程ではなく威力に炎が注がれたその一発は、「システムU-D」を大きく弾き飛ばす。

 多少は障壁を削れただろうか。ともかく、この作戦の肝を投入する。

 

≪砲撃、開始!≫

「ディバイィーン、バスター!」

「ブレイズキャノン!」

「続くよ、ロッテ!」

「あいさー! チップ、オープン! ブレイズキャノン・プラス!」

「あたしもやるよ! サンダースマッシャー!」

 

 砲撃魔法が使用可能なメンバーからの集中砲撃。それを受けて、シュテルとディアーチェも砲撃に参加する。

 色とりどりの魔力光の爆発により、「システムU-D」の姿が見えなくなる。……これで、多少なりともダメージが入っていると楽なんだがな。

 近接攻撃に参加したメンバーがオレの周りに戻ってくる。その後、砲撃組と彼らを防御していた盾組も戻ってきた。シュテルとレヴィもだ。

 

「ヒットアンドアウェイで的を絞らせなかったのか。大した策だ」

 

 ディアーチェが今の連携について評価する。ちゃんと理解していたようだ。

 「アタックチェーン」は複数人によるヒットアンドアウェイの連撃だが、どうしても初撃の危険が高い。本来なら最初に盾役を投入するのだが、今回の場合敵の出力の高さによりそれも難しい。

 そこでダメージをある程度は無視できるマテリアルの二人に、「システムU-D」の迎撃手段を一時的に潰してもらったのだ。

 

「皆様、見事な連携でした。刺されたかいがあったというものです」

「ぶー。僕一人でもやれたのに」

「……自分と同じ顔の奴が槍にぶっ刺されるのって、何か嫌だな」

「君はまだマシだよ。僕似の方なんて、刺されて斬られて殴られてだよ。原型とどめてるのが不思議なぐらいだよ……」

 

 彼らのオリジナルであるクロノとユーノは精神的なダメージを負ってしまったようだが。そこまでは考えてなかった。

 さて、肝心の「システムU-D」の方だが……ようやく視界が晴れてきた。

 

「……うっそでしょ。あれだけの砲撃を受けて無傷とか……」

「予想はしていたが、外れてくれればよかったな。嫌な予感ばかりが当たる」

 

 ロッテが愕然と呟いた通り、「システムU-D」は傷一つなく浮いていた。今の攻撃に何を思ったか、その表情からうかがい知ることは出来ない。

 だが……彼女の対応から、こちらを「危険因子」と判断したことは理解出来た。

 

「……戦闘対象、危険度修正。システム「アンブレイカブル・ダーク」、出力上昇。……7%。状況安定のため、戦闘行動を続行します」

「ッ! また魔力が……!」

 

 オレでも感じられたプレッシャーで、クロノが表情を険しくする。いや、この場にいる全員が。

 ……これは、厳しいな。

 

「レヴィ、すまないがまた奴の注意を惹きつけてくれ。他は陣形「フォースシールド」。念のためアルフとヴィータも防御に回ってくれ」

「はーい! 行って来ます、お姫様!」

「あたしらで、アレを何処まで防御出来るか分からないけど……」

「弱気になんな。あたしらの主は、ぜってー何とかしてくれる」

 

 ヴィータが信頼してくれるのは嬉しいが……いや、何とかしなければならないな。オレは、「やる」のだから。

 ……ただ闇雲に攻撃しているだけでは、今の繰り返しになってしまう。必要な情報を分析しなければならない。シャマルとアリア、シュテルがオレの周りに集まる。

 

「奴の障壁はエネルギー性。恐らくは「システムU-D」の余剰エネルギーによるもの。つまり、削ったそばから「修復」されているということになる」

「だからあれだけ近接攻撃を加えた後だったのに、砲撃が届かなかったのね。……打開策はありますか?」

「エネルギー性ということは、瞬間最大出力で上回ることが出来れば突破可能なはずだ。つまり……なのはなら可能性がある」

「ふぇ!? わ、わたし!?」

 

 指名され驚くなのは。彼女は……戦闘経験こそないものの、砲撃魔法の才に関してだけはピカ一だ。恐らくは現時点で、最大出力だけならこの中でも最高峰。

 ただ、現状ではこの作戦には大きな問題が発生している。なのはの残り魔力だ。

 

「なのはは先の砂クジラ、および「ナハトヴァール」との連戦で間違いなく消耗している。残りの全魔力を注いだとして……あの障壁を突破出来るかは分からない」

「……だ、大丈夫です! なのは、いっぱい頑張るから!」

「厳しい事を言うようだけど、それは「大丈夫」の根拠にはならないわ。わたし達が求めているのは「確実性のある打開策」であって、根性論の運試しが許される状況じゃないの」

 

 アリアが厳しくなのはの意見を切り捨てる。……その通りだ。彼女はオレの意志をよく分かってくれている。今は打ちのめされたなのはの姿に心を痛めている場合ではないのだ。

 それでも方法の一つではある。バクチのような手段ではあっても、いざとなったら頼らざるを得ないだろう。

 

「なのは、今はとにかく魔法を使わず休憩しろ。シャマルの魔力回復と合わせれば、あるいは可能性もある」

 

 あまりシャマルに頼り切るわけにはいかない。彼女には、誰かが怪我をしたときの治療という大事な役割がある。そのときに魔力が尽きていては、命に関わることもあり得るのだ。

 落ち込むなのはを慰めるのは、フェイトに任せる。なのはは最後の切り札として、別の起死回生の一手を考えなければならない。

 そこで、一人の手が挙がる。……ずっとオレの後ろで戦場を見ていた、はやてだった。

 

「わたしなら、トゥーナが手伝ってくれれば、威力だけならなのちゃんぐらいの砲撃魔法が出来るんとちゃうかな」

「はやて……。でも、あなたは……」

「うん。分かっとるよ、アリア。わたしは戦いの訓練も、連携の訓練もしとらん。なのちゃんと違って、実戦で魔法を使った経験もない。正直見とるだけで足ガクガクもんやで」

 

 「あはは」と笑ってみせるはやて。精一杯の強がりだった。……それでも、彼女はとても強い女の子だから。

 

「せやけど。何か出来るかもしれんわたしが、ミコちゃんが頑張ってるのに、何もせぇへんで見てるだけって……そっちの方が、辛いんよ」

「はやて……。……オレは以前、君に戦ってほしくないという話をしたよな。初めての魔法訓練のときだ」

「うん、覚えとるよ。あのときのミコちゃん、泣いちゃって可愛かったなぁ」

「うるさいよ。……それは、今も変わっていない。はやてには、ずっと戦いなんて知らないでほしいって、思ってる」

「そうやろな。ミコちゃん、優しいから」

「覚悟は決めたつもりだった。もし「そのとき」が来たら、一緒に戦おうって。だけど……実際にそうなると、本当に辛いものだな」

 

 胸が締め付けられる。気を抜けば、また涙を流してしまうかもしれない。今は戦闘中であるため、そんな余裕はないけれど。

 分かっているのだ。はやての魔力ならば……夜天の魔導書を完成させ、魔力簒奪の影響を受けなくなった今のはやてならば、立派な「戦力」になり得ると。そう冷静に考えてしまう自分が、どこまでも嫌だ。

 はやては……オレのことを抱きしめた。体全体から震えが伝わってくる。目の前に戦いに恐怖を抱き、それでも立ち向かおうとしている証拠だった。

 

「……一緒に戦おう、はやて。オレも、戦うから」

「うん。一緒に、やで。わたしらは、「相方」なんやから」

 

 心を決める。文句を言いそうなディアーチェも、不愉快そうな顔をしながら、今は何も言わない。オレ達が心を決めるために必要なことだと分かってくれているのだろう。

 そしてこれも、オレ達が勇気を得るために必要なこと。

 

「ミコちゃん……」

「んっ……」

「なぁっ!? こ、子鴉、貴様ァ!?」

 

 唇を合わせる、オレ達の「儀式」。互いの気持ちを通わすための、親愛のキス。ディアーチェが何か怒っているが、気にしない。

 シャマルは微笑み、アリアは苦笑。クロノは顔を真っ赤にし、同じ顔のシュテルは無表情ながら驚いている様子。状況にそぐわぬ種々様々な楽しい反応だ。

 唇を離すと、はやての震えは止まる……とは言わぬまでも、かなりマシになっていた。

 

「うん、勇気百倍や。一緒にがんばろ」

「ああ。……頼りにしてる」

「離せ、シュテル! あの間女に王の鉄槌を下さねばならぬのだ!」

「まあ落ち着きましょう。どちらかと言えば間女は王ですし」

 

 次の作戦は、はやてを主軸としたものになった。

 ――これらが全てアースラに映像として中継されていることは、すっかり忘れていたオレであった。

 

 

 

 

 

 「システムU-D」が出力を増大したため、連携を変えることになった。それでなくとも相手は「ただのプログラム」ではない。同じことが何度も通用するとは思えない。

 

≪連携発動! コード「バレットストーム」!≫

 

 今度の連携は、周囲一定距離からの一斉射撃による牽制と削り。レヴィには一旦距離を取らせ、シュテルとともに射撃に参加してもらっている。

 「システムU-D」はその場から動かず、黒球を二振りの大剣に変化させて周囲を薙ぎ払っている。攻撃と防御を兼ねているのだろう。

 奴の射程はある程度理解している。こちらは一定距離より近付かないように徹底させており、被害はゼロ。万一の場合に備えて盾組も向かわせている。

 控えは、なのはとガイの二人。ガイも、やはり相当消耗していた。こいつは飛行するだけで消耗するのだからしょうがない。むしろよく今まで戦ってくれているものだ。

 シャマルには、彼らの回復を手伝ってもらっている。あまり頼ることは出来ないが、回復を後押しする程度なら問題ない。

 

「……上手く、狙えるやろか」

 

 ごくりとはやてが唾を飲み込む。はやてが砲撃魔法を使うのは、これが初めて。かなりの距離があり、しかもターゲットは煙幕に包まれて姿が見えにくくなっている。

 はやてが漏らした弱音に、ディアーチェが荒っぽく告げる。

 

「この我が火器管制補助をしてやるのだ、当ててもらわなければ困る。重ねて言うが貴様のためではない、我が盟友のためだ。勘違いするなよ」

『大丈夫です、我が主。私もお手伝いします。ご自分を信じてください』

 

 強い言葉で叱咤するディアーチェとは対照的に、優しく支えようとするトゥーナ。……はやてが心配するようなことはないだろうが、それでも初めての砲撃に不安を持つのは仕方のないことだ。

 狙うのは、確実に当てられる瞬間。黒球が完全に「システムU-D」を離れ、無防備になる瞬間だ。そのためには、やや危ない橋を渡らなければならない。

 いくら周囲から射撃を放ったところで、その程度では彼女にとっては「鬱陶しい」だけであり「脅威」ではない。迎撃に全力を割くことはありえないだろう。

 今までと同じく近接攻撃に彼女の意識を向けさせ、隙を作る必要がある。そしてその役割を負うのは、恭也さんとフェイト。

 シュテルとレヴィではダメだ。彼らは回避能力が高くない。「システムU-D」に差し向けられる弾幕を回避した上で、彼女からの攻撃も回避して打撃を加えることが出来ない。

 だからこそ、この二人でないとダメだ。剣で受けるタイプのシグナムでも、シールドで弾くタイプのヴィータでもダメだ。普段から回避が主体の恭也さんとフェイトでなければならない。

 ……オレに不安がないと言ったら嘘になる。恭也さんには魔法的な防御手段がないし、フェイトも防御魔法はそれほど得意ではない。もししくじった場合には、よくて戦闘不能、最悪死が待っている。

 それでも、二人なら十分可能であるという信頼と、最低限のコストで最大効率を出す「指揮官」の思考がかみ合っている。だから、やるのだ。

 はやての方は既に魔法の準備が出来ている。あとは「システムU-D」のタイミングのみ。

 彼女は荒々しく大剣を躍らせている。それでも射撃の雨全てを切り落とすことは出来ず、何発もの魔弾が障壁を叩いている。

 やがて黒球は、面積の大きい拳のようなものへと変化した。今だ!

 

≪連携発動! コード「クロスブレイド」!≫

 

 恭也さんとフェイトが動き出す。前衛陣の中でトップスピードを誇るこの二人は、瞬く間に「システムU-D」との距離を縮めていく。

 それでも、彼女が二人の存在に気付くだけの時間はある。

 

「……魄翼、迎撃」

 

 黒球が二人への迎撃を優先させ、再び形を変える。今度は槍。恐らくは人が回避しづらい点での攻撃を選択したのだろうが、この二人に対しては悪手であろう。

 

「はあああっ!」

「御神流・虎乱! っぜぇい!」

「……!?」

 

 槍の周囲で螺旋軌道を描きながら、迎撃の槍をさらに迎撃する近接のエキスパートたち。ここにきて、初めて「システムU-D」の表情が変化した。驚愕。

 攻撃手段をあっさり回避され、無防備となった「システムU-D」に二本の刃が迫る。

 

「バルディッシュ!」

『Ax bomber.』

 

 フェイトは打撃力を重視したようで、サイズフォームではなくデバイスフォームから斧の一撃を見舞う。バチィと激しく火花が散り、「システムU-D」の障壁を深く抉る。

 間髪入れず恭也さんが、同じ場所に一閃。二刀の技ではなく、いつだったか美由希が見せた一刀で行う御神流の裏奥義。

 

「御神流・虎切!」

 

 美由希が見せたものとは錬度が違った。斬線を全く視界に映さぬほどの神速の一閃。障壁が不可視であったためどれだけのダメージを与えたかは分からないが、通常ならば抵抗もなく真っ二つになっているだろう。

 そして、ヒットアンドアウェイ。二人は「クロスブレイド」という連携の意義をしっかりと果たしてくれた。即ち、「崩し」。

 

「はやて!」

「うん! トゥーナ、ディアーチェ!」

『我が主達の御心のままに!』

「狙いは任せよ! うぬらはただ撃てばよい!」

 

 はやてが手にした金十字の杖の先端に、まばゆく輝き周囲が黒く見えるほどの白が集まる。夜天の魔導書に記録された獣達の魔法から、トゥーナが新たに組み上げた極大の砲撃魔法。

 

 

 

「行くで! 白竜の……戦哮!」

 

 竜の咢を思わせるバックファイアとともに、高エネルギー・高密度・高収束三拍子そろった砲撃が放たれた。あまりのエネルギー量に、高周波を伴い耳が痛くなる。

 はやてと夜天の魔導書の莫大な魔力を存分に生かした砲撃は、ディアーチェの制御によって「システムU-D」をロックする。

 

「……っっ!!」

 

 彼女の表情は、間違いなく引きつっていた。この一撃なら、障壁を突破出来る。そう確信した。

 黒球は槍として放ったために手元にない。障壁は、たった今突き破られた。最早彼女に為す術はない。

 「システムU-D」の本体は、輝く竜の吐息に飲まれた。

 

「っっ、ぷはぁっ! や、やったか!?」

「何故フラグを立てようとする。……今度こそ間違いなく、本体に命中したよ」

 

 さすがにあれだけの砲撃魔法を使用すれば、はやての魔力と言えどもかなり疲労したようだ。緊張もあいまって、汗がダラダラと流れていた。

 しかしそのかいあって、「システムU-D」には確実にダメージを与えられた。問題は、ダメージの深度だな。修復のために機能停止するレベルであれば、制御プログラムを打ち込む余裕もあるが。

 砲撃の軌跡に彼女の姿はなかった。回避したというわけではないし、まさか消し飛ぶということはあるまい。砲撃の圧力で遠くに流されてしまったようだ。

 ……凄まじい一撃だった。はやてに、こんな力を持たせたくはなかったな……。

 

「バカ魔力再び、だな。スターライトブレイカーとどっちの方が恐ろしいだろうか」

「あれは収束砲撃だから、条件によって違ってくるよ。ただ、初期威力ははやての方が上だろうね」

 

 少し沈みかけた意識を、戻ってきたクロノとユーノの声が浮上させる。……感傷に浸るのは後だ。今はまだ、作戦継続中なのだから。

 

「俺の方でも命中を確認した。あの様子なら、ダメージは通っただろうな」

「凄い魔法だったよ、はやて、トゥーナ。……魔法の先輩としては、ちょっと悔しいかも」

「なはは、付け焼刃やから威力だけやよ。ふぅちゃんの方が凄かったで。くるくるーって避けて、かっこよかったわ」

「そ、そうかな……えへへ」

「……ところで、こちらの御仁には誰かが魔力強化を行っているのでしょうか。先ほどの攻撃も、魔法を使用した気配は感じられなかったのですが」

「信じられないかもしれないが、純粋な剣技だそうだ。彼に関しては僕達や君達の常識で考えない方がいい」

 

 魔法なしでフェイトと同等以上の動きをした恭也さんに、シュテルがカルチャーショックを受けたようだ。さもありなん、早く慣れてくれ。

 ターゲットが離れたことで、全員集合する。総勢17人がオレの前にいた。……いつの間にこんな大所帯になってしまったのか、よく分からない。

 

「「システムU-D」は、方角的に考えて海の方に飛ばされただろう。クロノ、アースラで捕捉しているか?」

「大正解だ。現在は洋上で停止、恐らく自己修復中とのことだ。制御プログラムを打ち込むなら今がベストだ」

「分かった。シャマル、ユーノ、アルフ。転移魔法を頼む。クロノ、彼らに座標を教えてやってくれ」

 

 淡々と指示を出す。シャマル達はよどみない動きでオレ達全員を包めるだけの魔法陣を展開し、転移魔法を発動させた。

 

 

 

 視界が切り替わる。陽光の厳しい砂漠から、黒雲が覆う時化の海。その上空に、ところどころボロボロになった「システムU-D」が、俯いて浮かんでいた。

 黒球は消えている。修復に集中するために消しているのか。それなら、問題なく近付くことが出来る。

 マテリアルズを伴い、「システムU-D」に近づく。彼女はピクリと反応した。

 

「……戦闘対象の出現を確認。自己修復、優先度低下。戦闘態勢……」

「待て。そちらが戦闘行動をとらないなら、こちらにも戦闘を行う意志はない。自己修復を優先しながら話を聞いてくれ」

 

 彼女は言葉を止め、自己修復を続けた。どうやら会話は成立するようだな。……「動力炉」に会話が成立する時点で、おかしな話ではあるのだが。

 今は都合がいいので捨て置く。オレは言葉を続けた。

 

「ここにいる「紫天の書システム」は、君を……「システムU-D」、著しくは「エグザミア」を制御するためのプログラムだ。君を傷つけるための存在ではない」

「……「紫天の書」……シュテル、レヴィ、それに……ディアーチェ?」

「知っているのか。何故知っているかは知らないが、知っているならそれはそれで都合がいい。我々は、争いを望まない。もし君が己を御することを望むなら……彼らにその手伝いをさせてもらえないだろうか」

 

 力ずくではダメだ。彼女は自己修復を捨てて戦闘を行おうとした。彼女が納得しないことには、ここで制御プログラムを打ち込むことは適わない。

 彼女は……頷かない。否定はしなかったが、肯定もしなかった。

 

「……我々を拒絶する理由を聞かせてもらえないだろうか。それをしないことには、こちらも納得のいく答えが出せない」

「……ダメなんです。私は、全てを壊してしまう。自分でも、どうすることも出来ない。だから魔導書の中で永遠に醒めない眠りについたのに……そのはず、だったのに」

 

 破壊衝動、ということか。……それは「エグザミア」を制御したらおさまるものなのだろうか。すぐには答えが出せない。「エグザミア」が具体的にどういうものなのか、オレは知らない。

 さらに厄介なことに、彼女の言葉には続きがあった。

 

「声が、するんです。「あだなすものを壊せ」「何者も近付かせるな」って……誰かが、そう叫んでいる。……頭が割れるように痛い……」

「っ、「ナハトヴァール」。この期に及んで邪魔をするか」

 

 夜天の魔導書から削り取られた奴は、最早「闇の書の防衛プログラム」ですらない。暴走した破壊プログラムだ。それが今度は、「システムU-D」の精神を蝕んでいる。

 彼女は無の表情を変化させた。悲壮で悲痛で悲嘆に満ちたものへ。

 

「逃げてください。私が私を保てるうちに。そうじゃないと……私は、あなた達を破壊しつくしてしまう」

「破壊されるためにここまで来たのではない。破壊の宿命を終わらせるためだ」

 

 ……どうやらもう1ラウンド残っているようだ。そして多分、これが最終ラウンド。

 「システムU-D」の背後に黒球――「魄翼」が生み出される。それは武器の形を取らず、「システムU-D」を取り込みながら徐々に肥大していく。トゥーナが語った異形を形成していく。

 マテリアルズとともに皆のところまで下がる。皆ももう分かっているようだ。アレを破壊しないことには、ミッション達成は成しえないことを。

 オレはあえて言葉に出して皆に告げる。今回のミッションの達成条件を、チーム全体に共有する。

 

「――「破壊するもの」を、破壊せよ」

 

 決戦の最終幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 洋上に出現した「それ」は、「古今東西の武器を合わせたキメラ」という表現が相応しかった。巨大な戦艦のようであり、それでいて生物のように触手をうごめかせている。

 傷ついた「システムU-D」から主導権を奪い返した「ナハトヴァール」の姿だ。恐らく彼女から無限連環生成される魔力も奪っていることだろう。「無尽蔵の魔力と体力を持つ化け物」だ。

 ただ、こいつは既に夜天の魔導書から切り離された存在だ。つまり、魔導書に記録されたプログラムを使用することは出来ない。単純な攻撃と防御しか出来ないというのが、ある意味救いか。

 

≪陣形「マルチカウンター」。まずはこいつの攻撃力を削ぐぞ≫

≪『了解!』≫

 

 巨体となったことで攻撃力・防御力は増しただろう。だが反応速度が低下している。どれだけ体を巨大にしようと、動かしているのは暴走したプログラムに過ぎないのだ。

 近付くことは簡単であり、触手や砲台、種々の武器を破壊することも難しくない。3隊に分かれて、進撃を開始する。

 

「御神流・虎乱!」

「アークセイバー!」

「シュランゲバイセン!」

 

 恭也さんは「ナハトヴァール」の表層を駆けまわり、すれ違いざまの斬撃で破壊していく。フェイトはバルディッシュの鎌を飛ばし、シグナムはカートリッジをロードして蛇腹剣の一閃。

 そこまですれば、さすがに「ナハトヴァール」の知覚範囲に入る。無事な砲門や触手が、彼らに向けて襲い掛かる。だからこその「マルチカウンター」だ。

 

「鋼の障壁ッ! 後ろは任されよ!」

「行かせないよ、チェーンバインド!」

「凍っちまいなぁ! アイスシールド!」

 

 強固な盾を持つ三人が、それぞれの方法で攻撃を食い止める。……ガイの奴、いつの間に凍結変換なんか習得したんだか。

 後衛組も射撃魔法で武装を破壊し、「ナハトヴァール」の無力化を進める。だが、「無限の体力」は伊達じゃない。壊したそばから再生成してキリがない。

 再生速度を上回れれば、無力化も可能だろうが……難しいところだ。何か手を考えなければならない。

 苦戦するオレたちを見ていたクロノが、何かを決意する。

 

「手伝ってくれ、アリア、ロッテ!」

「……なるほどね。元々は凍結封印の手段だったわけだけど……」

「こういう使い方もありってことね! 皆離れて! あたし達が何とかする!」

 

 アリアとロッテがカード型の補助具を取り出し、それらは光の粒となって虚空に消える。同時、彼らの周囲を覆うように巨大なミッド式魔法陣が展開される。

 中央にいるクロノの手に握られるのは、凍結変換補助用のデバイス。つまり、彼らがやろうとしていることは。

 

「リーブラス、ジャスティス! 悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ!」

「妨げるものには刹那の凍結を、触れるものには永久の終焉を!」

「我らが告げるは凍れる安らぎ! 眠れ、零度の腕に抱かれて!」

『エターナルコフィン・アブソリュートゼロ!!』

 

 瞬間、海面が凍りつく。海面だけではない、「ナハトヴァール」の表面も。全ての武装が凍り付き、全く身動きが取れなくなる。

 それで終わりではない。「ナハトヴァール」を包むように、巨大な氷柱が形成されていく。奴の温度を奪い続ける氷の棺が完成した。

 本来は、オレとはやてを封印するための魔法だったはずだ。それを頼もしく感じるとは……皮肉なものだ。

 

≪見事なものだ。今まで出し惜しみしなければ、もっと早く終わったんじゃないか?≫

≪消耗が激しいんだ。僕とリーゼ達は、これでほぼ使い物にならなくなる。……まだ終わりじゃないんだろう?≫

≪その通り。だが、おかげで奴の攻撃力は封じることが出来た。ここからは一気呵成で行く≫

 

 奴のエネルギーは「システムU-D」を取り込んだせいで無限に生成される。そのため、絶対零度の棺に閉じ込めるこの魔法でも、すぐに限界が来てしまう。あくまで攻撃封じのための檻だ。

 彼なりにオレの指示を解釈し、最短でたどりついてくれたのだ。……感謝するぞ、クロノ。

 

≪陣形変更、「スペキュレイション」。全員、これで終わらせるつもりで頼む≫

「ミコちゃん。わたしも、出るよ」

「はやて……、……分かった。攻撃戦力は多い方がいい。……ごめんね、はやて」

「ええて。ミコちゃんの力になれて、わたしは嬉しいんやから」

 

 はやては微笑む。一度砲撃を撃ったことで、震えは止まったようだ。……今ははやての気持ちを受け止めよう。

 皆が陣形再編成のために戻ってくる。シュテルとレヴィにも大まかな指示を出し、攻撃に参加してもらう。ディアーチェには「システムU-D」を助け出した後に仕事が待っている。

 「スペキュレイション」。矢じりの形を作り、速攻を仕掛けるための超攻撃陣形。意味は、スペードの「エース」。

 普段は防御を担う盾役も、このときばかりは攻撃に参加する。シールドしかできないガイもだ。彼に攻撃手段がないなどとは誰も言っていない。

 先頭を務めるのは、"烈火の将"シグナム。その後ろには、"紅の鉄騎"ヴィータと"御神の剣士"恭也さん。

 中衛。"蒼き狼"ザフィーラを筆頭に、"結界魔導師"ユーノ、"盾の魔導師"ガイ、"フェイトの使い魔"アルフ。そして"力のマテリアル"レヴィを配置し、攻撃の要とする。

 後衛は、"砲撃魔導師"なのはを置いて他にない。彼女をサポートすべく、"風の癒し手"シャマルもここに配置。"戦闘魔導師"フェイトと、"理のマテリアル"シュテルも同じく。

 そして最後衛として、"夜天の主"はやて、"闇統べる王"ディアーチェを配置。これで、「スペキュレイション」の完成だ。

 全員、オレのゴーサインを待っている。……誰一人として、乗り遅れた者はいないようだ。

 ――では、征こう。

 

 

 

「……全軍、突撃」

 

 静かに言った一言で、誰のものか鬨の声が上がる。前衛、中衛が進撃を開始した。

 だがまずは氷の棺をこじ開けなければならない。狙いは……「システムU-D」が取り込まれた、上部中央。「艦橋」部分だ。

 

「連携発動! コード「マーベラスカノン」!」

「了解! アルカス、クルタス、エイギアス……撃ち抜け轟雷!」

『Thunder smasher.』

「……バスターフレア!」

「いいわよ、なのちゃん!」

「はい! ディバイーン、バスター!」

『Marvelous.』

 

 後衛による、一斉同時砲撃。進撃する仲間を追い越し、氷柱に着弾する。天高くそびえるそれが折れ、海面の氷に突き刺さった。

 「ナハトヴァール」は機能を停止していない。露出した部分から、新たに武装を形成しようとする。だが……前衛の方が早い。

 

≪連携発動! コード「シヴァトライアングル」!≫

 

 既に「ナハトヴァール」を取り囲むようにデルタを形成していた三人が、同時に必殺の一撃を放つ。

 

「飛竜一閃・一心一刀!」

「ギガントシュラーァァァク!」

「御神流奥義……薙旋!」

 

 「デルタスパイク」とは比較にならない、必殺連携。連撃ではなく同時攻撃。三人の生み出した破壊力が集中し、形勢途中だった武装が形を維持できず、崩れ落ちる。

 まだ、終わらない。

 

≪連携発動! コード「シールドラッシュ」!≫

「まずは……一発ッ! シールドプレス!」

 

 ガイが手元に発生させた「シールドの塊」を、「ナハトヴァール」目掛けて押し飛ばす。射撃魔法とも言えない不格好な「シールド攻撃」だ。

 元々攻撃用魔法ではないから、単純な質量でしか攻撃出来ない。そしてこんなもの、「ナハトヴァール」にとっては毛ほどの痛痒もないだろう。

 それが、一発なら。忘れてはいけないが、ガイはガイでシールドに関しては天才と呼べる魔導師なのだ。それも、なのは並の魔力を持っている。

 

「まだまだァ! オラオラ無駄無駄無駄オラ無駄オラァ!!」

 

 連発。一秒間に4個のペースでシールド弾を投げ飛ばす。かなりの硬度を誇るシールドは、さすがにそれだけやれば何発かはめり込んだ。

 続けて、ユーノ。彼はシールドでもバインドでもなく、魔力の剣を構えている。シールド造形魔法だ。

 

「師匠直伝! 紫電、一閃っ!」

 

 ベルカ式ではなくミッド式で魔力を上乗せし、力任せに叩き切る。シグナムとは比べるべくもなく、「紫電一閃」と呼べるものでもないが……それでも、ダメージは通る。

 それでいいのだ。彼らは、「一撃」までの繋ぎなのだから。

 

「ぬゥン! 守護の牙拳!」

「ライトニングブラストォ!」

 

 守護獣と使い魔による体術連撃も加わる。そして中衛組の攻撃の要が、準備を終える。

 "力のマテリアル"レヴィが、拳どころか全身に雷撃を張り巡らせ、「ナハトヴァール」に突撃した。

 

「行くよー! 雷神滅殺極光ォーーー拳ッ!」

 

 全体重を乗せた魔力雷の一撃。それは拳から「ナハトヴァール」へと伝わり、鈍い音とともに不定形な「艦橋」をへし折る。……怪力だな。さすが"力のマテリアル"だけはある。

 ……次でラスト。

 

「なのは、行けるか?」

「うん、いつでも大丈夫」

『No problem.』

「……はやて?」

「こっちも、準備OKや」

「我が手伝うのだ、手抜かりなどありえん」

 

 最後衛に待機させたはやてとディアーチェ、それからなのはにもう一度砲撃を行わせる。残った全てを込めた、最後の一撃を。

 レイジングハートの先端には、この場から収束された魔力が圧縮されている。金十字には、白の輝きに加えて黒の魔力が混じっている。ディアーチェが魔力を貸したようだ。

 この一撃で終わる。そう確信できる迫力を感じた。

 左手を上げる。なのはとはやてが、デバイスを「ナハトヴァール」に向ける。近接攻撃に回った皆は、既に退避していた。

 

 

 

「砲撃、開始!」

 

「スターライト、ブレイカァーッッッ!」

 

「白竜の息吹!」

「黒竜の吐息!」

『逆巻け、双竜破っ!』

 

 

 

 号令一下、極大の砲撃が放たれる。桜色の収束砲撃と、黒白の螺旋砲撃。破壊の権化を破壊し尽くす、純粋な魔力の暴力。

 三色の奔流の飲まれ、「ナハトヴァール」の一部分が消し飛ぶ。「システムU-D」を飲み込み、内側に収めた「艦橋」部分だ。

 周囲を覆う闇色の拘束が失われたため、彼女の体は虚空に投げ出された。「ナハトヴァール」が再び彼女を回収しようと、残った触手を伸ばす。

 だが、こちらの方が早い。オレの意図したことを正しく理解したシャマルが、転送魔法を使って「システムU-D」のみをこちらに移動させたのだ。

 

「ディアーチェ、今度こそ失敗するなよ」

「分かっておるわ! ……今助けるからな、「砕け得ぬ闇」!」

 

 紫天の書を片手に、黒十字の杖を「システムU-D」の胸元に向けるディアーチェ。その表情は真剣そのものであり、先の慢心は欠片も残っていなかった。

 

「沈まぬ黒き太陽、影落とす月よ! 我が力もて、胎動の時来たれり! 闇は明け、暁となり、ともに紫色の天を織りなさん! 我こそは闇を統べる者、ロード・ディアーチェなり!」

 

 書が薄く輝き、ディアーチェを経て黒十字に伝う。稼働を一時停止し眠る「システムU-D」の胸元――永遠結晶「エグザミア」に、制御のための楔が打たれたことを確信した。

 これで、「システムU-D」は脅威足り得ない。ディアーチェの存在がある限り、無限連環機構が暴走することはない。それ以外のことは、彼女次第だ。

 オレは再び視線を「ナハトヴァール」に向ける。先の極大砲撃で「システムU-D」とは完全に切り離されたようで、再生できずに黒い断面をうごめかせていた。

 

「……無様な姿だな、「ナハトヴァール」。これが、多くの人間の命を奪ってきた暴走プログラムの末路か」

 

 醜く削られながらも「外敵の排除」を遂行しようとするその姿に、憐みのような感情が湧く。奴はあくまで定められたプログラムを遂行しているだけなのだ。

 ……終わりにしよう。虚しい破壊の連鎖を。奴に永遠の休息を与えてやろう。それが……オレが奴に与えてやれる、唯一の「救い」だ。

 

「ソワレ」

『うん。ル・クルセイユ』

 

 「夜」が集まる。残った「ナハトヴァール」の体全てを覆うほどの、莫大な量の「夜」が。

 奴は氷漬けになっていて動けない。だから、溜めに時間のかかるこの技でも、最大級の威力で放つことが出来る。奴を、一瞬で葬り去れるだけの威力で。

 「ナハトヴァール」……「夜の鯨」。ならばせめて、この広大な夜の中で、安らかに眠ってくれ。

 

『……エクスプロージオン!』

 

 こぅ!という空間がひずむ音。あの巨体が、一瞬にして掌サイズまで圧縮された音だった。空気すら飲み込む勢いで、「ナハトヴァール」の大質量は小球体となっていた。

 それは逆に、内側から耐えられないほどの圧力を生み出す。ピシピシビシリと、崩壊の音を奏でた。

 そして――爆発。故に、「爆発する棺」。「夜の鯨」がその最期を迎える場所としては……頓知が利いているだろう。

 

 いつの間にか、黒雲には切れ間が出来、暖かな日の光が差していた。時化も去り、穏やかな凪の時間が訪れた。

 

 

 

 それはまるで、夜天の魔導書が永い闇を抜け出すことが出来たと暗示しているかのようだった。




決着ゥ!!

というわけで最終決戦は、「ナハトヴァール」→「システムU-D」→「真・ナハトヴァール」という流れになりました。
最後の真・ナハトヴァール戦でバリア描写をしませんでしたが、これは本格稼働前に夜天の魔導書から切り離された影響で、バリア展開プログラムが作動しなかったためです。っていうかそうしないと戦闘シーンがくどくなりすぎますし……。その前に散々ミコトの戦闘指揮は見せましたので、あとは皆の無双シーンだけで十分かなと。
また、ソワレの一撃で真・ナハトヴァールを葬ることが出来ていますが、この作品ではナハトヴァールの再生能力をシステムU-Dに依存させています。なのでシステムU-Dが切り離された段階で「巨大なだけの怪物」に成り下がり、通常攻撃でも十分消滅可能です。他の皆が消耗していたので、ソワレが手を下すこととなりました。

今回は陣形・連携技がたくさん出ました。中にはサガからそのまま持ってきたものもあります(スペキュレイション、シヴァトライアングルetc) 別にサガクロスとかは考えてないのでご安心(?)を。
また、はやて&マテリアルズの技が原作とは異なります。これは、原作と違って蒐集対象に人間が含まれなかったことや、オリジナルとなる人物が異なることによる影響です。ユーノレヴィに至ってはバルニフィカス使ってませんしね。
夜天の魔導書に記録されている魔法が原始的なものしかないので、トゥーナ(リインフォース)が再構築して使う必要があります。応用性は広いかもしれませんが、デバイスとしての長所は完全に殺してしまっています。致し方なし。

これにて事件は終了と相成ります。この物語も残すところは、事後処理と後日談のみ。長かったような短かったような……休載期間が長すぎましたね。
ここまでお付き合いいただけた皆様には、是非とも最後までお付き合いいただければ幸いです。

なお、その後の日常編やIF分岐編は普通に書くつもりです。不定期だけど。

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