不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
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引き続きなのは視点です。


七話 とある真相 ☆

「なのは、遅くなった! どういう状況なの!?」

 

 「ヤハタ」君が自己紹介(というほどのものでもないかもしれない)を済ませてから少し待ってもらって、念話で呼んだユーノ君が到着した。

 

「颯爽登場! 俺、参上!!」

 

 ……約一名余計なのがついてるけど。別に戦うわけじゃないんだから、来なくてもよかったのに。

 ヤハタ君はそちらを一瞥し、お兄ちゃんに向けて「これで全員か?」と尋ねる。お兄ちゃんは首を縦に振って、先を促した。

 

「では改めて自己紹介を。オレはヤハタ。一応ただの小学生だ」

 

 後からやってきた二人に向けて、名前を告げるヤハタ君。けど……「一応ただの小学生」ってどういう意味なんだろう。

 状況的に考えてジュエルシードを封印したのは彼以外にはありえない。事実彼もそれを否定していない。だからただの小学生であるわけがない。本人もそれが分かってるから「一応」ってつけてるんだろうけど。

 

「次に「何故これを持っている」だったか」

「!? ジュエルシード! 何故あなたがそれを!」

「今から答える。せっかちは嫌われるぞ、小動物」

「……ユーノ・スクライアです」

「俺の名は藤原凱ッ! ハーレムを作る男ッ!」

「あの汚物は無視して構わない。こちらの自己紹介がまだだったな。俺は高町恭也。こっちが、妹のなのはだ」

「……た、高町なのはですっ!」

 

 ヤハタ君を見過ぎていて、一瞬反応が遅れてしまった。それが気になったのか彼はちょっとの間こっちを見ていたけど、すぐにお兄ちゃんの方を向いた。

 

「では答えるが、これを持っている理由は至極単純。この場で拾ったからだ」

「妹の話では、そのジュエルシードは発動状態だったということだが」

「ああ、見つけた時点で何だか大変なことになっているようだったからな。沈静化させた」

 

 「沈静化」? 封印じゃなくて?

 

「で、最後に「どうやって封印したか」だったな。今言った通り、オレは沈静化させただけだ。封印という行為を行った記憶はない」

「そんな、バカな!? ジュエルシードは強力な純粋魔力でコーティングしなければ、機能を停止させられないはずだ! ありえない!」

「それって、「沈静化」ってのをやってるときに、知らず知らずのうちに封印してたとかじゃないのか?」

「君は気付かないのか、ガイ! 彼からは「魔力を欠片も感じられない」! 「リンカーコア」がないんだ!」

「……はァ!? マジで!? あ、マジだ!」

 

 え、えっと。話についていけない。ユーノ君、リンカーコアって言葉、初めて聞いたんだけど。何で変態は知ってるの? わたし達が探索してる間に、そんなに色々教えてるの??

 男の子二人とは別の意味で混乱しながらヤハタ君を見ていると、彼は首を傾げた。帽子の下から覗く口元は、ちょっとだけ「へ」の字に曲がっていた。

 

「……まあ、別にいいか。今重要なことでもないし。それでリンカーコアというのは、胸部中央に存在する不可視物質で構成される特殊臓器のこと、という認識でいいか?」

 

 すぐ一人で納得し、何だかよく分からない説明をユーノ君に投げかける。

 ユーノ君は全身を使って(というか小動物なので表情だけでは分からない)びっくりした様子で。

 

「リンカーコアを正しく認識している? なのに、リンカーコアという名称は知らない? どういうことなんだ……」

「その反応から「イエス」と推測させてもらう。そういうことなら、確かにオレはリンカーコアとやらは持っていない。故にリンカーコアを通じた特殊技能の使用は不可能だ」

「……じゃあ、どうやって封印を……」

「あー、ユーノ。俺、大変なことに気付いちゃったんだけど」

 

 変態が何か言ってる。表情はいつものおちゃらけたものではなく、割と真面目な苦笑。……普段からそうしてれば、少しはマシなのに。

 ユーノ君は「え?」と間の抜けた声を出して、ガイ君の方を向いた。

 

「こいつってさ、魔導師じゃないんじゃねえの? この会話まずくね?」

 

 ……………………あ。

 

「ほう、お前達は魔法使いか。確かにリンカーコアとやらを使った特殊技能は、魔法と呼ばれても不思議はないのかもしれないな。しゃべる小動物も初めて見たよ」

「あ、ああっ、あああああ!?」

 

 「やっちまったー!」と言わんばかりに頭を抱えるユーノ君。ジュエルシード=魔法関係者と結びつけてたけど、どうやらそうじゃなかったようです。

 

「まあ、こちらは元々そちらに聞きたいことがいくつかあった。それがちょっと増えた程度だ。そう気にするな、はげるぞ」

「うぅ、迂闊だった……」

 

 ガイ君の肩で器用に項垂れるユーノ君。ヤハタ君ってしゃべり方が固い印象だったけど、実は意外とお茶目?

 ……あれ? 今なんかデジャブが。

 

「とりあえず、先にそちらの情報を開示してくれ。どうにも埒が明かない」

「……そ、そうですね。えっと、じゃあ僕が何者かから話せばいいですか」

「そうだな。そちらに任せる。質問があったら、適当なタイミングで差し挟ませてもらう」

「分かりました」

 

 わたしが感じた違和感を置いて、ユーノ君は事のあらましをヤハタ君に説明し始めました。

 

 

 

「ふむ……「ミッドチルダ」に「ロストロギア」、「デバイス」ね……」

 

 ユーノ君の説明から、多分本人が気になるのであろう言葉をピックアップするヤハタ君。その反応から、本当に魔法関係者でない一般人だったことが分かる。

 だというのに彼はあまり驚いていないようで、言葉を頭に染みこませるように反芻していた。

 

「……驚かれないんですね」

「ああ。説明が難しいんだが、そういうものがあるということは「知っていた」。ただ、実際に見たことはないし、どう言い表すものなのかも知らなかった。「知っていたけど知識ではなかった」といった感じだな」

「え? そ、それってどういう……」

「説明が難しいと言っただろう。今重要なことはそこじゃない」

 

 そう言って、彼は左手のジュエルシードを見せた。ユーノ君も疑問は飲みこみ、先を促した。

 

「それでは質問、というか確認だが、こいつは"願望機"で間違いないな」

「はい。周辺の魔力を吸収し、意志ある存在の願いに反応し、世界を歪める危険な宝石です。……それも、さっき言ってたのと同じですか」

「似たようなものだ。その発展系だな。で、作用機序だが、不可視物質……そっちで言うところの魔力を用いて時空間の因果を歪め、分岐世界から強制的に結果を引きずり込む、であっているか?」

 

 「え?」とユーノ君が呆けた返事を返す。わたしはもうさっきからちんぷんかんぷんで、何を言ってるのかさっぱり分かりません。

 

「違うのか?」

「い、いえ。そこまで詳しい作用機序はこっちでも分かってないんですが。でも、言われてみれば、多分合ってます。……そんなことまで分かってしまうなんて」

「……その様子では少しやり過ぎたみたいだな。聞かなかったことにしてもいいぞ」

「気にしないでください。それなら、ジュエルシードの発動結果がランダムなことにも説明がつく。求められた分岐世界が必ずしも近いわけじゃないんだから……」

 

 ユーノ君はぶつぶつ言いながら、自分の世界にのめり込んでいった。人の前でそれは失礼だと思うよ。

 説明役が説明を放棄したため、ヤハタ君はまたお兄ちゃんの方を向いた。

 

「もう一つ。こちらが本命だが、ジュエルシードの所有権は誰にある」

「ユーノのはずだ。彼が発掘した品だと聞いている。ミッドチルダに輸送された後どうなる予定だったかは知らない」

「ありがとう。スクライア、そろそろ現実に帰ってきて欲しいんだが」

「……は!? あ、ああ、すいません! あまりにも興味深かったので、つい」

 

 お兄ちゃんの推測通り、ジュエルシードの所有権は現在ユーノ君にあって、輸送後は時空管理局という組織の管理下に置かれる予定だったそうです。

 「ふむ」とヤハタ君は顎に手を当て、短い時間考えた。

 

 そして、わたし達が驚く案を提示する。

 

「ものは相談なんだが、ジュエルシードの探索とやらに協力する代わりに、何個か譲ってもらえないだろうか」

『え!?』

 

 え、それってつまり、ジュエルシードが欲しいってこと!?

 

「だ、ダメです! それはとても危険なものなんです! ヤハタさんもそれは分かっているんでしょう!? たとえ何個集めても、正しく叶えてくれる保証はありませんよ!」

「誰もこれに願いを叶えてもらいたいなどとは言ってないだろう。それに、オレはお前達よりよほど安全に取り扱える自信がある。そちらの法的に問題がなければ、一考してもらえないだろうか」

「……もし、ダメだって言ったらどうするんです」

 

 慎重に、出方を伺うように、ユーノ君は警戒しながら尋ねる。よく見るとガイ君も珍しく真剣な表情で魔力を練っているし、お兄ちゃんもいつの間にか小太刀を構えている。

 わたしが何もしなかったのは、単に反応できなかったからなのか、それとも別の何かがあったのか。

 

「そのときは諦めて引き下がるさ。こいつもちゃんとそちらに渡す」

「……それは、単独で回収するという意味ですか」

「裏を読みすぎだ。所有権がお前にあるのだから、勝手に集めたら拾得物横領だろう。そちらの法律ではどうか知らんが、こっちでは立派な犯罪だ」

 

 「こちらでも犯罪ですよ」と言って、ユーノ君は警戒を解いた。

 

「信用します。悪用するということではないんですよね」

「さあな。善悪の基準など分からん。分かりやすく、殺傷目的ではないと明示しておくよ」

「それで十分です。そのジュエルシードはお預けします。報酬の先渡しという形で」

 

 話は着いたようで、お兄ちゃんも構えを解いた。唯一警戒を解かなかったのは、ガイ君……もとい、変態。

 何でか物凄く狼狽えていた。

 

「おまっ!? ほんとにいいのかよ!? 嘘だったらどうすんだよ!」

「おい、そこの変態。俺が嘘かどうかを見抜けないほどの軟弱者だとでも思っているのか? 自分の解答に自信を持っていなければ、ああは答えられんよ」

「僕もそう思います。彼ほどの知識があるなら、ジュエルシードを下手に扱って暴走させたりなんてこともないでしょう。万一発動しても、自力で封印出来るようですし」

「っ~~~! そ、そうだ! なのははどうなんだよ! っていうかお前さっきから何もしゃべってないじゃん!」

 

 何を焦ってるんだろう、この変態は。わたしは、ユーノ君がいいと言うなら別にいいと思うけど。だってジュエルシードって元々ユーノ君のものなんだから。

 それに、なんでだろう。ヤハタ君なら、信用してもいい気がするんだ。絶対悪いようにはしないって信じられる。

 だって。

 

 

 

「細かい話は分かってないけど、ヤハタ君なら昔から知ってるみたいな感じで安心できるっていうか……、っ!? ……あああ!!」

 

 言葉に出した瞬間、何かが繋がった。ずっと考えていたデジャブ。それが今、カッチリとはまった。

 固い表情。ふとした瞬間に零れた笑み。あの日、あの時、この場所であった会話。

 

『逆の可能性も、0ではない。一度会ってみてもいいかもな』

 

 思い、出した! そうだよ、それならこの安心感も説明がつくよ!

 突然大きな声を出したわたしに、皆が驚いたように視線を向けている。ヤハタ君だけは、「いつも」と変わらない一文字を口に浮かべている。

 わたしは思わず駆け寄り、ジュエルシードを持っていない右手を両手でつかんだ。

 

「なのはだよっ! わたし、なのはだよ!」

「……さっき自己紹介でそう言っていたよな」

「そうじゃないの! 思い出したのっ! わたし達、前にここで会ったことあるよね!」

「……え? ちょ、はあ!!?」

 

 何故か後ろでお兄ちゃんが物凄くびっくりしてますが、今はそんなこと関係ありません!

 

「ねえ、覚えてない!? 4年前に、わたし達ここで会ったんだよ!」

「……ああ、確かにそういうことはあったよ」

「やっぱり! あのときの男の子は、ヤハタ君だったんだね!」

「ちょっと待て。君は何か勘違いをして……」

「なのはァ! この男とどういう関係なのよォ!? あたいのことはお遊びだったのォ!?」

「うっさいの変態! ちょっと黙ってろなの! あとオネエ言葉キモチワルイの!!」

「な、なのは!? 言葉遣いが乱れてるよ!?」

「だから……人の話を……」

 

 変態が入り乱れて来て、必然的にユーノ君も巻き込まれ、場は一気に大混乱へ。

 そして、お兄ちゃんからのダイレクトアタック。

 

「お前らいい加減にしろ! ヤハタが困ってるだろう!」

 

 ヤハタ君の後ろに回り込んだお兄ちゃんは、彼の体をグイッと引いた。

 そのとき、誰かの手が目深にかぶった野球帽に引っかかった。誰か……っていうかわたしだった。

 彼を求めて掴んだ手は彼の帽子だけを掴み、――ファサッという音とともに何かが解き放たれた。

 

 前髪の向かって右側をバッテンの髪留めで止めた、長く黒い髪の毛。どうやって帽子の中にそれだけの量を詰め込んでいたのかは分からないけれど、それが外気にさらされた音でした。

 帽子で隠されていた目は、昔と変わらないぱっちりとした大きな目。子供らしいカーブを描きながら、シャープな印象のある頬。

 その容姿は、とても可愛らしく、魅力的で女の子らしく、て……、……え?

 

「あ、あれ……?」

「……なあ。もしかすっともしかして、俺らとんでもねえ勘違いかましてた?」

「……やっちまった……」

 

 変態とユーノ君が硬直する。お兄ちゃんは、ヤハタ君を後ろから抱える形で、顔に手を当てて天を仰ぎました。

 そして騒動の中心にいるヤハタ君は、これ以上もない呆れ顔。

 

「まあ、今後協力関係になるのだから、ちゃんと自己紹介をしておくか。……今度は失礼な間違いをしないようにな」

 

 若干の怒気が混じったため息をつき、彼――否、彼女は言った。

 

 

 

「オレの名前は、八幡ミコト。カタカナ三つでミコト。市立海鳴第二小に通ってる、正真正銘の女子小学生だよ」

 

 

 わたしは泣きながら公園から逃げ出しました。

 こんなのって……! こんな失恋、あんまりだよっっっ!!

 

 

 

 

 

「もー。いい加減元気出しなさいよ、なのは」

「そ、そうだよ。再会は出来たんでしょ? それって凄く素敵だと思うなっ!」

 

 翌日の学校、わたしは登校するなり自分の机に突っ伏していました。皆が何事かと見て来ていますが、気にする余裕もありません。

 かろうじて、アリサちゃんとすずかちゃんに事情を話しました。聞き終えたときの二人の表情は、笑えばいいのか泣けばいいのか分からないと言いたそうでした。

 ……あの後、わたしとわたしを追ったお兄ちゃんを除いた二人で、ヤハタく……ミコトちゃんと話をしたそうです。ミコトちゃんは連絡手段がないので、毎日あの時間にあの公園で落ちあうそうです。

 ちなみに、お兄ちゃんは一目見た瞬間に女の子だって気付いてたそうです。骨格だか重心移動だかで。あの時点ではそれほど重要じゃなかったから、皆の間違いを訂正せずに黙ってたんだって。

 ちなみにちなみに、お母さんもお父さんも、ミコトちゃんの名前も性別も知ってました。真実を知ったらわたしがショックを受けると思って、言い出せなかったそうです。……実際こうなってるし。

 

「……わたしの王子様は、お姫様でした。お姫様はとても可愛いから、白馬の王子様が迎えに来てくれるでしょう。わたしには駄馬の王子様しか寄って来ません。世の中不公平ですよね、うふふ」

「な、なのはちゃん! 目が虚ろで怖いよ! 口調も何かおかしいよ!?」

「そんなにショック受けるほど可愛かったなら、どうして最初から気付かなかったのよ。普通気付くでしょ?」

 

 だ、だって! しゃべり方とか完全に男の子だったし、自分のこと「オレ」って言ってたし! でも今から思えば髪をかきあげる仕草とか凄く女の子っぽかったかも!

 う、うぅ……そういえば思い出補正除くと、あの時からちゃんと女の子の顔だった気がするぅ。「お人形さんみたい」って思ったって、それ完全に女の子向けの高評価だよぉ。

 ……何をもって男の子だと思ってたのー!? 自分で意味がわかんないよー!

 

「うぅぅ、わたしの初恋返してー……」

「まー、初恋の相手が実は滅茶苦茶可愛い同性でしたとか、もう軽く笑い話よね」

「あ、アリサちゃん! どうして追撃したの! なのはちゃんのライフはもう0だよ!?」

 

 また涙が出てきました。何だかとっても惨めだなって……。

 

「おーっす! ハーレム王の登校だぜー! なのは、おはよう! 今日のパンツ何色オグゥフ!?」

「……少し黙ろうか、変態」

 

 人がセンチメンタルなときに神経逆撫でするとか、この変態は余程命が惜しくないらしいの……ッ!

 わたしの本気の左ストレートをみぞおちに受け、変態は崩れ落ちた。昨日の真面目さは何処に消えたのか。

 

「お、落ち込んでるなのはを元気付けようとしたのにこの仕打ち……ボスケテ、アリサ」

「自業自得ね」

「……すずかチャーン」

「セクハラは擁護できないかなぁ」

 

 変態の味方はどこにもいないの。コレは女子全体の敵なんだから。

 

 そう、女子全体の敵。それはつまり、ミコトちゃんにとっても敵であるということで。

 

「あーこれはもうミコトちゃんに会ったときパンツの色聞いて癒されるしかないわー」

 

 それを聞いた瞬間、頭が沸騰するような感覚を覚えた。歯を食いしばり、変態の胸倉をつかむ。

 

「わたし達にセクハラするのは、百歩譲って許すの。だけど……ミコトちゃんに少しでも嫌な思いさせたら、本当に許さないから」

 

 本気で睨み付ける。向こうも、何故か真面目な表情でわたしを真っ直ぐに見た。

 やがて変態は口角を釣り上げ。

 

「へっ。ちゃんと元気あるじゃねえか。いつまでもうじうじしてんじゃねーよ、なのはらしくもねえ」

「……変態のくせに。妙な気の使い方しないでよ」

「お。俺の格好よさに気付いちゃったとか?」

「寝言は寝て言えなの」

 

 悔しいけど、ちょっと元気が出てしまった。その分は感謝するのが筋だけど、普段の言動が変態過ぎるせいで素直に感謝する気が起きない。

 なので、ちょっとひねくれてみた。

 

「今日は、赤だよ。パンツの色」

「へ? マジ!? よっしゃあ、なのはのパンツの色ゲットオオオオオオオオ」

「剛田くんが」

「オオオオオオああああああ剛田てめええええええ!!」

「何だよォ藤原あああああああ!!」

 

 大きな体の男子と変態が、取っ組み合いのケンカを始めた。呆れながら、わたし達はそれを横目で見ていた。

 わたしの口元には、ちょっとだけ笑みが浮かんでたそうです。

 

 

 

 

 

 時間はまたジャンプして、放課後です。わたし達は今、翠屋に来ています。

 メンバーは、わたし、お兄ちゃんの高町兄妹とユーノ君、おまけで変態のジュエルシード回収組に加え、アリサちゃんとすずかちゃん。

 そして、ミコトちゃん(今日はちゃんと女の子の格好でした……)とそのお友達6人。+綺麗な金髪ロングの、温和そうな大人の女性。向こうの保護者みたいな感じです。

 

 うん。

 どうしてこうなったの?

 

「それじゃまず、自己紹介から始めましょか。わたしはミコちゃんの同居人で、八神はやていいます」

 

 まず、車椅子に乗った女の子が挨拶をした。……うん、今聞き捨てならないことを言ったような?

 

「わたしは、ミコトの一の友人を自称する矢島晶! あきらって呼んでね」

「あたし、亜久里幸子ー。ミコトちゃんと三年連続で同じクラスです。ブイッ!」

「伊藤睦月です。皆からはむーちゃんって呼ばれてます。いつかミコトちゃんの友達になれたらって思ってます」

「田井中いちこでーっす。ミコっちのことは憧れっていうか、そんな目で見てまーす」

「田中遥です。あ、わたし達は全員海鳴二小の3年2組のクラスメイトなの」

 

 続けて、向こうの女の子たちが口々に自己紹介をする。とりあえず分かったことは、全員ミコトちゃんのことが大好きだってこと。……凄いなぁ、ミコトちゃん。

 

「ありがと。そっちの人は?」

「"こいつ"に関しては後回しにしてくれ。先に説明しなければならないことが山ほどある。オレは八幡ミコトだ」

「き、聞いてたより迫力のあるしゃべり方だね……」

「……ふ、これのせいで4年間男だと勘違いされ続けていたらしいからな」

 

 ……あれ? 何か今一瞬、皆から物凄く睨まれた気がしたよ? 気のせいかな。気のせいだといいなぁ……。

 攻守交代でこちらの自己紹介。一通りの自己紹介が終わり、次に進もうとしたところでミコトちゃんから待ったが入る。

 

「スクライア。他の席に声が漏れない結界を張った上で自己紹介しろ。出来るか?」

「……分かりました」

 

 まさかのユーノ君の自己紹介タイムです。止める間もありませんでした。アリサちゃんとすずかちゃんなんか、「ええっ!?」って驚いてます。

 けど……なんで向こうは全然驚いてないの? いや「おー」程度は言ってるけど、淡白過ぎない?

 

「異世界から来た魔導師、ユーノ・スクライアです。皆さんはどれだけの事情を聞いていますか」

「わたしは、昨日ミコちゃんが帰ってきてから一通りやな。皆は、異世界からの魔法の厄介事が起きてる程度やんな?」

「そんな感じ。あ、あんまり話しちゃいけないってやつでしょ? わたしらは大丈夫ってミコトが判断してくれたんだよ」

「いちこちゃんはポロって言いそうだけどねー」

「うっさい! あたしはアレでちゃんと反省したのよ!!」

 

 仲が良さそうで賑やかな6人組という印象だ。ミコトちゃんは、それを微笑んで見守っている。……あんな表情も、出来るんだなぁ。

 

「……ふぅーん。ねえなのは。あたし達、今まで何も聞かされてないんだけど? あたし達って、そんなに信用ならない人間なのかしら?」

「……あ゛」

 

 アリサちゃんのコメカミがピクピク動いている。これはまずい、非常にまずい。すずかちゃんも困ったように笑ってるだけで味方してくれない。

 わたしは狼狽えに狼狽え、さっきから一言も発していない金髪の人に目を止めた。

 

「そ、それでミコトちゃん! こちらの方は!?」

「おや、高町なのは。君はオレのことを「ヤハタ君」と呼んでいなかったか?」

「に゛ゃあ゛あ゛!? 回避失敗なのぉ!?」

「なーのーはー?」

 

 アリサちゃんからの梅干し攻撃が炸裂。とっても痛かったです。

 さらに追い打ちで、はやてちゃんとあきらちゃんからの口撃。

 

「そーそー。なんやなのはちゃん、わたしの……あえてわたしらのって言わしてもらうけど、ミコちゃんのこと男の子やと思ってたんやってなぁ。しかも4年間も」

「今日わたしらが集まったのは、その件についての抗議もあるんでー。覚悟しときなさいよ、なのは」

「あうあうあー……」

 

 涙目にならざるを得ませんでした。

 

「……こほん。なのはの発言ではありませんけど、そろそろそちらの方の紹介をしていただいてもよろしいですか?」

 

 ユーノ君が逸れた話題を一旦切り、戻す。ミコトちゃんは目線で指示を出し、女の人は頷いた。

 

「皆様、初めましてと申すべきでしょうか。なのは様、恭也様、凱様、ユーノ様におかれましては、昨日ぶりでございますね」

 

 え? この人、何処かで会ってたの? 皆を見てみるけど、やっぱり困惑顔。誰一人会った覚えはない。

 それでも女性は気を悪くせず、ニコリと笑って。

 

「私、ブランと申します。元ジュエルシード、シリアルXX。ミコト様の手によって"光の召喚体"となりました。以後、よろしくお願い致します」

 

 そう、自己紹介をした。

 そっか、元ジュエルシードなんだ。だから私達と会ったことがあるって……。

 

 

 

 ……。ミルクと砂糖がたっぷり入ったコーヒーを一飲み。ふぅ、とため息をつく。

 

「ミコトちゃん。なのは、もう驚き疲れたよ。多分他の皆も同じ気持ちだよ」

「そうみたいだな。面倒がないのは素晴らしいが、これはこれで面白くないものだ」

「残念です」

 

 もう、ね。向こうの皆とかこの異常事態を当たり前に受け入れちゃってるし、わたし達が驚いても滑稽なだけかなって。

 

「……なんか、聞きなれない単語があったり突っ込みどころがたくさんあるんですが、この方を作るために、ミコトさんはジュエルシードを欲したんですか?」

「いや、ブランはあくまで実験的な存在だ。というか、オレがこれまで開発した全ての"魔法"は、一つの目的のための実験でしかない」

 

 そう言ってミコトちゃんは、はやてちゃんの足を見た。それでわたしは、察することが出来た。

 はやてちゃんの足のためだけに、魔法を作り出すという偉業を成し遂げる。ミコトちゃんにとって、はやてちゃんはそれだけ大事な……。

 やっぱり、胸のところがもやもやする。ミコトちゃんは同性で、わたしの初恋は終わってしまったはずなのに。

 

「はやての足は、医学的には全く問題がないとされている。だからオレは医学で探れない部分を探ろうとしている。そのための"魔法"だ」

「でも、ミコトさんはリンカーコアを持っていない。魔法は使えないんじゃ……」

「お前達が「魔力」と呼んでいるものを使用する「魔法」は使えないが、それ以外もそうとは限らないだろう。まあ、オレにしか使えないゲテモノに仕上がったがな」

 

 そう言ってミコトちゃんは、一度コーヒーで口を潤した。……お砂糖もミルクも入れてなかったけど、よく飲めるなぁ。

 ミコトちゃんは続ける。

 

「昨日ブランの元となったジュエルシードを封印したのも、その"魔法"だ。ジュエルシードそのものに働きかけて「沈静化」させたら、結果的に封印と同じ状態になったというわけだ」

「そういえば、その話はまだ聞いてませんでしたね。納得しました。つまり、ミコトさんはジュエルシードを封印することは出来るけど、発動を感知したり、暴走体と戦ったりすることは出来ない」

「そういうことだな。全く戦えないわけではないが、恭也氏のような剣士や魔導師諸君ほどは得手としていない。オレの"能力"は本来戦うためのものではない」

 

 ちなみに、ブランさんを作った理由は、ミコトちゃんが出かけてる間のはやてちゃんの身辺警護と家事手伝いのためだそうです。……ジュエルシードの有効利用、なんでしょうか。

 

「それと、恐らくスクライアが懸念しているであろうブランの元であるジュエルシードの暴走だが、ありえないから安心しろと言っておこう。専門的な話は、こいつらが眠くなる」

「っていうかこっちはもう話そっちのけでシュークリーム食べてるけどね」

「ミコちゃん食べんとなくなるでー」

「待てはやて、オレの分はちゃんと残しておけよ。結構楽しみにしてるんだから」

「あ、あはは……やっぱりミコトさんは女の子、なんですよね」

「当たり前だろう。お前の目は節穴か、スクライア」

 

 ……なんでだろう、ほんともやもやするなぁ。

 

 とりあえず、魔法やミコトちゃんの力の話なんかは、そんな感じで一旦切り上げ。これ以上は深入りになっちゃうから、あとは関係者のみのときにするということになった。

 改めて、4年もの間失礼な勘違いをしたわたしが糾弾されるときがやってきてしまいました。

 

「っていうかね。これ見てどうして男だって思うわけ? こんな可愛い男の子がいるの、ねえ?」

「ち、近いよあきらちゃん……」

「桃子さん、昔のミコトと会ってるんですよね。どうでした?」

「とっても可愛い女の子だったわよ。なのはからは男の子が来るって聞いてたから、ほんとびっくりしたのよ」

「貴重な証言が得られました。ギルティ」

「ギルティやな」

「ギルティだよねー」

「ご、ごめんねなのはちゃん。ギルティです」

「なんだかよく分からんけどギルティ!」

「いちこちゃん言いたかっただけでしょ。でもギルティ」

 

 満場一致で有罪判決でした。

 

「作文にまでしちゃったからねぇ。擁護できないわ。ギルティ」

「助けてあげたいところなんだけど、魔法のことも黙ってたからね。今日は厳しく行くね。ダブルギルティ」

「……すまんななのは。さすがにどうしようもない。ギルティ」

「妹に甘い恭也さんでもギルティだった件。覆せないな、ギルティなのは」

「ガイ、僕達はさすがに人のことを言えないと思うんだ」

 

 傍聴席からも有罪判決が下される中、ユーノ君だけはわたしの味方というか共犯でした。っていうか変態、キミは糾弾される側なの。

 

「異議ありなの! そこの変態とフェレットもどきも、昨日ミコトちゃんを男の子と勘違いしてました!」

「フェレットもどきって、酷いよなのは!」

「いや、あれは普通に無理だろ。上着で体のライン完全に隠れてたし、帽子で顔も見えなかったし」

「恭也さんは分かったんですか?」

「ああ、重心移動の仕方が完全に女の子だったからな。本人も隠そうとしてなかったし」

「ユーノは可愛いから許す。でも変態の方は許さん」

「ははは、冗談キツイぜ晶ちゃん」

「気安く名前で呼ぶな、変態!」

 

 キミが変態だということは周知徹底しておくの。彼奴の普段の言動について話をしたら、向こうの女子からも汚物を見る目で見られるようになった。

 彼は言った、「解せぬ」と。自分を見る目が曇りきってるの。

 とりあえず、変態をスケープゴートに出来たので、その隙にこっそりミコトちゃんに尋ねる。

 

「そういえば、どうして昨日はあんな格好してたの? 別にアレを擁護するわけじゃないけど、ちゃんと今の格好をしてれば男の子に間違えられることなんてなかったのに」

 

 もっとも、それがなければ勘違いしていたわたしがミコトちゃんの思い出に行きつくこともなかったんだろうけど。……うう、わたしの初恋。

 しゃべり方は一見すればとても固く、そういうのを気にするようには見えなかったけど、やっぱり男の子と勘違いされたことにはショックを受けている様子のミコトちゃん。形のいい眉を不機嫌そうにゆがめた。

 

「……以前"魔法"の実験を失敗したときに、ボロボロになったことがあってな。はやてから怒られた」

「そらな。いくらわたしのためにやってくれてるって分かっても、ミコちゃんが傷つくんは本末転倒やで」

「そういうわけで、実験のときはせめて汚れてもいい格好にしている。帽子は髪の保護のためだ。オレとしてはいい加減切りたいんだが」

「ダメや。それ切ったら泣く子が何人おると思ってんねん。手入れはわたしがしとるんやから、我慢してや」

 

 そういうことらしいです。なんか、二人がツーカーな感じがしてやっぱりもやもやします。

 

「……はやてちゃんとは、どんな関係なの」

 

 そう思っていたら、自然と口からそんな言葉が出てきました。それに対し、ミコトちゃんは一切言いよどむことはなく。

 

「「相方」だ」

 

 そう断言した。はやてちゃんの方は、恥ずかしそうに笑っている。……むー!

 

「事務的な関係性を求めているなら、同居人だ。はやてはこの足で一人暮らしなもんだから、サポートが必要なんだ。そのために一緒に暮らしている。理由は察してくれ」

「そ、そうなんだ。……いいなあ、はやてちゃん。こんな言い方、不謹慎だって分かってるけど」

「あはは、気にせんでええよ。そらなのはちゃんなら、ミコちゃんと一緒に生活しとるわたしを羨ましがって不思議やないし」

 

 ニヨニヨとした視線。あ、これ色々バレてる。はやてちゃんは結構鋭いみたいです。

 と、ここで思い出したようにミコトちゃんが質問をしてきた。

 

「そういえば、昨日は素性を言ったら逃げ出してしまったが、今日は別に逃げなかったな。あれは結局なんだったんだ?」

「うっ。そ、それはその、何て言いますか……」

 

 い、言えるわけない! 男の子だと思ってたミコトちゃんに恋して、女の子であると気付いて失恋したなんて!!

 た、助けてはやてちゃん!!

 

「ミコちゃん、女心は大変なんやで。それをなのはちゃんの口から言わせるのは、酷ってもんやで」

「そうなのか? ふむ、女心というものもだいぶ分かってきたつもりだったが、まだまだのようだな」

「女の子の台詞じゃないよ、ミコトちゃん……」

 

 なんか脱力した。……あー、なんでわたしがミコトちゃんを男の子だと思ってたか、分かっちゃったかも。

 こういう、ピンポイントで女の子らしくない部分が目に止まっちゃって、しかもそれが幼い女心を刺激したからじゃないだろうか。で、そのまま恋は盲目状態になっちゃって、疑問を持たなくなっちゃった、と。

 

「にゃああー……」

 

 脱力のままにテーブルに垂れる。冷静になって振り返ってみると、突っ込みどころ満載過ぎた。ませ過ぎだよ、過去のわたし……4歳児が何やってんの。

 さすがにこの状態のわたしに追撃が飛んでくることはなく、海鳴二小グループはお兄ちゃんへの質問タイムに移っていた。……皆の目がハートになってるように見えるのは気のせいかな。

 

「あはは、恭也さん大人気やんな。まあ格好ええし、分かるわ。自慢のお兄さんやんな?」

「うぅーん。確かに大好きなお兄ちゃんなんだけど、ちょっと妹に対して過保護過ぎな部分があるから……」

 

 あ、お兄ちゃんに恋人がいるのかって質問が飛んでる。それにはお兄ちゃんの恋人の妹であるすずかちゃんが答え、女の子特有の黄色い歓声が上がった。

 そこで変態が再起動した。何故。

 

「そうだよ! 忘れてたけど、昨日恭也さんミコトちゃんにめっちゃボディタッチしてたじゃん! しかも女の子だって分かった上で!!」

「貴様、ここでそれを思い出すかっ! 貴様と違ってやましいところは一切ないわ!」

「そうよ! 恭也さんが下心でそんなことするわけないでしょ! っていうかイケメンだから無問題!」

「ミコトちゃんと並ぶと絵になりそうだよねー」

「お、俺だって普通よりはイケてる自信ありますし!?」

「自分で言ったら説得力ないわよ。あんたの場合は普段の言動が最悪。恭也さんとは信用が月とスッポンなのよ」

 

 ちなみに今の会話に参加してない皆は、ユーノ君を弄って遊んでいます。あ、小動物的な意味でね?

 なんだか落ち着いたため、思考があっちこっちに飛ぶ。そういえば今日ジュエルシード探すのいいのかなーとか、魔法の勉強もしなきゃなーとか、将来の夢どうしようかなーとか。

 ミコトちゃんに関しては、結局勘違いだったけど、想いは本物だったんだよね。だからもやもやするし、ミコトちゃんと仲の良いはやてちゃんを羨ましいとも思ってしまう。

 この想いはどう処理すればいいんだろう? 悩めど悩めど答えは出ず。

 ミコトちゃんと協力出来ることを嬉しく思っている自分も否定できず、何かを誤魔化すようにシュークリームを頬張った。

 ……甘ぁい。

 

 解散の時、海鳴二小組を代表して、あきらちゃんから「町の平和は任せたわよ!」と背中を叩かれた。

 ……色々と気持ちに決着はついていないけど、今はとりあえずジュエルシード集めを頑張ろう。そう思いました。




やったぜ。
本当はミコトの性別は無印編終了まで引っ張るつもりだったんですが、この段階のミコトが訂正しないわけないなぁと思って予定を早めました。このために明記避けて来たんだからま、多少はね?
おかげで水着回とか温泉回とか妄想が捗ります(アヘ顔)

予想以上に海鳴二小の女子との繋がりが強くなったため、まさかの続投。こんなんじゃこの二人、聖祥に転校したくなくなっちまうよ……。

ミコトが開発した"魔法"に関しては、後の話で。





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