不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
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お ま た せ 。やったぜ。(本領発揮)

2017/07/21 脱字修正
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EX.4 模擬戦

 惨劇(?)の翌日。体調に問題がないことを確認したクロノが、改めて依頼の話を持ってきた。

 

「想像がついていると思うけど、今回の依頼は管理局絡みのものだ。聖王教会としては、連続して依頼を出すこともやぶさかじゃなかったみたいだけど」

「それはそれで問題だ。彼らはあくまで「取引相手」であって、身内ではない。そこら辺の線引きをしっかりしてもらいたいものだ」

 

 カリムのみはオレ達――オレとはやての友人(仮)と言ってもいいが、他はそうではない。取引・依頼の線引きを曖昧にするのは、現段階では危険と言わざるを得ない。

 オレ達が聖王教会という組織の一部分としてなし崩し的に組み込まれてしまう可能性もあるし、認識の齟齬による不和も生みかねない。融通をきかせるにしても、彼らがオレ達の立ち位置をしっかり理解してからだ。

 もちろん、それでもなおオレ達は「あくまでも依頼を受けているだけ」という形を崩すことはない。それがオレ達の望む、今の生活を続けるために必要なことだ。

 

「それならば、ものによってはリッターを動かさなくても済むかもしれないな。命じれば動くだろうが、彼らは先日働いてくれたばかりだ。しばらくは穏やかに過ごさせたい」

「お優しいことだな。だけど、僕らが出す依頼は彼らのイメージ改善の意味もある。彼らが動かないと、それは果たせないんじゃないか?」

「いずれは果たさなければならないことだが、必要以上に焦ることでもない。それに、聖王教会に比べて管理局は不透明な部分がどうしても多い。規模の差を考えれば仕方のないことだがな」

「まったく、耳の痛いことだ。僕自身その通りだと思っているから、返す言葉もない」

 

 苦笑するクロノ。上位の構成員にこうまで酷評されるあたり、管理局の闇は教会の派閥争い以上に深そうだ。もし管理局絡みで先日の司祭のような人間がいたとして、簡単にあしらえるとは考えない方がいいだろう。

 だからこそ、ある意味で管理局の依頼は教会以上に慎重にならざるを得ない。クロノ達が防波堤を務めてはくれているが、オレ達自身も自己防衛を怠ってはならない。

 ……大事な話ではあるが、これからの話に直接関係することではない。軽口はこのぐらいにしておこう。

 

「実のところ、今回の依頼は「マスカレード」にというより、ミコト個人へのものに近いんだ」

 

 話を区切り本題に入る。クロノからもたらされたその言葉は、若干ではあるがオレに驚きを与えた。

 

「「魔法の組織」が、「魔法」を使えないただの小娘に依頼か。冗談にしては面白みが足りないな」

「冗談ではないからな。それに、君が「ただの小娘」だとしたら、僕達は「ただの公務員」になってしまう。それこそタチの悪い冗談だ」

 

 相変わらず無駄にオレへの評価が高いやつだ。……それはオレの周囲の大勢に言えることか。彼だけ特筆することではなかった。

 ある意味ことの真理を突いた発言を横に置き、クロノは続ける。

 

「今回の依頼主は、「アースラの武装局員たち」なんだ」

 

 そして彼は、詳細を話し始めた。

 

 まず大前提として、二つの事柄がある。一つは、「教会騎士団は管理局に人員を派遣することがある」ということ。もう一つは、「アースラの職員は多少なりともオレ達を知っている」ということだ。

 前者について、これはクロノが聖王教会の依頼を持ってきたことからも想像できることだ。両者の間に明確なつながりがなければ、カリムという教会の上層部から直接依頼を受けることなど出来るはずもない。

 事実として、カリムは彼女の持つレアスキルで、彼女のお付きであるヌエラや騎士団長ハーマンなどは直接戦力として、管理局の行う事件捜査に協力した過去を持つ。

 代わりに管理局からは資金援助であったり、ベルカ自治区の独立法制といった見返りを提供している。……一応は対等な取引関係なのだろうが、間違いなく管理局の方が上の図式だな。規模の差故、致し方なし。

 そして後者に関しては語るまでもないだろう。「ジュエルシード事件」での一時的な協力、そして「夜天の魔導書復元プロジェクト」。あれだけ派手にやって、オレ達の存在を隠すことなど、出来るはずがない。

 さすがに「コマンド」や「召喚体」といったオレ達のトップシークレットや、修復していたロストロギアが何なのかまでは、彼らとて知らされていない。そこは最後の一線として守られている。

 それでも「マスカレード」という事件解決の立役者チームが存在することは、確固たる事実として知っている。

 この二つの前提が、今回の依頼の発生――「アースラ武装局員の要望」につながったというわけだ。

 

「一月ほど前になるんだが、ミッド近隣の管理世界でベルカ文明のものと思われる遺跡が見つかってね。僕らが捜査に当たり、教会に騎士団の派遣を要請したんだ」

 

 餅は餅屋、ベルカにはベルカを。オレ達、というかヴォルケンリッターに依頼がこなかったのは、これが比較的大きな案件だったからだろう。どこまで行ってもオレ達は「個人」だ。組織ではなく、限界がある。

 彼らが一緒に仕事をするのは、これが初というわけではないそうだ。これまでにも何度かあり、局員と団員の間で多少の交流も存在する。

 そして、その話題の中で武装局員たちは知ったのだという。「マスカレード」というチームが、教会騎士団に稽古をつけていることを。

 

「依頼のことは僕達だけで完結していることだから、局員たちには特に話してなかったんだ。「聞いてない」って詰め寄られたよ」

「事実、聞かせる必要のないことだからな。彼らもその辺はさすがに分かるだろう」

「説明して理解は得られたけど、納得はしてもらえなかったよ。で、「自分達も一緒に訓練したい」ときたもんだ」

 

 さすがにクロノも呆れたらしく、疲れた顔でため息をついた。オレも似たようなものだが、表情は動かなかった。

 ……しかし、だとすると分からないことがある。

 

「それで何故、「オレへの依頼」になるんだ? そういうことならば、フェイトやユーノ、なのはとガイ……はちょっと特殊過ぎるか。ともあれ、魔導師への依頼になるだろう」

 

 教会のときも、彼らは「古代ベルカの騎士の手ほどきを受けられる」ということで歓迎してくれた。ならば管理局は、ベルカ式をミッド式に置き換える、即ち優秀な魔導師の指導を受けることを望むのではないだろうか。

 この疑問に対し、クロノの答えはもっともであった。

 

「君から見たら穴だらけの組織かもしれないが、管理局も無駄に大きいわけじゃない。魔導師としての教導や指導のノウハウはある。いくら彼らが才能豊かだからって、それだけで教えを請いたいと思うわけじゃないさ」

「なるほど、それもそうか。だが、それならば余計に分からない。オレ達と訓練をすることに、武装局員側のメリットが見えてこない。さすがに感情の問題だけで依頼を持ってきたわけじゃないだろう」

 

 如何に武装局員が騒ぎ立てようが、実際に依頼を出すクロノが妥当性を見出せなければ、この依頼はオレのところに届かなかったはずだ。

 クロノが見つけたアースラ側のメリット。それは、オレにとって理解はしていても、いまだ納得できていないことだった。

 

「彼らが知りたいのは、君達のチーム力の秘密。とりわけ君の指揮能力だよ。極端な話、君が行って座学を行うだけでもいいんだ」

「……オレは戦術や指揮を専門として学んだわけではないぞ。全て独自考察だ。いくら管理局でも、そういうことを専門に行っている指導員はいるだろう」

「確かにいるけど、君はその思考と発想で彼らの上を軽々飛び越すからな。「個人」でジュエルシードを集め切ることも、夜天の魔導書の危険性を失くすことも、普通は出来ることじゃない」

 

 だからそれはオレの功績ではないと何度も言っているのだが……、彼が言いたいのは「そういう形に導くことができた」という点を評価しているということなのだろう。理解はしているとも。

 だがやはり、オレの感覚として、どうしても合致しない。周りに優秀な人材がいて、それを適切に動かすことができれば、それこそ「誰でも」これぐらいできるだろう。オレは「誰でもできること」しかやっていない。

 

「君は分からないかもしれないが、その「適切に動かすこと」が誰にでも出来ることじゃないんだ。確かに誰にでも出来得るかもしれない、だけど実際にはそうじゃない」

「可能性があるのと、実際に可能性を掴めるかは別問題ということか。そんなもの、果たして教えることができるのか。究極的には感覚の問題だぞ」

「何かのとっかかりになるかもしれない。少なくとも、何もしないよりはずっと可能性がある。それこそ、掴めるかどうかは彼ら次第だよ」

 

 ……正直に言って、この依頼については遠慮願いたい。オレは結果として指揮を行ってきたが、その能力に自信があるわけではない。まして、誰かに教えるようなものでもない。

 だというのにクロノも、彼の後ろにいる武装局員たちも、非常に乗り気になってしまっている。感情が発端ではあったとしても、彼らなりにメリットを見出して客観的に依頼を持ってきた。

 それに対しオレが感情で突っぱねるというのは、果たして貸し借りの釣り合いが取れているのか。……答えは分かり切っており、今度はオレの口から疲れたため息が漏れた。

 

「一応、考えはする。やり方等に関して、ミステール達と相談する。それでダメそうなら諦めてくれ」

「君達への依頼の鉄則、「君達の意思が最優先」というのは、これについても同じだ。十分だよ」

 

 満足そうに頷くクロノに、オレはもう一度だけため息をついた。

 

 

 

 

 

 結果、今回はオレ(いつも通りエール、ソワレ、ミステールも装備として着いて来てくれた)の他に、フェイトとアルフ、なのはとガイ。そしてユーノという、主にミッド式魔導師で構成された面子となった。

 最初オレは一人でこの依頼を受けるつもりだったが、ミステールから「指導経験のない主殿では、ついてこれない者のフォローができんじゃろう」というもっともな指摘を受け、実戦形式で見せることとなった。

 そして今回の相手はミッド式の魔導師。ならば同じミッド式魔導師への指示を見せるのが、彼らにとっても分かりやすいだろうということになり、このような構成になった。

 ……もちろんシグナムは最後までごねた。特に彼女はクロノのことを(オレが絡むと)まるで信用しておらず、「御身にもしものことがあったら」と無理にでもついて来ようとしていた。

 だが先述の通り、オレは彼女達にも休息を取ってもらいたかった。最終的に彼女は弟子であるユーノに「奴が妙なことをしないよう、しっかりと主をお守りするのだ」と命令を出すことで妥協した。

 今回ははやての見学もなし。彼女は家で夕飯の支度をしている。さすがにブラン一人にシャマルの抑えを任せるわけにはいかないからな。……いい加減彼女も、料理時のうっかりを直してもらいたいものだ。

 

「本日は僕達の無茶な依頼を引き受けてくれて本当にありがとう。よく来てくれた」

 

 アースラ転送ポートにて、クロノとリンディ提督が出迎えてくれる。その後方に、見覚えのある(本当に見覚えしかないが)武装局員が3人。

 この様子からして、恐らくはその3人が件の嘆願者なのだろう。いかつい大男、眼鏡の優男、金髪の軽そうな男という取り留めのない組み合わせだった。

 

「民間団体「マスカレード」より、本件の受諾を正式に宣言させてもらう。本日はよろしく頼む」

「……そこまでお固くやる必要はないんじゃないか? 一応、ここにいる全員が訳知りなんだから」

 

 形式的に対応するオレに、クロノは苦笑を浮かべた。確かにその通りではあるが、こういうところをなあなあにするわけにはいかない。彼らがオレ達の「身内」と呼べたとしても、少なくとも今は「局員」なのだから。

 オレがそう答えることが分かっていたのか、クロノと違ってリンディ提督は穏やかで人のよさそうな笑みを崩さなかった。……あの表情の奥で何を考えているのか分からないから、油断ならない人なのだ。

 

「それでは本件の依頼者である、本艦の専属クルーである武装局員を紹介します。左から順に、フェルディナント・アームストロング三尉、ハーバート・マクミラン一尉、ジェイスン・リー三尉です」

「代表して、ハーバート・マクミランです。我々の嘆願を聞きいれていただき、クルー一同感謝しております」

 

 リンディ提督に促され、真ん中の眼鏡が前に出る。どうやら彼がまとめ役のようだ。まあ、印象通りではある。

 この男は他二人よりも見覚えがある気がするが、どこでそんなに印象に残ったんだったか……、ああそうか。「ジュエルシード事件」のときに、クロノの代わりに指揮を執り行っていた男だ。あのとき眼鏡はなかったが。

 時空管理局の階級制度に詳しいわけではないが、それでも聞く限りでは彼は両隣の二人より上だった。指揮を任されたことからも分かる通り、所謂「キャリア組」というやつなのだろう。

 つまり、彼こそがオレの指揮(と皆が言い張るナニカ)を学びたいと考えた張本人ということになる。

 

「まだ感謝を受け取るわけにはいかない。失望に変わるかもしれないからな。あまり期待はしないでもらいたい」

「……フフ。そのご年齢でそれだけの返しが出来るのだから、期待するなというのは無理な話です。我々は全員、あなた方に魅せつけられているのですから」

 

 やれやれと軽くため息を漏らす。ギルおじさんが語った「カリスマ性」とやらも、思った以上に影響範囲が広い。所詮は異常性の結果論でしかないというのに、困ったものだ。

 こんなところで長々と立ち話するものでもない。ハラオウン母子に言われ、オレ達は訓練施設の方に移動することになった。

 と、その前に金髪男からの質問があった。

 

「あのー。今日はそちらさんのサムライマスターさんって、いらっしゃらないんっすかね?」

 

 サムライマスター。一瞬誰のことか分からなかったが、すぐに思い至った。どう考えても恭也さん以外にありえなかった。

 軽そうな見た目だとは思ったが、口調も軽かった。アースラ武装局員として勤められているのだから、それだけではないのだろうが。

 

「彼は今日は来ていない。本日の案件に、彼は適さないと考えた。彼一人いれば大体のことが解決してしまうからな」

「あー、そりゃ確かに。あの人魔法使えないはずなのに、カタナで砲撃魔法も斬れるって噂っすからねー」

「いや、そんなところは見たことないが……彼の場合出来そうで怖い」

「……わたしの家族ってー!」

 

 いつも通りのなのはの嘆き。だが彼女も、最近は一歩分ぐらい彼の領域に足を踏み入れていることを、まだ自覚していなかった。彼女の心の平穏のためにも、気付かぬことを祈るばかりだ。

 金髪男――リーは、眼鏡のマクミランにたしなめられた。

 

「ぶしつけですよ、リー三尉。彼女達にも事情というものがある。無遠慮に踏み込んでいいものではありません」

「えー、別にいいじゃんさーハーちゃんよー。せっかくだからサムライマスターさんの剣技も見たかったんだし。ハーちゃんも見たかったべさー?」

「……変な呼び方をしないでください。私はハーバートです。そもそも勤務中の呼称は家名と階級の組み合わせを使うべきであり……」

「細かいことを気にするな、ハー坊。そんなことを気にしてるのは、この艦じゃお前さんと執務官殿だけだ。もっと大きく構えんと、将来はげるぞ」

 

 彼らのまとめ役は、いじられ役でもあったようだ。階級はマクミランの方が上のようだが、この大男――アームストロングの方が古株らしく、頭が上がらない様子だ。

 生真面目眼鏡は何かに耐えるように震えながら眼鏡の位置を直し、カツカツと足音を立て、無言で廊下を進んで行った。大男と金髪は、顔を見合わせてやれやれと肩を竦めた。

 

「以前はそれどころではなくて気付かなかったが、中々愉快なクルーをお持ちのようだな」

「リンディ提督が直接声をかけた連中だからな。あれで有事には頼もしい。……で、誰が将来はげるって? フェルディナントさん」

「おっと、聞こえとったか。なぁに、言葉のあやってやつよ。最近はクロ坊も、誰かさんの影響で、余裕が出てきたからな。ハー坊ほどはげる心配はなかろうよ」

「……他に人のいるところでクロ坊はやめてくださいよ。一応、執務官としての立場はあるんだから」

 

 クロノの言葉は額面通りではなく、単なる照れ隠しなのだろう。ちょっと顔を赤くしながら、彼はそっぽを向いた。このアームストロングという男は、どうやら相当の古株であるようだ。

 ――訓練施設に着くまでリーが饒舌に語った内容によれば、アームストロング(通称ディーさん)は元々、エスティアのクルーだったそうだ。つまり、クロノの父のかつての部下だ。

 例の一件よりも前に艦を降りていたため、あの悲劇に直接は遭遇していないらしい。だがその後、母親一人で奔走するリンディ提督を見かねて、アースラのクルーとして現場復帰することを決めたそうだ。

 言うなればギルおじさんと同じようなもの。そのやり方がもっと直接的であり、彼らのすぐそばで見守っているのだ。彼もまた、クロノがオレのように屈折しなかった理由の一人なのだろう。

 

「わしはこの歳で嫁さんも子供もおらんからな、いい加減諦めておる。目下一番気になってたのは、クロ坊がちゃんといい人を見つけられるかどうかだったんだが……予想以上に大物で、わしびっくり」

「あ、そーそーそれそれ! 俺っちも気になってたんすけど、リーダーさんと執務官って今どれぐらい進んだんスか!?」

 

 彼らの弄りの矛先がオレの方を向いた。やや後方に付いてきているユーノが表情を険しくしているのを、チラリと見て確認する。

 

「現状では箸にも棒にもかからないレベル、と言ったところだ。彼自身、自分がどう思っているか分からないそうだ。まったくもって幼稚園児レベルのヘタレ男で困ったものだ」

「誰が幼稚園児だっ! いや確かにまだ分かってないけども!」

「えー、まったまたぁ。執務官、ことあるごとにリーダーさんのこと引き合いに出して、俺らにハッパかけるじゃないっすか。控え目に見て憧れの人としか思えないっすよ」

「はあぁ~……こりゃひ孫の顔を見られるまで、先は長そうだなぁ」

 

 ユーノが出張るまでもなく、オレ一人で十分あしらえるレベルだった。所詮クロノだからな。

 だがユーノ、ホッと一安心している場合じゃないぞ。お前もどんぐりの背比べでしかないのだから。

 

 

 

 アースラは全長500mを超す巨大な戦艦(オレの感覚として。管理局の平均的な艦船のサイズなど知らん)であり、その巨体の中に模擬戦を行うための訓練フィールドも存在する。200m四方の立方体の空間だ。

 通常はただの四角い殺風景なだけの部屋なのだが、オペレータが操作することで各種フィールドの形成や仮想ターゲットを出現させるなどができ、様々な種類の訓練に対応している。

 アースラの巡航に常勤する武装局員は約20名。事件の捜査に当たるときは倍以上に膨らむこともあり、彼らのコンディションを常に最高に保たなければならないのだから、艦内にこれだけの訓練施設があることも頷ける。

 本日はここで模擬戦を行い、オレ達の戦い方を見てもらうことになる。……より正確に言うならば、戦闘行動におけるオレの指示出しを、か。

 

「はぇー……ひろーい! アースラにこんな場所があったんだ!」

「なー。一応、まともな訓練が出来る設備があるのは知ってたけど、こりゃすげーわ。よく船の中にこんなもん作ったな」

 

 なのはとガイ。彼らについては、「まともな戦闘行動」は無理だろう。戦闘訓練など受けて来ていないし、人間を相手にすることに至ってはほぼ経験がない。心の準備が出来ているようには見えない。

 そもそもなのはは、シャマルがいなければろくに砲撃を当てることが出来ない。室内で距離に制限が設けられるとは言え、「いつも」のスペックは望むべくもない。あてにすることはできない。

 つまり、今回オレが主力として動かすのは、フェイトとアルフ、仕上がり次第ではユーノも。……あまり姉としてフェイトに無茶をさせたくはないが、このやり方では彼女に頑張ってもらうしかない。

 

「……大丈夫だよ、おねえちゃん。わたしは平気。それに、久しぶりにミコトの力になれるから……ほんとのこと言うと、嬉しいんだ」

 

 表情は動かしていないつもりだったが、妹として、娘として、同じ時間を過ごしてきたフェイトは、オレの胸中を察したようだ。……本当によく出来た妹で、姉としても鼻が高いよ、まったく。

 彼女が手に取ったオレの左手を、軽く握り返す。オレも大丈夫だと言葉なく伝える。人型になっているアルフが、笑顔でオレ達の肩を抱いた。

 

「僕もですよ、ミコトさん。こういうときにあなたの力になるために、僕はシグナムさんから剣を習ったんです。……師匠命令だけでなく、僕の気持ちとしても。今日は僕があなたの剣になります」

 

 剣状シールド「ソードバリア」を展開し、オレの騎士達がやるようにかしずくユーノ。意外とサマになっている辺り、シグナムから練習させられたのかもしれない。何をやっているんだか。

 ……いいだろう。そこまで言うなら、お前のことも戦力としてあてにさせてもらう。無様を晒すことは許さんぞ。

 諸所の要件により戦力外となる二人を除き、こちらは準備万端の様子。そんなオレ達を見て、マクミランが微笑を浮かべた。

 

「この光景だけで、あなたがどれだけメンバーに愛された指揮官なのかがよく分かります。私の目に狂いはなかった」

「時折愛が重すぎる連中もチラホラ見かけられるがな。それに、決めつけるのは早計というものだ。まだ模擬戦は始まっていない」

「あなたは既にいくつもの実績を積み重ねている。それを可能にしたのは何か……私はそれが知りたいのです」

 

 意外と言うかなんというか、マクミランは思ったよりも野心家であるようだ。否、向上心が強い、と言った方が近いか。

 猜疑というほどではないが、彼のイメージからは若干離れており、疑問を持つ。オレが聞くまでもなく、彼は答えを語る。

 

「私は、クロノ執務官と同期です。年齢も同じ、今年で16になります。それ故と言えばいいか、彼にはシンパシーのようなものを感じるのですよ」

「そうだったのか。……お前が老けているのか、クロノが小さいのか、とてもそうは見えないな」

「身長の話はするな。それに今のペースで伸びれば、数ヶ月後にはハーバートよりは大きくなるはずだ」

 

 そのペースで伸びればな。……抜け駆けは許さんぞ、絶対に。

 オレの視線にこもった力にクロノは身震いし、理由が分からず困惑した。その鈍さだから幼稚園児レベルだというのだ。

 身長の話は冗談のようなものだったのだが、マクミランは「まさにそれです」と指摘した。

 

「ご存知の通り、クロノ執務官は年齢の割に成長が遅い。それが休息の欠如によるものだということは、我々の間でも問題となっていました。彼の優秀さに甘えていた、ということですから」

「なるほどな。つまりお前は、彼の負担を軽減するために、指揮官としての成長を考えているということか」

「……部下からの思いやりに喜べばいいのか? それとも身長ネタを真面目に考察されて困ればいいのか?」

 

 手札が強化されるのだから喜んでおけ。それに、これは単純に身長だけの話ということではない。

 要するにこの男は、「自分達がふがいない」「一人に依存する環境を何とかしなければならない」と問題意識を持っているということだ。アースラという「集団」を健康に保つためには、必要不可欠なことだろう。

 なるほど、このあおり耐性のない男も、やはりリンディ提督がスカウトした人材だということだ。決して、数が取り柄の有象無象ではない。

 別に心を打たれたというわけではない。あの人のよさそうな女性が、やっぱり中身は狡猾な狐であったことを再確認しただけの話。

 さりとて、今日の依頼は彼らへの……彼への「技術伝達」だ。

 

「アースラチームが出来る限り存続することは、こちらにとっても望ましいことだ。少しでもオレから学べることがあるなら、自力で掴み取れ。生憎とオレには教導のノウハウなどないのでな」

「リーダーさんのオレっ子入りましたー! やっぱ聞いてて気持ちいいっすよねー、これ」

「リー三尉! ……大変失礼を致しました、ヤハタ殿」

「別に気にすることではない。ただの事実だからな」

 

 空気を読まずに話に入ってきたリー。オレの周りの奴らも似たようなものなので、今更騒ぎ立てるようなことでもなかった。

 

 ほどなくして、アームストロングが3人の武装局員を連れてきた。3人ともここ一年で加入した新人であり、階級は一~二等空士。先の3人を合わせた合計6人が、本日の模擬戦相手となる。

 クロノは不参加のようだ。……正直、この面子で彼に参加されたらどうしようもなかっただろうな。いくらなんでもこちらの手が足りなさ過ぎる。

 

「最終確認だ。模擬戦はチーム戦で行い、全員の戦闘不能、または指揮官の撃墜・降参宣言で決着する。試合時間は30分、時間内に決着がつかない場合は、クロノ執務官、リンディ提督、エイミィ補佐官の判定で勝敗を決する。異論はあるか?」

「問題ありません。勝敗の決定も非常に分かりやすく、妥当な形式でしょう」

「主に指揮を見せるという依頼内容を鑑み、見通しの良い戦闘フィールドで行う。また、分析のための映像記録は許可するが、これはアースラ外に持ち出すことを禁ずる。アースラスタッフ以外に見せるのも禁止だ」

「え、そうなんすか?」

 

 模擬戦のルールをすり合わせていると、リーが心底驚いた様子で口を挟んだ。オレ達の方針を考えれば、すぐに分かる程度に当たり前のことだと思うんだがな。実際、マクミランとアームストロングは理解している。

 

「我々は「匿名の民間団体」というスタンスを崩す気はない。当然、この姿を管理世界の人間に広く知らしめる気もない。それは我々の身元を特定する可能性に繋がり、悪手だ」

「彼女達が「そう」であるというのは、クロノ執務官からもリンディ提督からも、口を酸っぱくして注意されたことでしょう。もったいないというのはその通りですが、それで彼女達との仲を険悪にしては本末転倒です」

「人には人それぞれ、事情ってもんがあるんだ。察してやらねえと、いい男になれねえぞ」

「あー、そういやそうっすね。アルの奴に自慢してやろうと思ったのに……」

 

 なるほど。つまりは彼が今回の件の発端――聖王教会の騎士から話を聞きだした張本人ということか。

 しかし、「アル」か。……どうにもヴィータ(変身魔法使用)にやたら懐いている細剣使いの新人騎士が思い浮かぶのだが。確かに口止めはしていなかったが、口が軽すぎやしないだろうか。

 次回の訓練依頼のときには少し灸をすえるようヴィータに言っておくか。

 

「「マスカレード」に依頼を受けてもらった、程度のことなら言っても構わん。要するに我々の身元につながる情報を無闇に広めなければ問題はない。個人情報の保護は重要なことだろう?」

「うーん、まあしょうがないっすかね。リーダーさんが不特定多数に知られるのは、確かに嫌だし」

 

 もっと渋るかとも思ったが、割合あっさり納得してくれた。……先のマクミランの発言通り、彼も「魅せつけられた」クチなのだろうか。

 アームストロング、それから新人空士たちも、リーの言葉に「うんうん」と頷いて同意している。彼らの中でのオレの扱いが非常に気になる一幕である。

 ……今は気にせずにおくのが精神衛生上よろしいかもしれない。

 

「納得したなら話を戻すぞ。とは言え、あとは当たり前の内容だけだ。危険行為の禁止、即ち殺傷設定魔法の使用禁止。ミッド式の魔導師ならば、普段から心がけていることだろう」

「ええ。アースラスタッフには近代ベルカ式すらおりません。かの文化の殺伐とした風習とは無縁ですよ」

 

 本当に殺伐としてるからな、ベルカの騎士どもは。訓練だと言っているのに殺気をたぎらせて立ち会うのだから。それに笑って応じていた恭也さんも十分にアレだったが。

 ともあれ、そういうことなら心配はないだろうが、念のためにもう一つ。

 

「非殺傷だからと言って双方油断はしないことだ。魔法に弾かれた質量体や、飛行中の意識の喪失による墜落は、非殺傷とは無関係にダメージが発生する。絶対に安全なものなど存在しないと肝に銘じてもらいたい」

「……最も忘れがちな事柄ですね。滅多に起こらないと油断したときが一番危険である。我々も意識徹底させていただきます」

 

 これにて確認は完了だ。マクミランは「では後ほど」と言って、模擬戦に参加する武装局員たちを開始位置へと連れて行った。

 オレ達もそれに倣い、自分達の開始位置へ移動する。同時、戦闘前最後の作戦会議を行う。

 

「事前に言った通り、こちらの主力はフェイトを軸にアルフが補助、ユーノに単独遊撃を行ってもらう形になる。なのはとガイ、特になのはは、絶対に無理に攻撃を仕掛けようとするな」

「うぅ……分かってるけど、それだとなのは、何もすることがないの」

 

 今のなのはに出来ることは、単独では扱いきれない砲撃の数々に覚えるだけ覚えた誘導制御射撃、硬さだけはそれなりのプロテクション、一応補助で練度の低いリングバインドが使える程度だ。

 彼女は魔法の才能を「遊びに使うもの」と割り切っているところがある。つまり、日常の訓練(遊びの研究)は実用性など考えていない。実用を考えたところで、彼女には扱いきれないからだ。

 なのはは、高町家特有の戦闘の才能と裏腹に、その性格がとことんまでに戦闘に向いていない。ガイは特別な信頼があるから別として、それ以外の人間に砲口を向けることなど出来ないだろう。

 そもそも彼女の夢は翠屋のパティシエールを継ぐことであり、ガイと一緒に翠屋二号店を家族経営することだ。戦闘技能を育てたところで、せいぜいが有事に困らない程度にしかならない。

 今の状況にしても、オレ達への依頼に協力してくれているのは彼女の厚意であり、必須ではない。須らく彼女が魔法戦闘の能力を磨く必然性にはつながらない。

 それでもオレは、彼女が何もできないとは思わない。本当に何もできないなら、この場に連れて来てはいない。

 

「攻撃をしろとは言わないが、砲撃をするなとは言ってない。無論、人に向けて撃てとも言わない。いつも通り、砲撃で「遊んで」くれれば十分だ」

「へ? それって、どういうこと?」

『つまり、攪乱と陽動。お主の役割は目くらましとこけおどしじゃよ』

 

 局員が離れたことでミステールが口を開く。オレの言いたいことをなのはが分かるレベルに噛み砕いて伝える。

 なのはの砲撃は、見た目が派手だ。当たればそれなり以上の威力がある。さらにはバリエーションが豊富で、実用性にさえ目を瞑れば、砲撃の分野だけはアリアすらも超えている。

 たとえ当たらないと分かっていても、それを見せつけられれば相手は警戒せざるを得ないだろう。それで怯まないのはベルカの戦闘狂か、もしくはこちらの手の内を読み切っているかだ。

 

「君がすべきことは、フェイトとアルフ、ユーノを信じて、砲撃魔法を撃ち続けることだ。相手の注意を惹きつけられれば、それだけ勝率は上がる」

「そうだね。わたし達も、なのはが陽動をしてくれればきっとやりやすくなる。頼りにしてるよ」

「ふぅちゃん……、うん! なのは、がんばります!」

「あんまし張り切りすぎて魔力切れ起こすなよー。んでミコトちゃん、俺の役割は?」

 

 今の話はなのはの役割についてのみ。ガイについては触れていない。

 そしてなのはには悪いが、ガイには前線に出てもらうことになる。彼にはフェイトとアルフの護衛を務めてもらう。

 

「お前はオレ達の生命線の保護だ。分かっているだろうが、恭也さんもシグナムもいない今回、オレ達の攻撃戦力はほぼフェイトとアルフだけだ。ユーノもがんばってはいるようだが、あの二人のようにはいかないだろう」

「それはそうですね。一朝一夕であのレベルに到達できるなら、誰も苦労はしません」

 

 ユーノも色々と迷走はしているが、それでも彼は自己分析が出来ている。そういう生来の優秀さは、筋肉だるまになっても変わりないようだ。

 ガイではなくユーノにフェイト達の防御を頼むというのも選択肢ではあるが、今回は攻撃戦力がとことん限られている。駆け出しレベルとは言え前衛適性があるのだから、遊ばせる手はない。そのための遊撃だ。

 

「それだとミコトちゃんが丸裸にならねえか? ……ミコトちゃんの丸裸、ハァハァ」

「しばくぞ変態。オレはなのはの指示出しのために彼女と行動をともにする。基本は彼女のプロテクション任せ、臨機応変にユーノに対応してもらう」

 

 不適切な発言をした変態にはユーノがチョークスリーパーをかけた。ゴツゴツした腕でがっちり極まったようで、ガイは本気で苦しそうな顔でタップした。

 手段を選ばなければ、ソワレの「黒いカーテン」や、ミステールがプロテクションを張ることで防御は可能だが……さすがに局員の前で大っぴらに使うわけにはいかない。

 彼ら、特にマクミランあたり、全く気付いていないということはないだろうが、それでも「公表する気はない」という意思表示は必要だ。そも、今回は指揮を見せるのであって"魔法"を教えるのではない。

 なので、今回はミステールの念話共有にも頼らない。彼女がいなかったときに使っていた念話用のインスタントデバイスを使用する。

 

『わらわ達の役割は、あくまで万一に備えて、じゃ。主殿に傷の一つでもついたら、奥方が怒り狂うのでな』

『責任重大だよー、ユーノ君。なんせシグナムさんの役割だからね!』

「分かってるよ。師匠直々に言われてるんだから。絶対、ミコトさんには指一本触れさせません」

「自分の役割を間違えるなよ。お前には遊撃を任せたんだから、攻撃できるなら攻撃をしろ」

「あはは……。でも、うん。一緒にミコトちゃんを守ろうね、ソワレちゃん」

『んっ!』

 

 何のかんの言いながら、割といつも通りの空気になった。このぐらいが一番実力を発揮できるだろうから、それでいいのだろう。

 

 

 

 

 

 訓練フィールドの中央に投影された仮想ディスプレイのランプが、黄色から青へ変化する。それが模擬戦の開始を意味し、武装局員たちは行動を開始する。

 マクミランの指示によって彼らは陣形を作る。アームストロングを先頭に、その後ろにリーが追従し、さらに後方に新人たちが広く展開した。どうやら、まずはミッド式の基本的な戦術で来るようだ。

 即ち、シールドによる防御と、砲撃・射撃魔法による遠距離からの狙撃。現段階では彼らの近接戦闘能力は分からないが、ミッド式魔導師だけあってミドル~ロングレンジにはそれなりの自信があるようだ。

 そして、読み通りでもある。初っ端から突撃戦法はないと踏んでいた。だからこそ、こちらの方が早く行動を起こせる。

 

「派手にやれ、なのは!」

「了解! お願い、レイジングハート!」

『All right, Master. Divine Buster Fireworks.』

 

 向こうが砲撃で攻撃するためには、プログラムを構築し、狙いを定め、魔力を通すという行程が必要になる。余程の達人でもない限り、この行程には数秒の時間を必要とする。

 これに対しなのはは、砲撃プログラムの構築に関しては尋常でなく素早く行うことが出来(ガイのシールド構築をも超える)、狙いを定める必要がない。こけおどしなら魔力を多くを使う必要もない。

 だから、開幕1秒でいきなり砲撃ブッパなどというキチガイ染みた戦法を可能とするのだ。向こうの陣営、特に新人たちに動揺が走ったのを間違いなく視認した。

 

『Ignition Burst.(爆散)』

 

 彼らの中で唯一不動であったアームストロングが赤銅色のシールドを展開した瞬間、なのはの砲撃は大量の煙をまき散らして爆発した。これまた派手にやったものだな。

 「ディバインバスター・ファイアワークス」。なのはの砲撃遊びで生まれた、「砲撃の煙花火」とでも呼ぶべき代物だ。「マルチウェイ」でも使われている自壊プログラムを組み込んだ、遠隔制御砲撃魔法。

 爆散した時点で砲撃魔法としての性能は失われ、その性質上攻撃力は皆無。代わりに、本来攻撃力となるはずだった魔力が膨大な煙幕に変化し、視覚での認識を阻害する。要するに派手な目くらましだ。

 砲撃の慣性に乗って、桜色の煙幕は彼らの周囲を吹き抜ける。これでしばらくの間、彼らは単純に目で見ることが出来なくなった。

 これの対処法は三つ。一つは、彼女以上の魔力による爆風を起こして煙幕を取り払う方法。彼らの中にそれだけの魔力を持つ者がいるかは分からないが、この方法を行うならば溜めが必要になるだろう。

 フェイトの素早さならば、その行動を起こされる前に攻撃態勢に入ることが出来る。彼女はもう一つの対処法を使って敵の位置を把握しているはずだ。

 もう一つの対処法。サーチャーを使って魔力反応を探るという、ミッド式魔導師ならではの方法だ。これならば視界を塞がれても魔導師の存在を認識することができ、事実彼女は迷いなく敵陣に突っ込んでいく。

 

「……防げ、ガイ!」

「おうよ! ディバイドシールド・改!」

 

 どうやら相手も対処法に気付いたようだ。煙幕の中で魔力の灯りがともり、彼らに向けて射撃魔法(恐らくシュートバレット)が三方から放たれる。

 ガイは飛行シールドを操作してフェイトの前に躍り出て、多面体シールドを使って射撃魔法を受け流す。直後、前方から砲撃魔法。エネルギー性攻撃にはめっぽう強いそのシールドは、それでもびくともしなかった。

 だが、弱点がないわけではない。あれは物理的な力に弱い。だからオレはすかさず次の指示を出す。

 

「スイッチ!」

「うおわ!? あっぶ!?」

「ここはあたしが! おりゃあっ!」

 

 煙の中から鋼の巨人と見紛うほどの迫力で、アームストロングが突撃を仕掛けてきた。

 どうやら彼は近接戦闘が可能なようで、汎用ストレージデバイスの先端に赤銅の光を宿していた。恐らくは、魔力付与打撃。その一撃を受けて、ディバイドシールドはガラスが割れるような音とともに砕け散った。

 煙の動きで三つ目の対処法、即ち煙幕からの脱出を試みる者がいるかを注意していたが、正解だったな。すかさず出したオレの指示で、アルフが先頭に立ち徒手にて攻撃を仕掛ける。ガイはギリギリで難を逃れたようだ。

 アームストロングはシールドを展開……はせず、デバイスの柄の部分でそれを受け止めた。恐らくは魔力で強化しているのだろう、アルフの魔力付与打撃を受けて、多少たわむ程度で止まる。

 ……ふるつわものは伊達ではない、か。彼の階級から考えて魔導師としてはそこまで優秀ではなかったのかもしれないが、その経験に裏打ちされた強さは、現時点で最も警戒すべき相手だ。

 

「ここを通りたくば、わしを倒して行けぃ!」

「ちぃ、厄介な! シールドだったらバリアブレイクの餌食なのにさぁ!」

 

 恐らくはアームストロングもそれを警戒していたのだろう。近接戦闘において、シールドは逆に穴となりやすい。そのことを、彼は経験上知っていたのだ。

 フェイト達の行く手を阻む巨人。もしこれが彼一人ならば、それでも強行突破は可能だろう。問題は彼の後ろで火砲支援の態勢に入っている新人たち。彼を意識しすぎれば、集中砲火の的だ。

 ここが次の札の切り所だ。オレはインカムを通して、フェイト達とは別の方向から攻め込んでいるもう一人に指示を出す。

 

「砲手を何とかしろ。方法は問わん」

『了解! チェーンバインド!』

 

 ユーノが魔法陣を展開し、そこから極太の鎖が幾重にも絡み合い、巨大な壁となってアームストロングと後方部隊を分断する。上手い使い方をするものだ。

 これで巨人は孤立する形となった。このままでは後方に手出しできないが、まずは現状で一番厄介な相手を処理することを優先する。

 その旨をフェイト達に伝えようとし……オレの勘に引っかかるものがあった。違和感、とでも言うべきか。

 それは、先のガイが防いだ砲撃魔法。あれは他の射撃魔法と比べて練度が高かった。つまり、あの魔法を撃ったのは新人ではない。三尉以上の3人の、残り2人のどちらかによるものだ。

 マクミラン……ではない。直感でしかないが、彼はここまで直接手出しを行っていないと思われる。つまり、金髪軽薄男のリーが下手人だ。そして彼は、あの砲撃から目立った動きを見せていない。

 ……もしオレがマクミランの立場だったとして、この状況でリーを留め置くだろうか。いや、逆に好機と考えるはずだ。ほぼ全員の注意が巨体へと集中し、指揮官の周囲が手薄になるこの瞬間は、間違いなくチャンスだ。

 

「なのは、プロテクションだ!」

「は、はいなの!」

 

 オレとなのはを覆う形で桜色のプロテクションが張られた直後、黄土色の砲撃がバリアの側面を叩いた。破れることはなかったが、衝撃がオレ達を襲う。

 

「きゃあ!?」

「くっ」

『だ、大丈夫ですか、ミコトさん!』

「うぇーい、今の防ぐっすか。っかしーなー、気付かれてないと思ったんだけど」

 

 いつの間にやら、リーはフェイト達の後方、オレとなのはの前方30mほどの上空に浮かんでいた。

 なるほど、あの砲撃はガイのシールドを抜くための攻撃ではなく、こちらがやったことをそのままお返ししたというわけだ。すなわち、煙幕を逆に利用した隠密行動。

 マクミランの指示だろうが、彼は実行してみせた。軽そうな見た目と裏腹に、とんだ食わせ者だ。なるほど、クロノの言う通りだ。これだけの実力者たちならば、有事にはとても頼もしいことだろう。

 

『すぐにそっちに向かいます!』

「いや、来るな。お前はそのまま敵戦力を叩け。こっちはこっちで何とかしてみせる」

『っ、分かりました! すぐに終わらせますから!』

『ありゃりゃ。いーんすか? そっちのピンクのおじょーちゃんのバリアは確かに固いみたいだけど、本気でやりゃあ破れないほどじゃあねっすよ?』

 

 わざわざ念話デバイスに念話を送ってくるリー。盗聴に周波数解析、相当器用な奴だな。アームストロングが正統派な戦士だとしたら、彼はトリックスターか。なるほど、アルトマンと気が合うわけだ。

 余裕なのかただの素なのか、彼はすぐには攻撃を再開せずにオレとの会話を試みる。……待ってくれるなら、利用しない手はない。

 

「この状況でなのはに防御役を任せるほど、お前達を侮ってはいない。そもそも彼女は、まともな戦力としてはカウントしていないからな」

『そーなんすか? 砲撃の才能はすげーあるっぽいすけど』

「砲撃だけで何とかなるほど、世の中甘くはないだろう。彼女は母親にお菓子作りを習っている方がよっぽど似合っている」

『はは、ちげーねえっす。こんな子供が戦場に出るなんざ、あっちゃあならねーっすよね』

 

 軽く言っているようで、その言葉には力がこもっていたように思う。何となく、彼のバックグラウンドが透けて見えた気がした。だからどうということでもないが。

 

「だが、何事も使いようだ。彼女に戦う意思はないが、伊達や酔狂でこの場にいるわけではない」

『へえ。さっきの砲撃煙幕もマジでびっくりしたけど、今度は何を見せてもらえるんすかね』

「もちろん、「子供の遊び心」だ。大人が失った柔軟な発想、とくと見るがいい」

 

 会話をしながら、オレはなのはに指示を出していた。彼女はちょっと迷ったが頷き、レイジングハートを構える。その向きは……後方。

 オレは左手で彼女に腹から抱える形でしがみつき、それを確認してなのははバリアを消した。即座に展開される次の魔法陣。

 

「ディバインバスター・アフターバーナー!」

 

 コウッという音とともにレイジングハートの先端に極太の光が灯る。同時、なのはとオレは、リーのいる場所に向けて勢いよく射出された。高速移動魔法もかくやという速度だ。

 なのはは、フライアーフィン以外の移動魔法を習得していない。「ジュエルシード事件」のときに高速移動魔法を覚えようという案はあったらしいが、必要になる場面がなさそうだったために見送り、そのままになった。

 それ以前の問題として、なのははあまり運動神経がよろしくない。高速移動魔法を覚えたところで、フェイトほど巧みに使えるようにはならないだろう。

 だから彼女は、「魔法で遊ぶ」という意思も相まって、そのリソースを砲撃に全振りすることとなった。そして、砲撃のバリエーションで疑似的な移動魔法を実現するに至ったのだ。

 ディバインバスター・バリエーションの一つ「アフターバーナー」。射程を極端に短くする代わりに自身にかかる反作用を大きくし、その勢いで高速で空を飛びまわるという珍妙極まりない砲撃魔法だ。

 誰を真似しているかなど考えるまでもないだろう。ガイの飛行魔法を見て、「自分にしか出来ない工夫」を試行錯誤した結果が、この通常は使い道が全くない「高速移動砲撃魔法」だ。

 この魔法の性質上、なのはは後方に向けて加速することになる。つまり、彼女一人だと移動を制御しきれないのだ。魔法自体は砲撃だが、結局は高速移動魔法と同じ課題にぶち当たることとなった。

 だからオレが制御する。そのために、オレは前を向いて彼女にしがみついたのだ。

 

「はぁ!? 何ソレェ!?」

 

 こんな砲撃の使い方を想定していなかったか、それともオレ達が高速移動したことが想定外だったか、リーの顔に驚愕が浮かぶ。

 どうやら彼は近接戦闘の心得はないようで、慌てた様子で射線から逸れた。実際のところ、この移動方法はGがすさまじく、オレ達の方も攻撃に移る余裕がないので、正直言って助かった。

 が、せっかくなので一泡吹かせてやろう。すれちがいざまの一瞬で右手をリーに向け、照準を合わせる。環境ノイズさえ混じらなければ、オレの射撃は百発百中なのだ。

 

「ショット!」

「ぶはっ!? なにごとっ!?」

 

 右手の甲にクロスボウ型で収まるエールから、威力のない風圧弾が発射され、それはリーの顔面に命中した。彼はいきなり顔面に風が吹いたことに驚き、目を白黒させた。

 満足いく結果を得られ、しかしオレの勝負はここからだ。上手くなのはを制御し、フェイト達に合流しなければならない。

 蛇行、急降下、滑空、上昇。ほんの短い間にアクロバティックな動きを連続させ、時折エールの風で軌道を修正する。……ソワレの補助がなかったら、とてもじゃないが掴まっていられないな。

 だが、何とか制御に成功する。オレ達はフェイト達の後方10mほどのところに、派手に軟着陸することに成功した。

 

「うぅ、気持ち悪い……」

「……これも課題事項だな。フェイト、リーの対処を任せる。アームストロングはオレ達に任せておけ」

「分かった! アルフ、お願いね!」

「はいよぉ! ミコトママはあたしに任せな!」

 

 ちょっと顔を赤らめてから、フェイトは先ほどオレ達がいたところに飛び立った。彼が近接戦闘を苦手とするなら、フェイトをぶつけるのが一番効率的だ。

 逆に、経験に裏打ちされた強さを持つアームストロングに対しては、純粋な火力で押し潰すのが最も手っ取り早い。

 とはいえ、相変わらずなのはは直接的な攻撃力にはならない。この距離なら外さないだろうが、それでも彼女が人に砲撃を向けられないという問題が残っている。

 だから彼女には、また砲撃で一工夫してもらう。

 

「これで最後だ。だからもう少しだけ、力を貸してくれ」

「……ううん、違うよ。なのはの力は、ミコトちゃんの力! 貸すとかじゃなくて、一緒に頑張るの!」

「そうだったな。では……覚悟はよろしいな、フェルディナント・アームストロング三尉」

「応ともよ。ハー坊の方が決着する前に、わしらも決着をつけようじゃないか」

 

 言って彼は、デバイスを斧かハンマーのように構える。彼の纏うバリアジャケットはところどころに傷が入っており、フェイトとアルフを相手に激戦を繰り広げたことが伺えた。

 彼と相対するのは、引き続きアルフとガイ、そしてオレとなのは。アルフを先頭に、両脇をなのはとガイが固める形で立ち、オレはその後方から全体を俯瞰している。

 アルフが雄叫びを上げる。アームストロングも応じ、獣のような咆哮を上げた。そして始まる白打戦の応酬。

 純粋な身体能力のみで見た場合、当たり前だがアルフに軍配が上がる。人と狼では何から何まで違い過ぎる。

 だがアームストロングは、その身に戦いの経験を蓄積させている。彼女がどこを打つか、どういう種類の攻撃を行うか、どこを守るかの全て把握し、的確に防ぎ、攻撃してきた。

 彼をあれだけ消耗させられたのは、やはりフェイトと二人がかりだったからだろう。一人になれば均衡は崩れ、アームストロングが優勢となる。

 そこで、なのはとガイを上手く使う。それぞれ得意分野が違い、得意分野のことしか出来ないこの二人は、だからこそ組み合わせることで超一流のプレイヤーへと変貌する。

 

「タイミングはこちらで指示する。自分達の技量を疑うな。この程度は、クリスマス前に何度も成功させてきただろう」

「わ、分かってるんだけど……やっぱり緊張するの」

「人に向けてってのは初めてだからなぁ。ま、なるようになるっしょ」

 

 ガイは軽口を叩いたが、表情は固かった。こればっかりは経験値の問題だから、仕方がないか。成功させてくれればそれでいい。

 オレはオレで、やることがある。必殺のタイミングを逃さないために、アルフとアームストロングの攻防から目を離さず、ひたすら観察を続けた。

 

 やがてそのときは訪れる。アルフの攻撃を防いだアームストロングが、デバイスを槍のように回転させて攻撃に移る、その一瞬。

 

「アルフ、サンダースキン!」

「っ! らぁ!」

「むおっ!?」

 

 オレの指示に従い、反射的にアルフが反撃魔法を発動させる。体の表面に電撃の膜をまとい、一度限りの攻性防壁として機能するものだ。

 この魔法は威力の割に難易度が高いらしく、アルフの場合発動中は身動きが取れなくなってしまう。能動的に攻撃を行う彼女にとっては、使い道の非常に限られる魔法だろう。

 だが、今は確実にアームストロングの動きを止められることの方が重要だ。アルフがオレの意図を理解し離脱すると同時、なのはとガイに向けて合図を出す。

 

「連携発動! コード「南斗人間砲弾」!」

『了解っ!』

「っつーか何でこの名前かなぁ!」

 

 エール命名の連携名にぼやきながら、ガイは飛行シールド「ドニ・エアライド」を加速させる。アームストロングは、まだ痺れが残っているだろうに、無理矢理に体を動かしてガイを迎え撃とうとする。

 だがここで彼にとっての予想外が起こる。それが、ガイ・なのは版の「南斗人間砲弾」だ。

 

「ディバインバスター・クイックシュート!」

 

 威力と効果範囲を絞った砲撃魔法が、ガイに向けて放たれる。味方に向けての砲撃魔法なのだから、初見は意図を理解できないだろう。

 なのはは、基本的に人に向けて砲撃魔法を撃てない。というか、暴力全般を人に向けることが苦手だ。必要とあればするだろうが、その後は決まって大泣きをするそうだ。

 基本的にはということは、例外がある。それがガイ。彼に対しては暴力は愚か、砲撃魔法を撃つことさえ躊躇いがない。

 それは彼への信頼の証。彼ならば受け止めてくれる。彼ならば絶対に大丈夫という、時間が育んだ底抜けの信頼故の、愛の形。

 高町の血を引いていることがよく分かるエキセントリックな愛を飛行シールドに受けて、ガイは急加速を得る。それはふるつわものの想定を優に超え、シールドがストレージデバイスとかち合い、跳ねあげた。

 

「なんと……!」

「これで終わりだよ! ライトニングブラストォ!」

 

 丸腰になったアームストロングに再び肉薄したアルフが、電気変換魔力を彼に叩き込む。疲労状態で内側からの衝撃はさすがに耐えかねたようで、とうとう彼はその場に昏倒した。

 ちょうどそのタイミングで、壁のようにそそり立っていたチェーンバインドが解け、消滅する。その向こう側に現れたのは、気絶して倒れる新人魔導師たち。

 

「終わりました! お怪我はありませんか、ミコトさん!」

 

 そして剣状シールドを突き付けられて降参するマクミランと、ほぼ一人で決着をつけてしまった筋肉少年の姿だった。

 ……オレ達の激闘は何だったのかと言わざるを得ない結末に、何とも言えない気分だった。

 

 

 

 

 

 大局的に見れば、ユーノがアームストロング(とリー)を分断出来た時点で、あとは耐えるだけで勝利条件を満たしていたようだ。

 ユーノは、剣士として見た場合は、確かに駆け出しレベルだ。だが魔導師として見た場合は、クロノに迫るレベルのベテランだ。

 各種補助魔法のレベルはそこらの新人では相手にならず、鍛え上げられた筋肉からソードバリアで剛剣を振るう。攻撃手段がなかったら話は違ったのだろうが、これではただのいじめにしかならない。

 

「なんというか……協力してくれた新人には悪いことをしてしまったな」

「ヤハタ殿はお気になさらず。こちらの未熟が原因であって、あなた方に非はありません」

 

 それでもマクミランは、新人たちとは違ってそれなりに戦闘になったようだ。彼はユーノと似たようなもので、補助魔法に特化しているそうだ。

 魔法の割り込みによる発動阻害や予兆のないバインドなど、対魔導師戦を考えれば非常に高度な能力を持っており、ユーノも魔法のみで戦っていたら苦戦を免れなかっただろうと語る。

 

「彼は凄まじいですね。あの歳であれだけの魔法能力に加え、あの肉体とあの剣技。管理局でも滅多にお目にかかれないほどの逸材ですよ」

「個人的には、あの筋肉の発達はまだ納得がいってないんだがな。彼がどこを目指しているのか、一応リーダーと呼ばれているはずのオレにも分からん」

 

 いやまあ、彼が何を求めてそうなったのかは分かっている。だが正直あの筋肉には引く。オレに対しては逆効果だったと言っておこう。

 ……感想は感想として、依頼の件についてだ。一応、オレは一定の指揮(と思われるもの)は見せたはずだ。だがあの程度で、何か分かるものだろうか。

 

「そうですね……何とも、言葉にしづらい感覚です。あなたはあなたのおっしゃる通り、当たり前のことをやっただけなのでしょう。ですが私には、やはりそれが非凡なものに感じられるのです」

「何故かそういう評価をよく受けるから、今更反論する気はない。……だが、何故非凡に見えたのか、そこには興味がある」

 

 人それぞれ、ものの見方というのは違う。オレにはオレの、クロノにはクロノの。そしてマクミランには彼にしか見えない世界がある。

 彼の世界において、オレはどう普通ではなかったのか。どこがそれほど「指揮官」であったのか。それは、純粋に気になっていることだ。

 彼は「少々お待ちを」と言って頭の中で考えをまとめる。急かさず、彼の中で言葉になるのを待った。

 

「……これは、あなた一人というよりは、あなたを取り巻く環境を含めてなのかもしれません。あなたのチームメンバーの戦い方は、魔導師のセオリーを外れていることが多い」

「それはあるだろうな。知っての通り、うちは本来、魔導師・非魔導師混成のチームだ。魔法使用が前提の連携は成り立たないことが往々にしてある」

「異なるものをまとめあげるというのは、非常に難しいことです。それをあなたは、当たり前にこなしてしまっている。そういうところに、我々は非凡な才覚を感じるのではないでしょうか」

 

 そういうものなのか。オレは基本的に、その人物の能力を評価し、鑑み、適切な場所に適切な役割で配置するよう努めているだけだ。それは果たして、「まとめあげている」と言えるほどのものだろうか。

 卑下ではない、純粋な疑問。マクミランは再び思考し、言葉を紡ぐ。

 

「たとえばですが、タカマチ嬢とフジワラ殿。彼らは、成長の余地はあると思いますが、少なくとも現段階では「戦力にならない」と普通は判断します。ですがあなたは、そうはなさらなかった」

「それは少し違う。オレも彼らは「戦力」として換算していない。彼らには「それ以外の役割」があった、ただそれだけだ」

「まさにそこです」

 

 何処だよ、とは突っ込まない。彼の言わんとするところはオレにも理解出来た。「普通は戦闘の場面で戦力以外の役割を考えることはない、あるいは稀である」ということだ。

 情報戦などの場合はまた違うだろうが、直接戦闘の場面で戦闘能力以外のスキル(後方支援はまた別)を持っていても使い物にはならない。そう考えるのが普通なのだろう。

 だがオレは、使えるものならば何でも使う。それがシールドオンリーだろうが、人に砲撃を撃てない砲撃バカだろうが、何がしかの能力があるならば使い道を見出し、自分の望む道を作り出す。

 オレ自身は何もできないから、周りのものを使い倒すという他力本願の極みが、結果として普通ではないものに映るのだ。……本来は褒められることではないはずなんだがな。

 

「見様によってはあなたのおっしゃる通りに見えるかもしれません。しかしあなたは、実際に結果を出している。手段を問わず、ご意志を実現なさっているのです」

「それもまた恣意的な見方である気もするが……褒めてくれる相手の意見を否定するのも、あまりよくないか。そういう見方もある、と思わせてくれ」

「……フフ。クロノ執務官の愚痴もよく分かります。賞賛を素直に受け取ってもらえないというのは、もやもやしますね」

 

 慢心は危険だからな。性分故、仕方のないことだ。

 何はともあれ、彼も何がしかの手応えを得ることが出来たようだ。依頼は十分達成出来たと言っていいだろう。

 

「質問等がないようなら、オレもそろそろシャワーを浴びに行く。指揮とは言えそれなりに体を動かしたから、汗を流したい」

「はい。お時間をいただきありがとうございます。どうぞ、ごゆるりとおくつろぎを」

『ほいほーい。それじゃあミコトちゃん、シャワールームに案内するねー。ハーバート君、覗いちゃダメだよー』

「覗きませんよ、エイミィ補佐官。私はクロノ執務官とは違います」

 

 彼の悪評は武装局員の間にも広まっているようだ。生真面目そうなマクミランでこうなのだから、もはやアースラで知らない人間はいないのだろう。

 これも彼の悪因悪果。彼自身が招いた結果なので、オレがフォローできることではない。こちらは被害者なのだから。

 マクミランは一礼をし、オペレーションルームを退出した。オレは仮想ディスプレイの案内に従って、シャワールームへ向かった。

 

 

 

 ――これで終わっていれば、この依頼はまあまあ充実したものだった程度の感想になっていただろう。むしろそうなるのが普通だ。

 そうならなかったというのは、呪われているのか、あるいはお約束なのか。……こんなお約束は心底願い下げだ。

 原因を語り出せばきりがない。双方の不注意、不慣れな施設で手探り状態だった、オレの気が急いていた。今回については、オレにも原因があったと言えなくもない。

 脱衣所に入った時点で仮想ディスプレイを消せばよかったのだ。それを「消したら出す方法が分からないし、後でいいか」と放置したのは、間違いなくオレの判断ミスだ。

 これが通信端末にもなっていることは、分かっていたはずなのに。

 

『すまない、今回の依頼について、書いてもらわなきゃならない書類、……が……』

 

 エールを基礎状態に戻し。ミステールとソワレの装備を解除し。彼女達を人型に戻し。

 ソワレの脱衣を手伝い、ミステールとともにシャワールームに向かわせ、今度はオレ自身が脱衣をしている途中で。

 

 

 

 パンツの横に指を入れ、脱ごうとしたところで。仮想ディスプレイにクロノの顔が大写しとなった。

 

 ……。

 …………。

 ………………………………。

 

 っっっっっ!!

 

『す、すまない! 本当に、わざとじゃないんだ!』

「わざとだったら今すぐぶち殺してやるところだ。いいからとっとと通信を切れ。野郎に裸を見せる趣味はない」

 

 大声で叫びそうになるのをすんでのところで抑え、押し殺した声で告げる。人間、感情が限界を振り切ると逆に冷静になるものなのだと、思い出したくもないことを思い出した。

 それでも、オレが耐えがたい恥辱を感じていることは紛れもない事実であり、目の端に涙の粒が浮かぶのが止められない。

 クロノは画面の中で、目のところを手で覆い、視線を背けていた。だが完全にディスプレイから外れているわけではなく、彼の内心の葛藤が表れているようだった。

 オレの冷え切った声で弾かれたように動き、映像が途切れ「Sound Only」の文字が浮かぶ。通信ではなく映像中継のみを切ったようだ。

 

『そ、その、帰る前に書いてもらいたい書類があったんだ。それで急いで連絡をしたんだが、まだシャワーを済ませていないとは思わなくて……』

「言い訳はいい。というか通信を切れと言ったはずだ。二度も言わせるな、この変態」

『ま、待ってくれ! 本当に悪かったと思ってるんだ! あとでちゃんと謝らせてくれ! お詫びも、何でも言うことを聞くから!』

 

 心底必死なクロノの声色で、オレの感情が少しだけ落ち着いた。彼は……どうやらオレに嫌われたくないらしい。当然か。彼はオレに惚れている「かもしれない」のだから。

 だからと言って、この恥辱と怒りが消えるわけではない。今すぐ彼を許してやれるほど、オレは寛容にはなれない。

 

「乙女の尊厳を踏みにじった罪。同じことを繰り返した学習能力のなさ。人の言うことを聞かなかったことと、ついでに確認を怠ったこと。ひっくるめて貸し4だ。本来なら絶交ものだが、これで勘弁してやる」

『わ、分かった。それで済むなら安いものだ。その、本当に、すまなかった。……チョットセイチョウシテタ』

 

 最後に小声の呟きを残し、今度こそクロノとの通信は切れた。

 ……緊張の糸が切れ、その場にへたり込む。まだちょっと体が震えて、顔が熱を持っている。ため息が漏れてしまう。

 

「また、見られちゃった……」

 

 あのときとは違う。今の彼はオレに……アタシに、何らかの感情を持っている。そんな男に、裸を見られてしまったのだ。

 それを意識すると、羞恥と怒り以外の何かで、心臓の鼓動が速くなる。この動悸はしばらく収まりそうにない。

 

「クロノは、ただの依頼の仲介人。そのはずなんだから……」

 

 彼はアタシにとっての何なのか。ユーノは、何なのか。

 自分がそのことに明確な答えを持っていないことに気付けるほど、アタシはまだ大人ではなかった。

 

 しばしあって、ミステールが様子を見に来て、ようやくオレは動ける程度に回復した。

 シャワーの後、改めてクロノから土下座で謝られた。彼は頭に包帯を巻いており、自分でアースラの壁に頭を打ちつけていたそうだ。彼なりの良心の呵責があったのだろう。

 もちろんそれで許されるわけがなく、彼は女性陣からは糾弾され、武装局員からはムッツリーニ執務官と呼ばれ、ユーノからはチョークスリーパー(ガチ)の制裁を受けた。

 

「ちょ、ま、これ、しぬっ……!」

「そのまま死んでしまえェ! ミコトさんの裸を二度も見るなんて……羨ましいんだよコンチクショオーーー!」

「最近ユーノ君もオープンな感じになってきちゃったの。……絶対、誰かさんのせいだよね」

「てへぺろー☆」

 

 やれやれ。何かの感情を覆い隠すように、オレは大きめのため息をつくのだった。




今回はなのちゃんの砲撃で色々と遊ばせてもらいました。「ヤハタさん」のなのちゃんは、ほとんど砲撃しかできない代わりに、砲撃のバリエーションだけは非常に豊富です。今回書き切れなかった魔法もあったりなかったり。
「マスカレード」と言えば、やはり連携技あっての彼らでしょう。とはいえ今回は主戦力封印状態で挑んだので、出せたのは始まりの連携技「南斗人間砲弾」のみでした。別名「ラブラブ人間砲弾」。なにこの愛の形、怖すぎ……!
ユーノ君がその将来性の片鱗を露にしました。実際のところ、彼の近接戦闘能力は、現段階ではフェイトに遠く及びません。しかし将来は分からず、現時点でも補助魔法を主軸に戦えば、十分拮抗することが可能です。間違いなく、未来の「マスカレード」主戦力でしょう。

二度ネタ、クロノの覗き。今回も事故ですが、前回と違ってクロノが半ばミコトへの好意を自覚した状態で起きたことです。彼と彼女の受け取り方も、前回とはまた違っているでしょう。
ミコトちゃんも、ただ恥ずかしかっただけでなく、クロノの様子から何かを受け取った様子。短時間ではありますが、乙女回路も発動しました。
自分にとっての彼らは何なのか。その答えを理解出来たとき、初めて彼女は恋をするための準備が全て整うことでしょう。

着替え覗かれて覚醒する乙女心ってのも酷い話だな(愉悦)





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