不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!

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お待たせしました、久々の温泉話です!


EX.5 母親

 4月の連休。ゴールデンウィークを目前とした(人によってはゴールデンウィークの一部でもある)この休日に、高町家と月村家、バニングス家は、毎年温泉旅行に出かける。

 去年はオレ達八神家組、ユーノとガイの男勢も――ジュエルシード事件の最中であったというのに――参加した。……後々プラスとなる出来事もあったし、結果オーライではあるか。

 では今年はどうなるのか。オレの気持ちとしては、「温泉には行きたいがこの人数をねじ込むのは無理がある」だった。

 以前のときの八神家組は、オレとはやて、ブランとソワレの4人しかいなかった。ミステールは生まれる前であり、アリシアは生まれ直す前。フェイトとアルフは別勢力で、ヴォルケンリッターも目覚めていなかった。

 それが今では13人。ギルおじさん達も含めれば16人という大所帯となってしまっている。三家+ガイの総人数が10人なので、たとえおじさん達の予定が合わなかったとしても、オレ達で過半数を占めてしまうことになる。

 主催は三家であるというのに、さすがにこれは厚かましいのではないかということ。そしてさすがに出費がバカにならないということで、オレは今回は見送るつもりでいたのだ。

 

 ……「つもり」でしかない結果になったのは、語るまでもないだろう。

 

「ミコトちゃん達が来ないなんて、ありえないの! また一緒に行こうねって約束したもん!」

「それはそうかもしれないが……よくこの人数で部屋を確保出来たな。どこの団体様だ、これは」

 

 温泉宿に向かう車の中で、オレの対面に座るなのはがはしゃぐ。「本当にオレ達が参加してよかったのか」という疑問に対する答えは、無邪気な笑顔であった。

 今回の参加人数は32人。前回の倍の人数の原因は、もちろん八神家組の増加が大半を占めているが、それだけではなかった。

 まず、今回はガイの両親が参加している。これはつまり、元々三家合同の旅行だったものが、今や五家合同になったということだ。ちなみにオレ達も、他者の旅行に乗っかるだけでなく、ちゃんと旅費を捻出している。

 次いで、前回は予定が合わず不参加であったアリサの両親も、今回は参加しているということ。これはどちらかと言えば、前回がイレギュラーだったということになるか。

 それに伴い、アリサ付きの執事の鮫島氏も、彼女の世話係としてついてきている。……アリサの表情が怫然としていたので、本当は旅行先では世話を焼いてほしくないのだろう。だから前回は来ていなかったのだ。

 八神家はフルメンバー(ギルおじさん達含む)での参加なので、10+16+5で31人。32人目は、オレにとって予想外の人物だった。

 

「だけど、ミツ子さんに温泉を楽しんでもらえるんだから、いいことなんじゃないかな?」

 

 そう。フェイトの言う通り、最後の参加者はオレ達の養母。オレ達の苗字である「八幡」を与えてくれた、八幡ミツ子さんだった。

 

 オレとフェイト、アリシアは、法律上はミツ子さんの娘ということになっている。だが実際には、オレ達はミツ子さんの元を離れ、八神家の一員として過ごしている。

 もちろん、オレ達に「ミツ子さんは親である」という意識はちゃんとある。……オレについては、そう思えるようになったというのが正確なところだが。

 ミツ子さんは既に70を過ぎており、あまり動き回ることが出来ない。オレ達も、学校や家事、友人達との交流に翠屋の「お手伝い」、果てはクロノからの依頼をこなしたりで、ミツ子さん宅に向かうことが少ない。

 結果、オレ達は「親子」というにはあまりに交流を取っていなかった。……アリシアのみ、ヴィータとアルフとともに頻繁にお邪魔しているようだが。彼女ならばさもありなん。

 そういう意味で言えば、今回の旅行はちょうどいい機会だったと言える。普段あまり接することの出来ない養母に、慰安旅行を提供できるのだから。

 ……ちなみに、ミツ子さんを旅行に連れ出すというのは、彼女の娘達(つまりオレ達)の発案ではない。

 

「グレアムさんも粋なことするよねー。あの人がミツ子さんを誘ったんでしょ?」

 

 美由希がオレの手持ちから一枚引き、顔色を青ざめさせた。バカめ、それはジョーカーだ。

 彼女の言う通り、ミツ子さんに声をかけたのはギルおじさんだった。「自分達も都合を合わせるので、ご一緒にどうですか」と、それはそれは紳士的に誘ったそうだ。

 ……ギルおじさんがミツ子さんにどういう感情を抱いているのかは分からないが、娘視点から見てお似合いの二人だとは思う。年齢的にも、ミツ子さんの方が少し上だが、十分釣り合いは取れているだろう。

 だが、ミツ子さんの心には今も亡くなった旦那さんがいるはずだ。あの体でアパートの管理は相当な労力が必要になる。それでも続けているのだから。

 二人ともオレにとって「親」と呼べる人達ではあるのだが、だからこそ誰かが傷付く結果にはなってほしくないとも思う。……ままならないものだ。

 

「ミコトの「母親」ねー。話だけは前から聞いてるけど、どんな人なのかちょっと想像がつかないわよね。はやては昔から知ってるのよね?」

「ご近所さんやったからなぁ。ふつーに優しいおばあちゃんやで? わたしが一人だったときも気にかけてくれとったし」

「そうだったんだ。あ、じゃあひょっとして、はやてちゃんの方がミコトちゃんよりミツ子さんとの付き合いは長いのかな?」

「そうなるな。と、すずか。感謝する、上がりだ」

 

 すずかの手持ちから一枚引き、ペアが出来上がり手札がなくなる。トップ上がりは逃したが、ここまでビリはなし。総合なら一位で勝ち抜けられるだろう。

 「あちゃー」と舌を出すすずか、「何やってんのよ!」と負けがこんで焦っているアリサ。つかまされたジョーカーを何とか手放そうと必死になっている美由希。現在アリサと美由希でビリ争い中である。

 この二人は(なのはもそうだが)ポーカーフェイスが苦手だ。ババ抜きなどという表情で戦うゲームは向いていないだろう。

 ちなみになのはがオレより先に上がったのは、すずかにコントロールされてのことだ。彼女はあえて場に残り、アリサと美由希のビリ争いをあおっているように思う。……中々いい性格になったようだ。

 

「うえーん、アリサちゃんジョーカー取ってよー!」

「絶対取りません! これ以上負けられないんだから!」

「あはは、二人とも大変だねー。あ、わたし次で上がりだね」

『なぁーっ!?』

「……みゆき、アリサ、こえがおっきい」

「やれやれ。ババ抜きはこんなゲームだったか。もっと静かに駆け引きを行うものじゃなかったのか」

「海鳴二小でやると、いちこちゃんが狙い打ちにされるんよね。むーちゃんとふぅちゃんですらカモるからなぁ」

「だ、だっていちこって分かりやすいんだもん。あれは負ける方が難しいよ」

「にゃはは……ふぅちゃんも結構染まってるよね」

 

 和気藹々。この時間を純粋に楽しめるようになっただけ、オレも成長したのだろう。

 

 

 

 

 

 現地入りと同時、恭也さんが運転する車に乗っていた(免許を取ったらしい)アリシアとヴィータに引っ張られ、さっそく温泉に連れられた。やれやれ、最初は荷物を置いてゆっくりお茶でも飲みたかったんだが。

 とはいえ、一つの車に全員が乗れなかった関係で別々となった彼女達の気持ちを察せないでもない。シグナムに荷物を任せ(すまないと言ったらむしろ喜ばれた)甘んじて受け入れる。

 

「……なんだか、不思議な感じ。去年の今頃は、またこんな風にここに来られるなんて思ってもみなかったよ」

 

 オレ達についてきたフェイトが、服を脱ぎながらそんなことを言い、笑っていた。そういえば、彼女と初めて本格的に言葉を交わしたのは、まさにここだったか。

 あの頃はまだ彼女と敵対していて、直前にやり込められたオレに対し警戒をしていたんだったか。今思えば、むしろオレの方こそ警戒すべきだったというのに。

 

「きっと、逆だろう。去年ここで会ったから、こうして再び皆で旅行に来れたんだ。あれがなければ、きっと今はなかった」

「……そうだね。きっと、あれが一番最初だったんだね」

 

 フェイトとオレのつながり。今では姉妹であり、同時に母娘であるというこの不思議な関係は、あのときに種がまかれたのだ。無論、当時のオレ達はそんなこと知る由もなかったのだが。

 

「あたしらが起動する前の話か? そういやフェイトって、最初はミコトの敵だったんだっけ」

「敵……だったのかな。今から思うと、わたしって敵としてさえ見られてなかったんじゃないかな。ミコトなんか再会しても無警戒だったし」

「カテゴリとしては"敵対者"だったが、そう言われてみると"敵"ではなかったかもしれないな。そういう言葉を使うにしては、君の方に害意がなかったからな」

「それはそうだよ。本当は誰かを傷つけてまでジュエルシードなんか回収したくなかったんだから」

 

 フェイトは、たとえ戦闘教育しか受けてこなかったとしても、オレなんかよりもずっと優しい女の子だ。もしなのはのように育てられていたら、暴力を忌避するへいわしゅぎしゃになっていたかもしれない。

 だからこそ、オレは警戒をしなかったのだ。彼女が強硬手段に訴える短絡的な輩には見えなかったから。そういった互いの判断が関係を築き上げ、今に至る道筋となったのだ。

 

「そのときにあたし達が起動してたら、フェイトなんかけちょんけちょんに負かしてやってたのに」

「あ、言ったね? それじゃ、今度の戦闘訓練はヴィータも参加だよ。そう簡単には負けてあげないんだから」

「……仮定を想像しても、現実は現実か。フェイトのバトルジャンキーは矯正できないかもしれない」

「こまったいもうとだよねー。フェイトとヴィータはほっといて、いっしょにおふろ入ろ!」

「アリシアてめえ! ずりーぞ!」

「わたしの方がおねえちゃんなんだからね!」

 

 ちなみに一緒に来たソワレだが、既に浴場の方でなのはに体を洗われていた。ソワレは嫌がってたんだがな。

 

 皆で温泉に浸かり一息つく頃、脱衣所の方がガヤガヤと騒がしくなる。男湯の方でも変態の奇声が聞こえてきたので、荷物を置きに行った皆がやってきたのだろう。

 

「あら、もう皆温泉に入ってるのね。ちゃんと体は洗った?」

「ヴィータがやらかしかけましたが、洗わせました。御心配なく」

「ちょ、ミコト!? 言うなよっ!」

 

 桃子さんがオレ達に気付き、声をかけてくる。彼女の後ろには藤原夫人――ガイの母であるさくら氏が付き添うように立っていた。

 ……花見のときの話で想像はついていたが、無駄のない引き締まった体をしていた。旦那さんもそうなのだろうが、現役時代は相当腕のいいストリートファイターだったのだろう。

 母親同士、そして将来は親族になるかもしれない二人は、楽しげに会話をしながら洗い場へ向かう。話の内容がガイの外堀を埋める感じのものだったが……今更埋める掘など残っているのだろうか。

 次に入ってきたのは、アルフと美由希。この組み合わせは今まで見なかったものだが……余り者同士、というのは少々酷か。

 そのすぐ後ろには月村姉とミステール、すずかとアリサ、それからはやてとシャマルが続いており、女子の子供組は全員揃ったようだ。無論、月村姉と美由希は子供組判定である(異論は受け付けない)。

 

「……今ミコトちゃんの方から失礼なことを考えてる気配がしたんだけど」

「紛れもない事実を頭に浮かべただけだ。疑うものではないぞ、月村姉」

「ねえ! なんですずかは「すずか」なのに、わたしは「月村姉」なの!? せめて「忍」って呼んでよ!」

「それは無理な相談じゃのう、月村の姉君よ。おぬしはまだ主殿に認めさせておらんのじゃ。ま、普段のおぬしは色ボケ大学生だから仕方ないがの、呵呵っ」

 

 「なんでよー!?」と嘆く月村姉。恭也さんとの付き合いに浮かれるのは勝手だが、それを他のことにまで引きずられても困るのだ。その線引きの甘さが、彼女を認められない理由だ。

 正直に言って、あれでは当主の責務を果たすにも支障をきたすと思うのだが(特に月村家は「夜の一族」という特殊な家系なのだから、なおさら)。エンジニアとしては優秀かもしれないが、当主としては失格だろう。

 もしかしたら、将来はすずかに当主権が移る可能性もあるかもしれない。――後に聞いたところ、月村姉の当主はあくまで代理であり、すずかが大人になるまでの繋ぎだという。それならまあ、分からないでもないか。

 「よよよ」とわざとらしく崩れる月村姉を、アルフと美由希が苦笑いでなだめながら洗い場へ連れて行った。アリサたちも「あとでね」と言って後に続く。湯につかる前のかけ湯はマナーなのである。

 それから、トゥーナとシグナムがブランの解説を受けながら浴場に入ってくる。そういえば、シグナムは公衆浴場を利用した経験があるが、トゥーナは初めてだったな。

 もうちょっと気を回すべきだったかと反省し、カバーしてくれたブランに感謝をする。……この三人は戦闘力(意味深)が高いな。絵的に未成熟なオレにはダメージがでかい。

 くだらないことを考えてしまい、軽く頭を横に振る。オレだって数年後には彼女達に劣らない体を手に入れているはずだ。クロノに出来てオレに出来ないはずがないのだ――。

 

「? ミコトちゃん、どうしたの?」

「いや……思い出さなくていいことまで思い出してしまっただけだ。君が気にすることじゃない」

 

 連鎖的に先日あった「事件」を思いだし、ちょっと頬に朱が差したのを自覚する。なのはが気付いたが、彼女も温泉で思考がとろけているようで、さほど気にすることなく流してくれた。

 だというのに、わざわざそれを拾う真似をする性悪猫が一匹。

 

「そういえば、クロノの奴またやらかしたんだって? あの子も懲りないわよね」

「……アリア、かけ湯はもう済ませたのか?」

「その辺は抜かりないわよ。ロッテじゃあるまいし」

 

 いつの間にやら湯につかり、オレ達のすぐそばにいたリーゼアリア。彼女は確か、ミツ子さんのお世話をしていたと思ったのだが。

 

「コーデリアさんと気が合っちゃったみたいで、あっちで話してるわ。邪魔するのもなんだし、わたしはこっちに来たの」

「アリサの母親だったか。君達は行きの車がバニングス家だったな、そういえば」

 

 バニングス家の車と言えば、以前の邸内で乗ったリムジンもそうだったが、無駄に乗り心地がいい。高齢のミツ子さんに負担をかけないため、彼女はそちらに乗ってもらった。

 それに伴い、ミツ子さんを連れ出したギルおじさんにアリアとロッテも、鮫島氏の運転するバニングス家所有車に乗って来ている。その際にアリサの母親とも面通しを済ませたようだ。

 アリアが指差した方では、アリサによく似た妙齢の女性が、アリサによく似た勝気な表情でミツ子さんとロッテと楽しげに会話をしていた。……ロッテはともかく、ミツ子さんはどの辺が気が合ったんだろうか。

 何にせよ、楽しめてもらえているみたいだ。せっかくの旅行なのだから、それが何よりだろう。

 オレはそれで話題を流そうと思ったのだが、この姉気取りはオレの弱点をグイグイついてくる。このあたり、クロノの師匠であることをうかがわせる。

 

「それで、クロノのことよ。一度でも十分アレだったし、二度目はもう擁護できないと思うんだけど。ミコト的にはどう思ってるの?」

「……貸しはつけた。それでこの件はおしまいだ。オレとしても、こんなものをいつまでもズルズルと引きずっていたくはない」

 

 視線を逸らす。オレの言葉は偽りのない本心だ。羞恥の記憶を思い出したいと思う人間はいないだろう。特殊性癖なら話は別だが、そういう意味ではオレはノーマルだ。

 だというのに、アリアは「分かってない」とばかりに首を横に振る。ちょっとイラッとした。

 

「人間、そんな簡単に割り切れるものじゃないでしょう? あなただって、引きずりたくないってことは、今はまだ引きずってることを自覚してるってことじゃない」

「時間が解決する。お互いに話題に出さなければ、自然と忘れていくだろう。だから君も無闇に話題にするんじゃない」

「それは問題の棚上げよ。あなたなら気付いてると思ったけど、やっぱりこっちの方はまだまだ子供みたいね」

 

 ……いや、気付いてはいるとも。だからと言って問題を解決するために動くのが、必ずしも正解とは限らないだろう。特にこの件に関しては、深みにはまりそうだ。

 オレの反論は、尽くアリアに潰される。「それでいいじゃない」と彼女はあっけらかんと語る。

 

「子供なんだから、ちょっとぐらい躓いたって許されるわよ。特にあなたは、なまじ優秀な指揮官だから躓いた経験が少ないでしょう。今のうちに起き上がり方を覚えないと、将来苦労するわよ」

「これでもそれなりに失敗は経験している。監視してたんだから知っているだろう。同じような失敗を繰り返すなら、それでは経験の意味がない」

「恋愛問題は未経験だったと思ったけど?」

「……これはそんな色っぽいものじゃない。依頼仲介人との人間関係の問題、ただそれだけだ」

 

 少なくともクロノがそういった感情を向けて来るまでは、恋愛の問題にはなり得ないはずだ。ユーノと違って、彼はまだ答えを探している段階なのだから。

 アリアは「あー……」と頭を抱えた。彼女のお説を、弟子が足を引っ張る形で崩されたからだろう。何とかギリギリで逆転できたか。

 

「ほんとにもう! 何処までもバカ弟子ね、あの子は!」

「それはオレ以上に君の方が知っているはずだろう。……感情の問題については、絶交も考えたが何とか踏みとどまった、そこで察してくれ」

「んだよー! ミコトの着替え二度も覗くとか、ぶっ殺されても文句言えねーよ!? 甘すぎだって!」

「そうだよ! くろすけくんには「いしゃりょう」をせいきゅうするべきだよ!」

「こら、アリシア! ヴィータも、クロノの依頼のおかげでうちの生活も助かってるんだよ。ミコトはそう判断したんだよ。……わたしだって、全然、許してないけど」

「ふ、ふぅちゃん目が怖いの……」

「クロノ、えっち、さいてー」

 

 何とか、オレが抱えるもやもやした感情は隠すことが出来たようだ。……本当にこれは何なんだろうな。

 

 

 

 

 

 温泉に来たからと言って、温泉だけを楽しむわけではない。周辺の商店を回ったり、観光をしたり、レジャーを楽しむのもまた温泉旅行である。

 去年のときはエンゲル係数が危機的状況にあったため土産など買う余裕もなかったが、今回は5人衆向けに何か用意できそうだ。せっかく友人になれたのだから、このぐらいはしてもいいだろう。

 ソワレとアリシアに引っ張られながら商店周りをし、無駄遣いをしそうになる二人を嗜め、お揃いのキーホルダーを人数分購入する。数が数なので結構な出費であったが、この程度なら家計に打撃を与えるほどではない。

 二人に温泉まんじゅうを与え、旅館で待つ皆の分も持って帰ると、卓球場が異様な熱気に包まれていた。

 

「……なんだこれは。何があった」

「あ、ミコちゃん。ほら、わたしらって運動神経いい人が多いやろ。それで卓球大会を開いとったんやけど……」

 

 熱気の輪から少し外れたところで佇んでいたはやてに声をかける。オレのいない間にそんなことをしていたのか。いや別に大して興味はないから問題はないが。

 はやての言う通り、この団体は運動神経のいいのが揃っている。高町家の面子(なのはを除く)は当然として、アリサも悪くないし、すずかは血筋の関係で異常なまでの身体能力を誇る。

 八神家からはフェイトとヴィータ、シグナムが参戦。「マスカレード」でも前衛を担う彼女達の運動能力について、今更語るまでもないだろう。

 それに加え、前回はフェレット姿で療養中だったユーノも参加出来る。ガイも、ストリートファイターの息子なだけあって運動神経は悪くない。

 なるほど、大会を開けばそれなりに盛り上がるだろう。だがそれにしたってこの熱気は異常だ。それに、大会を開いていたにしては少し様子がおかしい。

 何故なら、立っている人間は一人しかおらず、他の皆は疲弊しきっているのだ。あの恭也さんですらも、だ。

 そして立っている一人というのは、先ほど挙げた中の誰でもない。彼女は余裕ある勝気な笑みを崩さず、ラケットを右手の中で弄んでいた。

 

「ふふん。皆凄いって聞いてたからどれほどかと思ったけど、案外大したことないのね」

「いいぞ、コーディー! 最高だ!」

「ま、ママ……容赦なさすぎ」

 

 そう。立っていたのはアリサをそのまま大きくしたような女性。彼女の母親のコーデリア・バニングスだった。

 その姿を見て最初に覚えた感想は「大人気ない」。アリサのあの性格は、彼女から受け継がれたのだろう。

 子供達(他の親組は不参加)に混じって卓球で無双したコーデリア女史を囃し立てる彼女の夫、デビット・リチャード・ウィリアム・ナイツ・バニングス氏(しかし長いな)。夫婦仲はいいのだろう。

 そんな大人気ない夫婦に対し、実の娘であるアリサからの視線は冷ややかであった。自分の親が子供相手に無双して悦に浸っているのだから、そうもなるか。

 だが実際に、彼女がフェイト、ヴィータ、シグナム、恭也さん、さらにはすずかまでをも負かしたというのは、驚愕の事実である。見たところそこまで突出した運動神経を持っているようには思えないが……。

 

「コーデリアさんは、昔卓球の世界大会に出たこともあるそうですよ」

 

 と、はやてのそばにいたミツ子さんが語ってくれる。……そうか、そこでミツ子さんと気が合ったのか。確か彼女も、学生時代は卓球をやっていたと聞いたのを覚えている。

 ミツ子さん自身は「そこまで上手くはなかった」(本人談)そうだが、それでも過去に卓球をやっていた者として、通じるものがあったのだろう。

 そして、温泉のときにロッテは一緒にいながらアリアだけ離れた理由も理解する。アリアは頭脳担当、ロッテは脳筋担当だ。あとは多くを語るまい。

 で……今の話を聞いて、オレの気分もげんなりする。世界大会に出場するほどに卓球という分野に秀でた彼女が、如何に身体能力が高かろうが卓球は素人である子供達を圧倒して喜んでいるのだ。

 その実力は確かに凄かろうが、やっていることが子供っぽ過ぎる。世界レベルの実力を使って何をやっているのかという話である。

 

「まるでバイクレースの大会にジェットエンジンを積んだF1カーが出場するようなものですね」

「あら、いいたとえするわね。あなたがミコトちゃん?」

 

 オレの率直な感想は、何故かコーデリア女史に好意的に受け止められる。彼女はオレの存在に気付き、近付いて話しかけてきた。

 

「八幡ミコト。一応、あなたの娘さんの友人をさせてもらっている」

「あはは、あの子の言う通り面白い言い回しをする子ね。改めて、アリサの母のコーデリア・バニングスです。アリサと仲良くしてあげてね」

 

 アリサ同様子供っぽくはあるが、彼女よりは落ち着きというものを持っていた。……まあ、この歳で彼女と同じでは色々と問題あるだろうが。

 コーデリア女史にお願いされるまでもなく、オレの中でアリサは既に友人である。彼女は、それだけの「成長」をオレに見せた。頑なに「知人」であることを維持するつもりはなかった。

 ちなみにそのことをアリサ当人に言ったことはなく、彼女は目を点にして驚いていた。そして次の瞬間には「ミコトがこわれた!?」と失礼なことを言いやがった。オレだって成長しているんだ、たわけめ。

 

「ふーん。うちの子に聞いてたよりも取っつきやすいわね。それとも、そう「なった」ってこと?」

「以前よりはマシになったでしょう。無論、その影響を与えた中にはあなたの娘も含まれている」

「あら、あの子も意外とやるじゃない。表面ばっか繕って中身が成長してないかと思ってたけど、そんなことないのね」

「ちょ、ミコト!? ママも、そういうのやめてよ!」

 

 顔を真っ赤にしてオレと母親を止めようとするアリサ。だが、残念だったなアリサ。これは「母親の会話」だ。子供である君に出る幕はない。

 

「出会ったばかりの頃はそんな感じだったが、オレや妹達との付き合いの中で変わったようだ。あなたの娘も、ちゃんと成長している」

「嬉しいこと言ってくれるじゃない。気に入った、今度またうちに来なさい! この私が直々に接待してあげる!」

「ちょ、コーディー!? それはさすがにちょっと……」

 

 コーデリア女史の発言にデビット氏が反応する。……ここまでの言動で忘れがちだが、彼女は社長夫人である。そんな彼女が、公的には何の立場もない小学生女子に接待するというのは、世間体的にまずいのだろう。

 別に彼を助けるつもりではないが、オレとしてもそこまでしてもらう気はない。

 

「気持ちはありがたいが、遠慮させてもらう。あまり派手に歓待されても気が休まらないのでな。以前のように普通に遊びに向かわせてもらう」

「うーん、私としてはあなたとは腹を割ってじっくり話してみたいんだけどねぇ……」

 

 どうにもオレは彼女に目を付けられてしまったようだ。こういうのは失礼かもしれないが、厄介な話だ。

 と、彼女は妙案を思いついたとばかりにラケットの面を掌で打つ。

 

「そうだわ! それじゃこうしましょう。これから私とあなたで卓球勝負をする。私がマッチポイントを取ったら、あなたは私の接待を受ける。それまでの間に、もしあなたに1ポイントでも取られたら、この話はなし」

「随分な自信だな。まあ、ここの死屍累々を見れば納得できる自信ではあるか」

 

 さすがに彼女も、自分の実力と周囲の開きは自覚しているようで、単純な卓球勝負を言い渡されず助かった。すずかですら相手にならないのでは、オレに勝ち目などなかっただろう。

 だが……たとえ1ポイントを取る程度のことだとしても、楽には勝たせてもらえないだろう。これでも五分とは言い難い勝負内容だ。

 もう少し勝負になるようハンデを付けてもらわなければならない。……そうだな。彼女が右手に持つラケットを見て、思考をまとめた。

 

「いくつか試合条件を付けさせてもらう。サーブは全てこちらから。ドロップショットの禁止。そして、あなたはラケットを左手で使うこと」

「え、ちょ、ミコト!?」

「ふぅん、そんなもんでいいの? もうちょっと無茶な条件付けられるかと思ったけど」

「これでも器用さにはそれなりに自信がある。これ以上ハンデを付けたんじゃ、さすがに"家族"が見ている手前、格好がつかないでしょう」

 

 子供の様に駄々をこねては、オレの騎士達からの信頼に背くことになる。命がかかっているわけでもないのだから、このぐらいで十分だろう。

 アリサは何故か「やめなさいよ!」と言ってくるが、これが適正なハンデ(にも程遠いかもしれない)であることぐらい分かっているだろう。

 最終的に彼女は「これは私と彼女の勝負よ。あんたは下がってなさい」と母親に言われ、すごすごと引き下がった。

 

「本当にこれでいいのね? 私は別に、もっとハンデを付けてくれて構わないわよ」

「くどい。こちらにも諸々の都合というものがある。どうせこの後にまた温泉に入ることになるんだから、さっさと終わらせよう」

「そ、分かったわ」

「……あーあ、知らないわよ、もう……」

 

 アリサは諦めたように天を仰いだ。……さっきから彼女は何が言いたいんだろう。オレは、何かを見落としているのだろうか?

 娘の反応には取り合わず、彼女はポジションに着く。オレもコーデリア女史に倣い、行こうとした。

 

「ミコトさん。あなたがこんなに成長してくれて、私は嬉しいですよ」

 

 その背に、ずっとにこやかに笑っていたミツ子さんからの激励がかけられる。……そういえば、彼女の前でこんなに人と会話をしたことは、今までなかったな。

 あまり多くの言葉を返すことは出来ないが。

 

「ありがとうございます。行ってきます、お母さん」

「ええ、行ってらっしゃい。愛しい私の娘」

 

 そうして、オレもまたコーデリア女史の対面に立つ。ミツ子さんのおかげで、オレの気合は十分だった。

 対戦相手の彼女は、右手でピンポン玉を卓球台の上に弾ませ、コツコツ音を鳴らした。やはり、逆の手でもラケットは扱えるか。そのぐらいでなければ世界レベルにはなれなかっただろう。

 オレがポジションに着くと、彼女はピンポン玉をラケットで弾き、こちらに渡した。サーブは全てこちらからという条件だからな。

 ……最初のサーブで卓球台の角を正確に狙うことが出来るなら、それだけで決着を付けられる。二回目以降は通用しないだろうが、いきなりで反応は無理だろう。

 そしてオレには、それを可能とするだけの能力がある。世界の普遍法則のストレージ「プリセット」、これを用いた高精度シミュレーション「確定事象」、そして自分の行動への正確無比なトレース。

 オレの持てる武器の全てをぶつけるつもりで、ピンポン玉をトスする。落下までの間に、「確定事象」によるシミュレーションを実行。軌道、空気抵抗、台の細かな凹凸。そして入力となるオレのサーブ。

 それら全てを短い時間に処理し終え、理想的な軌道を描く角度と力で、オレはピンポン玉をサーブした。玉はシミュレーション通りの軌道を描き、右の端――彼女から見て左の端の角に弾かれた。

 

 やった、と思ったのはほんの一瞬のことだった。その一瞬で、オレはまざまざと見せつけられた。

 「世界レベル」というものを。そして、己の失策を。

 彼女はオレの考えなど読んでいた。そも、まともに彼女と戦って勝つ方法など、偶然角に弾かれるぐらいのハプニングしかないだろう。それを狙ってやっては、読まれてしまうのもまた道理。

 コーデリア女史は、深く踏み込むと素早く左手を振るい、――オレの目にはっきり映ったのはそこまでだった。

 いつの間にか、ピンポン玉はオレの左側に飛ばされていた。オレの思考の冷静な部分が、彼女がオレのサーブをやり返したのだということを結論付ける。

 

「なん……だと……」

「あなたならそう来るだろうと思ってたわ。ま、本気出せばそんな小細工は通用しないんだけど」

 

 あまりにも速すぎる打球。かろうじて玉の軌跡の残滓が目に残っている程度でしかない。なんだこれは。皆は、こんな怪物を相手にしたのか。

 そしてオレは、もう一つの失策を教えられた。

 

「だから「やめなさいよ」って言ったのに。……ママはあんたやなのはと同じ、サウスポーなのよ」

 

 オレだけでなく、ギャラリー……先ほど彼女と戦った皆から、驚愕の声。彼女は先ほど、右手にラケットを持っていたはずだ。

 それはつまり、利き手ではない方であの人数全てを相手にし勝利したということであり。

 

「まあ、さすがに右手だったら今のは無理だったかもしれないわね。恨むなら、確認を怠った自分のミスを恨んでね」

「……まったく、迂闊だった」

 

 オレの勝利の可能性が、億に一つもなくなったことを意味していた。

 

 

 

 

 

 あの後、勝機がないなりに頑張ってはみたが、圧倒的な実力差を埋めることは出来ず惨敗。まさか去年アリサにやったパーフェクトゲームを、その親に返されるとは思わなかった。これも因果応報なのだろうか。

 コーデリア女史は上機嫌に「楽しみに待ってるわよ」と言って、いつかオレが(アリサではなく)彼女のところへ遊びに行くことを約束した。そういう条件だったから、仕方がない。

 

「いやー……ミコトちゃんがあそこまで見事に負けるの、初めて見たわ」

「あれはどうしようもないよ。僕達じゃ手も足も出なかったんだから。世界でもトップレベルの卓球プレイヤーに善戦できたんだから、十分凄いことだよ」

 

 汗を流すために温泉に入り、今は休憩所で水分補給を行っている。ぐだぐだやっているうちに人が集まり、いつの間にか子供達は全員集まっていた。

 温泉、というか公衆浴場では男女が別となるため、異性と話をする機会はそう多くない。ガイとユーノも(さっきは死んでたので)この旅行が始まってから初めて会話をした気がする。

 ユーノはオレの健闘をたたえてくれたが、オレの戦果も彼らと大差ない。誇ることの出来るものではないだろう。

 だが俺の意見に恭也さんは首を横に振る。

 

「そうとも言い切れないぞ。俺達相手には、あの人は本気を出さなかったってことだからな」

「あれで左利きってまだ信じられないんだけど。……でも実際に、ミコトちゃんとの勝負のときはとんでもない動きしてたもんね。世界って広いなぁー」

 

 知らずにいた身近な超人の存在に、美由希は苦笑する。これまでの旅行で彼女がここまではっちゃけたことはなかったようだ。

 今回コーデリア女史が動いた理由は「運動神経がいい子が多いらしいから、実際に勝負してみたかった」だそうだ。人が増えたが故に明らかになった事実だったのだろう。

 

「……わたし、実は最後の方、高速移動魔法使ってズルしてたんだよ。なのに普通に追いついてくるんだもん。アスリートって凄いよ」

「そんなことしてたのかよ。……まあ、実はあたしも身体強化魔法使ってたんだけど」

「私は最初から全力だった。それであの体たらく……主に勝利を捧げられず、不甲斐ないばかりです」

 

 彼女と戦った魔導師・騎士からはそんな逸話まで飛んできた。……恐らくは卓球限定なのだろうが、まさに超人と呼ぶにふさわしいな。

 ……と、そうだった。

 

「アリサ。君は両親に魔法や管理世界のことは話しているのか?」

「話してないわよ。家族や友達が関わってる話じゃないんだし、あたしの親にまで言う必要はないでしょ?」

 

 妥当な判断だろう。アリサとすずかに情報共有を行ったのだって、ガイがそう進言したからだ。「親友に何も言わないで危ない事をしてるのって、なんかスッキリしねえんだよな」と。

 もちろん当時のユーノは難色を示した。管理外世界の住人に管理世界のことを教えるのは、一部の場合を除いて罪に問われることになる。今は関係ないかもしれないが、当時のユーノは管理世界の住人だったのだから。

 それをあの手この手で説得し(「このままだとなのはが潰れるかもしれない」と言われたのがかなり効いていた)、最終的にこの世界の住人であるオレの手で明かすならば問題ないという結論に至った。

 そういう経緯があって知ったアリサとすずか、そしてオレのやっていることを明らかにする約束をしていた5人衆とは、立場が違うのだ。娘の友人の事情まで知り尽くしている必要はない。

 すずかも同様であり、仕事の関係で遠方に住む両親には、このことは話していないそうだ。月村家で知っているのは姉とメイド姉妹だけらしい。

 

「そうか。関係者が多いし、どこまで開示可能なのかを一応確認しておきたかった。そういうことならば、アリサの両親とミツ子さんの前では、魔法の話はなしだ」

「……ねえ、ちょっと疑問に思ったんだけど。なんでミコトは、ミツ子さんにこの話をしないの?」

 

 少し視線を鋭くし、アリサが尋ねる。彼女の言う通り、オレは……オレ達は管理世界のことをミツ子さんに明かしていない。

 他の関係者……高町家と藤原家の家族全員が知っている中、オレだけは「親」であるミツ子さんに話をしていない。そのことが、アリサは気になったのだ。

 

「一年前のことやクリスマスのこと、それから普段の依頼もそうだが、お世辞にも穏やかな内容とは言い難いからな。無駄に心労を増やす真似はしたくない」

「あんたねえ……親ってのは、意外と見てるもんでしょうが。黙ってても、ミツ子さんはきっと察してるわ。だったら、黙ってるよりもちゃんと言った方が、ミツ子さんだって安心でしょう」

 

 それは……どうなんだろうか。アリサの言う通りである気もするし、オレの考えが間違っているとも思えない。少なくとも、ミツ子さんはこのことを知らずに、今も笑顔でいてくれる。

 あの笑顔は、表面を繕っただけのものではない。娘達を慈しみ、オレ達を取り巻く環境を見守り、幸せな日々が続くことを祈る、そんな笑顔だ。

 ならば、わざわざ穏やかな水面に小石を投げ入れ、波立たせる必要などあるのだろうか。

 うちの事情は、それこそなのはやガイとはまた違っているのだ。ミツ子さんは、そういう立ち位置を「選んでくれた」のだ。

 もし話をするとしても……それはギルおじさんとの関係が変化したときで十分だ。今はまだ、焦って事を仕損じる時期ではない。

 

「……なんか納得いかないけど、あんたの考えは分かったわよ。けど、あんまし抱え込むんじゃないわよ? あんたって全部一人で解決しようとしそうだし」

「お、アリサちゃんよう分かっとるなぁ。それでアリアに怒られたこともあるんやで」

「はやて、余計なことは言わなくていい」

 

 空気が弛緩し、話題が流れる。アリサも、ひとまずはこの結論で勘弁してくれたようだ。

 話が移ろおうとして――アリシアから何気なく差し込まれた。

 

「おねえちゃん。たぶんだけど、おばあちゃんはぜんぶ分かってるよ。おねえちゃんが何にかかわってたかとか、アリシアがほんとうは"人間"じゃないってことも」

「……そう、なのか?」

 

 「アリシアが"人間"ではない」。これは紛れもない事実だ。彼女は、"アリシア・テスタロッサの遺体"と"ジュエルシード・シリアルI"から生み出された、全く新たな存在なのだから。

 だけどその見た目は人間そのものであり、創造理念も「アリシア・テスタロッサそのもの」という「人間であること」を目的としたものだ。故に彼女は限りなく人間である。

 それでもミツ子さんは見抜いているのだと、アリシアは語る。……いや、確かにミツ子さんならばそれも十分考え得ることだ。

 あの人は、人との距離感が非常に鋭敏だ。そうでなくて、排他の極みにあった当時のオレを引き取るなど出来るわけがない。彼女は、人を見る目が非常に鋭い。

 それならばオレが気付かないぐらい小さな違和感を見つけ出し、アリシアの正体が"人間に近い何者か"であることを見抜けるかもしれない。同様に、それを成したオレの動きも把握していたかもしれない。

 アリシアの意見に、彼女とともにミツ子さん宅をよく訪問するヴィータが同意した。

 

「そういえば、あたしのことも何となく分かってるっぽかったな。「私からは何も聞きませんよ」って言ってたし。ミコトの判断を信用してるんだってさ。すげーばあちゃんだよな。さすがはミコトの母ちゃんだよ」

「……本当にな。オレなど彼女の足元にも及ばないのだと、再確認したよ」

 

 母親として。プレシアも、リンディ提督も、そしてミツ子さんも。多少成長したところで、彼女達のレベルには至らない。一朝一夕で成し遂げられるものではないのだ。

 オレは、フェイトの、アリシアの、ソワレの母である。彼女達が誇れる母であるよう日々努力をしているつもりだ。

 だけど同時に、オレは娘だ。ミツ子さんの、ギルおじさんの。そして桃子さんと士郎さんにとっても、同じような扱いを受けている。

 母親とは何か。娘とは、何か。……考えれば考えるほど、答えなど出なくなりそうだ。

 

「母は強し、か。よく言ったものだ」

 

 本当に。オレも、もっと強くならなければな。あの子達の母として。そして……一人の女として。




(但しエロ回とは言ってない)
次の話はまだ考えてないので、これで温泉終わるかもしれないし続くかもしれません。(続けたい気持ちは)そこそこですね。まだミコトちゃんの可愛いシーン見てないんだし、当たり前だよなぁ?

以前のあとがきでちょろっと名前の出ていたキャラクターが登場、アリサの母親です。容姿は大人版アリサをちょっと小柄にした感じでイメージしてます。性格はアリサを強烈にしてマイルドにした感じ。
卓球で無双してますが、別に特別身体能力が高いわけではありません(低くはないけど)。動きの緩急や相手の動作の先読みと言った技術的な面で、マスカレード前衛メンバーを打ち取りました。しかも利き手じゃない方で。
こんな性格なので、当然専業主婦などではありません。普段は夫と一緒に世界中を飛び回って貿易商品を探してます。

本格的にミツ子さんを絡ませる回。なのですが、肝心のミツ子さんの立ち位置がアレで当人はあまり出てこない始末。これもう(何がやりたかったのか)分かんねえな。
ちょっと前にお茶濁しで投稿した登場人物一覧でも書きましたが、ミツ子さんは何となくミコト達の事情を察しています。管理世界などの言葉は知らずとも、イメージ的なものでかなり正確にとらえています。
ミツ子さんは観察が得意な方なので、ミコトが自分を慮って黙っていることをちゃんと理解してくれています。だから自分からは何も聞かないし、少なくとも今はまだ聞くべきではないと思っているのです。

次は男視点で続き書くんじゃないですかね(無責任)

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