不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
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八話 日常

 ジュエルシードの探索に参加することに決めてから――正確に言うならば、"光の召喚体"ブランを作ってから、八神邸の生活は少し変化した。

 今日は、少しだけ変化したオレの一日について語るとしよう。

 

 

 

 朝6時。目覚ましの1時間前だが、オレはこの時間に自然と目が覚める。一年半ほどミツ子さんのアパートで一人暮らしをし、内職をしていた習慣のためだろうと思っている。

 オレが寝るのははやての部屋のはやてのベッドで、はやてと一緒に使っている。元々は彼女の希望でそうなったものだが、今ではオレもこのスタイルを望んでいる。人は変われば変わるものだ。

 目が覚めて一番最初に目に入るのは、幸せそうに眠るはやての寝顔。オレの一日は、この寝顔を一時間ほど愛でることから始まる。

 オレに抱き着くように眠るはやての髪を手で梳くと、こそばゆく感じたのか、顔をオレの胸にうずめる。そんなはやてを見ていると、胸の真ん中が暖かくなるのを感じる。

 最近分かったが、これが愛おしいという感情なのだろう。それを感じると、より一層はやてを大事にしたいと思い、彼女に幸せな未来を与えたいという決意が強まる。

 

 オレは基本的に、自分本位な人間だ。自分の損得で、自分にとっての要不要で、自分の貸借バランスでしか物事を判断しない。感情に突き動かされて、などというのはほぼなかったと思う。

 そんなオレが、はやてにこんな感情を持ったと気付いたとき、正直に言ってひどく困惑した。多分、自分の中での貸借バランスが崩れてしまったためだろう。

 自分の判断の支柱が揺らぐというのは、非情に大きな影響を与えるものだ。しばらくの間はやてに甘えるようになってしまったのは、ちょっと思い出したくない。

 だが同時に、素直に嬉しいと感じているオレもいた。はやてと一緒にいられることを喜び、彼女がオレを求めてくることが嬉しくて、彼女を求めることが出来るオレを誇らしくも思った。

 だから、少し時間はかかったが、オレはその感情と向き合うことが出来た。そして飲み込み、自分の一部とし……今はこんな感じだ。

 

 自分で言うのもなんだが、以前より人の気持ちというものが分かるようになった気がする。また、自分の感情を少しずつ表現できるようになったんじゃないかと思う。

 そう思って鏡を覗くと、いつも通りの仏頂面があり何とも言えない気持ちになる。オレの周囲の人間はこれを「可愛い」というのだが、どういう感性なのだろうか。今のオレには、ちょっと理解できない。

 まあ、理解する必要もないか。それこそオレとは「違う」のだから、オレが理解できずとも、皆が満足できればそれでいいのだろう。

 それに、はやてに「可愛い」って言ってもらえるのは、オレも悪くないと思っているし。……うん、悪くない。

 

「んんっ……ミコちゃぁん……」

 

 腕の中のはやてがもぞもぞと動く。覚醒が近そうだ。時計に目をやると、よしなしごとを考えているうちに40分もの時間が経過していた。最近時間の経過が早くて困る。

 それから5分ほどはやての頭を撫でていると、彼女の目が薄く開かれた。

 

「……ふぁぁ……」

「おはよう、はやて。目覚ましまであと15分あるぞ」

「んー……もう起きるぅ……」

 

 体を起こし、目をこしこしとこする。こら、そんなことしたら目に悪いぞ。

 んー、と伸びをすると、はやてはようやく目をはっきりと開いた。

 

「えへへー。おはよ、ミコちゃん」

「ああ、おはよう。ほら、髪留めだ。ちょっとじっとしていろ」

 

 重なるように置かれた二つのバッテン印の髪留め。その片方――はやての方を彼女の向かって右の前髪につける。オレも手馴れたものだ。

 毎日やっていることだが、そのたびに彼女ははにかんだように笑ってくれる。それを見ていると胸がぽかぽかしてくるから、オレは嫌じゃなかった。

 今度ははやての番。彼女の手がオレの左側の前髪を優しく掴み、手で軽く梳く。そして、揃いの髪留めで止めてくれた。

 これがオレ達の朝の日課。互いの髪留めをそれぞれにつける。一昨年のオレの誕生日の翌日から続いているから、もう一年以上になる。一日として欠かしたことはない。

 それと。最近ではもう一つ、日課というほどではないが、時々することがある。

 

「なーミコちゃん。今日はミコちゃんからお願い」

「うっ。……自分からするのは、少し恥ずかしいんだが」

「そんなんわたしかて一緒よ。それに、恥ずかしがるミコちゃんってレアやから、ちょっと得した気分になれるやん」

 

 代わりにオレが損していることになるわけだが、分かっているのだろう。分かっているんだろうな、はやてだから。

 ちょっと息を吐き出し、大きく吸い込み、少しだけ心拍数の上がった心臓を落ち着ける。……よし。

 

「それじゃ、はやて……」

「うん……」

 

 はやての頬に軽く手を当て、自分の顔を近付ける。オレの唇を、はやての唇に重ねるために。

 

 ――コン、コン

 

「ミコト様、はやて様、失礼致します。ご起床の時間です」

 

 扉の向こうから、ブランの声。それでオレ達は、思わず動きを止めてしまった。

 

「……はやても起きている。すぐ行くから、先にリビングで待っていてくれ」

「かしこまりました」

 

 遠ざかっていく足音。絡み合うオレとはやての視線。……なんだ、この気まずさは。

 

「……あはは。今日のおはようのキスは、お預けやな」

「そうだな。助かったような、残念なような……」

 

 行為自体はオレも望んでいることのため、物足りなく感じる目覚めとなった。

 

 

 

 ブランは作られてから日が浅いため、実は家事のやり方を知らない。それは今後オレやはやてが手本を見せて教えていくことになる。

 とりあえず、本日の朝食はオレが作った。ベーコンエッグとピザトースト。プラスして事前に作っておいたもやしスナック(もやしで作った菓子、うすしお味)に、飲み物はホットミルク。

 一人暮らし時代は牛乳を飲むことなどなかったのだが、八神邸で食事をするようになってから毎朝飲んでいる。身長を伸ばさねば。

 作ったのは三人分。最初ブランは「私は食事を必要としておりません」と言っていたのだが、はやてから「ごはんは家族皆で食べるもんや」とお叱りを受けた。

 そうなってはオレも止めることなど出来はしない。結果、家で食べる食事は三人で摂ることになった。食費的には無視できないことだが、はやてが満足しないのだから仕方ないだろう。必要経費だ。

 食べながら、はやてがブランに話しかける。

 

「なあブラン。そろそろ、他人行儀な話し方やめにせえへん?」

 

 どうやらはやてはブランの口調に壁を感じているらしく、もっと砕けた言葉遣いをしてほしいという要望だった。「はやて様」と呼ばれるのもむずがゆく感じるらしい。

 この辺は、ブランの元となったジュエルシードに原因があるのか、それともオレに問題があるのかはちょっとはっきりしない。

 "召喚体"の性格は、素体と基本概念と創造理念によって決定される。しかし、そもそもの作成例が少ないため、法則性を見出せてまではいない。

 今回の場合、素体はジュエルシードのシリアルXX、基本概念は"光"(概念的な光なので物理的な光とは意味が異なる)、理念は「マスターとその周辺の環境維持」だ。

 ブランには「元ジュエルシード」の自覚と「自身が"光"という概念である」というアイデンティティと「オレとはやてをサポートする」という目的意識がある。

 このブランの固さは、目的意識が強く出てしまっているためか。一応そういう推測は出来るが、ジュエルシードの全てを分かっているわけでもないので、断言はできない。

 

「そうはおっしゃいますが……。本来ならば、このような席に同席させていただくことさえ、恐れ多いことですのに。この上そこまでのご無礼を働くわけには……」

「あー、ブランは固く考えすぎなんよ。ミコちゃんだって、ブランにそこまでせえ思ってるわけやないやろ?」

「そうだな。オレはジュエルシード回収によって外出が多くなるから、その間はやてを支えてほしいと思っただけだ。あまりやり過ぎると、かえって重荷になるぞ」

「な? せやからブランも、「はやて様」やなくて呼び捨てでかまへんねん」

「そ、それは少し難易度が高過ぎますわ。……それでは、「はやてちゃん」とお呼びしてもよろしいでしょうか」

「十分ありや! ほな、ミコちゃんのことも「ミコトちゃん」やな!」

「え、ええ!? ミコト様は私のマスター、造物主様です! そんな恐れ多い真似は……」

「構わん。オレ一人だけを仲間外れにしてくれるなよ、ブラン」

「そ、そのようなつもりは……」

 

 わたわたとしどろもどろになるブラン。はやても楽しんでいるようで何よりだ。

 こうしてみると頼りなく見えるかもしれないが、ブランは素体をジュエルシードという破格の不可視物質――魔力結晶で構成している。単純戦闘能力は相当なものだろう。

 もっとも、実戦経験が皆無であり、攻撃方法も光線放射しかないから、実際の戦闘力はそこまで高くはないだろうが。それでも、はやてが偶発的にジュエルシード暴走体に遭遇したときには対処できるだろう。

 オレがジュエルシードの転用実験として最初にブランを構成したのは、そういう思惑からだ。まずははやての安全を確保しなければならない。

 ともあれ、今後ブランは様付けを禁止され、オレがジュエルシード探しをしている間に砕けた言葉のトレーニングを行うことになった。しっかりはやてを楽しませてやれよ、ブラン。

 

 

 

 そして、登校。オレとはやてが学校に行っている間、ブランはどうするのか。彼女の体は成人女性程度の姿をしており、当然ながら小学校に行くことは出来ない。というか、そもそも学籍がない。

 ではどうするかというと、"基礎状態"に戻ってもらう。

 

「行くぞ、ブラン」

「了解しました、ミコト様」

「ブランー。「ミコトちゃん」やで」

「うぅ……、み、ミコトちゃん」

「よく出来ました。それじゃ、"戻す"ぞ」

 

 そう言ってオレはブランの手を取り、意識をスイッチさせる。「プリセット」から必要なデータを抜きだし、ブランという"現象"とリンクさせる。

 その状態で、"命令文"を口に出す。

 

「『"光の召喚体"ブラン、在りし姿に戻れ』」

 

 するとブランは一瞬のうちに光の粒子へと変化し、オレの手の中に凝集する。光は固形化し、手の中に硬質な感触を得る。

 光がおさまれば、そこにはジュエルシード……から変化した白い核。刻印されているのはXXのシリアルナンバーではなく、「Blanc」という"彼女"の名前。

 首からかけて持ち運びがしやすいように鎖が付けられたソレが、ブランの基礎状態だ。そして、これらの現象を可能にしているものこそがオレ達の開発した"魔法"。名称はまだ決まっていない。

 

 はやての足を治す。そう決意したオレだったが、いかに「プリセット」があるからと言っても、子供のこの身に出来ることは少ない。圧倒的に調査するための時間が足りなかった。

 それを自身の身を削ることで補って無理を重ねているうちに、あきらとケンカをする羽目になった。「そこまでやって何になる」と言われ、「君に指摘される筋合いはない」と言い返した。

 今思い返せば、これ以上もなく子供のケンカだ。女子だというのに、まるで男子のように殴り合いの大ゲンカ。止めようとしていた伊藤は泣き出し、亜久里がキレた。

 大人しい人が怒ると怖いとよく言うが、普段ぽわぽわしてる亜久里があそこまで怒るというのは完全に予想外で面食らった。オレもあきらも、思わず言うことを聞いてしまった。

 で。言われるがままにオレの事情を話すと、驚きと呆れと、やっぱり怒りと、色々な感情がないまぜになった表情で言われた。「自分達も全面的に協力する」と。

 これが、あの少女達が「異世界の魔法について話しても大丈夫だ」と判断した根拠だ。その程度の非日常は、あの子達は何度も見て来ている。主にオレの実験で。

 特に力になってくれたのが、意外にも田中遥だった。彼女は占いとかが大好きで、必然的に異能関連の情報にも通じていた。

 霊術、退魔術、陰陽術、式神術etc。歴史の表舞台には出てこないが、現在でも裏では存在し続けている異能の数々。もちろん裏の存在なので、情報収集は容易ではない。

 外れも多々ある中、数少ない当たりを引き、技術を理解し、分解し、基盤を得て、そしてオレが使える形にする。そうして出来上がったのが、オレ達の"魔法"。

 「プリセット」を用いて事象と繋がり、直接命令を送り込み現象を引き起こす術だ。故に「プリセット」を持つオレにしか使えないゲテモノ技術であると言える。

 皆の調査と皆の発想がオレの能力とかみ合い、実現した"魔法"だ。使い手はオレ一人しかいないが、オレだけの"魔法"と言うことはできないだろう。全く、子供の可能性は無限大とはよく言ったものだ。

 オレはこれを「コマンド」と呼んでいるが、はやては「グリモア」、あきらは「命霊(みことだま)」、亜久里は「チートコード」、伊藤は「命術」、田井中は「ミコっち魔法」、田中は「心言」と皆バラバラだ。

 田井中だけは論外として、皆それぞれに理由があるらしく、譲らない攻防を繰り広げている。正直どれでもよくないか、と思わないでもない。田井中だけは論外として。

 

 とはいえ、これではまだ「ツールを作るためのツール」を得た段階だ。そのため、次の段階として考えたのが「召喚体の作成」となる。

 召喚体とは、文字通り現象を体あるものとして呼び出したものだ。色々なやり方を試し、現在の作り方に落ち着いている。最初の召喚体を作る際に爆発事故を起こしてはやてに怒られたのも、最早過去のことだ。

 ……あれはオレ一人の責任ではないと思うのだがな。「火を使おう!」とか言い出したのはあきらだし。何でも「イフリートとかかっこいいじゃん!」だそうな。

 まあ結局、当時は素体という発想もなかったし、火という概念が簡単に収束してくれるわけもなく小規模爆発を起こすだけにとどまり、実験は終了。前述の結果となったわけだ。

 ちなみに火を得るのに子供だけでたき火をやったもんだから、警察にも怒られている。苦い思い出ばかりがあるので、今後"火の召喚体"だけは作ることがないだろう。

 閑話休題。そんな折に先日発見したのがジュエルシード。異世界の古代遺産――ロストロギアであり、高エネルギー魔力によって形成された結晶。因果を歪める特性を持った、非常に自由度の高い素材だ。

 これを利用しない手はない。さすがに持ち主を差し置いて勝手に使うなどという筋違いなことはしないが、交渉の末、最大で4つまでもらえることになった。

 4つ。それだけあれば、きっとどうにかなる。召喚体のステップの限界値まで行けるはずだ。そうすれば、目標まで一気に近付く。

 そのためには、スクライア達に全力で協力する必要がある。どの道ジュエルシードを見つけられなければお話にならない。

 だから、今日も学校が終わったら探索だ。これにも別の召喚体を使う予定である。

 

 さて、長々と説明したが、これでオレが今持つ技術というものを理解出来ただろう。……誰に向けての説明だったんだろうか。

 まあいい。鎖を外し、首に巻き付けて後ろで留める。胸元に収まる白い宝石。これで準備は完了だ。

 

「ブラン、問題はないか?」

『はい。状態は至って良好です、ミコトさ……ミコトちゃん』

「その調子やでー。頑張りぃ、ブラン」

 

 これは予定外の事態だったのだが、ブランは基礎状態でも会話をすることが出来た。恐らく、元々が魔法の結晶であったことに起因しているのだろう。

 別に問題となることでもない。この状態でも会話は出来るのだから、彼女の指導ペースも上がるというものだ。

 人前では会話をしなければいいし、もし聞かれたとしても……多分スルーされるんだろうな。「ああ、またあいつか」みたいな感じで。

 「コマンド」の構築のために、端から見たら変なことばかりやっていたから、周辺住民からも不思議ちゃん扱いされるようになってしまった。全くもって遺憾である。

 面倒がないことは、いいことなのかもしれんがな。

 

 

 

 

 

 三年生の教室は二階。車椅子を使っているはやてが昇るのは容易ではない。皆で協力して運ぶために、オレ達と5人衆は学校の門で待ち合わせをしている。

 向こうは既に全員集まっており、オレ達"3人"は合流して校舎の方に歩き出す。

 

「にしても昨日はびっくりしたねー。突然出現して消滅した巨大樹って、ニュースにもなってたよ」

 

 田井中が子供達の喧騒の中、軽く話題を提示する。昨日あったジュエルシード発動の話だ。

 今まで発動直前だったり、発動しても暴走体程度だったりしたジュエルシードなのだが、昨日とうとう「願いを歪めて叶える」という効果を発揮してしまったようだ。

 当然オレがその詳細を知るわけがないのだが、オフィス街の方で突如として天を突くほどの巨大樹が発生、一時的に交通網が麻痺したり、ビル等の建物にも被害が出てしまった。

 さすがにその状態ではオレに手出し出来るわけもなく、全てスクライア組に任せることとなった。結果は、ニュースの通りちゃんと封印は出来た。

 対処が遅れてしまったことに、彼らは責任を感じているようだった。何もできなかったオレは、せめて協力者として助言を与えることにした。

 

「責任は後悔するためのものではない。そんな自己満足しか出来ないなら、いっそ責任を捨てて、無責任に次の対策を立てておけ。その方が余程生産的だ」

 

 そう言った途端、高町なのはが泣きながら抱き着いて来てちょっと驚いた。「ごめんね」と「ありがとう」を繰り返す彼女を、頭を撫でて落ち着かせた。

 そんなオレ達の様子を恭也氏がとても穏やかな笑顔で見守っていたのが印象的だった。何というか、高町なのはとオレを同じような目で見ていた気がする。

 ……いや、実際そうなのかもな。もし状況が違えば、オレは本当に彼の妹になっていた可能性もあるのだから。思うところがあるのかもしれない。

 あと、印象に残ったと言えば、藤原が「これもうタイミングわかんねえな」とつぶやいて諦め顔だったことか。ちょっと意味は分からないが、あまり詮索する気もない。

 正直、「おっぱいシールド」とか開発するような男はどうかと思う。いや、別に開発して個人で楽しむ分には構わないが、オレは出来ればお近づきになりたくない。アホが伝染っても嫌だし。

 同じ防御主体の魔導師ということでスクライアが訓練を見ているらしいが、さすがに同情を禁じ得ない。「有能なのになんであそこまでバカなんだ……」と嘆いていた。

 そんなこんながあり、しかしニュースでは「原因不明」ということになっているので、世間一般への魔法技術の暴露には至っていないようだ。

 

「やっぱりあれって、ジュエルシードなんだよね。ミコトちゃん、ほんとに大丈夫?」

 

 伊藤が声を潜め、心配そうに尋ねてきた。オレが怪我をする心配をしてくれているようだ。

 それについては、断言はできないが安心しろと言おう。

 

「オレの手に負えないものなら、スクライア達に任せる。危険に無策で突っ込むほど考えなしではないさ」

「それなら、いいんだけど……」

「次の召喚体作るまでブランを使うわけにはいかんの?」

「ブランは装備型じゃなくて自律行動型だ。しかも役割は守護。討伐には向かんよ」

『お役に立てず申し訳ありません、ミコト様……あっ、ミコトちゃん』

「あれ、ブランさん呼び方変えたんだ。じゃあわたしらのことも、様付けしないで呼んでよー」

『あ、はい。努力致します、あきらさ……あ、あきらちゃん』

「ブランさんって見た目大人だけど、中身は年下って感じだよねー」

「実質生まれて数日だからな。全てはこれからの経験次第だ」

 

 学校という不特定多数の人間が集まる場所にも関わらず、普通に魔法関連の話をしているオレ達だった。まあ、今更だしな。

 

 

 

 学校生活では、班に分かれての活動となるときがある。最も頻繁なものでは給食だろう(うちの学校では、隣り合った男女4人で机を合わせて食べるスタイルだ)

 オレははやての学校生活をサポートすることを、担任の石島教諭から任されている。3年に上がるときに、オレ達が同じクラスだったり、同じ担任が受け持つことになったのは、そういう事情に配慮してのことだろう。

 つまり、オレは班行動では常にはやてと同じ班となる。残りの男子枠に関しては、毎回違う。席替えのたびに一喜一憂する彼らは、何と戦っているんだろうな?

 

「はい、ミコちゃんあーん」

「……はやて。学校でそれはやめよう」

 

 そして今がまさに給食の時間であり、悪ノリしたはやてが、家で時々やっているようなことを始めた。ほら、男子二人がこっちをガン見してるじゃないか。

 

「いえっ! 自分らのことはっ!」

「空気だと思って続けてくださいっ!」

 

 目が血走ってて怖い。本当に、彼らは一体何と戦っているんだ。

 なおも「あーん」をしようとするはやてに、ため息一つ。……これは仕方ないよな。

 

「教諭。文句は言わせませんので、一発お願いします」

「おう」

「んなぁ!?」

 

 はやての後ろに仁王立ちしている石島教諭にゴーサインを出すと、振り返ったはやてに拳骨が一発。痛そうな音がして、はやては痛そうに頭を押さえた。

 

「あいたた……石島センセ、これ体罰やで」

「保護者の許可はもらってただろ。公衆の面前でイチャついてんじゃねえ。TPOってもんをわきまえろ」

「センセ、小学生は普通TPOなんて言葉は知らんで」

「お前らなら知ってるだろうから使ってんだよ。あんま聞き分けないともう一発行くぞ」

「さ、サー! イエッサー!」

 

 拳を構えられ、はやては慌てて机に向いた。そうそう、ちゃんと行儀よく食べないとな。

 と、教諭は呆れたようにため息をつく。

 

「八幡ぁー。ちゃんと八神の相手してやってんのか? 最近忙しいらしいけど、ちゃんと相手してやんないと欲求不満になるぞ」

「……教諭、TPOってもんをわきまえましょう」

「お前、それこそ今更ってやつじゃねえか」

 

 理解ある教師というものなんだろうが、ぶっちゃけ過ぎである。何故オレ達の周りにはこうも極端な人しかいないのだろうか。

 まあ、助かってはいるんだがな。

 

「てっぺー! 八神さんいじめんなよー!」

「そーだそーだ! 俺達の楽しみ奪うなよなー!」

「うるっせえぞガキども! 飯ぐらい黙って食いやがれ!」

 

 ほんと、賑やかなクラスだこと。

 

 本日の班行動は、午後の授業にも一コマある。この学校特有のカリキュラムで、「研究・発表」というものだ。

 これは、班ごとにテーマを決め、文献等を使った調査を行い、まとまったところで皆の前で発表をする、という内容になっている。

 今回のテーマは、はやてが気になっているということで、「世界の怪異・怪談」だ。古今東西、世界で起こった神隠しなどの怪奇事件について調べている。

 

「まー、今一番身近な怪奇言うたら、ジュエルシードやろうけどな」

 

 男子二人が率先して図書室の文献を取りに行ったので、今ある文献をまとめながら、小さな声ではやてが話しかけてきた。

 今は基礎状態となってオレの胸にかかっているブランも、元はジュエルシード。昨日の巨大樹事件もジュエルシード。もし公に出来るような内容なら、文献を調べるまでもなく発表出来てしまうだろう。

 だが、それは出来ない。この世界には魔法文明がない――管理世界が言うところの、と枕詞が付くが――ため、不必要に拡散することは管理局法に抵触してしまう。

 もっとも、オレ達は管理世界に属している身ではなく、管理局法に縛られるような身分でもない。別に拡散したところで罪に問われることはないのだ。

 とはいえ、それをする気はない。オレ達は罪に問われないかもしれないが、クライアントのスクライアはそうではないのだ。彼の依頼を受けている以上、いたずらに不利益を与える真似は筋違いだろう。

 

「もし取り扱えるなら、管理世界なら学会で発表出来るような内容になるんじゃないか?」

「あはは、かもなー。ミコちゃんに至っては、多分やけど、他の人が真似できないことしとるし」

「ふむ。それで一山当てられるなら、一考の価値ぐらいはあるかもな」

 

 まあ、所詮一考の価値しかないのだが。スクライアの様子を鑑みるに、管理世界の法律は何かとしがらみが多そうだ。それはオレも望むところではない。

 高町家入りの話を蹴ったのと同じように、たとえ財を築けても、そこにオレの精神の自由がないなら意味がない。それならば内職で地道に収入を得た方が、比較にならないほどマシというものだ。

 

「管理世界ってどんなところなんだろうね。ユーノから聞いた感じだと、魔法が当たり前に存在するらしいけど」

 

 と、席を立ってあきらがやってきた。「ちょっと休憩」だそうだ。この時間は自由に動けるから、話しに来たようだ。

 それを皮切りに、"魔法"開発メンバーがぞろぞろやってくる。

 

「あれじゃない? ポ。ターの魔法界みたいな、ファンタジーな感じの」

「スリ○リンは嫌だ、○リザリンは嫌だ……」

「グリフィ○ドール!」

「田井中、亜久里。騒がしくすると教諭に注意されるぞ」

 

 忠告してやったが手遅れだった。二人に軽い拳骨が降り注ぐと、二人とも首根っこを掴まれて自分の席に戻された。オレ達も「あまり騒がしくするなよ」と注意を受けたが、話は続行していいようだ。

 

「真面目な話、科学はここ以上に進んでいるだろうな。高町なのはのデバイスとやらを見せてもらったが、ありえないほど複雑な構造だった。そもそもあっちの魔法は科学らしいからな」

「何か夢がないねー……」

「そういうもんやで、はるかちゃん。その点、ミコちゃんの「グリモア」は夢が溢れとるから、わたしは好きやで」

「「命霊」でしょ」

「「命術」……」

「やっぱり「心言」が一番だよ」

 

 また始まった。何でもいいだろうに、どうせオレしか使えないんだから。

 田井中は論外だが、個人的にあきらと伊藤の案も苦手だ。あきらはモロに読みをオレの名前にしてるし、伊藤も「命」の字は当然オレの名前から持ってきている。

 じゃあ田中の「心言」がマッチしているかと言われれば、ちょっと印象がずれている。別に心で語りかけているわけではなく、無感情な命令文を送っている感じなのだから。

 そうなると候補は「コマンド」「グリモア」「チートコード」の三つとなる。「コマンド」も「チートコード」も、名前の発想は大体同じだ。正規命令か割り込みかの違いだけ。

 はやての案である「グリモア」とは、「魔法書」を意味するフランス語だ。頭の中にある魔法書を開いて行使しているという、文学少女チックな発想に基づいている。

 なので、センスを求めるなら「グリモア」、名が体を表す簡潔さなら「コマンド」か「チートコード」と言った感じだ。

 とは言え、これはオレの一意見でしかなく、やはり皆自分の考えた名前が一番と譲らない。もっと他にやるべきことがあると思うんだが。

 

「それは一旦置いといて、皆そろそろ自分の班に戻った方がいいんじゃないか? 田井中と亜久里の二の舞になるぞ」

「……いいわ、ここは一旦退いてあげる。けど、わたしの案が一番だって思い知らせてあげるんだから!」

 

 何でわざわざ大声出すかね、この矢島晶は。予想通り、石島教諭から割と強めの拳骨を喰らっていた。

 うちのクラスの担任は、男女平等パンチを持っています。

 

 

 

 

 

「何というか……意外と年頃の会話をしているな。内容が少し一般と離れている気がするが」

「あはは……。けど、必殺技の名前を決めたいっていうのは、ちょっと分かる気がするかも」

 

 放課後、ジュエルシードの探索中だ。一度八神邸に帰り、ウインドブレーカーと野球帽の運動スタイルに着替え、探索を開始したところで、高町兄妹と遭遇した。

 オレは召喚体の報告待ちなので、特にやることはない。この広い海鳴の町から、あの小さなジュエルシードを目視で探すのは限界がある。

 一応、荒事になっても平気なように装備型の召喚体も基礎状態で持ってきている。ありふれたものを使っているため、ブランのように会話出来たりはしない。

 とは言え、俺自身が本当の荒事に対応できるレベルにはないため、もしもやばめな暴走体や発動体と遭遇してしまった場合は、高町なのはに任せることになる。

 で、せっかく合流したので二人と行動を共にし、話をしながら探索しているというわけだ。

 

「そういうものなのか。オレは分かりやすく覚えるのが煩雑にならない名前なら、何でもいいと思うが」

「むぅ。でも、技の名前を言うときにかっこ悪いと、恥ずかしくない?」

「そもそも技を使うときに名前を口にするという発想がおかしいと思うのはオレだけだろうか」

 

 「コマンド」を使うときは"命令文"を口にしなければならないオレが言うのもおかしいかもしれないが。もし出来ることなら、長文なしで発動できるような技術がよかった。出来なかった結果がこれである。

 長文を発するということは、それだけ時間的なロスが発生する。差し迫った状況で、それは命取りとなり得る欠点だ。だからオレの"能力"は、本来戦い向きではないと言っているのだ。そもそも想定していない。

 同じく技名を口にするというのは、敵対者に「これからこんな技を出しますよ、どうぞ避けてください」と言っているようなものだ。それを逆手に取ったブラフ、というなら話は別だが。

 ちなみに恭也氏は高町なのは側の意見だった。

 

「俺は自分の流派の技に誇りを持っている。技を口に出すというのは、自身を鼓舞するという意味もあるが、何より流派の証明をすることだと思ってるな」

 

 まあ、考えは人それぞれなのだろう。恭也氏の理屈が理解できないわけではないしな。

 

「うーん。なのはもミコトちゃんの"魔法"に名前を付けたいの。だから一度使ってるところを見てみたいな」

「オレの"魔法"は見世物のために作ったわけではないんだが」

「まあそう言うな。探索中の息抜きだと思って見せてくれ」

 

 息抜きに"能力"を使うという話なのだが、それはどうなんだろう。

 高町なのはは「結論を決めてしまう」と突っ走る人間だ。当然、オレが何を言っても聞きはしないだろう。こういうところが苦手なのだ。

 

「……そうだな。翠屋のシュークリーム三個おごり。これで手を打とう」

「うっ。ミコトちゃん、抜け目ないの……」

「自力で生活費を稼いでる身なんでな。逞しくもなる」

 

 どちらかと言うと、これは貸し借りのバランスを取る性分だろうけどな。

 

 高町なのはの了解を取り付け、人目の少ない神社の奥へ。巫女が一人いたが、彼女は異能調査の際に話を伺った人なので、特に気にすることはない。

 見せるのは……召喚体の復元でいいか。

 オレは左ポケットから一本の羽根を取り出す。元はその辺で拾った鳩の羽根だ。これを素体に、オレは最初の召喚体を作ったのだ。

 素体は鳩の羽根。基本概念は"風"。そして想像理念は、「道を切り拓くためのオレの手足」。

 「プリセット」から"こいつ"の情報を引き出し、同調させる。紡ぐは、復元のための"命令文"。

 

「『"風の召喚体"エール、その姿を顕現しろ』」

 

 瞬間、風が起こる。それは小さな渦を巻き、羽根を覆う。多量の羽根が舞い、風に乗って形を作り出す。

 それらは一繋ぎのエッジとなり、左手の中に収まった。その姿はまさに、羽根の剣。

 

「こいつがオレが戦うための召喚体……って、何をポカンとしている」

 

 紹介してやっているというのに、阿呆のような顔を晒す高町なのは。恭也氏の方はというと、ちょっと背筋が寒くなる眼光。考えていることが容易に想像できるんだが、オレは戦いは不得手だと言わなかっただろうか?

 

「……ふぇぇ、思ったよりもほんとに魔法だよぉ」

「ああ。なのはやユーノが使うものと違って、おとぎ話通りの魔法というイメージだ。よくもまあそこまで作り上げたものだ……」

「発想の大半はうちのクラスメイト達だし、そのイメージの通りになっているのかもしれないな。とりあえず、紹介させてもらうぞ」

 

 「エール」と声をかけると、柄の部分についた鳥の目を動かし、鳥のくちばしで挨拶をした。

 

『やあ、初めまして。ボクは"風の召喚体"エール。ミコトちゃんの初めての相手さ』

「しゃ、しゃべ……って、ええ!? は、初めてって!?」

「初めて作った召喚体という意味だ。悪戯好きなやつなんだ」

「……意匠は鳥のようだが、性格は妖精、といった感じだな」

『何せ、ボクは風だからね。女の子のスカートを揺らすのがボクの仕事さ』

 

 基本概念に"風"を使った弊害だろう。おしゃべりが過ぎるし、冗談が多すぎる。高町なのはは、エールの発言で顔を真っ赤にした。

 

「装備として使いやすいように剣の形をしているが、こいつは召喚体。剣そのものじゃない。だから、剣の心得がないオレでも使える」

『ボクを振るうって言うより、ミコトちゃんの意志に合わせてボクが動くって感じだね。あとは加速なんかの恩恵もあったりするよ』

「……いいなぁ。なのはもこんな魔法が良かったなぁ……」

「ない物ねだりをしても仕方ないぞ。それに、実際戦うとなったらそちらの魔法の方が圧倒的に有利だ」

 

 再三になるが、この"能力"は戦うためのものではない。戦いに流用されているだけであり、最適化はされていない。

 エールは速さこそ上がるが、それだけだ。剣の形をしていても、実際には剣ではないから、切れ味は市販の包丁と大差ない。エール自身も剣の心得があるわけじゃないから、技としても微妙だ。

 だから、これで対処できるのは弱い暴走体程度だ。一応「コマンド」を使うことで強力な現象を引き起こすことも可能だが、そもそも"命令文"に時間がかかるから論外だ。

 

「オレがこの"魔法"を作ったのは、はやての足を治すという目的のためだけだ。こんなのはただのおまけだよ」

『こんなのって酷いなぁ。それにしても、ミコトちゃんは相変わらずはやてちゃんのことが大好きだね。まあボクも好きだけどね、はやてちゃん。名付け親だし』

 

 ちなみにエールとブランの名付け親は、両方ともはやてだ。エールは「翼」を、ブランは「白」を、それぞれ意味するフランス語だ。

 オレだと単純に「羽根」とか「光」とかしか付けないからな。「あかんでぇ、ミコちゃん! それはあかんでぇ!」と言われてしまった。

 エールの言葉で、何故か高町なのはが落ち込んでしまった。感情の忙しい奴だ。

 

『……んん? んふふ。どうやらミコトちゃんは、また一人女の子を籠絡したみたいだね』

「どういう意味だ。オレは同性をたぶらかしたりする趣味はないぞ」

『無自覚だからいいんじゃあないか。その調子で頑張ってよ、ボクのマスター!』

 

 やかましいので、基礎状態に戻す。左手の中で一本の羽根に戻ったエールを、ポケットにしまった。

 さて、と。

 

「そろそろ復活しろ、高町なのは。この技術の名前を考えてくれるんじゃなかったのか?」

「……あ、そだったね。……ねえ、ミコトちゃん。ミコトちゃんは、わたしのことどう思ってる?」

「勘違い猪突猛進娘」

 

 「うっ」と彼女は呻いた。恨んでいるわけではないが、4年間も性別を勘違いされたという事実は少なからずショックだったのだ。

 別に女らしさとか気にしてないけど、性別というアイデンティティの根底にあるものを否定されると、さすがにちょっと落ち込む。

 

「……だが、それなりの器ではあると思っている。友情、という感情はいまだによく分かってないが、いつか対等に感じられる日が来るだろう。そう思っているよ」

「……そっか。今はそれで、いいかな?」

 

 軽く頭を振る高町なのは。何を迷っているのかは知らんが、オレの言葉が少しは力になったのなら幸いだ。

 

「うん! ……そうだ! ミコトちゃんの"魔法"、「フェアリーテール」ってどうかな。童話って意味の英語なんだけど」

「少々エールのイメージに引っ張られ過ぎな感があるな。まあ、そのアイデアは皆に伝えておこう」

 

 彼女は"魔法"の開発に参加していたわけではないが、もしこれがいい案だというのなら、それが通って然るべきだろう。

 と。帽子が取られ、ポンと俺の頭に手が置かれる。恭也氏だった。

 

「お前は本当に不思議な子だ。俺達が欲しい言葉を、的確に言ってくれる。……ありがとう、ミコト」

「どういたしまして。オレは思ったことを言っているだけなんだが」

「きっと、それが大事なんだ。お前がお前らしく成長したからだろう。妹じゃないのは残念だが……これでいいんだろう」

 

 そう言った恭也氏の目は、それでもやっぱり妹に向けるものだったと思う。

 ……まあ、別にいいけどさ。

 

 結局この日はジュエルシードを見つけられず、翠屋でシュークリームのお土産と、おまけでコーヒー豆を奢ってもらい、解散となった。

 

 

 

 

 

「うむむ……やっぱ高町家は油断ならんなぁ」

 

 捜索に使用した召喚体を回収し晩御飯のおかずとし(元が食材なので無駄にはしない)、今は入浴の時間。風呂上りには翠屋のコーヒー豆でコーヒーを入れて、シュークリームをいただこうと思っている。

 晩飯時に今日あった出来事をはやてとブランに話したが、それからはやては難しい顔で唸りだしてしまった。

 そして現在、頭を洗って流してやると、そんなことを言い出した。次ははやての体を洗いながら、話す。

 

「そうか? 戦闘中はどうか分からないが、日常においてはむしろ油断だらけだと思うが。シュークリームの戦利品も得られたことだしな」

「そういう意味やないねん。まだミコちゃんの高町家入り諦めてないんちゃうか、ってな」

 

 ああ、恭也氏の反応か。それはどうなんだろうな。たとえ彼がどう思っていようが、親御さんがどう考えるかは別の話だ。

 去年の初詣の件や、先日の翠屋での反応を考えると、オレが「八幡」であることに後悔らしいものはないように思えるが。

 

「そんなん、なのはちゃんがおねだりしたらコロっと掌返すかもしれんやろ。士郎さんも桃子さんも、なのはちゃんのことは猫かわいがりしとるらしいやん?」

「ああ……まあ、それはオレの責任もないわけではないのか」

 

 高町家入りを断る際の発言で、桃子氏は「今本当に必要なことは何なのか」に気付いたそうだ。オレが彼らに恨まれていないのは、そう言った事情からだ。

 その代わりというか、高町なのはは蝶よ花よと可愛がられて育った。少し前まで、彼女は両親と一緒に寝ていたそうだ。今は自室でスクライアと一緒らしいが(彼には動物用の籠が与えられている)

 彼女が大人物の器を順調に育てながらも、相応に子供らしい面を持っているのは、そういう環境によるものなのだろう。

 

「ミコちゃんの"魔法"に協力したわけやないのに、ちゃっかり名前提案しとるし。しかも結構ハイセンスやし」

「それはあまり関係ないんじゃないかと思わなくもないが、はやて的にはありなわけか」

「せやね。名前自体は、わたしの「グリモア」と並べてもいい出来やと思う。譲る気はあらへんけども」

 

 はやても御多分に漏れず、自分の考えた名前が一番であると主張する。しかして認めるだけの出来ではあるのか。これは、名前決めを自分の案以外の多数決にした場合、高町なのはの意見が通ってしまうかもしれない。

 今、この風呂場にはオレとはやて、そしてブランもいる。要するに現在の八神家勢揃いというわけだ。

 

「ブランもそう思うやろ?」

「え!? えっと、その、皆違って皆いいといいますか……む、難しいですよね!?」

「あかんでー、ブラン。それは逃げの言葉や。「ブラン」って名前もフランス語やし、大元もフランス語の方が統一感あってええやろ?」

「あ、あうぅ……ミコトちゃあん」

「おお、ちゃんと呼べるようになったな。特訓の成果があったというものだ」

 

 ブランには助け舟を出さず。とは言え、実際のところはやての説には一つ穴がある。広域調査用の召喚体の名前は日本語と英語の組み合わせであり、既に統一感がないのだ。オレが勝手に名前を決めたからだ。

 他の召喚体と違って、広域調査用の"兵団"は使い捨てのイメージが強く(毎回素体が違い、情報は共有していても使用のたびに作り直している)、凝った名前は適さなかったのだ。

 なので、別に"魔法"そのものをフランス語で統一する必然性はどこにもなく、分かれば何だっていいのである。但し田井中の案だけは除く。絶対許さない。絶対にだ。

 

「ひゃあ!? は、はやてちゃん何処を触ってるんですかぁ!?」

「やー。ブランはおっきいなぁ思ってな。わたしもミコちゃんも子供やから、するんぺたんやし。八神家におけるレアリティ高いでぇ」

「ひうん! そんなレアリティいりませぇん!」

 

 どうやらブランは真面目キャラかと思いきや弄られキャラだったようだ。反応が良すぎる。はやてもそれが楽しいのだろう、嬉々として色々やっている。

 ……何となし、自分の胸を見てみる。大平原である。

 ブランを見てみる。大山脈である。

 自分を見てみる。……大平原の小さな胸である。

 

「……オレには将来性あるから、気にしてないし」

 

 気にしてないけど、ブランを見る目がちょっと恨みがましくなった気がした。多分気のせいだ。

 とりあえず、オレもはやてに混ざってブランを弄ることにした。肉付きがよく、上質な柔らかさの体だった。きっと素体が最高級品だった恩恵だろう。

 

 

 

 その後、髪を乾かしてはやてがオレの髪の手入れをする。オレの髪は無駄に長いもんだから、自分で手入れするにはちょっと手に余る。はやてもオレの髪に触れるのは楽しいらしいので、お互いに都合がいいのだろう。

 代わりと言ってはなんだが、はやての髪はオレが手入れしている。最近もやしパワーのおかげか髪質が改善してきた気がする。やはりもやしは格が違った。

 なお、ブランの髪は特に手入れをする必要がない。まあ人の姿をしていても実際は召喚体だからな。肉体的な変容性は乏しいのだ。

 あとは風呂上りの楽しみをいただき、内職や宿題をやって、10時過ぎには就寝。歯磨きはしっかりしたぞ。

 ブランも起床時刻をセットしてスリープに入る。彼女だけは別室で眠ることになるが、オレもはやても、この時間は二人でいたいからな。致し方なし。

 はやてをベッドに運び、電気を消す。髪留めを外してベッドサイドテーブルに、既にはやてが置いていた分と重なるように置く。

 オレも布団にもぐりこみ、するとはやてが抱き着いてきた。

 

「えへへー。ミコちゃん、ええ匂いや。女の子の香りがするー」

「はやてもな。はやての体は、柔らかくて気持ちがいい」

 

 ギュッと彼女の体を抱きしめると、くすぐったそうに笑った。

 ……そういえば、今朝はタイミングが悪くて邪魔が入ったんだったっけ。

 

「はやて」

「なぁに、ミコちゃっ」

 

 言葉の途中ではやての唇を奪う。触れるだけの軽いキスだけど、今のオレにはこれで精一杯だ。既に顔の熱が大変なことになっている。きっと真っ赤になっているけど、暗くて分からないから助かった。

 

「その……おやすみのキス、だな」

「あはっ。可愛いミコちゃん。大好きやで」

「オレも……はやてのこと、大好き」

 

 恥ずかしさが勝って、蚊の泣くような囁きになってしまった。だけどそれはちゃんとはやてに届いていて、抱きしめる力に変わった。

 ――本当に、人は変われば変わるものだ。こんなオレが、はやてを好きになって、恥ずかしさを感じて、だけどやっぱり嬉しいとも感じられるようになるのだから。

 

「……おやすみ、はやて」

「うん。おやすみ、ミコちゃん……」

 

 腕の中に、体全体にはやての幸せな重みを感じて、オレの意識は睡眠の中に溶けた。

 

 

 

 そんな、幸せな一日の出来事だった。




百合(あれ)はいいものだ……。
あれから一年が経ってそれなりに感情豊かになってきたミコトちゃんでした(それでも同年代の子供に比べると薄いけど)
さりげなくあきらちゃんと大ゲンカしたことで何かが通じ合ってます。漢女の友情ッ!!(友情ではない)

ミコトの容姿は特に断定はしませんが、「けいおん」の秋山澪をちみっこくした感じとかイメージするといいかもしれません。
将来的に巨乳フラグも立ってるしね(背を伸ばすための牛乳……あっ)



ミコトの"魔法"



・「コマンド」(仮称)

別名が複数あり、「グリモア」「命霊」「チートコード」「命術」「心言」「フェアリーテール」と好き勝手に呼ばれている。大穴「ミコっち魔法」。
ミコトの原初の能力である「プリセット」を用いて、該当の事象を根本から「理解」することによって同期接続し、「言うことを聞かせる」、つまりは「命令する」技術。
「プリセット」ありきの技術であり、他の人間には使えない。これは、ミコトの理解が内側からであるのに対し、他の人間は外側の観測結果から理解しているという違いがあるため。
元となったのは日本古道陰陽術の五行思想、疑似生命をエミュレートする式神術、精神存在に直接作用する退魔術・霊術等。これらを基盤までバラして再構築することで、命令メソッドを確立している。
技術の行使には、まずミコトが「プリセット」から必要なデータを引き出し、次に対象と同調することで命令ルートを繋ぎ、最後に口頭で"命令文"を出力する必要がある。工程が多いため、即時の対応には向かない。
ミコト曰く、「ツールを作るためのツール」。目的達成のためには足りない部分が多いため、次のステップとして召喚体というものを考えた。
なお、各自の命名理由だが、
-「コマンド」(ミコト)と「チートコード」(亜久里)は事象への命令。違いは正規か改造か
-「グリモア」(はやて)は「プリセット」を魔法書と見立てている
-「命霊」(あきら)はミコト+言霊と命令のダブルミーニング
-「命術」(睦月)は単純にミコトしか扱えない術法であることと、本来の目的がはやての足を治すという命に関わる事象であることから
-「心言」(はるか)は精神で語りかける(ように見える)技術であることと、「真言」にかけている
-「フェアリーテール」(なのは)は童話のような"魔法"を扱えることから
である。「ミコっち魔法」(田井中)については、バカの発想なので割愛。



・「召喚体の作成」

ミコトが打った次の一手。「コマンド」を用いて事象を受肉させる技術。これにより「コマンド」の応用性が大幅に広がることになった。
召喚体は素体(能力値)+基本概念(性質、受肉させる事象の本体)+創造理念(存在理由)によって作成される。性格は組み合わせで決定されるらしいが、ミコトも詳しいことは把握できていない。
作られた召喚体は基本概念の性質に特化され、その分野において非常に強力な効果を発揮する。たとえば
-"風の召喚体"エールは風の性質を持ち、また気流の操作をノータイムで行うことが出来る。但し素体が安物であるため、力そのものは大きくない
-"光の召喚体"ブランは、現在こそ出来ることは少ないものの、学習さえすれば光を扱った事象ならどんなものでも引き起こすことが出来る。また、素体が最高級品であるため、力も非常に大きい
といったものがあげられる。これまでにミコトが作った召喚体は全3体(うち一つは群体)。
形状によって「装備型」と「自律行動型」の二種類に分かれる。エールは装備型、ブランと広域調査用の召喚体は自律行動型である。
このステップの目標は、はやての足が動かない原因を突き止めること。かなりの回り道になっているが、「プリセット」以外の能力を持たないミコトには不可欠なのである。

某変態もどきは、当然ながら原因を知っている。何も言わないのは、はやてのためにここまでしているミコトの想いを踏みにじってしまいそうで怖いから。
ミコトの性格を理解していないがためのすれ違いである。


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