不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!
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話の区切り的に分割更新という形にしました。


九話 月村邸 前編

 ジュエルシード探しに協力を始めて、早数日。これまでに集まったのは、元々スクライア陣営が持っていた4つに加え、ブランとなったもの、巨大樹騒ぎを起こしたものの2つ。

 ジュエルシードは全部で21個ということなので、これで残りは15個ということになる。オレが探して封印したものは、残り3つまでそのまま確保して構わないということなので、最低でも3つは探し当てたいところだ。

 もちろん、こちらの目的を達成したらさようならとは考えていない。それは筋が通らない。スクライアとの契約は「ジュエルシードの回収に協力する」なのだから。

 なので、オレも毎日広域探査用の召喚体「もやしアーミー」を駆使して調査を続けているのだが、中々見つかってくれない。

 オレが作る召喚体は、そもそも向こうが言うところの「魔力」を持たない。だから「ジュエルシードの魔力を感じ取って探す」という高効率なやり方が出来ない。

 加えて、もやしアーミーは誕生して数ヶ月の軍隊だ。まだまだ探査メソッドの確立が出来ておらず、効率の悪さに拍車をかけている。芸風ばかりが上達しているので、多分寄り道が多いのだろう。

 そんなわけで、まだまだジュエルシード探しは先が長そうだ。

 ……町の危険について? そんなことはオレの知ったところではない。自分の身の回りに関しては警護を付けているのだから、それ以上を気にする必要はないだろう。

 

 はてさて、今日は日曜日である。つまりは一日かけてジュエルシードの探索が行えるということなのだが、何故か休憩が入ってしまった。

 事の発端は高町なのはの友人であるというアリサ・バニングスの発言。オレは又聞きなので詳しい経緯は知らないが、「いい加減休養を入れろ」と怒られてしまったそうだ。

 で、せっかくなので皆で集まってお茶会でもしようということになって、その話がオレとはやて、ブランのところにまで届いたというわけだ。

 無論オレは必要ないと思ったのだが、はやてが「お茶会」という単語に強く反応してしまい、彼女が行きたいと言えば必然的にオレも行くことになり。

 

「……ふぁー。豪邸やわぁ」

「これは……凄いな」

「大きいですねぇ~」

 

 オレ達は今、月村邸の前に来ている。……で、合っているはずだ。これが個人の邸宅であるなどと、俄には信じがたいが。

 ――月村すずかとアリサ・バニングスの二人がお嬢様であるという話は、先日の顔合わせのときに聞いている。本物は初めて見たわけだが、そういう人種が存在することは知っていたので、別に驚くほどでもなかった。

 なかったのだが。……これは、オレ達が思っていた以上に本物のお嬢様なのではないだろうか。

 一言で言おう。これは家ではない。館だ。中世ヨーロッパの貴族の館に迷い込んでしまったかのような錯覚を受ける。

 左を見る。木々に隣接するように続く塀。右もまた同じ。パッと見て端が見えないほどに続いているのだ。

 そして眼前の門は、大人サイズであるブランの身長よりもはるかに高い。トラックとかバスとかがそのまま通れるような門だ。

 その奥には、広大な敷地面積を誇る3階建て洋館。……やはり時空が歪んでいるとしか思えない。資本経済の圧倒的偏りを感じざるを得ない。

 

「……ふ。日々の生活費を造花の内職で賄っているようなオレが、場違いにもほどがあるな」

 

 笑うしかない、とはこのことだろう。何の嫌味だろうか。いや、誰もそんなことは考えていないだろうが、どうしても惨めに感じるのだ。自分で稼いでる身としては。

 どうしてオレはお呼ばれしているのだろうか。ああ、向こうがオレの事情を知らないからか。高町なのはにも内職の話はしていないものな。自分で稼いでる、とは言ったが。

 

「帰っていいだろうか」

「だ、ダメやでミコちゃん! 今日はミコちゃんがメインでお呼ばれしとるんやから! むしろわたしが付き添いなんやから!」

「そ、そうですよミコトちゃん! 意思を強く持ってください!」

 

 踵を返そうとするオレを、はやてとブランの二人がかりで抑えてくる。ブランのマスターはオレだが、生活の時間ははやてとの方が長いため、彼女の意志を尊重する傾向にある。オレもそれを望んでいるわけだが。

 ……はあ。仕方ない、腹をくくるか。

 

「分かった。それじゃあインターホンを押すぞ」

「う、うん」

「ふぇぇ、何だかドキドキします……」

 

 最初の頃のクールな印象は何処へ行ったのやら、ブランはすっかり弄られ系小動物キャラが定着してしまった。変に固いよりは取っつきやすくていいが。

 荘重な門の勝手口の横にある、不釣合いに近代的なインターホンを押す。音は聞こえなかったが、赤のランプが押している間消灯したので、多分作動したのだろう。

 待つこと数秒。ブツッという回線がつながる音がして、平坦な女性の声が聞こえた。

 

『はい、月村邸でございます』

「月村すずかさんからお招きに与かった、八幡ミコトと申します。八神はやて、ブランとともに訪問致しました」

『ご丁寧にありがとうございます。今お迎えに上がりますので、そのまま少々お待ちください』

 

 もう一度ブツッと鳴って、今度は回線が切れる。使用人のレベルも高そうだ。成金ではない、本物のブルジョワジーの香りがする。……帰りたい。

 

「やっぱそうしてるときのミコちゃんってかっこええよなー。可愛くてかっこいい、まさに理想のお嫁さんや!」

「茶化さないでくれ。向こうの対応が丁寧だったから面倒がなかっただけだ」

「いいえ、ご立派でしたよ、ミコトちゃん。御謙遜なさらずに」

 

 たかがインターホンの対応で褒められても困る。ブランもすっかりはやて色に染まってしまって。

 と、勝手口が開き、怜悧な表情のメイドが現れた。……メイド、である。本物の。

 

「お待たせいたしました。私、月村家メイド長を務めております、ノエル・K・エーアリヒカイトと申します。皆さまをお茶会の会場までご案内致します。短い間ですが、よろしくお願い致します」

「改めて、八幡ミコトです。本日はお招きいただき、ありがとうございます。……ほら、はやても」

「ひぇ!? あ、そ、そうやな! ミコちゃ、じゃなくて、ミコトちゃんの同居人の八神はやてですっ!」

「あ、え、えと、八神家の家事手伝いのブランと申しますっ!」

 

 二人ともテンパりすぎである。気持ちは分からないでもないが。

 

「ありがとうございます。それではご案内致します」

 

 怜悧を崩し、柔らかく笑みを作るメイド……ノエル。完璧だ、完璧すぎる。月村家、完璧なブルジョワジーだ。

 改めて突き付けられた現実に、内心戦慄しながら、オレはノエルの後を着いて行った。少し遅れて、ブランに車椅子を押されたはやてが、慌てて着いてきた。

 

 からの、何だこれ。

 

「こら、ファリン! あなたまたやったの!?」

「あうぅ、お姉ちゃん!? ち、違うんです! これはガイ君がー!」

「……ふっ。我々の業界ではご褒美です、そんな風に考えていた時期が俺にもありましたがそんなことはなかったぜ。普通に熱い。痛い。ひやしてくださいしんでしまいます」

「ガイーッ!? なんて無茶をする奴なんだ、キミは!」

 

 ノエルによく似たファリンと呼ばれたメイドが、その場でうずくまっている。その横では、ほかほかと湯気を立てる紅茶まみれの藤原が倒れていた。スクライアが慌てた様子で魔法陣を展開している。

 向こうの方にいる少女達……高町なのは、及びバニングスと月村の三人は、呆れを通り越して冷凍視線を少年に注ぐ。物理的に冷気を持っているなら、それだけで火傷防止になるだろう。

 ……本当に、何だこれ。

 

 

 

 あの後はノエルが収集を付け、事なきを得た。どういうことか三人娘に聞いたところ、以下のような流れがあったそうだ。

 

1.ファリンが紅茶を運んできたとき、突然藤原が(スカートの中を覗こうとして)這いつくばる

2.驚いたファリンが紅茶を手放してスカートを抑える。当然紅茶は宙を舞う

3.藤原がその体勢のまま射出され(恐らくは魔法)、紅茶の着地点に滑り込む。スクライア曰く、「あんなアホなシールドの使い方する奴は初めてみた」だそうな

4.オレ達が到着する

 

 とりあえず、はっきりと言えることが一つだけある。

 

「お前は一度頭を病院で見てもらった方がいいな。行動原理に障害があるとしか思えない」

「ひっでぇ!? ファリンさんを悲しませない俺の男気なのに!?」

「そもそもの原因があんたでしょうが! どうしていきなりスカートの中を覗くって発想になるのよ!」

「あふれ出るリビドーを抑えきれませんでした! 反省も後悔もしてません!」

「人に迷惑かけてんだから反省ぐらいしなさいっ!!」

 

 何故かやりきった顔の藤原と対照的に、バニングスは怒り心頭の様子で息を荒げる。正直、部外者なので着いていけない。着いて行く気がないとも言うが。

 まあいい。二人は放置して、改めて集まった皆に挨拶をする。恭也氏はいないようだが、恋人だという月村の姉のところにいるそうだ。

 

「なんや、緊張してたけどアレ見たら一気に気が抜けたわ」

「そんなに構えなくてもよかったのに。お茶を飲んでお菓子を食べて、おしゃべりするだけの会なんだから」

「そうは言うても、こない大きなお屋敷なんて、見たこともなかったからなぁ」

 

 はやては月村と会話を始めた。何だか弾んでいるようだ。波長が合ったのかもしれない。

 ブランは、はやての横で月村との会話をニコニコしながら聞いている。

 ふむ。

 

「何というか、自由な友人達だな」

「あ、あはは。でも、ミコトちゃん達には負けると思うよ?」

「……客観的に見るとどっちもどっちかもしれないな」

 

 あいつらもあいつらで大概だからな。……もしかしたらオレの影響なのかもしれないが。

 

「……ごめんねミコトちゃん。せっかく来てくれたのに、早々にアレが迷惑かけて」

「オレは気にしていない。まあ、発端が「スカート覗き」ということに嫌悪感を覚えないでもないが、小学生らしくはあるんじゃないか?」

「そう、なのかなぁ。……でもやっぱりアレはないよ」

「そこに関しては同意だ」

「ふ、二人とも辛辣だね……」

 

 藤原の治療をしていたスクライアが、高町なのはの肩の上に戻ってきた。

 

「ということは、まさかスクライアは藤原の言動に一定の理解を示しているのか?」

「そうなの、ユーノ君?」

「え、いや、そういうわけじゃないよ!? ただ、その、同じ男として、立場が弱いことに同情するっていうかなんて言うか!」

 

 高町なのはの糾弾の視線を受けて、スクライアは慌てて弁解する。……そういえば、こいつらはこの女所帯の中にいる、数少ない男だったな。スクライアは男というか雄だが。

 そう考えてみたら、オレは学校でも女同士で行動していることがほとんどであることに気付いた。男達はオレを遠巻きに見ているだけ。別にそれでどうというわけでもないのだが……妙な危機感を感じた。

 

「ひょっとして……オレは男との交流の仕方を知らない?」

「え、そうなの? ミコトちゃんぐらい可愛かったら、学校の男の子とか放っておかなそうなのに」

「それな、なのはちゃん。ミコちゃんは可愛いんやけど、可愛すぎて男の子やと声かけれへんのよ。だから周りは女の子ばっかや」

「この間の5人だよね。ミコトちゃんの"魔法"作りにも協力してたっていう話だし、とても仲が良いんだね」

 

 月村は若干誤解しているようだが、別に訂正する必要はないだろう。そこまで深く彼女に関わる気はない。

 ……というか、アレじゃないか。あいつらと7人で行動することがほとんどだから、数の暴力で男が寄りづらくなってるだけなんじゃ。

 

「なら、俺の出番だな。何を隠そう、俺は男の中の男だッ!」

「こら、逃げ出してんじゃないわよ変態!」

 

 バニングスの説教から抜け出した藤原がやってきた。高町なのはが露骨に表情をしかめる。そんなに嫌いなら、どうして交友を保っているのだろうか。今日もこの場に呼んでいるし。オレだったら即座に切り捨てるが。

 

「んんーん、やぁっとミコトちゃんと会話するチャンスが巡ってきたぜ。この間から話したかったのに、周りの子達のガード固いんだもん」

「当たり前なの。キミみたいな変態がミコトちゃんに近づくなんて許されないの。だからどっか行って」

「連れないなぁなのはは。でもそういうところもミ・リ・キ!」

「キモイの」

 

 ふむ。どうにもこの少年のキャラクターが掴めない。高町なのはは嫌っていると言うが、その割にはどんなくだらないことにも必ず反応を返している。藤原の方も、どんな罵詈雑言も笑って受け止めている。

 この二人の関係性が、いまいち分からない。

 

「まあ、そう邪険にすることもないんじゃないか。もし本当にどうしようもない奴なら、そこから容赦なく投げ捨ててしまえばいい」

「おぉう過激……しかもマジだこれ」

 

 当たり前だ。オレはやると言ったらやる女だ。

 オレの発言を受けて、高町なのはも渋々ながら矛を収めた。一応協力者なのだから、衝突ばかりでは疲弊するぞ。

 

「藤原の言う通り、確かにオレ達がまともに会話をしたことはなかったな。最初のときはスクライアが主体だったし、翠屋の時は他の皆に封殺されていた」

「毎日の報告もなのは達任せにしちゃってるからねぇ。なんでミコトちゃんケータイ持ってねえの?」

「基本料金の無駄だからだ。贅沢は敵だ」

「ストイックだねぇ。俺にゃ真似できねえや」

 

 普通に会話が成立している。高町なのは達三人は、驚いたような、偽物でも見るような目で彼を見ている。

 

「……ねえ、ガイ。ひょっとして、あたしが蹴り過ぎておかしくなっちゃったの?」

「もしかしてさっきの紅茶で回路が正常に戻ったとか……」

「真面目なガイ君とか、コレジャナイ感がひどいの」

「優しさが痛ぇ!! キミら容赦ないよねぇ!? これなら変態って罵られてた方がマシなんですけど!?」

 

 ……ああ、なるほど。そういうことか。この少年の立ち位置が理解出来た。

 つまり、彼は。

 

「「道化」か」

 

 道化を、「演じている」。どういう理由があってそうしているのかは分からないが、自分自身がピエロとなって、場を賑やかすことに努めているのだ。

 そう考えると、全ての行動が小学生のノリとは思えなくなる。この少年は「分かってやっている」。どちらかといえば、大人の気遣いに近い質だ。

 だからこの少年を見直した、というわけではないが。認識を改め、「ただのアホ」から「何かあるアホ」に進化させたというだけ。

 オレの答えは合っていたのだろう。一瞬だけ頬がひくっと動いた。はやても見ていたはずだ。ブランは……まだそこまで洞察力はないか。

 

「何、深入りをするつもりはない。お前はお前の目的を持って行動すればいい。そこに他者が介在する余地はない。今まで通り、彼女達に罵られて楽しむ毎日を送るといい」

「……うぇっはー。ミコトちゃん、マジでキミ何者? 精神年齢が小学生と思えないんだけど」

「オレは昔からこうなんだ。これでも、はやてのおかげで少しは歳相応になったんだぞ」

「ふーん。……はやてちゃんの反応見るにほんとっぽいね。「天然もの」でこんなこともありえるんだなぁ」

「……あ、あの、ガイ君? さっきから何の話してるの? なのは、全然着いてけないんだけど……」

 

 おっと、この会話自体が彼の目的を邪魔することになってしまうな。それはいかん、干渉する気はないのだから。

 

「彼は君達から罵られることを至上の楽しみにしているそうだ。これからも存分に罵ってやるといい」

「へ、変態なのっ!?」

「蔑みの視線、あざっす! やっぱこうだよね! 涙が出ちゃう、不思議っ!」

「……ああびっくりした。ガイが別人になったかと思っちゃった。そうよね、変態は何処までも行っても変態よね」

「なんや、急になのはちゃんとアリサちゃんイキイキしだしたな」

「二人とも、何だかんだでこのノリに慣れちゃってるからね」

 

 そうだな。藤原凱の目的が何なのかは分からないが、彼女らにとって悪いものでもないのだろう。

 

「ふははは! もう何も怖くない! ミコトちゃん、はやてちゃん! そしてブランさん! あなた方にも、我がハーレムの一員となる栄光を与えよう!」

「『ごめんなさい、あなたのことは友達としてしか見れないの』『きっと私よりいい人が見つかるよ、応援するから頑張って』」

「ごっふぅぁ!?」

 

 どういう原理か、藤原凱が吐血して倒れた。ある程度は認めてやったが、誰がハーレムの一員だ。ふざけるな。

 

「み、ミコト……あんた容赦ないわね」

「ミコトちゃんの女の子言葉、何か背筋がゾワッて来たの……」

「これ、ほんと気色悪いんよ。やっぱミコちゃんは男言葉使ってないと違和感が酷いわ」

「あははは……ミコトちゃんは、そのままで十分可愛いですよ」

「み、皆! ユーノ君が流れ弾で大変なことに!」

「あばっばっばばんばばっばばっっっ!?!?」

「ゆ、ユーノくーーーん!?」

 

 ……阿鼻叫喚になってしまった。やり過ぎたっぽいな。

 

 

 

 しばらくの間スクライアは恐慌状態に陥り、復帰後もしばらく震えていた。藤原凱の吐血の原因は、急性のストレス性胃潰瘍だそうだ。現在治療中。

 いや、オレ自身女言葉が死ぬほど似合っていない自覚はあるが、さすがにそれは失礼じゃないかと言いたい。

 

「似合ってないっていうか……世界観が狂うっていうか、何かが捻じれた気がしたよ……」

 

 この畜生、また女言葉でしゃべるぞ。そう言ったら、スクライアはガタガタと震えて命乞いを始めた。

 ……もういい。どうせオレは普段からこのしゃべり方だから、気にする必要なんてないんだ。

 

「女の子やと気色悪いで済むけど、男の子やとこうなるんやなぁ。あきらちゃん達に教えたろ」

 

 気にする必要なんてないんだ、だからもう話題に出すのもやめよう。

 

「あはは……やっぱり、ミコトちゃんも女の子だね」

「どういう意味だ、月村」

「すずかでいいよ。んっと、女の子らしいことして似合わないって言われて、ちょっと落ち込んでるところとか。わたしは凄く可愛いと思うよ」

 

 名前呼びは遠慮するとして、そんなものなのか。ひょっとして、オレの周囲の人間がオレのことを「可愛い」と評価するのは、そういうことなのか?

 だが月村、落ち込んでるところを可愛いとか、そういう性癖を疑われる発言はどうなんだろうか。そう返すと、彼女は意味深に微笑んだ。……自覚ありか。

 

「すずかってお淑やかに見せかけて、意外と策略家なのよ。んで、何で名前で呼ばないの?」

「単なる距離感の問題だ。生憎と、昨日今日の関係で名前で呼ぶほど馴れ馴れしく出来る性格じゃない」

「わたしも名前で呼んでもらえるまで結構かかったでー。4ヶ月ぐらいやったかな。毎日ミコちゃんにアタックかけてようやくや」

「むー。わたしも「なのは」って呼んでもらいたいのに、全然なんだもん……」

 

 名前で呼ぶと、それだけ切り捨てにくくなるからな。はやてを切り捨てるなんてことは天地がひっくり返ってもありえないが、あきらはどうだろう。……あいつの場合は泥まみれになっても着いてきそうだな。

 オレにとって名前で呼ぶとは、それだけの意味があることなのだ。現にあの5人の中で名前で呼ぶのはあきらのみ。他は、必要があれば切り捨てられる関係でしかない。

 もちろんここにいるこいつらと比較したら、優先順位は上だ。それでも一定のラインには届いていない。

 

「ちなみに「こいつは見込みがあるぞ」って場合はフルネームで呼ばれるんや。せやから、今この場でミコちゃんに見込みありって思われてるのは、なのはちゃんとガイ君だけやな」

「……ええー。なんであの変態が見込みありで、あたしらがダメなの?」

「君達が彼の意図に気付けるようなら、見込みもあるんだろうがな。今の君らは、頭がいいだけの子供だよ」

「何よそれ、上から目線ってヤな感じ。……でも実際、あんたはあの変態の意図ってのが分かっちゃってるのよね」

「わたしはちょっと分かるけど……それじゃ足りないってことなんだよね」

「そうだな。君のそれは、まだ上辺だけだ。もう少し踏み込めれば、また違ったものが見えてくるんじゃないか?」

 

 そう言うと、月村は若干辛そうに顔をしかめて、顔を俯かせた。何やら事情があるのだろうが、やはりオレには興味がなかった。

 バニングスの方に至っては、恐らく今日まで藤原凱に何か考えがあるということにすら思い至っていないだろう。感情が先行しすぎて視野が狭すぎる、と言ったところだ。

 番外として、スクライアは頭が固すぎるので論外。彼とは依頼による関係性しかない。ジュエルシード集めが終われば、他人同士の関係に戻るだろう。

 ただ、彼はそれでいいと割り切っている節があるので、他の少年少女と並べるのは少し違う。故に番外という扱いになるわけだ。

 

「オレからの歩み寄りは期待するな。オレは今の交流関係で満足している。ヒントは、「君達がどうやってオレを動かすのか」だ」

「なんか、4年前にも同じことを言われた気がするの。あのときは何の話だったっけ……」

 

 高町なのはは具体的な内容は忘れているようだが、それが出来たからこうしてフルネームで呼んでいる。ただ、コレと決めたときの盲目っぷりが問題なのだ。

 ……あのときはまさか男だと思われてるとは思わなかったよなぁ。高町家に行ったとき、何か桃子氏が困惑してると思ったら、こういう裏があったとは。

 

「とはいえ、君達にとってオレとの関係性は必須ではないだろう。ここで切ってしまうというのも選択肢の一つだということを覚えておいてほしい」

 

 無理に交流をとっても、お互いにダメージしかないのだ。これは、はやてのおかげで多少丸くなったとは言え、今も変わらぬ考えだ。

 オレが提示した一つの選択肢に、月村とバニングスは表情を暗くした。……ふう。今日オレ達は何をしにきたんだったか。

 はやてが口を開く。が、それよりも早く、高町なのはがオレの右手を取った。

 

「なのはは、切らないよ。ミコトちゃんとの間に出来た繋がりを、4年かけてやっと見つけた繋がりを、切りたくない。だから……いつか名前で呼んでもらえるように、考えてみるよ」

「君がそうしたいと言うならそうするといい。それが答えだと思うよ」

「うんっ!」

 

 彼女は名前の通り、花が開いたように笑った。

 ……まあ、彼女に関しては、この答えも分かっていたようなものか。4年前も、同じだったのだから。変わらない、いや、確かに成長しているのだ。

 そして一人が動けば、残りも動けるのが人の心理なのか。

 

「全く、なのはってば。あたし達の気持ちを差し置いて動いちゃうんだから。そんなこと言われたら、あたしだって切るわけにはいかないじゃない」

「別に高町なのはに合わせる必要はないんじゃないのか。君の意志で判断すればいい」

「あたしの意志で切らないっつってんのよ。いいわ、その挑戦状、受け取ってやろうじゃない。あんたに「友達になってください」って言わせてやるんだから!」

 

 ふむ。何というか、バニングスはあきらに近い感じがするな。もうちょっと損得を考えて行動しているようなイメージはあるか。だが、方向性は近しい。

 あいつは、「一方的に友達だって言い続けてやる」と言った。バニングスは、「友達になりたいと言わせてやる」と言った。

 もしそれが出来るのなら……それもまた、楽しみだ。

 残った一人。月村はというと。

 

「……ダメだなぁ、わたし。ほんとどっちつかずで」

 

 自虐的に笑いながら、そうつぶやいた。そして顔を上げて。

 

「わたしは、ミコトちゃんみたいにはっきりと言える子に憧れてる。だから……わたしの打算で、交流を取らせてもらうね」

「そんな心配はせずとも、はっきり言えてるんじゃないか?」

「ううん、まだまだ。こんなもんじゃダメだよ。もっともっとはっきり言えないと」

 

 とにかく、二人ともオレに挑むということに決めたようだ。スクライアは話に参加していないところからして、やはり割り切っているのだろう。

 そんなオレ達の様子に、はやては苦笑と呆れたため息を一つ。

 

「名前呼び一つでこんだけ話のネタになるんやから、ミコちゃんってば難儀な子やで」

「それがミコトちゃんですから。はやてちゃんも、だからミコトちゃんのことが好きなんでしょう?」

「愚問やで、ブラン。わたしはミコちゃんの頭のてっぺんからつま先まで好きなんやからな」

「……この前から気になってたんだけど、言っていい? あんた達って、レz」

「言わせねえよ」

 

 そういう性的な関係じゃないんだよ、オレ達は。もっとこう、プラトニックな何かなんだよ(錯乱)

 

 

 

 藤原凱が復活し、ようやくというか、お茶会がスタート(再開?)した。お茶を飲んで菓子を食べ、楽しくおしゃべりをするための会だ。

 学校で何々があった。習い事で云々があった。今度何処か遊びに行こうか、何処に行きたい? 等々。

 彼らはオレ達とは通っている学校が違うため、色々と興味深い話も聞くことが出来た。噂の名門私立、聖祥大付属小学校だ。

 

「ふむ。話を聞く限りだと、やはり教育レベルに差があるな。とは言え、気安さの面で言うとうちの方が勝っていると思うが」

「そりゃそうでしょ、こっちは私立なんだから。入学した子達を一線で働ける人間にするのが役目なのよ」

「面白そうやけど、肩凝りそうやな。わたしらは海鳴二小のままでええわ、クラスメイトと恩師にも恵まれとるし」

「素敵そうな先生だね、石島先生って。ちょっと手が出るのが早い気もするけど」

「手が出るのが早いって表現、なんかエロいよね。そう思わないか、ユーノ」

「ごめん。僕は君が何を言いたいのかさっぱり分かりたくないよ、ガイ」

 

 男と雄は同性同士でそれなりに盛り上がっているようだ。まあ、こういう話って同性の方が盛り上がるものだよな。

 ちなみに石島教諭の男女平等パンチだが、実はオレも一回喰らっている。あきらと大ゲンカをしたあの時だ。あれは痛かった。

 オレ達7人の中でアレを喰らってないのは、伊藤と田中の二人だけだ。女子でこれなのだから、如何に問題児の集まりであるかが分かる。

 

「でもそっちの授業も面白そうなの。「研究・発表」だっけ」

「それな。うちの学校の名物カリキュラムらしいで。他の学校にない特色っていうので、地方新聞に取り上げられたこともあるんや」

「あ、それ知ってる。去年の海鳴タイムズだよね。もしかしたら、はやてちゃん達も写ってたりするかな?」

「何故知っているのか……。まあ、オレ達は載ってないと思うぞ。取材を受けたのは、去年の5・6年のはずだからな。オレ達はその時間は外でサッカーだったよ」

 

 そんな話をしていると、一匹のネコがオレの膝に飛び乗ってきた。そうそう、言い忘れていたが月村の屋敷はあちこちでネコが放し飼いになっている。

 月村姉妹が大のネコ好きらしく、あちこちから引き取っては世話をしているのだそうだ。そしてネコは束縛を嫌う動物なので、放し飼いのスタイルとなっているのだと。

 落ちないように抱えてやると、ネコ……三毛猫の子ネコは、オレの腹に頭を擦り付けてきた。

 

「あら。ミコトちゃん、その子に気に入られたみたいだね」

「そうなのか。動物との接触があまりない生活だから、こういうのはよく分からないな」

「動物は人間の怯えを感じ取るから、自信を持ってしっかりと抱けば暴れないわよ」

 

 なるほど。では失礼して。ネコの前足の両脇から抱え上げるが、確かに暴れることはしなかった。

 そのまま目線の高さまで上げ、ネコと正面から向き合う。人懐っこそうな目をしており、口には青い宝石をくわえている。

 

「よーしよし。いい子だ」

 

 テーブルの上におき、手を出すと宝石を掌の上に乗せてくれる。返礼として撫でてやると、ニャーと一鳴きして膝の上に降りてきた。

 ……うん。

 

 

 

「どうしてこの何でもないタイミングでジュエルシードが見つかるんだ、おい」

『…………ええええ!!?』

 

 皆から驚きの声が上がり、膝の上のネコがビクッと震えた。正直オレも驚いてる。今日はジュエルシード探しはお休みだったのに、棚ボタで見つかってしまった。

 ……とりあえず、荒事になる前にやることはやってしまうか。意識をスイッチし、「コマンド」(仮称)発動状態にする。

 

「『青い宝石よ、オレの声を聞け。今は安らぎの時。深く眠れ。心静かに、深く眠れ。暁の時は、まだ遠い』」

 

 ジュエルシードは少し輝き一瞬だけ鳴動し、すぐに沈静化が完了する。同時封印状態に陥り、シリアルナンバーが浮かび上がる。XIV……14か。

 

「探してるときは見つからないくせに、何でこういうときはあっけなく……」

「物欲センサーってやつだな。しっかしまあ……別にいいか」

「やっぱり、ミコトちゃんの「フェアリーテール」は凄く魔法っぽいの……」

「ちゃうでーなのはちゃん。「グリモア」や」

「ま、まだ名前決まってなかったんだ……」

「にしても、ほんとあっけないわね。この間は大騒ぎになったくせに。発動してなかったらこんなもんなの?」

「というか、発動していたらオレに手出しは出来んよ。スクライア、これはオレが回収してもいいか?」

「……ええ、そういう契約ですから。何か、釈然としませんけど」

 

 そう言うな。オレ自身肩すかしを喰らっているのだから。だが、面倒がないのは素晴らしいことじゃないか。

 同じジュエルシードから生まれたブランは、ニコニコしながらこう言った。

 

「これで、私の弟か妹が生まれるんですね。楽しみですっ」

 

 同胞ということもあり、喜ばしく感じているようだ。この短期間で、本当に柔らかい性格になったものだ。

 

「それも帰ってからの話だ。棚ボタでジュエルシードを手に入れたが、今日の目的はそうじゃないだろう。お茶会の続きを楽しもうじゃないか」

「あ、そうだね。ミコトちゃん、お替りいる?」

「いただこう」

 

 一仕事を終え、ネコを撫でながら、上質な紅茶の香りを楽しむ。色々あったが、こういう休日の過ごし方も悪くないかもしれない。……八神邸では無理だろうが。

 

 

 

 

 

 そう、穏やかなお茶会が続くと思っていた。

 

「――その宝石を、渡してください」

 

 オレ達のいるテラスに、そんな無粋な闖入者の声が響くまでは。

 

 全員が弾かれたようにそちらを向く。テラスの際、手すりの上。いつの間にか、そこに一人の少女が立っていた。

 金色の髪を二つに束ね、黒衣に身を包む赤目の少女。その手には、レイジングハートとよく似た機構の杖。

 推論の余地もない。明らかに、ジュエルシードを狙う魔導師だった。全員がそれを正しく理解していた。

 険を感じ取ったネコが、オレの膝から逃げ出していく。ゆっくりと立ち上がり、油断なく少女を見た。

 

「断ると言ったら?」

 

 視界の端で確認を取りながら、オレは拒絶の意志を言葉にした。少女の腕に力がこもるのを確かに見た。

 来る。そう確信した瞬間、少女は言葉を発し。

 

「……力ずくで奪います」

 

 爆発的な加速でこちらに飛び込んできた。オレに反応出来る速度ではない。

 そして少女は、いつの間にか展開した光の鎌を振りかぶり――

 

「!?」

 

 それは、オレの前に出現したシールド魔法で弾かれた。藤原凱、よくやった。

 その間にオレは、ジュエルシードを右手に持ち替え、ロングスカートの左ポケットから羽根を取り出す。万一のために持ち歩く癖を付けておいてよかった。

 意識をスイッチ。すぐさま、"命令文"を口にする。

 

「『"風の召喚体"エール、その姿を顕現しろ』」

 

 風が渦巻く。発動は一瞬の出来事。一瞬後には、オレの左手に収まる剣状の召喚体。

 

『何やらきな臭いね。注意してよ、ミコトちゃん』

「言われるまでもない」

「やはり魔導師……!」

 

 勘違いしてくれる少女を尻目に、オレは大きく後ろに飛んだ。エールの加速能力により、少女との間に大きな空間を作る。

 オレでは彼女に勝てない。今の一瞬の攻防で理解した。彼女は、「戦い慣れた魔導師」だ。故に、この場にいる戦力の協力が必要不可欠だ。

 

「高町なのは! いつまで呆けている!」

「あっ……! れ、レイジングハート!」

『All right.』

「あの子もっ!?」

 

 この場の最大戦力に喝を入れ、デバイスを起動させる。スクライアも今の攻防のうちに再起し、臨戦態勢を取っている。

 非戦闘要員は、ブランが退避させてくれたようだ。優秀な召喚体だ。そのまま守ってくれ。

 そしてこのタイミングで、勝利のための最後のピースがやってくる。

 

「今の音はっ!? ……敵襲か!」

 

 高町恭也氏。魔導師ではないが、近接においては追随を許さない御神の剣士。この場で最も必要な、前衛のアタッカー。

 これで、こちらの戦力は揃った。彼女の最大の失態は、藤原凱の魔法発動に気付かなかったこと。オレに離脱を許したことによって、こちらに十分な時間を与えてしまった。

 だというのに、少女は揺るがない。勝ち目云々はともかくとして、オレの手からジュエルシードを奪わんと狙いを定めている。

 オレは……心が冷たく、鉄のようになっていくのを感じた。まるで、はやてと出会う前のあの頃のように。

 

「そちらの目的は知らない。都合も知らない。興味もない。だが、これを奪うと宣言した以上、オレ達とお前は敵同士」

 

 機械的に、淡々と。

 

「どちらかが命を落とす覚悟をしろ。こちらは敵対者にかける情けはない」

 

 言葉の刃を突き付けた。

 

 

 

 これが、オレ達と黒衣の少女のファーストコンタクト――最悪の出会いだった。




(ほとんど人任せにするくせに何言ってんだこの女……)
狙われてるのはミコトの取り分だしま、多少はね?

ちょろっと出てますが、ミコトは普通にスカートはきます。この日は清楚なロングスカートだった模様。
口調と行動が男らしいだけで、普通に女の子なのです。服装も女の子です。但し女言葉を使うと男性陣はSAN値直葬(特殊な効果ではなく単純に似合わないため)


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