東京喰種 一緒の時間   作:煉音

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急襲と意外な一面

「ねぇ涼子」

 

 急に歩夢が話しかけてきた。今は授業中だからあまりこういうのはよろしくないのだが……どうしたのだろうか。

 

「ん?」

 

 歩夢の方を横目で見ると、歩夢は何か深刻そうな顔をしてた。普通の人だったならお腹でも壊したのかと思うけど、残念ながら歩夢は弱い体ではない。

 

「血の匂いだよ。校舎裏、焼却炉の近くに二つ。それと赫子の匂い……校舎裏、教室が少ないところに約8体と屋上の入り口付近のかげに15体くらい……」

 

 嘘でしょ……学校に喰種が攻めてきたことなんて一度もない。それよりも歩夢の嗅覚は本当にものすごい力を持っている。だからおそらく言っていることには何の間違いもない。だけどどうやって先生を説得しようか。横目に歩夢を見ると、さっきと同じようになんか苦しそうな顔をしてお腹を押さえていた。そうすればいいか。

 

「先生!歩夢がお腹が痛いみたいなので保健室に連れていきます!」

 

「ああーわかった」

 

 まさかの一発okだ。歩夢の肩を持って、教室をあとにした。教室を出た瞬間に走り出した。

 

「涼子は喰種対策担当の先生のところに行って、わざと屋上で騒ぎを大きくして学校の目につくようにするから!あとあのちっちゃいクインケ貸して!」

 

 幸い今いる階は私たちのクラス以外共同体育で空き部屋だ。聞かれることなくてよかった。ブレザーのポケットからクインケを取り出して、歩夢に投げて渡す。慣れたようにクルクルと回して右手に持ち、屋上に続く階段で別れた。

 

 一階に駆け下り、職員室まで急いだ。

 

 ガラッ!とものすごい音を立てるのもお構いなしにドアを開け叫んだ。

 

「学生捜査官の如月です!!屋上に喰種が出現しました!!対策担当の先生はいますぐ対応に当たってください!!」

 

 そう、学生捜査官として緊急事態の場合は職員室の先生らには指示を出すことも可能だ。要件は終わった私も1階の喰種の対応に当たらねば、素手でちょっと持ちこたえればいいか。

 

 そう考え踵を返した瞬間、1階の窓枠見える屋上でものすごい音とともに、大きな煙が立つのが見えた……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あとあのちっちゃいクインケ貸して!」

 

 涼子にそういうと、すぐブレザーから取り出して投げ渡してくれた。それを受け取り右手でクルクルと回して持つ。途中の階段で屋上と階下に別れ、私は屋上への階段を駆け上がった。学校の生徒を大量虐殺させるわけにはいかない。

 

 屋上の重たい扉を蹴り開けて、日が直射する屋上に出た。そこには赤いフードをかぶった喰種がたくさんいた。まぁさっき言った通り大体15体だ。

 

「何者だ?」

 

「喰種か?誰にも見られてないぞ」

 

「どっちでもいい。殺せ」

 

 夕さんが赤いフードの集団とか言ってたな。確かアオギリの木とか言ったか。まさか急に学校に攻めてくるとは思わなかったが、5区も制圧するつもりでいるならそうはいかない。

 

 一番手前にいた喰種が私に向ってきた。遅すぎて話にならない。普通にスッとよけ、涼子の匂いが職員室前につくのを待つ。あと角を曲がって直進すればつくだろう。先に一人やっておくか。

 

「おら!死ね!」

 

 さっきは素手だったのに、今度は甲赫の赫子で攻撃してきた。横に振られたそれをわざとクインケで受け止め、刃先を滑らして一気に距離をつめ、首を切りつけそのままの流れで赫子の出どころに刃を突き立て、グシャッと思いっきりえぐり赫包を傷つけた。

 

「グファ……」

 

 最初の喰種が倒れ、ピクピクと痙攣する。その姿を後ろ目に残りの敵と対峙する。

 

「次」

 

「怯むな!行け!」

 

 リーダーらしき喰種が指示する。だけど涼子の匂いが先に職員室に到着してしまったようだ。よし、こいつでいっか。

 

「やっぱりこっちが先」

 

 足元に転がる痙攣中の喰種を掴み、学校の壁に思いっきり投げつけた。喰種の体は意外と頑丈で、私がおそらく普通の人間を投げたら、空中分解をおこすかもしれない。投げられた喰種はそのまま壁に頭から突っ込み、壁の約全面をすべて木っ端みじんに吹っ飛ばした。大きな煙とともに他の喰種の動きが止まる。

 

「あちゃー……」

 

 と予想を超えて壁を破壊してしまった。いやいや私は心優しい女子高生だ。そんなことできない。そうだ、喰種が勝手に突っ込んだ。そうだなそうしよう。

 

「くっそまじかよ」

 

 喰種の数人がつぶやく。

 

「丸聞こえですが何か?」

 

 軽く言ってやると全員のキッとした視線がこちらを睨みつけた。生徒や先生の居場所は全員ここより1階以上下にある。ほとんどが動きまわっていることからもすでに学校中に知れ渡ったのだろう。問題は……涼子だ。

 

 涼子の匂いは1階にある。だけどそこは校舎裏で、喰種数体の匂いがあるところだ。確か涼子は今手ぶらだったっけ、私のこと待つつもりでいるのかな。とりあえず目の前のやつさっさと片づけて向かわないと、今の涼子じゃまずい。

 

 無言で左手の指で来いっと煽った。

 

 今度はほぼ全員で一斉にだ。角度的にもどの生徒にも見られない位置にいるのはラッキーだ。ちょっとだけ使うか。

 

「「「「!?」」」」

 

 服わざとバッと両手でシャツアウトし、4本展開した。それをそのまま一番手前の3体に突き刺し、もう1本で3体の首を跳ね飛ばした。相手から見れば一瞬の出来事だろう。だって遅すぎるんだもん。

 

「あら、ごめんね。手加減しすぎた」

 

 わざとらしくそう言って残りの5本も展開する。すべての矛先を正面に向け、相手の出方をうかがう。残り11体、そのうちの5体は一瞬後ろに後ずさりした。まぁ逃がしはしないが……。

 

「なんで九がこんなところにいんだよ」

 

「知るか!いいからやるんだ!」

 

 九って懐かしい名前だな。気づけばついてたCCGの捜査官が勝手につけた私の名前だ。だったら話が早い、下手にCCGの耳に止まるのも嫌だから一瞬で片づけちゃおっか。

 

「えへへーご明察通りですよぉー」

 

 そう言って左手の人差し指を親指で押し、パキッと小さく音を立て、喰種らの後ろに回り込んだ。完全にまだ私に背中を向けている時点で負けだ。はい、さよなら。

 

「あなたたちはここでゲームオーバーだよぉー!!」

 

 バッと9本合わせた赫子を横に薙ぎ払い、校舎の壁にすべての喰種を叩きつけた。こんなことすれば学校側がどのような推察をするかわからないな。まぁいいか。

 

 叩きつけた校舎の壁は血塗れになり、人間だったらすでに粉々になっている威力だ。でも喰種はそうはいかない。まだ1人だけだが生き残っている。微妙な瀕死状態だ。そいつの目の前まで歩いていき、真正面に立ってやると、今にも逝ってしまいそうな目で私を見上げてきた。

 

「あはははー残念、今日は履いてますよー」

 

 そう言ってスカートを軽く持ち上げてやる。そうだ。今日は体育があるからと思って、すでに履いている。

 

「わ……わらえねぇ……」

 

 そう言ってドサッと最後の1人も倒れた。涼子ならこいつらにも家族がどうとか言って結局うまく倒せないのだろうなと思う。私は過去に共食いで主に育ってきたからイマイチその辺の感情が消え失せてしまっているのだろうと思う。人間の感情の豊かさとかはだから興味深いのだ。

 

 それより涼子だ。現在校舎裏、対峙したか。さて行くか。

 

 そう考えて屋上を走った。そろそろ屋上にも先生らが到着する。飛び降りる瞬間は見られたらいけない。影からスッと行けば大丈夫だろう。

 

 カタカタと屋上に駆け上がってくる音が聞こえ始めた時点で、私はすでに宙を舞っていた。久しぶりだこの高さから降りるのは、どうやって着地しようか。さすがに喰種でもこの高さはちょっと足に響くものがあるな。赫子かな。周囲には……教室も大丈夫そうか。

 

 背中を地面に向けて、自慢の9本を展開する。そのまま地面に側面を寝かせる感じで9本とも私のベッドみたいに衝撃緩和のマットのような形に形成し、衝撃に備える。

 

 ドサッと小さな音を立てて着地した。やっぱり発想て大事だな思ったより衝撃がこなかった。今度からはこうしよう。ホッと小さな掛け声をあげて飛んで起き上がり、赫子をしまい、校舎裏へ走った。今は涼子と先生数人が対峙している。私が行って大丈夫かな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さすがに8体は分が悪いですねぇー」

 

 クインケを扱える先生は少ない。CCG捜査官だったわけではないが、非常時のためのクインケ指導を受けた先生だ。だけど普段喰種との戦闘なんて全く行わないせいで、その能力はせいぜい1体と長丁場を繰り広げる程度、しかも羽赫のクインケって……支給するもの間違えてるでしょ。

 

「相手は甲赫ですよ。羽赫以外にないんですか?」

 

 先生は微妙な苦笑いのまま、喰種からは目を離さずに言う。

 

「そう言われてもねぇ、CCGが何を考えてるかは私にはわからないけど、この機会に一回会議でも行ってみるかね。そう言えば君は一応捜査官だろ?クインケは?」

 

「あ、えーとそれは……」

 

 そう言って横に目をそらした瞬間だった。校舎の影からブワッと何かが飛び出してきた。空中で一回転して私の隣にサッと着地し「おまたせぇー」とか言ってきた。

 

「遅いよ歩夢……あぶなかったんだからね。おかげでスカートちょっと破れたし」

 

 その通り、スカートをちょっと切られて、間から私の太ももが見え隠れしていた。

 

「如月さん、その子はいったい?」

 

 先生が後ろから問いかけてきた。あ、なんて説明すればいいのかな。

 

「あ、自己紹介遅れました。私個人で喰種リサーチを行っております。如月歩夢と言いますよ」

 

「そ、そうなんですよ!いつも喰種特定のお手伝いをしてもらってます!」

 

「そ、そうか。とりあえず状況を何とかしよう」

 

 歩夢は急に真面目な感じでそう言って、先生をごまかし、正面に構えた。

 

「やれる?」

 

「さっき15体やってきた」

 

 小声で歩夢に問いかけるとやばい返答が帰ってきた。別れて間もなかったのにあの一瞬のうちに全部片づけたのか。とりあえず歩夢にクインケを返してもらい。考えた。

 

「先生、ここは私たちがやるので、残りの喰種がいないか探してきてください。これでも歩夢は喰種との戦闘訓練は上等なので……」

 

「だがしかし……」

 

 先生がそう言い始めたとき、歩夢が私からまたクインケを奪って一人で突っ走り始めた。言葉より先に動いて判断しろということらしい。

 

 歩夢はさっそくとばかりに手前の喰種に飛びかかって切り付けた。しかも反撃にふるわれた甲赫の赫子も微妙な合間で避け、さらに体を切り付けた。さらにとばかりに足首を切りあげ、相手のバランスを崩す。

 

「ね?大丈夫だから先生は退いてください。クインケに関する会議とかもあなたがいないとダメです。今は捜査官である私の命令を聞いてください」

 

 先生は微妙な顔をしながら「わかった」と言った。

 

「どうか死なないでくれよ!」

 

 そう言って先生は小走りに校舎に戻って行った。さて、あとは歩夢の判断にまかせよう。

 

「歩夢、いける?」

 

「おまかせぇー」

 

 歩夢はなぜか楽しそうにクインケを逆手に持ち変えてさらに喰種らの間に入っていく。あの調子なら大丈夫そうだ。それよりも思うことは赫眼じゃなくても、喰種を圧倒できる力を解放できていることに疑問を思った。いつも稽古の時は赫眼じゃないと人並みにしか力を使えないとか言ってるくせにつかえたんだ。ま、彼女なりの力段階の表現方法のひとつなのかもしれない。どちらにせよ、歩夢が強いことには何の変わりもないから、どちらでも構わないや。

 

「よっと」

 

 歩夢がピョンとはねてこちらに戻ってきた。間合いを見ているのだろうか。

 

「ちょっとさっきのやつらより連携がうまいね」

 

「そうなのか」

 

 ちょっとだけ苦戦したぽかった。それに今持ってるクインケは非常用だ。うまく使わないと1体倒すのにさえ苦労する。さて、歩夢はどう打開してくれるのかな。

 

「ちょうど周辺には誰もいないや。さて、ちょっと反則するね」

 

「なにごちゃごちゃ言ってんだ!!やれ!!」

 

 ザッと8体一気にかかってくる。それに歩夢はピクリともせず、ふんふんと前に足を進め、ふるわれる赫子をよけずに、素手で受け止め、足りない分は構わず体で受け止めた。

 

 歩夢に当たった赫子はまるで金属同士をぶつけ合ったときのように大きな音をたててその動きをとめた。あれ?あんな能力あったっけ?よく見ると切れた制服の間から微量の鱗みたいになった赫子を顔を覗かせ、手には手のひら全体にその赫子が出現していた。いつぞやに資料で読んだことがある喰種にいたような気がする。確か篠原特等らが生身で確保した喰種だけっかな。骸拾いっていう二つ名つきの喰種だった。

 

 でもその喰種は分厚い赫子でおおわれてたって写真もあったし、だけど歩夢のはどうだろう。なんていうか鱗赫の赫子の小さいのがたくさんびっしり出現してるように見えた。

 

 そして歩夢は軽いニコッと表情を作ると、「痛くないけど、倍返しです」と言い、自慢の赫子を展開し、一瞬で8体の喰種を全て薙ぎ払い飛ばした。攻守ともに最強なんて反則すぎる。

 

「ちょっとどころじゃないよね」

 

 軽くツッコミを入れておいた。喰種は全員薙ぎ払われた時点で赫子が霧散し、倒れた時にはすでに痙攣するだけのものとなっていた。あの薙ぎ払いにあそこまで威力があるとは知らなかった。てゆうかアレ人間が受けたらどうなるんだろう。

 

「細かいことは気にしなぁーい」

 

 えへへーと笑いながら歩夢は出していた服をインしていく、ある意味どこかにいそうな実は悪の優等生みたいだ。

 

「おい、大丈夫か!……てっまじかよ……」

 

 後ろの方から声がし、振り向けば先ほどの先生だった。歩夢はすでに普通の人となりかわってる。他にも数人人が来た。白い服を見るところからおそらく捜査官だ。思ったより早いな。

 

「もう喰種はいない?」

 

 歩夢に小声で尋ねた。歩夢は微妙な顔をしながら、小声でつぶやく。

 

「いるっちゃいるんだけど、おそらく監視者だと思う。屋上の方じゃ見られちゃったかな。でも向ってくる気配はないね」

 

 それならよかった。でも歩夢の存在が気づかれたらまずいかもしれない。早めに引っ越しでも計画しておこうかな。そんなんで済めばまだ楽なんだけど。

 

「学生捜査官だな?状況を教えてくれ」

 

 白い制服の男性が私に尋ねる。

 

「屋上と校舎裏、ここに喰種が現れたので、駆逐しました」

 

 簡潔に説明してやった。まぁ、倒したのは私じゃないけどね。

 

「そうか。わかった。調査は私が引き継ぐ、君は学校の指示通り、帰宅し学校からの通知があるまでは、自宅学習をするのだ。あと一応報告書はパソコンを経由して、支部に報告してくれ」

 

 男性から指示を聞き、それに頷いた。歩夢もふんふんと何度も頷いている。なんで歩夢が頷くのかは謎だが。

 

「ところで君は?」

 

「あ、えーと、私の家族で、喰種特定のお手伝いをしてもらってます!ちゃんと喰種対応プログラムは受けてもらってるので大丈夫ですよ!」

 

 ちょっと焦ってしまったが早口にそういうと、男性は「わかった」と言って、校舎に行ってしまった。とりあえず疑われなくて良かった。

 

「さ、帰ろ帰ろー」

 

 歩夢はさっそくとばかりに帰ろうとする。荷物を忘れてるじゃないか。

 

「待ちなさい。荷物取りに行くよ」

 

「おっとっと、そうだったそうだった」

 

 本当に、今日の歩夢はずっとテンションが高くてちょっと困る。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ほら涼子、あーん」

 

 教えてもいないのに、上手に箸を使って歩夢は私の目の前に一口サイズの唐揚げを持ってくる。午前中の授業中に喰種が襲来するというハプニングのせいで、全校生徒今日から数日間は臨時休養となったのだ。そしてそのときに歩夢に協力してもらい、喰種を倒したのだが、なぜか戦いの後から歩夢がおかしなほどテンションが高いのだ。

 

「い、いいよ……」

 

 そう言って歩夢からお箸を取り返そうとすると、歩夢は手を引っ込めて私からお箸を遠ざける。現在お昼ご飯の真っ最中だ。自分で作ったおいしくもない料理を食べているのだが、味もわからないくせに料理を手伝おうとしたり、私からお箸を取り上げて、あーんしようとしたりと非常に厄介なことになってる。

 

「むぅー」

 

 歩夢は軽くうなって、頬を膨らませると、私の手を取り、お箸の先の唐揚げを口元に押し付けてきた。でもあいにく私の手はもう一本ある。左手で歩夢の右手を捕まえようとすると、またスッと横によけられた。

 

「ほらぁ、食べて食べて!」

 

「もー……」

 

 仕方なく口を軽く開けると、歩夢は「はい、あーん」と言って唐揚げをいれてくれた。やっぱり自分で作った料理はそれほどおいしくない。それよりも歩夢のこのテンション、非常にうざい。

 

「なんでそんなにテンション高いのさ」

 

 歩夢はのんきに笑いながら、今度は小さく切った春巻きをつまみ、私の前に差し出す。

 

「興奮してるからかなぁ~、涼子に」

 

 変なことしか言わない歩夢を無視して、スッとお箸を取り上げた。春巻きをキャッチして口に放り込んだ。

 

「はいはい、そうですかー」

 

 正面に向きなおし、ご飯をよそったお茶碗を手に持つと、今度は歩夢の両手が横から伸びてきて、私の左の頬と右耳らへんに触れてきて、クイッと向かせられた。そして、目の前いっぱいに歩夢の顔が広がり、ピトッと触れてきた。鼻が軽くぶつかり、唇にやわらかい感触を感じ、さらに熱い歩夢の体温を感じた。

 

 チュッと小さく音をたてて歩夢が唇を離し、さっきと同じ位置に戻った。

 

「こんな感じに」

 

 一瞬のことに思考が追い付かなかった。キスされたんだ。

 

「え?ほんとに……?」

 

 顔が熱くなって、えへへーと微笑む歩夢に見とれる。

 

「あ、赤くなった!面白いね涼子は」

 

 やっぱりふざけてるだけかな。

 

「結局冗談なんでしょ?」

 

 歩夢は口元に人差し指を当て、軽く私を上目使いで見るようにすると、こんなことを言ってきた。

 

「私はいつだっていいんだよ?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、顔がさらに熱くなるのを感じる。いや、本当に好きなのは本当なのだが、さすがにこんなふうにちょっと誘われるとは全く思わなかったのだ。誘いに乗ってみるか。

 

「じゃ、じゃあ……」

 

「ていうのは冗談だけどね」

 

 見事に歩夢は勝ち誇った顔をして私の目の前でフンっと鼻息をならした。やられた。テンション高いうえに、私のことよく知っている目の前の少女的怪物は今や無敵だ。私が何言っても無駄に思えてしかない。あと完全にしりに敷かれてる。

 

「ま、好きなのは本当なんだけどねぇ」

 

 歩夢はまたえへへと微笑みそう言った。歩夢の顔もほのかに赤い。性的に興奮しているというのは嘘だったから、今赤くなっているのだろうか。本当に戦闘で興奮していたのだろう。

 

「寝ているときに粉チーズ振りかけてやろうか……」

 

 そう歩夢に返してまた小さな唐揚げをつまむのだった。

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