東京喰種 一緒の時間 作:煉音
どうかよろしくお願いします。
2015/12/04 1:47 誤字・脱字、一部表現修正
朝日と憂鬱
ーーー路地裏の新人捜査官襲撃事件より1年がたったある日。
チュンチュンというスズメの鳴き声が朝になったことを伝える。案の定、瞼を開ければカーテン越しに薄い太陽の光が漏れている。薄目の遮光カーテンだからカーテンに光が当たっているのはよく見える。
マンションの最上階ということもあり、日当たりがとてもよい。ベランダに出ればさぞ気持ちの良い風景を見ることができるだろう。
そう思いながら布団から体を起こし、ぐっと伸びをした。そのまま立ち上がり、ベランダの窓を開けると冷たい風がフッと体全体に直撃する。予想外だが、寒いとは感じない。もう慣れっこだ。
思った通り、ベランダからの風景はとてもきれいなものだ。毎日こんな風景を見れるのはもしかしたら学校中探しても私だけかもしれない。
「うにゅ・・・」
カーテンが開かないように開けたつもりが、風のせいで全開に開いてしまい、部屋の中に朝の明るい光が降り注ぐ、たまたまそこにいた同居人の寝顔にそれが直撃したようだ。
同居人はもがくように動いたあと、布団で顔を覆って防御態勢になった。そんな同居人は短い髪と丸い目が特徴の陽気な小柄な女の子だ。女の子とは言うものの、彼女の本性は人間を食らう化け物だ。もちろんその潜在された力は人間を遥かに超え、片手で自分の何十倍のものを持ち上げたり、握ったりすることができる。そのほかもろもろの身体能力も通常では考えられないものだ。だが、彼女は人間を食べることは非常に少なく、逆に人間との間で生活することを自身に課している。そんな小柄な少女の名は歩夢という。
「あーごめんごめん、すぐ閉めるよ」
気持ちよさそうに寝る顔が隠れてしまったことに謝りながら、私はベランダの窓とカーテンを閉めた。時計に目をやれば7時だ。今日はどちらにしろ休日だからだらだらとしていていいのだが、健康的な生活は早起き早寝が一番だ。
同居人を残して、リビングへ行く。嗅ぎなれたコーヒーのにおいが優しく私を包み込む。同居人がコーヒーしか飲まないのが原因なのだ。彼女のような種族の者はなぜか人間と同じものを食べることができず、栄養も人間の肉からしか取れないらしい。人間の飲み物のなかでもコーヒーはおいしく飲むことができるらしい。しかし、砂糖はとれないようで、いつも無糖だ。この間飲ませてもらったけど、結構苦い。
リビングのテーブルの上に大きめのノートパソコンが置いてある。私のような人間のために支給された情報端末機器だ。私がだれかって?歩夢のような喰種という種族を駆逐・排除するために結成された人間の公共機関CCGに属する人間だ。CCGは常に喰種を駆逐するために動く機関で、その規模は世界規模だ。世界中の喰種に人間が唯一対抗するために結成したもの。じゃあなぜ私が歩夢と同じ屋根の下に一緒にいるのか・・・まぁ・・・簡単に言えば、彼女は私の命の恩人なわけだ。
中学生の時に喰種によって私の両親は命を失われた。生活保護の元暗い顔で人生を歩んでいると、喰種対抗機関もといCCGからの推薦状で、学生として喰種捜査官にならないかというものをもらった。復讐したいわけじゃない。だけど、私のような人をなくすためにも正義としてこの仕事、捜査官になりたいと思ったのだ。あれは確か中学2年成りたての時で、中学3年の中盤までCCGの在り方や、体の構造、医療知識、喰種対抗武具の知識などの教科書を元に1年と半年勉強した。あまり賢くなった気はしないが、それでもほかの中学の生徒よりはそちらの知識に詳しくなった。それから高校1年の後半までは適応した身体強化・・・まぁほとんどCCGが設置したジムでのトレーニングを行った。筋肉はつきにくい体質らしく、それほど結果はでなかったが、身体強化期間が終わったあと、CCG学生捜査官試験で、筆記がほぼ満点の上位クラス卒業をした。だけど身体能力の面でそれほど結果がでず、上位クラス卒業の名目のもと、レベルの低い枠に収まってしまった。どちらにしろ、捜査官に慣れたことは喜ばしいことだ。ちなみに試験で落ちるという確率はほぼ0だ。試験を行う理由、それは一つ、普通に見極め方の一つとしてのもの。だから両方の科目で高得点の人間は上位のクラスにいれてもらえるというもの。ちなみにそのときの首席卒業の人は意外と近所の男の子だった気がするな。捜査官になったのはいいが、大人の人たちみたいに三等とかの肩書はもらえず、あくまで学生捜査官という形で収められる。それからは上司がついて、つい1年前の出来事に遭遇したのだ。目標のBレート喰種を追っている途中、SSレート級の又猫と呼ばれる喰種に遭遇したのだ。私はこの時の任務が初任務で、上司は私を逃がしたのち戦死、私も窮地に立つことになったのだが、そのときに未だに布団の中でぬくぬくとしている同居人に助けられたのだ。戦闘をじかに見たわけではないが、私が気を失っている間に彼女は又猫を撤退させ、私を病院まで運んでくれたのだ。しかも目が覚めた時に隣にいるという謎。親友だからって理由つければわからなくもないが、普通喰種捜査官の私に正体さらしといて、意識が戻ったあとも普通に付き合ってしまっているとは、これがばれたら私はどんな処罰を受けるのだろうか。どちらにしろ、彼女が来てくれなかったら私はここにはいない。命の代わりと言っては何だが、私は彼女の要望通り”いつも通り”の生活をしているというわけだ。ただ違うのは私と彼女の間にはもう隠し事もない。むろん、お互いの立ち位置もちゃんと理解しているということ。あとはなぜか現在一緒に暮らしてしまっているということ。それくらいだ。
私はテーブルのパソコンと隣に置いたプリンターを起動する。その間に小さい台所のコーヒーメーカーを起動し、コーヒーカップを置いておく。コーヒーが入るまで大体5分ほど、長いごと使っているせいか、少しずつ起動も遅くなってる気がしなくもない。その間に顔を洗って歯を磨くことにしよう。
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正面から朝日を浴びたせいで眠気がふっとんでしまった。布団に顔を埋めたのはいいが、一向に寝付けない。同居人のせいだ。あとで文句の一つでも言ってやろう。どちらにせよ、こうやってのそのそとしていても暇なだけだ。今日はもう起きよう。
布団から這い出て、襖で仕切られたリビングへ行った。コーヒーを作る機械がブブブと音を発しながらコーヒーを淹れている。小窓から差し込む朝日のおかげで明るい部屋のちょうど真ん中には起動途中のパソコンが置いてある。同居人の涼子のものだ。まだ1年無いって言ってたけど、1年前と比べてその辺の技術は格段に上がったらしく、そのパソコンの起動速度と今のパソコンの起動速度は20倍違うとか言ってた。
コーヒーが淹れ終わったらしく、機械の音が止んだ。コーヒーカップを手に取り、飲む。別に機械を通しているといえど、まずくはない。だけどもう少し濃いほうが私は好きかな。
トットットッと足音立てて涼子が洗面所から戻ってきた。パッチリと開いた目で私を見つめてくる。そんななか私は彼女が淹れたコーヒーを無言で見つめ返しながら飲む。ひたすらちびちびと飲み続ける。
「おはよ」
無言が続いたからこっちから口を開いた。
「おはよ・・・ところでさ、なんで私のコーヒー」
「まぁお気になさらず、今日は良い天気だねぇ~」
わざと遮ってまたコーヒーを飲む。
「もう・・・眠りを妨げのは謝るからさー」
別に怒ってはいない。ただそこにコーヒーがあっただけのことだ。
「今日はちょっと薄いね。あ、そうそうパソコンの方、メールが6件来てるよ」
涼子は視線をパソコンに向け、ゆっくりと歩いて椅子に腰かける。カチッカチッとマウスをクリックし、メールの内容をどうやら印刷するようだ。ヴーとプリンターが動き、紙を飲み込み始める。そんな作業中の涼子の隣に腰かけ、半分飲んだコーヒーを置いてやる。無言で手にとってコーヒーを飲む、一瞬眉間に少しだけしわが寄った。そう、彼女は純粋なコーヒーをそのまま飲まない。苦いとか言ってたかな。
数枚印刷された紙をプリンターからとり目を通す。どうやら20区の喰種の数人のレートが上げられる報告だった。レートっていうのは、喰種に対してCCGがつけるもの。まぁ戦闘能力のレベルだと思えばいい。私はAレートらしいけど、別に興味はない。涼子が言うには、そのレートは捜査官を殺した数とかによって変わるみたいだ。複雑な計算式を組まないといけないようなものだが、赫子の数や身体能力、赫子自体の大きさ、強さ、太さいろいろな観点から目測され、上のお方たちが決めるらしい。
「お?」
二枚目の資料の一番うえのタイトルに書いてあった内容に目が留まる。
「どうしたの?なにか面白いこと?」
「CCGもとんだへまやらかすんだね」
どうやらメールの内容も読まないでとりあえず印刷していたらしい。タイトルとおぼしき捜査報告には11区掃討作戦の結果が書かれていた。CCGの勝利に終わったようだが、これは陽動だったみたいで、主動部隊が23区にあるコクリアと言われる喰種収容所を襲撃したようだ。しかもそれによってSSレート級の喰種が逃亡したという。アオギリの樹という集団は非常に賢い集まりのようだ。だが陽動をつかまされるとはCCG・・・いつもの実力はどうしたのだろうか。
「コクリアが襲撃か・・・しかも脱走者とはね・・・まだ呼び出しがかからないレベルの捜査官である私といえどこれは警戒しないとまずいかな」
涼子は1年前にSSレートの喰種に襲われている。そのときは私が割って入ったからどうにか命まではとらせなかったけど、本当にあぶなかった。どちらにしろ私たちのいる5区には今は危険だ。警戒せよというような喰種はいない。SSレートで涼子を襲った又猫っていうあの喰種は新人捜査官狙いが激しいやつだった。だからそこに目を付けた特等の捜査官によっておびきだされ排除されたらしい。本当迂闊でバカなやつだ。
「なにビクビクしてんのよ。あたしがいるじゃん」
そうだ。CCGではAレートって言われてるか知らないけど、一応SSレートのあいつを撃退した私がいるなら安心していいはずだ。それに、ほとんど家族みたいな涼子を私は襲うつもりは毛頭ないし。この楽しい人間っぽい生活も涼子のおかげで成り立っているようなものだ。
1年前、気を失った涼子を抱いて病院まで連れて行ったあの日、病院のベッドの上で涼子はもっと強くなりたいって私に言った。稽古をつける代わりに私は彼女と同居し、今まで通りの生活をすることを条件として提示し、今に至る。稽古については喰種しか知らない秘密の地下通路で行う。喰種しかといったけど、涼子はもちろん知ってしまっている。どちらにせよ。一人であの通路をさまよえば彼女ならばきっと帰ってこれなくなるだろう。
「そうだよね。でも5区のアカデミーの場所がもし襲撃されたら捜査官も減るだろうね」
「防衛レベルが高いアカデミーを襲撃する物好きはいないと思うけどな」
5区には捜査官を育成するアカデミーというものがある。CCGの捜査官志望の子供たちを安い費用で教育する場所だ。もちろん、そこから別の進路に行くものもいるが、大抵は捜査官になるという。それもとても力のある捜査官になる可能性が非常に高い。
最近20区で活躍が見えていた亜門っていう捜査官もその一人だ。たまにアカデミーに顔を出しているのが見えるが、彼もかなり腕が立つ人らしい。
「まぁ涼子は今は大丈夫だよ。それで、今日は5区の支部には顔を出さないの?最近自分の班に顔を見せてないんでしょ?」
捜査官は上等と一等で区分がされる。上等捜査官というものは特等と准特等、上等と階級があり、一等と二等、そして三等は下位捜査官と呼ばれる。そのどちらにも属せずさらに下の階級があり、学生捜査官や特殊捜査官として分けられたり、局員捜査官というバックアップや事務をこなすものもいる。そしてCCGの中にはほとんど知られない上の人達が選抜して決める捜査官がいるらしい。その捜査官は単独で任務をこなすのに向いた者のみが選ばれる捜査官らしく、涼子は風の噂でそれを知ったらしく、どうにかしてその捜査官になりたいと言っていた。涼子は班の中でも下の部類にいるらしく、連携が非常に下手で、この間は後方支援の羽赫の人の攻撃に当たりかけて喰種にスキを与えたり、上司の攻撃を間違えて跳ね返して受け止めたこともあったって言ってた。だからあまり任務には同行させてもらえず、ほぼ二人一組の単独任務しかつかせてもらえないらしい。
「行ってもあまり話すことないし。どちらにしろ私は学生捜査官だからさ。学校教育を受けるうえで、違う観点から喰種の特定をしたりするのが仕事なんだよ・・・」
ちょっと語尾がぐらぐらと揺れるように返事を返してくれる。相当連携術のなさが精神に来ていたらしい。まぁそれも一つのステータスだから仕方ないと思うが・・・。
プリンターから最後の一枚の紙が出てきて、それを手に取って眺めてみる。
「涼子、どっちにしろ今日は出向かないといけないようだよ」
そういうと涼子は「はぁ」とため息をついてトボトボと私から紙を奪って目を通すのだった。
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「おはよーございます」
稲津班と書かれた掛け札の扉を開け、挨拶をした。ざっと10人の人間がそこには忙しそうに座ってパソコンを打ったり、本をめくっていた。私は学生捜査官のため、家がそのデスクみたいなものだから、ここに私の居場所はない。
トボトボと重い足取りで班長である稲津上等捜査官の席の前まで歩いて行った。
「稲津上等捜査官、私の新しいクインケができた報告をいただいたので来たのですが、どんなものなんでしょうか」
稲津は若い男の捜査官だ。まだしわの少ない顔が上がり、私の顔を見る。まっすぐな目は切実にキリッとしていて、少し有馬特等捜査官を思い浮かべてしまう。
「如月学生、君の新しいクインケだがね。尾赫の短剣のようなものらしい。接近戦は得意だったか?まぁ、見てみるといい。そこの机の上に置いてあるよ」
稲津はハッキリと伝えたいことを伝え、また視線を下に落とした。その視線には11区の報告書がある。彼も一応参加しているからあまり見なくてもわかる気がしたが、そんなことはどうでもいい。今はクインケを気にしたい気分だ。
稲津が指示した机の上に黄色っぽい装飾がされたアタッシュケースがあった。なんか有馬特等のようなケースで少し頬が上気する。開けてみたいが、ここで開けるとなにか言われそうだ。あとで歩夢と会ったときにでも開いてみようか。そういえば今日は歩夢との稽古が一日中ある日だった。これからまたあの地下に行かないといけないのか・・・。
「はぁ・・・」
小さくため息をつき、アタッシュケースをもって、トボトボと扉の前まで移動する。ぺこっと先輩捜査官たちに頭を下げ、部屋を後にしたのだった。