東京喰種 一緒の時間   作:煉音

5 / 12
まったく想像上の場所が出てきます。お気になさらず。

2015/12/06 11:08 一部表現・誤字脱字修正


遭遇と食事と戦闘

 日もすでに落ち、当たりは真っ暗だ。もちろん街頭の光もない。ここがどこかって?ここは16区の端にあるとある記念公園の中だ。とはいえ、ほとんど山みたいになった場所で、崖があるようなところだ。記念公園という名前の似合わないここは自殺のスポットだ。

 

「まーだぁー?」

 

 不機嫌そうに陽気な声が後ろから聞こえる。駅ですぐ近くだ。なんて言ったけどもう15分以上歩き続けている。アパートが多い道を抜けたと思えば次は未舗装の森みたいな場所を歩かされているせいかもしれない。それに電車で少しだけ血液は飲ませてあげたけど、その量も本当に微々たる量だ。その効果も何時間とは持たないだろう。

 

「あとちょっと」

 

「むぅ・・・」

 

 後ろ目に歩夢を見て答えてあげると、歩夢はちょっとうつむいていた。また彼女は彼女なりに我慢しているのだろう。早くお肉を見つけてあげないと可哀そうだ。

 

 それにしても・・・名目は違うとはいえ歩夢とキスすることになるとは全く思わなかった。あの電車の中で歩夢が顔を覆ってうつむいているのを見た時、我慢を延長させてあげられるように血を飲ませようと思ったのはよかったけど・・・指とか肌を切って舐めさせるのはあまりに不自然だから舌を噛もうと思ったのは自分でもビックリしている。でもさすがに好奇心とはいえ”続き”をしようとしたのはまずかったかな・・・。家に帰ったら問い詰められそうだ。どちらにせよ、歩夢との一つの思い出ができた気がしてちょっと嬉しい。やっぱり同居を始めてから少しずつだけど、私は歩夢のことを好きになってるのかもしれない。

 

 グーっと歩夢の方から音がする。振り返れば歩夢が困ったように笑っていた。電車の中でもちょっとだけ聞こえていたけど、それとは比べ物にならないくらい大きく鳴った。

 

「大丈夫だから、早くいこ」

 

 歩夢が気にするなと言う。とりあえず一刻も早く見つけないと。

 

 とは言ったものの、目的地はもう目の前なのだが。

 

 正面には凹凸のお目立つ高い崖が広がっている。背の高い木々に囲まれているから、崖の上から見ればきれいな緑色の絨毯が広がっているだろう。さて、あとは近くにお肉が転がっていたらいいだけだ。

 

「んぅ・・・ちょっと匂う。だけど・・・違う匂いもする」

 

 歩夢がさっそく小さい鼻をスンスンと言わせて答える。違う匂いか・・・一応学生捜査官用の仕込み型のクインケを持ってきたけど大丈夫かな。

 

「人?」

 

 一応歩夢に聞いてみる。

 

「いえ、喰種っぽい。目的は同じみたいね。ちょうど今食べ始めたみたい。左の方に2つのお肉と右に1つのお肉と喰種、右は先に取られたから左に行こ。たぶん涼子の匂いで気づくと思うけど私がいるから大丈夫だよ」

 

 歩夢が場所と危険性の説明をしてくれる。大丈夫そうならいいけど、2つか。今日は当たりかな。しばらくは歩夢も困ることがないだろう。歩夢は強い喰種だけど、私と暮らしてからは食べる量も格段に落ちている。今は腕の一本で2ヶ月は大丈夫とか言ってたけど、あくまでそれは平穏にのほほんとしていたらの話だ。私の血微量で15分も持てば結構持っているのかな。わからないな。私が無知なだけで実際は全然短いのかもしれない。

 

 歩夢が指をさす方向に歩みを変更する。崖の間近くまで来た。

 

 ちょっと崖から離れているけど白いシャツと黒いスーツが見えた。私はお肉って言うけど、文字に起こしてしまえば死体だ。もし公共の場で死体なんて単語を使っていたら怪しまれる。だからお肉っていう。

 

「やったー見つけたー。涼子すぐ済ませてくるから待ってて」

 

 歩夢がピョンと軽くはねて行ってしまった。私は極力見ないようにするために、ちょっと離れた位置で座って目をつぶっている。やっぱりどれだけ喰種を傷つけたりして血を見ても、人の内臓とか肉が音を立ててえぐられているようなところを見るのは堪える。

 

 そういえばこの場所に来るのは、上司の命令で調査をしたとき以来だった気がする。よく自殺者を狙って喰種が行き交いするということだ。そのときは空腹状態の喰種を一人殺害し終わったのだが、やっぱり歩夢みたいな喰種もたくさんいるのかな。もちろん問答無用で殺したんじゃない。そのときはたまたまお肉がなかったのだ。だから説得を試みたんだけど、もう精神的にもおかしい状態で会話にならなかったのだ。

 

「涼子ー、カバンもってきてー、あ、ごめんごめん。取りに行くよ」

 

 そういえば言ってなかったけど、私は今日カバンを背負っている。その中には防臭用の布っぽい袋が入っている。もちろん何をするかといえば、歩夢の食料の保存だ。歩夢は私が離れて座っている理由を思い出したのかすぐ小走りで近くまで来た。

 

 さっそく黒い肩掛けのカバンを歩夢に渡す。歩夢の口もとにはちょっとだけだが、赤い液体がついていた。これを見るたびに本当に食べているんだなといつも思う。でも不思議だが、いつもそれっぽい匂いは一緒に寝ていても、さっきキスしたときも感じない。どうゆう体の構造をしているのだろうか。いつも疑問に思うことばかりだ。

 

「ありがとー」

 

「いいえー」

 

 歩夢が嬉しそうにまた向こうに行ってしまう。中身は人を食らう化け物でもこうやって話をして可愛い笑顔を作れるのだ。正直歩夢がいなかったら喰種はただの人食いの歩く捕食機関としか思わなかっただろう。だから任務上、排除しろと言われている喰種がいても、まずはコミュニケーションを試みるように私は努めている。ほとんど失敗に終わって結局殺害かギリギリで逃がしてしまうのだが。

 

 そんな自分の今までの行いについて反省しながら、懐から小さいナイフ形のクインケを取り出す。15cmものさしくらいの長さのクインケだ。まだ登下校では一回も襲われたことがないから使ったことはないが、私に支給されたこのクインケは特別なものらしい。一つの赫子を10個に分割して作られたものだが、かの有馬特等にも支給されていたのと同じらしい。しかも話によれば、何個ものクインケを学生時代の戦闘で壊してきた有馬特等の戦闘の中で唯一壊れずに返却されたものらしい。なぜそんなものが私の手元に来たのかと聞けば抽選で当たった・・・だけらしい。まぁ良い噂のある武器なら良いにこしたことはない。

 

 そういえばこのクインケは普通のナイフと同じような形で、赫子みたいな独特の色をしていない。それに歯もずっと出たままでもう1年以上は持ち歩いている。こんな技術で殺傷能力を維持できるクインケが作れるなら、今のクインケにもそれを応用していちいち保存剤なんて使わないでいいようにすればいいのにと思う。

 

「涼子ー、ちょっと待ってて!もうちょっと向こうにもう一つあった!」

 

 歩夢が離れた位置から手を振ってそう言ってくる。やけにはしゃいでいるようだった。好みのお肉でもあったのだろうか。まぁどっちにしろ保存用のものは大いに越したことない。

 

「わかったー」

 

 歩夢がさっきよりも元気になってくれたことがちょっと嬉しかった。歩夢に了承の返事をし、立ち上がる。地べたに座ったせいでついた土を払い落とし、クインケをしまった。それで空を見上げる。まだ気温は寒くなるには早い時期だが、空には冬のように雲一つない。たくさんの星々がキラキラと輝いている。まるで歩夢が自身たっぷりに自慢話をしているときの瞳見たいだ。リンリンと輝く歩夢の瞳は初めて見た時はきれいだと漏らしてみてしまったくらいだ。たしか中学生のときだった。

 

「あら?こんな人気のないところで一人で何しているのかしら」

 

 歩夢との思い出を思い出していると、私と同じくらいの年頃を思わせる声が横の方から聞こえた。そちらに視線を向けると長めに伸ばされた黒い髪に赤い何かがついた眼鏡の女性がいた。身長も私よりちょっと高いくらいだ。よく見れば赤い何かはポタポタと下に落ちている・・・気がする。

 

「ちょっと付き添いでね。あの崖の上から大切なものを落としてしまったみたいなの」

 

 女性は眼鏡を手に取り、折り畳み上着のポケットに入れながら返事をする。

 

「そう。あなたここが自殺の名所って知ってる?」

 

 CCGの捜査官だから当たり前なのだが、別段身分をばらす意味もないだろう。

 

「ええ、それがどうかしました?」

 

 女性は何を思ったのか上着を脱ぐ、そして軽く畳み、足元に置き私を見据える。

 

「今日のこの時間は警察の巡回がないわ。つまり、自殺者の死体をあさりに来る者がよく来るのよ。だ・か・ら・・・一人でこんなところに突っ立っていると、喰種に会っちゃうぞ?」

 

 女性は口が裂けるかと思うくらい引き上げ、人間とは思えない笑顔を作る。それと同じくらいに見開かれた瞳は完全に喰種の赫眼へと変わった。さっき歩夢が言っていた喰種だろう。

 

「やっぱり来ちゃったか・・・」

 

「あら?気づいてたの?今日はマスクを忘れて殺そうか迷ってたけど、もう気づいてたのなら仕方ないわね。殺してあげる」

 

 女性はそういうと私に向って走り出す。まだ距離はある。ちょうどあけた場所にいてよかった。木々に囲まれていると面倒だ。とはいえ、非常用のクインケしかない。対処できるか・・・。対処する前に相手の赫子を判断しないと戦法が立てられない。羽赫と尾赫以外であってほしい。

 

「くくく、久しぶりに生きた娘が喰えるわね!」

 

 ある程度近くまで女性は走ると地面を思いっきり蹴って飛び上がった。そろそろ出るか?とりあえず、懐からさっきのクインケを取り出し左手に握り、構えた。

 

「あらら、捜査官だったのね。これはもう絶対殺さないとね!でもそれにしては小さい武器ね。そんなんじゃ一発で終わっちゃうじゃない」

 

 女性はそう言い空中で手を広げた。その瞬間背中あたりから細長い板状のちょっと厚めの赫子が右手を包み込むように展開された。間違いない甲赫だ。特徴は非常に硬く、重い。だから羽赫のような浅い攻撃を連続する赫子には非常に強い。

 

 女性は赫子を振り上げると、落下と同じく振り下ろしてきた。それは私の真上だ。どうにか飛びのいて横によけ、前転してすぐ立ち上がり相手のほうに向き直り構える。大きく土煙が立っていて相手が見えないが、おそらく相手も次の出方を見ているだろう。

 

「さっきの人間は素手で殺しちゃったけど、あなたはちょっとは楽しめそうね」

 

「できたら楽しむのは中断してほしいんだけど・・・私の連れが来ちゃうから」

 

 女性はくくくと笑うと、バッと赫子をふるい、土煙を吹き飛ばした。

 

「心配しなくても、あなたのあとをすぐ追わせてあげるわ」

 

 そういうと女性はまた走り出す。ちょっと後ろに下がりながらタイミングを見図る。結構間近まで迫ると、次は赫子を横にふるってくる。もう歩夢の稽古おかげでそれをかわすのは容易だ。その攻撃をしゃがんでよけ、クインケを突くように出した。ザシュッと良い感じの音が聞こえる。うまくお腹に刺さったのは確認できた。だけど・・・。

 

「あらら、痛い痛い」

 

「ッ!?」

 

 女性は棒読みし、空いた左手で私の首に手を伸ばしてきた。

 

 それを後ろに転がってよけ、また対峙する。女性は自分の刺された腹を左手で触りながら、口を開く。

 

「見た目よりやるわねぇ・・・それにしても変わった匂いがするのね。人間のくせに喰種の匂いがする。なんで?」

 

 歩夢の匂いが移ったのだろうか。どっちにしろさっき密着してから仕方ないかもしれない。それよりも匂いだけで喰種かどうかわかるのか・・・どんな匂いがするのだろうか。

 

「関係ないでしょ?私だって友好関係くらいあるんだから、たまたま喰種でその人の匂いがついただけとかじゃないの?」

 

「ふぅん・・・それにしてはさっきまで会っていたくらい濃い匂いなんだけどねぇ・・・そういえばさっき連れがいるって言ってたわね?」

 

「ええ」

 

 別に隠す理由はないが、変な噂をされてもしCCGの耳に止まったら調査をされかねない。どうにか黙っておく必要がある。

 

「ふふふ、きっと連れの子も喰種よ。落としものをしたといえど、こんな夜中にこなくてもいいし、それにあなたを一人にして一人でどこかへ行ってるって言ったらどうせ死体食べてるんでしょうね。あなたの連れは本当バカねぇ。喰種が人間の真似事なんて本当に笑える。だから後悔することになるのよ」

 

 女性はひとしきり笑うと、また私に突っ込んできた。同じ行動が多いのは嬉しいが、非常用のクインケでは攻撃力に乏しくて致命傷を与えられない。よけ続けてるだけではいつ発想を変えて違う攻撃をしてくるかわからない。

 

「くっ」

 

 さっきよりも早いスピードで攻撃が来た。まだ余裕はあるが、ギリギリでどうにかよけた。だが隙ができてしまったようで、女性の伸ばした左手に右腕を掴まれた。

 

「つっかまえーた」

 

 抵抗して女性にまたクインケを刺すが、もう痛いとも言わなくなってしまった。どんだけ刺されなれてるんだ!?

 

「かゆいかゆい」

 

 女性は赫子を霧散させ、解放された右手で私の服をはだけさせた。きれいに左肩だけ露出する。それを見て女性が軽く唇を舐めた。食べられる!?

 

「きれいな肌ね。赤い鮮血が似合いそうだわ。いい声で鳴いてよね?」

 

 赤い瞳が私を見つめ言う。まだ抵抗できる。クインケを顔目がけて突き出すと、今度は左手首を掴まれてしまって抑えられる。完全にまずい状態だ。早く来て歩夢・・・。

 

「あのぉ・・・私の非常食・・・」

 

 女性の後ろから陽気な声が少し落ち込んだ感情を交えて響いた。

 

 女性がビクッとなり、咄嗟に私を放り出して後ろを向く。

 

「きゃっ」

 

「そんな声出せたんだ。可愛いね涼子」

 

 やっぱりというか歩夢だった。というか私のこと非常食って・・・。

 

「!?」

 

 女性がさっきよりも一段と大きくビクッとし、私を通り越して思いっきり後ろに飛びのいた。さすが喰種の跳躍力だ。ひとっとびで30m以上後ろに飛びのいた。

 

「また会ったね。この間は・・・えーと・・・確か・・・3ヶ月前だっけ?うーん・・・どっちでもいいや。今度やったら本当に殺すって言ったから、宣言通り今日殺すよ」

 

 どうやら知り合いらしい。しかも歩夢に殺されかけていたようだ。そんな相手の匂いくらい覚えろよ・・・。

 

「歩夢・・・知り合い?」

 

 歩夢はうんと頷き口を開いた。

 

「うん、結構前だけど涼子が一人で調査しているときね。ひそかに狙って屋上で待ち構えているの見つけたから半殺しにしたの。もう狙わないって言うから逃がしたんだけど、見事に約束破ったから殺すの」

 

 女性は遠目から見てもわかるくらい緊張しているようだ。そら一度半殺しにされた相手に今度こそ殺すって言われてるのだからそれもそうだろう。

 

「ちょうどいいや、涼子、私の戦い方ちゃんと見といてね。真似は無理だと思うけど、命の取り合いっていうのはこうやるんだよ」

 

 歩夢はそういうと自慢の鱗赫を四本出した。でもいつもと形が違ってトゲトゲしい鱗に覆われた感じに見える。それと色がほんのり青い。それを女性に向ける。それに対して女性も甲赫の赫子を展開し、迎撃態勢になった。

 

 そういえば甲赫と鱗赫じゃ鱗赫のほうが優勢らしい。なぜかといえばもともと鱗赫の攻撃は強力で、甲赫は防御特化してるため重い。だから鱗赫の強力な攻撃により、簡単にバランスが崩されたり、鱗赫自体の一撃でその防御を貫かれたりするらしい。あと教科書とかによると、羽赫は甲赫の、甲赫は鱗赫の、鱗赫は尾赫の、尾赫は羽赫の攻撃を受けると、通常よりもその傷は治癒が遅くなるらしい。私がクインケを突きさしたときは、おそらくもともとの攻撃力が影響でほとんどダメージを受けなかったようだ。

 

「さて行くよ。私の非常食取ろうとした罰だ。今日はこの子のお勉強のために死んでね」

 

”パキッ”

 

 そう言い終わった直後、また歩夢は右手の人差し指を親指で押して音をだした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 意味が分からないわ!たまたま近くに生きた人間の匂いがして、頃合いだなっと思いながら襲ったら捜査官で他の喰種の匂いがするし!しかもその喰種があいつだなんて!

 

 私の方が年齢は上のはずなのに、この子なに!?なんであったときからあんなに強いうえに、今もさらに強くなってるの!?もう意味わからなさすぎる。とりあえず隙を見て逃げないとまずい。

 

 四つまとめて巨大化させた赫子が横からものすごい勢いで迫ってくる。こんな攻撃受け止めたら一発で吹き飛ばされてしまう。どっちにしろ相手は鱗赫の喰種だ。攻撃を受けることが一番まずい。

 

 ほぼぎりぎりで上にジャンプしほぼ一発ダウンを狙う薙ぎ払いをよけ、また距離を離す。あの鱗赫の娘今まで会ってきたやつのなかで一番戦闘慣れしている。最近噂の羽赫の喰種もこんなやつばっかりなのか。しかしなぜこんな鈍く遅い攻撃をしてくるんだ。前は本当に一瞬で半殺しにされたけど・・・なぜ・・・さっき言っていたお勉強のためってそういうことか。あの娘、人間の娘、それもCCGの学生捜査官を教育しているのか・・・どこまで反則すれば気が済むのよ・・・もう・・・。

 

 着地したのを狙ってか赫子の一本が攻撃をかましてくる。それをこちらの赫子で受け流し、攻撃の瞬間を狙う。だけどすぐ逆方向から往復ビンタでもするかのうように、また攻撃を繰り出してくる。

 

「ッ!?」

 

 その薙ぎ払いの攻撃を次はもろに食らってしまった。左の横腹が痛む。体の中だけなら骨と内臓が少しいっただろう。体を起こすと目の前に足が・・・。

 

「くっ!?」

 

 咄嗟に後ろに飛びのく、私の倒れていた位置にはすでに四本の鱗赫が刺々しく鱗を立てながら地面をえぐるように突き立っていた。やばかった。

 

「ありゃりゃ、あと1秒だったのに」

 

 へらへらと陽気に笑いながらものすごいことを言ってくる。

 

「あー・・・くっそ・・・トラウマになりそう」

 

 痛みが引くのを感じながら、相手からは目を離さない。

 

「人が喰種に食べられる瞬間は一番その人にとってはトラウマだろうけどね」

 

 さっきとはうってかわってなにかを悟ったみたいな顔しやがって、なんでこんなにコロコロと・・・むかつく。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 ゆっくりと後ずさりをする。もうこれ以上やりあっても無理だとわかる。相手に少しでも攻撃を加えることは無理そうだ。それにたぶんあの娘はまだやる気じゃない。まだまだ限界が先にあるようなやつと戦える気がしない。それにあいつこの間は九本赫子なかったっけ?

 

「逃げるの?まぁ逃がさないけど」

 

 娘は私の行動を見て歩を進め始める。

 

「歩夢!ちょっとやりすぎな気がするんだけど!」

 

 さっき私が襲った娘が目の前の狂気的な娘に声をかける。そうだどうにか抑えてくれ!

 

「でもこいつ涼子を襲ったんだよ?しかも私の目の前で食べようとしてたし。いや目の前じゃなかったらいいよってわけじゃないけど・・・」

 

 娘が私から視線をはずして返事をする。今しかない。

 

「あ!」

 

 だっと私は後ろに走り出す。ちゃんと後ろにも気を配りながら・・・まっすぐ鱗赫の赫子が突いてこないかは一番心配だ。

 

 だが、なぜか追ってはこなかった。うまく逃げられたようだ。

 

 結構走った。街頭のある道まで来た。ここなら人も何人か通ってるのが見えるし大丈夫だろう。すでに赫子はしまった。せっかく食べたのに運動してしまった。明日にでもまた食べに行こう。

 

 とりあえず自分の住処に帰るのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あ!」

 

 私が一瞬目を離した隙にあいつは逃げ出してしまった。

 

「こら!待て!」

 

 追おうとした瞬間後ろから涼子に飛びつかれ行かせてもらえなかった。

 

「もう・・・あいつ涼子のこと食べようとしたんだよ?」

 

 復讐ってわけじゃないけど、涼子のことを食べようとした喰種だ。許せないし、涼子への脅威はできるだけ少ないほうがいい。それに私が涼子のことをかばうことをあいつは知ってしまった。どこかに噂みたいに流されないといいが・・・。

 

「歩夢駄目だよ。ちょっとやりすぎだし、もう言ってることがすごくひどい」

 

 涼子に指摘される。確かにやりすぎかもしれないけど、命とれるよりはいいと思う気がする。まぁ私もあいつの命とるきでやってたんだけど。

 

「ごめん。もう追わないから許して?」

 

「うん。許す」

 

 涼子が私から離れ、それと同時に私も出しっぱなしだった赫子を霧散させる。

 

「それで歩夢、お肉はどうだった?どのくらい持ちそう?」

 

 お肉は全部で3つあった。そのうち1つは食べてしまったけど、残りの2つはバラバラにして袋にいれてバックにいれた。2つもあればほぼ8ヶ月程度は大丈夫だろう。

 

「8ヶ月くらいかな」

 

「そっか。まぁとりあえず見つかってよかった」

 

 涼子はそういうと何かを思い出したようにまた疑問顔になった。

 

「歩夢って指を鳴らす癖あるよね?あれどこで知ったの?なんかいつも戦う直前とか鳴らすから気になってさ」

 

 指を鳴らす癖、涼子はこの間真似してたけど、あまりならなかった。確か半年ほど前に白髪のがたいの大きい男がやっているのを見てからちょっとやってみたくなってやってみたらできたってやつだ。しかも意外と威嚇っぽく使えて楽しいのだ。

 

「えとね。半年くらい前に白髪の男の人がやっているのを見て、真似したらできたから、癖でやっちゃうようになった」

 

 簡潔に述べてやった。涼子は「そうなんだ」とか納得してくれた。

 

「ねぇ歩夢、そろそろ帰ろっか。私もちょっとお腹が空いてきちゃった」

 

 涼子は照れるようにそういうと、私に了解を求めるように見つめてきた。まぁ、否定するつもりはないけど。

 

「わかった」

 

 そう返して、来た方向とは逆の方向に踵を返した。隣に涼子が小走りでついてきて、いきなり右腕に抱き着いて、おまけに左手の指を絡めて握ってきた。ビックリして涼子を見れば、目だけでこっちを見つめてきてた。だから目が合ってしまって、無言でいても何も言わないから仕方ないので私も握り返してやるのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。