東京喰種 一緒の時間 作:煉音
「如月学生捜査官は次の任務に当たってくれ」
そう言って稲津准特等捜査官は私に資料を渡す。見てみれば最近周辺で捕食を行った喰種の特定任務だった。CCGの一つに入班してからというもの、喰種を特定する任務ばっかりしている気がする。確かに、連携術にかけるとはいえ、ここまで班の中で孤立した気分になると、なんだかやる気がそがれてしまう。どちらにしろ自分は学生捜査官だから仕方がないかもしれないが・・・。
「わかりました」
軽く応じ了承する。まぁどっちらにしろ私はこの中でしか行動ができない。下手に前に出て死なれても困るということだろう。自身過剰かもしれないけど、そう思わないとやってられない。
「では当たってくれ。何かあったらまた来るといい」
「ありがとうございます」
礼を言い、部屋から去ろうとくるっとその場で回転すると、目の前に私よりちょっと高めの身長の男性がいた。稲津准特等に用だろうか。
とりあえず軽く頭を下げ会釈し、隣によけてドアの前までくる。
「稲津准特等、ちょいといいですか?学生捜査官の件で」
「ああ」
この稲津班には私しかいない。また転班するのだろうか。連携がうまくできない私は、ほかの特定任務でさえも長期間となってしまう。どうしてこうもうまくいかないだろうか。捜査官を辞めさせられることはなくても、ここまで転々として班を行きまわっているといつバックアップ用の駒に成り下がってしまうかわからない。ちゃんとせねば・・・。
もう班長同士のあの会話も聞きなれた。もうどうなるかわかっている。さっさと今の任務をこなしてしまおう。
どう思って部屋を出たのだった。
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スンスンと軽く鼻を動かして周囲の状況を確認する。例え涼子の家にいるとしても油断はしすぎてはならない。確かに喰種としての私が見つかる可能性はほぼ0に等しいかもしれないけど、いつばれるかわからない。
アパートの下のほうに涼子の匂いを感じる。エレベーターに乗るようだ。このアパートの2階と4階には喰種が一人ずつ住んでいる。2階の喰種は意外と気が合うやつだった。4階の喰種はちょっと敵対してくるからよくわからないでいる。
もし涼子に近づこうとすればすぐにでも駆けつけてやるつもりだ。
「それにしても・・・」
涼子の足取りはいつもより遥かに遅い。何か考え事をしているのだろうか。パッとエレベーターに乗り、パッと出てきてすぐに玄関を叩く涼子が、エレベータに乗るのさえも時間をかけている。きっとCCG内部で何かがあったのだろう。帰ってきたらゆっくり聞いて慰めてあげよう。
そろそろ階に到着するだろう。部屋の前まで来たら開けてあげよう。そう思いソファから立ち上がって玄関まで歩いていく、大体こういう状態があるときは、失敗をしたか、喧嘩をしたか、班の移動になったかのときしかない。
いつもより小さい足音を立てながらゆっくりと涼子がエレベーターから降りてくる。エレベーターを降りたくらいになると、軽く気配だけでもわかる。本当に遅い足取り。しかも下を向いているらしい。そんな状態のまま涼子は部屋の前で立ち止まった。
さっそくとばかりにドアを開けて涼子を迎えた。
「おかえり!」
感じ取っていた通り、涼子はちょっとうつむいていた。
「あ、うん。ただいま」
「何かあったんだね。聞かせて」
涼子はちょっと上目遣いに私を見ながら「わかった」と言ってくれた。とりあえず立ち話もないから家に入った。
涼子は私がソファに座ると隣に座ってきた。なんか最近やってるドラマの失恋シーンみたいだ。
「あのね。また転班すると思う。今日来た上等捜査官っぽい男の人が例の学生捜査官の件でって班長に話をしてたから・・・」
まぁ前と同じ感じだ。転班するのは仕方ないし。もしCCGの捜査官を辞めさせられるようなことがあっても、私と涼子が学校生活の合間にアルバイトでもすれば生計は立てられるだろう。今のところ涼子の手元に入るお給料だけで、私のぶんも生活費用がまかなわれているのだ。
「私は気にしないよ。涼子の隣でこうやってお話しができるくらいなら我慢できる。いざとなれば私だって働くことはできるんだよ?」
涼子は困ったような笑顔で「ありがと」と言ってくれた。今にも泣きそうな瞳だ。人の感情の多さは私にはよくわからないけど、涼子との生活の中でなんとなくこんなときどうすればいいかわかる。
「ん」
無言で涼子に両腕を広げて見つめてやる。すると涼子は一瞬だけ「へ?」という顔をしたが、すぐに笑顔に戻って私の胸に顔をうずめてきた。それを私もギュッと抱きしめてあげる。同じくらいの身長のくせにちょっと強がりな涼子は普段学校では不愛想な顔をする。初めて会ったときもちょっと上から目線でなんだこいつって思ってたけど、付き合っていくうちに涼子の弱みが分かって、それを知る自分は特別だ。とか勝手に思いながら今までずっとこうして付き合ってきたのだ。本当は寂しがりやな涼子は見ていて可愛いところが本当に多い。
「かわいいやつ」
小さくつぶやいて涼子をもう少し強く抱きしめた。
「ありがと」
涼子も小さくそう言って私を受け入れてくれる。やっぱり素直な涼子は本当に好きだ。
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目が覚めると涼子がいなかった。結局お互い抱きしめながらソファに寝転んで寝てしまったのだが、今頃目が覚めたのだ。まだ日が少し斜めになったころ合いだから15時くらいだろうか。
「ふぅ・・・」
ソファに座り直し、周囲を確認する。涼子の気配がしないから出かけてしまったのだろうけど、出かけるなら起こしてくれてもいいのに・・・。
まぁどっちにしろ涼子が帰ってくるまでには全然時間があるだろう。たまにはちょっと出かけるのもいいかな。マスク屋に行って、マスクでも作ってもらおうかな。この間のマスクがちょっと破損してダメになってしまったから、もしものためにもう1個作っておかないと・・・それから4区をブラブラして・・・帰ろっと。
さっそく服を着替え、どこにでもいる普通の女子高生っぽい服装にする。最近の女子高生の間では大人っぽい服装がはやりらしい。わざと緩めの服を選んだ。スカートは長めにゆったりとしたもの。さて、行くか。
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この辺か。捜査資料に書かれた捕食現場へ来た。まだ血の処理などが行われていないから関係者以外立ち入り禁止の路地だ。基本的に喰種は人を襲うときは人目につかないようにする。顔を見られれば特定されやすいうえに、似顔絵が出回り、周りが敵となるからだ。
今回任された捜査資料は10枚程度になる。関連資料が多いのは助かる。資料によると、狙われた被害者は全員女性。しかもまだ未成年者ばかりだ。年頃の平均は約18.5歳で、どの女性も学生、身長が比較的高めの者ばかりだ。学校についてはまばらだが、どの学校も互いにご近所となる学校ばかりだ。捕食の仕方については、一口めは必ず肩から行かれていることが特定されている。おそらく、女性は喰種に警戒心少なく近づいた結果、このような食べられ方をされているものと推定する。だったら学校内関係について調べなければならない。少々面倒になりそうだが、そうも言ってられない。どうにか解決しなければまた次の被害者が出てしまう。まずは被害者女性の死亡時刻から1ヶ月を目安に友好・男女関係、家族関係、クラブ関係から洗いざらい情報を集める必要があるようだ。頑張ろう・・・。
まずは一人目から順々に当たって行こう。どうやらここからは非常に近い学校らしい。高校か・・・私と同じ年頃か・・・なんとも残念だ・・・。
「おろろ?そこのお嬢さん、こんなとこで何やってるんだい?」
同じ年頃の男性の声が上から響いた。アパートの人かはたまた別の人か。
上を向けばちょうど屋上から一つ下の一室のベランダから、まだ学生だとおぼしき男性が顔をのぞかせていた。
「散歩していただけですよ」
「そうですか。最近このへんの路地では捕食事件が多いので気を付けてください」
「お心遣い感謝します」
そう言って後ろを向き、立ち去ろうとすると、シャッと何か軽いものが落ちる音が後ろからする。パッと振り向けば先ほどの男性がすでに20mほど先にいた。というより降りてきたというほうが正しいのか。
「ちょうどこんな風に捕食されていましたね」
やっぱりか。まぁいい、ここで起きた捕食事件についてなにか知ってるようだし。軽く痛めて情報を聞き出そうか。ちょっと勝てるか心配だけど、歩夢の稽古のおかげである程度は大丈夫なはず。大丈夫だ。自分を信じて相手から目を離さなければ大丈夫だ。
そう考え、学生捜査官の制服の上着の内ポケットに手を入れ、小型クインケを取り出す。今日は現場観察だけの予定だったため、普通のクインケを忘れてしまった。早くクインケを持ち歩く癖をつけないといつかまずいことになるかもしれない。
男性は走り出し、まっすぐ私に向ってくる。赫子を出さないのはおそらく私を普通の一般人と勘違いしているからだろう。横によけて切り付けるか。
男は走ってくる途中で白かった目を黒く染め上げた。赫眼だ。
「赫眼確認」
目の前まで迫った男性は手を伸ばしてくる。それを横に姿勢を低くしてよけるついでに、そのまだ端正な顔にクインケを横に一閃した。うまく入った。男性は顔を抑えうずくまる。そこに横から蹴りを一発いれて後ろに下がった。
「これよりあなたを喰種と判断し、駆逐します」
CCG捜査官のうたい文句を言って、もう一度戦闘の体制に武器を構え、姿勢を少し低くした。
「くそが!学生捜査官がなんでこんなところに!」
男は立ち上がり叫び、羽赫の赫子を出現させる。浮遊しているように見えなくもないその赫子は傍から見ればとてもきれいだ。特徴は長持ちしないこと、つまりRC細胞の消費が激しいことだ。そのかわり俊敏な動きができる喰種だ。それに加えて遠くからの攻撃もできるという。小型のクインケでしのげるか・・・。
「おら!」
一瞬で距離を詰めて赫子を振り下ろしてきた。それを横にすれるようによけ、また目を狙う。左手をまっすぐ突き出すようにて、右目をえぐり、そのまま左目まで影響をきたさせ、右手で顔面の頬に一発殴りをいれてやった。歩夢との稽古の時に殴る練習もさせられたけど、歩夢の手のうちに殴りを入れた時のほうが痛かった。
そのまま男性は少し飛ばされ、固い地面に落下した。うつ伏せになって膝をつきうずくまって、またえずいている。
「くっそ・・・また目を・・・最近喰ってねぇから再生が・・・追いつかね」
この辺でいいか。ゆっくりとうずくまる喰種に近づく、ちょっと恐怖もあるが、圧倒できているようだから、反応さえ見逃さなければ大丈夫だろう。
「情報さえくれたら見逃してあげる。さっきここで捕食事件って言ってたわね。喰種の性別、年頃、容姿、なんでもいい。吐いて」
「ああ?くっそ、女学生捜査官がほざいてんじゃねぇ・・・グファ!?」
口の悪い喰種の背中にクインケを突きたてる。きれいに根元まで刺さってしまった。
「吐かないならそれでいいよ。このまま下にひくから」
笑顔で明るく言ってやった。
「くそが・・・お前より年上で、男だ!身長は俺より高かった。これでいいか!?」
「情報の提供感謝します」
そう言いクインケを思いっきり引き抜き、ブンッと一振りし、血を落とした。懐にしまいながら時間を確認する。16時か。このまま周辺学校の生徒らに被害者女生徒の情報を集めに行くのもいいが、一応支部に令状をとりに行った方がいいだろう。また後日になりそうだ。
そのまま帰路につこうと歩きだし、ある程度進んだところまでくると、またあらあらしい呼吸を上げながら後ろから走ってくる音がした。懐のクインケを取り出し、振り向き際に思いっきり振りぬくと、いい感じに手ごたえを感じ目の前で小さな血しぶきが上がった。さっきの男性はそのまま仰向けに倒れ、ほぼ虫の息と化した。
「はぁ・・・逃がしてあげるって言っているのに・・・」
「・・・お前らの・・・情けなんか・・・いらねぇ・・・っつぅの」
「涼子ー!大丈夫!?」
男性がそう言い終わると同時に上から声とともに何かふってきた。
シュタッといい感じの音を立てて、いつもの小柄な体の少女が落ちてきた。せっかくおいてきたのにもう見つかってしまった。
歩夢が立ち上がり、私の足元に転がる男性に目をやる。
「あんたもバカねぇ。私が育てた捜査官だよ?嗅覚強いくせになんで勝負しかけんのかな。喰種の匂いがする捜査官なんて普通襲うもんじゃないよ?」
「なんで・・・わかんだよ・・・お前・・・チートも反則も・・・あほかって・・・レベルだなこりゃ」
歩夢はどうやら、遠くでも相手の身体の能力を察知することができるようだ。人間だいに考えると、見ただけでその人の筋力がわかるようなものだ。確かにえげつない。
「まぁ、あんたもう再生できないんでしょ?心配するな。クインケにはされないように、ここで私が食べてあげる。感謝してよ?」
歩夢の目が赫眼へと変わり、男の隣に座って、手を伸ばした。
「くっそ・・・しかも共食いかよ・・・痛くしないでくれよ」
男がそういうのを聞いて歩夢は両手を思いっきり男性の胸に突き立てた。えげつない音ともに臓物が飛び散る音と飛散する音がした。それを後ろを向いて見えないようにし、歩夢の方からその音が止まるのを待った。
「やっぱり美味しくないな。喰種同士ならほしい栄養もたくさんとれるから効率はいいんだけど、人間と違って普通においしくないんだよね」
歩夢がそう言い終わると私の前に回り込んできた。あれほど派手にやったのに返り血を浴びていない歩夢が目の前にいる。緩めのシャツとロングスカートの組み合わせ、傍から見れば小さくて可愛い女子高生だが、やっぱりその中身はえげつないものだ。頬っぺたについたちょっとの赤い液体がそれを物語っている。
「頬っぺたについてるよ。そのまま公然に出ないでよ?」
歩夢はまじかって顔をして、頬っぺたを手でこすってそれを消す。鉄臭いんじゃないかと疑問にもなるが、なぜかいつも通りだ。臭くないし、むしろ服についた洗剤の匂いがするくらいだ。本当不思議な体構造をしている。
「これでよし、さ、帰ろ?」
歩夢は笑顔でそう言い、ニコッと笑いかけたあと、赫眼の目を普通の目にわざと見せるように変化させ、私の手を取ってきた。本当にえげつない同居人をもったものだ。