東京喰種 一緒の時間 作:煉音
「ぐすっ・・・」
誰かが泣いている。かすかな鳴き声のほかにグチャグチャと何かをかき混ぜるような変な音もする。あの家からだろうか。たしかあの家は・・・涼子の・・・家だ。
無意識に私は駆け出す。普通の民家が立ち並ぶどこにでもある普通の5区の一部の場所だ。そんな夕焼けの空の中で変な音と言えば一つしかない。
バンッと勢いよく玄関を蹴り飛ばし、家の中に入り、音のする方へドンドン突き進んでいく、2階に上がり、部屋のドアを開ければそこには今にも自分と同じ年頃の女の子を食べようとする喰種がいる。男性で、身長は結構大柄・・・だがその子だけは絶対食べさせはしない。殺してやる。
無意識に出した赫子で、目の前の男だけを串刺しにし、そのでかい頭にも一貫させた。ドサッと男の手の内から女の子が滑り落ち、床に落下する。もうすでに今は意識はないようだ。小さく生きていることを示す呼吸の音が耳に入る。どうやら食べられずに済んだようだ良かった。
男を投げ捨て、女の子を抱きかかえ、家の玄関まで連れていき座り込んだ。私と同じくらいの身長の女の子の頬を優しく撫で、安堵のため息をふぅ・・・っとついた。
「涼子、絶対死なせないからね。いつか幸せにしてみせるから」
そう言い残し、だんだん近づいてくるサイレンの音に合わせて私は涼子を置いてその場から立ち去った。
いつか、あなたの傍にいられるようになった時、私はあなたのためにこの命を尽くす。絶対に、誰にも、この小さな命は奪わせない。必ずだ。
「んぅ・・・」
目を開けるといつもの天井が見えた。さっきのは夢だったのか。それにしても懐かしい記憶を見たものだ。小学生から中学生に上がる時期の思い出だ。涼子の両親が殺された時だった。しかし涼子はこのときの記憶をショックで覚えておらず、自分はもっと早い時から両親は殺されていると思い込んでいる。結局、あの時のことは捕食中に襲撃かっていうスクープで新聞に大々的に乗せられてた。
まだ部屋は真っ暗でよく見えないが、喰種という体質が影響してすぐ目が慣れた。隣に目をやれば涼子が小さな寝息を立てて、眠っている。かわいらしい寝顔がこんな近くでおがめるのはきっと私だけだろう。
あの時私が近くを通らなかったら涼子はきっと、ここにはいないだろう。本当に偶然あそこを通ったことが良かったと思っている。そう思いながら、無意識に涼子の柔らかく小さい顔の頬に手を伸ばす。温かい涼子の頬をゆっくりと触り、もう少し近くでみたいなと思った。
ちょっとだけ枕を近づけて、もう少し涼子に近づく、少し大きめの敷布団に二人でおなじ布団の中にいるのだ。少し動いたくらいじゃ涼子は起きない。
私と涼子の間はもう10cmもない。手だってつなごうと思えばつなげるし、足だって絡ませることだってできる。やっぱりどこにいても涼子と一緒ならとても毎日が充実してる気がする。
しばらく涼子の顔を眺め、撫でていた頬から手を放し、布団の中に入れた。ふと涼子の手があることに気づき、そのままそっと絡ませると、涼子が無意識に握ってくれる。幸せそうな顔をして眠る涼子の寝顔はとてもきれいでかわいいものだ。握られた手から伝わってくる涼子の体温、私よりも少し低いけど温かい。
いつか終わりが来るこんな日が毎日、ずっと続けばいいのにな。そんな思いを残し、眠りの続きに入ろうと目を閉じた。どちらにせよ、私はこんな日々が続くように、涼子の隣にいるだけだ。
そろそろ寝よう。さすがに明日・・・あいや、今日のせっかくの学校の授業、寝てはいられない。もっと人の歴史とか身体構造を知ってこの社会に適応しなければならない。
そう思っているうちにだんだん意識が遠のいていった。今私はどんな顔をして涼子の目の前にいるだろうか。いびきをかいているかな。それとも涼子みたいな顔を浮かべているのかな。
どんな形でもいいや。涼子とのこんな日々を持続させ、いつかお互いの生に終わりが来るそのときまで、誰にも邪魔させないことを思い続けるのは絶対に変わらない。
ただそれだけだ・・・。
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カーテンの隙間から差し込んだ太陽の光がちょうど目に直撃しているようだ。視界が真っ白で、おそらく朝になったことがわかる。
案の定、目を開ければ太陽の光がカーテンから差し込み、それが私の瞼の上を照らしていたようだ。眩しいな。
そう思って少し頭を前に動かしズラした。ズラして気づいたが、目と鼻の先に何かいる。眩しさのせいでチカチカとして目がだんだん慣れてそれがなんなのか鮮明に映り始めた。
きれいな線の鼻筋に、一重の丸い目は傍から見れば幼い幼児に見えなくもない。しかも小顔で低身長だ。そんな見た目はどこからどう見ても守ってやりたいと思うような女の子だ。そんな女の子の顔が目の前に・・・しかも息がかかるような距離で、歩夢自身幸せそうな顔を浮かべて寝てしまっている。
朝になっても私がコーヒーを淹れるまでは絶対に歩夢は起きない。ちょっとくらい、いいかな?
小さな下心が生まれてしまった。好き・・・。
ゆっくりと顔を近づけていく。もうつくかつかないかの位置、ちょっとだ・・・ちょっとだけだ・・・。本当にゆっくりと、だんだん歩夢の子供っぽい顔に近づいていく。正直、歩夢とこんな近い距離で長時間いるのは久しぶりだ。小さい歩夢の唇に自分の唇を軽く触れ合わせる。
目はつぶらずに歩夢が起きないか無意識にドキドキしている。やっぱり私、本気で歩夢のこと好きになってるのかな。私は人間で歩夢は喰種、この差は埋めても埋まらない絶対的な差、本当にこんな恋をしてしまっていいのだろうか・・・。確かにCCGからの捜査資料や教科書にも載っている人間と喰種の子供がいる捜査資料だって見たことある。それはまぎれもない事実で左右で目の色が違うらしい。しかもその身体能力や喰種としての能力はかなりのもので、非常に優勢な遺伝子となるらしい。今までの捜査資料で一番新しいもので数十年前の隻眼の梟戦がある。有馬特等の活躍がとくに目立つ戦いだったらしい。ほとんど一番最初の関連資料では地下戦だ。そのときは活動班の中で一番の戦闘能力を持った真戸捜査官の単独戦闘引継ぎでどうにかそれ以上の犠牲は出さずに済んだらしい。しかし真戸捜査官は後日、捜索隊によって食い荒らされた遺体となって発見されたらしい。この真戸捜査官はかなり前に羽赫の喰種、ラビットによって殺された真戸上等捜査官の妻だ。彼はかなり優秀な捜査官で、数々の功績を残し、このぐらいの喰種には倒されないような実力の持ち主のはずだが、調べによればいろいろと不運があったようだ。さらにいえば彼はかなりのクインケオタクで、数々の喰種をクインケにしてはコレクションにしていたらしい。中でも死ぬ直前までにクインケにされた喰種のクインケは非常に使い勝手が難しいが、扱えれば強力な武器になるものばかりらしい。本当にCCGは惜しい人をなくしたものだ。
気づけば結構長いこと歩夢に口づけをしていた。どうにか自分の恋心を押さえつけ、歩夢から顔を離し、歩夢を起こしてしまわないように反対側から布団を出た。そろそろ言うている間に寒くなる時期だ。毛布が安くなったら質の良いやつでも買いに行こうか。まぁどっちにしろ歩夢がおなじ布団にいるおかげホカホカしてしまうのだが・・・いや、そういう意味じゃなくて、歩夢自身の体質のおかげだ。
寝床から出てリビングへの襖を開ける。マンションの最上階で、別に外からの人の視線も気にすることがないので、窓のカーテンは開けっ放しだ。そこから入ってくる太陽の光が部屋を照らす。朝の光は目覚ましにはちょうどよいものだ。なにより、周りに光を遮る遮光物がないおかげで、部屋が思っているよりも明るい。
「ふあぁぁぁ・・・・」
大きく伸びをしながら欠伸をし、小さいキッチンにあるコーヒーメーカーを起動し、コーヒーを淹れる設定にした。歩夢ならカフェのマスターみたいに、コーヒーを手で淹れられるのだが、残念ながらあまり作ろうとはしてくれない。私にはコーヒーの味の質などよくわからないけど、たしかに歩夢の淹れたコーヒーと機械の淹れたコーヒーとではなにかが違うのを感じたものだ。どちらにしろ、歩夢はいつもあんな感じに朝は寝続けるから無理やり起こしてまで飲みたいとせがむものでもないけど・・・。
コーヒーメーカーを起動したあと、部屋の中央にあるパソコンを起動した。私と歩夢が住んでいるこの部屋にはテレビはおいていない。なぜかって言われるとただたんに買っていないのが理由だ。だからパソコンの機能を利用して、テレビを見る。朝のニュースはいろいろな情報が手に入る一つの情報手段だ。新聞を取るのもいいのだが、さすがに毎日新聞屋さんがここまで登ってくると面倒だろう。どうせなら登校中のコンビニで新聞でも買おうか、とも思ったのだが、高校で女子高生が一人新聞開いてたらやたらと目立つ。だから帰りにいつも買って帰るのだ。
さてさて・・・今日もまた暗いニュースがやるのだろうか。毎日こんなのばっかり見ていると、CCGの捜査官の手の届かないところが多いところがよくわかるものだ。
パソコンの起動にはまだ時間がかかりそうだ。今のうちに歯磨きと顔を洗っておこう。あと着替えねば・・・長期休み期間だったから久しぶりに着るな。忘れ物をしないといいが。
洗面所は玄関からリビングまでの途中にある。部屋の構造は玄関に入ると広くない廊下が一直線に伸び、その先はリビングとなっていて、その途中の右側に寝床の襖があって、左手の手前には物置、その向こう側にあるドアが洗面所と浴場だ。浴場っていうほど大きなお風呂でもないが・・・大きくもないバスとシャワーがあるくらい。もちろんバスとシャワーは別で、小さな空間がある。あ、忘れていたがトイレはリビングと洗面所の間にあるのだ。ちなみにリビングの端っこのほうにキッチンがある感じだ。
リビングを出て洗面所に来た。鏡に映る自分の顔を眺めてどこかニキビとかないかまじまじと見る。自分の姿についてはあまり興味はないが、普通程度だろうか。不細工じゃないといいが・・・そう思いながら口に水を含み、一度うがいをし、ハミガキに歯磨き粉をつけた。
ちゃんと歯の前も裏もしっかり磨く、子供の頃からちゃんと欠かさずやっているおかげで、虫歯になったことはないし、歯石ができたこともない。いや、できたことがないっていうのは何とも言えないけど、歯医者で取り除いてもらった経験は一度もない。そういえば喰種はどうなのだろうか。歩夢は歯磨き粉の味を嫌って歯磨き粉をつけずにハミガキだけで磨いているけど、やっぱり歯石のようなものができることはあるのだろうか。それとも歩夢自身が消臭に対して強い体質を持っているように、それに対してもなんらかの体質を持っているのかな。
そろそろいいかな。先にハミガキを洗い、軽く振って水を落とし、立てた。それからはまた口に水を含んで少し長めにうがいをして捨てる。それを数回繰り返し、スッキリしたところで、口周りを一度水で洗い、両手に水を溜めて、顔に押し当てる。やっぱり朝は水がとても冷たく感じる。きっと朝から歩夢に対するやりとりでドキドキして火照っていたせいもあるかもしれない。顔洗いが済んだところで隣にかけておいたタオルで顔を拭いた。
そしてもう一度顔に何かないかまじまじと鏡に目を移した。
「涼子はいつも通り、可愛い顔してるよ」
隣から陽気な声が眠たそうな風を纏ってそんなことを言ってきた。いつの間に起きたんだろうか。足音消して来なくても起きたんならそれでいいのに。
「ありがと。おはよう、歩夢」
案の定、隣に目をやればいつも通りのゆるゆるな服を着た歩夢が眠たそうに目をこすりながら、パッチリと開いた左目だけ見せて立っていた。透き通りそうな黒い瞳が私を見据えている。やっぱり子供の時から思うことはとてもきれいだということ。おはようとあいさつをすればその瞳をもつ目は軽く細められ、笑顔に変わる。
「おはよう。涼子」
軽く揺れるように前に歩を進める歩夢は、唐突に私に両手を伸ばしてきた。やっぱりなんかついてるのかなと思っていると、歩夢は両手を私の頬に添えて一瞬グイッと引っ張った。歩夢にそのまま口づけされてしまう。軽く触れるだけのキス、朝私が歩夢にこっそりやったのと全く同じこと、まさか起きていたのか。
「お返しだよ」
歩夢は口を離すとそう言ってまた笑いかけてくる。突然のことにビックリしてる私を差し置いて歩夢はスッと私の隣に入って自分のハミガキを手に取った。朝からなにやってるんだろう。
「んぅ・・・」
まともに返事できずに赤面しながら、洗面所を出た。思っている以上に歩夢は恋愛知識をつけるのが早いのかもしれない。この間の電車で私が歩夢の無知を利用してやろうとしたことも本当は大人の知識のそれだ。でも今では歩夢はそういうことがどういう意味を持って、どういう時に行われるものかも理解している。電車の時は本当に知らなかった。あのあと問い詰められた記憶もあるし、結局あの時は無理やり話をそらしてうやむやにして逃れたけど、あのあと先に寝てしまい、朝起きてパソコンを開いたらそういうことをする意味を説明・解説したサイトが開かれていたのを覚えていて、背筋に冷たいものを感じた記憶がある。
「ふぅ・・・」
あのまま歩夢に何かいじらしいことを言われなくてよかった。と安堵のため息をついた。キッチンに立ち、自分の朝食を作る。朝はサンドイッチにするつもりだ。冷蔵庫からチーズとハム、キュウリを1個取り出し、キュウリは包丁で薄く横に切った。パンの耳を切り落とし、チーズとハムと切ったキュウリを挟む、パンの耳はまた帰ってから油で揚げて砂糖でもつけて食べよう。コーヒーメーカーが音を消し止まる。次のコーヒーを淹れるためにコップを置き換え、もう一度スイッチを押した。が・・・反応しない。電源はついているのだが、スイッチを押しても反応してくれない。水の充填はできてるし、コーヒー豆の粉の補充をできてる。また故障かな。まぁ、仕方ないか。一応電源を切り、サンドイッチを数個置いた皿とコーヒーを持ってパソコンの前に座った。
起動したてのパソコンのメールフォルダには3件のメールが入っている。ウィンドウ画面でそれを開きながら、テレビの画面を開く、テレビのアナウンサーはまた捕食事件の原稿をスラスラと読み上げていく、メールの方に目をやれば、各区担当者の報告会の内容だ。どうやら5区は今のところ平穏な感じらしい。それに比べていくつかの区はアオギリの樹という喰種集団の動きが活発化している話で持ち切りだ。他にも喰種レストランの壊滅なども上がった。非常に最近力の強い喰種が目立ち始めているようだ。
先にコーヒーを口に含み、口の中を湿らせ、サンドイッチを頬張る。まだ学生捜査官だが、高校を卒業し本業に努めることになったらこうやってのんびりもしてられないだろう。というか私は大学に行けるのだろうか。
「またサンドイッチなのね。あまりにも人の食べ物ってよくわかんないなぁ。どれだけ勉強してもおいしく食べられるなんて考えられないよ」
私がサンドイッチを頬張っているといつのまにか横に座っている歩夢がそんなことを言ってきた。歩夢にとってまずいってどんな感覚なのだろうか。今の私が喰種になってこれを食べてみればわかるのだろうけど、はたしてそんなの可能なのだろうか。まぁ今はなりたいともなかなか思えないけど。
「ふむ・・・こんなにおいしいのにね・・・でもコーヒーは飲めるのでしょ?あ、でも苦く感じないのか・・・うーん難しいなぁ」
ちょっと頭を巡らし、なんとか表現方法を考えるがやっぱり出てこない。
「まぁそういうものなんだろうね。私たちの違いってのは、目の見えない人に色を教えるくらい難しいものかも?」
歩夢は笑いかけながらそんな返事をする。とゆかその面接官の問いかけ、どこで覚えたんだ。実質、その答えは不可能だと思う。そもそも目の見えない人にとっては色という概念がまずないだろう。あるかもしれないが、空間を見ることのできない人にとっては、まず色という発想はなく、それを触り形、大きさを理解する能力しかないからだ。
暗いニュース放送が終わり、最近のはやりなどを紹介する番組に入った。まだ7時半だから時間はあるし、ゆっくり着替えて学校に行こう。コーヒーを半分ほど飲んだところで、歩夢が私の手からコーヒーカップを奪い、チビチビと飲み始める。
「最近周りの区はとても物騒だね。アオギリの樹の進攻が激化したところもあるみたいだし、これは近々大きな掃討戦がありそうで怖いよ」
歩夢はパソコンのテレビに目を落としながら「そうだねぇ」と言葉をつづける。
「確かに物騒化してるね。夕さんの情報によると20区は前の状態にちょっと戻りつつあるみたい。美食家の動きも全く聞かなくなり、大食いの件なんかもはやなにそれおいしいの?状態だよ。他にも嘉納っていう院長の病院の看護婦がいなくなった事件も起こった。たくさんたくさん忙しいし本当に物騒だよ」
「そうね・・・」
そう返事を返し、立ち上がり、サンドイッチを乗っけていた皿を台所へもっていき、水んつけた。台所の端っこに水ため用の入れ物を置いているのだ。今洗ってしまうのもいいが、少々やる気が起こらないから帰ってからでいいか。さっさと着替えてのんびりしておこう。
そう考えリビングの端っこにかけてある制服を手に取る。真っ白な生地のカッターシャツに、茶色や黒、白っぽい色のチェック柄のスカート、灰色っぽい黒色のブレザー、かわいらしい赤色のリボンだ。ちなみにリボンの色は3種類あって、学年ごとに色別される。ブレザーの胸元に豪華な装飾付きの校章をつけ、女子だけシャツとブレザーの間に専用のブレザーと同じ生地のものを着る。よくOLの人が来ているようなあんなやつだ。
姿見自分の姿を確認する。前と同じいつも通りな女子高校生だ。前より慎重が伸びたかな?いや、見間違いかな。ただ胸のふくらみは少し大きくなった気もしなくもない。ちょっと横を向いたりして、自分の容姿を確認していると、いつの間に着替えたのか歩夢が一緒に姿見に映る。よく見れば歩夢に身長を微妙にこされてる。髪の毛の量かな。
歩夢がわざとらしく意地悪そうな顔で、私と自分の頭の上で手を平べったくして横に振る。ちっちゃいなって言ういじりだ。あんまり変わらないくせに、ちょっと高くなったことが確認できたらいつもこうだ。わざと頬っぺたを膨らませて怒った顔をしてやると、歩夢はまた笑顔でごめんごめんとジェスチャーする。
「でも、この間と違って膨らんだね」
そう言って歩夢は唐突に私の胸をポンポンと叩いてきた。別に恥ずかしがることもないが、褒められているのか素直に喜べばいいのかよくわからない。
「そういう知識ばっかりつけてると、ダメな子になっちゃうよ?」
歩夢は声を出してちょっと笑うと、「でもね」と続ける。
「先にこういうことしようとしたのは涼子だよ?」
それを言われるとなかなか痛い。素直に謝って済ませておこう。
「ご、ごめん・・・」
「わかればよろしい」
歩夢は勝ち誇った顔で、フンっと鼻息を軽く立て、クスクスと今度は隠すように笑った。本当につかめない。
「でも、嫌じゃないよ。好きだよ涼子」
急にそんなことを言われて、キョトンとした瞬間にまた歩夢がスッと軽く口づけをしてきた。なんかずっと手綱を握られてる気がしてならない。これからもこんな状態が続くと思うとなんかちょっと不満だな。
それよりそろそろ学校に行く準備しないとまずい。とはいえ、こんな生活がずっと続けばいいと思うのは、私だけじゃないはずだ。歩夢もそう思ってくれてるといいな。