東京喰種 一緒の時間   作:煉音

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疑問と過去

 

「そういえばさ」

 

 唐突に涼子が口を開いた。今は学校で行くための道を通っているところだ。涼子の住んでいるマンションがもともと人通りの少ない場所ということもあって、学校近辺に来るまで人はそれほど見かけない。一応私の存在もあるのだろう。

 

「ん?」

 

 視線を横目に鼻で応答した。涼子はパッチリ開いた目をパチパチと瞬きさせながら、こっちに向いてしゃべりかけている。

 

「歩夢の親ってどんな人たちだったの?」

 

 今は亡き私の両親の話か。お父さんとお母さんは中学2年生の時に死んだ。というよりは殺された。直に見たわけではないが、両親が朝をあけても帰ってこなかった日のことだ。子狐のマスクをつけて両親を探しているとき、ふと鼻をついた匂いが両親の匂いだった。その匂いをたよりに追っていくと、行きついた先は路地で、CCGの鳩がいたのだ。鳩っていうのは簡単に言えば戦闘特化の喰種捜査官だ。そいつの持っていたクインケ、私たちは箱っていういわば武器、そこから両親の匂いがするのだ。もちろん私は喰種でそいつは捜査官だ。対峙したときにそいつの展開したクインケを今でも覚えている。お父さんとお母さんはもともと、性格的にも能力的にも相性の良い人達だった。だから私の見たクインケは、そう両親の二つの赫包を合わせ作られたものだった。尾赫と鱗赫から作られたそれは強力な威力の刃とムチのような打撃特化の伸縮抜群の武器だった。それからどうしたって?聞かない方がいいかもね。捜査官は跡形もなく消し、クインケを破壊し、赫包も消し去った。後に残ったのは悲しさと切なさと捜査官の飛沫が飛び散るだけの薄暗い路地だけだった。だけど、もし、あのクインケを壊さなかったら私はきっとどこかで死ぬような性格だっただろうと思う。きっとあの行為のおかげで吹っ切れたのだと思う。どちらにしろ、今は涼子のために死ぬわけにはいかないし。もっと強くなる必要がある。

 

「そうだねぇ。二人とも強い人だったよ。お父さんが鱗赫でお母さんが尾赫だったよ。優しかったし、毎日私と遊んでくれた。楽しかったよ」

 

 私が笑って答えてあげると、涼子はちょっと苦虫を噛んだような表情から一転して、軽く微笑んでくれた。

 

「良い人達でよかった」

 

 なんの心配をするのだろうかと思うとそんなことか。どちらにしろ喰種が子供を成す行為とはどういうものかと言われると、もともと戦闘特化で人の肉を食べることが幸福なのだから、人との器官とは特異な違いがあるわけだ。似た部分はあるかもしれないが、喰種にとってはその似た感覚を得るまでが難しいわけだ。

 

「ちなみにね。私の鼻はお母さんのもので、人間的に言えばシックスセンスかな?気配察知の能力はお父さんのものだよ。喰種は周辺の地上からの振動、人が息を吸ったり吐いたりすることで生じる空気の振動に敏感なんだよ。まぁほとんどは感じててもわからないっていう人が多いけど」

 

 涼子は、ほぉ~っとした顔つきで良いこと知ったみたいなうれしい顔をする。その顔が少し続いたあと、また疑問を持つ顔をする。

 

「じゃあ、涼子の赫子はなんで鱗赫だけなの??」

 

「あー・・・実はね。私にもよくわからないんだけど、いつも出してる赫子は鱗赫と尾赫が混ざった状態っぽいのよね。涼子はあまり鱗赫の喰種を見たことがないかもしれないけど、本当の鱗赫ってトゲトゲしてるの。だからこの間お肉とりにった時に出した赫子が本当の鱗赫なんだよね」

 

 涼子がハッとする。なぜ知らないのかはおいといて、そういうことだ。

 

「そ、そうだったんだ・・・。私もちゃんと勉強しとかないとね」

 

 涼子が焦るようにあわあわしながらそう言い前を向きなおす。額の汗はわざとなのか。

 

「とはいえ、私もよくわからないんだよね。なんかそのときの気分や感情で、赫子の形とか性質って変わっちゃうみたいでさ。鱗赫の位置から生えてるのに、それがじつは尾赫だったみたいな状態のときもあったし」

 

「難しいのね・・・」

 

 うんっと頷き前に向きなおす。そろそろ学校が見える位置だ。今日は7限で、現代国語、数学Ⅱ+B 、世界史、生物、とかめんどくさいのが勢ぞろいだ。頑張ろう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーー4年前、5区統率喰種SS+級、由李渓夫妻駆逐作戦成功より25時間後...。

 

 路地をトボトボと重い足取りで女の子は歩いていた。もう5区の端から端まで走りまわしたその足には確かな希望が見えていた。匂いだ。探していた人の匂い。そんな少女の目の前に白いコートのような制服を着た女性が仁王立ちしていた。その女性の傍らに置かれた箱から匂いがする。女性は右手で無線機をいじり話始める。

 

「やっぱり来ましたよ。5区の喰種を支配、統一していた由李渓夫妻のお子さん。母型から受け継いだ嗅覚は伊達じゃないらしい。むしろ家からは馬鹿じゃないほど離れているのに、尋常じゃありませんね」

 

「”布里特等気を付けてください。伊達にも5区の支配統制をしていた喰種の子供です。SS級+レベルの二人の喰種の子供となれば、どんな力を身につけているかもわからないものです。油断しないでください”」

 

 白いコート状の制服を着た女性は「ええ」と言い、無線機の録音を開始する。

 

「では、これより、CCG身柄特定法の条例に基づき、緊急討伐対象喰種”子狐”の駆逐を開始します」

 

 女性は傍らに置いた箱を持ち上げ、ボタンを一押しする。中からクインケと呼ばれる武器が登場した。その形状は刀のようなもので、刃先は赤く光、名刀と言えるものだ。その後ろのほう、持ち手のさらに後ろには細長い紐状の長いムチのようなもの、一見すると装飾に見えなくもないものがついていて、簡単にしなってしまいそうだ。

 

「形は変わってしまったが、お前にとっては懐かしい匂いだろう。お父さんとお母さんの赫子はどうだ?きれいだろう?見事な名刀となってくれたよ。さて、力試しと行きましょう」

 

 女性は走り出し、茫然と立ち尽くす少女に向ってクインケを振り上げる。

 

「お姉さん」

 

 少女は一言つぶやき、左手を振り下ろされるクインケの刀身に合わせる。

 

 ガキンッ!とものすごい音とともに、刀のようなクインケは動きをぴたりととめ、少女の手のひらに刃先を当てたまま柔らかい皮膚に包まれている。

 

「なっ!?」

 

 少女の手のひらをほんの少しの鱗状の赫子が覆い、受け止めたのだ。

 

 女性が引き抜こうともがいてるうちに、少女はもう片方の手を自分のつけているマスクに手を伸ばす。

 

「久しぶり」

 

 女性は「は?」と声を漏らす。聞き覚えのある声だからだ。女性が動きをとめた時、少女はマスクをはずし素顔を晒す。喰種にとって素顔を晒すことは大きな危険を伴うため禁止されているはずなのだが、彼女はそれをとった。

 

 丸い目とまだまだ優しさ残る顔はクラスの人気者の証だ。自分の娘でさえ虜にする性格は一体何人生まれて一人生まれるのだろうかと思うようなものだ。そんな子の同級生の母ならだれもが知るような子供が目の前にいるのだ。正直、彼女の両親は見たことなかった。だから簡単に殺せた。

 

「な、なんで・・・」

 

 いつも走り回って元気な顔の少女の瞳は黒くこもり輝きを失い、どこか遠くを見つめるように女性の顔をじっと見つめる。

 

「見てのとおりだよ。私は喰種。あなたが殺したの?」

 

 無表情のまま首を傾げる少女に女性は背筋が凍りつくのを感じた。誰にでも優しく、愛情をもって子供らしく接することができる少女の顔は今は恐怖と悲しみの産物のような言いようのない恐ろしさを孕んでいた。

 

 女性が黙ったまま手をふるわせていると、少女は軽く下を向き言葉を小さくもらす。

 

「わかった」

 

 少女がマスクをコトンと落とし、女性の腕をつかんで、思いっきりひっぱった。その瞬間、女性はまるで軽い小さい段ボールの箱のように簡単に宙を舞った。

 

「9本!?イヤ!!」

 

 宙に浮いたままの女性を少女は赤と黒の目で追い、喰種の証とでも言うべき赤い鱗が逆立ったような触手を背中の腰あたりから9本出現させ、それを合わせて巨大化し、宙に舞う女性に野球部がバットを振るかのように横に振りぬいた。

 

 その瞬間、カラーボールを壁に当てたかのようにベチャっと気持ちの悪い音がし、少女が一回転して、スッとまたたたずんだ。右手に握ったままのクインケを下に置き、自分の足で踏みつけ、破壊する。バラバラになったクインケの中から二つの小さい内臓のようなものが出てき、さらにそれをグチャグチャと変な音を無視して踏みつける。

 

 もうほぼ跡形もなくなりつつあるクインケを足で横にけり蹴散らした。壁の赤い血だまりに近づき、一言少女は漏らす。

 

「許すわけじゃない。だけど、大事な人には何もしない」

 

 そのまま少女はトボトボと元来た道を歩いて帰って行った。

 

 少女が消え5分後、女性と同じ白い制服を着た集団がその路地へ来た。誰もが吐き気を催しながら、現場の調査に当たった。

 

「布里特等が跡形もなく・・・これはひどいな・・・」

 

「ああ、布里特等との最終通信には子供と記録されているな。それに録音会話からしても、完全に布里特等を圧倒している。クインケも跡形もなく潰され、中の赫包ですらあの有様だ」

 

「現場の状況、我々の到着時間、通信の時間から計測しても死んだのは8分以内、足跡も赫子の分泌液、対象を特定するための証拠も一切残していません。それに特等の亡くなり方を見ても完全に秒殺の勢いですよ。両親よろしくSSレート付けで?」

 

「いや、Aレートだ。通信の最終記録に彼女の音声が録音されている。会話内容から思うに布里特等とはなんらかの関係があった。大事な人と言っているところから、夫をすでに病気で他界してしまっている布里特等のことを思うとおそらく子供の関係だ。あと確かに9本という言葉、おそらく赫子の数だろう。無視できない数値だが、現状、そんな赫包を持った喰種は私の記憶にもない。多くて彼女の父親で、5本の赫者くらいだ。もしかすると、彼女もすでに生まれつき赫者な可能性も考えうる。だが、今は確かめることができないよって彼女は現時刻より、A++~喰種「九」と定義し、布里特等の関係を洗い、捜索する」

 

 白い制服の集団はそのあと一部調査官だけを残し去った。

 

ー後日布里特等のいない特等会議で、喰種「九」の件については上等捜査官以上の人間以外戦闘禁止令が設けられ、5区の緊急駆逐対象喰種として情報公開が許可された。

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