鎮守府内湾。今日は合同練習の日でもないのに、鎮守府にいる艦娘が内湾にてスキップの練習をするという非常にシュールな光景が広げていた。
「はい行くぞ~、せーの!!」
提督の掛け声にて一斉に腕を振り上げ片膝を突き上げ水面に踏み込んでスクリューを回す。その瞬間水しぶきを上げて踏み込んだ足が勢いよく跳ね上がり全員、後頭部から度派手に水中にダイブする。空母も戦艦も駆逐艦もみんなコントのようにひっくり返った。
「ぶははははっ!!……っはぁ~面白!!」
「も~っ!司令官笑って駄目なのです!!」
「いやぁすまんすまん」
いやでもシュールすぎて腹筋が痙攣してしまうよ。
「くっそ!スキップがここまで難しいとは思わなかった!!」
「何言ってんだ~長門、ビックセブンはもう挫折かぁ~」
「ちっ、くそっいい気になりやがって」
「ほらほら~♪らんららん、ら~ん♪」
パシャッパシャっとずぶ濡れになっている艦娘の前で軽快にスキップをする提督。
『うぜぇえ』
艦娘の思っていることを理解したのか提督は両手を腰に当てて言った。
「いいか、俺はお前たちと違って艤装の補助効果ってのが無いんだ。だから25キロもあるスクリューシューズを自分の脚力と片足のスクリューの勢いを使ってコントロールするんだ。お前たちはもともと船だったんだから自分の足の力加減なんてものは無意識にでもコントロールできんじゃないか?おれは言ったぞ。スキップをしろと、俺と同じようにステップを踏めとは言っていないんだからな。心を無にしろ。はい、もう一回」
提督からのアドバイス(?)を聞いて挑戦する艦娘たち。魚雷がさく裂したように水柱が立ち上がる。
電は第6駆逐隊のところへアドバイスに行ったようだ。ならばと、提督は目の前で濡れ鼠になっている瑞鶴の前に行った。
「もう、提督さん難しいよ!!」
「がんばれ、ほら見てみろ。加賀もビショビショだ。一航戦にぎゃふんと言わせるチャンスだぜ」
「!!うんっ提督さん頑張る!!ほら、翔鶴姉ぇ先輩たちを追い越そう!!」
「ふふっ瑞鶴ったら提督に応援してもらってうれしそう、ええそうねやりましょう!」
「赤城さん、大丈夫ですか?」
「ええ、加賀さん。提督はすごいですね、艦娘じゃないのにあそこまでできるとは」
「提督はもともと戦いなれていた感じはありました。私たちが中破大破した時、無線とわずかな映像だけでなぜ被弾したのか、何が悪かったのかを的確に指摘していました。ほかの提督ではできない芸当です。その訳が今ここで分かりました」
「ええ、そうね。ほんとあの人は私たちを率いるのが上手いですね。私はもっと一緒に居て色々と教えてほしいところです」
「赤城さん、提督の横はいくら赤城さんでも譲れません。私が早くスキップをマスターして『ワンツーマン』で教えてもらいます」
なぜか「ワンツーマン」を強調する加賀。提督はそれを見て「やっぱ一航戦は覚悟が違うな」と的外れな考えをしていた。
加賀の発言を受けてそれを聞いた一部艦娘は「ワンツーマン」の言葉に反応した。
「陸奥、よくここまでできるようになったな」
「はい提督、ここまで来れたわ、だから練習の成果を見て」
「ああ、いいぞ。……おや?第三砲塔がおかしいな、ちょっと応急修理をしよう」
「あっ……んんっ!提督!?まさぐっちゃ……やぁっ!」
ここまで想像して、はなぢぶぅ。
「ヒエッ、陸奥大丈夫!?」
「…………ええ、大丈夫よ。」
隣で練習していた比叡が突然鼻血を吹き出す陸奥に引いているし、
「足柄、やれるようになったな」
「ええ、でもまだ別のスキップはできてないの。提督、ずっと私と一緒に手を繋いでこれからの人生二人でステップ刻みましょう」
「足柄……」
「提督……」
「足柄……!」
「提督……!」
提督と足柄の顔が徐々に近づいてあと少しで唇が触れるというところまで妄相したらスクリューが頭を冷やせと言わんばかりに水中に足柄を叩き込むし、
「しれえ!!なんでか前に行こうとするのに後ろにうごいちゃます~!!」
「雪風、それはムーンウォークだ」
雪風にいたっては別の才能を開花しようとしている。
だんだんカオスなことになってきた。
そんな時、提督を呼ぶ者がいた。つなぎを着こんで槍のように長いスパナを持った男。艤装整備技師長の南郷敦(なんごうあつし)だ。
「お~い、提督さんよ、ちょっちこいや」
「おっ、あっちゃん。どうしたんだ?」
提督は自分を呼ぶ親友のもとへ向かった。
「おいこれはどういうことだ。彼女たち足振り上げて倒れてんじゃねぇか。つぎは彼女らを宝塚へでも送り出す気か?」
「いいや、劇団四季にってそんなわけないだろ」
技師長ははぁ、とため息を吐いて岸壁から足を海面に投げ出して座り鋭い目線で提督を睨み付けた。
「お前、何やってんの?マジで。お前が言ったんだろ『俺が海で出て深海棲艦と戦ったらパワーバランスが崩れて彼女たちの立場が危くなる』って」
提督が鎮守府に着任した理由。それは『人間が生身で深海棲艦を倒したから。』深海棲艦が現れてから世界の兵器では到底倒せなかった敵をたった一人の人間がたった一本の日本刀で倒したんだから大本営は利用価値のある人間か否か、観察するために鎮守府という檻にぶち込み、提督という首輪を着けた。艦娘を解剖して研究するより、人間のほうが研究しやすいし、バイオテクノロジーを使えばクローン人間も作れる。今この鎮守府は研究材料が豊富なブラックボックスとなっていた。しかし、今現在鎮守府の艦娘は解体も解剖もされていないし、出入りする人間も限られている。深海棲艦を撃沈させた提督も解剖されたこともない。
そのようなことを考えてきたものは深海の闇へと消されていったからだ。ほかならぬ『提督』に。
「だが、そうも言ってられなくなってきたのよ。…………『海艦』が大きく動き出した」
「『海艦』……深海棲艦を荒神と謳い、深海棲艦を支持するテロリストたちか」
「ああ、『恐竜も絶滅したように人間も一度絶やし、新しく深海棲艦となって世界に君臨する』とほざく奴らな。今までは目立った行動はしていなかった。せいぜいオカルトブログでも作って宣伝しかしてこなかった奴らが大きく動いたんだ。……『海艦』の一人が自分から『深海棲艦』になったんだ」
「なん……だと?」
「まだはっきりとはわかっていないが、進化したらしい。今度お前と詳しい話を妖精さんとするから時間あけとけよ。
「あっ、おい!……ったく、俺も動く準備したほうがいいかもしれんな」
海面でひっくり返る艦娘たちのもとへ行く提督の姿を見て技師長はこれから起こる事件を予想し、そうつぶやいた。
『この子たちは俺が絶対守ってやる』
初めて建造をしたときに強い怒りと悲しみがこみ上げてきた。戦うために非人道的なことをし、正義も大義もない意味のない戦いをし傷付きまた終わる。自分は艦娘という一度死ぬ恐怖を体験した少女をもう一度死なせようとする大本営は彼女らを兵器として扱えと言った。たったそれだけの一言だったが目がすべてを語っていた。
『何言ってんだ、こいつら一度死んだゾンビじゃないか』
だが、医学的には心臓は動いていて脳波もあって食事をしてエネルギーを作り呼吸をして生きている。しかし、人ではないのは確か。彼女たちは兵器である。兵器のとしての在り方の記憶しか持っていないし、自信もトラウマもすべて戦時中のものばかり。デパートで買い物や恋愛、女の子が好きな恋バナすらしたことも無い。もし、
それじゃあ全てが、戦争が終わったら彼女たちの居場所は何処にある?自分は故郷があって酒が飲める友人がいて骨を埋める墓がある。しかし艦娘には変えるべき場所がない。建造された故郷に帰っても手を振って迎えてくれる人はいないし親もいない。最終的には孤独が待っている。そんなのあまりにもむごいじゃないか、命を懸けて戦って平和にした後、一人ぼっちなことに気が付いて「生まれてこなければよかった」と悔やみながら人生を送るだなんて可哀そうだ。
『お前は生まれ変わった、世間は君を艦娘と言うだろうが誰が何と言おうとお前たちは人間だ。人間なんだ。それを胸に刻め』
鎮守府に来た時に提督からの言葉として必ずいうセリフだ。お前たちは人間なんだ、泣いて笑って怒って楽しんで恋をして幸せになっていいんだよ。もういいんだ、修羅の道は俺が通るから、俺の代わりに幸せになってくれ。
あの子たちが笑って暮らせるならば、俺は喜んで地獄に堕ちてやる。世界を敵に回したとしても。
「……と……。…い、とく。ていと、く」
「「「「提督!!」」」
「えっ、はいっ!なんでしょう!!」
大きい声で呼ばれ、気が付いたら艦娘たちが不安そうにこっちを見ていた。
「ヘイ提督ゥ、大丈夫ですカ?」
「お、おう大丈夫だけど?」
「司令官、とても怖い顔していたのです」
マジ?顔に出てたとか不覚!
「え、ああ、ちょっと考え事をしていたからな。心配かけてスマン」
「もう、いっつもひとりで抱えすぎなのよ。もっと私に頼っていいのよって言ってるでしょ」
「雷、ありがとう」
「提督に何かあったら作戦の指揮に関わります。もっと自分を大切にしてください」
「加賀……了解。……さて、長門、陸奥、吹雪、遅くなってスマンなクロスステップの続きを……「「「提督/司令官!!!」」」はい!」
「まったく、人の話を聞かないんだから。後ででいいわよ、また今度」
「そうだ、一回休んでからだ」
「そうですよ、長門さん陸奥さん司令官を技師長さんにメンテしてもらいましょう」
「「賛成」」
吹雪の提案で長門と陸奥が提督の横に立って二人で提督を担ぐ。
「うわっ、おい!何すんだ!!」
「こうでもしないとあなたは休まないでしょ」
「無理やりでも休んでもらうぞ」
「分かった分かりました!!だから降ろしてぇ~!!」
「ふふっ、提督が心配されてらぁ。さぁて、あいつとオハナシすることが沢山ありそうだな」
技師長は艦娘に担がれてくる提督を見て呟いた。