SAO ~無双の矛~ 作:鴉鷺
攻略された層がそろそろ1/3程になった頃。シキは自身のスキル欄に初めて見るスキルを二つ発見した。一つ目は《アイギスの守護》、もう一つのスキルは選択こそできないが《偃月刀》というものだった。
《アイギスの守護》の取得条件は載っておらず、効果しか記載されていなかった。そしてその効果は、「全状態異常の無効化」という壊れ性能だった。この効果はアクティブではなくパッシブである。これによっていかなるシキは状況下であっても、全て状態異常から守られるのである。
一方《偃月刀》の取得条件は、薙刀の熟練度を上げ、特定クエストをクリアする、という単純なものだった。
つまり最近出てくるようになったエクストラスキルに分類されるスキルというわけだ。
「サイカ、リュウ。スキル欄に《アイギスの守護》ってのはあるか?」
取得条件が開示されていない、このスキルの存在を測りかねたシキは二人にそう聞いた。
「ううん、ないよ」
「んーないな」
そうか、と二人の返答に頷いて、シキはもう一方のスキルを取得するためクエスト一覧を見る。するとそこには受けたはずのないクエストが出現していた。
クエスト名、《偃月刀》修得クエスト。
内容、第30層主街区北の山の洞窟に入る。
条件、一人のみ参加可能。
となっていた。
「悪いが明日用事が出来た」
そう言ってシキは二人にクエストウィンドウの画面を見せた。
「何何、《偃月刀修得クエスト》だ?」
リュウはシキのウィンドウを見ながら音読をした。
「何それ、エクストラスキル?」
サイカもリュウの音読を聞いてシキに質問した。
「ああ、なんか薙刀の熟練度上げたら出るみたいだ」
「ふーん、わかった」
サイカはそう言ってから、あくびをしてベッドに潜り込む。
「オレもそろそろ寝ようかな」
リュウはサイカが寝たのを見て、釣られたようにあくびをしてから自分の寝る部屋へと移動した。シキも日付が変わったところで、タイミングが良いと思い、明日に備えて布団にもぐりこんだ。因みにデスゲーム開始当初から、リュウは違う部屋だがサイカとシキは同じ部屋でいつも寝泊まりしている。さすがにサイカも、大学一年間の付き合いしかないリュウと一緒に寝るのには、忌避感があったのだろう。
その点シキは幼稚園からの付き合いで、知らないことはないほどの親しい間柄である。彼女にとっても彼にとっても家族を含めても、一番落ち着ける、気の置けない相手なのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、朝食をとったシキは第30層の北の山へと足を運んだ。北の山の洞窟というアバウトな指定であったが、マップを見てみるとしっかりクエストの開始位置が記されており、虱潰しに洞窟を回るという事態は避けることができた。
シキは洞窟の中に足を踏み入れる。同時にクエストが開始された。その洞窟は不自然なほどに静かで、モンスターが一匹もポップしなかった。シキはそのことを怪訝に思いながらも一歩一歩慎重に洞窟の奥へと進む。歩くこと5分ほど、シキは洞窟内部の開けた空間に出た。その空間は縦横50m、高さ5mもの大空間だった。
そしてその明らかに何かある場所にシキが足を踏み入れると同時に、壁面に備え付けられていた松明が入り口側から順に点灯。
その光が洞窟内の空間を満たしていき、最後には第空間の最奥に鎮座している漆黒の甲冑を着、背に盾を背負う騎士と、その手に握られる地面に突き立てられた巨大な剣、さらにその横に突きたてられている、ポールウエポンをシキはその目に捉えた。そのポールウエポンこそ今回の目的であろう《偃月刀》である。
松明が全て点灯すると黒騎士はゆっくりと金属音を響かせ立ち上がり、背負っていた盾と付き刺されていた巨大な剣を手に取った。そしてHPバーが4本展開される。
シキは相手の情報を得るためスキルを用いて詳細を探る。
しかしそこには《Unknown》と表示されるだけだった。シキのレベルは現在50弱であり、少なくともこの黒騎士はレベル50以上ということになる。
シキは眉をひそめながらも、背負っていた薙刀《弁慶》を抜き放ち、如何なる攻撃にも対処できるように備えた。彼と異様な黒騎士の距離は40mほど、それが刻一刻と縮まっていく。
その距離が10mほどになった瞬間、フルアーマーに似合わぬ俊敏な動きで持って黒騎士はシキに斬りかかる。その刃は光を纏っていた。
シキは黒騎士の第一撃目をしっかりと受け流し、反撃の攻撃をしかけ横っ腹になぎ払いを仕掛ける。しかしその攻撃は黒騎士の左手に持っている盾によって軽々と防がれた。プレイヤー相手にすれば確実にのけぞるほどの攻撃だったにもかかわらず、黒騎士はなんの反動もないような素振りでシキの攻撃を受けきってみせた。
シキは距離を取りつつ、この黒騎士をどう倒すかを考える。
通常プレイヤーが相手なら盾持ちといえども、薙刀の遠心力の乗った攻撃を何度か仕掛けたりすることで、シールドを弾き飛ばして攻撃ができる。しかしこの黒騎士はただの攻撃ではのけぞりすらしない。
ソードスキルを使い、強力な一撃でも見舞わない限りその堅牢な防御は崩れることがないだろう。しかしソードスキルを使い、もしひるみすら与えられなかったのならば、ディレイを叩かれることは目に見えていた。
その後、シキは何度か鎧の関節部分に攻撃をカウンターで入れることに成功するが、ソードスキルでないのがいけないのか、相手に全くダメージが通っていなかったのだ。
戦闘が始まって5分ほど経った辺りで、シキは黒騎士の甲冑のある繋ぎ目を狙った。その繋ぎ目は背中にある甲冑を留めておくための紐の部分である。
シキはそこ以外に弱点はないと数分の打ち合いで見極めた。
狙い始めたは良いものの、黒騎士もそのことが分かっているように盾や剣で防御をする。今までただの甲冑部分への攻撃には、そこまで防御を取らなかったのにである。
この行動がシキの考察を是としていた。
シキは何度目かわからぬ黒騎士の攻撃に対し、前に踏み出した。そして黒騎士の右袈裟切りを潜り込むようにして抜ける。黒騎士の左を抜ける瞬間、シキは反転し黒騎士に向き直ったかと思うと、後方に飛び退りつつ薙刀を振りあげた。するとついに黒騎士の甲冑を留めておく紐を切断することに成功。黒騎士の身体から甲冑が落下する。金属音を響かせ地面に落ちたとかと思うと、甲冑はポリゴン片となって霧散した。
直後、黒騎士が声を上げる。
なんといっているのかもわからぬほどに巨大な声だ。その咆哮を聞いたシキは、一瞬その大きさと迫力に呑まれた。洞窟の閉ざされた空間での大音量に、少しだけひるんだシキを無視し、黒騎士はその手に持った剣と盾を捨て、最初に鎮座していた場所に突き刺さったままのポールウエポンを引き抜いた。ついに黒騎士は得物を《偃月刀》へと変えたのだ。
薙刀に比べその刃渡りや刀身の大きさ、何もかもがより頑強になっている。黒騎士は甲冑という枷がなくなったためか、その身のこなしは甲冑を着ている前とは雲泥の差だった。
シキが黒騎士のエモノを見て《偃月刀》だと把握した瞬間。黒騎士は、10mはあろう距離を一足で詰め、シキの足を斬り払った。
シキは黒騎士が詰めてきたのと同時に、偃月刀の刀身が淡く光っていることに気付く。
黒騎士の縮地のような速度に全く対応できなかったシキだったが、間一髪で足を狙った斬り払いはジャンプして回避に成功する。
シキは普通ならジャンプなどで回避をせず、後方へ飛び退る。
だが、今回は後方への跳躍を許さないほどの接近速度だったのだ。そして黒騎士の手にある偃月刀は未だに光を帯びている。それを見てとった瞬間シキは悟った。
「しまっ……!!」
シキに初めて焦りという焦りを顔に出した。これが単発技でなく、一連の動作で敵を捉える《ソードスキル》で、一撃目の斬り払いは飽くまで布石。
黒騎士は足への斬り払いから流れる様に偃月刀を大上段に構えた。シキは未だに ジャンプをして着地をしていない中空である。
この一撃をまともに受けたらHP全損は免れられない、そうシキの勘は警鐘を鳴らす。
だからシキは偃月刀の光を見た刹那、空中にいることから、避けることをやめ自身のエモノの薙刀を防御の体勢に構える。
大上段からの《ソードスキル》だ。パリィで逸らすこともかなわない。
シキが防御の構えを取った後、瞬く間も与えずに黒騎士は偃月刀を振り下ろした。シキの薙刀とぶつかり火花を散らす、それも一瞬だった。
シキが火花を散らしたかと思った直後、彼のエモノが大上段からの唐竹割に叩き折られたのだ。
十分な耐久値があったはずなのにである。そしてそのままシキの身体を深く切り裂き、刀身は地面と接触し爆音を鳴らした。
斬られた衝撃でシキは後方に大きく飛ばされる。シキは斬られた不快感に唇と眉を歪めるも、吹き飛ばされた勢いを利用して立ち上がる。
「なっ!?」
シキはダメージを確認するために、自身のHPを見た。そこには9割ほど削り取られていたHPバーがあった。
黒騎士の先の斬撃で、シキは左肩口からそのまま下の左腰に抜ける様にして深く斬られていた。それと同時に、シキの防具の耐久値がなくなったのかポリゴン塊となって消え去る。
一連の状況確認を数瞬で終えた瞬間、シキは洞窟の外へと走り出す。
戦略的撤退である。
走りながらもシキは回復結晶で回復を済ませ、後ろから迫る金属音を無視し、洞窟をものの数秒で駆け抜けた。
洞窟の外に飛び出したシキは、入り口から距離を取り、予備の武器を取り出し追撃が来ないことを確認した。どうやら黒騎士は洞窟の入り口までは来ないようだった。
シキは安堵のため息をついた。
「9割吹っ飛ばすとか、ありえねぇだろ」
ついついシキは狂ったダメージ具合だったので、叔父の設定に文句を零した。
シキは速度と力を兼ね備えた黒騎士を倒す術を考えながら、破壊された《弁慶》をどうにか直せないかと思いつつ、リズベットのところに向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
現在中層組と呼ばれるプレイヤーたちの活動拠点である、第25層主街区広場にリズベットはいた。
「ようリズ」
「シキさん、おはようございます。武器の手入れは昨日しましたし、どうしたんですか?」
現在の時刻は午前11時過ぎで、シキがいつもメンテナンスを頼みに来る午後5時でないのが珍しいのか、リズベットは疑問を口にした。
「ちょっと武器が壊れてさ」
そう言ってシキは、先程黒騎士に叩き折られた薙刀を取り出してリズベットに渡した。
「壊れた!? どういうことですか、昨日メンテナンスして耐久値は全快だったじゃないですか」
「ちょっとした不手際でな」
シキは頭を掻きながら、ぼかして答えた。
「で、こいつは直せるのか? あと防具も壊されたから新調して欲しいんだ」
そして、先程防具も塵と消えたことを思い出し、シキは追加注文した。
「……ん~、ギリギリ薙刀は修復できるみたいです。防具はどういうものが良いですか?」
リズベットは何か聞きた気だったが、好奇心を抑えてシキの薙刀を見た。
シキは薙刀が修復できることに安堵のため息を付き、防具の注文をした。
「前と同じで防御より、スピード重視のやつにしてくれ」
シキが現在使っている薙刀は第一層《はじまりの街》で購入した薙刀を強化、進化させて来たものだ。このデスゲームを共に過ごしてきた相棒なのだ。
「了解です。……あ、スピード系の材料が切れてますね。ありますか?」
「エギルに聞いてみる」
シキはリズベットに渡されたメモ見て、在庫があるかエギルに確認をした。
数分後エギルからの返答があり、シキはそれを取りに行った。
「これでいいか?」
「オッケイです」
そう言ってからリズベットは鋼材とその他の材料を、手順通りに手を加えていった。完成する間、シキは黒騎士に再戦するべく作戦を考えた。
「できました」
「お、ありがとう」
シキはリズベットに手渡された防具と修復された薙刀を装備した。
「防具はスピード系の素材を使ってますし、前の防具は中層組レベルだったので、明らかにステータスが上がってると思いますよ」
「まぁ25層位の時に新調したやつだったからな」
シキのその言葉にリズベットは苦笑いするしかなかった。防具だけ見れば、シキは中層組に交じっても違和感がないほどなのだ。
彼が防具をあまり変えない理由の一つに、攻撃を受けないということがある。シキの戦い方は非常に単純でヒット&アウェイである。故にステータスの上げ方はAGIよりである。そして薙刀という長柄の武器ということもあり、パーティで行動する際に攻撃を受ける回数はほぼ0である。
故に今回ダメージを受けたのは本当に久しぶりのことだったのだ。
時刻は13時を回った頃。シキは空腹を満たして、再度黒騎士を倒しに向かった。
あの尋常でない火力は攻撃を受けたのなら、先のように半分ほど持っていかれるかもしれない。しかしシキは初見ではなく、二度目の挑戦だ。
シキは大きく深呼吸をしてもう一度洞窟に足を踏み入れた。
洞窟の通路に黒騎士はおらず、先程の開けた空間に何事もなく辿りつく。
それと同時に先程のイベントシーンが訪れる。最奥に鎮座する黒騎士はHPバーを4本残した状態で偃月刀を手に持って立ち上がる。上部の鎧は復活していない。
黒騎士は立ち上がった瞬間、偃月刀を光らせた。初撃は足払いと決まっている。
シキも先の突進の二連撃が来ると予想。大刀系突進技の《ソードスキル》である《フロントインパクト》を発動させる。
シキは薙刀を左中腰に構え、突っ込んできた黒騎士に合わせて突撃する。初撃足払いだとわかっているのなら話は簡単だった。
シキと黒騎士双方のレンジに入った瞬間、黒騎士が先に両手で右腰に構えた偃月刀を、地面数十cmの高さで横薙ぎに振るう。
シキは初動で先と同じ技だと確信。加速した意識の中で、やはりと思いつつシキは黒騎士の右側へ抜ける様に、横薙ぎを避けるため跳躍。黒騎士の足払いは空を切る。
シキはすれ違いざまに、自身の《ソードスキル》である左からの薙ぎ払いを振り切る。狙った場所は鎧の無い脇腹。狙い違わず、黒騎士の左脇腹を抉るようにシキの薙刀は切り裂いた。
プレイヤーならば10mは吹き飛ぶノックバックを受けて、黒騎士は《ソードスキル》の二撃目を中断させられる。しかし《転倒》にならずに黒騎士は未だに立っていた。
シキはこの《ソードスキル》を浴びて、《転倒》状態にならない敵がいるのかと驚愕した。25層のフロアボスくらいしかそんな頑丈な敵は見たことがなかったのだ。しかし、状態異常にならない代わりに黒騎士は自身の凄まじい速度とシキの速度を合わせただけの甚大なダメージを受けていた。このSAOでは速度は力にしっかりと変換されるのだ。今回は黒騎士自身の速度がアダとなったのだ。
その証拠に黒騎士のHPバーは今の攻防だけで1.5本以上吹き飛んでいる。
シキと黒騎士の硬直は同時に解けた。
黒騎士は偃月刀を片手に持ち替え、先の速度とは打って変わってゆっくりとシキへ歩み寄る。双方の距離が5mをきった時、黒騎士は踏み込みながらソードスキルを発動させた。
片手持ちであるにも関わらず素早い右からの薙ぎ払い。
シキは余裕を持って躱すが、片手のままソードスキルを使ったことに対して驚いた。
通常武器は両手持ちか片手持ちかが決まっている。故に、ソードスキルを発動させる時は必ずその持ち方に準じなければならないのだ。だが偃月刀はどうやら両手、片手どちらでもソードスキルを使うことができるのかもしれない。
そう分析したシキは横薙ぎに振られた偃月刀のリーチが、急に伸びた錯覚を受けた。幸い余裕を持った回避だったおかげでシキにはヒットせず空を切る。黒騎士が使用した偃月刀ソードスキル《幻無》によるせいだ。
この機を逃すまいと錯覚を振り払ったシキは、ディレイした黒騎士に向けて大刀系重単発技《ライズブラスト》を発動させた。《ライズブラスト》は技を出すまでが他のソードスキルよりも時間がかかるが、敵を下から切上げあげ空中に飛ばして激しいノックバックを受けさせる技であり、さらに相手が滞空している間にソードスキルの技後硬直は解ける。まともに防御したとしてもよほどの重装備でない限り、打ち上げられてしまう威力なのだ。
ディレイをした黒騎士はシキの攻撃避けることができずにヒットする。いままで微動だにしなかった黒騎士の巨体が少しだが中空に浮く。シキは硬直が解けるなりすぐさま、大刀系重単発技《一閃》を発動。これまた発動までに時間がかかる技であるが、吹き飛ばし能力と威力は絶大である単発の水平切り。
生当てではほぼ使えない技だが、このようにコンボの〆としてならば重宝する。
シキは両手に持った薙刀に力を込める。黒騎士が落下して足が地面に 着くか否かの瀬戸際。
「吹き飛べ!!」
呼気と共に紫の光が黒騎士の無防備な喉を切り裂く。
黒騎士はどうにか防御を試みたものの、紫電の一閃には無意味であった。
クリティカル判定と共に黒騎士が、後方へ大きく吹き飛ばされる。シキが今現在出来うる最大のコンボ技だ。シキは技後硬直の際に、敵のHPを確認。残りHPバー1本と少しである。
シキは自身に生じた確かな高揚感に口角を上げる。
たたみかけろ、シキは自分を鼓舞して立ちあがった黒騎士めがけて突貫した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いやー、危なかった。死ぬかと思ったわ」
シキはそう言って今日昼過ぎに行った激闘を少しだけ自慢げに話していた。相手は現在偃月刀を作っているリズベットと、丁度は鉢合わせしたエギルにだった。
「お前良く生きて帰ったな……」
エギルがそう言うのも無理はない。シキが死闘を繰り広げた黒騎士のレベルはモンスター図鑑で確認したところ60だったのだ。本来偃月刀スキルはそれほどのレベルに達して手に入れるものだということなのだ。
そう言うこともあり、偃月刀の要求STRは尋常ではなく、名無しの偃月刀の要求値ですらシキのSTRを超えていた。しかしシキは単独でボスモンスターをクリアした恩恵として、莫大といっていいほどの経験値を取得している。しかもレベル差があったものだから、なおのことボーナス経験値を貰っていたため、レベルが上がっており、その時のポイントでギリギリ扱えるSTRまで底上げが出来たのだ。素材はギルドに保存されていたレアな鉱石ばかりだったので、シキはエギルに小言を言われた。
「昼間来たのはそれが原因ですか?」
リズベットは昼間突然訪ねてきたシキを思い出して、疑問を口にした。
「昼間?」
「ああ、一回挑んだら一発で、HPを9割持ってかれた時は血の気が引いたね」
シキはそう言っておどけて肩を竦めて見せた。
「……よく再戦しようと思ったな」
エギルはそう言いながら手を頭に当てて首を振っている。
「いや、最初の一撃だけは尋常じゃない速度だったんだよ」
ま、一回見たから二回目はカウンターを決めたがな、シキはそう付け加えて得意気にして見せた。その顔は誰が見ても分かるほどに「どうだ」という顔をしている。
「何かおかしいとは思ってたが、お前はバカだったんだな。そう思うと今までつっかえてたもんがすっきり取れたぞ」
エギルは何を言っても無駄だと思い、今までのシキの戦闘で感じていたことを全てバカの一言で済ませた。
「バカとは失礼だな」
シキは未だに興奮しているのか少々テンションが高く、心外だといった。
「ま、無事で何よりだ。次からは無理すんだよ。俺が悲しまなくてもサイカちゃんがか悲しむからな」
悲しめよ、シキは心の中でツッコミを入れた。
「……そうだな、あいつに泣かれちゃ俺はもろてを上げて降参するしかないからな」
そう言ってシキは降参のポーズを取って見せた。
「そういえば、シキさんってサイカさんと付き合ってるんですか?」
リズベットは偃月刀を作りつつも、女子の色恋沙汰への好奇心を発揮させた。
「ん~、別に付きあってはいないが」
「が?」
エギルがニヤリとした顔で先を促し、リズベットが手を止めて聞く。
「あいつと一緒じゃないことも考えられないな」
シキはいたって真面目にそう答えた。
「惚気てくれるじゃねぇか!」
エギルはシキの答えを聞いて、シキの腹を腹いせに殴る。圏内であるので意味のない行動であるが、やらずにはいられないのだ。
「サイカさん、幸せだろうなぁ」
リズベットは恋に憧れがあるのか、まだ見ぬ恋人に思いをはせていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここが指定の場所……」
男は少しの不安と復讐ができると言う高揚感で満たされていた。場所は中層より少し下の階層のダンジョンの休憩エリアである。
「よう、あんたが依頼人?」
音もなく現れたシルクハットを目深にかぶった男に驚きながらも返答をした。
「ああ、依頼をしたロニだ。あんたが《Friday the13th》?」
「そうだ。ふーん」
カーソルが緑のシルクハット男は品定めでもするかのようにロニを下から上へと見た。
「……なにか?」
「いや、オレはラウルだ。付いてこい、お目当ての者を見せてやろう」
ラウルはそう言うとさらにダンジョンの奥へと進み始めた。ロニは言われるままにその後を付いて行った。
ダンジョンを進んだ先にあるもう一つのモンスターがポップしない場所で、ロニは想像を絶するモノを見た。
そこにいたのは石で出来た椅子に縛りつけられた女と男の二人だ。そしてロニにはその顔に見覚えがあった。彼を騙したギルドのうちの二人だ。しかしギルドのメンバーは4人だった、他の二人はどうなったのか気になったロニは質問を口にした。
「あと二人は?」
「ん? ああ殺したって言ってたぜ」
ラウルは口角を歪めながら何でもないように言った。
「殺した……だって?」
ロニには信じられなかった。いや、薄々気付いていて分かっていて頼んだのかもしれない。犯罪ギルドに依頼を頼むとこうなることを。
「ボス、連れてきましたぜ」
「ん? おおよく来ましたねロニ。私はジャック」
先程まで椅子に縛られた男の近くにいた、ジャックと名乗った仮面で顔を覆った男は、実にさわやかにそう言った。
「あ、ああ」
「丁度よかったです。これからパーティーの時間ですよ。とっておきのショーをお見せしましょう」
そういやジャックは大鎌を持った男を呼び寄せ、何かを話した。鎌の男は頷いてもう一度縛り付けられた女のところに行き、ポーションを飲ませた。これから殺そうと言う相手にである。
女のHPが回復し終えると鎌男はエモノを振りあげ四肢を切断したのだ。所謂部位欠損となり、女は恐怖に涙と呻き声を垂れ流す。痛みはないはずなのに幻痛でも感じているかのようだ。
声が出ないように口には何か詰っている。縛り付けられた男は女を見て涙を流し悔しそうな顔をする。そういえばとロニは思い出す。あの二人は付きあっていたんだと。
そこにいるジャックは至極上機嫌で鼻歌まで歌っている。
ロニはもう一度女を見る。タイミングを計ったかのように鎌男は野球のバッターの構えを、バットの代わりに鎌を用いてした。ロニは何をする気だと思ったが声には出ない。
鎌男が踏み込むとともに鎌の刃が女の首を刈り取った。涙に歪んだ顔がロニの目の前に落ちる。そして何事もなかったようにポリゴンの欠片となって消えた。ロニがあまりの衝撃に尻もちをつく。ポーションを飲ませたのは四肢を切断した際に死んでしまうと面白みがないということだったのだ。
「ん~実にスマートな殺し方です」
ジャックは首を上下させ、上出来だといった態だ。
「次はどうしましょうか。……そうだドレッド、君がやってくれたまえ」
「了~解」
気だるげにドレッドと呼ばれた少年は立ちあがる。ロニはその声でそこにドレッドという男がいたことに初めて気付いた。
「あ~ぁ、お兄さん気の毒に」
ドレッドは縛り付けられた男――ラースを見て、本当に気の毒そうに言葉を掛けて大腿部に貫通属性のナイフを付き刺した。
「クヒッ」
ドレッドは奇声のような笑い声を上げると、先程までの相手を心配した表情から一転。喜々とした表情をしてナイフを一本、また一本とラースの身体へと刺していく。
ラースのHPが全損仕掛けた瞬間、ラースは恐怖に顔を歪める。だが、ドレッドはラースの口に無理やりポーションを突っ込み、HPを回復させる。刺したナイフを取り除き、ドレッドは腰に差していた大型の直剣をラースの腹部へとジワリジワリと差し入れて行く。ラースは不快な感覚に眉をひそめ、死の恐怖と悔しさに涙した。
「大人の男が泣くなんて駄目じゃないかぁ」
ドレッドはラースの涙を嘲笑して、今度は腹部ではなく喉に刃を付きたてた。ドレッドはまたもラースのHPが消えかける時、ポーションを使った。まるで拷問のように続けられる光景見て、ロニは正気ではいられなくなっていた。
「あ、ぁぁ」
口からは言葉にならない声が漏れる。
何度目かの繰り返しの後に、ドレッドは飽きたのかラースをポリゴン片へと変えた。
「まぁまぁの催しでしたね」
ジャックは肩をすくめて見せた。まぁまぁと言う割には口角が上がっている。
「これにてあなたの依頼は終わったのですが、残念ながらあなたには死んでもらわねばなりません」
ジャックはそう言って至極残念そうな顔をした。それと同時にロニはハッとなり、逃げようとした瞬間、両腕を左右から掴まれ自由が利かない状態にされていた。
「私は先程のように何度も死の体験をさせたりはしませんのでご安心を」
そう言ってジャックは手にナックルダスターを装備した。
「や、やめろ、やめてくれ!!」
どうしてこんなことを、ロニは助けを請う。
「いいですねぇ、もっと懇願してくださいよ」
ジャックは恍惚とした表情で右拳を突き出した。
サイコ野郎ってのはどんな感じなんですかね。あまりそう言うのを見ないんでわからないんです(^^;
誤字脱字の指摘、質問感想お気軽に。