SAO ~無双の矛~   作:鴉鷺

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e.p002 始まり

 クローズドベータテストの最終週で暴れまわったこともあり、夏輝はアバターの名前をナツからシキに変えた。シキとはそのまま夏→四季から来ている。

 シキはログインシークエンスを素早く終わらせた。名前は変えたにもかかわらずアバターはβ時代の流用している。赤いアシンメトリーのショートといった髪型と、180㎝はある身長だ。現実では夏の身長は170㎝半ばであり、理想がこの身長といたところだろう。

 シキはログインを終了させると、もう一度《始まりの街》へと帰ってきた。何週間ぶりだろうか、という思いが最初に想起した。外見は初期状態で武器の類は勿論、アイテムはひとつも持っていない。例外として初期装備を整えるためのコルを幾らか所持しているくらいだろう。シキがログインして、幼馴染を待つこと数分。近くに女性のプレイヤーがログインしてきた。その顔はシキがよく知る幼馴染と瓜二つだったのだ。

「おい、彩夏。なんでアバターのデザインがリアルと一緒なんだよ」

 シキはこのゲームを始める際にリアルと一緒の顔にするな、と言ったにもかかわらずそれを忘れたかのように無視したのだ。

「だって、面倒。それに夏輝だってほぼ一緒じゃない」

「バカ言え、俺は身長を伸ばして髪を赤く染めてるだろ」

「髪の色と身長が変わっただけって……」

 さすがの彩夏も苦笑いを禁じえないようだ。そう言う自身も髪の色が違う程度だ。

「そんなことはいい。ハンドルネームはなんだ? オレはシキだ」

 いつまでもリアルの名前を呼び合うわけにも行かない、と思いシキは聞いた。

「サイカよ」

「了解」

 シキはそう言うと、手馴れた動作でウィンドウを開いてフレンド申請とパーティ申請をした。サイカは目の前に出てきた半透明の画面をみて、どちらも了承のボタンをタップした。

「じゃあまず武器を買わないとな」

 シキはそう言うと武器屋の方へと歩いていく。その横にサイカもならんで歩いていく。

 武器屋で武器を購入した時ちょうど、シキにメッセージが届いた。差出人の欄にはリュウと記されている。

 内容は「俺もゲットできたぜ。今どこにいんの?」である。

 シキは差出人が誰だかわかっているので、返信を素早くした。

 程なくして真っ青な髪をした青年風の冒険者が、武器屋へとかけてきた。彼はリアルでシキとサイカの友人である。リアルの優男風のイケメンから、ガテン系のイケメンとなっている。

「よう、運良く手に入ったか」

 シキがよかったなといった調子で、リュウに話しかけた。

「ああ、全くスゲェよ。この世界。現実との区別がつかないじゃねぇか」

 リュウは一言端的な感想を述べて、シキの横にいるサイカを見た。

「あれ彩夏ちゃんもリアルとあんま変わんないな」

 この日ログインする前に既にサイカもログインすると伝えてある。

「めんどかったらしい」

「はいはい、そんなことはいいから、ほら早く戦いの指南してよ」

 サイカもシキの扱いには慣れたものだ。

「よし、草原へ繰り出すぞ~!!」

「おい、アホ勇み足なのはいいが、ちゃんと武器買ってからにしろよ」

 リュウは踏み出そうとした足を戻し、武器屋で短槍と盾を購入してから先頭を勇み足で歩きだした。因みにサイカの武器は片手剣にラウンドシールドだ。

 

 草原。そこでは某ゲーム的にはスライム相当のモンスターである《フレイジーボア》なる猪がポップする。Lv1であり、動きも単調である。完全に初心者用のモンスターだ。

 シキは最初に手本を示すように薙刀を構えた。シキの装備は武器屋にはじめからある最初期の薙刀だけで、防具類は一切購入していない。第一層では動きを阻害する防具ばかりなので買わない気なのだ。勿論敵からの攻撃を受けないという前提条件があるのだが。

「いいか、この世界ではしっかりと重力の力や、遠心力なんかも計算されているらしい。だから――」

 そう言ってからシキは、突進してきた《フレイジーボア》の脳天めがけて薙刀を叩きおろした。

 クリティカルエフェクトが出て、一撃のもとにポリゴンとなって四散する。

「上からこうやってぶっ叩けば一撃だが、横からなら一発じゃ死なない」

 続けてポップした《フレイジーボア》の頭を横に切り裂く。モンスターのHPは7割ほど削られている。

「そして、このゲームで一番重要なものは《ソードスキル》と呼ばれるものだ。こいつは初動をある程度システムに検知させれば勝手に動いて発動してくれる。そして威力も通常攻撃よりも段違いで強くなる」

 残りのHPを0にしたシキは、近くの《フレイジーボア》に《ソードスキル》を発動させた。真横一文字の攻撃である《スラスト》だ。それはモンスターのHPを一撃で0にせしめた。

「わかったか?」

「なるほど」

「へぇすげぇな」

 どうやらリュウもサイカも理解できたようだ。

「まぁ慣れれば簡単さ。リアルの体動かすよりもな」

 シキはそう言って肩を竦めてみせた。シキの基礎の基礎のアドバイスを受けた後、二人は所々にポップした《フレイジーボア》をコツがつかめるまで狩っていた。二人がそうしている間、何もしないという選択肢はシキにはないらしく、地面に落ちている石を拾って《投擲》スキルで猪を挑発して、突進を一歩で横に避けて脇腹にただの蹴りを入れる。その度に猪はうめき声を上げる。または狼に似たモンスターに石を投げて戯れている。これを動物愛護団体が見たら猛抗議を繰り出していただろうことは容易に予想できるだろう。

 幾ばくかほど狩りをしたあとにシキは、第一層の森へと二人を引き連れていった。理由は簡単なことで、片手直剣装備のサイカのために《アニールブレード》を取得することだ。この剣があれば当分の間装備は困らない。結構な道のりになるが三人のパーティであり、経験者のシキがいるので、辛い道のりということはない。 シキ以外の二人も先のシキ式チュートリアルでコツは掴んだので、足でまといになることもなかった。

 しかし目的地のある森が見えたところで、三人が同時にその場から跡形もなく消えた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「なんだぁ?」

 飛ばされてから、最初に声を出したのはリュウだった。

「ここって最初の広場?」

「そうみたいだな」

 順にサイカとシキも周りの人々を見渡した。そしてその人々は口々にログアウトさせろだの、GMを呼べといきり立っている。そのことを聞いたシキはメインメニューを開く。するとメニューの端にあるはずのログアウトボタンがなくなっていたのだ。

「ほんとにないな」

「どうすんのよ」

 喧騒にかき消されそうな程の小声でサイカは言葉を発した。その直後空に警告の文字が溢れ出る。そしてその中央付近から真紅の雫がこぼれ落ちた。しかしそれは地面に落下することなく空中で形を変えていき、20mはあろうかというほどの真っ赤なフード付きローブとなった。ローブの中に人は入っていない。

 シキにはそれに見覚えがあった。ベータテスト時にGMとなった者がまとっていたものだ。だが、ベータ時はアバターが存在しており、身長も通常と同じだったのだ。

 シキは眉を潜めた。伯父の作ったこの鋼鉄の城で起きたトラブル。伯父の性格からしてこれは起こるべくして起こったものだとの推測が、彼には出来た。そしてそのローブから声が流れ出たとき、シキはこれから何が始まるのかを悟った。

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 シキにはわかる。紛れもない伯父、茅場晶彦の声だと、そして《SAO》の製品版を貰うときに付属していた言葉の意味も、すべてをこの一言で理解した。

 シキに伯父である茅場は推奨しないといったのだ。

 それはなぜだ? 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 シキはやはりと思い確信を深める。周りのプレイヤーたちは驚愕の表情になっている。

『プレイヤーの諸君は既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。これは不具合ではない。《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』

 ここでシキは伯父が何をしたいかをほぼ理解した。周りの人々は言葉の意味を反芻しており、思考が停止している。

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、このゲームから自発的にログアウトすることはできない』

 シキは思うなぜこのようなことをしようと思ったのかと。そうだこの浮遊城はシキがまだ年端もいかない子供だった頃から、ずっと伯父に聞かされてきたものだ。彼の伯父の話にシキ自身、食い入るように目を輝かせて聞いていたのを、昨日のことのように思い出せる。

 予想するにこの世界の完成がシキの伯父である茅場晶彦の最終目標だったのかもしれない。

 シキが自身の思考に没入していると、既に説明は佳境に差し掛かっていた。

『――現実というべき存在だ。……今後あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは消滅、同時に……諸君らの脳は《ナーヴギア》によって破壊される』

 伯父は本気だ。何度も何度も接してきたシキにはわかる。外部からの救助はありえない。伯父の計画が頓挫したことは今まで皆無だ。

 シキは少し身震いした。怖いのではない。武者震いだ。伯父の具現化したこの世界に1万ものプレイヤーを閉じ込める。その完全な意図は測れない。

 だがシキの第六感は最後のボスとなるであろう伯父を、殴りに行くために進めと決意させた。

『それでは諸君らにこの世界が現実である証拠として、ひとつのアイテムを授けよう。確認してくれたまえ』

 言われるやいないや、集まった人々は一人残らずアイテムストレージを確認した。シキたちも例外にはならず、アイテムストレージ内にあった手鏡を物体化した。

 瞬間人々は光の柱に包まれる。それも一瞬、光が消えたあとは、ファンタジー世界の美男美女はおらず、コスプレをしている日本人が量産された。そして男女比も見るも無残な状態となっていた。

「ああ!! おれのガテン風イケメンがぁああ」

 横ではリアルでよく見るリュウ自身の顔の造形になっている。そして、リュウと同じだったシキの身長は低くなってしまった。顔だけでなく体格までも現実世界と告示させている。これはナーヴギア装着時に行ったキャリブレーションの影響だ。

『――私の目的は今達成せしめられた。……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』

 そう言うやいなや、先までの赤黒かった空はもとの空へと変わっていた。《はじまりの街》の中央広場に集められた、1万のプレイヤーはしばし沈黙した。彼らは茅場のやりたいことの意味がわからないのだ。しかしその混乱の極地も過ぎ去る。その瞬間人々は声を上げた。絶叫、怒号、罵声と様々な意味の言葉が飛び交う。

「夏輝、これって」 

 その中で珍しく冷静な対応をする者たちも少なからずいた。その内の一人であるシキは、幼馴染のサイカの疑問にしっかりと答えた。

「ああ、伯父さんはマジだ。あの人は冗談を言わない」

 できるだけ不安にさせないように言葉をかけようとする。しかし結局は今の現象を確固たる事実としただけだった。

「なら、これは本当にデスゲーム? ってことになるのか?」

 リュウは茅場の言葉に混乱していたが、近くに全くと言っていいほど動揺していない人物がいたから冷静さを取り戻せた。

「そうだ。お前らはどうしたい。 俺は必ず伯父さんはこのゲーム内にいると思う。どこかで必ず現れるはずだ。多分最上階第100層だ。だから俺は上を目指す。伯父さんを殴るためにな」

 シキの目には純然たる意志が存在した。伯父の本当の信義を聞きに行くために彼は進むといったのだ。

「ふん、ならおれもお前と一緒に行くぜ」

 リュウはようやく口角を上げた。

「私も行くわ。あんたを一人にしておけないし、何もしないよりもまし」

 サイカもいくと決めた。

「よし、命の危険があるが最も効率のいいレベリングをするぞ」

 シキはそう言って、いまだ混乱の坩堝とかしている中央広場から再度、《アニールブレード》を求めに駆け出した。彼が知っている情報は第10層までだ。そこまでのスタートダッシュで一気にレベルを上げる。デス・ゲームとなった今、うまくやれば一人でするよりも、効率は上がるだろう。

 シキら三人が中央広場から抜け出て、街の道を走っていると二人のプレイヤーがいた。一人はまだミドルティーンの少年で、もう一人は後ろ姿であり、背丈などから類推するに大人の男性だ。どうやらシキと同じように考えて、スタートダッシュを切るつもりだったのだろう。

 そう思いつつも赤の他人のことなど、気にする気などないシキたちは二人の脇を駆け抜けていった。

 

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