SAO ~無双の矛~   作:鴉鷺

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e.p003 パワーレベリング

 アインクラッド第一層は直径が十キロもあり、この浮遊城で最大の面積を誇る階層だ。南端に位置する《はじまりの街》から各プレイヤーは北上しつつ、高くそびえる黒の柱を目指す。その柱には上層へと行けるダンジョンが設置されている。第一層のダンジョンの階層は全20からなるものだ。サービス開始のチュートリアルを聞いたプレイヤーは各々の選択を迫られることとなった。あるものはHP全損を恐れ街に篭る決意をし、あるものは自分たちでこのゲームを攻略しようと意気込みをした。

 ベータテスターである者は自身の持っている情報を最大限生かす形として、利己的になるものが多い。なぜすぐにでも周りのニュービーに教えないのか、と思うがこれもまた人の性だろう。誰だって優位性を持っていたものだ。それが、デス・ゲームという極限の状態となればなおさらだろう。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 シキたち三人は《はじまりの街》を全プレイヤーで初めに飛び出した。ニュービーだろうと、ベータテスターだろうと、茅場晶彦のチュートリアルの意味を測りかねていたからである。そして、外部からの救出が来ると半ば信じていたのだ。そういうこともあり、茅場晶彦の人となりを詳しく把握できているシキは、この現状に打開策は茅場が提示した方法以外ないと確信を持って行動したのだ。

 

「そろそろ目的の村に着くぞ」

 

 シキはレベルが低くとも、そんなことは関係なしに目的地まで一直線で進んだ。通常直線で進むと、レベル的には厳しいモンスターとかち合うので、他のベータテスターは迂回して目的の村へと行く。シキたちの前にモンスターたちが現れるが、しかし対処法を知るシキとそれを教えられた二人との連携によって、確実に屠っていった。こちらの攻撃があまり効かなく、あちらの攻撃で大幅に削られようとも当たらなければどうということはないのだから。そのためか三人ともレベルが一つずつ上がっている。

 

「まずは村の民家でクエストを受ける」

 

 道中にその説明はあらかじめサイカとリュウにはしてあるようで、シキはホルンカの村に入ると迷わず一件の民家の戸を開けた。住人の話を聞いて、病に倒れた人のために《リトルネペント》の花付きからドロップするアイテムを取得して来い、というものだ。実際のところ《アニールブレード》が必要なのはサイカのみだ。しかし、それなりの値段で売ることができる。勿論プレイヤー相手にだ。

 

「まずは特になにもない。《リトルネペント》を狩り続けて、花付きが出たら即座に倒す。それを繰り返していく。実付きは無視しろ。さっき言ったとおり、実が割ると大量発生するから収拾がつかないし、俺たちのレベルじゃきついかもしれない」

 

 再び森の中に入って、ポップ場所まで行く途中でシキは作戦を素早く立てた。シキの指示に二人は無言で頷いた。

 《リトルネペント》は視覚器官を持たない動く植物だ。攻撃はそのムチのような触手、もしくは腐食液だ。

 シキたちは1時間ほど狩り続けて、ようやく花付きからアイテムを三人分ドロップさせることに成功した。始めは初心者の二人が気色の悪いネペントに気圧されていたのだが、シキのフォローで平静を取り戻した。なれてしまえばこっちのものと言わんばかりに、その後は実付き以外を狩りまくったわけだ。

 

「な、シキ三個目でたよ」

 

 サイカは夏輝と呼びそうになったが、アバターの名前であるシキと言い直した。

 

「ふぅ、なかなか時間かかるもんだな」

 

 リュウも額に現れた汗を服の袖で拭った。しかしその顔には笑がある。

 

「よし、一旦村に戻って《アニールブレード》を頂いてこよう」

 

 三人は迅速に村へと戻り、クエストを完了させた。

 

「休憩入れるか?」

 

 シキはベータから慣れているので、この程度の戦闘はヘでもない。そもそも戦闘が好きな人種である彼は、戦闘で疲れることはほぼない。

 シキの問いにサイカが休息を提案した。現実ではそろそろ夕食時ということもあり、三人は村の食堂で腹を満たすことにしたのだ。ゲーム内の食事は現実に還元されはしないが、空腹というシステム上ないバッドステータスを抱えるのはかなり堪える。

 何コルか払い三人は硬いパンとスープを注文した。

 

「しっかし、本当に死ぬとリアルでも死ぬのかね」

 

 硬いパンをスープに浸し、一口かぶりついてからリュウはそう疑問を言った。

 

「けど、伯父さんのことだからやっぱシキが一番詳しいんじゃない?」

 

 シキの伯父茅場晶彦の声明を聞いたときは、気が動転していたらしいサイカも今ではすっかり落ち着きを取り戻している。やはり、このパーティでの枢軸たるシキに同様が見られないことが大きいだろう。

 

「そうだな。伯父さんは子供の頃からこの世界を夢見たそうだ。それに浮かぶ鋼鉄の城。多分伯父さんの究極の目的だろう」

 

 シキは、だから茅場晶彦の言葉は嘘ではない、と言っている。チュートリアルのときも同じのような内容を茅場自身が言っているので、二人も納得した。

 

「まぁ、結局死んでみなけりゃわからないがな」

 

 シキはおどけた調子で暗くなりかけた空気を一新した。

 

「そうかもね」

 

「こういうのをパブロフの犬っつうのかね」

 

 サイカとリュウも少し顔をほころばせる。

 

「それを言うならシュレディンガーの猫でしょ」

 

 死んでみなければ結局その時の事象の観測はできない。もっともHPゼロとなるとリアルに戻されるかそのまま人生もゲームオーバーとなるため、内部の人間に教える手段はないだろうが。

 

「あれ?」

 

「どちらにしろ、パンドラの箱だ。開ける必要のないもののことを、考えるのはやめようぜ」

 

 シキが最後にそう締めくくり、空腹だった胃へと食べ物を入れていく。パンドラの箱とは言ったが、シキはヒットポイントゼロに希望など見いだせなかった。

 シキは確実に死者が出ることも予想している。戦闘で、だけではない。人間とは支えあわなければ弱い者で、有形無形にかかわらず社会的支援を受けなければ心は荒んでいく。その結果が自殺という手段になるはずだ。モンスターに殺される場合もあれば、幸か不幸か最南端に位置した《はじまりの街》から空へと身を投げるものが出てくることは容易に予想しうる事態だ。そのことがわかってはいるのに止めることができないのもまた事実。シキは歯噛みするしかないのだ。

 このゲームは心の弱いものから死んでいくのだ。

 三人は食後に回復アイテムを買ってから、もう一度先の狩場に来ていた。そこには二人の片手剣士が肩を並べてネペント狩りに勤しんでいたので、横取りはせず他の狩場へと移動した。

 

「今回はさっきとは違って、実付きの実を割ってはポップしたネペントを狩り続ける」

 

 現在のレベルでの最高率レベリングだ。一人でやるには些か危険すぎなのだが、三人でやるにはお互いカバーを仕合い、回復の猶予も持たせることができるので、意外に効率がいいのだ。実際のところもう一人ほど欲しいが、贅沢は言っていられない。上級者がいるからこその――定義とは少々違うが――パワーレベリングだ。

 シキが薙刀でネペントの急所である茎に、正確無比で強力な通常攻撃を叩き込むと、そのノックバックに合わせて二人が《ソードスキル》で再度茎を攻撃して確実に倒していくという戦法だ。勿論初心者の彼らはまだ扱いに慣れておらず、急所を外したりしてしまうがそこは《ソードスキル》を使っておらず、技後硬直もないシキがフォローに入ってHPを削り切る。リュウの武器は短槍だが、横に振ればシキのように攻撃ができる。幸い横切りの《ソードスキル》も槍の基本技としてあった。

 シキは実付きを見つけた瞬間に、《投擲》スキルで胚珠を破壊する。すると大量なネペントが現れる。基本的にこれの繰り返しである。最初の頃は拙かった連携も次第に息が合い、レベルも上がって確実に二擊で仕留めることができるようになってからは、三人の独壇場となった。

 シキが「しゃがめ!!」といえば、瞬時に二人が這い蹲るように低姿勢になる。その二人の上方を遠心力が乗った、強力な薙刀の一撃がツムジを巻き上げるようにして、一度に何匹ものネペントの急所を捉えていく。薙刀の旋風が通り過ぎた瞬間、二人は《ソードスキル》を発動させて止めを刺していく。たまに現れる後方の敵は、二人が止めを刺している時に、シキがもう一度薙刀を振り抜くことで数度のもとにポリゴンにする。片手剣などではできない広範囲攻撃だ。

 結局その繰り返しを何時間か続けて、サイカの疲労がうっすらと出てきた頃に、シキが後方の敵を一度に《スラスト》で止めを刺した。

 

「今日はこれくらいでいいだろ」

 

 前方の敵全てに止めを刺した二人も口々に声を出した。

 

「いや~、超面白いなこれ!!」

 

 リュウはどうやら、このかなり単純な作業という戦闘が気に入ったらしい。そしてデス・ゲームであることを感じさせないほどの楽観さだ。このような状況が始まったばかりだというのに、前向きである姿勢は周りの力になる。

 

「回復薬も結構残ってるしね」

 

 サイカもリュウほどではないにしろ、若干笑顔が見られる。笑顔があるということは少しのゆとりが生まれている証拠で、完全に戦いに慣れてきているということだ。切羽詰った状態でレベリングはこのデス・ゲームでは命取りになってしまう。

 

「一応デス・ゲームだからな……」

 

 今日一番の功労者であろうシキが、二人のテンションの高さにポツリと苦笑いとともに苦言を漏らした。彼もまたデス・ゲームであるこのゲームを、楽しむゆとりを持っているのだ。

 その後、彼ら三人は村の宿屋で今後の計画を立てることにした。

 

「ここでのレベリングは明日の午前で終わりだな。そろそろ適応力が高いベータテスターの奴らがここに集まるはずだ」

 

 事実二人ほど今日既にここに来ている。ベータ時でもっとも多かった片手用直剣の《アニールブレード》を得ようとするものは少なくないはずだ。さらにシキたちのレベルも、既にここではあまり効率が良くなくなってくるということもある。次の街、ないし村でさらにレベルの高い敵の狩りが必要になるわけだ。

 

「しっかし、ベータテスター様々だぜ」

 

 リュウはそう言って両腕で枕を作ってベッドに寝っ転がった。この場合のベータテスターは言うまでもなくシキのことだ。

 

「なるほどねぇ。こういうのって製品版からの人に教えないの?」

 

 サイカはシキの説明に納得しつつも、生存率上昇につながる性能のよい武器の情報を、他の人々にも分けようと言いたいのだ。

 

「別に俺が教えたっていいが、教えるやつがいるんだよ。β時に情報が好きな奴がいてな。必要な情報はそいつが何かしらの媒体で初心者の手元に届くようにするだろう」

 

 さらに付け加えるならば、ネペントの実を誤って破裂させた時にモンスターからの圧力に耐えられるかという問題もある。《はじまりの街》周辺にポップする猪や狼、芋虫などといったモンスターは、一応は現実世界に生息しているものの姿が変わった程度だが、《リトルネペント》は草花が自走して襲ってくるのだ。やはり慣れというものは大切であり、初見で精巧なモデリングをされたモンスターに気圧されない、という精神が豪胆なものはなかなかいない。

 

「なーるほど、そういえばシキは何レベになったんだ?」

 

 リュウはベッドに寝転がりつつも、シキの説明に納得した。

 

「俺は……今5だな」

 

「私はまだ4」

 

「おれもまだ4だわ」

 

 前方の敵への初撃と後方の敵の全滅をさせているのだから、シキに一番多く経験値が入っていても不思議はない。さらに長い戦闘で軒並みレベルのみならず、スキルも上がっている。と言ってもまだまだ序盤のレベルであり、レベルの上がり方も急激であるからのレベルだ。Lv10になる頃には他のMMORPGなど裸足で逃げ出すような経験値を集めなければならないようになる。ひと月のβ期間で、第十層のボスすら攻略できていないのはそのためだ。

 

「そりゃ、討伐数が違うからな」

 

 シキはそう言って自慢げにニヤリと笑った。

 

 翌日。彼らは午前七時という至極健康的な時間に起床した。本来ならば大学の講義があるのだから、その生活リズムのままなのだ。当たり前ではあるが、三人とも昨日あれほど激しく動き回ったにもかかわらず、筋肉痛を起こしていない。

 

「いい朝だな」

 

 デス・ゲーム開始二日目の天候は、一日目と同じで晴れである。三人は同時にそう呟いて、顔を見合わせ小さく笑いあった。

 三人は昨日の夕食を取った食堂で朝食を取った。朝食は夕食と少しだけスープの味が違った程度でほかは一緒の内容だった。男二人にしてみれば、もう少し腹に貯まるような食事、主に肉系統を早く食いたいという欲求が大きくなった。

 

「よーし、出発進行!!」

 

 昨日とは違い、戦闘をリュウがテンションを上げて勇み足で進んでいく。さながら小学生の遠足気分である。昨日の夜は二人の剣士がいた場所は、既にモンスター以外おらずもぬけの殻だった。

 

「今日は12時まで狩りまくるぞ」

 

 シキはそう言って最初の三体のネペントに、景気づけの大刀系基本重単発技である《レイヴブレイク》を発動させた。

 




原作主人公と二度目のニアミス。
因みにソードスキル名は適当に付けています。
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