SAO ~無双の矛~ 作:鴉鷺
ポリゴンの爆散音と一瞬の静寂のあとには、フロアにいたものたちの雄叫びがボス部屋に溢れた。
からくも第一層ボス攻略での人的被害は0だった。
「GJだ、キリト」
シキはそう言って笑顔で手を上げた。
「そっちこそ」
キリトも笑顔でそう言ってシキの手にハイタッチをした。
「いや~、一時はどうなるかと思ったぜ」
そう言ってリュウはシキの背を叩き、サイカは笑顔を向けた。
「お前こそ無事で何よりだ」
シキはそう言ってリュウと肩を組んだ。
「……すまなかった、シキ。君がいなかったらオレは死んでいたかもしれない」
肩を組んでいたシキに、吹き飛ばされていたディアベルが声をかけた。その顔は少しだけ伏せられている。そして申し訳ないといった顔がうかがえた。
シキはリュウと離れ
「次は気をつけてくれよ。だけどあんたがいなかったらこんなにも人は集まらなかったし、自分勝手なことが多いゲーマーを指揮することはできなかっただろう。この失敗は次につながる。お前一人が大きく強くなくたって他の奴らは着いていくさ」
そう冗談めかしてディアベルを励ました。
「ああ……ありがとう」
お見通しだな、とディアベルは先の陰鬱な顔から、彼が最も似合う晴れやかな顔になった。シキも笑顔で答え二人は「これからもよろしく」と握手をする。
他のプレイヤーたちもこれから支柱となるであろう二人の団結を、喜びを持って見ていた。
だが、ここに至って未だに団結出来ていないものがいた。
「お前はベータテスターやったんか!?」
このボス戦の一連の流れを見ていたキバオウは興奮気味にそういきり立った。
「は?」
この全く持って空気を呼んでいない発言には、流石のシキも苛立ちを覚えた。
「答えんかい!!」
「俺はベータテスターだ。それがなんだ?」
シキはすでにほとんどのわだかまりが消えただろうと思っていたから、あえて偽らずそう答えた。勿論他のプレイヤーも気付いているものは気付いている。
「なんでわしらに嘘の情報を流したんや!」
嘘の情報とはボスの行動が攻略本に書いてあったことと齟齬があることについてだ。
「お前は本当にバカなやつだな」
ここに来てシキは完全にキバオウのことをバカにした態度を取った。何がしかの理由があろうが無かろうが、ここまで無益にベータテスターを嫌っているなど、もはやアレルギーである。
「なんやと!?」
シキは鼻で笑ってから。
「製品版とβ版でどうして行動パターンが一緒だと決まってるんだよ。いくらお前が妬んで僻んでるベータテスターが、お前よりも多くの情報を持っていようとも、開発者じゃないんだ。知りえない情報は教えられないに決まってるだろ」
キバオウはベータテスターから毟れるだけアイテムを取ろうと考えているが、その理由がない。そして今出てきた、というか作った理由もシキによって一蹴された。ここまでする理由は製品版からのプレイヤーを引っ張っていこうという、彼なりの責任感があった。
「ぐっ」
「それにいつまでも同じことをぐちぐちとほざくなよ。俺たちトッププレイヤーの目的はなんだ」
ここでシキはここに集った全員に向けて、キバオウに向けて話を振った。
「それは……」
シキが思った通りキバオウは答えられない。ここに集まった真の目的がまだ理解できていないのだ。
「いいか、この一カ月で千人のプレイヤーがこの世界から消えた。それは誰のせいか、死んだ奴のせいでもないし、ベータテスターのせいだってない」
シキは一呼吸置いてから再度話し出す。
「原因は茅場晶彦だ。なのに未だにベータテスターが情報を開示しなかったから死んだなどとぬかす甘ちゃんは、この最前線で戦っていく攻略組にはいらないんだ」
シキはキバオウに向けて冷徹な眼差しと突き付けた。周りの者にまでその雰囲気は電波した。
知っての通り、ベータテスターによって攻略本が作成され、情報は開示されている。つまりベータテスターがこれ以上責められるいわれはない。
「いいか、キバオウ。俺達は、ボス戦をこれからしていくプレイヤーたちはこんな些末なことを議題に挙げている暇なんかないんだ。俺たちがやるべきことは残っている八千人強のプレイヤーをいち早く現実に戻すことだ」
わかったか、そうシキは最後に念押しした。
現にここに来てベータテスター憎し、と声高に宣言するものなど心情的にもキバオウ位なのだ。フロアボスを一緒に倒すことで生まれた連帯感にとって、さきのシキの言ったようにベータテスターかどうかなど些末なことなのだ。
「あ、あぁ……」
キバオウは完全に言い負かされて、というか正論を一方的に叩きつけられて茫然自失だった。
そして周りのプレイヤーたちも完全に沈黙した。だが、ここで空気を一新するようにディアベルが声を上げた。
「はーい、注もーく!! これから第二層を開きに行きまーす!!」
突如の明朗な、天然気味な呼びかけに張り詰めた空気は瓦解した。さながら彼は遠足を先導する教師といったところか。
シキは心の中で皆の中心に立っているディアベルに礼を言った。そしてサイカとリュウのところに向かおうとしたところ声を掛けられ振り返った。
「スカッとしたぜ。俺もああいう輩が嫌いだったんでな」
シキが振り返るとそこにはシキの身の丈を超える禿頭の黒人がいた。
「あんたは?」
存在は知っていたが名前は知らなかったので名前を聞いた。
「おっと、悪い。俺の名前はエギルだ」
ニッとエギルは笑う。
「よろしく。俺はシキ。それにしても日本語がうまいな」
流暢な日本語はどこから見ても外国人なエギルが話すには違和感があった。
「まぁな。俺はアフリカ系アメリカ人でありながらも生粋の江戸っ子よ!」
どこか自慢げにエギルは語った。
「へぇ、江戸っ子とは粋だな」
シキはそう言って笑った。
「お、エギル」
リュウはそう言ってシキと話すエギルに声をかけた。
「おお、リュウじゃねぇか」
エギルとシキはリュウの方を向く。
「知り合い?」
リュウの後ろに付いてきたサイカはリュウにそう聞いた。
「タンク隊の隊長」
彼らはこのフロアボスでタンク隊だった者たちだ。故に知己というわけだ。
キリトがシキに話しかけようとした時、ディアベルが部屋にいる皆に声をかけた。
「みんな!! 第二層の市街区で戦勝祝いをしようじゃないか!!」
このディアベルの提案に皆が皆テンションを上げて答えを返した。シキも無事終わったボス戦を忘れてるため
「宴に参加するか!」
そう周りに集まった人に声をかけた。シキを中心とした人物はバラバラながらも息がピッタリというような返事を返す。
「キリトとアスナも参加しようぜ」
シキは先程キバオウを射殺さんばかりにした目とは対照的に、優しい目でどうしようか迷っている二人に声をかけた。
「え、あ、じゃあお言葉に甘えて」
考えかねていたキリトは突然の誘いに、戸惑いつつも嬉しそうに返事をした。
「おお、お前はさっきとどめを刺した奴だな!? 主役がいなけりゃ宴ははじまんねぇ!!」
リュウはシキが誘った人物を見るやいなや、先程のとどめを刺した人物であると思いだし、一気にテンションを上げて身長差があるにも関わらずキリトと肩を組んだ。
「私もお言葉に甘えさせてもらいます」
アスナも数瞬の間の後にこちらも戸惑いつつも嬉しそうに返答した。
シキはディアベルに自分たちは全員参加だと伝え、ぞろぞろと皆が皆連れだって歩きだした。
その中で唯一この場に留まっていたのはキバオウ一派の数名だけだった。
彼らは自分たちを一瞥もせず、わきを通り過ぎていき、興味が全くないという意思が伝わってきた男の背中を見ていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
シキ達数十名は第二層のゲートを万感の思いで持って開いた。
そして攻略組だけのちょっとした祝勝会を開いた。
この夜だけは彼ら同胞とも呼ぶべき、団結した仲間たちだけで第二層主街区《ウルバス》の一番大きな酒場で飲み明かした。
「おい、キリト! ほらポーズ取ってみろ!!」
そうははやし立てるように叫んだのは酔っ払いのようなリュウだ。
「なんでだよ! さっきやったろ!」
今回の主役の一人であるキリトはラストアタックの恩恵としてユニークアイテムをフロアボスからゲットしている。そのアイテムは黒を基調としたコートで酒場のメインイベントとしてお披露目していたところだ。
β組はそのアイテムのことを知っていたが、製品版から入ったプレイヤーにも見せる目的なども兼ねてのイベントだ。
そしてポーズとはコートを着た際に、キリトが無茶ぶりでさせられたソードスキルのポーズだ。彼が中学生くらいだということもあり完全に年上たちのおもちゃにされている。
「あいつ大分馴染んできたな」
ビールのような発泡した飲料に口をつけながら、シキはキリトの方をみて呟いた。
「彼は一人でいることが多いみたいだけど、これから層が上がるにつれてソロは厳しくなる。人との繋がりを作っておくことに悪い意味はないさ」
なんとはなしに呟いたシキの言葉に反応してそう返したのは同じ机を囲っており、シキの目の前にいるディアベルだ。因みに8人掛けでキリト、リュウやサイカも同じ机にいた。
「アスナ、これ美味しいよ」
シキと同じ机にというか、シキの隣に座っているサイカは、さらに隣のアスナと仲良くなっているようだ。どちらも女性ということもあり、ネットゲーマーだらけのこの空間の清涼剤的役割の二人だ。因みにシキのもう片方の隣はリュウ、ではなくエギルである。
「なら、一口。……おいしい」
あまり《アインクラッド》の料理を食べてこなかったのか、アスナはその後夢中でいろいろな料理を頬張っていた。さながら冬眠に入ろうとするリスといった様相だ。
「ところで」
そう前置きをしてからディアベルはシキに問いかけた。
「君はベータテスターだって言ってたけど、名前を変えてる?」
どこか神妙そうにディアベルは言葉を出す。ディアベルの質問は大きな声でなかった、むしろ小さかったが周りのベータテスターたちは耳をそばだてていた。
「ああ、β時はナツって名前でやってた」
シキは別に隠す必要もないと思い――というかベータテスターの大半は気付いている――素直にディアベルの質問に答えた。答えた後に周囲が少しざわめきエギルが付いていけず、キョトンとした状態で止まっている。
「やっぱり、オレもβの時は違う名前だったんだけどね。覚えてるかな――」
ディアベルの名を聞いてシキは少しだけ黙考した。
「あぁ~、何戦目か忘れたが戦ったことあるやたらと騎士っぽい装備の奴か?」
少し自信なさげにシキはそう答えた。身の丈も何もかもが変わっている気がした。
「そうそう、一撃も入れれずに負けた時はすごいショックだったよ。オレもβ時で《デュエル》を結構やってたからね」
「おいおい、それってぇーとシキはノーダメでディアベルに勝ったのか?」
やっとのこと話しに着いてきたエギルが質問した。
「ああ、シキというかβ時はナツだけど、彼は100人斬全てを一刀も浴びずに達成した男なんだ」
質問に答えたのはシキでなくディアベルだ。
「まさか掲示板とかで噂だったあの悪鬼羅刹のナツってのはシキだったのか!?」
周囲でざわめきだけ終わっていた波紋は大きくなった。
「あぁ……そういうことになる」
「噂はほんとなのか?」
「噂?」
曰く、彼の者はNPCである。
曰く、ソードスキルを使ってこない。
曰く、超マイナー武器を使っている。
曰く、じりじりと痛めつけ、戦意を少しずつ削ぐようにしてくる。
曰く、それは人ではない悪鬼。
人の噂など誇張表現で拡大解釈されていくものだ、とわかっているシキでも見事に変な噂が立ったなと逆に感心した。
「そうだな、先ずNPCじゃないのは確定してるし、鬼でないのも確定してる」
前半は皆一様に頷いたが、後半は頷くものが少数だった。若干躓きながらもシキは噂の是非を確定していく。
「ソードスキルは使う時は使うさ。超マイナーってのは薙刀のことだろ。あと戦意を削っていくように戦ったのは対人戦でいろいろと学ぼうとしたから、無駄に対戦時間が延びただけだ」
全ての曰くを払拭してシキはもう一度発泡飲料を呷った。
対人時間が長くなった理由の一つとしてソードスキルを極力使わなかったという理由がある。そしてそれが相手の戦意を削るように戦ったように見えたのだろう。この一連のモノは原因が一つのことだったのだ。
「いいこと思いついたぜ!!」
そう声を張り上げたのはリュウだ。突如起立したリュウにサイカはまた変なことを考えたのだろうと思いつつ、アスナとの会話を続行した。
アスナはどちらかというとシキの事情に興味があったのだが。
「なんだ藪から棒に」
「お前、全勝完封だったんだろ?」
リュウは完全に名案が浮かんだといった顔をしているが、ことここに至るまでにリュウの考えた名案は完全なる思いつきで、実のあった試しがなかった。
「よし、みんな!! 今夜の余興だ!! 名を売りたい奴は前に出ろ! 今ならなんとβ時無敗の男が挑戦を受け付けてくれるぞ!!!!」
酒場に集った攻略組全員に聞こえるように大声で、リュウはそう捲し立てた。
「おい!! 勝手に決めるなよ!!」
シキはまた面倒なことになると断固辞退しようと腰を上げたが、時すでに遅く。酒場は割れんばかりの歓声で満ち溢れた。
「分かった、一人だけだぞ。ただし、再起不能になっても知らんからな!!」
シキは長いものには巻かれるらしく、溜息一つの後に条件を設けた。
条件の後の一言で盛り上がりつつも、一人がなかなか手を上げない。
「おいおい、誰かいねぇのか気概のあるやつは!! 俺はだめだぞ、何回かやったことあるが、軽くあしらわれ続けてるからな!!」
リュウは再度募集をかける。自身の敗戦の歴史もチラつかせながら。
「……オレがやるよ」
そう言って立ち上がったのはキリトだった。
どよめきが起こる。今回の主役二人による決闘だ。注目しないわけがない。
「キリトか……お前は確か80番目位に戦ったことがあるな」
シキは思い出すようにそう口に出す。
シキとキリトが矛を交えたのは83戦目のことだ。
キリトは第九層の主街区広場に《デュエル》をしまくっているプレイヤーがいると聞いた。
最初、興味はなかった。しかしそのデュエリストの噂を聞くに、これまでの戦いをノーダメで勝っているそうなのだ。そんな人外いるはずもないとも思った。それと同時に興味が湧いた。そうまで言わしめる腕を見てみたい。自分も一戦交えてみたいその欲求が募った。
翌日キリトは第九層に足を運んだ。ここ最近毎日いると噂のデュエル狂いのプレイヤーを見に行った。そしてあわよくばその戦績に傷をつけてやろうと思っていた。
第九層に主街区広場にキリトが着くとそこではすでに剣戟が交わっていた。一人は180ほどの赤髪でエモノは薙刀というドマイナー武器。対峙しているプレイヤーは大ぶりの直剣、所謂両手剣だ。そう認識し、双方のHPバーに目を向けてみればどうだろうか、噂に違わぬように片方のプレイヤーだけがHPを全く減らしていないのだ。
「なんだ、これ」
無意識にキリトの口をついて言葉が出た。そして手が、体が小刻みに震えていることに気付く。
これは怯えでなく武者ぶるいだとわかったのはキリトが完封させられた後のことだった。
「あの時とは違う。あの時の借りはここで返させてもらうぞ」
キリトは再戦の喜びに胸を膨らませ、不敵に宣戦布告した。
「ああ、そうなってくれることを楽しみにしてる」
一方のシキも、β時最も強敵で印象に残っただろう相手を見据えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
第二層主街区広場。時刻は夜であるが街には明かりが灯り、戦闘に十分なほどの光があった。攻略組の面々は中央に相対している。二人のデュエル始まらないか、今か今かと待ちわびていた。
シキが再度の確認のため皆に聞こえる声量でルールを口にした。
「よーし、ルールは簡単。初撃決着モードで決める」
キリトもそれに無言で頷く。
β時には完全決着モードで行ってきた決闘だが、現在デスゲーム時でそんなことをやることは無意味である。なのでもう一つのモードである初撃決着モードを選択した。
後のデュエルの方針はここで確立した。
初撃決着モードは初めの一撃で大きなダメージを受けさせるか警告域にまでHPゲージ削った者の勝利というルールだ。警告域はHP全体の5割ほどとなっている。
このモードの決め手は言わずもがな初撃にある。初撃で相手の出方を読み、その読みで勝敗が決まると言っていいほどに初手に依存したモードである。
「よし、デュエルの申請をした」
シキはウィンドウを手早くタップしてキリトに申請を送る。キリトは無言のまま了承ボタンを押す。
両者の距離は5mほど。
「緊張してんのか? 気楽にいこうぜ」
シキはカウントダウンを見ながら、終始無言のキリトに言葉を掛けた。
「いや、嬉しくてね」
キリトは久々の高揚感を胸に一言返答するだけにとどめた。
シキはそっけない返答に肩をすくめて脇構えの体勢に入る。キリト自身一度見た構え。変幻自在を地で行く構えだ。
カウントが終わり、文字が弾けた瞬間。
キリトは前に出た。
シキはキリトが初撃をソードスキルにしなかったことを内心褒めていた。彼らの間は5mあった。つまりソードスキルを初撃にするならば、確実に突進系でないと空振りになる可能性が高かった。
なぜなら前に出ながら、モーションに移行しながらのソードスキルなど避けてくれと言っているようなものなのだ。しかし突進スキルは彼我の距離を瞬く間に詰めることのできる唯一のソードスキルだ。だから対人戦の初撃は突進系のスキルを使うものが多い。
だが、シキにとってそれはカモ以外何でもない。β初戦から突進スキルを捌いてきたシキにとってこれほど狩りやすいものもない。
シキにキリトの右袈裟切りが迫る。シキは一歩も動かずに薙刀を振りあげるだけでそれを防ぐ。そして上から斬り下ろしたにもかかわらず、キリトは剣をはじかれた状態のまま胴を晒した。
シキはニヤリと笑い振りあげた薙刀を返し刀でキリトの胴へ振るう。
キリトは焦らず、後方へ飛び退った。
この一合で、武器の重量などのその他もろもろの要素を合算した結果シキの切り上げがキリトの袈裟よりも大きく上回っていたのだ。
そもそも長柄と片手剣ではただ打ち合うだけでは片手剣に勝ち目はない。ふところに潜り込んでこそ小回りのきく片手剣の出番なのだ。
そしてシキもそのことは把握しており、前回のキリト戦では一度も踏み込ませずにいたのが勝ちにつながったのだ。はっきりいってキリトにとってシキの相性は最悪である。
キリトは何とかしてふところに踏み込まねばならない。ソードスキルで無理に活路を開こうとしたところで、迎撃のソードスキルが飛んでくるのは目に見えている。
だが、シキという男はソードスキルとほぼ使わないとキリトは知っている。相手がソードスキルを撃ってこようとも通常攻撃で迎撃せしめる。それができるのはひとえにその動体視力とセンス、さらにソードスキルのシステム強化された攻撃ともカチあえる長柄の武器ゆえだ。
結局キリトは自ら前に出なければ勝てないのだ。そう考えてキリトはもう一度前に出て一気に距離を詰める。
呼気と共にキリトはソードスキル《スラント》を発動させる。
詰めるまでは何の前兆も見せなかった。
しかしシキはそれをわかっていたかのようにもう一度切り上げをした。キリトは《スラント》の軌道を無理やり変えて下から迫る驚異を弾いた。
ソードスキルと通常の攻撃ではシステム面で強化されたソードスキルが勝り、初撃では弾かれた攻撃を、逆に弾いた。
だが、それでもソードスキルの最大の弱点であるディレイが待っている。
キリトはそれでもソードスキルを使ったのは、相手の武器を弾くことでディレイをカバーしようと考えたのだ。現にシキの薙刀の刀身はシキの右方向、つまり大きく後ろに押し戻されている。
そして、もう一度薙刀を振るう頃にはディレイが解け、ふところに一気に潜り込めるはずだった。
「ぐっ」
あと数瞬でディレイが解けると思った時、キリトにはシキが一瞬ぶれた様に感じた。刹那、キリトは右側頭部を殴打され、少しだけ石畳を転がった。
すぐに受け身を取って追撃に備える。しかしシキはまたもいつもの不動の構えを取っていた。
間合いを取りつつ、キリトは何が起きたのかを推察した。
確かにキリトは目論見どおりにシキの薙刀を弾くことに成功した。しかしシキは片手剣や両手剣などではない、長柄の武器なのだ。そもそも片手剣だったらソードスキルで迎撃しなければ強烈なノックバックが待っているが。
長柄の武器の攻撃部分は刀身だけではない。
シキは薙刀の刀身が弾かれた力を利用し、一息に体ごと回転して石突でもってディレイの解けていないキリトへ攻撃したのだ。
削れたHPゲージは10%ほどか。頭部へのクリティカル判定も合わさり大きくHPが減っている。
「キリト、戦で一番活躍したのはなんだと思う」
シキはそう問いかけるとともにこの決闘初めて自ら間合いを詰めた。
それは長物特有のは刀身を突き出した突進攻撃。スキルは使っていないのも関わらず、キリトはシキの剣幕に気圧された。
だが、それでもキリトはその重突撃をみきって、完全ではないがパリィをして見せた。
好機だとキリトは思った。自ら間合いに入ってくるなど、と思い剣を振ろうとした。しかし目の前にいると思ったシキは3mは離れた位置にいた。キリトは放とうとしたソードスキルを強制中断。したところ、キリトの胸の二か所に痺れが発生した。見ると心臓の位置を正確にとらえた薙刀の刀身が見えた。もう一方の痺れは右の肺辺りだ。
キリトは痺れを無視し、思い切り後方へ飛んだ。今ので決着がついていてしまっていたかもしれないが、今回は新防具であるコートの性能により、HPを2割削られただけですんだ。
キリトの見通しは完全に甘かった。自分はβテスト時よりも格段に強くなったと思っていた。今なら無敗のシキと良いところまで戦えると思っていた。しかしこんなにも距離が遠いのかと思ってしまった。その一瞬の隙だった。
「キリトくん!!」
「答えは弓だ」
なんだ長柄の武器じゃないのかよ。
キリトは自分の腹部に刺さった薙刀を見てそう思った。
決闘は終わった。またもナツ――シキの完封の元に。
決闘終了の後は両者を称える歓声で広場は埋め尽くされた。
「キリト、落ち込むなよ。そもそも長柄武器に片手剣が敵うはずないだろ」
シキは少しだけ落ち込み気味のキリトに声をかけた。
事実、剣道三倍段などという言葉もある通り、リーチとはそれだけで圧倒的有利に立てるものなのだ。
「そう……だな」
「そうだそうだ気にすんなキリト! おれなんか槍と盾持ちなのに毎回なんもぜずに負けるんだぞ」
リュウも自身の戦歴を公表してキリトを励ました。
「おい、そろそろ良い時間だしお開きにしようぜ」
シキはディアベルにそう告げた。
「そうだな。おーい! みんな、今日はこれで終わりにしよう。今日は濃い一日だったけど、これからも百層目指して頑張ろう!! そうだ、フロアボス攻略後にはまたみんなで集まって祝勝会をしような!! じゃあ解散!!」
ディアベルの号令で皆が皆、各々の帰路に着く。中にはまた酒場で飲み直す者もいるようだ。
シキはキリトの肩を軽くたたいてから最寄りの宿屋に向かう。サイカもシキの隣に並ぶようにして何かを話しかける。リュウもシキの後ろに着いていくように、仲良くなった者たちに別れを告げた。
「負けちゃったわね」
最後まで広場に残ったのはアスナとキリトだけだった。
「ああ、完敗だ」
キリトはしみじみと言葉を口にした。
「だけど、シキさんの言う通り、長柄の武器には厳しいんじゃない?」
アスナは素直にキリトが強いとも思った。だが、シキのいうことももっともだと思ったのだ。もし、シキが片手剣を使ったなら、そう思わないこともないが。
「そうだとしても、何か対策を考えるよ」
「そうそう、過去ばかり気にしてちゃいけないわよ」
キリトは顔を上げて宿屋に向けて歩きだした。アスナもキリトと分かれて適当な宿屋を見つけるため街のなかに消えていった。
時刻は日を跨ごうとしたところだった。
戦場での主力は弓でその次が槍です。刀剣は屋内や入り組んだ場所とかで活躍していたので、開けた場所では完全にポールウエポンの有利ですね。
原作とは少々違う展開になりました。
主人公に二つ名とかいりますかね(^^;
誤字脱字指摘、感想などありましたらお気軽に。