SAO ~無双の矛~ 作:鴉鷺
第一層攻略に一月の期間を要したのが嘘のように、第二層からは攻略の速度は上がった。シキとディアベルを中心とし、第一層からの攻略組を主軸として損害を最小限に抑えて進んでいった結果だ。
さらに、攻略速度が上昇した理由として考えられるのは、はじめは未だに環境に慣れていなかったプレイヤーたち各々が、環境に順応し始めるのに一月ほど必要だったせいだろう。
動物の歴史は環境との順応にあるように、この特殊な環境に放り込まれ、それに慣れるのに人それぞれの時間が必要だったのだろう。そういう点から言っても第一層攻略組は、皆の順応能力が高いという頃がわかる。勿論リアルの友人の助けがあって順応できたのかもしれないが、人は集団作るものであり、それも戦略の一つだろう。
「そうだ、ギルドを作ろう」
現在第12層攻略に勤しむ日々が続いている中。本日のダンジョン攻略を終えて、宿屋に帰還したところでリュウが開口一番口にした。
おそらく現実世界では冬が明け、少し肌寒いだろうが春の風が津々浦々を満たそうとしているはずだ。
このアインクラッドでもデスゲーム開始当初は寒い、という形容の似合う気候ばかりだったが、今では肌寒い程度に気温が上がってきている。シキ他プレイヤーたちにしてみれば、ゲーム内くらいなのだから快適な気象環境でプレイさせてほしいものだった。
「なんだ、リュウ唐突だな」
シキはリュウが唐突なのは何時ものことだ、と思いつつ定型文を返した。
「いやさ、知人のいるギルドを見てたら、ギルド作るのもありだと思ってさ」
リュウの指す知人のギルド、とはディアベルがリーダーを務める、初期攻略組のプレイヤーたちのギルドである。名前は《攻略野郎Aチーム》であるが、しかしそのメンバーの中にイニシャルがAの人物はいない。
いっそのことリーダーであるディアベルのDを取ればよかったと思うのが、シキのちょっとした考えだ。
アインクラッドでギルドを作ることは別に難しいことではない。
ある階層でギルド設立クエストをクリアすればいいだけだ。そのクエストも所謂お使いクエストであるので誰でもクリアが可能なのだ。そのクエストを終えた時にもらえるアイテムをその近くにいる受付の者に渡すことで、晴れてギルド設立という流れだ。
「ま、別に良いけどな」
シキは特に反対する理由もないので、適当に流した。彼の心はすでに今夜の夕食のことで占められていた。
「そのギルドの方針とかあるの?」
サイカは、夕食の準備に取り掛かりながら、リュウに他のギルドも持っているギルドの方針について聞いた。
ギルドの方針なんてものは至極適当に決めても良い。例えば仲良しギルドでも良いし、攻略を推し進めるギルドでもいい。
「そうだなぁ……。何でも屋ってのがいいんじゃね?」
じゃね? と聞かれてもギルド設立発案者であるリュウにそこらのことは一任する気でいるシキは
「いいんじゃね」
と軽く流した。
「何でも屋って具体的になにするの?」
またしても雑な返答しかしないシキに変わって、サイカがリュウに質問する。
「ん~、やっぱ補強戦力とか、素材集めの手伝いとか、人探しとか」
リュウは指折り具体例を上げる。補強戦力としてはすでに最前線で戦っている三人なので、特段必要ではない。素材集めや人探しは特殊なスキルがないと務まらないということもない。いざとなれば《鼠》に話をつければ良いとシキは考えた。
「ま、妥当なところだろ。ギルドメンバーは俺らと誰にするんだ?」
シキは木製の椅子の背もたれに体重を掛けながらリュウに問うた。
「エギルを誘おうと思う。あいつ雑貨屋をやるとか言ってたからな。あとは鍛冶屋も欲しいところだ。ギルド専属鍛冶屋って良い響きじゃん!」
「なるほど、エギルね」
エギルはすでに露店をしていることを知っているシキは成程とうなずいた。
「あ、アスナも誘っていいかな?」
サイカはスキルによって出来上がった料理を皿に分けていきながら、リュウに聞く。
「いいぞ、シキも誰か誘ってくれよ」
リュウも椅子に座り前後に揺れながら了承した。
「いいけど、そんなギルドの規模は大きくしないぞ」
シキはようやく出てきた料理を見て涎を口内に溢れさせた。そして特殊なスキルを上げている知人がいないことを思い出し、それを考慮しながら明日の予定を組み立てた。
「はい、今夜はシキの好きな鶏肉の香草焼だよ」
「お、サンキュ、いただきます」
シキは食前の挨拶をし、油の滴る鶏肉に齧り付く。口に入れると、香草のスパイシーな味と肉汁で口が満たされる。米がないので変わりのパンを一齧りする。調味料などはサイカの御手製だ。アスナとの共同開発を日夜欠かさずやっているらしい。シキはリアルでも食べたことのあるサイカの手料理と、遜色ないだろう思い箸を進めた。
「鶏肉って、これ魔物のドロップ品だろ」
リュウはそうこぼしつつ挨拶をしてから齧りついた。齧り付いた瞬間、魔物の肉であるなどどうでもよいくらいのうまみが口内に広がり、リュウはたちまち頬を崩した。
「けど、このお肉あんまり出現しない魔物のレアドロップ品だよ」
サイカはそうは言うが、シキは毎日この肉が食いたいと心の隅で思っているため手当たり次第に出現した敵を倒し、ポップの量を増やしている。シキとしては経験値も貰え、うまい飯も食えるとあって頑張らないわけがなかった。
「で、ギルド設立クエはお前がやれよ」
シキはリュウにそう言った。
「えぇ~……分かったよ。おれがやる」
言い出しっぺの法則というか一番乗り気なリュウがやるのは当然の帰結で、無言の圧力に耐えかねたリュウは渋々了承した。
「ま、勧誘は俺がやっといてやるよ」
シキはそういうと最後の一切れを口にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「今日はギルドを作るために各々の役割を全うするってことで」
三人は午前八時に、昨日話し合った自身の役目を果たすために三人は宿を出た。
シキが初めに向かったのはすでに主街区広場で露店を開いていたエギルの元だった。
「ようエギル、景気はどうだ」
「おうシキ、景気は上々って言いたいがまだ始めたばかりで客がこないな」
そういってエギルはでかい図体で肩をすくませて見せた。始めたばかりという理由もあるだろうが、彼のルックスにも問題があるとシキは思った。
「そこで耳寄りな情報なんだが、この度俺たちギルドを作ることにしたんだ」
シキは少々もったいぶったように誘う言葉を選んだ。
「リュウやサイカちゃんとか?」
「そうだ。で、エギル。よかったらうちのギルドに入らないか」
駆け引きもなくシキはエギルにギルドに入るよう打診した。
「ギルドか、そうだなぁ」
二つ返事でOKと言われないと見て、シキはアメを取りだした。
「おいおい、考えても見ろエギル。俺たちのギルドに入れば素材を調達しなくて済むんだぞ? レベリングも楽になる」
若干エギルは納得した表情をうかがわせた。これをみたシキはたたみかける。
「しかもだ、専属の鍛冶屋までいる予定だ。金にがめついエギルにはよすぎる条件だ」
まだ目途の立っていない鍛冶屋も手札にする。
「確かに! ……だが待てよ。俺ばかり甘い蜜が吸えるわけじゃあないだろ?」
「ま、そうだな。俺らはエギルに珍しいアイテムとか渡す。でそれをエギルは店で売るわけだ。で、その収益の何割かはギルドの金にする。ギルドの金は攻略とかで使う物資を買うって寸法よ」
そしてエギルに売られた珍しい品など使えればギルドで安く買い取る、ということも話した。
商売事にはそこまで聡くないシキなので、商売の腕を買って信用のあるエギルに頼んだのだ。商売の腕は良いか悪いか現時点では判断が付きにくいのだが。
「お前のギルドに入れば、現アインクラッド最強のギルドの店としての箔が付き、店も儲かるってわけか。よしその話乗ろうじゃなねぇか!」
winwinの関係がここに成り立ったわけだ。
エギルはシキの言わんとすることが伝わったようで納得した表情でギルドに加わった。
「因みに規定はそれだけか?」
「そうだな、大体そんなところだろう。売り上げの横領はするなよ」
シキは少し考えた後にそう答え、冗談を言いエギルと握手を交わした。
続いてシキはギルド員のあてを探しに迷宮区に足を運んだ。迷宮区に入り数十分後にようやくシキはその人物を発見した。万屋を名乗るのだ。戦闘員はいた方がいい。
「キリト」
キリトがモンスターを倒し終えてからシキは彼に声をかけた。
「ん、ああシキか」
キリトもシキに気付くとシキに向き直った。
「単刀直入に言うが、俺たちのギルドに入る気はないか?」
「へぇ作ったのかギルド。 そうだな……今回はやめておくよ」
キリトは申し訳なさそうにシキの提案を断った。キリト自身ベータテスターであり、未だにキバオウの言っていたことが胸につかえていた。シキはベータテスターのせいではないと言ったが、キリトはニュービーである人物を《はじまりの街》に残してきた、という負い目があるのだ。
キリトは彼が今まだこの世界にいるのか分かっていない。そのこともありキリトは今回のシキの誘いを断った。
彼なりの戒めだ。因みに第一層の森での出来事以来、ボス攻略が終わるまでキリトのフレンドは0になっていた。
「そうか。ま、いつでも俺たちはお前を待ってるし、頼ってくれ。お前は俺にとって目の離せない弟みたいなもんだからな」
シキはキリトにそう言うと後ろにポップした敵を振りかえり様に一刀両断した。 彼の現在のエモノである薙刀、名は岩融。それは薄青い閃光を纏って、その一刀のもとに魔物をポリゴン塊にした。
「じゃあまたな」
シキはそう言って迷宮区を後にした。
今日の目的を八割型消化したシキは攻略組が陣を張る最前線12層でなく、スタートダッシュが少しだけ遅れた者たちが集う層に来ていた。特に宛がないが鍛冶屋探しのためだ。何故最前線で募集しないかと言うと、最前線には鍛冶屋に特化させようとする猛者はいないのだ。
それに比べて中層のプレイヤーたちはおのおのが攻略でなく趣味に傾倒し能力を上げることが多い。故に最前線でなく第二線にしたのだ。
シキはぶらぶらと主街区の露店が立ち並ぶ場所を見て回った。
雑貨屋、装飾屋、鍛冶屋いろいろな露店があり、その場をにぎあわせている。シキは鍛冶屋を中心に露店を開いているプレイヤーに話を聞いた。ふと露店広場の端に見知った人物の背中を見たのでシキはそちらに歩いて行った。
「ようアスナ。こんなところで会うと奇遇だな」
片手を上げてシキは挨拶をした。
「あ、シキさんこんにちは」
アスナも立ち上がって挨拶をする。するとアスナが先程まで見ていた露店のプレイヤーが口を開いた。彼女に注目していた人物たちもシキに注目し、彼の顔を見た途端に察した。
「アスナ、知り合い?」
「あ、この人は同じ攻略組のシキさん。で、彼女は鍛冶屋さんのリズベット」
アスナはそう言ってアスナは双方の紹介をした。リズベットは小声でこの人が……とこぼした。
「よろしくリズベット、シキだ」
「こちらこそ」
こげ茶の髪にミディアムヘアー。頬に少々のそばかすをつけた女の子だった。このアインクラッド内では珍しくかわいらしい女の子だ。
シキは鍛冶屋と聞いて陳列された品を見た。片手剣、曲剣、両手剣、メイス、槍、斧がありどれも現在のレベルではなかなか高い品質だった。シキは薙刀がないことに少々の悲しみを覚えつつも商品を見ていく。
「そういえば、アスナはサイカからなんも聞いてないか?」
「サイカさんから? いえ何も」
サボってるのか?
そう思いつつシキはギルド設立についてのあらましを説明した。
「どうだ。入ってくれるか?」
「ん~そうですね。まだ私は一人でやっていきたいと思うんで今回は遠慮させてもらいます」
アスナもしばし黙考した後にシキの誘いを辞退した。これまで一人でやってきたのだ。シキとしても無理強いするつもりはないので
「そうか。ま、いつでも歓迎するし、サイカも喜ぶ。手が借りたい時は言ってくれ。リュウ曰く何でも屋だ、そうだからな」
シキはそう言って肩をすくめて見せた。
「そうします」
アスナもあっさりした態度を好意的に捉えた。
シキはここで完全に思わせぶりな言葉をこぼした。無論わざとである。
「ああ、あと専属の鍛冶屋が欲しいところなんだよなぁ。どこかに良い鍛冶屋でもいなかいなぁ」
シキはいかにも途方にくれました、という演技でリズベットではなくアスナを見た。
「そうですね。私が通ってる鍛冶屋はリズなんでお勧めは、この鍛冶屋ですね」
アスナはいたって真面目にシキの呟きに答えた。露骨ではあるが、うまい具合に話の糸口を作ってもらったのだ。
「リズベットは鍛冶屋専門なのか?」
続いてシキはリズベットに直接質問を投げる。
「え、はい。これからも鍛冶屋関連のスキルを振ろうと思ってるんで……」
「おお、そうか。なら俺たちのギルドに入ってみないか? 勿論専属といっても独占じゃない」
つまり今まで通り露店をして客を募っても良いということだ。
「え、でも……」
アスナが信頼するシキのギルドだ。しかも攻略組の専属鍛冶屋となればいろいろな恩恵があるだろう。リズベットはそこまで考えた。
そしてこの反応でシキは脈ありだと判断し、エギルの時同様、利で釣る作戦に出た。
「まぁ聞いてくれ。鍛冶をするにも素材がいるだろ? その素材が無償で手に入るとしたらどうだ?」
余った鋼材など鍛冶屋でなければ無用の長物である。そして鋼材は鍛冶屋にとって最も欲しいものでもある。
「なるほど」
リズベットの心は大きく傾き始めた。
「しかも、攻略組の俺たちは毎日でも武器のメンテを頼むわけだ。するとスキルの熟練度は一気に上がる」
声の強弱で興味をさらに引き出し
「さらに、攻略組の俺たちのギルドに所属することで、君の鍛冶屋の知名度はうなぎ登りだ」
「入ります!!」
止めを刺した。
事実エギルの言っていた通り、現アインクラッド最強の座を手にしているシキのお墨付きがあれば人気が出ないわけがない。つまりシキはエギルやリズベットのスポークスマンになるわけである。
「うんうん。また明日同じ時間にここに来るから、その時にメンバーを紹介するよ。あ、武器のメンテしてくれる?」
シキはそう言った。最後にリズベットに益を持たせることで、ドタキャンすることはないだろうという心理をついた。同時にエモノを預けることによって、信頼も確認させれるのである。
シキは心理を掌握する術を心得ているのかもしれない。
メンテが終わり、シキは別れの挨拶をして第12層に戻っていった。ところでアスナは知った人物に声を掛けられた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「というわけで、申請完了しました、はい。ギルド名は《Freelance》。方針は攻略ギルド兼万屋。リーダーはおれな」
部屋に集まったシキ、サイカに向けてリュウは第一声をそう発した。
シキもサイカもこれといって反論すべきところはない。
「はい、シキくん今日の報告を」
すっかりリーダー気分のリュウは報告を促した。事実リーダーはリュウなのだが。
「えー、エギルは了承。キリトは駄目だった。で、鍛冶屋だが見つかった」
「何? 本当か!?」
反応を見るにサイカは知っているようだ。
「ああ、中層のリズベットって女の子だ」
「カァー!! 君はまた女の子ですか!!? ほんとふしだら!!」
リュウは何やら怒りのエッセンスと共にシキを罵倒した。サイカはそんな気が全くないだろうと知っているので特にシキに対して聞きはしない。一種の信頼関係がすでに二人には出来ている。
「年中ふしだらなことしか頭にないお前に言われたくはない。だから顔は良いのにお前はモテないんだよ」
シキはリュウにカウンターを入れた。リュウはカウンターがもろにヒットしたようで、呻き声を上げながら顔を伏せた。
「まぁまぁ、アスナはまだ一人でやっていくって」
サイカは二人を諌めた後、アスナの是非を伝えた。シキはそれを知っていたので、だろうなという感想しかなかった。
「よし。ま、当初の人間は揃ったんだ。これでいいか」
これ以上増えることはほぼないだろうシキたちはそう思った。唯一の例外だとすれば、キリトやアスナの加入くらいだ。
「でだ、明日中層のリズベットのところに行くぞ。メンバー紹介だ」
「りょーかい」
「りょーかーい」
リュウとサイカが順に返事をする。シキはエギルにその予定についてのメッセージを送信した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、リズベットの鍛冶屋にギルドメンバーを連れ立って行くと、そこには野武士がいた。腰に差したるはシミターのような曲剣だ。片手剣に次いで二番目に多い武器である。野武士はシキと同じ赤髪をバンダナで逆立てており、必死に商品を見比べていた。
「こいつの方が鋭さが高いな。いや、こっちにして丈夫さを取るべきか。……いやいや、やっぱ鋭さか」
かなり決めあぐねているらしく、唸り声まで上げており、リズベットは若干引いている。
「ようリズベット」
去る気配は更々しないのでしょうがなくシキから声をかけた。
「あ、シキさん。リズでいいですよ、これからは同じギルドなんだし」
「おおん? おお!?」
突如現れた人物に野武士スタイルの曲剣使いは顔を上げた。そこには彼の身長を越える男が三人、しかもその一人は筋骨隆々の黒人ときたものだ。驚くなという方が無理である。一人を除き、見るからに見栄えのいい防具だ。
「ああ、悪い、買い物を続けてくれ」
野武士姿の男はこのメンバーのただならぬ雰囲気に気圧された。
そして……
「ク、クライン、24歳独身!! しゅ、趣味はゲームです!!」
クラインと名乗る野武士はいきなり立ち上がると、サイカに向かって自己紹介をした。なぜか腰を折り頭を下げて握手を求めている。
「え、あ、サイカです。よろしくおねがいします?」
サイカは戸惑いながらもそれだけ返し、シキの方に目を向けた。
「おい、あんたそんなことはどうでもいいが、買い物中じゃなかったのか」
「そ、そんなって、ああいや、あんたらって攻略組なのか?」
決死の自己紹介をそんなの扱いされ少しへこんだクラインは気を取り直して、気になったことを質問した。
「そうだぜ」
答えたのはリュウだ。
「おお! キリトってやつ知ってるか?」
「ああ、知ってるぞ。今も元気でやってる」
こちらの質問に答えたのはシキだ。
「あいつ生きてやがったか」
クラインはシキの言葉を聞くと嬉しそうに笑った。どうやら彼はキリトの知り合いのようだ。
「あんた、キリトの知り合いか?」
「ああ、デスゲーム初日にレクチャーしてもらったんだ」
へぇあいつがレクチャー、とクラインの言葉にシキは意外感を持った。
「よかったら伝えてほしいんだが、オレは生きてるし、戦ってる。いつかお前に追いついてやるって」
「ああ、分かった。しっかり伝えといてやるよ」
「ありがとよ」
クラインはそれだけ言うと商品を買わずに街の中へと消えていった。
「気を取り直して、自己紹介をしようぜ」
リュウは気を取り直すように声を上げた。
「あ、じゃあ露店を閉めるんで、場所を変えましょう」
リズベットのはからいで場所を移すことにした。場所は同層の最寄りの酒場だ。
「ではでは、自己紹介をしていくぞ」
そうテンションを上げつつリュウは仕切りだした。
「おれはリュウ。武器は短槍と盾のタンクだ」
「俺はエギル。武器は斧でステはタンク振りだ。あとは雑貨屋をやってる」
「私はサイカ。武器は片手剣と盾のアタッカー。よろしくねリズ」
「俺はシキ。武器は薙刀で、基本遊撃のアタッカーだ」
ここまではみな既知の仲だ。
「私はリズベット。リズって呼んでください。武器はメイス。鍛冶屋をやってます」
リズベットは年上だけの感じに少々恐縮しながらも自己紹介をしっかりした。
珍しく彼らギルドメンバー全員が違う武器という結果になった。そして戦闘員である者のバランスもタンク2、アタッカー1、遊撃1という具合になかなかバランスが良いチームだ。ここにリズベットが入るのなら支援といった形になるだろう。
「別に敬語じゃなくてもいいぞ。これから俺たちは一緒にこの世界を生きていく仲間だ」
シキはそう言ってリズベットの緊張をほぐす。
「よし、ではでは~。万屋ギルド《Freelance》新設の乾杯をしま~す。乾杯!!」
リュウの乾杯を合図に各々が目の前にあるコップを上げ、乾杯をする。
その後、《Freelance》の方針に着いて煮詰めていき、その日のギルドの集まりはお開きとなった。
基本的にこのギルドは自由で一緒に行動することを強要しない。集合の合図がある時だけ集合すればいいだけなのだ。そしてその集合も稀に有るかないか。ギルドである意味が本当に有るのかシキとしては疑問だったが、鍛冶屋や雑貨屋で安く買い物をできることに、こしたことはないのだからと思い考えをそこでやめた。
シキは飲み会の後、依頼などが回ってくるようにある人物に声をかけた。
「ようアルゴ。盗聴の調子はどうだ」
「やぁナツ、そうだナ。そいつを教えるには1000コルほしいところだネ」
「おっと、高い買い物になりそうなんでやめておく」
「そうカ? まぁ気が向いたら何でも聞いてヨ。安くしとくヨ」
舌足らずな言葉を話す少女。顔には第二層で受けられるクエストの名残が残っている。クエストをクリアすればその髭のようなペイントは消えるのだが、キャラ付けのためにそのままにしているらしかった。
「俺たち万屋のギルド《Freelance》を立ち上げることにしたんだよ」
早速本題に入ろうとシキは話し出す。それにつられてアルゴの目は光った。
「ほうほう、それはニュースだヨ」
アルゴはネタができたと細く笑んだ。
「でだ、これまでの攻略本への出資のツケとして攻略本の最後のページにでもいいから俺たちのギルドの広告を載せてほしんだ」
第一層時からシキは、アルゴに教えてきたカイがあったと素直に感じた。普通ならこのような頼みを了承するはずがない。
「むむむ、β時代からの付き合いのナツの言うことなら仕方ないネ。なにより、いろいろ攻略本のネタも提供してくれるしネ」
「サンキュー、デザインは問わないからよ。あぁ俺たちの連絡先は今んところ、最前線の主街区の広場に陣取ってる禿頭の黒人にしといてくれ」
シキはその言葉と1000コルを置いて鼠のアルゴの前から立ち去った。アルゴは数瞬考え、黒人とはエギルのことだとわかり、早速デザインを考え始めた。
「クックック、どんなデザインにしてやろうかナ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
時はほぼ同じにしてあるギルドが設立された。それはアインクラッドを恐怖に陥れる二大ギルドのうちの一つだった。
後日攻略本の最後のページにはしっかりと万屋ギルド《Freelance》の広告が無事載っていた。
煽り文句は、
β時無敗の男が万屋ギルド《Freelance》を結成!!
依頼をすれば何でもしてくれるぞ!!
連絡先は最前線主街区広場で露店を開いている禿頭の黒人で筋肉ムキムキマッチョマンだ!!!
少々誇張表現があるが宣伝なのだからこのくらい大目に見なくては、そう完成品を見たギルドの面々は思った。
因みにどこから入手したのかエギルのサムズアップ写真が貼られており、β時無敗を誇った人物が、攻略組以外にはエギルだと誤解される原因になったのは別の話。
ん? 今何でもするっていったよね。
ギルドの設立の仕方はオリジナルです。
あしからず。
質問、感想待ってますლ(๏‿๏ ◝ლ