SAO ~無双の矛~   作:鴉鷺

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e.p009 ギルドの一コマ

 ギルド結成以後、シキらは攻略の鬼になった。

 今まで攻略をサボっていたかといわれると別にそうではないのだが、レベル上げを主に行っていたのでダンジョン攻略にはあまり参加していなかったのだ。といっても怠ったかというとそうでもない。

 シキは基本的に三人で行動しており、さらに多い人数で行動しているディアベル他のギルドの方が、ダンジョンのマッピングというだけならば効率がいいのだ。

シキらが期待されていることは、レベルを上げることにより一番損耗の激しい戦いであるボス戦を、有利に進めることだ。

 などということもあり、《Freelance》は攻略というよりもボス戦メインという見方をされている。適材適所といったところだ。

 攻略された層が20になるころには、攻略ギルドという括りで呼ばれるほど攻略ギルドは増えていた。そのなかでも第一層で指揮官を務め、それ以降の層でも攻略組のまとめ役としているディアベルのギルド《攻略野郎Aチーム》、そして最近幅を利かせてくるようになったのは、人数が多く実力至上主義を謳う《聖竜連合》、みな平等という思想とアインクラッドをクリアすることを目標として結成された《アインクラッド解放軍》、この三勢力を主軸として攻略が推し進められていた。

人数の関係上、現在影響力がもっともあるギルドは《軍》である。

 彼のギルドは解放軍と自称するだけあり、来るもの拒まず、言う体勢であり未だ《はじまりの街》を拠点とし、そこに残ったプレイヤーを支援したりなどもしている点で他のギルドよりも加入する人が多く、今なお肥大化している。

 逆に攻略組のギルドで最小規模なのはシキの所属する《Freelance》である。が、未だにアインクラッド最強の地位を意図せず保っているシキが所属するため、他の攻略ギルドでさえ、あまり難癖をつけれずにいる。最強とは一種のアンタッチャブルな存在であるのだ。

「あんたが最強の?」

 だが、どこにでも冒険をしたがる者が現れるのも事実。シキのみすぼらしい防具を見て疑いつつも、男は声を掛けた。

「エギル出番だぞ」

 シキは自分に話しかけられているのに、エギルにお鉢を回した。

「おい、それはお前だろ」

 勝手に人を巻き込むな、そう言ってエギルはシキの背中を叩いて男の前に出させる。

「なんか用か?」

 シキはため息を付きたい気持ちで話しかけてきた相手を見た。

 現在時刻は午後7時であり、丁度日課の攻略とレベリングが終わったところの来客者だ。今回の攻略はエギルのレベリングを兼ねていた。エギルとシキは丁度今日の予定がなかったためのレベリングだったが、他のギルドメンバーはギルドが受けた依頼などをこなしている。

「最強の腕前を見せてもらいたいのさ」

 そう言って不敵に笑い、顔以外全身を鋼の甲冑で固めた槍使いはデュエルの申請をシキにした。明らかに最前線に見合わない防具と見て嘗めている。

「決闘してくれという依頼でいいのか」

 シキは目の前に出たウィンドウには触れずにそう返答した。

 ある時、最強という名だけで、決闘をしばしば挑まれることの出てきたシキは、決闘を依頼という形にして許可するようになった。依頼なので勿論金やアイテムを要求する。金はその時によってまちまちで、アイテムは大抵結晶の類を1ダースほど請求する。

 現状その依頼金を払える者は、攻略組の中でも上の方の者くらいである。

 さらにその依頼金や結晶アイテムは先払いである。別に決闘を挑まれることが嫌なら負ければいいのだが、わざわざ負けるのも癪なのでシキは今まで返り討ちにしてきた。なにより彼は負けず嫌いである。

「依頼……?」

 どうやらこの男はそのことを知らないらしい。

「そうだエギル。依頼の対価は何が良い」

 そんな相手の事情は知らないとシキは話を進める。

「そろそろ備蓄してある回復結晶が切れそうだったからな。丁度買い出しをしようとしてたところだし、それでいいだろ」

 エギルはギルドの倉庫状況を思い出し、そろそろ買い出しをしようと思っていたことをシキに伝えた。

「だそうだ。初回サービスで1ダース回復結晶を渡したら決闘が可能だ」

 手持ちのコルが吹っ飛ぶ初回サービスなど聞いたことがない。因みに再戦等になるとさらに依頼の対価はダース単位で増えていく。

「ふざけるな!! そんなサービスあってたまるか!!」

 男はバカにされたと思い大声を上げた。

「そうは申されましても、困りますよお客様。あ、先払いなのでそこはよろしくお願いします」

 慇懃無礼とはこのことだ、といわんばかりの態度をシキは取った。

 男は怒りで震えて二の句が継げなかった。ここまでバカにされたことなどなかったのだろう。一応は最強に挑戦しようとするだけの技量は、仲間内限定かはわからないが持っているのだ。

「クソ!! 明日持ってきてやるから覚悟しとけよ!!」

 営業スマイルをしていたエギルとシキにそう捨て台詞を吐いて、男は肩をいからせ消えていった。

「やぁ、またやってるな」

 男が去ってからすぐにシキ達は聞き覚えのある声を掛けられた。

「なんだディアベルか」

「お、久しぶりだな。昨日ぶりだ」

 全然久しぶりではないのにシキはそう言った。

「また、デュエルを頼まれてたのか?」

「ああ、最近いやに多くて困る。それにギルド紹介のところにも、デュエルの申し込みは依頼だと記載してあるのにそれを読まないやつが多すぎる」

 シキはやれやれといった感じで肩をすくめて見せた。

「オレなんか攻略組以外には最強だと思われてるんだぞ。そっちのほうが遺憾だ」

 エギルは憤慨のポーズを取って見せた。シキがアルゴに情報を提供した際には、必ずと言っていいほど末尾に広告が載る。しかもこうなることが予想されるとわかっていながら、アルゴは確信犯的に毎回エギルの写真を載せているのだから、読む人物に間違えるなという方が無理である。因みにシキたちの広告が載ったのがきっかけで他のギルドなどもまれに載っていたりする。

「まぁまぁ、いいじゃないか、エギルだって攻略組でもウマいほうだしさ」

 ディアベルは苦笑いをしながら憤慨気味のエギルを宥める。

「ディアベルはダンジョン攻略の帰りか?」

「ああ、あと少しでこの層も終わりそうだ。またボス戦でも活躍を期待してる」

 ディアベルはそう言って拳を出した。

「任せとけ、攻略会議の日程が決まったら呼んでくれ」

 シキもディアベルの期待に答えるようにディアベルと拳を撃ち合わせた。

◇◆◇◆◇◆◇◆

 その日の夜。

「最近思うんだがよ」

 シキ達は未だに居城を、最前線主街区宿屋としている。

 リュウは夕食も終わってひと段落した時、唐突に話を展開した。

 サイカは現在アスナ、リズベットと出かけている最中である。

「今頃現実世界ではどうなってるんだろうな」

 このデスゲームが始まってから、現実世界の話はタブーとなっている。しかし、 リュウとシキはリアルでも友人であり、メンタルも軟ではない。

「そうだな、俺らはさしずめ植物人間みたいなもんだろうな」

 シキは最近発売された、プレイヤーが編集した新聞を読みながら答えた。内容は大体がアインクラッドで話題になっていることだ。今回の大見出しは新発見、エクストラスキル刀に迫る、である。

「オレらが解放されないってことは、お前の叔父さんはまだ捕まって無いんだよな」

「ああそういうことになるな。そもそも日本の警察はそんな有能じゃないしな」

 事実ネットを利用した犯罪などに対して、日本の警察は苦手としている。茅場晶彦が捕まらない要因はそういう理由もあるのだろう。

 シキは叔父が今現在どうしているのか、とふと思った。現在このアインクラッド攻略にはなんの支障もない状態だ。この層をクリアすれば第25層となり、半年もしないうちに1/4もすでにクリアされることとなる。順調すぎる、と感じることもある。しかしプレイヤーが今大きな目標であるゲームクリアに団結して臨んでいる。 このまま進めば攻略組も増えて行きすぐにゲームはクリアされる。

「ふーん。てか、このナーヴギアの技術はあるわけじゃん?」

 特にそこには興味がないのか、自分から質問しておきながら軽くリュウはそのことを流した。

「そうだな」

「新しいVRゲームが続々と出てくるわけじゃん。気になるわ~」

「ま、確かに気になるな。俺も銃とか実際に撃てるゲームとかやってみないな」

 シキもゲーム好きとしてリュウの意見には同意だった。現実では出来ないこと、やってはいけないことをやれることに、VRゲームの魅力があるのだ。

「いいな、オレはロボットを操縦するゲームもやってみたいね」

 あとレースゲームとかもいいな、とリュウは一人で妄想を膨らませた。

 シキは先程考えていたことの続きを考えた。

 彼の知る叔父――茅場晶彦はこの世界が理想郷だと彼に語った。ならばこの理想郷を見るだけなどあり得ない。自身もこの理想郷の住人となるはずである。見ているだけ満足する人物ではないと知っている。そして理想郷を最後まで見届けたいだろうとも考えた。

 この理想郷の住人となり、見届けるためには、攻略の停滞はありえない。

 もし攻略が停滞したならば、必ず打開策を講じるはずである。そして、そのタイミングは何時になるか。

 シキはそこが叔父を見つける最大の瞬間であると思った。

 表舞台に出てくるか、影で動かすかまでは絞れない。しかし何かしらの継起で現れることは予想できた。それと同時に何かしらが起こるだろうことも薄々ながら予見した。

 結果としてシキの予想は的中した。だが、完全に把握することはできなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 第24層ボスは今までの階層通り、死者を出さずに突破することが可能だった。だが事件が起きたのは第25層ボス戦だった。そのボスは今までのボスとは明らかに質が違い、防御に特化した形態をしていた。

 STRをまともに上げていない者の攻撃は全くと言っていいほどに通じなかったのだ。

 そのことに焦りを見せた《軍》の一部のプレイヤーは、ディアベルの一時撤退の指示を無視。強行的に不沈艦とも呼べるボスとの戦闘を継続。

 人死を出さないことをモットーしているディアベルはその場に残ったものを救うため、戦闘継続を余儀なくされた。しかし戦線の維持が既に困難になっており、《軍》をはじめとした攻略組は大打撃を受けた。

 激闘の末、勝利を拾ったもののアインクラッド攻略開始以来、初の人死とともに攻略組が一枚岩で無くなる事件となった。このことにより《軍》の指揮をしていた男はギルドから追放、攻略組からも白い目で見られることとなった。

 今回の《軍》の暴走は完全に、シビリアンコントロールというか、リーダーの指示が行き届いていない結果によるものだ。

 そしてギルドが肥大化した結果、トップの意思が端々まで浸透しなくなったのが一番の原因だ。

 そもそも《軍》の一部のプレイヤーは、《軍》が最大ギルドであるのに、攻略組の主軸でないことに不満を持ったものたちだ。この第25層ボスという難局を《軍》の力だけで乗り越えることができれば彼らの地位は向上される、そう考えた。結果は失敗に終わり、逆に彼ら自身の評価を下げることとなった。

 そして《軍》の不手際の賠償として、第26層から第30層までのボス攻略の参加禁止と共に第25層ボス攻略に参加したギルドや個人への賠償が請求され、一気に《軍》は信用と勢いを失った。さらにこれ以降《軍》は非難のため、攻略への参加があまりできなくなった。

 そのため彼らは威信の回復のため、その時出現し始めた犯罪者、オレンジカーソルのプレイヤーを捕まえる、一種の警察機構のような立場に変わっていった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ある男がいた。彼は怒りの形相で主街区を歩いていた。

 デスゲームが始まって約半年経った頃。彼はあるギルドと知り合うことになる。そのギルドのメンバーは男が2人、女が2人のごく小さいギルドだった。彼はそれまでソロのプレイヤーとしてゲームの攻略をしてきたが、その頃 丁度ソロでの攻略が難航して来た。そしてソロでダンジョンに潜っている時、絶体絶命に陥った。

 その時助けてもらったのがそのギルドだった。さらにソロでは危ないから自分たちのギルドに入ってくれないかという 誘いを男は受ける。少し迷った男だが、そのギルドの面々は非常に喜作で、デスゲームが始まってずっと一人だった男にとっては、とても心地の良い場所だった。

 だから男はギルドのルールに従い所持していたコルの9割をギルド共通ストレージに入れた。そこまでは良かった。他のギルドメンバーもそれだけの割合のコルを共通ストレージに入れていると確認できたからだ。だが、それから何日か後にはゲットしたアイテムも共通ストレージに入れないか、という話が出た。ギルドの資産を作ろうという話からだ。

 その男以外はなんの疑いもなくその意見に賛同した。そして、彼らは迷いなくアイテムを共通ストレージに入れた。だから彼もその日入手したレアアイテムを共通ストレージに入れた。それまではドロッ プ品は取得者のものときまっていたのに。

さらに数日後、男が単独行動をした時、その瞬間を狙ったかのように男の所属していたギルドのメンバーは忽然と姿を消した。

 慌てて確認するためにウィンドウを呼び出す。しかしそこには既にギルドの名前はなく、フレンドからも抹消されていたあとだった。

 だから、彼は怒った。仲良しギルドだと思っていたのは彼だけで、本来は詐欺ギルドだったのだ。見抜くことは簡単だった、だが人付き合いが得意でなかった彼には気付けないことだった。

 男は怒りを胸に復讐を誓った。そして、幸か不幸かある噂を聞いた。

 そうアインクラッドの犯罪ギルドの《ラフィン・コフィン》と双璧をなす《Friday the 13th》の噂を――。

 




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