インフィニット・ストラトス ~宇宙からの来訪者~   作:国産茶葉

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プロローグ

 テラフォーミングが出来るような惑星もなく、資源採取できるような小惑星もない。そこは恒星からも遠く離れ、光も届かない闇に閉ざされた銀河の辺境宙域。

 

 そんな場所を航行する四隻の艦があった。

 

 四隻の内、三隻は形状は異なるも大きさで言えば小型艦――恒星間移動を可能とする最低限のサイズを確保しているので十分に大きいのだが――に分類され、残りの一隻は全長が小型艦の二倍はある中型艦だ。

 

 どの艦からも物々しい武装が突き出しており、舷側(げんそく)には幾つも攻撃を受けた跡が存在する。

 

 四隻は適度な距離を保ちながら、お互いの射線が被らないような位置取りで航行していた。

 

 今、旗艦である中型艦の艦橋(かんきょう)では、各艦の艦長が通信ウィンドウを介して話し合いが行われている。

 

『団長、次は豪華客船を襲わねー? 身代金を取り放題に金持ちを殺し放題。最高じゃん』

『豪華客船は護衛艦が面倒だ。実入りは多少少なくなるがレアメタルの資源輸送艦の方が楽だろ』

『いや、それよりも――』

 

 小型艦の艦長達が好き勝手に口を開いて次に襲う目標を挙げている。

 

 そのどれもが犯罪行為であるが、そんな事を気にする者もいない。なぜなら人種どころら種族さえ一致しない彼らの共通点は、(すね)(きず)持つ身だからだ。

 

 お互いの主張を譲らず、我の強い者ばかりだから話は纏まらない。段々とヒートアップする彼らを今まで黙っていた団長は一喝する。

 

「黙れてめえら! ――次の獲物は決めてある。これだ」

 

 コンソールを操作して情報を各艦に送る。そこに記載されているのはどこぞの小型惑星だった。

 

「宇宙にも出れねえ間抜けな連中が住んでる惑星を丸ごと頂く。連合にも参加してねぇ未開惑星だ。原住民を殺すのも、レアメタルの取るのも好きなだけやれ。俺は勿論、間抜けな連中を生きたまま解剖だ」

 

 残忍な行いを楽しそうに笑いながら口にする団長を、各艦長は怯える所か賞賛するように口笛を吹いたり、同意する様にニヤニヤと酷薄な笑みを浮かべる。

 

 そもそも彼等は重犯罪を繰り返す宇宙海賊団である。

 

 元は別々の海賊であったが、軍人崩れの団長がそんな彼らを纏め上げ規模を一気に拡大。それに比例するように周辺の被害は増大した。

 

 海賊団の活動宙域の惑星国家は討伐に軍を差し向けたが、軍が近づくと逃げに徹する為に成功した事は一度としてない。

 

 軍人崩れの団長に戦術を読まれてしまうのも原因の一つだが、何よりも軍の動きを事前に察知されているのが大きい。その漏洩箇所が特定出来ない為に手を(こまね)いているのが現状だ。

 

 今までで一番の獲物に艦橋内は盛り上がるが、通信士の報告が水を掛ける。

 

「団長。何か通信が入ってきてますけど、どうしやすか?」

「通信だ~? 相手はどこのどいつだ?」

「それが……暗号化が掛かってて分かんねーっす」

 

 通信士が団長の要望に応えようと今も通信先を割り出そうとしているが、軍が使うような高度な暗号化だと判別できるだけで、特定出来そうにない。

 

 元軍人として情報戦の重要性を理解している団長は、暗号化が解けない時点で脳裏に何とも言えない不安が(よぎ)る。

 

 周辺の惑星国家を出し抜けるのは電子戦装備に力を入れているからであり、それが意味をなさないという事は相手の方が技術力が高い事を示している。

 

「何か嫌な予感がするが、仕方ねー。繋げろ」

「了解っす」

 

 通信が繋がりウインドウが開くがそこには黒塗りの()が映るだけで、相手の姿は見えない。それに一瞬虚を衝かれるが、すぐに口上が聞こえてくる。

 

『こちらは宇宙海賊の討伐を依頼された者です。海賊である貴方たちに与えられる選択肢は二つ――投降して流刑体となるか、この場で死ぬか。そのどちらかです。もし投降するのならば武装をロックし、艦長コードの譲渡を。死を選ぶのなら宇宙の塵にして差し上げましょう。さて、どちらを選択されますか。必要ならば考える時間を多少は融通しますが? 人生最後の選択ですから悩むのは承知しております』

 

 滑らかに喋る女性の声は心地よい響きながら、通信を聞いていた全ての者の神経を逆なでしていた。虚仮にされた団長を始め各艦長は怒りに顔を歪め、(はらわた)が煮えくり返っている。

 

「姿を出す度胸のねえやつがでけぇ口を開きやがる。選択肢が二つ? 違うな。あるのはおめぇの死だけだ」 

 

 大の大人でも聞くだけで泣き出しかねないどすの利いた声を団長は口にする。

 

 その内心では喧嘩を売った相手を嬲り殺す事を決めていた。例えここで殺せずとも草の根掻き分けて息の根を止めてやると。

 

『ならばどちらの発言が正しいか、実際に戦って証明するという事でよろしいですか?』

 

 しかし、そんな物は動じるに値しないとばかりに涼しい声で通信先の声は応える。

 

「ああ。吠え面をかく暇もなくぶち殺してやるよ」

大言壮語(たいげんそうご)も程々にしたほうがよろしいかと。それでは――――――戦闘開始です』

 

 通信が切れた瞬間、艦の間を一筋の光が通り抜ける。すると追いかけるように一隻の小型艦の一部が光球に飲見込まれていともたやすく轟沈。それを裏付けるように三つ開いていた通信ウィンドウの内の一つが悲鳴を届ける間もなく黒で塗り潰された。

 

「クソッタレ!! 物理保護(シールド)を最大値にしろ!! 襲った機体は何だ!!」

 

 さすがは元軍人と評価するべきか――仲間が墜とされたと悟ると防御を固め、相手を見極めようと行動を起こせるのは。装甲の上に展開される物理保護も無敵の盾ではないが、堅硬(けんこう)の盾なのは間違いない。

 

「センサーで機影を捉えた!! 相手は……!? ……ヴァ……ヴァルチャーだ!!」

 

 通信士の悲鳴に艦橋に居る誰もが動揺し騒然となり、団長と言えどもそれは例外ではなかった。だが、すぐに立ち直り指示を飛ばす。

 

狼狽(うろた)えんじゃねー!! 引いたら負けだ、戦って勝つしか生き残る道はねえんだよ!! 艦載機を全部出せ! 砲台を起動して撃ちまくれ!」 

 

 団長の指示に取り敢えずの平静を取り戻した艦隊は、生き残る為に動き始めた。

 

 

          ◆          ◆          ◆

 

 天駆ける死神。恐怖の象徴――それが着る宇宙服とも称される《ヴァルチャー》の二つ名だ。宇宙の各地に伝承される神や悪魔と言った存在。それを模した外観は人型に一対の羽根を持つ姿をしている。

 

 宣戦布告として標準装備である物理崩壊銃(ジェノサイドガン)を小型艦に一射して撃沈。そのまま艦隊から距離を置いて、背後から前に追い抜いていく攻撃を眺めながらヴァルチャーの搭乗者――《ハルト・ヴァッサ》は精神感応(テレパシー)で話しかける。

 

海賊(ゴロツキ)の割には味方が墜ちてからの対応が早い。砲撃精度に関しては及第点はやれんな』

 

 三隻から雨のように放たれる荷電粒子砲。それに続くように次々と発艦した艦載機が砲撃を迂回しながらこちらに向かってくる姿を捉える。

 

 奇を(てら)った対応戦術ではないが、それだけに堅実で有効である――相手がヴァルチャーでなければ。

 

『未確認情報ですが、海賊のトップは元軍人らしいので不思議ではないかと。それで彼らをどう平らげますか?』

 

 ハルトの言葉に返したのは先ほど海賊に通信を送った女性の声。その正体はヴァルチャーの支援(サポート)AIでありハルトが《シェル》と名付けた長年の相棒(パートナー)だった。

 

 火器管制や索敵に始まって情報収集や電子戦に及び、さらには搭乗者が負傷などによって操縦不可の時、代行としてヴァルチャーの自律制御と多岐に渡る。

 

 ヴァルチャーの真価を発揮するには搭乗者が必要だったが、無人運用でも現在相手にしている海賊程度なら十分に殲滅出来る程度の戦闘行動が可能だ。

 

雑魚(艦載機)を全て掃討。小型艦から排除する。その後は――』

『旗艦を丸裸にして撃沈――ですか?』

 

 ハルトの台詞を遮りシェルが続きを答える。

 

『そうだ。よく分かったな』

『何年貴方と一緒に戦っていると思っているのですか』

 

 呆れたように答えるシェル。

 

 傭兵という立場であるハルトは、戦いに心躍らせる性格――所謂、戦闘狂(バトルジャンキー)だ。三度の飯より戦いが好きというような重症者ではないが、命のやり取りに生を見出し、敵を潰し命を喰らう行為に対して悦楽に浸る悪癖(あくへき)がある。

 

 合理的に済ますのならば、降伏勧告後の最初の一当てで全てを撃沈するべきだった。それを一番損傷の多い小型艦を先に墜として危機感を煽り、総力戦を仕向けるのは戦闘をより楽しむ為だ。

 

 必要ならば一切反撃を許さず理詰めに戦う事や、力押しだけでなく搦め手も取れる腕があると言うのに。ただただ戦闘に興じたいが為に――そんな己を嗤う自己矛盾を抱えながら。

 

『反対か?』

『まさか。ハルトのご随意に』

『なら始めるぞ』

 

 会話中も片手間に回避行動を取りながら遠ざかっていた軌道を宙返りする事で反転。

 

 荷電粒子の雨を巧みに躱しながら艦載機を重力素子で保護された爪で切り裂き、掌から放たれる光弾で撃ち落とす。

 

 遠距離の敵にはシェルが制御する物理崩壊銃が周囲を飛び交い撃墜していく。

 

 ごく稀に粒子砲が命中する事があったが、敵艦と同様に物理保護がより高い強度で効いている為に弾き飛ばして無傷でやり過ごしていた。

 

 やがてそう時を置くことなく瞬く間に艦載機を平らげたヴァルチャーは、速やかに残りの小型艦二隻と旗艦一隻に取り掛かるのであった。

 

          ◆          ◆          ◆

 

 戦闘開始から約二時間後。

 

 損傷なしで戦闘を終えたハルトは、自らが作り出した惨状――原型を留めない程に破壊された鉄くずが散乱する空間で満足気に漂っていた。

 

 無人艦載機三百十二機に小型艦三隻と中型艦一隻が今回の出撃結果だ。逃げ出せた人は居らず、正確な人数を把握していないが、艦の規模から判断して死亡者数は五百は下るまい。

 

 そんな余韻の一時(ひととき)にシェルが声を掛ける。

 

『ハルト、少しやり過ぎではないですか?』

『依頼は宇宙海賊の討伐。dead or alive(生死問わず)だったはずだ』

 

 ハルトは気分を害することなく答えた。

 

『ええ、その通りです。しかし最後に旗艦が降伏したにも関わらず撃墜しました』

『それの何に問題が? 良心の呵責がとでも言う気か?』

 

 こちらからの降伏勧告を拒絶したのは相手側だ。

 

 お互いの命をbet(賭けた)した戦場で、敗北が濃厚だからと降伏して相手が必ずしも攻撃を止めるなど甘い考えだ。もし最初から逃げ出すようなら相手ならば、逃がす事はなくても助命したかもしれないが、それは『たら』『れば』の話。敗者は勝者に従うという己の規律通り、降伏を受け入れずにそのまま殲滅することを決め、皆殺しにしたのだ。

 

 故に降伏した艦を落した事への罪悪感は存在しない。

 

『まさか、そんなことはありえません。わたしを十全に使いこなす貴方が過剰攻撃で逮捕されるようなことになったら悲しいからです』

『なるほど。その可能性はあったか』

『ええ、気を付けて下さい。まあ、管理体達を相手に大立ち回りをするのも一興ですが、善戦はしても敗北確定ですから。そんな戦いに興味はありません』

 

 似た者主従だなと思考の片隅に思い浮かべながら、シェルの十全という褒め言葉に気を良くして再び無重力に身を任せる――だがその時間も長くは続かない。

 

『音声メールが届きました。どうしますか?』

 

 もうしばらく戦闘の余韻に浸っていたかったが、ハルトにメールを送ってくる相手など一人――いや一つしかいない。それにメールの内容は次の依頼に違いない。

 

 新たな狩場を想像して気分を高揚させたハルトはシェルに命令する。

 

『――再生しろ』

『了解です。――――――やあやあ、ハルト。元気にしているかい。ディジットだ』

 

 シェルの声の後から陽気な声が続く。聞き取り易く滑らかに喋っているが、雌雄のない電子音声だった。

 

『海賊退治はどうなっているかな? 君の事だ。もう終わらせているんじゃないかい。後腐れなく文字通りの全滅というかたちで』

 

 ディジットからの討伐依頼は受ける事は多い。そして依頼を失敗する事はなく、殆どをディジットの言う通り全滅させているので彼の予想範囲内なのだろう。

 

『こちらも手間がなくて良いんだけど、討伐対象外まで巻き込まないように注意してほしい。結果報告についてはいつも通りで』

 

 毎度のお小言を聞き流して本題を待ち受けるハルト。

 

『さて君に頼みたいのはとある銀河の恒星系の惑星に向かって欲しい』

 

 そこで初めて今までの依頼とは毛色が違う事に気づく。

 

 基本的にディジットがハルトに依頼するのは宇宙空間での小規模戦闘だけだ。ハルトに依頼すると敵を殺し過ぎて(・・・)しまうのでそれに配慮された結果だった。また過剰攻撃が多いので被害が及ばないよう、惑星やその付近に戦闘になるようなものを依頼してきたことはない。

 

『そこで流刑体の処理をして欲しいんだ』

 

 ハルトの思考を困惑に埋め尽くされる。

 

 海賊にも宣告した流刑体とは犯罪を犯し宇宙空間へ追放された犯罪者のことだ。贖罪として宇宙を彷徨う光となって地を照らす星となり、見知らぬ惑星に存在する者達の夢想や創造をもたらす助けとなってほしいと願いを込めて。だから永遠に宇宙を彷徨うはずの者をなぜ処理しなければならないのか理解できるはずがなかった。

 

『情けない事に軌道計算を間違えてその惑星に流刑体が衝突する。総数は計算途中だが、二千万より下回ることはないだろう』

 

 聞いた瞬間、断ろうと間違いなく考えた。二千万という集団を殲滅するだけでも多難なのに、それが散発的に衝突するなど一々潰していられない。

 

『勿論、君一人で二千万超える流刑体を処理するのが物理的にも無理なのは承知している。だから提案がある』

 

 その言葉に結論をハルトは保留する。

 

『その惑星には知性体が存在し、恒星系内での惑星移動は実現していないが小規模宇宙ステーションを作れる程度の文明はあるんだ。だから君は原住民の治安組織が流刑体に対して防衛体制を構築できるまでは最低でも対応して欲しい。依頼を受けて貰えるならばその惑星が存在する恒星系においてのみ管理体権限を承認しよう。こちらの尻拭いで申し訳ないが、依頼を受けてくれると助かる。依頼を受けるのならばいつも通りで――――――以上がメールの内容です。依頼、どうしますか?』

 

 正直、ハルトに面倒という思いがなかった訳ではないが、依頼内容自体は悪くない。報酬の話がなかったがそれは事前に取り決めがあるので問題なく、期間も防衛体制の構築なら長くても十年以内には出来るだろう。寿命があってないないような種族であるハルトにとって十年など悠久の生の中でほんの一時(ひととき)に過ぎない。

 

 何より管理者権限の貸与――必要であれば原住民への殺人、技術提供等が許されるという旨みがある。具体的に何をしたいか決めてはいないが、権限が広ければ単純な討伐よりも得るものがあるかもしれない。

 

 ハルトは依頼を受けること決めシェルへと指示を出す。

 

『依頼を受ける。ディジットに連絡を。ちなみに流刑体が衝突するよりも早く到着できるか?』

『添付情報を見る限り可能です』

『ならそのように頼む。着いたら起こしてくれ』

『了解です。自動航行モード起動。――おやすみなさい。ハルト』

 

 その言葉を最後にハルトは休眠状態へと肉体を移行させていく。

 

 宇宙は広大だ。

 

 目的地まで一番近いという理由でディジットは依頼をしてきたのだろうが、それでも到着まで最低でも数年掛かる。ワープ航法が生み出されない限りそれが当然のこと。

 

 技術的にはハルトの体感時間で一瞬の内に到着したかのように錯覚させることも可能だが、それをハルトは好まない。だから優秀な(できた)相棒であるシェルは演出してくれるのだ――新たな依頼への期待を膨らませたまま眠りにつき、目覚めた瞬間、新たな戦場が目に飛び込むように。

 

(…………そう言えば惑星の上に降りるのは何十年ぶりになるのか。久しぶりに戦闘以外を……楽しむのも……悪く……な……い……)

 

 その思考を最後に、ハルトの意識は落ちていくのだった。

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