インフィニット・ストラトス ~宇宙からの来訪者~   作:国産茶葉

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第五話 入学式後

 入学式に途中から参加した遥香は、特に叱責されることもなく式を終えて自分の所属するクラスに来ていた。

 

 黒板はチョークで書けるよう表面処理された液晶ディスプレイになっており、そこには生徒の座席指定が表示されている。

 遥香の席は最前列で真ん中から一つ廊下側で、そこに座ると座席調整をしてカードキーを差し込む。すると机の端末ディスプレイにサーバーアクセス中と表示され、やがてログイン画面が表示された。

 

 入学案内に書かれていた端末取扱方法のとおり、これでアカウントになっている学籍番号とパスワードを入力すれば端末が使用可能になる。

 どの端末からアクセスしようとも情報は端末の記憶領域ではなく、学園のサーバー内に保存されるのでデータをモバイルストレージ等に保存する必要はない。

 むしろ情報セキュリイの観点から個人が許可なくストレージデバイスを所持する事を禁止していた。

 

 初期設定のログインパスワードを入力してやり、パスワードの再設定をするとメニューから目的の物を探し選択。

 

「ふん、やはり駄目か」

 

 案内の中に訓練機用ISの貸出予約の方法が載っていたので物は試しとやってみたが、案の定だ。

 メッセージボックスが表示され、申請項目全てにロックが掛かっている事を知らせてくる。

 

 大人しく千冬に相談する事を決めた遥香は、カードキーを抜いた所で隣から話しかけられる。

 

「なあ、何をやってたんだ?」

 

 遥香が教室に入った時からその人物は席に座っていたが、興味がなかったので気にも止めていなかった。だが()――IS学園に存在する唯一の男子生徒――織斑一夏は違ったのだろう。

 

 入学式での一件からくる羨望と、珍獣を見るかのように女生徒が遠巻きに見つめる中、颯爽とクラスに入ってきて席を確認すると隣に座り端末で作業を始めた遥香。

 周りからは「あれってもしかして……」とか彼女を噂する生徒がいるので自分と同じ有名人なのかも知れないと同族意識が働いたのだ。

 窓際に座っている幼馴染が話しかけてくれればそちらと話しただろうが、場違いと感じている場所で自ら動いて幼馴染に話しかける勇気はなかった――ちらちらとこちらを見るくらいなら話しかけてくれよという願いを胸にしまい込んで。  

 

「訓練用ISの貸出申請をしようとしたところだ。ホスト側でロックされていて出来なかったがな」

「へぇ~、端末でそんな事ができるのか。でも入学式当日にやるなんて早すぎないか?」

「必要にかられて、だ。端末の説明に関しては送られてきた物の中に含まれているはずだが、入ってなかったのか?」

「えっ、あ……いや、な」

 

 誤魔化し笑いをする一夏に遥香はそうかとだけ言葉を返して話を流す。

 

 女性にしか乗れないはずのISを起動させた織斑一夏という人間がいる事と顔くらいは知っていたが、それ以上の情報は集めていない。

 防衛戦力としてISとその搭乗者が使えるかどうかは調べていたが、操縦者が女性か男性かなど思慮する必要などないからだ。

 ただその希少性からIS学園へ強制入学させられたとは想像に難くなく、望んで入学した女生徒とはやる気に差があるのは当然だろうと納得する。

 

「あっ、俺は織斑一夏だ。よろしくな」

「ああ、水瀬遥香だ」

 

 名前に反応しなかった事で気を使われたのかと思いもしたが、端末の使い方を知らなかった事から情報収集に難があるとして、知らないか気づいてないだけと遥香は結論付ける。

 

 まもなく見知った気配を廊下から感じ、教室入口に視線を向けば本音が扉から入ってくる姿を捉えた。

 

「やった~~。ハルハルと同じクラスー」

 

 遥香の姿に気づいた本音が、袖をぶらぶらさせながら両手を上げて喜ぶ。黒板に本音の名前があったのでクラスメイトと知っていた遥香は笑い返した。

 

「遅かったな。用事は終わったのか?」

 

 入学式の時に遥香達は顔を合わしており、遅れて入ってきて悪目立《わるめだ》ちするという理由から新入生の席に座らず、在校生の席の後ろで二人揃って座っていた。

 その際に遥香は謝辞を伝え、式後は小用があるという本音と別れていたのだ。

 

「授業後にまた来いってさー。う~お姉ちゃんにがっつり叱られる~」

 

 袖で顔を覆って鳴き真似をする本音に、遥香は原因となった人間として詫びをいれる。

 

「わたしの所為ですまんな。埋め合わせに何かしよう」

「……ほんとー?」

 

 腕の動きを止めた本音に遥香はああと返事をして頷く。

 嘘泣きに騙される人間はいないだろうし、本音もそこまで深刻に考えていないだろうが、仲を深めるには丁度良い。

 

「てひひー。何してもらうか考えとくね~」

「お手柔らかに頼む」

 

 一夏は一人蚊帳の外だったが、会話が切れたのを機に話に割り込む。

 

「あーっと、二人は仲が良いけど中学の友達なのか? ちなみに俺は織斑一夏、よろしくな」

「私は布仏本音だよー。ハルハルとは朝知り合ったばっかりなんだ」

「それにしては仲がすごく良さそうだな」

 

 その言葉に本音は笑顔を浮かべるが、思い出したように手を叩く。

 

「あっ。そう言えば入学式で凄い発表があったね~」

「IS学園の生徒にしてみればそうだろうが、各国の政府にしてみれば青天の霹靂(へきれき)だろうな」

「そうなのか?」

 

 一夏の疑問に頷き、遥香は入学式の様子を振り返る。

 

 千冬達と居たあの場から離れた後はそのまま入学会場の扉を潜り、係の人間に従って本音の隣に案内された遥香は座り謝辞を述べた。

 本音は笑って許してくれ、式の途中だからと大人しく退屈なお偉方のスピーチを聞いていたのだが、終盤になって騒ぎが起こる。

 

 男性がスピーチをしてる最中(さなか)、舞台の袖から一人の女性が係の制止を振り切って登場したのだ。

 女性の顔に見覚えがあった遥香が遅れて入ってきていた千冬に視線を送ると、頭が痛いと額を抑える姿を見て確信する。

 

「凡人。邪魔。どいて」

 

 冷たい視線と女性の暴言に男性は目を見開いて口をぱくぱくと開くが言葉にならず、意気消沈して諦めるように溜息を吐くと場所を譲りこう口を開いた――「どうぞ、條ノ之博士」と。

 

「ほうきちゃーん。いっくーん。高校入学おめでとー。束さんがわざわざ二人の為だけにスピーチしにきて上げたよ!」

 

 袖に下がる男性を一顧だにせず、彼に向けた表情とは正反対の物を浮かべ機嫌良く喋る女性。

 背中を隠すほど長い紫紺の髪に、無邪気に笑みを浮かべる整った顔立ち。男性の手でも零れ落ちるほどの豊満な胸が大きく開いた胸元から覗く。

 

 装いを一言で表現するなら『大人の少女服』。

 

 (いき)でありながら空想的で無邪気な表情とも良く似合っていたが、(おごそ)かな雰囲気がある入学式には不相応な代物だ。

 けれでも彼女は恥じるどころか誇らしげにしている――これが私だと主張するように。 

 

 彼女の名は條ノ之(しののの)(たばね)

 IS(インフィニット・ストラトス)をたった一人で生み出した人物であり、現在もISコアを製作できる唯一の人物。

 宇宙開発事業において一社独走するシュテルライゼンデ(SR)社の最高経営責任者 兼 技術開発統括者である。

 

 年間三百個のISコアを国際IS委員会に委託――丸投げとも言う――し、一個一千億円の固定価格で売り捌いているのは誰もが知っている事だ。

 ISの価値を知っていたら最新鋭戦闘機の三倍程度でコアが購入できるというのはお買い得商品なのだろう。

 毎年、委員会にはISコア購入希望者が国家・企業・個人問わず殺到しており、コアの販売先の決定権を有する委員会は言うに及ばず、SR社の影響力というのは日に日に増している。

 日本もコアが日本円で取引されるので、経済は不況知らずという状況だ。

 

 ただSR社はIS開発をしていてもコア以外は販売していない事が挙げられる。

 IS開発の為に束が第一世代と呼ぶISの基本技術情報を全て公開していたが、以降ISを宇宙開発に(おい)て独自に運用している以外、外部に情報を一切公開していない。

 

 ちなみにIS学園が保有しているISの百八機の内、百機のコアはIS学園のある島にSR社が土地を借用し続ける限り無期限で無償貸与した物だ。

 コアを損壊させた場合には日本が賠償金を支払わなければならなかったが、用途に学生の訓練用と指定している以外は特に制限を掛けていない。

 故に学園内で運用し学生を操縦者にしておけば契約違反にならないので、半数ほどが実験検証機として研究開発に使用されている。

 

 IS学園の研究成果は秘匿する事ができないが、それでも各国で自国のIS教育機関を造る動きが鈍いのは、IS学園の教育環境と開発環境の充実が要因でもあった。

 先程の日本国政府高官の男性が、條ノ之束という存在に対して逆らえないのも仕方のない。

 

 名指しにあった二人は羞恥に震え、それ以外には聞き流すしかない愛の籠った話が垂れ流される事十分――転機は訪れる。

 

「そうそう。二人に入学祝いのプレゼントがあるんだ」

 

 どこからともなく取り出した二人への贈り物を、両手にそれぞれ持って見えるように軽く掲げる。

 一つは飾り紐に金と銀の鈴が付いた物、もう一つは手首から肘の辺りまで前腕を覆う白色のガントレットだった。

 

「私がほうきちゃんといっくんの為に開発した第四世代型(・・・・)IS、『紅椿』(あかつばき)『白式』(びゃくしき)。これをプレゼントするから頑張って使いこなしてよ」

 

 束の発言に会場は一気に騒めきに満たされる。

 

――第四世代型IS。

 世界中が第三世代型(・・・・・)を開発する事に躍起になっている中で、次世代のISを用意したと宣言したのだ。

 同世代型でも隔絶した性能を持っていると噂されるSR社製のISの性能に、各々が勝手な想像を膨らませて口を開くから会場が収拾の付かない状況になる。

 だが――

 

『條ノ之束博士、続きを頼む』

 

 会場のスピーカーから鳴り響いた鼓膜を裂くようなハウリング音と、それに続く『随行体』(ポンコツ)の言葉に会場は静寂に包まれる。

 

「もうー。ポンコツくんの声大きすぎるよ! 耳が馬鹿になっちゃうじゃないか! まぁ五月蠅いからそろそろ私も黙らせようと思ってたから丁度良かったけどさー」

 

 SR社から学園への出向社員であり、束が身内と認めるだけの実力を示した高校時代の旧友である椿定光の相棒であり、興味を注ぐ存在を束が知らないはずがない。

 手が塞がっていて耳を押さえられなかった束は文句を言いながらマイクに近づく。

 

「うーんと、ほうきちゃん達の事はもう十分話したから後は……あー、あれか~」

 

 楽しそうだった表情が一転して酷く詰まらなくて面倒臭そうにする束。

 

「さだくんは必要だって言うけど、ほうきちゃん達がいれば十分だと思うんだけどな~。まぁ約束だからどっちでも良いんだけど。凡人ども喜べ。SR社は最大十名のIS操縦者をスカウトする用意があるから、強さに自信のある人は応募するといい。――さて言いたい事は言い終わってすっきりした束さんは研究所に帰るね。――ちーちゃーーん! 朝は迎えに来てくれてありがとう。わたし帰るから、ほうきちゃん達のプレゼント取りに来てね~」

 

 千冬に手を振ってそう言葉を残し立ち去る束に会場の人間は唖然とするが、理解が追い付くと再び騒めきに満たされる。

 

 SR社は僅か十年足らずで巨大企業に成長したが、そのほとんどは既存の企業を傘下に吸収してきた結果に過ぎない。

 宇宙開発とIS開発関係で働く人間は少数精鋭で、全てSR社からヘッドハンティングして人材を揃えており、応募という方法が取られたことなどないのだ。

 今回の話は操縦科の人間にとってはチャンスであり、各国政府高官にとっては優秀な人材の青田刈りに顔を顰めていた。

 

 そんな会場の熱を水で冷ますようにポンコツの声がスピーカーから流れる。

 

『條ノ之束博士の話では不十分なので捕捉しよう。SR社は学年や科を問わず、優秀なIS操縦者を募集している。応募した者はSR社が用意した訓練プログラムで評価し、期日の日において必要水準を満たした上位十名までをスカウトする。評価プログラムは期日までなら何度も挑戦可能だ。――ただし注意して欲しい点がある。スカウトした者には命の危険性がある任務に従事してもらうという事だ。危険に見合った待遇は約束するが、安易に応募しないように頼む』

 

 そこでスピーカーの音が途切れ、遥香の思考はSR社は流刑体の存在に独自に対処する気なのではないかと思い至る。

 随行体がいるのだから流刑体の情報は持っているだろうし、ISなら『ヴァルチャー殺し』の異名が付くような流刑体以外なら十分に対処可能だろう。

 既に防衛体制が出来つつあるのなら、最低限のフォローをして任せるのも一つの手だと考える。

 

 それから式は問題なく終わったのだが、各国の高官が足早に会場を去っていくのが印象的ではあった。

 

「各国が第三世代型の開発に鎬を削るのを嘲笑うかのように第四世代型を発表し、優秀な人材を抱え込みたいのにSR社に横取りされれば面子(めんつ)に泥を塗られるような物だろう。応募者の中に代表候補生や専用機持ちがいたら尚更な」

「あ~~確かにそうだね~」

 

 遥香の話に本音は気軽に同意するが、当事者である一夏からは何の答えもないので二人は視線を向ける。

 視線を向けられた一夏はたじろぎながらも考えていた事を口にする。

 

「……なぁ。知り合ったばっかの二人に聞くのはちょっとあれなんだけど、俺って束さんからISを貰っていいのか? ISが本来女性しか乗れない貴重な物って事は知ってるし、良く理解出来てねーんだけど俺が貰うのは、その、第四世代型とかいうやつだんだろ。IS学園に強制的に入学させられたみたいな状況に、またなったりしないのか?」

 

 ISを起動させて以来、家には各国の報道陣やらIS研究者を名乗る人物が引切(ひきき)り無しに訪問してきて外出もままならなかった。

 ストレスを感じていたがノイローゼになる程ではなく、むしろ面倒臭いとか鬱陶しいという思いの方が強い。

 やがて政府の人間が来て一夏に言う――君を保護するにはIS学園に入学するか、国際IS委員会に身柄を移すの二択しかない、と。

 委員会で軟禁状態になるくらいならばとIS学園を選んだが、周りが用意した道を選ぶしか己の道がないと思うと、お気楽な一夏と言えども暗鬱にもなる。

 各国の顔に泥を塗ったと聞かされれば尚更だ。

 

「……おりむー。それは……」

 

 一夏の気持ちを朧気ながらも察して本音は答えてあげたいが、彼よりも周りの状況が見えてるだけに何も言って上げる事が出来ない。

 貰えば貴重な男性操縦者及び第四世代IS保持者として国家間の綱引きに振り回されるだろうし、要らないと言っても周囲が動いて保持するよう強制されるのだ。

 そこに一夏の意思が挟む余地はなく、用意された道を歩くしかない。

 

 重たい沈黙が降り注ぎそうになるの遥香が机に頬杖を突いて呆れたように鼻であしらう。

 

「――ふん、下らん質問だな」

「俺の質問のどこが下らないんだよ」

 

 人の悩みを下らんの一言で片付けられてカチンときた一夏は、無意識に声がぶっきら棒になってしまう。

 

「下らんだろ。織斑が望みを口にせずに助言を得ようとすれば、こちらは見当違いの助言をするかも知れないんだからな。――そもそもIS学園に入学しなければお前はどうしたかったんだ?」

 

 遥香の答えの意図を掴み切れない一夏は、取り敢えず問われた事の答えを返す。

 

「それは――千冬姉に迷惑を掛けているから、自宅から近くて学費も安い藍越(あいえつ)学園に入学して、そのまま学園法人の関連企業に就職したかったんだよ」

「つまり織斑千冬に掛けている経済的負担を取り除く事と、自立が目的で合っているか?」

「そう、だな。ああ、それで合ってる」

 

 要約された遥香の解答が自身の望みとずれていないと思った一夏は頷く。

 

「なら専用機を貰おうが貰わななかろうがお前の望みは叶うだろ。IS学園は学費を払う必要はないし、男性操縦者であるというだけで国家や企業から引く手数多(あまた)で自立するのに不足はない」

「そうだけど、俺が聞きたいのはそうじゃない。周りが勝手に俺の人生を決めてしまわないかってことだ」

「なら周りが決めないとしたら、お前のしたい事はなんだ?」

「それは……」

 

 答えようとしてそこで漸く己の中に望みがない事に一夏は気付く。

 遥香の言う通り、一夏の目的は既に叶っているのだ。

 周囲に決められたレールの上を走らされる何とも言えない不快感から質問したが、したい事がない人間には助言しようがない。

 下らない――答える価値のない質問と返されるのも当然であった。

 

「答えれないか? だったら人生を決められる事を気にするのは、織斑の中途半端な態度が原因じゃないか? 周囲に流されると決めたのなら、唯々諾々(いいだくだく)と従えば良いし、決めた道があるのなら望みが叶うよう臨機応変に行動すれば良い。男性操縦者と認知されてしまった現状、周囲は織斑をその様に扱うし、ISから逃れる事は出来ん。だから操縦者になることに忌避感がないのなら、したい事を探す時間稼ぎも兼ねて貰っておけ。そちらの方がまだ(・・)問題は少ないはずだ」

「わかった。自分の中でやりたい事ってやつをもう一度考えてから判断する。相談にのってくれてありがとな」

 

 二人の会話に手に汗を握っていた本音は、落ち着く所に話が収まってほっとして笑顔を浮かべる。

 言動にきつい所があるものの本音の見る限り、きちんと自身へ謝辞を述べたり、一夏への助言をする遥香は義理堅いところがある。

 だからもう少し人当りの良い喋り方をしてくれたらと思ってしまう。

 

「結局答えてあげるんだから、ハルハルはやさしーね~。後はもう少ーし私と話すくらいに大人しい口調だと、もっと良いと思うなー」

「必要以上に人と馴れ合うつもりはない。が、一応本音の意見を心に留めておこう」

 

 肩を竦めるだけで改善をしないであろう遥香を、自分の意見を押し付けるつもりのない本音はそれで良しとする。

 聞く価値のない物として無下(むげ)に扱われた訳でもないし、心に留めると言ったのだから自分が言った事を記憶しておいてくれるはずだ。

 みんなに優しい遥香というのを見て見たい気もするが、何となく自分だけが特別扱いされるというのも悪くはなかった。

 

「なあ。参考として聞きたいんだけど、もし水瀬さんが突然ISを与えるって言われたらどうしたんだ?」

「私か? 私なら――」

「――貰うなんておっしゃるつもりじゃないでしょうね。男に負けたあなたにそんな資格はありませんことよ」

 

 突然割り込んできた声の持ち主に三人が顔を向けると、そこに一人の少女が腰に手を当てて立っていた。

 

 青いヘアバンドをアクセントに腰の下まで延ばされた鮮やかな金髪は、蛍光灯の光を反射する程に艶があって毛先が巻いている。

 白色人種(コーカソイド)らしく、肌は陶磁器のように白く、鼻筋は通り、目じりは少し下がり気味でサファイアのような透き通った青い瞳だ。

 着ている制服はかなり改造したのだろう――スカート丈は膝下まで延ばされ、(そで)やスカートの(すそ)にはフリルが付いていて、淑女(しゅくじょ)と言っても過言ではない装いだ。

 

 遥香はまたかと言った顔付きになる。

 

「何ですの、その表情は。イギリスの代表候補生であるわたくしが話しかけているのだから、感謝を浮かべるのが当然でしょうに」

「小さいことを気にするな。それでお前の用事は私か? それとも織斑か?」

 

 彼女――セシリア・オルコットの用事が一夏だったらこの場を離れようと遥香は決める。

 相手を黙らせる事が得意ではあるが、『黙らせる=死亡』の図式が容易に取れないから存外に面倒臭い。

 ISや肉体を用いての戦いなら受けても良いと思えても、言葉で競り合うのは興が乗らなかった。

 

「あなたに言いたい事がない訳ではありませんが、用があるのはそちらの殿方ですわ」

「そうか。なら私は席を外そう」

 

 そう口にして立ち上がる遥香に一夏が声を掛ける。

 

「おい、別に席を外す必要なんてないから、座ってればいいだろ」

 

 喋る言葉と雰囲気から面倒そうな女子と感じるだけに、味方は多いに限ると判断する一夏。

 姉である千冬と似た竹を割ったような性格は、慣れているだけに話し易いのだ。

 おかしな雲行きになったときに仲裁役としていて欲しかった。

 

「織斑は知らない様だが私がいると話が余計に(こじ)れそうだからな」

 

 自分が問題事の火種と自覚している遥香は早々と席を離れ、廊下に出ると窓際に寄り外を眺める。

 そんな彼女に一夏と一緒にいるか迷っていた本音も、結局付いて廊下に出ていた。

 

「ちょっとひやひやした~。また絡まれるのかーとか思っちゃた。おりむーには悪い事したかな?」

「私がいて話が複雑になるよりかはましだろ。どうせ今後も色々とあるんだから、早めに慣れたほうが本人の為だ。話題の人物と一緒に居ては巻き込まれて面倒だしな。――なんだ、その笑いは?」

 

 遥香を見ながら苦笑する本音に遥香は首を傾げるが、彼女は「別にー」と言うだけだ。口から出た言葉がブーメランとなって自分に返ってくる事までは自覚してはいないらしい。

 

「そう言えば途中で邪魔されちゃって聞きそびれちゃったけどー、ISをあげるーって言われたら何て答えるつもりだったの?」

「ん? ああ、織斑の質問か。義務も条件もなく、私的運用が許可されるなら貰っても良いが、周囲が許すはずもないからな。私なら辞退する」

 

 第四世代型ISに興味がない訳ではない。

 しかしISの社会的地位や入学式の様子からそんな物を所持すれば周囲が放っておかないだろう。

 国や研究の為と言ったお題目を掲げて、協力を強制してくるに違いない。

 楽しむ為にここ(地球)に居るのだ。余計な荷物を背負込むつもりなど、毛頭ない。

 

「ほへー。ハルハルは専用機欲しくないんだー。でも辞退なんて普通は無理だよね?」

「そうだな」

 

 遥香は同意を示すように頷きながら、辞退が許されない事に気付いていた本音を一夏よりも視野が広いのだなと評価する。

 一夏は主観的にしか考えられていなかったが、本音のように辞退出来ない事に気づくには客観的に考える必要がある。

 

「だから辞退ではなく所持を放棄する。『初期化(フィッティング)』と『最適化(パーソナライズ)』をオフにしてクラスの共有財産にするとか、学園に管理を任せて代理操縦者を選出してもらうとかな」

「ん~~。それも難しいと思うんな~」

 

 肯定するように肩を竦める遥香。

 『初期化』と『最適化』の機能を潰してしまえば、想定された性能を発揮出来ず、そもそも専用機たり得ない。

 その様な事を周囲も認めはしないだろう。

 

「所詮、仮定の話で現実にもらったのはあそこに居る二人だ。そこまで真面目に考える意味はないからな」

 

 遥香の視線の先を追えば、高慢に振る舞うセシリアに辟易している一夏と、そんな彼をチラチラと見る條ノ之箒の姿が目に入り本音は頷く。

 

「そうだねー。あっ、織斑せんせーだ」

 

 視線を戻した本音が遥香の背後から来る二人の人物に気づき声を上げる。遥香が振り返ると凛と背筋を伸ばして歩く千冬の姿が見え、その隣には千冬の目の高さ程の小柄な女性が一緒に歩いて来ている。

 

「水瀬、布仏。オリエンテーションを始めるから教室に入れ」

 

 千冬の言葉に返事すると遥香達は大人しく会話を止めて教室の入り口を(くぐ)るのであった。 

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