父と息子   作:キューブケーキ

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第1話

 夏休み、少年は父を訪ねて第3新東京市にやって来た。

 待ち合わせ場所は喫茶店。冷房の効いた店内で、グラスの氷が音を立てた。

 その音をきっかけにしたのか、再会した父に少年は尋ねた。

「父さん」

「何だ」

 カフェオレを飲み干した息子を見て、追加を注文しようとした手を止める。

「父さんの会社は倒産しないの?」

 空気が固まった。他の客の会話、外の交通、蝉の鳴き声が急に音量を上げたように聞こえてくる。息子の言った言葉は解る。父さんの会社が倒産、父さんと倒産をかけた息子の冗談かと考えた。内気な息子なりに気を使ったとも考えられる。

 だから父の威厳を持って答えた。

「下らん質問だ」

 動き出す時間だが、少年は食い下がらない。

「答えてよ父さん、大切な質問なんだ」

 息子の眼差しを真正面から受け止めて父は困惑する。それは何かを決意した目だった。そして亡き妻の面影があった。

 ふっ、と肩の力を抜くと父は答えた。

「国連の運営だ。倒産などありえん」

 それに対して息子はポツリ、ポツリと話し出す。

「今日、学校で進路を聞かれたんだ」

 学校で何があったのか。父と子の会話に相応しい。

 将来の進路は大切だ。先を考えないと後で後悔をする。その事を相談されるのは父として嬉しく思う。

「それで僕は答えたんだ」

 息子の答えを待つ。

 急かしはしない。今日は有給休暇を取っており時間はある。

「倒産しない会社が良いと」

 それは大切な事だ。だから父として真剣にアドバイスを行おうと言葉を選ぶ。

 閃いた言葉がある。息子の自発性を重視する言葉だ。

「シンジ、私に人の親としての父親を求めるな」

 うつむいていた息子は冷めた眼差しをしていた。急に雰囲気の変わった息子に疑問を抱く。

「……父さんは父親としては倒産してるものね」

 父さんは倒産。ナイスジョークと父親は思ったが、ここは他人の目がある。

 沈黙をどう受け取ったのか、息子は続ける。

「父さんは母さんと僕を愛してなかったの」

 何を言っているのだろう。世界の何よりも家族を愛している。今でも亡き妻の事を考えると涙がこぼれそうになる。その事を答えようとして、はっとした。

 これは何かの振りなのか? そして気付いた。何か突っ込み待ちの冗談かと考える。とりあえず場繋ぎの台詞が浮かんだ。

「愚問だ」

 息子は父親である男に水をかけると出ていった。

「ふ」

 凍った店内の空気に対して、男はおしぼりで顔を拭うと、なにかやりとげた様なすっきりした笑顔を見せた。これが正解だったと確信する。

 この後で息子の携帯電話に連絡を取ろうとするが繋がらない。

「なぜ、着信拒否なんだ?」

 戸惑いながら男は恩師で部下である男に相談の電話を入れた。

『碇、お前は馬鹿か』

 凄く失礼な言葉に傷付いた。

 

 

 

 亡き妻は言った。「貴方は思った事を何でも口にしない方が良いわ」と。しかし、恩師は言う「碇、貴様は馬鹿か? 自分の息子と言っても、思っている事を口にしないと何も伝わらないぞ。特に貴様は人相が悪い───」

 くどくどと小言を言われながら男は考える。妻の言う通りにしたら絡まれる事も無くなった。以前は馬鹿にされ喧嘩に巻き込まれる事もあったからだ。

 だから手紙を書く事にした。

 

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 拝啓、碇シンジ様。貴方のパパです。

 この前は誤解があったようです。ごめんね。

 パパはいつも君の事を心配しています。

 落ち着いて話がしたいので、第三新東京市に来てもらえないでしょうか?

 最近は何かと物騒なので、パパの部下に駅まで迎えに行かせます。

 指定席の切符を同封したので、それで来て下さい。

 それではまた。

 

 シンジのパパより。

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 ここまで書いたが、何かもう一押し欲しいところだ。

 手紙が届く頃に電話もかけようと思う。

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