落第騎士の英雄譚 ~守り人のために~   作:ローニエ

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剣士殺し

「おい待てよお前ら」

 

翔人は店を出てすぐに蔵人に声をかけた。

 

「あぁん?何だてめぇは」

 

「雑魚に用はない。俺が用があるのは真ん中の髑髏野郎だ」

 

蔵人に話しかけた翔人だったが、周りの取り巻きたちが答えたため翔人は不機嫌そうに吐き捨てる。

 

「何だと!?やんのかてめぇ「待て」」

 

取り巻きたちが翔人に絡もうとするが、それを蔵人は止める。

 

「…テメェ、剣客か?」

 

「あぁ」

 

「そうか…破軍の制服を着てるってことはさっきの奴らの知り合いか?」

 

「その通りだ。よくも俺の後輩を傷つけてくれたな。あの場では抑えていたが、もう我慢できん。…来い、流星の右剣(コメットブレイド)

 

翔人がそう告げ固有霊装を取り出した瞬間、蔵人の取り巻きたちが声も出さずに倒れた。

 

「何ッ!?」

 

「雑魚は片づけた。やるぞ、持ってんだろ霊装を!…俺の後輩が受けた屈辱は返させてもらう」

 

蔵人は驚いていた。

自分では彼が何をしたか全く見えなかった。

気がついたら仲間たちが倒れていたのだ。

驚かないほうが異常だ。

普通の人間だったらここで怖気づくかもしれない。

しかし彼は倉敷蔵人。

昨年七星剣舞祭ベスト8がこんな所で怖気づくはずがなかった。

 

 

「ハハッ。お前おもしろいやつだな。………大蛇丸!」

 

告げて、蔵人は己の固有霊装である≪大蛇丸≫を顕現させる。

 

「面白そうな固有霊装だな。…だが一瞬で終わらせてやる」

 

翔人がそう告げ構えると、向かい合う蔵人は身の毛が凍るような感覚を覚える。

――――なるほど。こいつは過去に会ったどんな剣客よりも強い。

 

(やっぱ剣客はいい。能力にかまけたバカとは向かい合う緊張感が雲泥の差だ)

 

彼は感じる。

こんな感覚これから先2度と味わえないかもしれない、と。

その興奮に蔵人はうなるように喉を鳴らし、

 

「じゃあ、――――行くぜ!!」

 

叫びながら翔人に斬りかかった。

 

 

 

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まず仕掛けたのは蔵人だ。

風を鳴らして右手一本で野太刀を振るう。

とは言っても隙だらけ、粗だらけな雑な剣術で。

そんな剣を受けながら翔人は、

 

(へぇ。なかなかやるじゃないか)

 

と感じていた。

確かに彼の振るう剣は隙だらけで、粗だらけな雑な剣術かもしれない。

しかし、それでいて彼の剣は強かった。

パワー、スピード共に最高クラスだ。

 

(だけど、その程度か…)

 

しかし相手はあの翔人だ。

最高クラス()()では相手にならない。

翔人は蔵人の剣を難なく受けながら隙を探す。

そして何合か撃ちあった後、隙を見つけた翔人は自身の剣を一閃振るう。

蔵人はその剣を避けようとするが、

 

(見えねぇ!?)

 

と心の中で叫び、後ろへと身体を飛ばす。

その刹那、蔵人の鼻先の大気が裂けた。

 

(もし神速反射(マージナルカウンター)がなかったら斬られていた…!何なんだこのキレとスピードは!?能力なのか…?それともただ斬っただけ…?)

 

蔵人は自身の神速反射をもってしても避けるのが精いっぱいだと思い知らされる。

しかし、そんなことを思っている蔵人に翔人は称賛を送った。

 

「よく今のを避けたな。避けてなかったら首が飛んでたぜ?それにしても速い反射神経だ。…0.05秒ってとこか」

 

翔人のその言葉に蔵人は驚く。

初見で神速反射(マージナルカウンター)を見破られたことなどなかったからだ。

しかし、そんな驚きを隠すように、

 

「ハハッ…。よく言うぜ…お前はそれ以上に速いくせによ」

 

と蔵人は告げる。

 

「…まぁな。次は外さないから覚悟しろ」

 

翔人はそう告げ、無音で蔵人の元へと迫る。

無音――――

戦いにおいて音が聞こえないことは異常だ。

どんな優れた者でも剣を振るう際や動く際に小さな音は出すものだ。

そしてそれは目の前の奴も例外ではない、と思っていた蔵人にとってこれは初めて味わう感覚だった。

 

「ッッッ!!」

 

目の前に近づかれたことに驚く蔵人であったが、すでに時は遅し。

彗星のごとく繰り出される斬撃に蔵人は何もすることができなかった。いや、何もさせてもらえなかったと言った方が正しいかもしれない。

蔵人の身体が翔人の剣に斬り刻まれる。

 

(音がしねぇ…それに早い上に重い。自分のどんな技よりもはるかに…)

 

蔵人がそんなことを思っている間にも翔人の斬撃は蔵人を襲う。

繰り出すは瞬間五十連撃。

一つ、二つ、三つ―――――

翔人は手を休めることなく蔵人を斬り続けた。

そんな見えもせず音もしない翔人の斬撃に対抗できる術もなく、蔵人はひたすら翔人の攻撃を生身で受け続けた。

そして五十連撃目を繰り出した後………蔵人の意識は消えかけていた。

 

 

(こんなものか…)

 

自身の攻撃を終え、翔人は傾き倒れかけた蔵人を見て思う。

時間にして20秒。

翔人の圧倒的強さで勝負はついた、と翔人は確信していた。

 

「もう終わりか?」

 

翔人は面倒くさそうに告げ、蔵人から視線を切り、その場を後にしようとした。

しかし次の瞬間…

 

「―――――ッ、アアアアア!!」

 

蔵人が咆哮を上げながら、倒れかけていた身体を支える。

ドバドバとおびただしい量の血が彼の足元に広い血だまりを作るが、それでも彼は膝を折らずに踏みとどまる。

 

(あれを食らってまだ倒れないか…)

 

呆れや面倒くさそうな顔から一転、翔人は楽しそうな顔になり、

 

「やるな」

 

と一言告げる。

翔人のその言葉に蔵人は血で赤く染まった瞳で睨む。

しかしその眼にすでに戦意は感じられなかった。

 

「……お前名前は?」

 

「破軍学園生徒会副会長斎藤翔人だ。…お前は?」

 

「……貪狼学園の倉敷蔵人だ」

 

2人の自己紹介が終わると翔人は息を一つ吐き、真剣な表情を浮かべながら質問する。

 

「そうか…なぁ蔵人。何でお前はさっき一輝を傷つけたんだ?剣を交えた俺にはわかる。お前は戦いに紳士な剣客だ。何もあんな場所で騒ぎを起こすことないだろうに」

 

翔人は蔵人に戦意がないことを感じ、固有霊装をしまうと蔵人にそう話しかけた。

対する蔵人も固有霊装をしまい、話し始める。

 

 

「…俺はよ剣客と戦うことが好きなんだ。能力にかまけバカ共とは違う緊張感を味わうことが。あの滾る感じが」

 

「なるほど…まぁその考えは俺にも分からなくもないよ。確かに剣客は別物だと俺も思う。…だから一輝に噛みついたのか?」

 

「あぁ。あいつの気配は普通の奴らと一味違った。だから絡んだんだ。…つっても俺の安い挑発には乗ってこなかったけどな」

 

「まぁあいつは、ここで問題を起こすリスクをしっかり考えていたはずだからな」

 

蔵人の言葉に翔人は頷きながらそう告げる。

一輝と共にした時間は些細なものだが、翔人にだってそのくらいはわかる。

 

「でもあいつとなら後々戦えるかもしれないぞ?」

 

「なに?」

 

「簡単な話だ。蔵人、お前絢瀬と何かあるんだろ?」

 

「………」

 

蔵人は何も言わず黙っている。

しかし翔人は気にした様子もなく一人で話しを進めていく。

 

「言わなくても分かるよ。お前を見る絢瀬の表情は俺が見たことないくらい怖い顔をしていたからな」

 

「………」

 

なおも黙っている蔵人に翔人は苦笑いしながら告げる。

 

「だんまりか…。でも何か理由があるんだろ?紳士な戦闘狂と言っても過言ではないお前のことだ。意味もなくあいつをいじめたりはしないはずだ。…っと話がずれたな。まぁ俺の勘なんだが絢瀬の弔い合戦に一輝はお前の前に現れるだろう。一輝はそういうやつだからな」

 

「すいぶんとあいつを買いかぶってるんだな」

 

「まぁな買いかぶりたくもなるさ。久しぶりだよあれだけ強いって思える相手に会ったのは」

 

翔人はそう告げると小さく笑みを浮かべた。

 

「ッッ!!」

 

そんな翔人に恐怖を覚える蔵人。

しかし無理もない。

翔人が普段校内戦で出している殺気とは違うタイプのプレッシャーなのだから。

翔人がここまでのプレッシャーを出す相手と言えば刀華やカナタくらいのものだろう。

本当の実力者にのみ出すプレッシャー。

それに蔵人は飲み込まれていた。

がすぐに我に返ると蔵人は翔人に質問する。

 

「…にしても斎藤。お前の強さは一体何なんだ?俺をここまで一方的に出来るやつなんて七星剣舞祭にもいねぇぞ」

 

蔵人がこれまで戦ってきたどの剣客より翔人は強かった。

いや、比べるのもおこがましいかもしれない。

もはやレベルが違いすぎる、と蔵人は感じていた。

 

「そうなのか?…やっぱり出るのやめよっかな。出ても良いことなさそうだ。…でも刀華やエーデルとの約束もあるし…」

 

対して翔人は呑気にそんなことを告げる。

蔵人が聞きたいことと少しズレがあるようだ。

だが、蔵人は翔人の告げたセリフの中に興味のある言葉を見つけた。

 

「お前七星剣舞祭に出るのか?」

 

「…あぁ。俺と選抜戦で戦うやつら全員棄権してくんだ。だから自動的に俺が勝っちゃうんだよ。今年から選抜戦だからこのまま行くと出さされることになる…」

 

「出たくないのか?」

 

嫌そうに嘆く翔人に蔵人は疑問を感じた。

これほど強いのに何故?と。

 

「出たくないというか…なんというか…。お前みたいに強者と戦うことに興味でもあればいいんだけど…」

 

そう煮え切らない回答をする翔人に蔵人は告げる。

 

「俺んとこでも選抜戦をやってもらいたいもんだよ…。それはそうと、俺は七星剣舞祭でもう一度お前と戦いたいと思ってるけどな」

 

翔人と剣を交えた時間はたった20秒足らずのものだったが、蔵人にとってその20秒はこれまで戦ってきた相手すべてを足したとしても比べ物にならないくらい充実し濃密されたものだった。

だからこそもう一度あの感覚を味わいたいと蔵人は本気で思っていた。

 

「…まぁ機会があったらな。でもこれだけの差を見せられてよく戦う気になるよな。俺は実力の10%も出してないのに」

 

「ハッ。そんなこと知るかよ。俺はお前と戦いたいそれだけだ」

 

蔵人はそう告げると踵を返し、翔人の元を離れて行った。

倒れそうになる足をなんとか引きずりながら…

 

(俺には理解できないよ…。そこまでお前を戦いへと執着させるものは一体何なんだ…?)

 

蔵人が去ったあと翔人は1人でそう考えていると、

 

「な、何だこれ!?」

 

「あ、あらあら…」

 

後ろから泡沫とカナタが走りながらやってきた。

翔人は2人に気づくと、考えをやめ手を上げながら2人に近づいていった。

 

「おう、一輝の怪我治してやったか?」

 

「う、うん。それは大丈夫だけど…これは何?」

 

そう告げられ翔人は自身の周りに目を向ける。

するとそこには木々は倒され、周囲の電灯や電柱が倒されている光景が目に入った。

そんな光景を目にした翔人はといえば、……苦笑いするほかなかった。

 

「なぁ…これってやばいよな?」

 

「うん。やばいね」

 

「退学かな?」

 

「退学かもしれませんね」

 

そんな二人の言葉に翔人は目を閉じ何かを考える。

何秒か目をつぶる翔人。

そして目を開け顔を上げると、

 

「そんなぁぁぁぁぁ!!!」

 

と、翔人の嘆きが夜の街に響いた。

 

 





退学の危機!?
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