落第騎士の英雄譚 ~守り人のために~   作:ローニエ

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私生活が忙しすぎる………


雷切

『≪落第騎士≫貪狼学園のエース≪剣士殺し≫を盤外試合で撃破!』

 

翔人が蔵人と戦ってから数日後、そのような一面の新聞が校内に出回っていた。

この記事が破軍学園にもたらした衝撃はけっして小さなものではなかった。

しかしそれは当然と言える。

相手は他校のエース格。

たとえ盤外試合でもまぐれで勝つことはありえない。

 

(へぇ~。黒鉄のやつ蔵人を倒したのか…)

 

翔人は記事を見ながら笑っていた。

それもそのはず。

自分が認めた伐刀者に後輩が勝ったのだから。

自分と戦ってすぐだったため怪我の影響がなかったとは言えない。

しかし、彼ならばそんなことは言わないだろう。

きっと実力で一輝に負けたのだ、と。

 

「おい、手を休めるな」

 

「は、はい!」

 

しかし、そんな様子を後ろから見ていた女性に翔人は怒られる。

 

「ファミレスの窓ガラス損壊、木々計53本の破壊、電灯28本の破壊、その他もろもろ…こんなことをしておいて一週間の掃除で許してやるんだ。サボるんじゃない」

 

「ほ、ホントに感謝してます!」

 

女性は破軍学園理事長新宮寺黒乃だった。

彼女の言う通り、翔人と蔵人の戦いが周囲にもたらした影響は小さくないものだった。

普通なら退学。良くて停学と言ったところだろう。

しかし、黒乃は七星剣舞祭前に翔人をそんな目に合わせたくなかった。

彼が七星剣舞祭に出ることは彼女にとって最優先事項なのだから。

そんなときカナタが今回の件においてすべて保証してくれると言ってきたのだ。

黒乃や翔人にとってこれ以上のことはなかった。

翔人は泣きながらカナタに抱き着き懇願した。

『一生のお願いだから頼む~!』

と。

黒乃も、

『そうしてくれると私も助かる』

と告げたことにより、この件はカナタがすべてどうにかしてくれたのだ。

 

「しっかり貴徳原にも礼を言っておけよ。彼女には私の比じゃないくらいの恩があるはずだ」

 

「分かってますよ。だから毎日鞄をもったり、ジュースを買ってきたり、靴を磨いたりしてるんですから」

 

「……そうか」

 

翔人の告げた内容に少しやりすぎではないか?と思う黒乃だったが、翔人が気にしていないようなので特に何も言ったりはしなかった。

 

「それでは私は理事長室に帰るが、あと30分しっかりと掃除しろよ」

 

「分かってますよ」

 

そう告げ、黒乃は帰っていった。

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

罰の掃除が終わった次の日、翔人は生徒会室にて優雅にお茶を飲んでいた。

 

「あぁ~仕事を終えた後のお茶はうまいなぁ」

 

「仕事?罰の間違いじゃないの?」

 

「うるさいぞ泡沫。久しぶりにゆっくりしてるんだから邪魔をするんじゃない」

 

「はいはい…」

 

現在生徒会室にいるのは翔人、泡沫、カナタの3人だ。

今日は生徒会に仕事がないため、恋々と雷はすでに帰っている。

そのため翔人はお茶を飲み、泡沫はゲーム、カナタは読書と各々好きなことをしていた。

そんな中翔人が何か気づいたようにカナタに質問する。

 

「なぁカナタ。刀華は?」

 

「会長なら1人で精神統一をしてますよ」

 

「ん?珍しいな。あいつがそんなことをするなんて。…もしかして次の対戦相手が決まったのか?」

 

カナタのセリフに疑問を覚えた翔人はさらにカナタに質問する。

普段彼女は1人で練習することが少ないためだ。

 

「ええ。会長の次の相手は黒鉄珠雫さんです」

 

「………なるほど」

 

カナタのセリフに翔人は納得と言った顔で頷く。

黒鉄珠雫。

今年度次席の優等生だ。

ここまでは全戦全勝。

これまでの試合はすべて圧勝している。

おそらく七星剣舞祭レベルの戦いになることを刀華は想像しているのだろう。

故に1人で集中力を高めている。

 

「試合はいつなんだ?」

 

「明日だよ~」

 

答えたのは泡沫だった。

答える顔には笑みが浮かんでいる。

 

「じゃあ明日は俺も見に行くかな。お前たちも見に行くんだろ?」

 

「当たり前じゃん。こんな面白そうな試合見逃せないよ」

 

「そうですね。2人がどのような戦いをするのかとても楽しみです」

 

「そうだな…」

 

そうして3人は明日の試合を楽しみにしながらその日を過ごした。

 

 

 

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『さぁ、それでは本日の第十二試合の選手を紹介しましょう!青ゲートから姿を見せたのは、今我が校で知らない者はいない注目の騎士・黒鉄一輝選手の妹にして、《紅蓮の皇女》に継ぐ今年度次席入学生!ここまでの戦績は十五戦十五勝無敗!属性優劣も何のその!抜群の魔力制御力を武器に、今日も相手を深海に引きずり込むのか!一年《深海の魔女ローレライ》黒鉄珠雫選手です!!!!』

 

溢れんばかりの歓声。

その中に生徒会メンバーは刀華を除き集まっていた。

 

「やっと会長の本気が見れるのかなぁ?」

 

「どうだろうな。それなりに力は出すだろうけど、本気までは出さないだろ」

 

恋々の質問に翔人は当然と言った感じで告げる。

 

「何で?」

 

「そいつは見てれば分かるさ」

 

 

 

 

『そして赤ゲートより姿を見せるは、我が校の生徒会長にして校内序列最高位!前年度の七星剣舞祭では二年生で準決勝まで駒を進めるという快進撃を見せるも、前年度の七星剣王となった『武曲学園』の諸星選手に敗北し、七星の頂には手が届きませんでした。しかし、彼女は再びこの七星の頂を争う戦いの場に帰ってきました!その手に一年前よりもさらに磨きのかかった未だ不敗の伝家の宝刀をひっさげて!その疾さを前に避けることは叶わず!その鋭さの前に防ぐも叶わず!金色の閃光が今日も瞬く間に相手を切って落とすのか!破軍が誇る最強の雷使い!三年《雷切》東堂刀華選手です!!!」

 

 

刀華が入場すると、先ほどよりも大きな歓声が会場を包んだ。

その刀華を見ると、ピリピリとしたオーラを醸し出していた。

 

「いつもの会長からは想像できないほどの覇気ですな…」

 

「そうだね…ちょっと怖いかも」

 

刀華を見て雷と恋々は各々の意見を述べる。

そんな2人を見ながら泡沫はニヤリと笑いながら告げる。

 

「今大会初めての強敵だからね。刀華も滾ってるんじゃないかな?」

 

泡沫がそう告げると、戦いの始まりを告げるブザーが鳴らされ試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こ、これはどうしたことでしょうか!両者前に出ません!』

 

すでに試合が始まり1分が過ぎようとしていたが、2人はいまだ刃を交えていなかった。

 

「どうして仕掛けないんだろう?」

 

恋々が不思議に思ったのか小さく呟く。

 

「出方をうかがってるんだよ。2人ともBランクというすごい力を持つ騎士だ。黒鉄妹はもちろん、刀華もすでに攻撃を繰り出せる状況にはある。ただ迂闊に攻められないんだよ。何でもむやみやたらにツッコめばいいってものじゃない。そう思わないか恋々?」

 

「むぅ~。黒鉄君との試合のこと言ってるの?副会長は意地悪だね」

 

「もう少し状況を考えろと言ってるんだ。確かにお前の戦闘スタイルなら突っ込むことが正当法かもしれないが、こういう風に相手を見極めるってことも戦いにおいては重要なんだ」

 

「…気を付けます」

 

翔人にそう言われしょぼくれる恋々だったが、その間に試合は動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~。黒鉄妹もよくやるな。あの刀華相手にロングレンジでは互角だ」

 

笑いながら翔人はそう告げる。

彼も珠雫がここまでやるとは思っていなかったのだ。

刀華はクロスレンジにおいて最強だと思われているが、ロングレンジにおいてもそれなりの強さを持っていたから。

 

「でも会長ちょっと押され気味じゃない?」

 

「まぁ普通に見ればそうかもしれないな。…でも刀華は全然力を出してないぞ?」

 

翔人の言葉に恋々と雷は目を見開いて驚く。

 

「それにまだロングレンジでしか戦ってないだろ?あいつにとって本領を発揮できるのはクロスレンジだ。つまりこれまでは七星剣舞祭に向けての勉強をしてたってとこかな。…っとそろそろ刀華が動くぞ」

 

 

翔人がそう告げると同時に刀華は珠雫を斬りつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これはどうしたことでしょう?最初は互角に見えた≪深海の魔女≫と≪雷切≫。しかし今や≪深海の魔女≫は逃げ回るのに精一杯といった様子。一体何故ここまでの優劣がついてしまったのでしょうか?』

 

戸惑う実況者。

そしてそれは観客も同じだった。

そんな中ステラは一輝に尋ねた。

 

「……ねぇイッキ。珠雫、どうしちゃったの?」

 

「どう、とは?」

 

「見てわかるでしょ。突然明らかに相手の動きへの反応が悪くなっているわ」

 

そこで珠雫のルームメイトである有栖院凪も加わる。

 

「ステラちゃんの言うとおりね。会長さんはふつうに動いているだけなのに、それがまるで見えてないみたい」

 

「……たぶんその通りだよ」

 

「え?」

 

「珠雫には本当に見えてないんだ。前に一度、これと同じものを僕も見たことがある」

 

それはデビュー戦の前、一輝は《夜叉姫》西京寧音に会ったことを思い出していた。

 

「あのとき西京先生はいつの間にか目の前まで迫ってきていた。視線は一瞬も切らなかったはずなのに、知らない間に懐を取られていたんだ。たぶん《雷切》が使っているのはそれと同じ体術なんだと思う」

 

「あはは。さっすが黒坊。やっぱり気づいたねぇ…」

 

斜め上から声が降ってくる。一輝がそちらに目をやると、そこには艶やかな着物姿の小柄の女性と、スーツに身を包んだ凛々しい女性がすり鉢状の観客席の階段を下ってきていた。

 

「やっほー。お久しぶり♪」

 

「西京先生に、理事長先生。二人揃ってどうしたのかしら?」

 

「なに、用があるわけじゃない。お前たちの姿が見えたから声をかけただけだ」

 

アリスの問いに理事長・新宮司黒乃が答える。二人はこの試合を観戦に来ただけだ。声をかけたのは一輝たちが興味深い話をしてたからだった。

 

「・・・・ねぇ、ネネ先生。やっぱり気づいたってことはイッキの言ってることは正しいってこと?」

 

ステラの問いに寧音は、頷きをもって肯定する。

 

「黒坊が言ってることは正しいよ。アレは《抜き足》っていう古武術の呼吸法と歩法の組み合わせ技。どーいうもんかというと―――」

 

「………え?」

 

瞬間。ステラと五メートルばかり離れた場所にいたはずの寧音が息がかかるほど至近に現れて、

――――ステラの豊満な胸を下から揉みながら持ち上げた。

 

「ヒッ!!??」

 

「ま、こんな感じ?いやーしかし乳でっけーなおい。しかも超やわらけ~♪」

 

「キャァァァ!な、ななななにするのよ!!」

 

「揉んだらうちのも増えるかなと思って」

 

「増やしたいなら自分の揉みなさいよ!」

 

「揉むほどないんだよバーカ!」

 

「逆切れッ!?」

 

騒ぐ二人を無視し黒乃が一輝に問いかける。

 

「黒鉄。お前ならもう《抜き足》のカラクリは見抜けているんじゃないか?」

 

その問いに一輝は首を縦に振った。

 

「まあ。たぶん同じことをしろと言われればできます」

 

「ねえイッキ、なんなのこの《抜き足》ってのは」

 

その後抜き足について一輝はステラとアリスに説明した。

そしてすべて説明し終わると、

 

「大正解だ。よくわかったな」

 

と黒乃が感心したかのようにうなる。

 

相手に一切悟られずに半歩呼吸と身体をずらすことで、その狭間に滑り込み、意識のロックを外す。

それが古流歩法《抜き足》のカラクリだった。

 

 

「僕はすでに一度この体術を見ていますから「あっ!!」

 

「どうしたんだ、ステラ?」

 

一輝の話の途中でステラが声をあげる。

 

「もしかしてヒロト先輩もその技を使えるの?ほら、入学式の日私と珠雫を止めに入ったとき―――――」

 

 

「確かにそんなこともあったね。確かにあれも…」

 

「いや、それはないだろう」

 

一輝がステラの問いを肯定しようとしたところで黒乃が話をさえぎる。

 

「違うんですか?」

 

一輝は黒乃が告げたことが分からないといった様子で尋ねる。

 

「あいつはそんな技を使うまでもなく速い。つまり止めに入った時のそれは純粋な斎藤自身のスピードだ」

 

「……そうだったんですか」

 

まだ技を使ってると言われた方が納得できただろう。

しかし、純粋なスピードだと言われると一輝ですら驚きを隠せなかった。

そして改めてそんな一輝たちに黒乃は告げる。

 

「だからこれだけは言っておく。お前たち斎藤と当たったらすぐに棄権しろ。あいつの場合、砕城にやったように幻想形態でも命の保証はできん」

 

その言葉にその場にいた3人は固まった。

しかし、黒乃はそんな3人にはっきりと告げた。

 

「幸い今のところは相手が弱い選手ばかりだから力を全然出していないが、もしお前たちのような強者と向かい合ったとき斎藤は間違いなく実力を出すだろうからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『雷光一閃!!斬って落としたァァァァ!!同時にレフェリーが腕を交差ッ!試合終了です!黒鉄選手、善戦を見せましたがやはり前年度ベスト4の壁は厚かったッッ!!Bランク騎士同士の死闘を征したのは我らが生徒会長!≪雷切≫東堂刀華選手ですッ!』

 

実況が勝者の名を告げ、試合の幕が下がる。

 

「やっぱり最後は副会長たちが言うように会長が勝ったね」

 

恋々の言葉に翔人は頷く。

 

「あぁでも黒鉄妹も強かった。何せ刀華にあの雷切を出させたんだからな」

 

翔人はそう告げると、心の中で思う。

 

(さぁ一輝、お前はこれをどう見る?刀華の実力は普通じゃないぞ)

 

と。

 

 

 

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