落第騎士の英雄譚 ~守り人のために~   作:ローニエ

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来訪者

「黒鉄大丈夫…か…」

 

翔人が小屋へと着きドアを開けると、そこにはほぼ裸の男女が座っていた。

いや、正確に言うなら男女の営みといったところか。

 

「………失礼しました」

 

その光景に驚いた翔人は、すぐにドアを閉め退散しようとする。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

 

すると一輝が慌てた様子で翔人へと詰め寄る。

 

「ど、どうしたんだ?なんだ……その……悪かったな。空気の読めない先輩で…」

 

普段あまり驚くことのない翔人でさえ今の状態には驚いていた。

いや、狼狽していたと言った方が正しいか。

 

「ご、誤解です!しっかり話しますんでそんな目で見ないでください!」

 

一輝の動揺した様子に翔人は一瞬嫌そうな顔をしたが、仕方がないので話を聞くことにした。

 

「…分かった。でも話なら場所を変えよう。あの姿は正直目のやり場に困る」

 

「わ、わかりました。なら一旦外に出ましょう」

 

そう告げ翔人と一輝は外へと出る。

そして翔人へと説明するため一輝が翔人の方へと振り向くと、

 

「―――――――え」

 

そこには身の丈5メートルはあろうかという岩の巨人がいた。

そんな一輝の様子を疑問に思った翔人もすぐに振り向く。

 

「――――まじかよ」

 

そのあまりの光景に2人は思わず立ち尽くすが、次の瞬間さらにとんでもない光景を目にした。

あろうことか、その巨人が山小屋目がけて自らの巨腕を振り下ろしたのだ。

そう、ステラのいる山小屋目がけて…

 

「ス、ステラァァァァァァ―――――!!!」

 

瞬間一輝は一刀修羅を発動させ、己の最高速でステラの元へと駆け出した。

 

 

 

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「ステラ、大丈夫?」

 

「え、ええ。でも一体何が……」

 

「見ての通りだ」

 

2人の会話に口を入れ翔人は巨人を指さす。

 

「巨人がいたんだ」

 

「な………っ」

 

ステラがその巨人に驚くが巨人は待ってはくれない。

すぐさま2発目の攻撃を3人に目がけて振り下ろしてくる。

 

「くっ!」

 

一輝はステラを抱えたまますぐさま横に飛び、振り下ろしの一撃をかわす。

が、翔人はそのままかわそうとせず固有霊装を顕現させる。

 

「来い。~~~っ」

 

そして翔人は巨人の攻撃を剣で受け止めた。

すると次の瞬間地面がその規格外の重量の前に爆砕した。

 

「ひ、翔人さん!!」

 

あんなものをもらえば伐刀者をいえどひとたまりもない、と感じた一輝は巨人の一撃を食らった翔人目掛けて叫ぶ。

しかし、土煙が晴れるとそこには剣の腹で巨人の一撃を受け止めている翔人がいた。

 

「「―――――え」」

 

そんな翔人に思わず声を漏らしてしまう一輝とステラ。

が、翔人はそんな2人を置いたまま一人で話を始める。

 

「巨人っていうからちょっと期待したのに、こんな不細工な岩かよ……。それに攻撃に重さが全然乗ってないし」

 

そう告げると、翔人は剣を横一閃に振った。

瞬間巨人の身体は横真っ二つに裂けガラガラと音を立てて崩壊していく。

が、すぐに崩れ落ちた岩石が磁石のようにひきつけ合い、再び重なり合っていった。

しかも今回は巨人ではなく、何十体もの人型だ。

 

「「え…」」

 

そんな光景に一輝とステラの2人は再び驚いたと言わんばかりに声を漏らすが、翔人はと言えば…

 

「『鋼線使い』か。…めんどくさいな」

 

などと話していた。

…そう相手は鋼線使い。

魔力の糸を用いて岩を操っている。

その事実に一輝とステラはまたしても驚いていた。

 

 

「中継地点《ハブ》は………あれか」

 

翔人は一瞬で中継地点を見つける。

しかし、見つけたはいいものの、翔人では銅線使いとは相性が悪い。

決して倒せないわけではないが、少々荒っぽいことになるのだ。

具体的にはこの山がなくなるくらいに。

故に翔人はこの場をどうしようか悩んでいた。

そんなとき翔人は背後から知っている気配を感じる。

気配のした方へ振り向くと、そこには帯電した刀を手に立っている刀華がいた。

 

「おぉ、やっぱり刀華か。丁度良かった。あの人形俺じゃちょっと面倒くさい相手だからさ。ちゃちゃっとやっちゃてくれ」

 

「そのつもりだよ」

 

その言葉に、翔人は頼もしい限りだと感じつつその場を離れる。

巻き添えをくらわないようにするためだ。

 

 

「あいつだね」

 

刀華はそう言葉を発した瞬間、姿が消える。

否、消えた、そう見えるほどに速く、鋭く、敵陣に飛び込んだのだ。

 

《疾風迅雷》

 

雷の力で筋肉を刺激し、その性能を限界まで引き上げる刀華の伐刀絶技だ。

その速度、まさしく電光石火。

岩人形たちは突然の事態に何も反応できない。

ただ、まさしく木偶として突っ立っているだけで―――

 

「―――――《雷切》!」

 

刹那の中ですべてが決した。

閃光の速度で抜き放たれるプラズマの刃が、一刀にてハブを両断。

次いで起こる大気の爆砕が、その場にいたすべての岩人形を殴りつけ粉砕し、雨雲すら弾き飛ばすのではないかと思えるほどの爆風が過ぎた後には、敵はただの一体も残っていなかった。

 

「すごい………」

 

ぽつりとステラが刀華の手際に感嘆の声をこぼす。

初めて雷切を間近で見れば無理もない、と翔人は感じる。

自分も初めて見たときは驚かされたものだ、と過去を振り返って翔人は小さく笑った。

 

 

 

 

 

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「ステラさんっ」

 

人形を片付けた刀華がステラに走り寄る。

 

「倒れたって聞いたけど、身体は大丈夫ですか!?」

 

まるでくってかかるように問う刀華の表情は、先ほど人形を蹴散らしたときの凛々しいものとは別人だ。

病人のステラよりも蒼褪めていて、彼女がどれだけステラを心配していたかがひしひしと伝わってくる。

 

「え、あ、うん。少し休んだらだいぶ楽になったわ」

 

だからステラも刀華を安心させようと笑顔で答える。

が――

こつん。

と、刀華はステラの額に自分の額を押し付けて、それが嘘だとすぐに見抜く。

 

「すごい熱じゃないですか!こんなのちっとも大丈夫じゃありませんっ!それなのにこんなに身体を濡らして……、風邪が悪化したらどうするんですかっ」

 

そう告げる刀華にステラは山小屋が壊されたのだと話す。

それを見た刀華は困ったように表情を曇らせるが、すぐに笑顔になり、翔人に話しかける。

 

「ひろくん、一緒に山降りてくれないかな?」

 

「…は?」

 

翔人は訳が分からないと言った感じでそう言葉を紡ぐ。

そんな翔人に刀華はやや急ぎながら話す。

 

「このままじゃステラさんの風邪が悪化しちゃうからどこかで休ませなきゃいけない」

 

そう言うや、刀華はひょいとステラの身体を抱きかかえた。

 

「わわっ!ちょ、だっこは、だっこはやめてっ!恥ずかしいわよ」

 

「ダメです。病人は大人しくしてなさい」

 

刀華はステラを黙らせると、翔人に向き直る。

 

「ステラさんをだっこした私をひろくんがだっこして下山しても10分とかからないでしょう?」

 

その言葉に翔人は首をかしげる。

しかしすぐに理由を理解する。

翔人1人でステラと一緒に下山したところで看病できるものがいないのだ。

 

「まぁそうだけど、刀華をだっこするのか?お前だいぶ重く…」

 

翔人がそう何かを言おうとするも、刀華は無言のプレッシャーを翔人に与える。

この世には言わない方がいいこともある。

そう察した翔人は、首をやれやれと振りながらも、刀華をだっこする。

翔人には見えていないが、刀華の顔は真っ赤である。

まぁお姫様だっこなぞされれば、顔が赤くなるのも無理はないかもしれない。

そんな刀華を見て笑う泡沫たち。

後からからかわれるのは避けられないだろう。

 

 

「じゃあ俺らは先に山降りるけど、お前らはどうする?」

 

「後輩クンの怪我もあるしボクたちは近くの鍾乳洞で手当てをしてから行くとするよ」

 

翔人の質問に泡沫はそう答える。

 

「悪いな。それじゃあまた後で」

 

翔人はそう言うと消えた。

が、誰も驚くものはいなかった。

いい加減翔人のチートさに慣れたのかもしれない。

 

 

 

 

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「おっ、帰って来たか」

 

泡沫たちの帰りを待っていた翔人が皆を出迎える。

 

「ステラは大丈夫ですか?」

 

「あぁ、もうだいぶ熱も下がってるし大丈夫だろ。刀華の看病のおかげだな」

 

翔人が山を下ってからすでに4時間が過ぎていた。

雨が思いのほか長く降り続いたためだ。

 

「あっ、イッキおかえり」

 

「うん。ただいま」

 

イッキが帰ってきたことに気がついたのか先ほど睡眠から目が覚めたステラが挨拶をする。

一輝はそんな大丈夫そうなステラを見てかなり安心していた。

その後全員集まったことで夕食をどうしようかの話が上がったりして、場はかなり和やかな雰囲気に包まれていたが、それは1人の来訪者により壊された。

 

「おー、いたいた。よぉーやく会えました」

 

ねっとりした男の声が一輝にかかる。

 

「ご無沙汰してますねぇ~。一輝クン。んっふっふ」

 

赤いスーツを身にまとった肥満体系の中年が、恵比寿にも似た顔に笑みを浮かべていた。

一輝は知っている。

何度か、実家にいたころにあったことがある。

 

「おい一輝、このタヌキは誰だ?」

 

一輝以外の全員が思ったであろう質問を翔人がする。

言い方はまぁあれだが…

 

「この人は…赤座守さん。黒鉄家の分家の当主です」

 

「ふーん…。まぁなんでもいいけどタヌキさんが一体何の用で?ここは動物園じゃないぞ?」

 

「んっふっふ。そんな顔をしないでくださいよぉ。私だって嫌なんですよぉ?貴方みたいな出来損ないのために奥多摩くんだり足を運ぶなんてねぇ?」

 

「貴方、なんなんですか!?そんな言い方失礼なんじゃないですか!?」

 

「刀華、少し黙ってろ」

 

翔人は少し熱くなっている刀華を鋭い視線で黙らせる。

 

「おや?貴方は確か流星の剣帝でしたっけ?こんにちわ。あーもう時間的にはこんばんわかなぁ?」

 

「黙れ、殺すぞ」

 

今度は赤座に向かって翔人は鋭い視線を突き刺す。

いや、先ほどとは少し違う。

なぜならその視線には少しばかりの殺気が混じっているからだ。

 

「一輝に用があるなら最初から自分の足で来いよ。岩人形なんかよこさずに」

 

「「えっ?」」

 

翔人の言葉に一同は声を漏らす。

ただ一輝は何となく分かっていたような態度をとっていた。

 

「………」

 

「だんまりか?まぁ今回は被害がなかったとも言えるから何も言わないが…」

 

と、そこで一旦息をつき、

 

「もし俺の周りのやつらに被害が出たら許さないぞ」

 

次はないと言わんばかりに翔人は視線だけで相手を殺せそうな目を向ける。

瞬間、赤座は冷や汗をだらだらと垂らしまくる。

足に力も入らず地面に倒れそうになるが、何とか耐えて翔人に向き直った。

 

「…はて?何のことやら。まぁそんなことは置いといて、さっさと本題に入らせてください。山奥は蚊が多くてかないませんからねぇ。んっふっふ。今日私がここに来たのはですねぇ、『騎士連盟日本支部の倫理委員長』として一輝クンにとーっても大事な話があるからなんですぅ」

 

一瞬の沈黙の後、赤座はそう話を切り出してきた。

表情では笑ってこそいるが、細められた目蓋の奥にある光はあまりにどす黒く、彼の要件がろくでもないことを表している。

翔人はあからさまに嫌そうな顔をしながらも続きを促した。

 

「無視…ね。まぁいいさ、その要件ってのは?」

 

「んっふっふ。まぁ話すよりもコレを見てもらった方が早いでしょう。どーぞどーぞ。今日の夕刊ですぅ」

 

手渡されたのは複数の新聞記事。

一体こんなものに何が書かれているのか。

そう疑問に思いながら翔人はその内の一つをひらく。

するとそこには―――――

 

 

木々を背景に口づけを交わしている一輝とステラの写真が一面に掲載されていた。

 

 

 

 

 

 

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