驚きのあまり、ステラは目を丸くしてその写真に釘付けになった。
「イッキ、こ、これって………!」
間違いない。
学校の、いつも一輝たちがトレーニングに利用している林の中のひらけた場所。
そこで口づけを交わしたときの写真だ。
手渡された夕刊すべての一面に、その写真が掲載されている。
そう―――すっぱ抜かれたのだ。2人の関係が。
「よぉく撮れているでしょう?巷では今大騒ぎですよぉ?国賓に手を出すなんて不祥事ですからねぇ」
「ちょ、ちょっと待って!」
ステラは新聞をひったくり、怒鳴り声にも近い声をあげる。
怒鳴ったのにはもちろん理由がある。
それは彼女が指さしている記事の内容にある。
『姫の純潔を奪った男』、『ヴァーミリオン国王大激怒』、『日本とヴァーミリオンの国際問題に発展か!?』などと事態の重大さをことさら煽り立てようとでもしている記事だった。
また、そこには『黒鉄』の家から提供されたという『黒鉄一輝』の人物評が掲載されていた。
昔から素行が悪く、黒鉄の家を困らせていた問題児であり、人格的に問題のある人間である、と。
さらには女癖も非常に悪く、ステラの他にも女生徒とふしだらな交際を行っている、とまで。
もちろん彼を知っている人物からすれば、これが嘘だと言うことは明らかであろう。
しかし世論がどう受け取るかは明らかである。
「こんなことがあったので、急ではありますが連盟日本支部のほうで本件に関する査問会が開かれることになりましてね。その場で一輝クンの騎士としての資質を総合的に検証し、もし資質が不適切だと判断した場合、日本支部から連盟本部のほうに一輝クンの『除名』を申請させていただくことになったんですぅ。……今日、私は連盟本部の方に一輝クンをつれて行くためにやってきたわけなんですよ~」
赤座はにやにやしながらも話を続ける。
「これは『倫理委員会』の正式な招集ですぅ。応じていただけないと、んっふっふ。まぁ一輝クンの立場はとても悪いものになってしまいますぅ。……もちろん来て頂けますよねぇ。一輝クン。んっふっふ」
赤座は一輝の両肩に手を乗せ、ねっとりと告げた。
対し、一輝はしばしの沈黙の後、
「わかりました」
何かを決心するように、そう答えた。
誰もが言葉を失う中、一輝に声を掛けた者がいた。
「黒鉄。………いいんだな?」
翔人である。
彼は誰もが混乱している中、一人だけ冷静にそう尋ねた。
俺の力を貸さなくてもいいんだな、と。
「はい!」
対して一輝は翔人の問いに力強くそう答えた。
そんな一輝の翔人は笑みがこぼれる。
そして、、
「そうか。なら俺は何も言わない。頑張って来い」
そう一輝を送り出した。
***
一輝が『倫理委員会』とやらに連れ去られて3日が過ぎたころ事件は起きた。
内容を聞いて現場へと向かった翔人は、やれやれと首を振りながら当事者の元へと歩み寄る。
「ったく、お前たち二度目だぞ。校舎を壊すの」
溜息交じりの声がステラと珠雫にかかる。
「ヒロト先輩…」
「校舎を直すのだって人手が必要なんだ。あのおばさんのことも少し考えてやってくれ」
翔人はある人物のことを考えながらそう告げる。
するとそこに、
「誰がおばさんだって?斎藤」
少し怒ったような声が響き渡った。
ややハスキーな声の主は、ざわめく生徒たちの間を縫って彼らの前まで歩いてきた新宮寺黒乃のものだ。
「…盗み聞きなんて趣味が悪いっすよ」
罰が悪そうに翔人は告げる。
とは言え、言い訳にしか聞こえないが。
「盗み聞きなんかじゃないさ。私は少しヴァーミリオンに用があってな。…ヴァーミリオン理事長室までついてきてくれるか?」
黒乃はそう告げると、軽く指を鳴らした、
するとバラバラになていた壁材のがれきが浮き上がり、穴に収まっていく。
まるで、ビデオを逆再生するかのように。
数秒のち、大穴は綺麗にふさがった。
「それと斎藤。さっきの件はいつか精算してもらうからな」
黒乃はそう言うとさっさとこの場を後にした。
「優しくない人だ……」
翔人はそんな黒乃に対して、そう告げることしか出来なかった。
「それで何であんなことになってたんだ?」
ステラがこの場を去ったあと、翔人はこの場に残っている3人、珠雫、アリス、加々美に話を聞いていた。
「ステラちゃんが一輝と別れた方がいい、なんて言っちゃったのよ。それで怒った珠雫がステラちゃんを吹き飛ばして…」
翔人の問いにアリスは簡単に説明する。
それを聞いて翔人はなるほどなぁと言わんばかりに頷く。
「気持ちは分からなくもない。でも怒っただけで校舎を毎回壊されてちゃこっちもたまらないから、次は絶対にないようにしてくれよ。生徒会の仕事がこれ以上増えるのはごめんだ」
翔人はそう告げ、この場を去ろうとする。
しかし、そんな翔人に背後から声がかかる。
「…斎藤先輩、斎藤先輩ならお兄様を…兄を助けられますよね?」
「あぁ」
翔人の言葉に残りの2人が驚愕を露わにする。
「では助けて頂けないのは何ですか?確かに先ほどステラさんにはあのようなことを言いましたが、私としては兄が何をされているか不安で仕方がありません…」
珠雫は泣きそうな声でそう告げる。
そんな彼女に翔人は振り返り、
「何でって…そんなの一輝に頼まれたからに決まっているだろ?」
当たり前だろ?と言わんばかりの口調で話す。
「えっ?」
翔人の言葉に珠雫は何だか分からないといった様子で驚く。
そんな珠雫に翔人は説明を始める。
「一輝は俺に対して大丈夫だと言った。なら俺はあいつの意志を尊重してやるべきだろ?というかこれはあいつなりのケジメだろうから、俺たちがどうこう言う問題じゃないと思うんだけど」
「分かってます。分かってはいるんですけど……」
「まぁ兄の事が心配だって気持ちも分かる。でも今はあいつを…一輝を信用してやれ。あいつなら必ず戻ってくるさ」
「はい…!」
翔人の言葉に安心したのか、珠雫はしっかりとそれを言葉にした。
もう大丈夫だ、と思った翔人は今度こそその場を後にする。
「よし。じゃあ俺はそろそろ戻る。何度も言ったけどもう校舎は壊すなよ~」
そう珠雫らに告げ、翔人はその場を後にした。
***
校内戦最終日前日
「うん。大丈夫。私は元気みたい。…うん。明日の試合で校内戦は最後になるかな。えっ!?東京さ応援に来る?お、横断幕作ったと!?みんな気ぃ早すぎたい!それに今年の七星剣舞祭は大阪やけん。…うん、そうたい。ともかく、勝っても負けても、選抜戦ば終わったら一旦そっちに顔見せに行くけん。うん。…じゃあね。野菜ありがとう。みんなにもありがとうって言っておいて。お母さんも、身体ば気ぃつけてね。……ばいばい」
別れの挨拶を交わし、刀華は生徒手帳の通話機能をオフにした。
液晶ディスプレイに汗が張り付いている。
表示されている通話時間は50分。
ずいぶんと長い電話である。
「お前は暇を持て余した主婦か?」
生徒会室のソファーで寝転がってゲームをしながら、翔人は刀華にそう尋ねる。
「もうっ!ひろくんは何でそんな意地の悪いこと言うと!」
「ごめん、ごめん。冗談だよ。で、院長さん元気だって?」
「元気元気。もうすっかり元通りって感じだったよ」
院長―――、刀華がお母さんと呼ぶのは孤児院『若葉の家』の院長のことだ。
刀華や泡沫はその施設の出だし、翔人も長いことお世話になっているおかげかよく知る仲だ。
そんな彼女は去年の暮れ、心臓発作を起こして倒れた。
しかし今では元気な様子。
なにしろ――――
「もう横断幕作ったんだって?」
それである。
まだ選抜戦の勝利も代表入りも決まっていないというのに、院長さんや施設の子供たちは七星剣舞祭に持っていく横断幕を作ってしまったらしい。
これに刀華は絶句、翔人は苦笑いだ。
「みんな気が早いんだから……ほんとに」
「まぁいいんじゃないの?刀華もその方がやる気出るだろ?」
翔人のその言葉に刀華は嫌なことを思い出し、表情を曇らせる。
「………やる気、かぁ」
先ほど、彼女の元に一つの連絡が来た。
連絡してきた相手は理事長・新宮寺黒乃。
内容は、明日の対戦相手の変更。
しかもその相手が、今世間の話題の渦中にいる《
そのことを問いただすと、黒乃はあっさりと話した。
それは一輝を最悪のコンディションに追い込んで、その上で刀華という刺客を差し向けた、ということであった。
それが刀華にとって不本意であることは言うまでもない。
「やる気、ないのか?」
翔人はゲームから目を離し、何とも言えない顔でそう尋ねる。
「ないって言ったら嘘になるけど、あるっていうのも違う気がするんだ」
対し刀華は自分の本音を翔人に話した。
刀華にとってはあくまで選抜戦の最終戦にすぎないのだ。
対戦相手が変わるだけで、自分が何かを掛けさせられるわけでもない。
しかしその相手が一輝……衰弱していてずっと戦いたかった相手となればそうなるも無理はない。
「まぁ色々あったからな。………でもこれだけは言っておく。一輝相手に手を抜いたら許さん」
そんな刀華に翔人は当初気遣うように言葉をかける。
しかし、次の瞬間顔が真剣なものとなり、視線が刀華を射抜く。
「大丈夫。試合になったら私はどんな相手でも手は抜かないから。ひろくんも知ってるでしょ?」
刀華は翔人の視線をしっかりと受け止めてそう答えた。
まるで心外だと言わんばかりに。
そんな刀華に翔人は小さく微笑む。
「それを聞いて安心したよ。まぁ頑張ってくれ。俺は高みの見物といきますかな」
「まぁひろくんの相手って砕城君以外全員棄権だもんね…」
刀華が苦笑いでそう告げる。
彼女の言う通り、翔人の七星剣舞祭出場はほぼ決まりであろう。
「まぁ七星剣舞祭本戦となればそうもいかないだろ。それを楽しみに待っているとするよ」
翔人にしては好戦的な言葉に刀華は少し驚く。
しかし、すぐに刀華の顔は笑みに変わる。
「待ってて。絶対に追いかけてみせるから!」
決戦はいよいよ明日。
校内戦最後の戦いが幕を上げようとしていた。
校内戦もいよいよラストスパートです!