「ご来場の皆さんお待たせしました!!!七星剣武祭代表選抜戦最終試合を開始します!!!!赤ゲートより今、《雷切》が姿を見せました!十九戦十九勝無敗。そのすべてを無傷で勝ち抜き圧倒的な強さを見せつけてきた我らが生徒会長。成績低迷の破軍の中にあり、輝き続けるその姿に私たちはどれだけ勇気づけられてきたことでしょう。彼女こそ我ら破軍の誇り!燦然と輝く一番星!栄光の道を歩み続ける綺羅星が最後の七星剣武祭へ臨むため、決戦の場に向かいます!!三年《雷切》東堂刀華選手!!今万人の期待を背に、決戦のリングに立ちましたぁあ!!!!」
リングに姿を見せた刀華。
まっすぐ背筋を伸ばし、蒼ゲートを見つめるその立ち姿はまさに威風堂々。
「さすが、というべきか。すごい集中だな」
観客席からその姿を見ていた黒乃にも、その気力の充実ぶりは伝わってくる。
「まぁそうでしょうね。刀華は黒鉄と戦うのを楽しみにしていましたから」
黒乃のセリフに翔人は同意を示す。
「そして青ゲートより姿を見せるのは同じく十九戦十九勝無敗。しかしながらその歩んできた道は《雷切》とは真逆!誰にも相手にされず、誰からも認められずただ一人、地の底に取り残された一匹狼。しかし・・・・彼は這い上がってきました。《紅蓮の皇女》を!《狩人》を!《速度中毒》を!破軍の名だたる騎士たちを次々になぎ倒して!今や彼の名を知らない者は破軍にはいません!破軍が誇る最強のFランク!一年《落第騎士》黒鉄一輝選手。天に牙剥く狼が、今、星を喰らうべく決戦の舞台に上がりましたぁぁぁ!!!!」
続いて青ゲートより一輝が姿を見せる。
半死半生とは思えないほどしっかりとした足取りで決戦の場に向かい、刀華と向かい合うその凛とした背中は普段の一輝そのもの。
しかし普段通りではあるが、いつもと雰囲気が違っていた。
「ほほぅ。あれが刀華の相手か。なるほど、……強いな」
「やっぱ寅さんなら分かっちゃう?」
「わかるとも。なんとも張り詰めた表情をしておる。あの小僧、この場で死ぬことも覚悟しておるぞ。それほどの決意でこの場に臨んでおる。観客もその覚悟に飲まれているようじゃ。黒鉄にこんな男がおったとは知らんかったが……これはなかなか面白い試合になりそうじゃ」
そこで一度息をつき、南郷は鋭い視線で、
「黒乃君、君はこの試合どう見るかの?」
黒乃に問いかける。
黒乃は少しの沈黙のあと答える。
「……雷切は早い話居合い抜きです。すなわち納刀状態でなければ打つことが出来ない技。故に黒鉄が勝つには持久戦を征する必要がある、と考えます」
「ほほぅ。なるほどのぉ。黒乃君はこの勝負を持久戦と見るか」
黒乃の答えに南郷は笑いながらそう告げた。
そしてより鋭い視線を今度は翔人に向ける。
「翔人はどう見る?」
「そんなの決まってるじゃないですか。――――1刀目で終わりですよ」
南郷の問いかけに翔人は考える素振りもなくそう答えた。
***
『両雄、短く言葉を交わし、己の
開幕の合図の瞬間。
その場にいるすべての人間が信じられないものを見た。
試合開始のブザーと同時に、一輝が己の身体から蒼光を放ち、刀華に向かって駆け出したのだ。
『な、なななんと黒鉄選手いきなり切り札の《一刀修羅》を発動!!!開幕速攻だァァァ!!!!』
「なっ!?黒鉄!?その判断は無謀だぞ…!」
黒乃が歯ぎしりしながらそう告げる。
寧音もその横で表情を険しくする。
しかし、この場でそう考えない人物が2人。
――――翔人と南郷だ。
「正しい選択だ」
翔人は楽しそうに告げる。
「だがそれだけじゃ足りない。決して刀華には届かない。―――お前はその剣をどう届かせる?」
***
東堂刀華は、彼の心情を見て取った。
『僕の
試合前に言ったあの言葉は、正真正銘の本気だったのだ。
<
迫りくるこの気迫が雄弁に語っている。
黒鉄一輝がこの試合の一刀目を、最後の一太刀と定めたことを。
彼の狙いはこちらが迎撃として放つ《雷切》。
(なら、試合は簡単)
《雷切》をフェイントとして使い、大きく後ろへ逃げて、彼の渾身を空転させる。
そしてへろへろになった一輝をアウトレンジから嬲れば、彼は何一つできない。
この試合は自分の勝ち――――そんなの、
(冗談じゃない!!!!)
刀華はそのプランに一瞥もくれなかった。
クロスレンジは未だある人物を除けば一度として破られたことがない。
敵に攻め入れられたからといって、おめおめ逃げ出すやつがどこにいる。
クロスレンジは刀華にとっても最強の距離。
そこを逃げ出してどこで戦う?
(逃げ出したりなんかして―――)
そこで刀華は幼馴染であり、ライバルでもある少年のことを思い浮かべる。
(あの誇り高く大好きな騎士と肩を並べるなんてできるはずがないっ!!!私は彼と……ひろくんと一緒に七星剣王への道を進むんだっ!!)
スタンスを大きく広げ《鳴神》を納めた鞘い稲妻を送り込む。
構えるは伝家の宝刀。
それを抜刀態勢に構え、刀華は風を巻いて迫る一輝を迎撃する。
自らもまた敵と同じく、この一刀にすべてを賭けて!
互いが互いに、己にとって誇りとなるように、正々堂々と戦う。
それこそが騎士の王道なのだから!
***
そして―――――二人の騎士が今対決する。
一輝が放つは自身が持つ七つの技のうち最速の一刀。《第七秘剣・雷光》。太刀筋すら見せぬほどの速度で振るわれる不可視の剣。
刀華が放つは不敗であり最速の一撃。《雷切》。降り落ちる雷すらも斬り裂く神速の居あい抜き。
二人は自身の持てる力や想いも、応援してくれる他者の願いも、そのすべてを己の魂である剣に託し、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
二人の騎士は渾身を込めて、その一刀を振り抜いた!!
撃ち放たれた鋼の稲妻。互いに最短距離で疾駆する一撃は、僅かに《雷切》のほうが速い!
「刀華の勝ちか」
翔人は確信する。この打ち合いを制したのは刀華だと。
「それにこれは……」
今まで幾度となく刀華と修行をしてきた翔人にはわかった。
この雷切は今までで一番美しいものだと。
だが――――
「………何だと?」
刹那の一瞬の中翔人は見てしまった。
刀華の一刀が一輝に迫る中、一輝の一刀がスピードを上げたことを。
そしてその一刀が進化していることを。
そして翔人がそう思った瞬間、
パリィン………、と鋼が砕け散る音が甲高く、会場に響いた。
次いで………誰かが倒れ伏す音も。
眩しさに目を閉じていた観衆が、恐る恐る目を開き、リングを見下ろす。
砕け散ったのは――――《鳴神》。
リングに倒れ伏せていたのは………
《雷切》東堂刀華だった。
***
『く、砕け散ったぁぁああああああ!!!。な、なんということでしょう!!たった一刀の交錯、僅か一撃の錯綜!その一瞬で東堂選手の《鳴神》が!《雷切》が!粉砕されましたぁぁぁあああ!!!!リングに倒れたままピクリとも動かない東堂選手!今、レフェリーが駆け寄ります!続行出来るのか!?それとも―――』
大観衆が固唾を呑んで倒れた刀華に近寄ったレフェリーの判断を見守る。
しばし様子を伺うようにかがみこんだレフェリーは、やがて立ち上がるとその両手を交差させ×を作った。
『レフェリーの判断は続行不能ォ!試合終了ォォォ!!!なんという幕切れ!なんという決着!交わされた斬撃はわずかに一合!その一合で、破軍最強の騎士を斬って落としたァァァァ!!!!リングに佇む勝者は、一年《落第騎士》黒鉄一輝選手だァァァァ!!!!』
「刀華っ!!」
勝者の名がコールされた瞬間、翔人は瞬時にリングへと向かう。
リングへたどり着いた翔人は優しく刀華を抱え上げる。
抱きかかえた刀華を見て翔人は思わず笑みが漏れてしまう。
「……負けたっていうのに何て顔してんだよ」
そう告げる翔人の視線の先にある刀華は……笑っていた。
「まぁ大丈夫だろうけど、医務室に連れて行かないとな…」
そう思い、翔人は急ぎ足で医務室へと連れて行く。
その途中で赤座がステラと一輝に何かしようとしているのを発見する。
「刀華も黒鉄も怪我してんだ。――――どけ」
瞬間翔人は己の拳を赤座の顔面に振り下ろした。
彼の身体はトラックにはね飛ばされたかのように吹っ飛ぶ
その身体は第一演習場の壁を突き破り、破軍学園の敷地の外まで至った。
「ヴァーミリオン、急ぐぞ」
「分かってるわ。急ぎましょう」
殴り飛ばした張本人と絡まれていた少女は、赤座のことなど記憶の片隅にも残っていなかった。
***
試合終了から1時間。
「………っ」
霊装《鳴神》を砕かれた衝撃で粉々に消し飛んでいた刀華の意識がようやく回復した。
「おっ、目が覚めたみたいだな」
「気分はどうですの?どこか痛いところはありません?」
ベッドに横たわる自分。
それを介抱する翔人とカナタ。
その光景に刀華は確信する。
「そっか。……私、負けちゃったんだね」
記憶が途切れている刀華だったが、仲間たちのいたわるような表情を見れば、それを察するのは難しいことではなかった。
「……我ながら最高の《雷切》だとおもったんだけどなぁ」
「俺もそう思うぞ?寅さんもそう言ってたし」
「お師匠様が?来ていたんですか?」
「あぁ。なっ、カナタ」
「えぇ。今日の試合はオープンに行われましたから。観戦に来てくださっていたようですわ」
「すごく嬉しそうに褒めてたぞ。あの《雷切》は今までで一番美しかったって」
(………そっかぁ)
「お師匠様やひろくんから見てもそうだったのなら、私の勘違いというわけじゃないんだね」
自分は全力を出し切れていた。
そしてそれは、間違いなく黒鉄一輝を上回っていた。
だけど――――
(あの瞬間、黒鉄くんはさらに速くなった)
あの一瞬の中で、彼は自らの限界を進化させたのだ。
他ならない、自分に勝つために。
自分も絶えず上を目指し続けてきたつもりだったが、それでも、一輝に比べればまだまだ甘かった。
「まさかここで諦めるわけじゃないだろ?」
刀華の心を読んだかのように翔人が刀華に声をかける。
そんな翔人の問いに刀華は、
「うん。もちろん。私もまだまだ強くなれる。黒鉄くん…いやひろくんに追いつくまでは諦めないよっ」
そう笑顔で答えた。
「そうか…。でも俺だって簡単に刀華に負けるつもりなんてないぞ?」
「そう言っていられるのも今のうちだけだよ」
「言っとけ」
翔人のセリフに皆が笑った。
その後もそんな会話が続き、いつの間にか場は温かい雰囲気に包まれていた。
***
一週間後、普段は滅多に使われない体育館に、全校生徒が集まっていた。
長い選抜戦を経て選び抜かれた7名の代表、その正式な任命式が行われるからだ。
しかしこの場にはなぜか5人しかいない。
「有栖院凪と斎藤翔人は所要により欠席している」
理事長は代表の紹介の最後にそう告げた。
「ねぇ、刀華。翔人はどこに行ったの?」
泡沫の問いに刀華は苦笑しながら答える。
「それが……お師匠様に呼ばれたみたいなの……」
「………えっ?」
「何でも私の試合の時、ひろくんがお師匠様に勝てるみたいなこと言って、お師匠様をその気にさせちゃったみたいで…」
刀華のセリフに泡沫は深い溜息を吐く。
「翔人もバカだなぁ…。あの《闘神》に勝てるはずないのに…」
「私もそう思うんだけど、ひろくんは勝つ気満々みたい…」
「ほんと翔人には呆れるよ」
泡沫のそのセリフに刀華は苦笑いで同意を示した。
***
とにもかくにもここに『破軍学園』の七星剣武祭代表選手は出そろった。
それを皮切りに他校でもぞくぞくと代表選手が公表されていった。
役者は出そろった。
巨門の《氷の冷笑》鶴屋美琴。
禄存の《鋼鉄の荒熊》加我恋司。
貪狼の《剣士殺し》倉敷蔵人。
そして――――前七星剣武祭覇者、《七星剣王》諸星雄大。
いずれも、音に聞こえた猛者ばかり。
《流星の剣帝》斎藤翔人は今、そんな彼らが待つ舞台を一刀両断しようとしている。
しかし、彼は知らない。
七星剣武祭で何が起ころうとしているかを。
***
「準備が終わりました」
「よし、ご苦労。これで準備はほぼ完了ですね。用意はいいですか、《桜》?」
「はい、いつでも大丈夫です」
「―――――《流星の剣帝》よ。今こそあなたに絶望を与えましょう」
今物語が動き出す。
次章では《桜》が物語のキーになります。
分からない方は過去の話を見直していただければ分かるかも・・?