刀華たちが任命式を行っているころ、ある場所で向かい合う二人の影があった。
「さて、準備も出来たことだしそろそろ始めるかの」
齢92歳ではあるが、いまだ衰えを感じさせない男、南郷寅次郎は告げる。
「本当にいいのか?」
対するはまだ高校生ながら世界最悪の犯罪者にして、世界最強の剣士の異名を持つ者の弟子である斎藤翔人。
そんな翔人は相手をいたわるような態度で話しかけた。
すると、南郷は鋭い視線で翔人に、
「……それはどういう意味じゃ?」
静かに怒りながら尋ねる。
そんな南郷に怯む様子もなく翔人はへらへらしながら告げる。
「そのままの意味だよ。寅さんのプライドを傷つけちゃうかもしれないぞ?寅さんとの勝負だと手を抜けそうもないからな」
「ひょっひょっひょ。変わらんの翔人。じゃが………あまり調子にのるでない小童が」
一瞬にして辺り一帯の空気が張り裂けそうになる。
もちろん南郷のプレッシャーである。
「やる気満々ってか。いいぜ。やろうか」
翔人はゲームでも始めるかのように陽気に告げる。
そしてその言葉を合図に戦闘が始まった。
両者とも音を置き去りにして相手の元へと近づく。
そして互いの相手を見据え、
「音切りッ!!」
「次元刀ッ!!」
大気がさける。
2人の技で辺り一帯にあったものすべてが無に返った。
木は跡形もなく消え去り、空にあった雲でさえもなくなり、太陽のみが2人を包む。
翔人の技を見た南郷は顔を驚愕に染めていた。
無理もない。
音切りは南郷の中でも最強で最高の技に位置するものである。
その技と同等……いや、南郷が傷を受けている分だけそれ以上の技を放たれたのだ。
「むっ、なんじゃその技は?」
南郷は自分の傷を気にする様子もなくそう告げる。
「この数年の努力の賜物だ」
そう答える翔人だったが、その顔には苦い笑みが浮かんでいる。
というのも次元刀でケリをつけるつもりだったからだ。
(これで決めるつもりだったんだけどなぁ…)
《次元刀》
時相をずらしながら刀を振るうことによって対象を透過させ、そのまま切り裂く翔人の伐刀絶技である。
これを一瞬で数百回繰り出すことで威力を発揮することができる。
(やっぱ寅さんじゃあれを使わざるを得ないか…)
「なるほどの…。やっかいな技じゃ…」
「驚いているところ悪いけど、どんどん行くぞ」
そう言い終わると、翔人は南郷との距離を一瞬で詰める。
《比翼》と呼ばれるエーデルワイス特有の動きだ。
しかし南郷は驚かない。
固有霊装をその動きに合わせて振りぬく。
バリィンと固有霊装がぶつかる音が鳴り響き火花を散らす。
翔人が自分の剣を止められ後ろに飛ぶと、それに襲い掛かるように南郷は翔人に詰め寄る。
「ハァッ!!」
南郷の気合いをまとった一閃が翔人へと迫るが、
「っと!」
翔人は俊敏に反応し、自らの刀を構え南郷の一閃の衝撃を逸らす。
衝撃を逸らされ一瞬隙を見せる南郷であったが、翔人はあえてそこを突かなかった。
あからさまにフェイクだったためだ。
もし斬りこんでいれば反撃を食らっていただろう。
そのため翔人は一旦態勢を整えるために、再度南郷との距離を開ける。
「ここまで実力を付けているとは…!驚いたわい」
南郷は楽しそうにそう告げる。
だが反対に翔人は嫌そうな顔をして口を動かした。
「誰に教えられたと思ってるんだ?エーデルだぞ」
「ひょっひょっひょ。そうじゃったな」
そんな南郷の態度が気に入らなかったのか、翔人は、
「
怒りのあまり、雷との試合で見せた技を繰り出す。
しかし、
「懐かしい技じゃ。しっかりと成長しておる。じゃが…」
南郷は自身の固有霊装の一振りで流星をあっさりといなしてしまった。
「どうした?こんなものか?いくら速くて威力があるからといっても、一つだけじゃこのわしにダメ―ジを与えられんぞ?」
そう言われた翔人だったが、その顔には技を破られて不安そうにしていたり、縮こまってる様子はまるで見られなかった。
いや、反対に――――
「寅さん。あんま余裕ぶっこいてると……死ぬぞ?」
「ッ!!」
南郷は翔人の低く冷たい声に寒気を感じる。
(わしが翔人に恐怖している…じゃと。そんなわけ…)
そう考える南郷の元へ死の宣告ともとれる声色で、
「
と、短く言葉が放たれた。
その瞬間―――――
空から何万もの光が降り注いだ。
「不味いッ!!」
自身に身の危険を感じた南郷はそう告げ、固有霊装を構えなおす。
流星とは比べ物にならないスピードで多くの流星―――――流星群が音を置き去りにして南郷の元へと迫る。
最初の一つ目が南郷に迫るが、ガキィンと音を立て南郷は一つ目の流星を消し飛ばす。
しかし、南郷は自身の手がしびれていることに気づき、顔を歪ませる。
(なんじゃこの威力は…!先ほどの流星など足元に及ばん威力ではないか。なのにこの数……。いやはや参ったの…)
そう考えている間にも流星は南郷に降り注ぐ。
二つ、三つ、四つ―――――
南郷は器用に流星を捌いていくが、百を超えたあたりから疲れが見え始めた。
二百、三百、四百―――――
南郷は疲れを見せながらもなんとか流星をさばく。
しかし、千を超えた辺りから違和感を感じ始める。
(ここまで時間にして1秒といったところじゃが……翔人はどこへ…?)
その違和感は現実になる。
後ろから声が聞こえたからだ。
「さすが寅さんだ。流星群をこんなまでいなされるなんて初めてだよ。…でも油断したね。――――――零斬り」
その言葉を最後に南郷の意識は途切れた。
***
「うぅ……」
「おっ、寅さん起きたか。大丈夫か?」
試合から数時間後、目を覚ました南郷に翔人は話しかける。
翔人に苦笑いしつつ南郷は答える。
「大丈夫…と言えば大丈夫じゃの。翔人の言ったようにプライドは無事じゃないがの」
「そんだけ言えれば大丈夫だよ」
翔人はハハハッと笑いながらそう告げる。
「しかし翔人がここまで強くなっているとは驚いた。以前戦ったときはわしの相手にもならんかったのに」
南郷は懐かしむようにそう告げた。
かつて翔人をボロボロになるまで戦った時のことを思い出して。
「前っていつの話してるんだよ…。そん時俺って10歳にも満たないくらいじゃなかったか?」
翔人にとってもその時の戦いは記憶に残っている。
エーデルワイスの修行で力をつけて調子にのり始めたころの出来事である。
その戦いのせいで翔人はそれ以降自分の力を過小評価するようになったのだが、それはまた別の話。
「はて?そうじゃったかの」
「ボケちゃったか…」
「ひょっひょっひょ」
楽しそうに笑う南郷に翔人は苦笑いだ。
その後も近況報告などを含め楽しい会話をしていた翔人たちだったが、途中で南郷が少し真剣そうな面立ちで翔人に話しかける。
「して、翔人よ。今度行われる強化合宿にわしも行こうかと思うのじゃが」
「………一輝か?」
「その通り。わし自身の目で確かめておきたいと思ってな」
「まぁ…いいんじゃないの?プロの魔導騎士ごときじゃ一輝にはかなわないだろうし」
7月下旬には七星剣武祭の強化合宿が毎年行われている。
奥多摩の合宿場での10日間に渡る集中訓練。
これにはKOKリーグに参加しているようなプロの魔導騎士も講師と呼ばれることになっている。
翔人はその魔導騎士では一輝に敵わないと告げたのだ。
「まぁ刀華を倒すような騎士があの程度の連中に負けてるようじゃ話にならんしの」
「だろ?まぁ寅さん自らあいつに指導してやってくれ」
「了解じゃ」
そんな会話をして翔人は南郷と別れた。
帰り道翔人は1人考え込む。七星剣武祭の後のことだ。
翔人の目的は妹である桜を探すこと。
そのためにこの数年間力をつけてきた。
そしてようやくその力を使って桜を捜索することに決めたのだ。
しかし翔人は何からしていいか分からなかった。
それもそうだろう。
ここ何年も音沙汰がないのだから。
両親が殺されたあの日、桜の死体がなかっただけで、桜はもうすでに殺されている可能性だってある。
しかしなぜか翔人はまだ桜が生きているような気がしていた。
確信はない。単なる勘である。
「桜………。元気かな……?」
翔人は空を見上げ、ただ一人の妹のことを思った。
幸か不幸かその思いは後に届くことになる。
しかしそんなことを知るはずもない翔人はただただ妹のことを思うことしかできなかった。