色々用が重なってずっと更新できずにいました。
七星剣武祭までは終わらせるので気長に待っててくれるとうれしいです。
7月下旬。
梅雨も終わり、青空に白い入道雲が聳える季節。
選抜戦で駆けるように過ぎて行った一学期が終わり、破軍学園も夏休みに入っていた。
長期休暇ということもあり、帰郷した生徒も多く、校内の人気はまばら。
残っているのは東京でのびのびと夏休みを楽しみたい者か、学園の潤沢な設備で自分を鍛えたい者か――――
そんな中一輝やステラなど七星剣武祭に出場する選手たちは山形にある合宿場へと行っていた。
普段なら奥多摩で合宿は行われるのだが、例の奥多摩巨人騒動があったために新宮寺理事長が巨門学園に頼み込み合同合宿をすることになったのだ。
***
「あらら、《紅蓮の皇女》負けちゃった?」
「えー、うそぉ」
刀華とステラの戦いを見ていた2人の少女が溜息をつく。
彼女たちは合宿に取材に来ている『文曲』の新聞部だ。
七星剣武祭前の強化合宿は、普段中々取材する機会がない他校の選手を取材するチャンス。
各校の新聞部としては大切なイベントだ。
そのため、『文曲』の2人も、噂の姫騎士ステラ・ヴァーミリオンの記事を書くために九州からはるばるやって来たのだが――――
「なんだかガッカリー」
「実は弱かった!なんて記事にならないわよ」
ステラの話題性にあやかって記事を書こうとしたのだが、負けてしまっては紙面の盛り上がりに欠ける。
肩透かしを食らったと鼻白む『文曲』新聞部。
そんな嘆きを、―――同じく新聞部の日下部加々美は少し離れた場所から聞き取り、呆れた声で嘆いた。
「やれやれ、『文曲』さんはどこに目を付けているんだか」
「本当に。自分が求める結果に引っ張られて、目の前の真実を見る目が曇ってるなんて、記者として話にならないわね」
賛同したのは加々美の横で2人の模擬戦を観戦していた有栖院凪だ。
そんな2人とは別に見る目をもった者もいる。
それが加々美たちから少し離れた場所で戦いを観戦していた二人の男女だ。
「いやぁ、すごい戦いやったなぁー。ありゃー銭がとれるで!」
「今年の破軍はずいぶんと粒ぞろいだな。日下部」
近づきながら声をかけてきた二人に、加々美が笑顔で応対する。
「八心さんと小宮山さん。お二人も観戦していたんですね」
「それそうやで。模擬戦とはいえ《雷切》と《紅蓮の皇女》の戦いを見逃すなんて、記者の風上にもおけんわ」
「まったくだな。とは言っても見に来たのは別だが」
「本命?」
小宮山の言葉に疑問を思った有栖院が声を漏らす。
「そうだ。《流星の剣帝》…と言えば分かるか?」
「あぁ、翔人先輩ね」
有栖院は納得する。
「ウチも《流星の剣帝》が本命や。まぁどこも似たようなものやと思うよ」
「それはそうだろ。初めての出場,Aランク騎士,19勝不戦勝。それにあの男たちに昔とはいえ勝っている経験もある。そんな騎士が本命じゃないなんて記者としては信じられないからな」
「あの男たち?」
「《風の剣帝》と《七星剣王》の2人や。今回《風の剣帝》や《流星の剣帝》が出場するって聞いて色々調べたんやけど、そうしたら《流星の剣帝》はこの二人に無傷、圧勝やったんや」
有栖院の問いに八心は自慢げに話す。
自分の調べたことを話したかったのだろう。
彼女の顔は満足げだ。
「それでその《流星の剣帝》はどこにいるんだ?姿が見えないが」
そんな小宮山の質問に加々美は答える。
「あぁ翔人先輩なら――――」
***
場所は変わって、青森にある小さな村。
その墓地で翔人は手を合わせてしゃがんでいた。
(父さん、母さん、久しぶり。最近忙しくてまったく会いに来れなかった。けどいい報告がたくさんあるんだ。まずは―――――)
翔人は故郷である村に墓参りに来ていた。
もちろん自身の両親の墓参りだ。
この数年間、本人の思う通り翔人は忙しくて墓参りに来ることができないでいた。
理由は色々ある。
修行だったり、修行だったり、修行だったり………
まぁ要するに修行で忙しくて来れていなかったのだ。
そんな余談を交えながら翔人は心の中で両親に近況を報告していた。
そして最後には、
(2人とも、桜は俺が絶対に見つける。だから心配しないでくれ。次来るときは桜も一緒だ)
と、両親に誓った。
そんな翔人の宣言に両親たちは『あぁ、待ってる』、そんな言葉を発したように翔人は感じた。
「墓参りも済んだし、これからどうするかな」
墓参りが終わった翔人は、これからの予定について考える。
一応訳を言って、合宿には行かなくてもいいことになってはいる。
とは言え、同じ七星剣武祭のメンバーに顔だけでも見せておいたほうがいい、と翔人は考えていた。
(走ってけば山形なんてすぐだけど…面倒くさいな。行くなら電車か)
翔人はそう考え、駅へと向かった。
***
「という訳なんですよ」
加々美は翔人のいない理由を2人に告げた。
「そうかぁ~。《流星の剣帝》の取材を楽しみにしてたんやけどな」
「そういう理由ならば仕方ないな」
二人は残念そうにしながらも、うんうんと頷き納得していた。
「それにしても《流星の剣帝》と《風の剣帝》の勝負は是非とも見たい対戦だな」
「せやな。しかしネットでは《紅蓮の皇女》と《風の剣帝》の対決を期待する声が多かったけどな」
「まぁステラちゃんは有名ですからね。翔人先輩地味だしそれは仕方ないんじゃないですかね」
3人がこれからの対戦に対してそれぞれの思いを吐露する。
実際翔人の存在を知っているのは七星剣武祭に出場するメンバーくらいだ。
というのも世間では翔人の詳細はいまだ出回っていなかったためだ。
「しかしどちらにしてもAランク同士の対決だ。誰だって見てみたいだろうよ。何せ《世界時計》対《夜叉姫》以来のAランク対決なんだから」
「だがそれを踏まえても、私が今大会で一番注目しているのは―――《落第騎士》だ」
小宮山はこの大会のダークホースは一輝だと告げる。
自らの記者としての勘が告げるらしい。
「あの《紅蓮の皇女》との対決以来密かに噂され、そして《雷切》相手に勝利を収めたことでいよいよ表舞台に頭角を現した無名のFランクが、全国相手にどこまで斬りこめるのか。……内心誰もが楽しみにしていることだろう」
「《紅蓮の皇女》を倒し《雷切》を一刀で斬り伏せた《風の剣帝》の弟…。まぁそれも納得やな」
そんなセリフを最後に別の選手を見つけた2人は加々美たちから離れていった。
***
合同合宿最終日の昼ごろ、翔人はようやく合宿場に着いた。
しかし、
「さっき帰った!?」
翔人の大声に南郷は落ち着いた様子で答える。
「うむ。刀華が生徒全員を連れて帰っていったぞ。何じゃ知らんかったのか?」
「あ、あぁ」
翔人はその言葉にがっくりと肩を落とす。
もともとサプライズで顔を見せようとしていたために、翔人は誰にも連絡していなかった。
それが仇となったのだ。
「まぁ仕方ないの。お主なら破軍までそう時間はかからないじゃろ?修行がてら走っていったらどうじゃ?」
「修行ね…。今更走ったくらいで修行になるとは思えないけど…。暇だしよかったら寅さん一緒に電車で帰らない?」
「おぉ、それはええの。お主とはゆっくりと話したいと思っていたんじゃ」
そんな話すことあったっけ?と疑問に思う翔人であったが、一人で帰るよりは話し相手がいたほうがいいことは確かだった。
「それじゃあ行こうぜ。刀華たちがいないんじゃここに用もないし」
「そうじゃの。ところで翔人、最近刀華とはどうなんじゃ?」
「どう…とは?」
南郷のセリフに対して疑問を覚えた翔人は首をかしげる。
「隠さんでもええわい。もちろん恋仲のことじゃわい」
「ぶふーっ」
南郷のぶっちゃけに翔人は思わず口にしていた水を吹き出す。
「おぉ、そんなに刀華とは進んでおるのか」
「ちょ、ちょっと寅さん?何か勘違いしてはおりませぬか?」
そんな会話をしながら二人は駅へと足を向けようとする。
しかし…
「……?寅さん、なんかそこに気配がないか?」
「おぉ、翔人もそう思ったか。わしもそう思ったところじゃ。やはり気のせいじゃなかったか」
そう思い二人は気配がする倉庫に歩み寄り、
「―――――、」
一息、目にも止まらぬ速さで扉にかかっていた南京錠を切断した。
そして戸を開くと、
「んー!!んーっ!」
中で手足を縛られ監禁されていた少女を発見した。
その少女を見て翔人は目を見開く。
「お前は確か…」
そう首をかしげながら、翔人は手足の戒めを斬りはらう。
「ぷはっ、ハァ!ハァ!た、助かりました……!」
「助かったってことはそういうプレイだったわけじゃないんだな…。それでどうしてこんなところで縛られていたんだ、加々美?」
そう、監禁されていた少女は日下部加々美だった。
「た、大変なんです、翔人先輩!」
「そう焦んなって。落ち着いて話してくれ」
翔人にそう言われ、加々美は一呼吸置いた後、
「アリスちゃんは他校のスパイだったんです!」
叫ぶようにそう告げた。