落第騎士の英雄譚 ~守り人のために~   作:ローニエ

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戦う理由

「失礼しまーす」

 

そう告げ、ノックもせず翔人は理事長室に入る。

 

「斎藤か。それでどうだった、あいつらは」

 

「まぁデバイスは使ってましたけど、別に被害があったじゃないんで許してやってください」

 

「…まぁいいだろう」

 

一瞬怪訝な顔をする黒乃であったが、了承した。

 

「じゃあ報告もしたんで、俺はこれで「ちょっと待て!」

 

「…はい?」

 

翔人が理事長室を出て行こうとすると黒乃に止められる。

 

「まだお前には話が残っている」

 

「話?まだ何かあるんですか?面倒事はもうたくさんですよ」

 

「まぁ話を聞け。まずはこれを見てくれ」

 

そう言って黒乃は自分の端末を操作し、翔人に見せた。

 

「…代表選抜戦ですか?」

 

「そうだ。お前出ないらしいな。東堂から聞いたぞ」

 

(刀華のやつめ、余計なことを…)

そう聞いた瞬間、翔人は心の中で刀華を恨んだ。

そう思いつつも、翔人は黒乃の質問に答える。

 

「ええ、あいつの言う通り俺はでませんよ。いつも通りにね」

 

「何故だ?お前が去年まで実力を隠していたことは知っている。何故戦おうとしないんだ?」

 

「…俺は誰かと競うために力をつけたんじゃありません。大切なものを守ることができるように力をつけたんです。もう二度と…後悔しないために」

 

「ッッ――――!!」

 

翔人が静かにそう告げると、誰もが腰を抜かすほどの殺気を発する。

当時のことを思い出したのだろう。

その顔には怒りが浮かんでいる。

そんな翔人の殺気に黒乃は、明らかな動揺と狼狽が顔に浮かんでいた。

椅子に座っているため、翔人には気づかれていないが、がたがたと足が震え、額には尋常でないほどの汗。

 

(まったく、こんなところまでエーデルワイスにそっくりだとはな…いや、すでにエーデルワイス以上か…。ここまで何も起こらなかったのが不思議でしょうがないよ…)

 

うろたえながらも黒乃はそんなことを考える。

 

「…お前の言い分は分かった。だがお前も知っているように、この破軍学園は長らく七星剣武祭で優勝者を出していなくてな。私はその立て直しのためにここに来たんだ 」

 

「…それは知ってます」

 

そんな黒乃の言葉に、翔人は殺気を抑え答える。

 

「そのための手段として、能力値選抜制を廃止して、トーナメント方式を採用した。それは誰にでもチャンスがあるということだ。なのにお前みたいなやつがでなくてどうする」

 

「それはそうかもしれないですけど、さっきも言ったように俺は競うために力を使いたくないんです」

 

「じゃあ次にこれを見てくれ」

 

そう告げると黒乃は自身の端末を見せてくる。

 

「……何ですかこれ」

 

「見ればわかるだろ?不信任決議案だ。お前は今だこの学園に入って実力を見せたことがないから、お前の実力を知らん奴らが出したんだ。生徒会メンバーがそんな得体のしれない人物でいいのか、とな」

 

「そうですか…。ならいっそのことそれを認めれば俺は副会長なんてものをやらなくていいんですね?」

 

黒乃の言葉に翔人は少し嬉しそうに告げる。

そんな翔人に溜息をつきながらも、黒乃は話す。

 

「お前は見返してやろうとは思わんのか?」

 

「思いませんね。むしろ弱いと思われてた方がいいくらいです。」

 

まだ何か?と顔で訴える翔人に、黒乃は最後の手札を出すことにした。

 

「話は以上なら俺は帰りますね「黒鉄王馬」

 

「ッ!!」

 

黒乃の言葉に翔人は振り向く。

 

「黒鉄王馬がどうやら日本に帰ってきたらしい」

 

「へ…へぇ。そうなんですか。それがどうかしましたか?」

 

「どうかしましたか?、は私のセリフだ。今のお前を見てそう言わないものはいまい」

 

黒乃はそう告げるとここがチャンス!とでも言った具合に翔人へと話し始める。

 

「お前と黒鉄王馬の間に何があったかは知らん。特に興味もない。だがな、そこまでの反応を見せるということは、少なくとも戦ってみたいと少しは思っている証拠だろ?お前は3年生で今年には卒業する。後悔しないためにも、ラストチャンスの今年出てみたらどうだ?」

 

黒乃がそこまで告げると、翔人は考え始める。

そこで追い打ちをかけるように黒乃は告げる。

 

「それに諸星雄大もお前と戦いたがっていたぞ」

 

「諸星が!?あいつ引退したはずじゃ…」

 

「ん?知らんのか?昨年の七星剣武祭の優勝者だぞ?」

 

「えっ…!そんな、まさか…あいつが!?」

 

「本当に知らなかったようだな…。昨年東堂が負けた相手だというのに」

 

「刀華が…!?」

 

実は刀華が負けた相手で、刀華が負けたとき何度も話されていたのだが、七星剣武祭に興味がなかったために聞き流していたのだ。

 

 

「で、どうだ?まだ出る気はないか?」

 

ニヤニヤしながら告げる黒乃。

そしてそんな黒乃に溜息をつきながら翔人は答える。

 

「……………わかりました。出ますよ。出ればいいんでしょ…」

 

「おお、そうか。出てくれるか!これで今年の優勝はもらったようなものだな」

 

「あんまり期待しないで下さいよ。やつらの実力がどれほどのものか分からない以上、勝てる保証はないんですから」

 

「だとしてもだ。もし負けたりしたらエーデルワイスがなんて思うか…」

 

「そこで師匠の名前を出すのは反則ですよ!?…でもまぁ出るからには全力を尽くしますよ。…それじゃあ俺はこれで」

 

翔人は自分の端末で代表選抜戦へのエントリーをその場ですませると理事長室を出て行った。

翔人が出て行って一人になった黒乃はふと呟く。

 

「ついに斎藤が折れたか。黒鉄も、ヴァーミリオンもいることだし今年は楽しみだ」

 

と。

 

 

 

 

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「あっ、ひろくんお帰り~。今日は遅かったね」

 

翔人が自分の部屋に戻ると、夕ご飯の支度をしている刀華が翔人に声をかける。

 

「…………」

 

「ひろくん?」

 

刀華は挨拶を返してくれないことに疑問を抱き、もう一度翔人に声をかける。

しかし、翔人は何も返さない。

そこで刀華は夕ご飯の支度をやめ、翔人の元へと行き話を始める。

 

「どうしたの?何か嫌なことでもあったの?」

 

「………ハァ」

 

やっと口を開けてくれたと思った刀華であったが、それは溜息であった。

そこで再び刀華は声をかけようとするが、翔人が先に話し始めた。

 

「嫌なこと…と言えば嫌なこと…だな」

 

ようやく口を聞いてくれたことに刀華は安堵するが、内容があまりよろしくないものだったので、顔の曇りは晴れない。

 

「ど、どうしたの本当に…ひろくんがここまで思いつめるなんて、よっぽどのことだよね…?」

 

「まぁ元をたどれば刀華のせいだな」

 

「えっ?私!?」

 

身に覚えがないのか、驚く刀華。

口に両手をあて、驚愕の表情を浮かべている。

しかし、それでは話が進まないため刀華は恐る恐る翔人へと質問する。

 

「私、何かしたっけ…?」

 

「理事長に話したんだろ?俺が今まで代表選抜戦に出てないこと。その件でさっき理事長に呼び出されて、何か代表選抜戦に出されることになった」

 

刀華の質問に覇気のない声でそう答える翔人。

声だけでなく、顔にも覇気はなかった。

 

「えっ?ひろくん、選抜戦出ると!?」

 

しかし、刀華の反応は違った。

よほど驚いたのかなまりが出てしまっている。

そんな刀華を片目で見つつ、翔人は答える。

 

「あぁ。嫌々だけどな。理事長は俺を出すために色々な手を打ってきたんだ」

 

「……理事長先生、ナイスです」

 

「おいこら。しっかり聞こえてるからな」

 

翔人の答えに満足したのか、刀華は黒乃に感謝した。

そして驚いていた顔がだんだんと笑顔になる。

体から電気をバチバチ発しながら…

そんな刀華を見た翔人は本日何度目になるか分からない溜息をつくと、刀華に告げる。

 

「まぁ出るからにはもちろん優勝を目指す。俺が出てない間に雄大が優勝してたなんて知らなかったし、他にも強者はいるみたいだけど、負けるつもりはさらさらない。…もちろん刀華にもだ」

 

「そう…でも私も負けないよ。打倒ひろくんを目指してこれまで頑張ってきたんだから」

 

「まぁ選抜戦では当たらないことを祈ってるよ。刀華が七星剣舞祭に出られないのはかわいそうだからな」

 

翔人がそう告げると、刀華は微笑む。

 

「じゃあまぁそういうことだから。飯頼むな」

 

「はいはい…ってあれ?」

 

何かを思い出したのか刀華は疑問を口にする。

 

「ん?どうした?」

 

「さっきひろくんさ、雄大って言ってなかった…?」

 

そう刀華が告げると、翔人の顔が引きつる。

やべっ、忘れてた…と。

 

「それってもしかして七星剣王の諸星雄大さん…?」

 

「し、七星剣王?そんなやつ俺は知らないな~。あっ!なんか急に体を動かしたくなったから一っ走りしてくるな!じゃ!」

 

刀華に怒られることを悟った翔人は、逃げるように部屋から出て行った。

そんな翔人に呆れる刀華だったが、顔は笑っていた。

 

(ようやく…ようやくひろくんが公の場にでるんだね。待ってたよ!…でも簡単に負けるつもりはさらさらない。私の全力をもってひろくんに挑むのみ…!)

 

刀華はそう心の中で思うと、ご機嫌なまま夕ご飯の支度へと戻っていった。

 

 

 

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