突然の怒声、それはあろうことか人質たちの中から響いてきた。
翔人たちはいっせいに振り返り、そして見る。
人質の中に紛れ込んでいた女性が、中年女性のこめかみに拳銃を突きつけている光景を。
「た、たすけてぇぇぇぇ!」
「お前たち動くな!動くとこのババァの頭をぶっ飛ばす!」
「しまった!人質の中に紛れていたのか」
「………」
一輝がそう叫び驚ぶ。
しかし、翔人は無表情で彼女を見ていた。
「おいそこのゴスロリの「今なら殺さずにしておいてやる」」
解放軍の女性が珠雫に話しかけるが、翔人が口を挟む。
「あ?」
「聞こえなかったのか?今その女性を放せば命だけは助けてやると言ったんだ。もし放さなかったらどうなるか…俺だってそう簡単に人を殺したくはないんだ」
「ハッハッハ、お前何言ってるんだ?今、この状況で私がお前たちに劣ることなんて何一つないんだよっ!!」
そう告げられると一輝、ステラ、珠雫、アリスの4人は歯ぎしりする。
いかんせん、事実だからだ
しかし、そんな中翔人はある者がこちらへ近づいてくることに気づいていた。
「お前は本当にこの状況を理解しているのか?後ろを見てみろ」
「はっ!そんな手に乗るかってん…うぁぁぁ!」
「だから言ったのに…」
突然キュン、と風鳴りをたてて、何かが彼女へと突き刺さった。
それは、――――――空色の光を放つ魔力の矢。
「なに!?一体何が…」
突然のことに動揺するステラ。
だが―――、一輝はこの技を知っていた。
翔人は何者かが攻撃しようとしていることが見えていた。
「フフフ。やれやれ、結局手を貸す羽目になってしまった。他人の手柄を横取りするようで、嫌だったんだけどねぇ」
何もない空間が輝き始める。
そして時間が経つにつれ、その中から一人の少年が姿を見せた。
「久しぶりだね、桐原君」
桐原静矢。前年度の主席にして、昨年の七星剣舞祭代表の1人だ。
また、彼は元一輝のクラスメイトでもあった。
「あぁ、久しぶりだね。黒鉄一輝君」
かつての級友との再会に桐原は静かに微笑み、
「君、まだ学校にいたんだ」
細めた瞼の隙間から、あざけりの視線をよこした。
「「っ」」
ステラと珠雫の二人が目に見えて不快な表情に変わる。
しかし、翔人は気にしてはいなかった。
「桐原く~ん。こわかったよぉ~」
ふと、人質の中から何人かの少女たちが駆け出し、一輝たちを突き飛ばして桐原に駆け寄る。
彼女たちは桐原のガールフレンドだった。
「不甲斐ない後輩のせいで怖い思いをさせてしまったね。でももう大丈夫だよ」
「うん。桐原君が助けてくれるって…「おい」
突然翔人が会話に入り込んだ。
「ん?何?」
「俺お前の後輩じゃなくて先輩なんだけど」
「あぁ、それは失礼しました。どうもすいません」
何も悪びれる様子もなく告げる桐原だったが、翔人は特に気にしていないようだった。
桐原は知らないのだ。先日の予選の試合を。
翔人は桐原に興味を持っていなかった。隠れてこそこそ攻める伐刀者などに。
故にお互い相手に対して思うところがなかったため、このような会話になった。
と、瞬間翔人は耳元で不自然な風鳴りを感じた。
その風鳴りに翔人は顔をゆがめると、
「…まぁいい。じゃあ後は任せるな。俺この後用事できたから」
と、告げ1人足早に帰って行ってしまった。
その様子を唖然と見つめる一輝、ステラ、珠雫、アリス。
しかしそんな彼らのもとへアリスが呼んでいた警察が事情聴取をしたい、と申し出てきたので、一輝たちは仕方なくそれに応じてパトカーへと乗り込んだ。
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一輝たちと別れた後、翔人は街から外れたボロボロなカフェへと来ていた。
そこで一人オレンジジュースを飲んでいると、後ろから声がかかる。
「オレンジジュース…ですか。相変わらず苦いものがダメなようですね。」
「別にいいじゃないか。それに俺が苦いものが苦手なのはあんたのせいだぞ」
翔人はそう告げると、不満を浮かべながら振り返る。
するとそこに立っていたのは困り顔を浮かべたエーデルワイスだった。
「あ、あれは確かに悪いとは思っていますが、翔人にだって非はあります」
「はぁ〜?俺に非なんてないね。あれは100%エーデルが悪い」
翔人の言葉に慌てながらも反論するエーデルワイスだったが、翔人のセリフに顔をさげてしまう。
そんなエーデルワイスを見ながら翔人は笑いながら言葉を続ける。
「まぁ別にいいさ。苦いものなんて摂取しなくても生きていくことになんの不便もないし。…それより今日はなんの用なんだ?あんな風で俺を呼び出して」
「別に用というわけではありません。久しぶりにあなたの顔を見たくなったんです」
「先月会ったばっかだろ…子離れできない親なのか?」
ニヤニヤしながら翔人は告げる。
しかしエーデルワイスの反応は翔人が予想していたものとは違った。
「そうですね…そうかもしれません。私にとって家族と呼べるのは翔人だけですから」
「きゅ、急に恥ずいこと言うなよ…」
「本心ですから」
してやったり、と言った笑顔で告げるエーデルワイス。
しかしエーデルワイスが告げたことは紛れもなく事実だ。
翔人にとっては殺された家族より、エーデルワイスと過ごした時間の方が長い。
そしてエーデルワイスにとって家族と呼べる存在ができたのは、翔人が初めてだ。
故に、エーデルワイスが告げたことは本心そのものだった。
しかし親というよりは姉と言った方が正しいのかもしれないが…
「それより今日は災難でしたね。
「まぁ返り討ちにしてやったけど…にしてもムカつくやつらだったな。人質なんて取りやがって…」
そう告げると何時ぞやかのようにあたりに殺気をふりまく翔人。
一輝やステラはもちろん、元A級の黒乃や現A級の寧音でさえ恐怖するものであったのだが、目の前の女性は何も怖がってなどいなかった。
むしろ翔人の怒りに悲しんでいるようにすら見える。
「彼らはそのようなことしかできないのですから、仕方がありません。今回は人質が全員助かったのだからよかったではありませんか」
エーデルワイスがそう告げると徐々に翔人の殺気が霧散していった。
「確かにそうだな。…あっそう言えば、俺今度の七星剣舞祭に出場することになったから。って言ってもまだ校内予選の段階だけど」
怒りのおさまった翔人は、思い出したかのように告げる。
「えっ?珍しいですね。翔人がそのような大会に出るなんて。…何か理由でも?」
本当に驚いたのだろう。
その顔は驚愕の表情をしていた。
「まぁ理由はいくつかあるけど、一番の理由は桜を見つけるためだ」
「桜……妹さんですか……」
翔人はこれまで誰にも話さなかった、七星剣舞祭に出場する本当の理由をエーデルワイスに話し始める。
翔人にとって、現段階で本心をさらけ出せるのはエーデルワイスただ一人だけなのだから。
「あぁ…知っての通り俺は父さんと母さんを殺された。殺した奴はいまだ発見されずに逃走中。そして父さんと母さんと一緒に家にいたはずの桜は行方不明だ。なぜ桜だけが死体がなかったのか…それが俺には分からなかったんだ」
声こそ小さいものだが、緊張感がカフェ中に広がっていた。
だからエーデルワイスは何も言わず翔人の目を見て先を促す。
「今も桜の居場所は分からずじまいだ。…でもきっと桜は生きている。きっと俺の助けを待っているんだ!その桜を助けるために俺は力をつけたといっても過言じゃない」
そこで一旦息を吐き、オレンジジュースを口に含む。
そしてさらに翔人は続けた。
「そこで俺はエーデルに頼んで力をつけた。そして自分の力に絶対の自信を持つまでは力を隠すことを決めた。桜を攫ったやつに目をつけられても面倒だしな。…そして今年、俺は自分の力に絶対の自信を持つことが出来た。決め手は
「
翔人の言葉にエーデルワイスは目を見開いて尋ねる。
「あぁ。模擬戦だから幻想形態でだけどな。…そして結果は俺の完勝。彼女は俺に触れることすらできなかったよ」
「…………」
「そうして俺は自分の強さを確認することが出来た。そして思ったんだ。高校最後の年、そろそろ動こう!って。桜が今どこで何をしているのかは分からない。でも必ず見つけて連れて帰る。それが俺の願いだ!!」
翔人の話を聞いた時、エーデルワイスは心が嬉しさでいっぱいになった。
ついに翔人が前を向き始めたのだと。
今までの翔人は過去ばかり振り返っている節があった。
と言ってもそれはしょうがないことだ。
学校に通う年にもなっていなかった少年が両親を殺されれば。
だからこそ、エーデルワイスは翔人が自身で復活するのを待った。
前を向くために必要なことを。
そして翔人はようやくそれを行動で示すと告げた。
それも復讐ではなく、救うと。
故に、エーデルワイスにとってこれほど嬉しいことはなかった。
「そうですか…でも焦ってはダメですよ。地道に探すことできっと道が見えてきます」
「それはわかってるよ。俺だってそんな簡単に見つかるとは思っていない。でもなるべく早く見つけたいとは思ってるよ。見つけても助けられる状況になかったらどうしようもないんだし」
翔人の力強い言葉を聞いてエーデルワイスはより一層嬉しくなった。
あんなに小さかった少年がここまで成長するものなのかと。
「その言葉を聞いて安心しました。…それでは七星剣舞祭には必ず応援に行きますね」
「別にこなくてもいいけど…」
「いいえ。必ず行きます。翔人の勇姿を見逃すわけには行きません」
「そっ…でも人に迷惑かけるなよ?ただでさえエーデルは世界中から恐れられているんだから」
「大丈夫です。変なことをするつもりはありませんから。…それより久しぶりに私の相手をしてくれませんか?七星剣舞祭の前に、翔人がどれだけ成長したかこの目で見ておきたいのです。
エーデルワイスの言葉に翔人は一瞬驚いた顔をする。
なぜなら今までエーデルワイスが自分から剣を交えようなんて言い出すことはなかったからだ。
だからこそ、エーデルワイスの言葉は翔人の心に火をつけた。
「…いいよ、やろう。後悔してもしらないぞ?」
翔人がそう告げた瞬間、二人の姿がカフェテリアから消えた。
きっと戦いの場へと向かったのだろう。
しかし彼らは忘れてはならない。
テーブルの上に伝表を残したままであるということを………
年内更新は最後です!
みなさん今年はありがとうございました!
よいお年を!