ハイスクールD×D~チンピラ匙くんが行く~ 作:シグマ強攻型
匙がフリードと邂逅して数日がたった。あれからフリードと匙が出会うことはなく、それどころか兵藤一誠を襲撃したのは堕天使で、それを討伐したのはリアス・グレモリー。さらには兵藤一誠は件の『赤龍帝』だという。言ってしまえば、いつの間にか事件が発生し、いつの間にか解決していたのだ。まぁ、その堕天使がどれだけの存在かは知らないが事件の内容を見る限り、いくら『赤龍帝』とはいえ覚醒直後の一誠にやられているため大した存在ではなかったのだろう。最も、匙の懸念する自体は『赤龍帝』だの何だのではない。
「……」
「あの先輩。大丈夫ですか?」
「……ああ」
廊下を歩く留流子は自分の隣にいる匙に恐る恐る話しかける。返ってきたのは短い言葉。匙の機嫌がものすごく悪い。留流子は若干怖がりつつも匙に話しかける。
「先輩、そんな顔してちゃダメですよ。えっと……せっかくいい天気なんですから!」
「……おう」
さっきからこの調子である。というのも、匙としては件の事件が解決して良かったと思っている。どうせフリードは死んでないので気にする必要はない。事件が解決したのもソーナたちへの負担がなくなったから歓迎すべきことだ。では何故匙の機嫌が悪いのか、その理由は---。
「匙くんごめん! その……えっと……」
「気にすんな。留流子行くぞ」
「ガッテン!」
駆け寄ってきた女子生徒の頭をぽんと撫で匙は首を鳴らす。留流子はビシッと音がなりそうなくらいの敬礼をする。彼らが向かうのはとある教室。そこには女子に教室の隅に追いやられている一誠たちがいた。
「毎度毎度……懲りねぇ奴らだなぁ」
「ウゲッ!? 匙!」
女子をかき分けて三人の前に立つ。すでに、その顔は怒りに染まっており赤ん坊が見ればギャン泣きするほどだ。現に、三人は匙の顔を見て顔を青くしている。
「テメェらが騒ぎを起こせば生徒会の仕事がそれだけ滞るんだよ。わかるか? 今は、来月中旬にある球技大会の準備をしているわけだ。テメェらごときの相手をしているわけにはいかないんだよ」
「そうです! もうちょっと自重してください!」
留流子は匙の後ろに立って三人に注意を促す。面と向かって言わないのは、三人のうち一人が自分を舐めつけるように見てくるから。ちなみに、周りの女子は匙の後ろに隠れる彼女を「お兄ちゃんに甘える妹」とか「シベリアンハスキーに隠れるチワワ」みたいと思ったとかなんとか。
「またしてもアダルトDVDを学校に持ち込む。まぁ、トイレだとか校舎裏だとかで隠れながら貸し借りするなら俺もうるさくは言わねぇ。そんぐらいなら他の男子生徒もやってんだろうからな」
隠れてそのような事をしているなら、女子生徒も何も言わないだろう。精々、今後のつきあい方が若干変わるか、胸のうちに秘めるくらいだろう。だが---。
「テメェらは白昼堂々と貸し借りをしたわけだ。そんなに見せびらかしたいのか? テメェらは見られて悦ぶのか?」
「いや、どっちかというと見たい「黙れ」はい!」
松田の返答を匙はドスの利いた声で切り捨てる。その際、女子の何人かが「私も罵ってもらいたい」と呟いたが、聞こえた者は無視した。一々反応していられない。
「こんな事をしているからモテないと思うんだが?」
「イケメンに俺らの気持ちがわかるか! なんだよ! お前みたいなガラの悪い奴は怖がられるはずだろ! なんで仁村ちゃんはくっついてんだよ! 俺にも抱きついてください!」
「ひっ!?」
元浜に鼻息荒く指摘された留流子はより匙に抱きつく。顔も青い。匙はそんな元浜を冷めた目で見つつ留流子の頭を撫でる。
「んなこと俺が知るか。そのところかまわず下ネタかますのをやめりゃあいいんじゃねえのか?」
「ふざけんな。モテない俺達はこうすることでしか自分を慰められないんだよ! お前も男ならエロ本の一冊や百冊くらい持っているだろう!」
一誠は血涙を流して吠えるが、匙の心には一切響かない。性欲がないわけではない。自分だって男だ。風呂あがりに憐耶が抱きついてきたりすればその感触を堪能したりするし、ソーナの無防備な寝顔を見れば美しいとガラにもなく思う。正直に言えば、ソーナたちに欲情することなど多々ある。だが匙にとって『ソーナの夢を実現させる尖兵となる』という『性欲』よりも優先すべき『忠誠』がある。それが『性欲』の後ろに位置することなど万に一つもあってはならないのだ。一誠は、自分が同じ転生悪魔であるとは知らない。ソーナの許可なしにそれを一誠に伝えるつもりはない。だが、目の前の兵藤一誠という存在とは決して相容れないと確信している。主の風評など関係ないとばかりに未だ『駒王学園の変態三人衆は健在である』と知らしめるような行動をとる一誠には。
「お前らがモテないのはその発情期の猿の様にところかまわず発情しているからであって、TPOをわきまえていれば少なくとも女子から蛇蝎の如く嫌われることはなかったわけだ」
そんな内心を一切悟らせない匙の指摘に周りの女子はウンウンと頷く。彼女たちだって最初から一誠たちを嫌っているわけではなかった。入学初日にエロ本をぶちまけたり、体育の時に覗きをしたりという事を繰り返すから嫌うようになったのだ。
「で、でも「まぁいい。今日は最後通牒でもある」へ?」
まだ何か言いたそうにしている一誠を制すると、匙は留流子を下がらせると一誠の前まで歩いてきた。思わずファイティングポーズをとる一誠だが、気づいたら轟音とともに自分の股下に匙の脚が差し込まれていた。思わず漏らしてしまいそうなほどの衝撃。松田たちなど自分がやられたわけではないのに股間を抑えている。尚、それを見ている女子生徒の中に熱い息を吐いて体をゾクゾクと震わせる生徒会役員がいたとか。
「お前……オカルト研究部に入部したんだってな? つまり、これ以降のお前に対する苦情は全てオカルト研究部に向かうと、リアス・グレモリー先輩に向かうと思えよ?」
「え!? そ、それは「弁明は聞かねぇ」ちょ!?」
「別に、今までの行動を報告はしねぇ。これから自重すればいいだけの話だ。周りの目を気にして、隠れてアダルトDVDの貸し借りを行う。覗きはしない。簡単だよなぁ? あと、こっちはいつでもお前らの親にこの事を伝えられることができるんだ。退学になりたくはないよなぁ?」
匙は優しく三人に声をかける。はたから見ればヤクザが脅迫している現場である。ただ、同情する者はこの場にはいない。それだけ、不満が溜まっているのだ。
「随分と荒々しいな」
「まぁ、お嬢の心労を増やす輩が多いんすよ!」
ここは冥界、シトリー家。その地下に作られた特製トレーニングルームで、匙とマッキーは組手を行っている。今回は、互いに至近距離で動かず相手の拳撃をさばくもの。だが、二人の拳が早すぎて北斗百裂拳の打ち合いに見えなくもない。
「そう言えば……セラフォルーが言っていたが、ソーナの婚約が決まったそうだ」
「へぇ……」
「最も、シトリー卿は何度も断っているがな」
「そうっすか」
マッキーは内心肩をすくめる。目の前の弟子はいつもこうだ。素直に認められるかといえば、シトリー卿も動きやすいのに。ヴリトラの意識が完全に覚醒しており、優れた使い手である匙ならば、格でいえば中級悪魔くらいはあるだろう。
「(元士郎がシトリー卿に娘さんをくださいと土下座すれば手っ取り早いのだが)」
マッキーは、豪拳を持って匙を沈める。やはり、まだまだ経験の差がある。匙を見つつ苦笑する。もし、匙がソーナと一緒になりたいと言えば、シトリー卿はソーナに確認を取り、箔付けのために何かしらの功績をもらえるように鳥図るだろう。それくらいの事をしてもいいほどシトリー卿は匙を買っているのだ。
「(まぁ、外野が口をだす必要はないか)」
ちなみにシトリー卿であるが、早く孫の顔が見たいと言っており、セラフォルーには「はよマッキーと結婚して子供作って。すでにベビーベッドとかは用意しているんだよ?」と言っており、そのたびに奥方より高密度のアイスハンマーを喰らっている。シトリー卿なら防御できるのだが---。
「愛する妻の全てを受け入れられなくて何が夫だ! さぁ愛する妻よ! お前の愛を私に見せてくれぇ! そして、謳わせてくれ! 我が妻の愛は至高であるとぉ!」
と叫んで、彼は星になった。それを見ていた匙とマッキーは真顔で敬礼をした。ちなみに、シトリー家の男性使用人たちも同じく真顔で敬礼していたシ。余談だがシトリー卿はものの数分、しかも無傷で高笑いと共に帰ってきた。もっと余談ではあるが、シトリー卿が星になった日の夜は夫妻の部屋から何かが軋む音がするという。
「さて、行くぞ元士郎」
「うっす」
起き上がって二人はその場を後にする。これより向かわなければならない場所があるのだ。
「ヒャッハー! 今時、人身売買なんざやってんじゃねぇよ!」
「……恨んで構わん。だが、潰す」
今日も今日とてヒャッハーの時間だ。
何故シトリー卿はこんなキャラに……