ハイスクールD×D~チンピラ匙くんが行く~ 作:シグマ強攻型
自分が匙元士郎となってはや半年。匙は考える。以前の自分と比べれば今は格段に『いい生活』をしていると。衣食住が満ち足りており、以前のように残飯や野ねずみを探さなくてもいい。度胸試しにやってきた頭の足りない若者を襲撃して服や金品を奪わなくてもいい。廃材やダンボールで小屋を作らなくてもいい。そう考えると自分は随分と幸福になったと思う。
「元士郎。いいですか? ナイフとフォークは外側から使っていくんです」
「……面倒な」
そして、自分の隣でテーブルマナーを教えているソーナを見る。なんでも彼女は弟か妹を欲しがっていたらしい。まぁ、姉がいるのだからそんなものだろうと匙は思う。お姉さんぶりたいのかは知らないが、自分もヴリトラから教えられなかったことを教えられることに不満はない。護衛としてはどうかと思うが、悪い気持ちではない。平和だ。だが、だからこそ―――。
「(クセェ。臭うな。俺と同じドブの臭いがする。狙われているってのは真実かよ)」
自分と同類の臭いがする。まだ場所はわからない。だが、分かる。これは『畜生』だった者にしか分からない臭い。狙われているのは事実であると確信する。ヴリトラを通じてシトリー卿に報告を上げ、見回りを強化してもらう。
「さて、お昼からは街に出て買い物ですよ?」
「ウイッス(本当なら外出させるのはどうかと思うが……)」
『(シトリー家の次期当主としてはこれくらいの危険くらい凌いでみせろということだろう。それに、我が半身も居るのだ)』
「(随分とスパルタですこと)」
まぁ、本当に危なくなった時のための保険はあるのだがヴリトラは言わない。一応、これは匙の試験でもある。要は「匙元士郎がソーナ・シトリーの眷属として問題はないか」という試験。人となりはこの半年で大体わかった。言動は粗野であるが、誠実である。物を知らないが、知らないだけであるということが。結論としては、人格は言動に多少の不安があるが、文は問題ない。では、次は武だ。それを確かめるためにあえて不安要素を取り除いてはいない。
『(さて、我が半身よ。生きるためならば何でもすると。今がその時だ。生きるためにソーナ・シトリーを手に入れてみせろ)』
ヴリトラは匙に気づかれないように笑った。
「えっと、匙はどっちのデザインが好みですか?」
「いや、どっちでもいいというか何故メガネ?」
「え? だって、その目付きの悪さを少しでも和らげようと」
昼過ぎ、ソーナは匙を連れて街に出ていた。お目当てはメガネ。ソーナ曰く匙の目つきを少しでも和らげるためにメガネを買いに来たらしい。匙としてはグラサンが好みだったが「ダメです……ダメです!」とソーナに真顔で詰め寄られたため棚に戻す。どうやらヤバかったらしい。
「んじゃあ、こっちの細めのやつで」
「あ、私と同じデザインですね。うんうん。実にいいセンスです」
「そっすか……」
喜色満面のソーナに呆れつつも買ってもらったメガネを着用する。ソーナはメガネをつけた匙をマジマジと見て一言。
「なんか余計に目つきが悪く見えるような……」
「……」
後の『シトリー家のチンピラドラゴン』の誕生である。
「見てください。ここから領内が一望できるんです!」
「ほ~。綺麗っすね」
「ええ。私はここから見える景色が大好きなんです」
ソーナに連れられてやってきたのは山の中腹にある展望台。ソーナの言うとおりここからシトリー領内が一望できる。かつて北欧神話体系のある巨人から美を司る女神への贈り物を持って行った時にその女神に誘惑されても「あ? 興味ねェ」と一蹴した匙ですら素直に綺麗と思える。ここからでも聞こえる領民の活気のある声。
「私は恵まれています。冥界の名家シトリー家出身で、姉は魔王。冥界でも恵まれている存在の一柱です。領民は私を慕ってくれている。屋敷にいる使用人たちもです」
だからこそ、自分はそれに見合う存在でありたいという。匙はソーナを見る。素直に凄いと思える。
「私には夢があるんです。レーティングゲームって知ってますか?」
「ヴリトラから教わった。確か……平たく言えばチーム同士で行う戦争ごっこでしたっけ?」
「まぁ、その認識で間違いではないです。今、悪魔の中で一番注目されているイベントです」
人間界で言うサッカーのW杯などに匹敵する人気のレーティングゲーム。その人気は凄まじく娯楽の少ない冥界で一大ムーブメントであるという。噂ではレーティングゲームの結果でどこぞのお嬢様の結婚が決まったとかなんとか。
「このレーティングゲームを教える学校を作りたいんです。下級とか中級とか関係なく悪魔なら誰でも学べる環境を作りたい。レーティングゲームに限らず普通の学校でもいい。そんな場所を作りたいんです。今の冥界の学校は、少なくても上級に近い中級悪魔の関係者しか入れない。下級でも優秀でなくてはダメ。学ぶことに貧富や階級の差があってはいずれ衰退する。そう思うんです」
そして、入学してもそこで派閥ができる。ソーナ自身派閥ができることに関しては何も言わない。複数の考えを持つものが居るのだ。派閥が出来ないことがおかしい。
「知ってます? 私が通っている学校って上級悪魔が下の階級の悪魔を理不尽に見下しているんですよ? 理由は「上級悪魔の自分たちより優秀だから」とかそんなのばかり。自分の家柄だけを誇って、努力もしないで何を言っているのか」
ソーナとその友人は家族が自由人だったり温厚だったりする者が多いため、下の階級の悪魔たちとも良い友人関係で、たまに家に招いたりしている。匙もその時に紹介されたりしているが、確かに今の位置に甘んじている者はいなかった。皆、自分なりに成長しようと感じるような連中だった。
「階級など関係ない。嫉妬はあるでしょう。でも、切磋琢磨しあう友が居るということ。そのような環境があるということはきっと冥界を今より豊かにしてくれるはずです」
未だ冥界には『血統主義』があるという。『血統主義』に関して深くは言えない。それは、自分の家も否定することになるから。だが―――。
「でも、血筋だけではいずれ冥界は衰退します。純血にこだわるあまりに転生悪魔を軽視している。多分、いずれ虐げられている転生悪魔は反旗を翻すでしょう」
「……まぁ、でしょうな」
匙もこの半年様々な悪魔を見てきた。ソーナの友人であるリアス・グレモリーは少し身内に過保護な部分があるが温厚。サイラオーグ・バアルは寡黙ではあるが自分の出自などから他者を見下すことはないし、何より愚直なまでにそのようなことを嫌う。むしろ、匙自身が自嘲気味に告げた出自すらも「だが、それでも君はここにいる。それは誇るべきことだ」と告げるほど。確かに『真の貴族』とでも言うべき存在なのだろう。だが、大半はそうではない。匙を見下す者もいた。ソーナを小娘とあざ笑うものがいた。
「アンタやアンタの友人が貴族にしちゃあ下々の者に友好的ってのはわかる。でも、結局は下を作らないと怖いんですよ。悪魔も、人間も、天使も堕天使も。むしろ、アンタらのほうが魔界の貴族としては異端かもしれない」
種族関係なく自分より弱い者を見つけていたぶりたいのだ。そうやって自分の地位を守るのと自身のプライドを守っている。本来の「ノブレス・オブリージュ」とはそのようなものではないのだろうが、匙からすれば貴族というものは「血統主義で自分より下の連中を支配下に置きたがる連中」である。
「でしょうね。お姉さまに言ったら「まだそれは早いかな~?」って言われました」
「そりゃあ、アンタの言っていることは他の連中からすればいずれ自分の地位を脅かす連中を育てるってことだからな。どうやっても潰しにかかるだろ」
いくら姉が魔王だからといっても、未だに権力を握っているのは老人たち。目をつけられれば潰される。でも---。
「でも、諦めることはできない。富める者の施しと言われてもいい。恵まれた者の戯れと言われてもいい。私はこの夢を諦めたくはない」
匙の目を力強く見つめるソーナ。そこには例え何があろうとも折れることはないであろう光があった。自分にはない光だ。
「羨ましいよ。そうまで言えるアンタが」
匙は自身を振り返る。自分は生きるために何でもしてきた。残飯を漁ったりしていただけではない。はぐれ悪魔を喰った。死にかけのホームレスを喰った。自分が討伐されてもしかたのないことをしてきた。恐らく、今回のセラフォルーの依頼を受けなければいずれ殺されるか野垂れ死にしていただろう。そんな自分に夢はあるか? 精々、何が何でも死んでたまるかという渇望のみだろう。では、自分は恵まれていないのか? 否。断じて否。ヴリトラがいる。ここまで生きてこれている。それだけで自分は恵まれている。だが---。
「俺にはないよ。アンタみたいな夢が。眩しい。羨ましい」
「匙---」
ソーナは匙からどす黒いオーラが溢れていることに気づいた。思えば、匙とここまで話すのは初めてかも知れない。いつもは、自分についてきて自分が教えたことで分からないことを聞いたりするだけ。それ以外は、黙って自分についてくるだけだった。匙の影から龍の頭を模した触手が何本も出てくる。影だけではない。背中や両腕からも。その数はすでに十を超えている。
「俺には夢はない。ただ、その日を生きることで精一杯だった。残飯を食った。ネズミを食った泥水を啜った酔っぱらいのゲロを食った人を食った悪魔を食った天使を食った妖怪を食った! アンタみたいに他人を気遣うとかそんなのは考えることなんざなかった! 周りを気にするようじゃあ今ここにはいない!」
触手はソーナを取り囲む。五大龍王の一角を模したそれは自分の命などたやすく奪うだろうと簡単に予測できた。姉より聞いたことがある。匙の『黒い龍脈』は確認されているそれとは違い、ヴリトラの頭を模しており、通常の『黒い龍脈』が対象の力を吸い取るのに対して『対象そのものを捕食』することが可能だと。喰われた者は匙の糧になると。
「あなたはこの力で今まで生きてきたんですね」
「そうだよ。これで全部食ってきた。他人の命のことなんざ考えずに全部食ってきた」
嗤う匙。ソーナは内心嬉しかった。匙がここまで自分のことを話すのは初めてだ。自分にすべてを見せてくれている。そのことがソーナはとても嬉しかった。
「最初に会った時に言いましたよね? 私はあなたを受け入れると」
そう言ってソーナは匙に歩み寄る。その顔は慈愛に満ち溢れていた。
「あなたが今までどのようなことをしていても私は受け入れます。もし、あなたの罪を裁く者がいるなら私も共に裁かれましょう」
「なん、だと?」
匙は絶句した。確かに、最初に会った時にそんなことを言っていた。だが、本気にはしていなかった。どうせ短い付き合いだからと。社交辞令だと。だが、目の前のソーナは本気だ。本気で自分を受け入れようとしている。
「可愛いですね。匙……あなたは今の生活が心地いい。だから、不安なんでしょう? 今までと違う環境だから。大丈夫ですよ? 私がいます。だから……甘えていいんですよ?」
「……」
ヴリトラを呼んでも返事がない。匙は知らずのうちに震えていた。本能は「甘えたい。抱きしめてほしい」と叫んでいる。理性は「落ち着け。今までどうやって生きてきたか忘れたのか」と諭している。どうすればいい? すでにソーナは自分の目の前で手を広げている。自分が飛び込めば抱きしめてくれるのだろう。だが、飛び込めば自分の中のナニカが変わってしまう。それが怖いのだ。でも、自分は常に本能にしたがって生きてきた。だから---。
「舐めんなァ!」
「キャッ!?」
匙はソーナを抱きしめて地面を転がった。二人がいたところには魔力の塊が殺到していた。朝から感じていた襲撃者が現れたのだ。
「チッ! 外したか!」
「バレバレの奇襲で何ほざいてやがる!!」
「見たところ……はぐれ悪魔ですね」
猪のような巨体の悪魔だった。その悪魔がソーナたちを攻撃してきた。匙はソーナを抱きながら触手でこちらに殺到する魔力の塊を弾き飛ばす。
「お嬢……俺は夢も何もねぇ。言動もこんなんだし、アンタにはふさわしくねぇぞ!」
「それを決めるのは私です。それに……ちょっと欠点がある方がかわいいじゃないですか」
そう言ってソーナは匙の首に手を回して微笑む。そして、匙の胸に『悪魔の駒』を埋め込んでいく。内部から自分が変わっていく事を感じながら匙は敵の攻撃を弾き返す。ソーナはとても嬉しそうに匙の胸を撫でるが、ふと気づく。
「あら『兵士』の駒が3つも……私の手元にあるのあとひとつなんですが……」
『構わん。最後の一つ、我が半身にくれ』
「ヴリトラ! 今まで何していたんだ!」
『何……少々試したいことがあったので寝ていたのだ」
ヴリトラはそう嘯く。実際は最初から最後まで見ていたのだ。息子の大事なシーンを見逃すはずもない。
「匙……一緒に来てくれますか?」
「もう逃げ場なし、やってやりますよ!もう、犬でもなんでも好きに呼べb「じゃあ---」んむ!?」
『ほう? 随分と積極的だな』
ソーナはそう言って最後の駒を咥えて匙の口に持って行った。ヴリトラは「おとなしそうな顔だが……人は見かけによらんな。あ、悪魔か」とキスをしている二人を見て呟いた。
「---ん。私のハジメテあげたんですから……見捨てちゃ嫌ですよ?」
「……だ~もー! 一生ついて行きますよ!」
「ふざけんな! 俺を無視して「引っ込んでろや三下ァ!」」
それは一瞬だった。触手を横に薙ぐだけで、襲撃者はその生を終えた。あとに残ったのは、その場に座り込みながらも抱き合う二人の少年少女のみ。
「……救援のためと来てみたが……いらぬ世話だったか」
「うわぁ……ソーたん大胆! かぁいいよー!」
少し離れたところから二人を見るのは、旧ドイツ軍の軍服に身を包む男とセラフォルー。軍服の男はその場を後にしようとするが、セラフォルーは鼻血を出しながらビデオカメラでソーナを撮る。
「大人の階段を一段登ったね。寂しいけど……お姉ちゃんはソーたんが成長した姿を見れて嬉しいです! でも、まだAだけだよ! BとCなんてまだ早いんだから! あ、でもあと数年もすれば……避妊はしっかりt「落ち着け」ふみゃ!?」
暴走しているセラフォルーの頭にチョップを落とした男は気絶しているセラフォルーを担いでその場を後にする。
「……匙元士郎。共に肩を並べて戦う日を楽しみにしているぞ? お前も、少しは自重しろ」
『クックック。そうさな。せっかく自由になったのだ。無秩序に暴れて再封印となればシチリア島から開放された意味が無い。それに、いずれ大乱は起きそうだからな。その時まで我慢するさ」
……なんか考えてたものとだいぶ違う。
あれぇ?